Plus Ultra.
更に、向こうへ。

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来世は東京のイケメン男子にしてくださーい!!!

 

 00

 

 画面の中で一人の男が笑っていた。

 

 大災害の中で。人々が絶望にくれる中で。

 彼だけが快活に笑っていた。瓦礫を押しのけ、手を差し伸べ、そして言うのだ。

 

『ーー私が来た!!』

 

 全ての不安を、吹き飛ばすように。

 

 

 01

 

 個性という特殊能力を持った人間。その超人社会で誰もが憧れる職業、それはヒーロー。

 

 少年もやはり彼らに羨望の眼差しを向けた。

 いつか自分も……と夢を抱き心躍らせた。しかしーー。

 

 現実は残酷だ。

 

『諦めた方がいいね』

 

 幼少の彼に医者は告げた。

 君は個性がないと、わずかにも確証を持って。

 

 少年は動画を前にして言う。憧れのヒーローの活躍するその動画を見つめ、その問いを喉から絞り出す。

 

「超カッコイイヒーローさ。僕も、なれるかなぁ」

 

 理不尽な現実を目の前に、受け入れられないまま。

 

 そんな姿に母は絶句した。

 

「ごめんねえ出久、ごめんね……!!」

 

 母はその現実を否定しなかった。

 

 

 02

 

 夢は諦めきれないから夢なんだ。

 叶わないから夢じゃない。寝て見るものが夢じゃない。掲げ目指すものが夢なんだ。

 

 だから、少年ーー緑谷出久は、現実を突きつけられても諦めきれなかった。

 

 ーー諦められなかった、のだ。

 

『将来のためのヒーロー分析』

 

 そんなノートもすでに十三冊目。

 中には彼のヒーローを目指す想いの結晶が綴られている。

 

 しかしーー心のどこかでわかっている。個性がなくてはヒーローにはなれない。そのノートは現実を直視できていない証でもあり、情報のみを集め肉体を鍛えていないのはその現れであった。

 

 いくら夢を信じていようとも、痩せ細った頼りない身体はその想いの揺らぎを意味する。

 

 彼は憧れに縋り今日を延命する。

 

 

 そんな、ある日。

 

「今から進路希望のプリントを配るが、皆!! ーーだいたいヒーロー課志望だよね」

 

 ホームルーム、担任教師の言葉にクラス中が肯定の声を上げた。

 その身に宿した個性はどれもこれも個性的で、誰もがヒーローに憧れていた。

 

 無個性の少年も、また。

 

 そんな中でとある少年が声を張り上げた。

 

「せんせえーー『皆』とか一緒くたにすんなよ!」

 

 出久の幼なじみ、爆豪勝己だった。

 

「俺はこんな没個性どもと仲良く底辺なんざ行かねー、よ」

 

 完全に周囲を見下した発言だ。

 

 出久は知っていた。そんな発言を公然で堂々とするだけあって、彼自身はとても優秀だ。運動に勉強ともに秀で、さらに個性も優秀。性格こそ自己中心的かつ他人を蔑ろにするものだが、その実力だけは本物だ。

 

 天は二物を与えた。二物ならず三物までも。

 

 そんな勝己が目指す高校は『雄英高校』。全国トップクラスの偏差値と倍率を誇るヒーロー育成学校だ。

 勝己は模試にてA判定を叩き出しており、個性からしても入学できる確率は相当に高い。おそらくはこの中学きって一番。

 

 そんな雄英を、出久も希望を出していた。

 

 教師がそれを語ると教室には笑いが渦巻いた。

 

「『没個性』どころか、『無個性』のてめェがあ、何で俺と同じ土俵に立てるんだ!!?」

 

 勝己のその言葉が全てを語っていた。

 

 そうだ。直視できない現実がそこにあった。

 個性がなければヒーローになれない。出久にはどう足掻いても手に入らないもので、勝己が持っているもの。

 

「てめェが何をやれるんだ!?」

 

 何も、言い返せない。

 

 

 03

 

 放課後、ヒーローの情報を集める出久を彼は訪ねた。

 爆豪勝己。彼は出久の持つ一冊のノートを奪い取った。

 

『将来の為のヒーロー分析』

 

 出久の、これまでしてきた唯一の努力の塊。

 

 勝己はそれをーー爆発させた。

 

 それこそ彼の個性、『爆発』。彼は汗腺より爆発物を生み出すという極めて戦闘に特化した個性を持っていた。

 強力で、派手で、ヒーロー映えする個性だ。

 

 出久がどれだけ羨んでも、手に入らない個性だ。

 

 勝己はノートを窓の外へ無造作に捨てた。

 

「雄英受けるなナードくん」

 

