転生グルマン!異世界食材を食い尽くせ   作:茅野平兵朗

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第39話 ぅあぢいいいいいッ! あづい! あぢいいいいいいいいッ!

「っははははッ! すっげーぞハジメッ! まるで、アンデッドだ!」

 幅広の両手剣を水平にぶん回し、何匹ものゴブリンを鳩尾の辺りで両断しながらルーデルはげらげらと笑い、甚だ不穏当なことを叫んだ。

「ヴィオレ、エフィ! サラを中心に円陣を組むわ!」

 リュドミラが剣を振ってゴブリンの血糊を振り落としながら叫ぶ。

「「はいッ!」」

 ヴィオレッタお嬢様と、エフィさんが吐瀉物に塗れた口元を拭いながら駆け寄る。

 森に入ったとたん、予想以上に大量に発生していたゴブリンに包囲された時点で、ルーデルとリュドミラが立てていた、当初のSOP(接敵行動規定)はすでに瓦解していたようだった。

 すかさずリュドミラが指示したのは、石をぶつけられ頭にきて隊列から突出した僕を切り捨て、サラお嬢様を守る形の陣形だった。所謂プランBってやつなんだろう。

 なるほど、変な具合に敵の注目を集めている僕に攻撃を集中させて、サラお嬢様のでかい魔法で、一掃するという作戦に転じたわけか。うん、実に効率的だ。

「サラ、2、30匹やれるやつあるかしら?」

 リュドミラが飛びかかろうとしたゴブリンの首を刎ね飛ばし叫ぶ。

「うんッ! リューダ、とっておきがあるよ! 少し時間かかるけど……おえッぷ」

 えずきながら、サラお嬢様が答える。

「いいわ、お願い!」

「りょッ!」

 短く、でも、大きく息を吸い込んで、サラお嬢様が地面に杖を立て、虚空に文様を描きながら呪文の詠唱を始める。

「創生の時より煉獄に燃え盛る灼熱の炎よ、我が願いに応え顕現し……」

 ぐぎゃ、げぎゃ! と、ゴブリンたちの注意がサラお嬢様に向く。

「ハジメ! わかったわね!」

 うわ、えげつない。僕は囮で餌で、時間稼ぎなわけだ。まあ、サラお嬢様を守るように円陣を組んだ時点で予想できたけどね。

 僕の方に集まっているゴブリンが多いとはいえ、全体的にはまだまだ包囲されている状況だ。こんな状況をひっくり返すのはでかい魔法か、超人的な戦士が無双するかだ。

 ハリウッド映画ならこういう場面にはガトリング砲だけどね。

「了解!」

 戦闘に関して僕は全くの素人だから、リュドミラたちの言うことを実行するだけだ。この体の元の主、アイン・ヴィステフェルトさんはかなり高名な騎士で戦闘のプロだったみたいだけど。

「おい、コラ! こっちだ、カビ団子! ペニシリンヤロウッ!」

 ぎぃいいいいッ! ぎゃ、ぎゃ~~~~~ッ! げぎゃぎゃッ!

 サラお嬢様に向けられた注意が再び僕に向けられる。しかも、かなりお怒りのご様子だ。

 ははっ……なんか通じたみたいだ。異なる言語で話す者同士の非友好的なコミュニケーションにおいて、何を言ってるのかはわからないけれど、馬鹿にされてるのはわかるってよく聞くけれど、本当だったんだな。

 しかも、今回は、人間同士ですらなく、そもそもが、意思を疎通させることさえ不可能なカテゴリーでのことだ。

 げぎゃッ! ぎいいいいッ!

 十数匹のゴブリンが、手に手にサビサビで刃こぼれだらけの剣や、棍棒を構えて僕をとり囲む。

「うわわッ! わああああッ!」

 自分でもわかるくらいのへっぴり腰で、僕は鉈みたいな短剣を小手先で振り回す。

 ぎゃぎいいいッ!

 耳障りなしゃがれた鳴き声が背後でしたのと同時に、腰のあたりが燃えるように熱くなる。

 ぶりゅりゅッ!

「え……あ……、げふッ!」

 僕のお腹から血塗れの赤錆びた剣が生えていた。

「おえッ……ぐぞぉッ!」

 ゴブリンが腋の下から頭を出して僕を見上げて「ぎぎぎぃッ!」っと、耳障りなしゃがれ声をあげる。

 

「てんめぇ……!」

 そいつが何を言ってるが俺には瞬時にわかった。「腸ぶちまけて死ね!」だ。

 俺はそいつの頭を抱えて腋を締めてゆく。

 ぎいいいいいいッ! ぎゃげえええッ!

 そいつは俺を貫いている剣から手を放してジタバタと暴れやがる。

「暴れんなよ。てめえを殺せねえだろうが」

 ミシミシとゴブリンの首の骨が軋むのが伝わってくる。

 ぎゅげ! げ、げ……。が……!

 ぼきん! と、飴の棒を折るような音がして、俺の肋骨にゴブリンの首の骨が折れた振動が伝わり、ようやく腋の下で暴れていたゴブリンがおとなしくなりやがった。

「始めっからそうしてろよ」

 

 とたんにズシリと重力の存在を再認識してよろめく。

 げぎゃあああッ! んぎぎいいいいッ!

「あ、や、ちょ、ちょ、ま」

 僕の目に怒り狂った十数匹のゴブリンが跳びかかってくるのが映る。

「ひいいいいいいいいッ!」

 思わず目を閉じ、短剣をでたらめに振り回す。

 げっ! ぎゃッ! がッ!

 ゴンゴンと何かに当たった感触が伝わってきた。

 そんな攻撃とはお世辞にもいえない、ただ振り回しているだけの短剣に、不幸なゴブリンの何匹かが当たったようだ。

 だけどそんなの、本当にまぐれ当たりだ。僕の短剣をかいくぐって何匹ものゴブリンが僕に刃こぼれだらけの剣を突き立てる。

「が、はあっ、ぐうううッ!」

 ハリネズミみたいになった僕にとどめをさそうと、得物を手に手にゴブリンが殺到してくる。

「ぐッ、がッ、があッ、あぐッ!」

 突かれ、切られ、殴られ、僕は瞬く間に血塗れなってゆく。ざっと見ただけでも十数匹が群がっていた。

「土砂降りの炎プリヴェーゴファイラ!」

 サラお嬢様の詠唱が完成する。虚空に描かれた魔法陣から巨大な火の玉が出現して僕の直上に高速で飛来、炸裂した。

 炎が土砂降りのように降り注ぎ、辺り一面が火の海のなる。

「わ、わ、わああああ」

 これって、僕だけを守る結界とか施してあるんだよね!

「ハジメ! ごめん!」

 サラお嬢様が舌を出してウィンクをする。所謂テヘぺろってヤツだ。

「ちょ、ちょ、熱いから! すんごくあっついからぁッ!」

 ぎいいいいいい! ぎゃああああッ!

 僕に集って暴力を振るっていた緑色の皮膚をした怪異が、炎の雨に穿たれ燃え上がり悲鳴を上げる。

 僕の周囲にいた、たくさんのゴブリンたちが、あるいは体の表から焼かれ、あるいは着弾した炎の雨粒が体を穿ち潜り込んで内側から焼かれ、または、その両方で灼かれ、耳障りな悲鳴を上げながら絶命してゆく。

「ぅあぢいいいいいッ! あづい! あぢいいいいいいいいッ!」

 ジャンヌダルクってこんな感じで死んだんだろうな。

 そして、僕の視界のすべてが紅く染まり、記憶が途切れた。




お読みいただき誠にありがとうございます。
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