転生グルマン!異世界食材を食い尽くせ   作:茅野平兵朗

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第75話 哀れなエルフの物語

「話を聞いてください」

 

 エルフの男の子は叫んだ。

 

「話を聞けだぁ? お前それ本気で言ってるのか?」

 

 ルーデルが牙といってもいい犬歯を見せて獰猛な笑みを浮かべた。

 

「あなたの隣にいるのは、ゴブリンが攫ってきたあなたの同族の女の子を犯して産ませたものだと思うのだけれど?」

 

 あからさまにエルフの男の子を嘲る笑いと共にリュドミラが言い放った

 

「ええ、ええ、そうです。この子は僕の妹の娘なのです」

 

 その場にいた僕らの空気が凍りついた。

 

「な、ん……だと?」

「ああ、とてもとても、ややこしいことになったのだわ」

「これは、聞かざるをえなくなりましたでございます」

「ハジメさん、私、頭がぐるぐるしてきました」

「僕もですよヴィオレ」

 

 唖然としている僕らをよそに、エルフの少年が訥々と話し始めた。

 とあるエルフの家族の物語を。

 

 

 昔々、東の森の奥、エルフが隠れ住む里に一人の少女がいた。

 村の他のエルフ同様、決して豊かではなかったが、つましやかな暮らしとゆったりと流れる日々。

 美しく育った少女は、里の慣わしに従い、成人してすぐ、親が決めた里の若者と見合い、所帯を持こととなった。

 村の若者と許婚となって間もなく、里にひとりのエルフの青年が流れて来た。

 そのエルフの青年を一目見たそのとき、エルフの少女は今まで感じたことがない気持ちが心の底から湧き立つ感じた。

 流れ者の青年もまた、女に目を奪われた。

 二人は恋に落ちたのだった。

 

「おおう……」

「なんてこった……」

「ハジメの世界でいうところのフラグってやつだと思うのだけれど」

「まあ……」

「古来、それまでうまくいっていたものを、全部台無しにして来たのが、美男美女でございます」

 

 恋に落ち、逢瀬を重ねた二人のことは、すぐに里の誰もが知るところとなり、流れ者のエルフの青年は追い払われ、許婚に不義をしたとして少女はエルフの里の掟により追放された。

 が、このとき既に女は流れ者の青年の子を身ごもっていた。

 里から追放された少女は、身重の体で森の奥深くを彷徨った。

 飢えと寒さに絶望しかけたそのとき、追い払われた青年が戻ってきて少女をみつけだした。

 二人は力を合わせて森を切り開き、小さな小屋を建て猫の額ほどの畑で僅かの作物を育て、森で狩をしてひっそりと暮らして始めた。

 やがて、家族がいっぺんに二人増えた。

 たった二人きりだった家族が四人になった。

 暮らしぶりは決して楽ではなかったが、笑みが耐えない幸せな家庭が築きあがった。

 生まれた子らが幼児期を抜けかけたある日、子供たちが森で一匹のゴブリンと出会った。

 そのゴブリンは傷つき、飢えていた。

 かわいそうに思った子供たちはゴブリンを家に連れて帰った。

 そのゴブリンはかつての自分たちと同じように群を追い出されたのだろう。

 夫婦はゴブリンに食べ物を与え、傷を癒し、手厚く看護した。

 

「ああ……」

「やっちまったな」

「フラグが何千本も立ちまくりなのだわ」

「なんてこと……」

「いつの世も、お人よしがバカを見るものでございます」

 

 やがて傷が癒えたゴブリンは、エルフの一家の五人目の家族になった。

 ゴブリンの首には家族の印しとして輝石の首飾りがかけられた。

 種族も違い言葉も通じなくともエルフ一家とゴブリンは睦まじく暮らしていた。

 が、ある日、狩から帰って来た父親と息子が小屋で目にしたのは、無残に食い散らかされた母親の姿だった。

 ゴブリンが仲間を呼び寄せ、父親と息子の留守を襲わせたのだった。

 怒り狂い血の涙を流し。小屋で待つように息子に言い付けて、父親は弓を携え森の奥へと消えていった。

 残された息子は、母親の遺骸を拾い集め、小屋の傍の大きな木の根元に埋めた。

 一日が過ぎ、二日が過ぎ、やがて七日が十日、一月と過ぎても父親は帰らなかった。

 やがていくつもの季節が移り変わっていったが父と双子の妹は帰って来なかった。

 更にいくつかの季節を過ごして、少年は父と妹を探す旅に出ることにした。

 何ヶ月も森の奥を彷徨い、ようやく妹を連れ去ったゴブリンの群を見つけ出すことができた。

 群のゴブリンの一匹があのゴブリンだったのだ。

 その首には母がかけてやった首飾りがあった。

 だが、父たちを見つけ出すことができなかった。

 

「でも、これを見つけることはできたのでした」

 

 少年は、エルフがよく使う長弓を掲げる。

 

「これは、あの日、父が持って行った弓です」

 

 僕の周りで啜り泣きが聞こえる。

 初恋を貫いたがためにエルフの里を追い出され、やっと築いた小さな幸せな家を、ゴブリンに軒下貸したばかりに母屋を取られ、挙句喰い殺された哀れなエルフ女性の生涯に皆が涙していた。

 

「僕は、忍び込む機会を伺ってこの巣穴の傍にずっと何ヶ月も潜んでいました。そして、ようやく、昨日、忍び込むことができました」

 

 少年はぎゅっと唇を噛んだ。

 

「覚悟はしていました。妹が攫われてからもう何年も経っていましたから……。でも、妹の忘れ形見は見つけ出せました。ええ、この子です。忌まわしいゴブリンとの子ですが、かけがえのない血族なのです。どうか、この子は助けて欲しい……」

 

 エルフの少年は平伏した。

 

「ハジメ!」

「ハジメ……」

「ハジメさん!」

「台下!」

 

 僕は軽く息を吸い込んで言う。

 

「いいですよ。その子は助けましょう」

 

 エルフの少年は満面の笑みで顔を上げる

 

「ほんとうですか?」

 

「ルー!」

 

 僕はルーデルについてくるように手招きをする。

 玉座の段を上がり、尚、平伏している少年の前に立つ。

 

「ハジメさん!」

「ハジメ!」

「台下?」

 

 皆が僕の背中に疑問符を投げつけ、傍らのルーデルが喉を鳴らした。

 

「けど、キサマは死ね」

 

 俺はシャベルを少年の頭に振り下ろした。

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