 ナード。オタクの蔑称。ヒーローに憧れヒーローの情報のみを集めるのみの出久は、残念ながらそのとおりだ。

 

 何も言い返さない。言い返せない。

 

 勝己の言葉だけでなく、勝己の取り巻きによるひやかしにも俯くのみだ。

 

 唇を噛みしめる出久へ勝己は言うーー

 

「ーーそんなヒーローに就きてんなら効率いい方法があるぜ。

 来世は個性が宿ると信じて……屋上からのワンチャンダイブ!!」

 

 

 その台詞に出久は振り向いた。そして叫ぶ。

 

 

「ーーそれだ!!」

 

 

 電撃に打たれた気分だった。目から鱗とはこのこと。生まれてこの方の悩みを一気に解消されたようだ。

 

 そうだ、個性を持って生まれなかったなら、生まれ直せばいい。

 

 出久は窓の縁に足を掛けると、周囲の制止も気にせず飛び上がった。夢の残骸である、ノートを追いかけるようにして。

 

『超カッコイイヒーローさ。僕も、なれるかなぁ』

 

 その問いに返されたのは、地面の固い感触だった。

 

 

 04

 

 彼の個性は『ちょっとしたものをひきつける』個性だった。

 

 母から遺伝された個性だ。

 

 その日、教室内は微妙な空気に支配された。

 

「えぇ……、あいつも雄英受けるの? なんだっけ、ものをちょっと吸い寄せるんだっけ?」「うん、まあ……が、頑張れよ」

 

 教師さえも苦笑い。出久の憧れた笑みとはほど遠い笑みだ。

 

「雄英受けるなデク」

 

 放課後に同じクラスの勝己が言った。

 

「ーーそんなヒーローに就きてんなら効率いい方法があるぜ。

 来世はもっといい個性が宿ると信じて……屋上からのワンチャンダイブ!!」

 

「ーーそれだ!」

 

 出久は飛んだ。効率がいいかは知らないが、信じることだけは昔から得意だった。

 

 

 05

 

 彼の個性は『火を吹く』個性だった。

 

 父から遺伝された個性だ。

 

 

 その日、教室内は微妙な空気に支配された。

 

「えぇ……、あいつも雄英受けるの? なんだっけ、火を吹くんだっけ?」「敵の攻撃方法みたい」「木偶だから自分も燃えるんじゃ……」

 

 教師さえも苦笑い。出久の憧れた笑みとはほど遠い笑みだ。

 

「雄英受けるなデク」

 

 放課後に同じクラスの勝己が言った。

 

「ーーそんなヒーローに就きてんなら効率いい方法があるぜ。

 来世はもっといい個性が宿ると信じて……屋上からのワンチャンダイブ!!」

 

「ーーそれだ!」

 

 出久は飛んだ。諦めきれない想いは、藁をも掴む。

 

 

 06

 

 彼の個性は『水を吐く』個性であった。

 

 父から遺伝された個性が変異したものだ。火とは対極の水。ここまでの変化も珍しい。

 

 

 その日、教室内は微妙な空気に支配された。

 

「えぇ……、あいつも雄英受けるの? なんだっけ、水を吐くんだっけ?」「水のない場所でこれほどの水遁を……」「でもたいした勢いじゃないしゲロと変わんないよな」

 

 教師さえも苦笑い。出久の憧れた笑みとはほど遠い笑みだ。

 

「雄英受けるなデク」

 

 放課後に同じクラスの勝己が言った。

 

「ーーそんなヒーローに就きてんなら効率いい方法があるぜ。

 来世はもっといい個性が宿ると信じて……屋上からのワンチャンダイブ!!」

 

「ーーそれだ!」

 

 出久は飛んだ。未来を信じて、Plus Ultra(その先へ)

 

 

 07

 

 彼の個性は『ちょっとしたものをひきつけ、遠ざける』個性であった。

 

 母から遺伝された個性が変異したものだ。ひきつけ、遠ざける。ちょっとしたサイコキネシスだ。

 

 

 その日、教室内は微妙な空気に支配された。

 

「えぇ……、あいつも雄英受けるの? なんだっけ、ものをひきよせたり弾いたり?」「磁石みたいな」「でも石ころとか本当にちょっとしたものなんだよなぁ、範囲も半径1mないし」

 

 教師さえも苦笑い。出久の憧れた笑みとはほど遠い笑みだ。

 

「雄英受けるなデク」

 

 放課後に同じクラスの勝己が言った。

 

「ーーそんなヒーローに就きてんなら効率いい方法があるぜ。

 来世はもっといい個性が宿ると信じて……屋上からのワンチャンダイブ!!」

 

「ーーそれだ!」

 

 出久は飛んだ。個性でノートを足の裏に引き寄せ遠ざけを繰り返すと何歩か先へ進めた。

 

