怪鳥の鳴き声が響き、幾筋もの紅い光の矢がリバウの青空を切り裂いていく。
私は、スピットファイアに搭載されたマーリンエンジンのケツを蹴飛ばすように出力を上げて上昇する。下降して逃げようにも高度が取れておらず、 吐き出す位置エネルギーが欠如していたからだ。
格闘戦でやり合おうとしても、高度がないから位置エネルギーもなく、わたしに扶桑の魔女ほどの技術もない。スピットファイアとエンジンの性能に任せて高度を取り、ダイブして逃げる他に、奴の攻撃から逃げ切る手段が見つからなかった。
ぎし、ぎしとユニットが軋み、乱暴にあつかう私に不平を漏らし、マーリンエンジンは、ばすっ、ばすっ、と咳き込むように炎を吐き出した。エンジンは、私がケツを蹴り上げたことに不満でもあるのだろうか。撃墜されたら元も子もないというのに。
『ジェーン少尉、あと30秒堪えろ』
無線からわたしの名を呼ぶ声が聞こえた。
「っ! 誰?」
何条もの光の矢が私の後ろから飛んでくる。私のウィッチとしての本能が、シールドを展開し、弾く。
『今助ける』
その言葉と同時に、ネウロイのコアが崩壊する音と同時に怪鳥の声が響いた。
「ありがとう、助かったわ。貴女は?」
『黒江』
ぶっきらぼうにそれだけ答えてくれた。
ハッとして、私は下を見る。
私を救ったその魔女は、一言だけそう返事をすると、新たな標的を見つけたのか、見た目ゆったりと静かに、ネウロイの斜め下後方に取り付き、着実にその間合いを詰めていた。
「黒江、さん?」
ゆらゆら揺れる大型ネウロイに合わせて彼女もローリングを繰り返して近づいていき、ここしかないというタイミングを見逃さず、抜いた扶桑刀で一太刀のもと斬り伏せる。 非力な一式戦闘脚隼で。
そうやって撃破しては、また別のネウロイを喰らいにいく。
私は、戦場にいることも忘れてただ見とれ、ゾッとした。
もし、私の救い手が敵だったらと思うと、背筋が凍った。私が撃墜されたネウロイのかわりだったとしても、彼女が迫っていることに気づくことなく、殺されていただろう。
「黒江……黒江綾香扶桑陸軍大尉」
黒江、と名乗った扶桑のウィッチが何者か思い出すのは、ブリタニアのウィッチである私にとっては容易なことだった。
ある人物が、彼女の戦い様を見てこう言ったと聞いたことがある。
魔物である、と。
ネウロイに悟られることなく背後を取り、這い寄って一撃を見舞い撃破する。その恐ろしいマニューバは、魔物そのものだ。
そして、その凛々しい顔は魔物の仮面だと。
扶桑刀で大小構わず片っ端からネウロイを撃墜していく彼女を見て、私もその言葉を肯定した。
魔のクロエ。
誰とはなしにそう呼ばれるようになった彼女だが、私は確信している。
きっと、この激戦地で救われたブリタニアの同胞たちだ。誰かが、彼女を尊敬と感謝と畏怖の混ざった感情でそう言ったのだ。
そして、名付けた同胞は、私と同じくきっとこうも思っただろう。
共に空に在りたい、と。
魔のクロエというあだ名は、こんな感じでつけられていったと想像しています。