俺はおっぱいが好きです。
もう一度言います。
俺はおっぱいが大好きです。
いえ正直おっぱい以外どうでもいいとすら思っています。
ある日、俺のそのおっぱいに関する迸るパトスを深夜二時のテンションでママンに熱く語ったところママンから「あんたいつまでヒキニートしてるつもりなの? 幼馴染のお向かいのさとし君、来週結婚するらしいわよ? 何あんた? 社会のゴミ?」と言われたのでおっぱい以外どうでもいい俺はその日、枕を涙で濡らす夜を過ごしました。
しかしおっぱいが好きだと言った俺ですが、実は『モンスターハンター』というゲームも好きなのです。
モンハンさえあればご飯三杯はいけるくらいモンハンは俺にとっておかずです。
ある日、俺の最愛なるママンに「あんたおっぱいとモンハンどっちのほうが好きなの?」と聞かれたので「どっちも揉みたい」と答えたら俺の『モンハンエロ同人誌コレクション』が全部ママンの手によって『ガチムチマッチョレスラー写真集』にすり替えられました。
そんな人生に絶望したところから俺の運命の歯車は狂いだしたのだと思います。
いや正確にはそれが絶望のきっかけではありませんでした。
きっかけはもっと些細な部分。
それは俺の人生の生きがいが肉体の追求者達になったその夜に俺の唯一の理解者であるパパンにその旨を伝えたところ、パパンから『幼女物』の素晴らしさを刻々と告げられたのち一部始終を見ていたママンがパパンを連れ去ったあたりからなのでした。
その後パパンが返ってくることはなかったのです。
――狂っている。
己の呪われた運命を悟り、そして俺は逃げ出しました。
俺に力があれば。
力さえあればあんな犠牲を出さずに済んだというのに。
あの怪物に負けないだけの力があれば守れたというのに。
今までの思い出が走馬灯のように駆け巡ります。
ですがいくら悔いたところでもう帰ってくることはありません。
なぜならばあのコレクションの中には限定版もあったからです。
もう取り返すことはできません。
自分が弱いばかりに……。
『――……!!』
己の無力に吠えました。
正直パパンとかどうでもよかったです。
おっぱいがあればそれでよかったのです。
なぜ神は俺にこんな残酷な仕打ちをするのでしょう。
俺が一体何をしたというのでしょう。
そう天に疑問を投げかけたとき、その答えであるかのようなまぶしい光とブレーキ音が衝撃とともに俺を襲いました。
トラックでした。
おっぱいではなくトラックでした。
俺はトラックに轢かれたのです。
意識が薄れゆく中そのトラックに『美脚こそ至高』と書かれているのが目に入り、おそらく俺と神は相容れないのだろうと悟りました。
ああ俺は死ぬのか。
死にゆく俺にも一つだけ悔いがありました。
悔いがあるとすればそう……。
おっぱいの中で死にたかった……。
そう思いながら俺は絶命したのでした。
めでたしめでたし。
***
ジンオウガになっていました。
いろいろあったけどとりあえず俺は今ジンオウガになっていました。
これが俗にいう転生というものなのでしょう。
転生する前になんか神様(笑)みたいなのがいたので開口一番に「や ら な い か ?」と紳士的に質問してみたら鼻で笑われ「短小童貞には興味がない」と言われたので黙ってお話に耳を傾けることにしました。
その神様みたいなの曰く俺をジンオウガに転生させてくれるというのです。
ジンオウガは雷狼竜と呼ばれるよう狼で確かに俺は男で男はみな狼ではありますが「なぜにジンオウガ?」と素朴な質問をしてみると「お前ジンオウガ同様他者の力借りないと生きられないヒキニートだろ? 童貞だから自家発電得意だろ? あとはわかるな?」と言われ正直なんかジンオウガにシンパシーを感じました。
それと同時にジンオウガが嫌いになりました。そうです同族嫌悪です。
転生オプションとして今まで自家発電しただけの蓄電量を秘めたジンオウガにしてくれるそうです。神様みたいなの曰く俺は今まで類を見ないだけの最強のジンオウガになれる可能性を秘めているそうです。金雷公以上だそうです。それほどまでの自家発電での蓄電量があるそうなのです。
正直死にたくなりました。
タコ殴りです。
俺のライフポイントはとっくにゼロです。
そんなこんなでボキュは今ジンオウガです。
ここはどうやらゲーム内で「禁足地」と呼ばれている場所なのでしょう。
正式名称は知りません。
そんなことよりもこの場所におっぱいがないことが問題なのです。
これは大問題です。
俺はこんな何もないところで何を生きがいに生きていけばいいのでしょう?
