転生グルマン!異世界食材を食い尽くせ   作:茅野平兵朗

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第76話 嘘に何割かの本当を混ぜるととても危険だ

「ひいいいいいいいいいいいっ!」

 

 少年の傍らの少女が悲鳴を上げ腰を抜かす。

 

「な、なぜ……」

 

 シャベルが食い込み割れた頭から、青い血を吹き出しながらエルフの姿をした少年が言った。

 

「キサマがゴブリンプリンスだからだよ」

 

 僕はシャベルを引き抜こうと何回かこじる。けれども少年の頭蓋骨ががっちりとくわえ込んで放さない。

 

「このクソ石頭さ加減にゴキブリ並みの生命力どうひっくり返したってゴブリンだろ。しかも、この、青い血だ! エルフの血は赤いしな、こんな風に頭からシャベル生やして生きてられるやつはほとんどいないんだ。知ってたか?」

 

 僕は未だにエルフの姿をしているゴブリンプリンスの頭からシャベルを引き抜くのを諦め、柄から手を離す。

 どうやら変化の魔法でエルフに化けているわけではなく、エルフの姿が本来の姿のようだ。

 エルフもどきめ!

 

「リューダ、ヴィオレ、エフィ! 攫われた女の子たちの捜索をお願いします」

「「はいっ!」」

「わかったわ」

 ヴィオレお嬢様方に女の子たちの救出をお願いして僕はゴブリンプリンスを睨みつける。

 当のゴブリンプリンスは、頭にシャベルを生やしたまま、僕を睨み上げていた。

 

「なぜだ? なぜなんだ? なぜ我の話を信じなかった? 我のこの話はどの村の人間も涙を流して聞いていたぞ」

 

 なるほど、こいつらは、ゴブリンに襲われたエルフの家族の生き残りを演じて、お人よしの村人の互助精神(お互いさま)につけこんで人間の村に入り込んでたわけか。

 そして、村全体が寝入ったころ、群を招き入れて襲撃してやがったな。

 まるで時代劇に出てくる盗賊の引きこみ役だ。

 しかも、押し入った先で金品を強奪するだけでなく(ゴブリンの場合は食い物がメインのようだ)村人をことごとく殺して女の子は攫ってきて犯すなんざ、急ぎ働きの畜生ヤローだ。

 盗賊の風上にも置けねえ。

 ああ、畜生にも劣るゴブリンだったか……。

 

「いいか、後学のためによく聞いておけ。まあ、キサマには僕が話したことを生かすチャンスは無いがな」

 

 そうして、僕は、なぜこいつがゴブリンプリンスだということを見破ったかを教えてやる。

 

「僕の仲間の斥候はな、絶対に見落としたり勘違いしたりしないんだ! 絶対にだ!」

「な、なん……だと? たったそれだけか?」 

「ああ、たったのそれだけだ」

 

 いや、実はそれだけじゃない。

 本当は、こいつが悦に入ってお涙頂戴話をしている間、僕はこいつらのことをこっそりと鑑定していたのだ。

 そしたらこいつはゴブリンプリンス/エルフハーフだったわけだ。

 だけど、僕が鑑定スキルでこいつの正体を見破っていたなんてことは内緒だ。

 自分が適わない能力で策略が見破られたなんてのは、十分負けて当然の理由だ。

 逆に自分が明らかに見下していることで負けたとなると、これはダメージがでかい。

 僕が仲間リュドミラを絶対的に信頼しているというただそれだけの理由で頭をかち割られ、何年もかけて計画、準備してきたゴブリンキングへの陞格、そして、ゴブリンパレードを起こして人間に壊滅的なダメージを負わせる目的を潰えさせられた挫折感に身を捩ればいい。

 こいつには思いっきり絶望して敗北感に苛まれながらくたばってもらいたいからね。

 

「キサマが言ったことの何割かは本当だったんだろう。例えば、キサマらが苗床にした不幸なエルフの女性の話だ。キサマらゴブリンごときのエテ公並みの脳みそで思いつくお話じゃないだろうからな。並のゴブリンよりも知恵が回るキサマが何年もかけて言葉を覚え、エルフの文字を覚えて、キサマのオス親のゴブリンが襲った追放エルフの家族の日記かなんかを元ネタにしてでっちあげたんだろ?」

「ぅぐう……」

 

 顔を青い血に塗れさせゴブリンプリンスは息を詰まらせる。

 いいぞ、その顔。

 その、絶望に体中を噛み千切られているような、苦渋を何ガロンも漏斗で飲まされているような顔。

 キサマは何百人にもそんな顔をさせたんだ!

