転生グルマン!異世界食材を食い尽くせ   作:茅野平兵朗

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お待たせいたしました


第78話 なんのことだ? お情けをくださいって?

「ん? なんだありゃぁ?」

 

 救出隊の馬車三台の先頭を行く僕らの馬車の御者台で、ルーデルが頓狂な声を上げた。

 けっこうゆっくりと東の森を出発して、まもなく昼過ぎというころ、僕らはヴェルモンの街の城門が見えるところにさしかかっていた。

 

「あらあら、街の門が一番空いている時間帯に到着するように出発したと思ったのだけれど」

 

 御者台に身を乗り出して、僕も前方を凝視する。

 ヴェルモンの街の門前に黒山の人だかりができていた。

 

「まるで、収穫祭のときみたい!」

「ほんとうね、収穫祭の時期はあちこちから行商人や大道芸人がやって来たり、周辺の村々から来た人たちで連日あんなふうになるけど……」

「収穫祭はまだまだ先でございますよ」

 

 お嬢様方も身を乗り出して、遠望する。

 徐々にはっきりと見えてくる黒山の人だかり。

 

「ん?」

 

 僕はその街の門前にできている黒山の人だかりに違和感を感じる。

 なぜだか、その人たちはこちらを向いているように見える。

 街に入るために並んでいる人たちなら、こちらに背を向けているはずだ。

 あまつさえ、手を振っているようにも見えるぞ。

 

「おーい! おーい!」

「おおおおおお-い!」

 

 更に僕たちの車列に向かって呼びかけているような声まで聞こえてくる。

 

「何が起こってるんだ?」

「ありゃぁ、お出迎えってやつじゃないか?」

「そうね、わたしたちを追い返そうとしているような雰囲気ではないと思うのだけれど」

 

 状況を把握しきれずに混乱する僕にルーデルとリュドミラが答える。

 

『ごめん! あたしのせいだ』

 

 冒険者ギルドヴェルモン支部のギルドマスター、シムナさんの声が頭の中に響いた。

 念話だ。

 え? どういうこと?

 

『昨日、あんたたちから応援要請されて、社長と街を出発するときに、手が空いてるEや、Fの冒険者にメッセンジャークエスト出したのよ』

 

 え? それって、エルベ村やサヴォワ村とかに女の子たちを助けたって、ふれ回らせたってこと?

 失敗したら、どう言い訳するつもりだったんだ?

 

『シムナ、あなたのその先走りっぷりのせいで、ディアブロルージュ(領主)に返しきれない借りを作ったの忘れたとは言わせないのだけれど?』

『うう、面目ない。でも、あんたたちがやるって言ったときに、八割の成功が見込めたんだものしょうがないじゃない』

「「はあああっ!」」

 

 ルーデルとリュドミラが盛大に溜息をついた。

 だが、それには、若干の微笑み成分が含まれていることは、同じ馬車の乗っている僕らだけが目の当たりにできたことだった。

 それにしても八割の成功が見込めたからって、ふれ回らなくたって……。

 

「まあ、気持ちはわからなくもないのだけれど……」

「あの状況はS級の冒険者がやったとしても、半分の子を助けられたら大成功だったでしょうね」

 

 ヴィオレッタお嬢様が呟いた。

 

「実際、『モルフェオの吐息』が無ければ、あたいたちでも七割しか助けられなかったな」

 

 そ、そんなに……。

 

「それだけ、虜囚奪還作戦というのは難易度が高いってことでございます」

「うんうん、ハジメ、それがみーんな助けることができたんだよ。わたしたち」

 

 サラお嬢様がフンスと胸を反らす。

 

「コゼット! コゼットぉっ!」

「ベルタ! ペトラ!」

 

 サヴォワ村のヴァルジャンさんとエルベ村のヤンさんが僕らの馬車を覗き込み、娘さんの名前を叫んだ。

 

「ヴァルジャンさん、ヤンさん! 一番後ろの馬車ですから!」

「ほ、ほんとうか? ほんとうにコゼットが乗ってるのか?」

「あ、あんた、ベルタとペトラもか?」

「ええ、ヤンさんのとこのベルタちゃんとペトラちゃんもです!」

「バンケル村のテレルだ、エ、エミリーは?」

「はい、エミリーちゃんも一番後ろの馬車です!」

 

 ギルドのクエスト申し込み用紙にあった十六人の女の子たちは、一番後ろのシムナさんが乗っている馬車に集めていた。

 親御さんたちが迎えに来るまでギルドで待機していてもらうためだ。

 ギルドに依頼がきていなかった子達は、元々親がいないか、攫われたときにゴブリンに殺されたか、村が全滅したかだろうから、再会に喜ぶ親子の姿を見せたくなかったからね。

 誰かの先走りでぶちこわしになっちまったけどね。

 

「ウィルマ! シムナさんに後はギルドでよろしくと伝えてください!」

「は、はい、りょうかいです!」

 

 エフィさんに念話でマスターシムナに僕の伝言を伝えてもらう。

 

「で、あたいたちはどうする?」

 

 ルーデルとリュドミラが僕を振り返り微笑む。

 馬車の中を見回す。

 僕らの馬車にはゴブリンプリンスの傍にいたエルフの子と獣人の子達数人が乗っている。

 ほかの獣人の子とエルフの子、それにギルドに依頼がなかった人間の女の子たちはオドノ社長の馬車だ。

 獣人の子達はなぜだか、一様に緊張している様子だ。

 きっと、人間の街が初めてなんだろうな。

 

「あ、あの!」

 

 唐突に兎人の子が身を硬くして叫んだ。

 

「あの、冒険者様! ど、どうかわたしたちにお情けをください!」

 

 街の門をくぐり、石畳に揺れる馬車の中の空気が凍りつく。

 なんのことだ? お情けをくださいって?

 

「なんでもしますから! どうか、お情けを!」

 

 その兎人の女の子は、悲壮な決意を込めた瞳で僕を見つめている。

 ほかの獣人の子たちも何か覚悟を決めたような目で僕を見つめている。

 

「ハジメ、その子たちはあなたの奴隷になりたいといっているのだと思うのだけれど?」

 

 ルーデルが肩を震わせながら教えてくれる。

 

「いっしょうけんめい、お仕えします」

「今は何も知りませんけど、お姉様がたに手ほどきいただければ覚えます」

「おねがいします! どうか! 食べ物と屋根をお与えいただければ、なんでもしますから、どこかに売らないでください!」

 

 あ、なるほどそういうことか。

 この子達、奴隷商人に売られると思ってるのか。

 

 なんでそうなる?

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