これは私と、私の娘たちがここで生きていくためのお話し。

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あなたの世界を救う人

――君たちが今後、苦しみどうしようもない壁に立たされることがあろうとも。

 

 まず、少し昔の話をしよう。

 私がこの幻想郷に生れ落ちて37年。私の家系は道具店、私もそれを引き継いで店主となった。今では愛すべき妻がいて、最愛の娘がいて、この殺伐とした幻想郷の中で、それでも幸せというものをかみ締めることができるようになってきた。

 私の天地をひっくり返してもそれ以上愛を向けられない天使。マイエンジェル魔理沙ちゃんが魔女になるとかいう何かトチ狂ったことを言い出したのは彼女が十三歳の頃だった。確かに驚きはしたが彼女もお年頃だ。私もその頃には勇者がどうたらだの、世界征服がなんたらだのいきりたったものだった。昔の御伽噺に憧れ、何かしらの物々しい名前の技名を叫び、自分の信じる正義や悪に傾倒してしまうのもおかしくはない。私の女神にもそんな時期が来たかと遠い眼をしたものだ。

 しかし、それはいうなればお約束のようなもので、いつしか自分の持った力の限界に気づいて、当たり前のようにこの今の現状に落ち着くものだと楽観していた。

 この幻想郷には魔法が存在する。外の世界ではいないとされてきた幻想が目の前を闊歩し、御神体に成り下がっていた筈の神様が猛威を振るっている。怪しげな地底から怪しげな雰囲気を持って地底の主がやって来たり、空を見上げれば不老長寿の桃がなり、天人が蹴鞠をしていたりする。どこにあるかもわからない魔界というものが存在し、陰気な古ぼけた館には血色の悪い吸血鬼やその従者が住んでいる。

 この世界には弾幕遊びが存在する。幻想郷を作った偉い賢者様が、この世界で平等に馬鹿騒ぎをする為に弾幕遊びは作られたという。しかし、その弾幕を私たちは使えない。一度異変が起きれば私たちは家に籠もり、台風が過ぎるのを待つようにじっとしていなければならない。

 そんな世界に理不尽を感じないこともない。誰かの力に頼り、嵐が過ぎるのをただ待つしかない。自分の無力を噛み締めて、それでもその後のことを考えて私たちは過ごすしかない。この世界は何でも受け入れると賢者様は言った。その平等を果たす為に私たちの平和は無くなった。力あるものを受け入れ、無慈悲に死に行くものの悲哀を受け入れ。力によって振るわれる暴力を受け入れ、そこで耐え行く命を受け入れた。

 そんな幻想郷に理不尽を感じないこともない。私は力を持たない人として生まれた。力ある者たちも存在を受け入れられ、私たちは平等に扱われる。だからこそ死ぬしかない命も存在した。誰かが馬鹿騒ぎを楽しむその影で、何時だって震える人がいた。心の中で臍(ほぞ)を噛みながら、それでも笑って生きていかなければならないのが私たちなのだ。

 だからそんな世界に絶望してしまうのも分かる。勇者や力ある何かに憧れ、そこで振るわれる力と自由を夢想するのは私たちに許された数少ない自由だ。だから私たちはそんな子供たちを微笑ましい笑顔で見るし、彼らに少しの郷愁を抱くのだ。彼女もいつしか夢から覚め、悲しい現実を受け入れながらも逞しく生きてくれることを祈った。

それが私のとんだ間違いだったと気づくのはもう少し後の話になる。

 

 そしてもう一人、私には娘がいる。

 彼女は道具店の前に、魔理沙が産まれた日に打ち捨てられていた。捨てられて朽ちていく生命を私の家の前に捨てたことに、彼女の母親からの意志を少しだけ感じた私は迷うことなくそれを拾い育て上げていくことにした。まっすぐ、言う事もよく聞くいい子に育った彼女の名前は霊夢という。もっとも、彼女も道具店にいた歳月は十程度しかない。そこから先の話はまた後で語ることもあるだろう。

 紹介が遅れてしまって申し訳ない。私は霧雨道具店の店主、平たく言えば霊夢と魔理沙の父のようなものをやっている。

 

――――――

 母親の話をしよう。

 私には母が二人いるらしい。一人は私を産んだその日に死んだそうだ。その母の記憶は当然のように持っていない。小さい頃、写真を片手に父が涙を流しているのを不思議に眺めていたことがあるが、どうもそこに写った女性が私の母親らしかった。正直言って特に感想は浮かんでこなかった。突然見ず知らずの女性を指さされ、“これが貴方の母親です”と言われたところで、特に感慨はない。ただ同じ髪の色と勝気そうな瞳、そしてはにかみながら父に寄り添う母を見て、“あぁ、この人は幸せだったんだろうな”と感じた。

 母の写真を見たのはその一度きりだ。父は私に母に祈れとか、手を合わせろとはあまり言わなかった。写真にしたって父の書斎に仕舞われていたし、いくら私がお転婆で、馬鹿なことばかりしていても、それがあるからかはわからないが、何となく私は父の書斎に入ることを忌避していたように思う。別に母が恋しい訳ではない。別に母を忌避している訳でもない、と思う。

 父は私に惜しみない愛情を与えてくれたと自負しているし、私もその父の愛情に答えてきたように思う。父は私を育てる為に、周りの助けを借りながらも一生懸命に頑張ってくれた。私は昔から聞かん坊だったからたくさんの迷惑を掛けたけど。父は怒りながら、それでも私を許してくれた。これでも私は私なりに父を愛していると思う。

―――なのに、どうしてここにいるの?

