転生グルマン!異世界食材を食い尽くせ   作:茅野平兵朗

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第82話 漂う吟醸香。それは妖精のポルカと例えられた

 酒樽を開けるのには少し苦労をした。

 ニュース映像なんかでよく、樽の蓋を木槌で割るってのがあったから、それでいけると思ってたんだけれど、まあ、これがうんともすんとも言わない。

 それでもがんがん蓋を叩いているうちに、フタの栓が浮いてきてポロリと取れたのでそこから鉄梃子を突っ込んでこじ開けた。

 辺りにフワリと果物のような甘い香りが漂う。

 鑑定したときにその品質までは鑑定しなかったから、この香りには驚いた。

 たしかこれ、吟醸香とかいう上等なお酒に特有の匂いだったと思う。

 じゅるり! っという涎を啜り上げる音に振り向くと、リュドミラが瞳を爛々と輝かせている。

 

「は、ハジメ! その樽から、ものすごく誘惑的な香りが立ち上がっていると思うのだけれど。それは、なんなのかしら?」

「これは、君やルーがとても喜ぶものだよリューダ」

 

 腰の雑嚢から携帯カップを出して、日本酒を一掬い…たぶん二合くらいだ…をリュドミラに勧める。

 

「ああなんてステキな香り。妖精がポルカを踊っているみたいだわ」

 

 うっとりと目を閉じ、リュドミラが香気を愉しむ。

 

「ちょ、ちょ、ハジメちゃんあたしにも!」

「わたしも、わたしも!」

 

 ヤトゥさんとサラお嬢様もカップを僕に差し出す。

 

「はいはい、ちょっと待ってください……って、サラお嬢様はまだ……」

「ハジメ、この国ではワインとエールは十二歳以上なら飲んでもいいのよ。それ、ワインと同じような気がするわ」

 

 たしかに、この世界は元の世界よりもいろんなことが過酷にできている。

 だから、子供が大人と呼ばれるようになるまでの期間は僕の世界よりもかなり短い。

 いい例が冒険者ギルドへの登録ができるようになる年齢だ。

 僕の世界だったら十八歳以上ってのが常識だろう。

 でもこっちの世界はギルドに登録できるのは十二歳からだ。

 だから、こっちの世界ではサラお嬢様は十分に成人女性なワケだ。

 

「たしかに、たしかに日本酒のことをライスワインなんていったと思うけど……」

 

 サラお嬢様はきらきらと瞳を輝かせている。

 

「ヴィオレには内緒ですよ」

「わあぃ、ありがとうハジメ!」

 

 僕は二人からカップを受け取り、一掬いとる。

 

「ハジメはこれを使うといいわ」

 

 リュドミラが自分のカップをとりだして、手渡してくれる。

 それを受け取って、僕も樽から一掬い取る。

 

「では、遠い国からやって来た酒に」

 

 なみなみと日本酒を湛えたカップをかざす。

 僕に習ってみんなもカップをかざす。

 口元にカップを運ぶとメロンのような香りが鼻腔をくすぐる。

 それだけで、耳が熱くなり、上気しているのを自覚できる。

 

 そして、一口。

 

「くぇrちゅいおp@~~~~~っ!」

 

 思わず音にならない声で叫んでしまった。

 これ、ものすごく上等なやつだ。僕なんかが飲んでいいヤツじゃない!