転生といえばハーレムが基本です。
こんなところではハーレムなんて作れません。
そもそもこのジンオウガの体でハーレムなんて果たして可能なのでしょうか?
己の前足をじっと見ます。
この体では自家発電もできません。
雷を扱うモンスターにもかかわらず自家発電ができないのです。
何なのでしょうこの不憫な体は。
転生はやり直し願望の塊でハーレムはモテ願望の象徴らしいですがこれでは両方無理ではないでしょうか。
あの神様みたいなのもどうせなら俺をイケメンに転生させて異次元転生チーレムにしてくれればよかったのにと強く思います。
「――……!!」
吠えました。
『モテたい……。モテたい……』とジンオウガの姿で力の限り吠えました。
どこかの誰かが『ワンワンお』と言ったような気がしました。
負け犬の遠吠えだと言いました。
ですが我々の業界ではそれはご褒美なのです。
罵倒はおいしいです。
そんな時でした俺の前にハンターが現れたのは。
何をしに来たのでしょう?
こんな何もないところに一体ハンターが何の用があるのでしょう?
いえ。わかっていたのです。
自分がジンオウガの姿である以上それは避けられないものだとわかっていました。
正直勝てる気がしませんでした。
だってあいつら背中に阿保みたいにでかい剣を担いでいるのですから。
自分が今ジンオウガだからとはいえあんなので切り付けられれば血が出ますし当然痛いです。
包丁で指を切るのとはわけが違います。
ここは穏便に話し合いで済ませないかと提案するにも人語を発すことは今のこの体ではできません。
万事休すです。
俺はこのまま一度もおっぱいを拝むことなく朽ちてしまうのかもしれません。
拝啓。
さよならママン。
あなたの息子は童貞を守り抜きました。
その成果で無事雷属性の魔法使いに転職できましたがそれもここまでのようです。
牛さんのおっぱいで興奮してきた親不孝な息子をどうかお許しください。
――敬具。
***
楽勝でした。
正直、お話にもなりませんでした。
蓄電殻に蓄えた電量が多すぎるせいでハンターどもはまともに攻撃することすらできていませんでした。
去り際にハンターが言った「あんなに蓄電したジンオウガなんて見たことがねぇ!!」「一体どうすればあんな量の雷を蓄えられるんだ!!」という捨て台詞が一番効きました。
どうやって手に入れたかって?
自 家 発 電 で す が ?
しかしどうやら俺のジンオウガとしての力は本物のようです。
これが俗にいう「俺Tueeeee!!」というものなのでしょう。
まだ電気を飛ばす方法とか全然わかっていないこの状態でも棒立ちしているだけでハンターたちは手も足も出ていなかったのです。これで更にジンオウガとしての色々を身に着けていけば敵なしになるのではないのでしょうか?