 その質問に私は沈黙する。木の繁りが深く日の光さえもささない、このじめじめした黴臭い魔法の森で、私はどうして魔法使いになったのだろうか。

 そう、もう一人の母親の話がまだだった。もう一人の母親はまた変わっている。そもそも生きてさえいない。迷い込んだ魔法の森で、小さく震える私を守ってくれた。彼女は幽霊。世を嘆き、恨み、怨念の塊としてそこに居たはずの彼女は優しく私の手を取った。彼女の名前は魅魔という。

 小さなままで終わらせようと思った私の命は、幸運なことか不運なことかもう少し長く生きていくことを許してもらえたのだった。

 

――――――

 母親の話をしよう。

 聞くところによると、私には母が二人いるらしい。私の産みの親は私を町一番の商家の前に捨てて何処かに行ってしまったそうだ。私はそこの主に拾われた。奇特なその人は私を大切に育ててくれた。路傍に捨てられた命など見捨てるのが当たり前の里で、彼はそれを当たり前のように拾い、育てる決心をした。

 不思議な話をすると、私は母のお腹の中にいた時から見たもの、聞いたものを覚えていた。母の顔は産まれたばかりの私には朧げにしか見えなくて、どんな女性かはわからなかったけど。

 ずっとお腹の中で聞こえていた。“子供を育てる余裕なんてない!”という悲鳴じみた女性の声。あれがきっと私の母の声なのだろう。お腹の中で大きくなっていく私は日増しに聞こえてくる私の命の話に気が気ではなかった。

まだ何もできていないのに。真っ暗な視界の中で、貴方の心臓の音だけが確かな音で。時に試しに体を動かそうとすると、貴方が気味悪がるので、私はあまり動かないように心掛けた。その感情は私を廃棄しようとする感情を増大させかねないと、具体的な言葉ではないけれど、漠然とした感情の中で理解した。

 できるなら愛されて外に出たかった。けれど、私という命にはどうにもそれは難しいようだった。何となくそれが悔しかったけれど、それも仕方ないことだと諦めた。私は他の人の価値観に触れたことがなかったから。私の世界は真っ暗な世界に木霊するドクンドクンと脈打つ音と、貴方の話かける声だけが全てだったから。それでも、時々優しくお腹を摩ってくれたことを今でも忘れない。

 貴方は最後の良心に従って私を産んでくれた。産婆も、手を握ってくれる誰かも、誰をいない今にも崩れ落ちそうな朽ち果てた小屋の中で。それでも貴方は頑張って私を産んでくれた。私にはそれが嬉しくて、精一杯貴方を手助けした。誰も手伝ってくれないと思っていただろうけど。他ならぬ私が、貴方がきつくないように、できる限り簡単に産んでもらえるように。一生懸命手助けをした。

 貴方はまだ臍の緒も繋がっている私を抱き締めてくれた。自分の体からもまだ緒は伸びていて、血塗れで気持ち悪かっただろうに。そして唯一持っていた髪留めで私の臍の緒を抑えるとそこから先を噛み千切った。私は新しい世界に直面して、貴方に元気な姿を見せようと精一杯だったから、あまり細かいことは覚えていないけど。

 産まれたばかりの私が体を冷やさないように布を巻いてくれた。貴方は申し訳なさからか私の顔を布で隠し、見ようともしなかったけれど、私にはそれで十分だった。少しでも貴方の愛に触れることができて私は幸せだったから。

 そして私は包まれた粗末な布とともに霧雨道具店に捨てられた。

 道具店の店主は私を軒先で見つけるとすぐに女中を呼び私を迎え入れてくれた。偶然にもその日お産を終えたばかりの母親がいて、私はその人のご相伴にあずかった。誕生日が同じこの家の娘とともに、私がこの家の娘になった瞬間だった。

 それからもお父さんはずっと私を実の娘と変わらない愛情で育ててくれた。

―――なのに、どうしてここにいるの?

 その疑問に私は沈黙する。ほとんど人も寄り付かない、寂れて人気もないこの博麗神社で、私はどうして巫女になったのだろうか。

 そうそう、私のもう一人の母親の話をしよう。もう一人の母親はまた変わっている。そもそも人間でさえない。今でも覚えている、胡散臭い笑みを浮かべて私を迎えに来た。彼女は賢者。

 この世界を作り、守り、管理していく存在である彼女は笑いながら世界を守ることの利を説いた。彼女の名前は八雲紫という。

 どうしようもなく平和に生きていこうと思った私の命は、幸運なことか不運なことか少し刺激的な人生を送ることを義務付けられたのだった。

 

――――――

 秋の抜けるような高い空。並み居る山々の葉も紅葉に染まり、秋も深まってくるような一日。

「どうだろう、こんな日は宴会をするべきだとは思わないかい?」

「……失せろ、魔理沙」

「開口一番失せろとは随分じゃないか霊夢」

 秋も深まる頃、この季節は神社にも少しの活気が出てくる。大抵は山の紅葉目当てで誰もうちの神社なんかあてにしてはいないが、それでも神社までの道のりの紅葉を楽しもうとする人はいくらかいるようだ。里からの案内がついている妖怪の山山頂の神社と比べるのは色々と悲しくなるので考えないけれど。

