「じゃあね、お兄さん。恨むなら、とことんのツキの無かった自分の人生を恨むんだね」
眉間に突き付けられた銃口。それ越しに見えたのは人を撃つという事が日常化した、無感動な目だった。どうして、こうなってしまったのか。今更後悔した所で現実は変わらない。でも、そう思わずにはいられない。脳裏を駆け巡ったのは藤姉のノー天気な笑い顔と桜のどこか陰のある微笑みだった。
「なぁ教えてくれ。俺は何を見てしまったんだ」
苦し紛れの命乞い。正直、こんな事が通用するとは思わなかったが俺に銃口を突き付けた金髪の少年はちょっと目線を外して答えてくれた。
「まぁ、いいか。アイツからは別に制限されてないし、それに死人に口なしって言うしね。良いよ、君が踏み込んでしまった表舞台から消された闇の儀式の話をしてあげる。【聖杯戦争】これがこの争いの名前さ。さ、もういいんじゃない?死ぬ前に疑問は晴れただろ?」
額の銃口がわずかに俺の額を押す。
夜の学校で見てしまった金髪の少年と色黒の男の殺し合い。その場から逃げ去り家に帰った俺を待っていたのは我が物顔で我が家のコーヒーカップでココアを飲む金髪の少年だった。ゆっくりと食卓にコーヒーカップを置いた少年は腰のホルスターから銃を抜きこちらに向け、引き金を引く。すぐにその場から逃げ去った俺は少年の追撃を受け、庭にある蔵に逃げ込んだのだ。しかし、そこでも少年はまるで始めからそこに居たかのように表れ、俺の額に銃口を突き付けたのだった。
「今じゃアメリカと二ホンは同盟国どうしなんだろ?同胞に銃を向けるのはちょっと気になるけど、まぁこれも運命と思って諦めてよ」
終わる。終わってしまう。こんな事で、一つの命が終わってしまう。リフレインしたのは燃え盛る街、そして瓦礫の下で泣き叫ぶ幼い俺。数年前の大災害、多くの罪のない人々の命が一夜にして失われた日。
「・・・死んで、たまるかっ」
暴風。まるで殴られたかのような暴風が蔵に流れ込む。少年は銃口を俺の後ろへ向けて距離を取った。そして風が止むと同時に俺の心臓が強く脈打つのを感じた、それと同時にフッと意識が遠のくのを感じる。後ろ手を付こうと手を出すがその手は力なく折れ、俺の眼は天上を見つめた時だった。
「だらしねぇカッコすんなよ。シャキッとしろ、敵は・・・目の前だぜ」
後ろから声がする。それと同時に重かった体が軽くなる。俺の肩にかかる手を見て、初めて俺は自分が抱きかかえられている事を理解した。スッと降ろされ、俺は俺を抱きかかえていた人物の顔を見た。日に焼けた肌、獣の様な目つき、まるで巨大な獣によって付けられたような大きな古傷、盛り上がった強靭な筋肉、そして両手に持つ不釣り合いなほど大きな2本の大剣。 男は大剣を地面に叩きつける、衝撃と共に床が壊れ大剣の重さを相手に伝える。
「サーヴァント バーサーカー。さぁ殴られたい奴から掛かってきな!」
バーサーカーと名乗った男は声高々にそう叫んだ。
「面倒事ばかり増えるんだね。・・・まっいいか。僕は僕らしくやるだけさ」
少年はホルスターに銃を仕舞うとやれやれと手を広げてその場から消え去った。
「何だ、帰っちまうのか連れねえな。ま、このちんちくりんにはそれでも丁度いいかもな。よろしくなマスター」
男は朗らかに笑いながら俺の背なかをバシバシと叩いてきた。状況がいまいち読めない俺は立ち上がろうと足に力を込める。しかし、フッと力が抜けその場に倒れ、だんだんと意識が不鮮明になっていく。
「こりゃ完全にガス欠だな。俺もアンタもとんだハズレくじを引いちまったな」
意識が完全に途切れる寸前、男がそう言っている事だけが聞こえた。
「いいのか、殺すなら今の内だぞ」
古い日本屋敷を覗き見る一組の男女。女性は真っ赤な上着を羽織、男は真っ黒なレザージャケットを着こんでいる。色黒な男は2丁の銃剣を女に見せつける。女は首を横に振る。
「私達が態々手を下さなくても勝手に自滅するでしょ。バーサーカーって言うのはそういう物よ。見ればマスターも3流だし、時間の問題でしょうね」
「冷血漢を気取るマスターも、中身は年相応だな」
「文句がある訳、アーチャー」
「いや、オレとアンタのパスが通りその手に令呪がある限り、オレは大人しく服従するさ。聖杯に掛ける願いなぞない、オレがアンタを雇い主と認める限り命令通り働いてやろう」
「首尾はどうだ、ガンナー」
燭台に置かれた蝋燭に男はマッチで火を付けフッと火を消す。オレンジ色の穏やかな明かりに照らされ無駄に広い部屋の一部が照らされる。ガンナーと呼ばれた者が姿を現す。
「話が違うじゃないか。僕以外の5人のサーヴァントを探って来いって命令なのに、戦ったのは6人。どう説明するつもりかい?神父さん?」
ガンナーは椅子に座り、カチャカチャと銃の手入れをしながら聞く。
「何事にもイレギュラーは付き物だ。それはエクストラクラスであるガンナー、君自身が一番知っているのではないのかね?それに聖杯戦争に参加するサーヴァントは7人、いつ7人目が召喚されるかは誰にも予測できはしない」
「・・・僕はアンタが嫌いだね」
「奇遇だな、私もだ」
「ふーむ、星々の巡りが変わりましたな。これは良くない流れが来てますぞ。しかし、ここに居る限り吾輩の優利は変わらない。ここは大人しく様子を見ておきましょう。マスターこれが明日のお弁当ですぞ。このキャスターが腕によりをかけた珠玉の一品、ご賞味あれ。デザートにザクロと木苺のジャムもありますぞ」
「全て出そろったみたいね。退屈な争いだけど行きましょ、セイバー」
「あぁ心得た。余が居る限りマスターには揺るがぬ勝利を約束しよう」
「あ、あのライダーさん。お夜食作っておいたんでここに置いときますね」
「いや~かたじけない、かたじけない。しかし美少女の握ったおにぎりとは、格別でござるなぁ!ワカメ殿!」
「うるさい!お前が来てから、日に日に僕の睡眠時間が減ってるんだ!いい加減に霊体化して大人しくするって事を覚えたらどうだ!」
「拙者、遠慮と加減を知らぬ身故(キリッ」
「不義、不徳、私の憎むべき、正すべき物がここにある。しかし、だというのに我が心はまるで滾らぬ。孤立無援、我が槍を共に掲げる友もおらぬ。滅ぼすべき物があり、守るべき物の無い戦いの何と哀れな事か」
神父は燭台の明かりを消す。静寂と月の光が窓から入り込み教会を薄く彩る。神父はガンナーから聞いたバーサーカーのマスターの特徴を思い起こす。忘れもせぬあの日、自分の持てる全てを出して対峙した仇敵の遺産。妄信的に正義を信じ、無意味な自己犠牲を繰り返す哀れな聖者。そう彼の名前は
「衛宮士郎、君はこの残酷な争いで一体何を考える。・・・監督役言峰綺礼の名において、ここに聖杯戦争の開始を宣言する」