ですが油断は禁物。
先ほどのハンターたちが特別弱かったという可能性もあります。
それにあのハンター(笑)達はみな剣士。
ガンナータイプの遠距離部隊が攻めてきたら太刀打ちできないかもしれません。
俺に今必要なのはジンオウガとしての技術。そうイメージトレーニングです。
イメトレは得意中の得意、伊達に夜な夜な想像力を培ってきていません。
お茶の子さいさいです。
もしかしたらジンオウガになる条件はそこら辺にあるかもしれません。
なんかジンオウガのイメージがだんだん悪くなってきている気がします。
でも気にしません。
なぜなら今は俺こそがジンオウガだからです。
そうですおっぱい好きはみなジンオウガになりえるのです。
恥ずかしいことなんて何もありません。
そうと決まれば特訓です。
と活き込んだところをその腰を折るように再びハンターが現れました。
しかし今度はどうやら一人のご様子。
しかも先ほどのハンターたちと同じ剣士。
違う点があるとすればそれは性別が女だという点。
そう、この荒れた大地に一輪の花が咲いたのです。
淑女をもてなすのは紳士の務め。
人語が話せればいつもならここで「いいおっぱおですねwww どこ産ですかwww」というこじゃれたセクハラをかますところなのですが残念ながらこのジンオウガの体ではそれもできません。
しかしそもそもこの女ハンターはまな板だったのです。
何がとは言いませんが絶壁だったのです。
仕方ありません。そういうこともあります。
成長途中なのかもしれませんし、ここは将来に期待するべきなのだと思うのです。
いえ、何がとは言いませんが。
ジンオウガは大きい小さいで個人を差別することなんて決してしないのです。
ほかのジンオウガは知りませんが少なくとも俺はそんなジンオウガになりたいと思っています。
いえ、本当に何がとは言いませんが。
そうと決まれば早々におかえりいただくほかないというわけですね。
さようなら俺のオアシス、願わくば大きくなったその姿をいつかまた見せに来ておくれとそう願いながら俺は駆け出したのでした。
とすぐに片が付くと踏んでいたのですがこれがなかなか強かったのですこの女ハンター。
それでも正直この体で負ける気はしませんでしたが先ほどのハンター集団よりもよほどこの女ハンター一人のほうが手ごわかったのです。
しかし手ごわいといってもそれはあくまで先ほどのハンターたちと比べてというだけの話。
外殻に剣が触れるたび蓄えられた雷が彼女の体を痛めつけていく姿にさすがの俺も罪悪感にさいなまれました。
ですがこればかりは自分でもどうこうできる問題ではありません。
悪いのは過去の自分です。
過去の自分がここまで発電行為を繰り返したのが悪いのです。
ですがどうして過去の俺を責めることができましょうか。
いいえ責めることなんてできません。
彼もその日その日を精一杯生きていたのです。
世間体という荒波にくじけることなく彼は一日としてメンテナンスを怠ったことなかったのです。
それは称賛に値する行為であり、卑下にするべきではないものなのです。
その行為と今、目の前にいるこのハンターの勇士、一体何が違うというのでしょう。
そうです、全然違うのです。
雲 泥 の 差 で す 。
そうこうしている間にも目の前のハンターは虫の息。
さすがの彼女もこの禁足地から立ち去ります。
正直やりすぎたのではないかと不安になります。
俺自身は特に何もしてはいませんが何もしなくても彼らは手も足も出ないのです。
最後のほうではもう感電させないがために攻撃をよけ続けた始末。
うすうす感じていたのですがどうやらこの体は加減というものができない様子。
いやそもそもチートとはそういうもの。
こういう結果になるのは当然といえば当然です。
本当に俺はこの体で何を生きがいに生きていけばいいのでしょう。
とりあえずエロい装備着たお姉さんハンターが来るまで頑張ろうと思いました。
キリン装備を考えた人は多分神様です。
しかし男キリン装備てめぇは駄目だ。
***
おっぱいが来ました。
いや間違いました。
この間来た男剣士ハンター集団がまた来ました。
しかし今回は剣士ではなく皆ガンナー。
前回の反省を糧にどうやら今度は遠距離で近づかない戦法で来たみたいです。
捻りのない単純志向の戦法です。
しかしそれが一番俺に効果覿面である戦略であるのは確かなのですから馬鹿にはできないものです。
と思っていたのは過去の話。
そもそもジンオウガはゲームシステム上弾肉質は強固。
ガンナーでのジンオウガ狩猟は相性が悪いのです。
つまり結果だけを言えば奴らはまたしてもクソ雑魚ワロタのかませ犬でした。
これは本格的に自分の強さがチート級であることが裏付けらただけでした。
今回の戦いでも俺は特にジンオウガらしいことは何一つしていません。
さすがに今回は棒立ちしていたらただの的になるだけなので禁足地内を走り回りました。
ただそれだけで彼らは戦意を喪失して逃げ出しました。
強い。強すぎます。
駆け引きもクソもあったものじゃありません。
こちらはただじゃれているだけであちらはそれだけで恐怖し慄き逃げ出していくのです。
実に不毛です。
わかりません。
どうしてあの神様みたいなのは俺にこんなことをさせるのでしょう?