「いきなり押しかけて炬燵を占拠した挙句、暇だ暇だと宣うあんたが悪い」

「見解の相違だ、私は好意から此処にいるのに」

「……失せろ、魔理沙」

「だからすぐ悪口に走るなよ」

「帰れ、魔理沙」

「うん、あんま変わってない」

 ともかくだ、と居間にうずくまるようにしてこっちを見る物体Xは続ける。

「少し残暑の残る今日この頃、涼しげな夜に宴会なんてどうざんしょ?」

「その手間は誰が掛けると思ってんの?」

「え? 霊夢?」

「自分の尻自分で拭えるようになってから出直せ」

「それとこれとは話が別ってもんだぜ」

 何も別な話なんかしていない事とか、凄く当たり前の事のように真顔で宴会をさせようする感じとか、流石であると言わざるを得ない。

「だから私はあんたが嫌いよ」

「そうか、私は大好きだ」

「……失せろ、魔理沙」

「そこから続けたら延々ループだな」

 何が楽しいのだかわからないが終始ニコニコ笑顔の魔理沙。

「いいじゃん、妹は姉を養う為に存在してるんだぜ?」

「全妹を養う全姉に謝れ」

 こんなの姉じゃない。そうは言っても姉は姉であることには変わらない。この目の前の、魔法使いになった少女はどうあがいても私の姉であるのだから。それさえもみんなの好意とか善意とかそんなものに支えられて何とか形を成している体ではあるのだけど。

「大好きなお父様に会える機会を提供してやってるんだぜ?」

「……あんたは行かないの?」

「私はパスだ、女の子の日だからな」

「露骨な嘘をどうも」

「じゃあ準備は頼んだぞー。雑用なら手伝ってやるのもやぶさかじゃないけどなー」

「……一生炬燵に身を埋めてなさい」

「それもやぶさかではないー」

「はぁ、分かったわよ行けばいいんでしょう」

「早めに帰ってこいよー」

 その声に送り出されて私は境内の外に出ていった。

 

――――――

 世界は理不尽だと思ったのは何時からだろう。

 父の腕の中に私の妹がいた時? 母の腕の中で最後に抱かれたのが妹だった時?

 何にもうまくできなくて、泣いてばかりの私の横で淡々と算盤(そろばん)を覚え、何でもできた彼女を見た時。彼女の名前を呼ぶ時と私の名前を呼ぶときの家の人たちの温度の違いに気付いた時。

 数え上げればきりがないのかもしれないけれど、答えはわかっている。おそらく、彼女が霧雨道具店の前に捨てられていた時だ。

 私は空想に逃げた。幸い現実から逃げる為の沢山の物語は近くに溢れていたし、文字の勉強になるとあの人も喜んでくれた。幻想の中で生きる私はだからこそ物語の幻想に憧れた。物語には救いがあった。物語の中で語られるものは全ての事が何処かで繋がっていて、必要のないものは何処にもなく。何処かで誰かが報われていた。

 それはそうだと思う。主人公が物語を進めていく中で、道を通り過ぎすれ違った人の物語など誰も気にしないし気にされない。読者にとっても興味はないだろう。その人の一日は多分、何も変わらなかった一日なのだ。朝起きて、仕事に行き、お腹を空かせながら疲れて帰って、安いお酒でも飲みながらご飯を食べ、また次の一日が始まる。その一文だけで終わってしまうような情報量の少ない毎日なのだろう。

 物語には何の必要性も感じないようなその一文は作者の思考の端に上ることもなく切り捨てられていくだろう。主人公の物語にはそれとは比べものにならないような沢山の出来事があって、言葉だけではとても語りつくせないような出会いや別れ、営みが溢れているから強いて言葉を割く必要も感じないだろう。

 世界は理不尽だ。だってこの世界は、そのどうでもいいような一文で終わってしまうような人で溢れその人たちが物語を紡いでいるからだ。

 私はどうしようもなく気づくことになる。私の事を語った時、自分の人生もそんな“普通に生きた普通の人生だった”その言葉で語り終えられてしまう。話の始めや終わりにもう少し装飾の言葉が付け加えられても、それでも一行や二行で終わってしまうようなどれだけ束ねても一冊の本にすらならないような人生を送ることになるだろうことに。

 物語の華やかな描写を一字一字俯瞰していく中で私は振り返って今の自分を省みてしまった。

 確かにこの世界には妖怪や魔法、はたまた信仰の神や妖精など様々な空想が現実として跋扈していた。剣も魔法も現実としてある世界で、でも私たちはどうしようもなく村人Aだった。物語の主人公など何処にもいない。長々と語られるような冒険譚など私の回りには無かった。

 そもそも何の力も持たない私にはそんな資格すらも無かったことにはもう少し後になって気付くのだが、こんな何もできないような世界で、でも物語を紡げるような存在はしっかり存在していることが私にはなんとなくわかった。

