日に日に彼への欲望、その歯止めが効かなくなってくる茉子ちゃん
家にいる時も学園にいる時もいつも彼の隣には茉子ちゃんがいる
悪い気はしないし彼女とラブラブなのは願ったり叶ったりだったが、流石に男子トイレにまで平然と着いてきた時は彼も肝を冷やした
悪い冗談は止してくれと彼女に伝えるも、真顔で自分の何処が悪かったのかと聞いてくる――何かがおかしい、彼がそう思った時には既に手遅れだった
日を追う毎に狂い出す彼女、ただ着いてくるだけの行為が次第に過激なスキンシップに変わり、やがて授業中にバイブを入れ少ない休み時間を縫っては性行為を繰り返すという、それまでの彼女からは想像も付かない思考回路に落ちていった
誰かに相談――とも考えたのだが、他の人の前では変わらず生活――少なくとも表面上は、していた為に誰も異変には気付かず話したところでどうにもなる気配は無かった
彼女は次第に狂気に支配されていった
邪魔になる人間へと殺意を向け始めていった、それは彼女の狂気と理性の間を漂い彼女を壊していった
こんなに苦しいのなら、狂気に支配されて何もかもと共に壊れた方がマシ――そう思っていたのに
芳乃様の首元に両手を掛けている自分を見て、自分に絶望する
このまま殺害すれば、晴れて壊れる事が出来苦しみから解放されるはずだった
だからこのままで良かったのだ――それでも、最後の理性が彼女を止めた
幼い頃からずっと側にいてくれた芳乃様、自分が、彼が来るまで殆んどの人生を捧げ暮らしてきた大切な大切な存在
そんな存在を目の前にして、元が優しすぎるくらいに優しい彼女に殺せる訳がなかった
溢れる涙、震える両手――
と、戸が開かれる……今の行為を見られていたのだ、それも彼女の愛す『彼』に
あ……と声にならないか細い声が漏れる、彼は茉子ちゃんの唇にそっと人差し指を当て声を出さない様に、とジェスチャーする
そしてそのまま彼女は引かれるがままに彼に外へと連れ出された
――俺のせい、だよな
彼が優しい、謝る様な声色で語り掛ける
彼女は何も言わなかった、言えなかった、事実その通りなのだが勝手に壊れていったのは自分だ、だから否定したい気持ちとでグチャグチャに絡み合い、結果沈黙となった
――もう、元には戻れないんだな?
彼女は今度こそ、首を縦に振った
芳乃を手に掛けかけた自分に、今更善道に戻れる訳が無かった
――これからどうするの?
彼は、これから言う事の答えを知っているのだろう
優しく彼女微笑みかける
彼女は言うかどうか戸惑う、それは彼を巻き込む事になるからだ
それでも、彼女には彼しかいなかったのだ
彼がいない場所には逝きたくない、しかし自分に残された道は一つしか無い
懇願する様に、助けを求める様に、彼を見る
――仕方ないなあ……茉子を一人何処かに逝かせるのは、俺としては嫌だしね
諦めた様に彼は笑う
彼女は申し訳なさそうに笑う
そんな彼女に、彼は頭を撫でる
――俺の意志で逝くんだ、この諦めは茉子に生きる道を捨てさせてしまった俺へだ――死ぬのは本望に決まってる
その時の彼女の表情は、月明かりに隠されて見えなかった
夜の町に、二人は消えた
その後見つかった二人の亡骸は、それは幸せそうに寄り添っていたと言う