思えば特に理由などは教えてくれてはいませんでした。
いえそもそも本当に理由があるのでしょうか。
今となってはそれすらもわかりません。
そうこうしている間にまたしても来客がありました。
今度はあの女ハンターでした。
ですがこちらは前回と変わらず剣士装備のまま。
いえ前回と違い、防具が変わっていました。
防具がフルフル装備になっています。
ただビート板はビート板のままでした。
何がとは言いませんが。
雷耐性を上げてきたのでしょう。
こちらも捻りがありません。
捻り具合でいえばまだあの男ハンター集団の方がまだ現実的だったかとすら思えます。
前回の戦いからの教訓があまりないような気がします。
まあいいでしょう。
それならそれでまたお帰りいただくだけです。
感電対策としては脆弱、そう思っていました。
そう、彼女が俺を踏み台に空中に飛び上がるまでは。
これがどういう意味か分からないわけがありません。
それと同時にこの子はバカなんじゃないかと思わざるいえませんでした。
どういう思考をもってすれば触るだけで感電を誘発する相手に『乗って戦おう』という思考に行き着くのでしょう?
確かに密着すれば攻撃頻度は大幅に上げられます。
そのための雷耐性だとしてまともな思考回路とは思えません。
突然のことでせっかくの背中に当たるふくらみを堪能する余裕もありませんでした。
このままでは彼女は感電死してしまうかもしれません。そんな気持ちで一心不乱に暴れます。
そんな俺の思考とは裏腹に彼女は粘ってしがみついてきます。
俺の背中にナイフが突き立てられます。
当然です相手は俺を狩るために来ているのですから。
多分俺の方は殺そうと思えば簡単に殺せるのだと思います。
それができないのは俺が元人間だからなのでしょう。
そんな倫理的思考がこんな中途半端な存在を作っているのかもしれません。
ただその中途半端な俺でもわかります。
この女ハンターの戦い方は危険です。
倫理観の通用しない存在はとても危なげで刹那的なのです。
こんな戦い方をしていればいつか彼女は死んでしまうでしょう。
もしかしたら俺がその引導を渡してしまうかもしれません。
その前に終わらせるべきなのだと思います。
激しさを増す俺の挙動にとうとう荒れた地面に打ち捨てられる女ハンターでした。
戦意を喪失させれるのは容易です。
方法はいろいろあります。
右腕を折ればいいです。左腕を焼くもいいです。右脚を潰すのもいいです。左脚を砕くもいいです。
今の俺にはすべて片手でできます。
ただ……。
それができないからこそ俺は中途半端などっちつかずな元人間なのだとも思います。
感電による意識消失をした女ハンターは身を覚ますその時まで禁足地の大地に眠り続けました。
考えます。
転生とは一体何なのでしょう?
強すぎる力に何の意味があるのでしょう?
人間がモンスターになったからと言って共存するべきだったのでしょうか?
俺はこの化け物の姿で何をするべきなのでしょうか?