 例えば先ほどの信仰の神であったり、この世界を作った賢者様であったり、里の歴史を遺し続ける家系だったり。探せばいくらでもあった。でもその中に私はいなかった。おそらく答えはそれが全てなのだろう。私は特別な力もなく、どうしようもない普通の人間として生まれてしまった。それが全ての答えなのだろう。

 賢者様は言った。“幻想郷は全てを受け入れる”と。

 幻想郷の賢者様に私の人生は受け入れられてしまっている訳だ。なら私が言おう。この世界を作った者が許してしまったのだから、他ならぬ私自身が言わねばどうしようもない。

“こんなもの受け入れてたまるか”と。

 そうして私は家を飛び出し、魔法の森でもう一人の母親に会うことになる。

 

――――――

 私が誘いの声を掛けられたのはいつの事だっただろう。

 その日、胡散臭そうな賢者様は障子の窓から見つめる私を見てこれはまた胡散臭そうに笑った。間違いなく美女の類に入る彼女は、この世界を作ってから変わらぬ姿であるらしい。紫を基調とした衣装を纏い、別に日差しも強くないのに日傘を携え、背中に太陰太極図を背負った彼女はとる所作一つ一つが艶めかしく、どこか気怠げな印象ながら気品を感じさせる人だった。

 その時私はまだ五つをやっと越えた辺りだったから当時の私がそんな感想は当然抱いてはいない訳だけれど、それでもそんな彼女の情景を覚えているということはやはり印象には残っていたのだろう。

 私が感じたのは彼女のそんな妖艶とでも言えるようなくらくらする美しさと、喩えようもない得体の知れなさだった。彼女は霧雨道具店の主人に、私の父に用があって来たらしい。

 曇天の中日傘をさして、そこからできる影の中で艶然と笑う彼女が軒先でその旨を丁稚であった霖之助さんに告げた時の珍しく彼の焦った顔も記憶に残っている。女中に案内されながら家の中をゆっくりと進んでいく彼女から足音は一切せず、焚いてきたと思われる香の匂いを空間中に押し付けるかのように撒き散らしながら、滑るように父の部屋に向かった。

 彼女が父に何を話したのかはわからない。ただ気になってそれをこっそり覗いていた私を、彼女はあっさりと見つけて、驚く私に彼女はにっこりと微笑んだ。帰り際も彼女は何も言わなかったが、屋敷の中には彼女の匂いが染みついたようにしばらく漂っていた。

 それから数年、父さんの、そして後々を継ぐだろう姉さんの手助けが出来るようにと勉学に励む私の所に再度彼女はやって来た。しかも、今回の用件は父ではなく、私にあるようだった。彼女は私を覗き込むように上から覆い尽くすように語り掛けた。彼女はこう言ったのである。

「あなたはこの世界が好き?」

 この言葉で私の世界は変わった。

 

――――――

 娘たちの話をしよう。

 霊夢は何でもできる子どもだった。算術も、文字の読み書きも、学ぶことで彼女が魔理沙に劣ることは何もなかった。教えた事は確実に自分のものにしたし、下手をすれば他人の所作を見ているだけで彼女はそれを身に着けた。人に対して基本的に彼女は自分から近寄ろうとはしなかったから里の中で友達は少なかったけれど、近づいてくる者を遠ざけもしなかったから不愛想ながらも過ごすことができていたと思う。

 魔理沙は不器用な子どもだった。勉強は涙を目に浮かべながら霊夢に手とり足とり教えてもらって何とかものになった。礼儀作法に至っては彼女はひとところにじっとしておける気質の娘ではなかったからあまり身に付いていないだろう。霧雨道具店の跡取り娘として彼女にはそれ相応の周りからの期待や重圧が掛かっており、その中で生きる彼女は縛られることを嫌う彼女の性質からして辛いものであったかもしれない。

 彼女は本当に何処でも駆けずり回るのが好きだった。体中を泥だらけにして走り回り、家来を引き連れて探検の旅に出かけたり、彼女の周りには活気があり、それを好む子どもたちには大層人気があった。そして霊夢は彼女に手を引かれ何時だって彼女の後始末に翻弄されていた。

 正直な話、娘たちといっても彼女たちと過ごしたのは二人の年が十を超えるかどうかといった時までのことである。

霊夢を博麗の巫女に欲しいと賢者様に言われたのは彼女が五つの頃だった。

 彼女は突然私の店を訪れると私に頭を下げたのだった。そんな事態を予想できる筈もなく焦る私に彼女は続けた。色々な事を話したが全てを纏めるとこうだ。

「幻想郷には人間の守護者が必要である、そしてその守護者は人間でなければならない」

 この世界は幻想に溢れている。人間は幻想と肩を並べていかなければならないが、しかして、人間にそんな力はない。人里には好意で守ってくれている白澤の先生がおられるが、彼女は人間ではない。退魔の力や法力を持った人間も存在することには存在するが、神や凶悪な妖怪を黙らせられる程の力を持っている訳ではない。

 幻想郷に生きている中で彼女の真意はわからないが、彼女は人里を、人間を守る守護者となる者は人間以外に認めるつもりはないようだった。

 彼女はとてもこの幻想郷を作ったという存在にしては随分と丁寧だった。里一番の商家ということで天狗や神の使い、冥界の庭師など力のある存在やその使いの方を見るのは幾度もある私だったが、賢者様を直接見るのはこれが初めてだった。彼の家からはいつもは使いに狐の方が来ていたし、そもそも全てを手に入れられるような方が里の商家で何を必要とするのか私にはわからない。そんな彼女は私が想像していたのとは随分と違う印象を受けた。

