転生グルマン!異世界食材を食い尽くせ   作:茅野平兵朗

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第71話 アイン・ヴィステフェルトが獲得したケニヒガブラの牙が金貨一万枚で売れるらしい

「シムナぁ、これ一個で、メジャーの拠点洞窟に棲んでいるゴブリン全部をあさってまでぐっすり眠らせることができるんだってよ」

 

 ルーデルが僕らの作戦に異を唱えたマスターシムナの肩を抱いて犬歯を見せて笑う。

 

「んなっ! そんなバカみたいなことできるわけないじゃない『産屋の焚き込み香』ごときで」

 

 マスターシムナが目を剥いた。

 

「かかかかかっ! シムナが知らないのも無理はないんだね。『モルフェオの吐息』なんてここ三百年ばかり新しく調合されたことなんてなかったんだね。ほんの少ししか使わないんだけど、必須材料のケニヒガブラの毒袋付きの牙が市場に出たことなんて、ここ三百年なかったらね」

「ダンジョンで中層以上の階層主であるケニヒガブラが牙をドロップすることが非常に稀ですし、ましてや、毒袋つきの牙なんて地上で討伐したケニヒガブラを解体しなければ採取できませんからね」

「『産屋の焚き込み香』って、今、ルーティエ教団の奥の院で保管してある塊から少しずつ削ったものを売ってるって聞いたことがあるわ」

 

 さすが、番頭レベル99のヴィオレ様に丁稚レベル73のサラ様だ、稀少アイテムのことをよくご存知だ。

 

「しかし、ケニヒガブラの毒袋付き牙なんてよく持ってたんだね! ほうほう、あれがそうなんだね。売ってくれないないかねぇ。あれ、僕なら金貨一万枚で買うんだね! 最低価格金貨五千枚からの競売に出せるんだね! ふた声目に金貨一万枚越えは確実なんだね!」

 

 ……ってことは、いま抱えてるシムナさんからのクエスト放り出しても大丈夫ってこと? ぜんぜん余裕でお金儲けできるってこと?

 

 僕は、突然大金持ちになったのだった。

 いや、換金すればだけどね。

 

「へえ、いいね、いいねぇ、ハジメぇ、濡れ手に麦だぜぇ」

「そうね、まさか、わたしも、ケニヒガブラの牙にそんな値がつくなんて知らなかったのだわ」

 

 ルーデルもリュドミラもニヤニヤ笑いを浮かべて僕の目を覗き込んでいる。僕の目の奥を睨んでいる。

 サラ様も、ヴィオレッタ様もエフィさんも眉を寄せて僕を見つめている。

 街に帰って売りに出せば、労せずして金貨五千枚以上は稼げるってことか……いや、もう一本あるから、全部で一万枚以上は稼げちゃうんだろうな。

 あっさりと目標額達成だ。

 

「ハジメくん……」

 

 そして、マスターシムナがどこか縋りつくような瞳の色で僕を睨んでいた。

 

「社長、その話、後でゆっくりしませんか?」

「今じゃなくていいんだね」

「ええ、今は、急いでやらなきゃいけないことがありますから。そのために社長とシムナさんに馬車を持ってきていただいたんです」

 

 きっぱりと言った。

 わざわざ危険を冒すことはないと思う。たしかにそうだ。

 いかに、エフィさんが作った薬の効き目が抜群だとしても万が一がある、そんなところにヴィオレッタ様やサラ様を連れて行きたくない。

 楽して金が貰えるならそれでいいじゃないか。

 

 だけどな、俺が守りてえのはみんなの笑顔なんだ。

 

 こんな棚ボタで金が稼げたってな、助けられるかも知れない命を見捨てて、みんなが笑えるか?

