転生グルマン!異世界食材を食い尽くせ   作:茅野平兵朗

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第100話 完成! オクコツラーメン。当社比五倍のウマさです!

「「「「「いただきまぁす!」」」」」

 

 王国西方辺境最大の街ヴェルモン。

 すでに夕日はつるべ落としに地平線に隠れ、その残照が深まりつつある秋の空気を夕闇色に染めている。

 街の住宅地の小高い丘にあるゼーゼマン邸、そのバンケットルーム改め大食堂の長テーブルに着いた少女たちの明るく元気のよい食事開始のあいさつが響いた。

 食欲に瞳を輝かせ、少女たちが器用にスプーンとフォークを使い、麺を巻き取り口に運ぶ。

 

「ふんむッ!」「ほっ!」「へぁ!」「んッ!」「……ッ!!」「んんんッ!」「んは!」「ふはぁ!」「んぁ!」「むぐぅ!」「え?」「ええぇッ?」「はふぅんッ!」「ふわあ!」「んきゅぅ!」「はぁん!」「ぅんッ!」「はあぁッ!」

 

 二回三回と咀嚼した少女たちは、カッと目を見開き、矢継ぎ早に二口三口その麺料理を口に運んだ後、一声呻いてトロンとだらしなく目尻を下げたあられもない表情でうっとりと忘我した。

 口の端から一筋垂らしてしまっている娘もいる。

 夕日が差し込んでいるわけでもいないのに、少女たちの頬は一様に紅く染まっていた。

 

「「「「「ほわあああああああああッ!」」」」」

 

 忘我から再起動した少女たちが口々に歓声を上げながら、その料理に果敢な突撃を敢行してゆく。

 

「ンはッ! はわわわッ、んなななななッ! 台下ッ! ……っ。もといッ! ハジメさんッ! な、な、な、なんですかこれはあぁッ!」

 

 少女たちから数瞬遅れて忘我からの再起動を果たしたしたエフィさんが顔を真っ赤に染め瞳を潤ませて、その料理が入ったボウルを捧げ持ち僕に迫った。

 

「それはですね、ラーメンという僕の故郷の料理です」

 

 僕はかいつまんでラーメンの歴史をエフィさんに話す。

 

「なるほど……もともとはハジメさんの隣の国のお料理で、何百年か前に伝来してそれに創意工夫こらしてしてこうなった……と」

「ええ、僕の故郷はそういったものがたくさんあるんですよ。もちろん僕の故郷で発明されたものだってたくさんありますけど、それよりも、元があってそれをいろいろと改良しまくって、元のものを凌駕させてしまうのが得意な民族ですね」

 

 ラーメンに始まる料理はもとより、カメラや時計などの精密機械、車などの重工業製品。

 テレビにラジオ、白物家電。他国で発明されて、わが故郷で国産化されるや、発祥の国の製品の性能を凌駕してJapan as No1. と言われるようになったものは枚挙に暇がない。

 ゼロ戦なんてものはその最たるもんだし、カレーにいたっては、来日したインド人がカレールーをお土産にするくらいだ。

 

「あの……ぅ、ごしゅじんさま……」

 

 狼人のダリルの声に振り向くと、空になった丼(陶器屋で似たような器があったので大量購入してきた)持って少女たちが頬を上気させ上目遣いで僕のほうを見つめていた。

 

「ん? ええっ! もう食べちゃったの?」 

「ご、ごめんなさい、ごしゅじんさま! あんまりおいしくて夢中で食べてたら……」

 

 兎人のリゼが涙目で訴える。

 彼女たちのここ二~三日の食事量から勘案して、一人前たっぷりと二玉(元の世界では特盛りと呼ばれるサイズだ)入れたんだけど、どうやら10オンス(概ね300グラムぐらい)じゃ足りなかったようだ。

 一言二言エフィさんと話をしている間に、熱々の特盛りオークこつラーメンを平らげるなんて……。

 どうやら、ひそかに心配していた猫舌の子はいないようだ。

 

「くくくくッ!」

 

 思わず僕は喉を鳴らす。ニヤリと口角が吊り上るのが自覚できる。

 

(うわぁ、今の僕の顔、絶対悪代官級だ。女の子たちが怯えちゃうよ)

 

 でも僕は、漏れ出して止まらない薄ら笑いを堪えることができないでいる。

 だって、たった18人とはいえ、この世界で初めてのラーメンは人を虜にできたんだもの!

 男勝りの逞しい女性が多い異世界とはいえ、女の子たちにこんなにもオークこつラーメンがあっさりと好評をもって受け入れられるとは本当にうれしい限りだ。

 味見したときに、確かにスープは向こうの世界で僕が作ったとんこつラーメンの五倍いや、下手をすると七倍くらいにはウマイと思った。

 だけれども、それはとんこつラーメンを食べ慣れた僕の舌がそう判断しただけで、こっちの世界……少なくともこの大陸では、たぶんラーメン自体が供されたのはこれが史上初だろう。

 受け入れてもらえるか本当に心配だったんだ。

 

「「「「「ごしゅじんさまぁ!」」」」」

 

 僕の悪代官顔に怯んだ気配さえ欠片ほどもさせず、猫科の大型肉食獣の眼光を湛えた36の上目遣いの瞳が僕を凝視している。

 狼っ娘たちや、人間の娘たちはともかくとして、兎人やベジタリアンのイメージがつきまとうエルフの娘までがだ。

 大丈夫だ。こんなこともあろうかと、製麺所には100食分注文したんだから。

 

「ああ、ごめんッ! オーケー! お代わりだね! どれくらい食べる?」

 

 女の子たちは口々に今と同じくらい、できればそれよりたくさんと声を大にする。

 とてつもないハイカロリーを摂取することになるけれど、エフィさんの武術の稽古はメチャ厳しそうだから大丈夫だよね。

 

「ようしッ! ちょっとまってて、あ、何人か器を洗うの手伝って」

「「「「「はぁい!」」」」」

 

 全員が手を挙げ、手に手に丼を持って厨房へと小走りに駆けて行く。

 

「は、は、ハジメさん非才……んぐッ! んもッ!」

 

 エフィさんも特盛りオークこつラーメンをものすごい早さで平らげ、少女たちの前の凛とした先生然とした表情をしどけなく崩し、おずおずと遠慮がちにドンブリを差し出す。

 

「ええ、オーケーですよ。厨房に行きましょう。みんなと一緒にボウルを洗ってラーメンを作りましょう」

 

「はい、はいいっ!」

 

 エフィさんの顔がぱあっと輝いたような気がした。

 あの自称使徒様方だったら、見たこともない花を咲き乱れさせているに違いない。

 はははッ! 一挙に70人前以上ががぶっ飛ぶぞ。

 うはははッ、100食用意しといてよかった。

 

「……ッ! あ……」

 

 厨房へと向かおうとした僕は突然寒気を感じて振り向く。

 背筋を冷たいものが伝い落ちる。

 大型の猫科の猛獣のような視線が僕を見据えていた。

 僕はこの後に控えている、我がゼーゼマンキャラバンの肉食女子たちの分が残り30食弱ほどで足りるだろうかと心配になってきた。




18/08/21
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