誰か教えてください。
***
エロスが足りません。
勘違いしている人がいるかもしれませんがエロスとは「愛」という意味です。
ですが俺が今欲しいの愛ではなく世間一般認識のエロスの方です。
勘違いしないでください。
それはそうと自分の体について分かったことがありました。
どうやらこのジンオウガの体に蓄積された雷は使うだけで再びの充電はできないみたいです。
つまり人間時代に蓄電した分を使い切れば俺は普通のジンオウガと何ら変わらない個体になるのではないのだろうかという自己見解です。
そう考えると思ったほど自分のこの体がチートではないのだなと思いました。
このままいけば俺はいつかは確実に誰かに狩猟されるでしょうと漠然に考えてもいます。
そうでなくともこんな中途半端な生き物が長生き出来るとも思っていません。
ただそれでいいのだと思います。
強すぎると言うのは虚しいものです。
伊達にヒキニートをやっている俺ではありません。
どんなゲームも極めてしまえば不毛です。
それが不当な方法で手にした力ならなおのこと。
改造して手に入れた力は確かに万能感を与えてくれます。
優越感を与えてくれるでしょう。
ですがそれは一過性でしかなく、必ず虚無感に苛まれます。
ゲームならばそれでもいいのだと思います。
止めれば良いのですから。
止めて違うゲームをすればいいのですから。
俺はどうすればいいのでしょう?
この投げ出すことの出来ない転生チートと言う名のゲームをどう生きて行けばいいのでしょう?
いっそのこと純粋にジンオウガとして生きて行くのもいいかもしれません。
この禁足地から外に出ればそんな生活だって出来るのだと思います。
あの神様みたいなのもそこら辺のことを見透かした上でのこの配慮なのだろうと漠然と考えました。
見透かした上で俺に選択肢を提示しているのでしょう。
このままこの禁足地で中途半端な存在として朽ち果てるかそれとも人間を捨てジンオウガとして生きるか。
そんな選択肢を突き付けているのだと思います。
どちらが正しいのでしょう?
いえ答えなんてないのだと思います。
あったとしてもそれこそ神のみぞ知るといったところなのだとも思います。
さんざん自問自答を繰り返してきたわけですが大事なことはもっと違うところにあります。
ただ単純に自分自身がどうしたいのかという部分です。
自分自身この命にどんな未練があるのでしょう。
この神の悪戯ともいうべき状況に一体何を望んでいるのでしょう。
今現在ゼクス装備を着た女ハンターと対峙しながらそんなことを考えています。
彼女はまたしても雷耐性の高い装備を身に着けて現れました。
おそらく前回の装備も今回の装備も俺を狩るために作成してきているのだろうと思います。
彼女の手ごわさが回を重ねるごとに増していることがそのことの裏付けになっていることでしょう。
この女ハンターと対峙している今俺はいったい何を思い何を望んでいるのでしょう。
少なくとも彼女が死ぬことを望んでいないのは確かです。
ですがそれだけです。
それ以外の望みがありません。
その先が想像できていないという言い方のほうが正しいかもしれません。
彼女の武器が俺の外殻を貫き鮮血が吹きました。
やはり包丁で切るとはわけが違う痛みが体の神経を駆け巡ります。
このまま繰り返し繰り返し彼女と戦い続ければ俺はいつか死ぬでしょう。
それが嫌なら彼女を攻撃すればいいです、そうすれば狩られることはひとまずないはずです。
この莫大な蓄電量をもってした攻撃を浴びせれば難なく可能ではあります。
ですが一度その一線を越してしまえば俺はもう彼らを殺すことでしか命を長らえることができない存在になってしまいます。
だからこそ、彼女らを殺すことを望んではいません。
そして愚かにも、その先のことを全く想像ができていないわけです。
このまま続ければ、いつか彼らと共存できる道が拓けるのでしょうか?
それは果たして努力次第で獲得できるものなのでしょうか?
ここまで考えて自分の考えというものに気が付いたのかもしれません。
おそらく俺は人間でありたいのだと思います。
姿形がこんな化け物のなりでも最後まで人間のままで死にたいのだと思います。
「――……!!」
だからこそ叫びます。
人語にならない獣の雄たけびで人間でありたいという気持ちを叫びます。
目の前の彼女に贈る人間である俺の言葉。
――もっと露出のある装備着て来いや。
と心の底から届かぬ思いを乗せて……。
***
おっぱいってなんでしたっけ?