 

「「「ほわああああああ~~~~!」」」

 

 周りを見ると、リュドミラもサラお嬢様もヤトゥさんも、蕩けきった顔をしている。

 

「い、今までに飲んだ、どのワインよりもおいしいわ」

「なにこれ? これ、ワインなの? わたし、こんな味知らない!」

「ちょ、ちょ、ちょっ! なんだいこれは!」

 

 これは、飛び抜けすぎている。

 まさにチートな味だ。万が一ソーマとかネクタルとかが実在したらっていうレベルだ。

 いや、僕がただ単に上等な日本酒を知らないだけだって話もあるんだが、傍らで蕩けきった顔をしている女性陣を見ると、まんざら外した例えでもない気がする。

 

「は、ハジメちゃん……」

 

 ヤトゥさんが、申し訳なさそうな目で僕を見る。

 この味のものは他にはないだろうから、王様に献上したら、けっこうな優遇措置を引き出せるかもしれない。

 

「いいですよ。この酒は、王様に献上したほうがいいと思います。できたら、壺ひとつ分わけていただければありがたいんですけど」

「そ、そうかい悪いね。いいよ、壺二つ分持って行きな」

「ありがとうございます。じゃあ、もうひとつの樽を……」

「え? 同じものじゃないのかい?」

 

 ああ、そう考えるよな。

 

「ええ、これは、中身が違う樽ですね。ここをみてください」

 

 僕は樽に押してある焼印を指す。

 

「お酒のほうの印は四角の中に穂がありますけど、こっちの樽には斜めの屋根みたいなものの下に棒を互い違いにクロスさせた印が押してあります」

「そうか、なるほど……ね。じゃあ、仕方ないね開けてみようか」

 

 今度は蓋にしてある栓の周りから叩いてみる。

 すると栓が少し浮き上がってきた。

 そこで栓を四方から少しずつコンコンと叩いていって緩みきったところで外す。

 醤油のにおいが辺りに漂う。

 

「な、なんだい? この匂い。 鼻が曲がりそうだよ」

 

 ヤトゥさんが鼻をつまんだ。

 僕は心の中で口の端を吊り上げる。

 

「ヤトゥさん。これは醤油という調味料ですね。豆を加工した漬けダレです。ただ、王様に献上したところで、宮廷にこれを使える料理人はいないでしょうね」

「ああ、そうだろうさ、こんな漬けダレ見たことも聞いたこともないよ」

「じゃあ、これは……」

「いいさ、こいつはさっき言った通り持って行っとくれ」

「ありがとう、ヤトゥさん!」

 

 ヤトゥさんに僕は最敬礼をする。

 

「いいってことさ。その代わり……」

「ええ、米の栽培、やってみます」

 

 王様に献上する分の約10キロをのぞいた約50キロの米と醤油の四斗樽(約72リッター)、そして日本酒を二壺(ひと壺概ね一升くらい)をマジックバッグに入れて、僕らはヤトゥさんのタジャ商会を後にする。

 思いもよらず手に入った米と酒と醤油に僕は、ワクワクを押さえられなかった。

 酒と醤油は、早速今日の料理から活躍してもらおう。

 米は籾殻を外すところからだから、今後のことも考えて臼の開発からになるだろうか?

 実際に銀シャリを食べることができるのは少し先になりそうだ。

 

「それに、ここに米と酒と醤油があるってことは……」

「どうしたのハジメ?」

 

 サラお嬢様が不思議そうに僕を見上げる。

 

「いえ、僕が元いたところと同じものを作っている人たちが、この世界にもいるんだなと思いまして……ね」

「あ、そうか、作れる人が本当にいるってことなんだ」

「ハジメがいた世界のものと同じものを作れるヒトが、この世界にもいるかもしれなということね」

 

 そう、米も酒も醤油もここにある。僕は、それを作ることができる文明がこの世界に存在する可能性に胸が高鳴っていた。

 

 後日、国王に献上された日本酒は、陛下によって、『妖精のポルカ』と命名された。

 国王陛下の御前でヤトゥさんが献上品の日本酒の説明をしたときに盛り込んだリュドミラの漏らした一言を陛下がいたく気に入って、酒の名前にしてしまったそうだ。

 

樽には全く違う名前が書いてあったことは内緒だ。

 




17/09/24 第78話~第82話までを投稿させていただきました。
毎度御愛読誠にありがとうございます。
なお、本作は『小説家になろう』様にても公開させていただいております。
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