 

 08

 

 彼の個性は『火を吹き纏う』個性であった。

 

 父の『火を吹く』個性と母の『ひきつける』個性が交わった個性だ。緑色ーー森や木々を連想させるカラーリングから纏う火炎は先入観をぶち壊す強力な個性だ。

 

 親友の勝己とは同じ、熱を伴う個性としていい好敵手となっている。

 

「出久ゥ! 個性の特訓だ! 付き合え!」

 

「いいよ! 考えていた特訓があるんだ!」

 

 放課後は彼との特訓がもっぱらだ。二人の夢はヒーローになること。二人とも同じヒーローが目標だ。

 

 しかし二人して炎系の個性。過ちはーー起こってしまう。

 

「火事だ!!」

 

 街の人が叫んだ。見る間に火は広がり、街を飲み込んだ。

 続々とヒーローが駆けつけた。中には現代社会の希望にして出久の憧れである張本人のヒーロー、オールマイトの姿であった。皮肉にも、彼が憧れたヒーローとの初対面は彼が起こした事故をきっかけとした。

 

 数々のヒーローの活躍により最悪の事態だけは免れ、多くの人々が救出された。

 しかし街の状態は悲惨で、再興には十年以上かかるだろうとされた。

 

 事件の後、動画サイトに一本の動画が投稿された。それは街を火の海にしたきっかけである少年二人の動画だった。

 ネット掲示板には二人の少年への批判が溢れかえり、名前や住所といった個人情報が上げられた。

 

 警察の取り調べもあり、個性が元の事故と発表された。

 

 しかし民衆は溜飲を下げず、二人を批判した。

 

『事故なら何をしてもいいのか』『子供なら許すのか』『こんなもの(ヴィラン)と変わらない』『自覚のない(ヴィラン)とはやっかいだ』

 

 二人が夢を叶えるのは不可能だった。一つの事故が、少年の夢をふいにする。

 

「かっちゃん……僕、やっぱりヒーローになりたいよ」

 

「あァ!!? てめェ何言ってやがる、こんな状況でなれるか!! 第一助ける相手だって俺らを批判する奴らだぞ!」

 

「それでも……諦めきれないんだ……」

 

「出久……お前……」

 

 何年経とうとも諦めない出久に、勝己は静かに言った。

 

「ーーそんなヒーローに就きてんなら効率いい方法があるぜ。

 来世はもっといい個性が宿ると信じて……屋上からのワンチャンダイブだ」

 

「かっちゃん……!」

 

 そして彼は人知れず、街にある高い塔に足を運んだ。生まれ育ったあの街だ。彼の顔はネット中にばらまかれており、あの事件から数年たち、街が再興真っ只中である今でも人目につけば問題となる。

 ここまでくるのに時間がかかった。しかし建物の頂上に人はいなかった。出久は顔を隠す一切を捨て日に晒す。

 そして見渡すのは、彼が念願のヒーローになった後、人々を助けるはずだった街。

 

 ーー自分が壊してしまった街の、悲惨な光景。

 

 

 出久は飛んだ。憧れたヒーローのように、笑いながら。

 

『超カッコイイヒーローさ。僕も、なれるかなぁ』

 

 いつだったか。母さえも肯定してくれなかったその問いに、青空は頷いてくれた気がした。

 

 

 09

 

 彼は無個性だった。

 

「『没個性』どころか、『無個性』のてめェがあ、何で俺と同じ土俵に立てるんだ!!?」

 

 幼なじみである彼が言った。出久は言い返さなかった。

 

「ーーそんなヒーローに就きてんなら効率いい方法があるぜ。

 来世は個性が宿ると信じて……屋上からのワンチャンダイブ!!」

 

 窓から見下ろしたノートが呼んでいるような気がした。

 

 けれど、同時に、誰かが引き留めたような気がした。

 

 

 将来の夢はヒーローになること。

 

 その大空に踏み出せば、勝己の言うように無限の可能性があるのかもしれない。

 少し違えば火を吹いたり、ものを引き寄せるくらいできたかもしれない。水を吐いたり、物を自在にあやつったり。

 

 妄想するのは簡単だ。もしかすれば今ワンチャンダイブすれば本当に輝かしい未来があるのかもしれない。けれど、今この先の可能性には何があるのだろう。

 

 

 一冊のノートを拾い上げる。

 

 夢にみっともなくしがみついて、やるせなさをごまかすように書き殴った、夢の残骸。

 

 しかしそれはーー夢の結晶。みっともなくとも、現実から逃げた先だとしても、決して諦めることのなかった証。

 もしも可能性が傾けば、報われるかもしれない残骸。

 

 

 ーー彼の夢は、ヒーローになること。

 


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