 神様は随分と丁寧に私に頭を下げてくれたのである。確かに胡乱げな眼差しやとる所作一つ一つは退廃的で、何処か気怠さを感じさせ、脳髄の奥から痺れてしまうような美しさを持つ方だった。その口に浮かぶのは安っぽい、如何にも表面上張り付けたといえるような薄っぺらい笑顔で、流れるような金髪や何処から取り出したのかわからない扇子で自己を仰ぐ仕草や逆に今まで携えていた日傘がいつの間にかなくなっている様など、正に非現実で。物語から一瞬抜け出してきたと言われても信じてしまうような。そんな意味も正体も不明な存在ではあったが。

 しかし、とる所作一つ一つ作法にのっとり、話す言葉は理知的であり、紫の瞳の奥は沈み込みそうな程深い知性を漂わせていた。丁寧に自身の考えを話し、利点のみならずその中での不利益な点も伝えてくれた。その上で彼女は霊夢を博麗の巫女にしたいと言った。

 その責任は私がとるとも言ったし、大きくなってからの霊夢の意思も尊重すると言ってくれた。彼女のそれは確かに頷けるに足るものであった。彼女の親として思わないこともないではなかったが、それでも――。

「大きくなるまでは答えは否です、後は彼女が決めることでしょう」

 

――――――

 彼女が最初はとても丁寧だったのを私は覚えている。

 彼女が私を案内したのは、呼び方がどうかなどは置いといて普通の民家と何も変わらない場所だった。そこで彼女は基本的に寝て過ごしている。日常生活は従者に全て任せ彼女はただ縁側でくわぁーとあくびをしながら空を眺めていることが多かった。眠そうな目をこすっている彼女は何を考えているかよくわからなかった。だから私のお世話をしてくれたのは紫ではない。

「ほら、顔にあんこを付けたままじゃないか」

 私が縁側に座っているそんな紫を見ていると顔に付いたあんこを藍さんが拭ってくれた。手拭いでくしゃくしゃと私の顔を拭いてくれる藍さんは仕方ないなぁと苦笑しながら色々な世話を焼いてくれたのだ。

「幻想郷では現在弾幕ごっこというものを採用しています」

 彼女からのこの世界の説明はごくシンプルなものだった。

「殺してはいけない、弾幕ごっこは言うなれば一人の人間でも神様に対抗し得る制度なのです」

 ぼんやりとした視線を空に向けながらも博麗の巫女となる身である私に彼女はこの世界の何たるかを語った。世界を統治するのは力である。しかし、力の上限の差が天と地ほどもあるこの世界。それでは私たちは何をもって相手を黙らせればよいのか。本来それは想像する必要すらないような当たり前の世の中の構造なのだろう。なにせ神は本来人に崇められるものであるし、妖怪は人に恐れられるものである。

「しかし、私はそれで俯くものがいる世界をよしとしませんでした」

 彼女は全ての存在を受け入れるという対等な形を取ると共に。力においても対等を求めた。

「自分が違うと思ったのならそれを真っ向から違うと言ってのけることができる世界“あなたが気に食わない”その一言を正面から伝えられる世界を私は作りたかった」

 そうやって彼女が作ったこの世界は、彼女の言の通りの世界なのか。答えは誰がどう見ようと否である。その答えは簡単だと紫は言う。

「なにせ私自身が力を使ってこの世界を作ったのですから」

 彼女はこの世界を作るために“力”を用いた。

「私は持てる力をもってこれでもかと相手を黙らせてきました」

 話を聞く傍らですっと差し出された茶に淹れてくれた相手に対して一つ頭を下げて応える。

「あら、ありがとう藍」

 ずずずっと音を立てて茶を啜る紫に一礼だけして下がっていく藍さん。それにしても紫はいちいち所作が婆臭い。

「なにか?」

「いいえ、何も?」

 にっこりと華やかに、しかしその実一切瞳は笑っていない笑顔を振り撒く彼女に、はや思考を読み取られたのかと思いながら視線を逸らす。あながち彼女では不可能ではないから怖い。

「あなたに最初にあった時、私は問いました。この世界が好きかと」

 ぼんやりと空に向けていた目線を私に向けて彼女は言った。

「この世界で、言葉で意思疎通ができる存在の中で最弱の存在たる貴女たちに私は問いかけなければなりません」

 彼女の瞳からは何の感情も感じられず、ただ深い淵が見えるのみ。そこから何かを読み取ることはまだ幼い私には無理であった。

「同時に、この問いはまだ問い掛ける段階でないことも分かっています」

 だからこそ博麗の巫女が必要であるのだと彼女は言うのだった。

「誰かに守って貰わないと生きていけないと思ってもらっては困るのです」

 人間の賢しさは簡単に自己の限界を感知させ、人間としての限界は容易く諦めへと繋がる。他の人間と比べるのならまだいい。なにせ相手は人間だ、同じ器が元にある以上競うという行為にも現実味が出てくるだろう。