 俺はそう思わねえ。こんなのはきれいごとだってわかってる。

 けどな、今そこで俺に見えている苦しんでるヤツを助けてこそ心の底から笑えるってもんだ。

 そうしなきゃ、ヴィオレもサラも笑って暮らせねえ。

 

「ハジメさん!」

「ハジメ!」

「ハジメさん!」

 

 ヴィオレッタ様、サラ様、エフィさんが安心したような笑顔を浮かべる。

 僕の判断はまちがっていなかったみたいだ。

 

「かかっ! こいつは一本取られたんだね。じゃあ、救出作戦の打ち合わせをするんだね」

 

 オドノ商会の社長は隻眼の相好を崩した。

 

「はい、では、僕の考えを言います。別なアイディアがあったら、なんでも言ってください。検討しましょう」

 

 僕は作戦のあらましを説明する。

 すなわちこうだ。

 

 第一段階

 エフィさん作の超強力麻酔薬『モルフェオの吐息』を拠点洞窟内に充満させ、ゴブリンを行動不能にする。

 第二段階

 メイン火力のルーデル、リュドミラ。解毒回復役のヴィオレッタ様。魔力回復役兼介助役のエフィさん。壁兼介助役の僕が突入。坑内をしらみつぶしに被害者を捜索して、発見次第、解毒と体力回復。

 第三段階

 歩けるようになった被害者を連れて洞窟から脱出。

 第四段階

 サラ様の魔法で殲滅。

 

「僕らが潜っている間、社長とマスターシムナは馬車とサラを護衛しつつ待機していただくということで」

「うん、実にシンプルでいい作戦なんだね! 作戦実施までに時間的余裕がないときは単純なのがベストなんだね!」

「『産屋の焚き込み香』は? 突入班が香気を吸い込んだら?」

 

 シムナさんの疑問にエフィさんが答える。

 

「洞窟内の換気をしてからの突入となります。こういった洞窟拠点には必ず何箇所かの空気穴がございます。これについては全てを把握しております。第一段階では、この空気穴をサラ、ヴィオレ、非才の生活土魔法で一箇所だけを残し塞ぎ、出入り口で香を焚き風魔法で送り込みます」

「その風魔法はあたいが担当だ」

 

 ルーデルが手を挙げる。

 

「その上で、残しておいた空気穴の傍でハジメさんに待機していただいて、立ち上ってくる空気の匂いを嗅ぎ分けていただきます。『モルフェスの吐息』の香りがしたら、ハジメさんの合図で口覆いを装着して待機いただいたヴィオレに空気穴を塞いでいただきます。空気穴程度でしたら生活土魔法の初級穴埋めで塞げるはずです。それと同時に出入り口も塞ぎます。これは、サラの土魔法で実施していただきます」

「香気充満後に、拠点洞窟の中で行動しているものがいるかいないかは、私が探知魔法で洞窟内を検索いたします」

 

 ヴィオレッタ様が手を上げる。

 

「安全が確認できましたら再び空気穴を開けて出入り口を解放の上、風魔法で送風します。再びハジメさんに匂いを嗅いでいただいて安全確認。その後。救出班が突入する。……という手順でございます」

 

 エフィさんの説明にシムナさんが頷いた。

 

「わかったわ。地上とサラの安全はまかせて」

「ボクもがんばるんだね!」

 

 にっこりと微笑んで胸を拳で叩いたシムナさんは、とても頼りがいがあるように見えた。

 オドノ社長にいたっては、もう、お任せしますって感じだ。

 きっと、何も間違いなく全部が実施されるに違いない。

 

「それから、これは、みんなにプレゼント」

 

 リュドミラが小さなバッジみたいなものをみんなの服の襟につけて回る。

 

「念話用ブースターよ、これをつけている限り、よほど遠くへ離れない限り念話が通じるはずだからつけておいて」

「うわあ! リューダこれ、魔道具ショップで一個金貨三枚もするヤツよ。お金大丈夫だった?」

 

 サラお嬢様がうれしそうにリュドミラに尋ねた。

 値段知ってるってことは欲しかったんだな。

 

「大丈夫よサラ。シムナのツケで買ったから。お礼はシムナに言うといいのだわ」

「あはぁん。そういうこと! 魔道具屋からあんたの名前で請求書が回ってきたときは何買ってるんだとか思ったけど、こういうことならオッケーよ。必要経費で認めてあげる」

「ありがとうございますマスターシムナ。これで作戦が円滑に遂行できます」

「ありがとう、シムナさん、わたし、これ、欲しかったの」

 

 僕らがお礼を言うと、マスターシムナは頬を染め咳払いをして手を振ったのだった。

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