ある日俺の尊厳を失いそうな疑問が脳裏をよぎりました。
あの男ハンターどもがまたしても現れましたが正直それどころではなかったのです。
それほどまでの日にちをこの転生先で過ごしたということにもなりますが、これは己のアイデンティティ崩壊の危機です。
帰ってくれないだろうかと思いました。
ですがそうは問屋が卸さないこともわかっています。
彼らの格好に目を向けると彼らはジンオウガ装備を身にまとっていました。
さらに剣士とガンナーとに分かれての遠距離近距離という役割分担をとった陣形で現れたのです。
ああ、彼らも本気で俺を狩るための隊列を組んできたようです。
漠然と負けるかもしれないと思いました。
蓄電量は明らかに減ってきています。前みたいに触れただけで感電するような雷は俺の蓄電殻にはもうありません。
ここからは俺はひたすら弱体化の一途を辿るだけの運命です。
もしもこの彼らとの戦いに勝ったとしても近い将来俺は狩られることになるでしょう。
わかっていたことでしたし、覚悟していたことでした。
それがより現実的に目の前に現れたというだけの話です。
もしかしたらここが年貢の納め時なのかもしれません。
ここからはその最後が早いか遅いかの差しかないのです。
何をこだわることがあるのでしょう。
痛いでしょうね。
怖いのでしょうね。
辛くてたまらないでしょう。
それらを受け入れる覚悟があるといえば嘘になると思います。
でも仕方がないことです。
自分で選んだ結末です。
ジンオウガとして生きる道を選ばなかった俺の結果です。
戦う前から俺の体はそれなりに傷だらけです。
あの女ハンターにつけられた傷が響きます。
思えば転生したのにも関わらず死ぬのを待つだけとは笑い話にもならない滑稽な話ではないでしょうか。
死ぬ理由は自分で作りました。
死ぬ場所も自分で選びました。
死ぬタイミングは流れに任せます。
それでいいのです。
なしたいことがあったわけではありません。
憧れがあったわけでもありません。
拘りがあったわけでもないのです。
後悔はありません。
今日で終わりです。
「…………」
本当に後悔がないのでしょうか?
何か忘れているような気がします。
とても大事なことだったはずです。
なんでしょうこのモヤモヤする気持ちは?
本当にこれで終わらせていいのでしょうか?
ボウガンの弾が体に突き刺さります。
武器の刃が俺の甲殻に打ち付けられる音が聞こえます。
痛いです。血が出ます。
なんですかこの納得できない結末は?
いえ、何が納得できないのかそれすらもわかりません。
なぜでしょう。
負けたくないと思っている自分がいます。
こいつらには狩られるわけにはいかないと叫ぶ自分がいます。
なぜでしょう?
なぜ、あの女ハンターのことが頭をよぎるのでしょう?
印象の問題でしょうか。
たった一人で戦い続けたのは確かです。
無謀に感電を恐れず乗りを狙ってきた雄姿も。
俺を倒すためだけに装備を変えながら挑み続けた姿も。
彼女の努力は無駄だったのでしょうか?
いえ、それを言えばこの男ハンターたちだって幾度となく俺に挑み続けています。
彼らだって努力しています。
それでも心の奥の俺が叫びます「彼らではない」と「まだその時ではない」と。
訴えてくるのです。
徹甲榴弾が顔面で炸裂しました。
爆風で視界がゆがみます。
体勢を崩したその瞬間を畳みかけるように彼らの凶刃が体に傷を刻み付けてきます。
彼らではない。
死ぬ理由は自分で作りました。
死ぬ場所は自分で選びました。
死ぬタイミングは流れに任せるつもりでした。
ですが、ここじゃないのです。
俺が死ぬべきはここではないのです。
――俺は彼女に狩られたい。
まだ死ねないのです。
「――……ッ!!」
獣の雄たけびを上げました。
ただただ生きるために。
果たして、どれだけの時間がたったのでしょう。
目を覚ますと目の前に女ハンターがいました。
彼女はキリン装備を身に纏っていました。
そうです、夢にまで見たキリン装備です。
あの装備なら彼女の控えめな魅力もむしろ際立ちます。
俺の体はすでにボロボロの虫の息。
甲殻は剥がれ落ち、蓄電殻は亀裂にまみれ、帯電毛は血で黒く固まり、四肢の爪は砕けてしまっています。
ジンオウガとしての見る影もありません。
これでは恐らくまともに戦えないと思います。
いえ、これでいいのでしょう。
もう戦う気はないのですから。
あとはもう引導を渡してもらうだけ。
のはずでした。
何やら声が聞こえます。
言い合いをしているような罵声にも似た声です。
俺の聴覚はすでに戦いの後遺症でろくに音の聞きわけができなくなっていました。
何を言い合っているのか内容がわかりません。
そこで気が付くのです。
言い合いをしているということは彼女が一人ではないのだと。
この場に他に人がいるのだと。
目がかすんでいます。
ろくに前が見えません。微かに見えるのは女ハンターの後ろ姿。
ただその時でした。
――……!!