「人間は賢しいから、他の存在と自己を明確に線引きします」

 しかし、器から、存在から基準が違う存在と比べられた時、彼等は時として俯いてしまうだろう。

「でも、それが人間なら? 例え並外れた力を持っていようとそれが儚げな少女なら?」

 同じ人間がそんな鬱屈とした世界で、なお上を向いて歩き続けようとするのなら。

「もしかしたら彼らは上を向くことができるかもしれません」

 この世界は閉塞している。外ではもはや過去のものと棄却された幻想が巷を駆けずり回り、信仰の力の元、衰えたとはいえ神が権能を振るっている。そしてその世界では恐らく私たちは捕食者ではなく、ただ虐げられる存在として皆が認識を持っているのだろう。

 今までの里の様子を見ているだけでも私もその意見は否定できない。

「人間は人間としての自己の認識を持たなければなりません」

 でもこの賢者様はそれが嫌だと言う。幻想郷の中でその種が下を向くことを私は許さないと宣う。それには理由があると言うが、彼女はそれだけは何であるか語らなかった。しかしその様は少し悔しそうで、何か釈然としない思いを抱えていることだけはその時の私でも感じることはできた。

「自分たちは自分たちの事を守ることができるのだと、人間の守護者は人間に向けて示さなければなりません」

 おそらくそれはとても辛いことでしょうと紫は言う。幻想郷において超常の者たちに敢然と立ち向かい、弱音を漏らすことはできず、受けた苦痛に無言で耐えなければならない。沢山の思いを守りながらその守った者たちに裏切られることさえあり、自己の存在を根本から否定されるかもしれない。

「博麗の巫女はそんな私の願いの業を背中に背負う貧乏くじなのです」

 それでもあなたは頑張れますかと賢者様は言った。

 そこの段階まで至っても、彼女の表情からは何も浮かぶことはなかった。申し訳ないというような感情も、同情するような表情も彼女は何も感じさせなかった。逆に、彼女からは人間の小娘に対して侮蔑や嘲弄の感情も一切浮かんでいなかった。今まで述べた感情とはこの問答は無縁であり、幻想郷の一つの存在として紫が認めてくれているようで、私はとても嬉しかったのを覚えている。

「ゆかり、それでも私は博麗の巫女をする」

 その言葉を聞いて初めて紫は私に笑ってくれた。瞳は深いまま、そこにどんな感情が写っているのか察することはできなかったけれど。

 胡散臭い妖怪の賢者様はこんな可愛い笑顔をするのだなぁと私は思った。

 

――苦痛に塗れ、四肢をもがれたような痛みに責め苛まれそれでもなお明日を見るために。

 

「魔法を教えてください、お願いします」

 酔狂にも私の心配をし、今なお付き添ってくれている幽霊に向けて私は頭を下げた。

「あたしに魔法を教わりたい? 馬鹿言っちゃいけない」

 彼女は呆れながら頭をポリポリと掻いた。如何にも面倒くさそうで、私は迷惑していますと言外に示しているような仕草だ。

「あたしは悪霊なの、人を憑り殺す類の」

「じゃあなんで私を拾って飯の世話や住む場所なんか世話してくれるんだよ」

「それはあんたが住む場所も言わない、腹の虫を隠そうともしないなんて図々しい阿呆だからでしょ!」

 私の突っ込みに叫ぶ彼女だが、人を憑り殺す類の悪霊は飯の世話も住む場所の世話もしないと思うんだ私。

 幽霊の一人に匿われた位で安心できる程、人里の外の幻想郷は安全ではないとは思っていたけれど、彼女はどうもとても力の強い類のものであるようだった。何より、彼女は妖力ではなく、魔力を使っているのだ。いや、私には妖力だの魔力だの皆目見当もついていなかったのだけど、妖怪を撃退してくれた彼女に興奮して問い詰めたところわかった事実なのだが。

「いいの、とにかく魔法を私に教えて」

 魔法は人間の身でも扱える不思議な力である。そう思ったのはなにせ御伽噺の中でも登場する唯一人間が扱える力だからだ。

「やだ、教えない」

「なんでよぉ……」

 思わず俯いてスカートを握り締める私。今の私から見れば涙腺が緩いと言わざるを得ないが、それを見てあたふたし始める魅魔様を見れば存外それが効果的であったのかもしれない。

「い、いや、別にあんたのことが憎くて教えないんじゃないし……」

 彼女は私の背中をさすろうか、どうしようかと悩んでいるのか私に近づいてでも離れてを繰り返していた。

「人間が自分の持っている力とは別のものを欲しようとすれば当然そこには代償が必要になってくるものなの」

 彼女の言葉は存外真剣なものであったが、齢十程度の学の無い私にはその言葉の意味は分からない。

「なに? パンツとか見せればいいの?」

「あんた何考えてんの!」

「いや、だって、里の男の子とかこれ言ったら何でも言うこと聞いてくれるし……」

「あんたそれもう二度とやっちゃだめよ」

「えーなんでー?」

「お嫁に行けなくなっちゃうでしょ!」

 そうやって慄く魅魔様。ともすれば私より私の事を考えてくれている彼女との関わりが、たった数日間の出会いでも彼女の為人(ひととなり)(人ではないので語弊はあるが)に信頼を置いている自分がいた。