 

「ぎざば! ぜっだいゆどぅざなぎ!」

 

 ゴブリンが青い涙を滂沱させ、俺を睨みつける。

 

「キサマが今しているその顔な、何人の人間がそんな顔して死んでいったか覚えてるか?」

 

 俺はゴブリンプリンスに聞いてみる。こいつがそんなこと覚えているわけがない。

 

「俺は覚えておいてやるぞ。俺たちが殺した一体一体の顔はもう忘れたけどな、少なくともキサマのその顔だけは覚えておいてやる。キサマの氏族を何千匹も焼き殺したことを覚えておいてやる」

「ぐぞおおおおおおっ!」

 

 ゴブリンプリンスが腰からボロボロに錆びた短剣を引き抜いて俺の腹に突き立てる。

 

「うぐうっ!」

 

 痛さに息が詰まる。

 

「ハジメっ!」

 

 ルーデルがプリンスの首を刎ねようと大剣を振りかぶる。

 俺は手でそれを制して、俺の腹に短剣を突き立てたゴブリンプリンスの青い血に塗れた顔の下に両手を差し込んで持ち上げる。

 

「がっぐげっ、げぎゃっ、ゲッ、ゲッ、ゲハっ!」

 

 親指を支点にして両手を雑巾を絞るようにゆっくりと回してゆく。

 

 俺に吊り上げられたゴブリンプリンスは、俺の親指が自重で喉に食い込み気道が塞がれて苦しいのだろう、ジタバタと手足を必死に動かして逃れようとしている。

 その、すんなりと長い手足が俺の顔を殴り腹を蹴る。

 肘や膝も的確に急所を狙って飛んでくる。

 痛い。猛烈に痛い。

 ボクシングで選手が殴られたようにまぶたが腫れ上がり切れて血が迸る。

 鼻血がドクドクと流れ、口の中が血反吐で溢れ返る。

 いつの間にか俺の足元は、バケツでぶちまけたように紅黒い血が池のようになっていた。

 

「ゲッ、ゲッ、ゲッ、ゲッ、ゲッ、ぐげぇえっ!」

 

 俺の血溜まりにゴブリンプリンスの青い血が滴り落ちて混じりマーブル模様を描く。

 白目を真っ青な憎しみに染めてゴブリンプリンスは俺を殴り続ける。

 だがやがて、次第にその力が弱くなってゆく。

 俺の顔に叩きつけられていた拳が、俺の頭を撫でるように。

 腹を蹴っていた足が小便を我慢しているようにモジモジとした動きに。

 そしてついには、ただ、ビクビクと痙攣するだけとなり……。

 俺とプリンスの血溜まりに、新たな体液がばちゃばちゃと音をたてて滴り落ちる。

 ずしりと俺の腕にゴブリンプリンスの体重がのしかかる。

 思わず俺は腕を下ろしてしまう。

 ゴブリンプリンスだったものが、ベチャリと汚い音をたてて、糸が切れた操り人形のようにみっともなく血溜まりに落下した。

 俺は、その頭に食い込んだままのシャベルの柄を蹴飛ばした。

 からんからんと乾いた音をホールに響かせてシャベルが転がる。

 

「うおっとと……」

 

 蹴飛ばした拍子によろめいた。

 

「ハジメ!」

 

 ルーデルが僕の腕を取って支えてくれる。

 血溜まりに転がっているゴブリンプリンスに目を向けると、まだ手足がピクピクと痙攣している。

 

「ルー……」

「ああ、わかった。プリンスともなると、全く呆れた生命力だぜ」

 

 ルーデルが大検を振りかぶり、その首に叩きつけた。

 大広間に鐘の音のような音が鳴り響き、ゴブリンプリンスの首が数メートル飛んで玉座の段を転がり落ちていった。

 そうして、ようやくゴブリンプリンスは静かになったのだった。

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