乾いた発砲音が聞こえてきたのです。
その音と同時に女ハンターの体が宙に浮く姿が視界に入ったのです。
何が起こったのでしょう?
この禁足地で一体何が起きているのでしょう。
その答えがすぐさま目の前に現れたことで理解が追いつきました。
今まで見たことのないハンターたちがこの禁足地内に出現したのでした。
あの男ハンターたちでもなく、女ハンターの仲間でもない第三団体が現れたのです。
こんなところにいったい何の用でしょう?
なんてことを考えるほど愚かではありません。
漁夫の利。
そんな言葉が脳裏に浮かびます。
この禁足地には瀕死寸前のジンオウガが一匹います。
それだけで理由は十分でしょう。
彼女は?
女ハンターはどうなったのでしょう?
音からしてボウガンで撃たれたのではないだろうかと考えます。
狩猟につかう武器を人に向けるのは違法行為です。
ギルドナイトの粛清対象になります。
ですがそれも証言者がいなければ闇に葬られます。
生きているのですか?
まだ生きているのですか?
そんな言葉で頭が埋まります。
いえ、生きていたとしても先ほども述べたように彼らの行為は違法行為。
どのみち口封じされるでしょう。
笑っていました。
違法者どもは面白そうに笑っていました。
何と言って笑っていたのでしょうか?
ああ、なんて楽な仕事だ?
必死になって戦うなんて馬鹿らしい?
馬鹿は死んでも治らない?
賢いやつが得する世界?
ご苦労様?
何と言って笑っているのですか?
すみません聞こえません。
もっと大きな声で笑っていただけませんか?
気が付くと俺は禁足地の荒れ地にその丸太のような四肢を踏みしめていました。
もっと大きな声で笑ってください。
聞こえないんです。
大地が震えました。
空気が振動しました。
怒号が轟きました。
気が付けば俺は一人の違法者の腹部に角を突き立てておりました。
血液の混じった悲鳴が聞こえたような気がします。
違います、俺が聞きたいのはあなたたちの笑い声です。
笑ってください。
砕けた蓄電殻が青白く発光しました。
俺の体から放たれた雷光が一人の違法者の体を焼き焦がしました。
笑ってくださいよ。
違法者がガンランスを突き上げます。
同時に銃口から放たれた爆発が俺の体を焼きました。
爆炎の中から雷を帯びた前足を違法者の頭上から無慈悲に振り下ろします。
地面に赤色の体液が散りました。
笑えよ。
ボウガンの弾が体を突き抜けていきます。
構わず一歩一歩と前進します。
ボウガンを投げ捨て逃走を図る違法者の背後めがけ己の鋭利な尾を薙ぎます。
言語とも取れない声を上げながら吹き飛ばされる違法者。
まだ息がありました。
戦意を喪失させる方法はいくらでもあります。
右腕を折るもいいです。左腕を焼くもいいです。右脚を潰すもいいです。左脚を砕くもいいです。腹部を突き破るもいいです。胸部を抉るもいいです。
――頭部を捥ぐもいいです。
今の俺にはすべて容易にできます。
それができる今の俺はこの時初めて……。
――『雷狼竜』になったのだと思います。
一つの影が立っていました。
キリン装備を己の血で赤く染めた女ハンターが立っていたのです。
彼女は武器を構えていました。
今までと変わることなく勇敢にも俺に武器を向けていました。
そう。
それでいいのです。
あなたと俺の関係はそれで正しいのです。
あなたはハンター、俺は雷狼竜。
狩る側と狩られる側。
ただのそれだけの関係です。
共存する道などありません。
こんなことを言うのはおかしいかもしれませんが、俺はあなたに狩られたかったのです。
武器を向けてくれてうれしかった。
――……!!