「私、神様に言いたいことがあるんだ」

「はぁ、言えばいいじゃない」

「言えないんだよ、何の力もない私じゃあ」

 そう答える私を見て彼女も思うところがあったのかもしれない。魅魔様は私を見据えていた。私が彼女から何かしら感じたように、彼女もこの数日間で私に対して感じることはあったようだった。

「その力のない存在が人間なんじゃないの」

 当たり前の事だ、現実は時として残酷だが、現実を現実として受け止めなければこの世界では生きていけない。それを嫌だと目の前の小娘が言った所で何も変わりはしないのである。

「それで諦めていたら人間は何時まで経っても神様に何も言えないじゃないか」

 私の瞳には底知れぬ熱があったと魅魔様は後に言った。恐らくそれは何もなければこのまま魔法の森で絶えてしまっていたのだろう。どうしようもない熱を裡に秘めたまま彼女はどうしようもない絶望に苛まれ死んでいかなければならなかった筈だったのだ。

 しかし彼女は出会ってしまった。魔道の果てを見て、人間を恨み、亡霊として彷徨う彼女に。それをただの偶然とは思えないでいるのは私だけだったとは思えない。

 この後しばらくの問答と、えらく長い逡巡の日々を重ねて、ようやく魅魔様は私に魔道の道を教えてくれることになるのである。

 

――――――

 今日は目を焼かれた。灼熱に焙られ狂いそうになる度に私の思考が現実に戻され、そしてその度に目にする力の文字は再び私を苛んだ。

「文字は力である」

 今日は星を見た。幻想の中で綺羅星の如く輝く心臓達は瞑々と脈打ち、原初の心臓を抉り出した。

「サバトは祝宴である」

 今日は蝕を見た。脈々と燈り出す滴るような蝋燭は、そこに揺蕩う悪魔たちを慰めた。

「越境は燈を審(つまび)らかにする」

 今日は帷(とばり)を見た。黒山羊の偶像は鮮烈なる叫びを上げて、命は我も我もと続いた。

「果ては祖を崇拝し」

 今日は咎を見た。生々しい愛憎劇を観た。眼球を血走らせ、目からは血液を流しながら相手を貪り喰らう愛を見た。

「己に咎を熨(の)せる」

 何度苦しみの声を上げ、そしてその度最早声など涸れ果てていることを認識し、のたうち回ろうにも自身にはその四肢さえないことに気付き。痛みは流れ、涙は枯れ果て、言葉は意味のない羅列と化した。

 彼女の言う代償とは何だったのだろう。多分、きっとそれは命そのものだったのだと思う。

「それでも、あなたにオルギアはさせない」

 無音の絶叫、そう評したくなるようなそれを上げながら。私は魔道を探求した。死んだ方がましと何度も思った。幾度、死ねない自分を呪った。自身が生きる力を欲する度に、私は何度もまた終われなかったことを悔いた。

 力のある文字を眺めた私の眼は腐り、灼かれ、溶け続け。私が捧げた心臓は幾たび悪魔たちにただの戯れのために貫かれ絶命した。

 蝕の世界で私は世界を蝕む害悪を撫で、触れたその端から黒く腐り果てていく自分の四肢を感じた。

 帷で見たサバトは饗宴の最中、華やかな脳漿や血液、脂肪や骨、様々な絶景を染め抜いた。それを見て唖然としている私に黒山羊は儀典を振り下ろし、私もぺしゃんと随分軽い音を立てて潰された。

 こんな力を当初の私は本当に欲していたのだろうか。そうやってそれを何千回、何万回、何十万回と積み上げてきた後、ふと私は現実に帰った。私の中にはいつの間にか魔力と呼ばれるものが漂っていた。その力は私が箒で空を飛ぶことを可能にし、魔法の杖一つで何もない空間に火を灯すことを可能にした。それでも、それだけだ。

 あれだけの辛い思いをして私は空が飛べるようになり、何もない空間に火を灯せ、少しばかり人間離れしたことが可能になった。でも、これだけで神様の目の前に立つことはどうしたってできないことは私にもわかった。

「力のある文字はそれだけで事象を起こしうる力を持つ」

 その言葉を信じ邪典、禁書、果ては奇書に至るまで目を通した。その度にこの目は潰れ、痛みにのたうち回る度に魅魔様が私の眼を癒した。

「他への力の対価を学ばねば、簡単に己が身一つ滅ぼされる」

 供物を、対価を糧に動くものたちは何を欲し、御す為にはどのような言葉が必要なのか学んだ。何度過度の要求をされ体を引き裂かれ、何度言葉の裏をかかれ痛い目にあったかわからない。そして自分の性向的に向いておらず、下手をすると命の危機を生み出す危険性から私はその道を捨てた。

「蝕を見ておきなさい、この世の狭間で蠕動するそれは、一瞬でも触れれば蝕まれ腐り落ちる」

 この世の悪意とでも言うべきそれは意思や具体的な流れなどそんなものも持たないままただ存在し。溜まり続けるが故に澱み、腐敗し、停滞しているのだろう。それは触れたそばから私をぐずぐずに腐らせ、その度芽生える思考の連鎖に何度も頭を振って耐えたが耐え切れず、私は惨めに何度も死んだ。

