転生グルマン!異世界食材を食い尽くせ   作:茅野平兵朗

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お待たせいたしました


第33話 異世界初! フォークで食事をするみなさん

「ねえ、ハジメ! これでいい?」

 舌足らずな声音でサラお嬢様が、聞いてくる。

「すごい! イメージ通りです。さすがですねサラ!」

 僕のイメージどおりにサラお嬢様は、煮つめた砂糖入りの牛乳(つまりこれは練乳だ)と卵、牛乳を密閉した器の中に発生させた風魔法『竜巻』でホイップしてくれた。

「じゃあ、ですねサラ、今度はこれをゆっくりと凍らせてください。できれば、竜巻を発生させながらが理想的です。でも、それでなくても凍らせていただければ……」

「え? 竜巻しながら? 一瞬で凍らせなくていいの?」

 サラお嬢様は怪訝な顔をする。

「じっくりでいいんです。かき回しながらゆっくりと凍らせるのがいいんですけど」

 ぼくは、サラお嬢様に念を押した。

「うん、わかったわ、ゆっくりね! やってみる!」

 所は、厨房。僕は、夕食の準備に奮戦していたのだった。

 これで、デザートはよしだ。

 スープは…と。

「ヴィオレッタ、どんな感じですか?」

 ヴィオレッタお嬢様が担当してくれているのはスープだ。今日は、野菜を細かく刻んだミネストローネ風のスープを作っている。

 出汁は細かく切ったベーコンやソーセージから出るのを期待している。

 この世界には、まだ、本格的な出汁の概念がないようなので、出汁のうまみの観点からは要検討だ。

「ええ、ハジメに言われたとおりやってみているんだけど、本当にこれでいいの?」

 トマトの酸味が利いた香りが立ち上っている。

 ベーコンとソーセージから、うまい具合に山車が出てもいるようだ。さすが、西洋の鰹節といわれるだけのことはある。

 一掬い小皿に取る。

 申し分なしの味がでていた。

「ものすごくうまくいっていますよヴィオレッタ! 流石です」

 スープとデザートが上々にできつつあることにぼくは満足していた。

「じゃあ……」

 僕は、メインの料理にかかった。

 メインは魚と牛に似た赤身の肉だ。

 加熱しておいた鋳鉄製の深底鍋に油を塗った金網を敷いて、一口大にきったジャガイモ玉ねぎにんじんを敷き詰め、オーブンに入れる。

牛肉に似た赤身の肉の表面に塩コショウをまぶし、切れ目を入れて薄くきったニンニクを差し込んでゆく。

 大き目のフライパンに油を熱して、赤身の肉の塊を焼いて行く。焼き目がつく……くらい、つまり、肉の色が変わって少し茶色になるくらいの感じだ。

 そこまで、焼いたら、鋳鉄の深鍋に敷いた根菜類の上に置いて、ローズマリーを散らす。 

 後は、オーブンが調理してくれるから、待つだけだ。

「ようし、……次は……ッと!」

 昨日、マジックバッグに移しておいたスズキに似た魚を取り出し、捌き始める。

僕のマジックバッグは時間の進行を止めるタイプみたいなので、鮮度は変わっていない。三枚におろして切り分け、塩コショウして。両面に小麦を振る。

 魚はムニエルで食べることにした。

 本当は、白身魚のカルパッチョにしてみたかったんだけど、生食が一般的ではないこっちの世界では敬遠されるであろうことが容易に想像できたから今回は見送りだ。

 カルパッチョができれば、前菜のバリエーションが増えるのにな。

「ハジメさんキノコ準備できました」

 エフィさんに頼んでいたキノコの下準備ができたようだ。

 まあ、カルパッチョはいずれ…と、おいといて、ムニエルにする魚に塩コショウが馴染むまでの間に、前菜を作ろう。

「はい了解です」

 かまどにフライパンを乗せ、ニンニク唐辛子、オリーブオイルを入れて加熱して、キノコを炒める。

 少し炒めて、白ワインをふりかけ蒸し焼き風に。

 カウント180くらいで、火から下ろし、ビネガー、塩、砂糖、コショウ、で、味付ける。後は冷ましながら、味をなじませて完成だ。

 はははッ! 我ながら、なんて、うまい具合に調理してるんだろう。

 引きこもっていたころも、確かに調理はしていた。

 コンビニや、デリバリーだけじゃ飽きるからね。

 キャラバンでも宴を催すってときに何度か料理したけど、大概一品出しとけばよかった。串焼きとかね。こんな具合にたくさんの種類……いわばコース風にってのは初めてだ。

「ハジメ! もういいかなぁ」

 サラお嬢様が尋ねてくる。

 さあ、どうだろう……、うん、いい感じだ。

「流石ですサラ、ものすごく上出来です。お疲れ様でした。それは、こちらにいただきます」

 サラお嬢様から、冷たい竜巻を封入していた器を受け取り、冷凍庫に移す。氷結魔法に設定した魔石にサラお嬢様の魔力を注入して低温保冷機能を持たせた食品庫だ。

 このお屋敷には他にウォークインタイプの保冷食品庫もある。

「じゃあ、皆さんお疲れ様でした。ここからは僕一人で大丈夫ですから、食堂で待っててください。あ、そうだ、エールとワイン、それから、果汁を持って行ってくださいね」

 みんなに、冷蔵食品庫から飲み物を持っていってもらい、僕は料理の仕上げにかかった。

 すなわち、盛り付けと、給仕だ。

「皆さんお待たせしました。前菜です」

 僕は、キノコのマリネを持って食堂に入った。

 

「ねえ。ハジメ、これはなあに?」

 サラお嬢様が、みんなの目の前の置いてあるフォークを指して言った。

 この世界では、誰もが匙とナイフは持っている。

 液体は匙で掬い、固形物はナイフで切って、手で摘んで食べる。

「これは、フォークといいます。ナイフで切り分けたものを突き刺して、口に運びます」

 僕は、キノコのマリネをみんなの皿にとりわけながら、フォークの説明を始めた。

 みなさん不思議なものを見る目つきだ。

「こんなのいらないよう。使わなくたって食べられるよ」

 サラお嬢様のおっしゃりようはもっともだ。

「みなさん、子供のころからお腹が痛くなることありませんでしたか?」

 エフィさんシムナさん、ヴィオレッタお嬢様サラお嬢様が肯いた。

 女神様方は微笑むばかり。

「腹痛予防のための試みです。今日からこれを使って食べましょう」

 僕はナイフとフォークを持って構えてみせる。

「今持って来た前菜はこうやって食べてみてください」

 キノコを突き刺し、口に運んでみせる。きちんとしたテーブルマナーを知っているわけではないから、かなり適当ではある。

「へーんなの。でも、ハジメのすることだもん、なんか楽しい!」

 サラお嬢様が、器用に僕の素振りを真似て、キノコのマリネをフォークで刺して口に運んだ。

「ッ!!!! っ! おいしいッ!」

 サラお嬢様がうっとりと顔を綻ばせる。

 それが号砲だった。みんながいっせいに皿に飛びついたのだった。

「手掴みは禁止ですよ! フォークを使ってください」

 キノコのマリネの次は、ヴィオレッタお嬢様が作ってくれたスープだ。ベーコンとソーセージ、そして細かく刻んだ野菜とトマトのスープだ。

 一緒に出したパンがあっという間になくなってゆく。

 こいつはヤバイ!

「いいですか! 絶対手掴みは無しですからね!」

 僕は念を押して、厨房に料理を取りに戻る。

 

 次の料理はスズキに似た魚のムニエルだ。

 

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