吠えました。
雷狼竜の声で人間の言葉を乗せて。
『ありがとう』
***
けだるい瞼を開けると女ハンターが泣いていました。
まるで子供のように。
何故泣いているのでしょう?
何故俺の頭を抱きながら泣いているのですか?
あなたは正しいことをしただけだというのに。
あなたは一匹の雷狼竜というモンスターを狩っただけではないですか。
泣き止んでください。
そんな涙を見せないでください。
もっとほかの道があったのではないかと思ってしまうではないですか。
俺は今幸せなのです。
後悔なんてしていないのです。
あの時忘れていたことも思い出せたのですから。
俺自身この結末には納得しているのです。
だってそうでしょう?
人間のころ死ぬ間際に願ったことが叶ったのですから。
俺はもう満足です。
あなたのおっぱいの中で死ねた俺は十分――幸せ者でした。
ありがとう。
そして、さようなら。
こうして、ある日の雷狼竜は今後二度と目を覚ますことはありませんでした。
***
目を覚ますとまた神様みたいなのがいました。
なんで俺にこんなことをさせたのかと聞いてみると「手違いで殺しちゃったからそのお詫び」だと答えてくれました。
俺はただただ「そうですか」と返しました。
その返事に対し「雰囲気変わったねぇ」と言われました。
からかわれているのだと思います。
神様みたいなのは「今度は同じ世界に人間で転生させてあげようか?」と言ってきました。
なんとなくそう言われるような気がしていました。
だからこそ迷うことなく「いいえ結構です。転生なんてもうこりごりですので」と言い放ちました。
これは紛うことなき本心です。
「そう」と楽しそうに俺に笑いかけた後「じゃあ、あちらが輪廻の扉になりますのでお入りください」となぜか事務的に道を示されました。
扉に向かいながら何気なしに「俺の次の輪廻先は何ですか?」と質問してみました。
その質問に心底面白そうに神様みたいなのはこう答えてくれました。
「『白いワンワンお』」
-おわり-
仏教において「白い犬」は次の輪廻で人間に生まれ変わるといわれています。
というわけで。
はい。
『ある日の青年は雷狼竜に』を読んでくださりありがとうございます。
どうもはじめましての方は初めまして、四十三です。
この短編を書くにあたってのコンセプトが「転生嫌いでも楽しめる転生チート」という内容で仕上げたつもりです。
一応……。
楽しめたのであれば幸いですし、楽しめなかったのならば私の力不足で申し訳ありません。
私の別作品「モンハン商人の日常」とはまた違ったタイプの笑いを入れてありますので冒頭はたぶん好き嫌いが分かれる出だしになってしまっていたと思います。
ちゃっかり宣伝です。
気にしないでください。
気になった人は読んでみてね。
私自身転生作品はあまり好きではないのでそんな人にも楽しめる作品を書きたいなと思い書き始めた本作品ではありますが思いのほか長くなってしまった感があります。
ただもう十分です。
もう転生作品は書きません。
あとハーレムも嫌いなので今度書くなら「ハーレム嫌いでも楽しめるハーレム作品」を書くかもしれません。
というわけで楽しんでいただけたならば幸いでしたみたいな感じです。
感想とか批判とかありましたらどうぞバシバシお願いします。
ではでは、またどこかで会うまで('ω')ノ