「サバトにて力を蓄える。私たちの力は暗がりからしか産まれ得ない」

 私が苦しむ度、魅魔様は何度も私を抱き締めて傷を癒してくれる。そんな私の姿を見ても魅魔様は表情一つ変えなかった。こうなることがわかっていたからだろう。

 もう嫌だ、耐えられない、殺してくれ。錯乱した私はそんな言葉を何度も叫んだ。錯乱したといったが、錯乱してなかったからといって、今振り返ってみても、私は叫んでいるだろう。もう嫌だと。

 人間の器で耐えられるものではそもそもない。根本的に耐えられないことが前提としてあり、耐えられないとわかっている身に劇薬を流し込み、死んでは治し、また死んでいく。

 自分はなんと無謀なことを望んだのだろうか。人間としての根源的な無力感に苛まれ、自身が最初に抱いた願いすらその痛苦の中では霞んでしまいそうだった。その度、

「どうしたの? 神様に言いたい事があるんでしょう?」

 無造作にいっそなんの感情もないような声で、その度魅魔様は私に言った。頑張りなさいとも、ここを過ぎれば楽になるからとか私の時はこうだったなどの励ましも一切口にしなかった。ただ私にこれから行うことを伝え、私が傷つけば癒した。

 授業が終われば別だ。既に棄却されていた古びた小屋を見つけた私はそこに住んでいたのだけれど。何処からか持って来た魔術所の類の整理や、森の中での食糧採集の仕方や居住環境の整え方など彼女は私に色々な事を教えてくれた。

衣食住の世話をいちいち焼いてくれる彼女に私は感謝と共にこう感じていた。母親というものはこんなものなのかもしれない。顔も覚えていない母。母親というのはどういう役割をしてくれるものなのかは一般常識として知っていた。けれどそれは家の中ではお父さんがすることであり、女中さんや丁稚のあんちゃんでもできることだった。

 母の顔も覚えていない私だから思う。魅魔様から優しさを感じると面映ゆくなる。お節介を受ける度、羞恥と共に不甲斐ない自分で申し訳ない気持ちが湧いてくる。彼女から褒められる度、私の心は歓喜で染まる。彼女から助けを求められると、自分の事よりもそれを優先してしまう。彼女に頼られたことを誇らしく思い、誰かに捲し立てながら自慢したくなる。彼女から抱きしめられると胸の奥がきゅっとなって、彼女からは心臓の音も、温もりも感じられないけれど、でも私の具体的には言えない何処かが暖かくなった気がした。

 その感情の尊さに気付くのは魅魔様がいなくなってからだったけれど。私はそんな色々な感情を持って、魅魔様をお母さんだと思うようになっていた。

 どれだけ辛く、苦しく、投げ出してしまいたくなるような明日が待っていても。私がここまで来れたのは、母さんと母さんが繰り返し言ってくれたあの一言のお陰だった。本当の母さんではないけれど、ましてや生きてさえいないけれど。私は本当に自慢のできる最高の母親を持った、それだけは胸を張って言える。彼女が全てを伝え終えた時、私がそう言うと、彼女は、

「その一言で私も救われたのかもしれない」

 そうやって花のように笑って、私の前から煙のようにいなくなった。

 

――――――

――私はこの世界を作った貴女が嫌いだ

 

 夜半の風は冷たく、顔に吹き付けるそれは秋の終わりと早めと言える冬の到来を感じさせるものだった。

「もう少し着込んでくればよかった」

 巻きつけたほつれまくりのマフラーに顔を埋める。何時洗ったのかの記憶も定かではないマフラーだが、そんなのを気にしなくなったのは何時からだったか。

「お、あれか、やってるやってる」

 派手に弾幕を散らしながら今日も博麗の巫女は異変を解決しているようであった。

「まぁ、名もない妖怪との小競り合いだ。霊夢ならなんとでもなるだろう」

 そう言っている間にも霊夢の放った弾幕が相手に着弾し、悲鳴を上げながら相手は墜落していった。霊夢はそれをしばらく見ていたが、相手から仕掛けてくるような気配がないことを確認してからこちらに振り向いた。

 声を掛けた訳でも何でもないのに、勘なんていうふざけた理由で気づかれるのだからこっちもお手上げだ。霊夢がこっちに近づいてくる。

「魔理沙、妖怪はもう退治しちゃったわ」

「うん、見てたから知ってるよ。姉の手柄を横取りとは太い奴だな、妹」

「横取りも何も最初から最後まで私の仕事だわ、姉」

「口も達者になったようでお姉ちゃん嬉しいよ」

 うんうんと頷きながら霊夢の顔を見る。相変わらず表情筋が無いかと思う程の無表情である。声にもおよそ温度というものは無く、ただ淡々と事実だけを告げそこに己の感情というものは一切乗っていない。

「いい加減自分の家に帰りなさい、魔理沙」

「バカ。いま凄く強い必殺技開発してるんだから、これが完成すれば妖怪なんて楽勝だから」

「その妖怪に弾幕ごっこで一回も勝ててないのが現実じゃない」

「だから、完成すればいけるんだって」

「なら完成してもいない今、妖怪のいる場所に出てくんなバカ姉」

 氷点下に達するかのような冷たい言葉。

「出来る妹を持つと姉は苦労するよ」

「……そういう言い方をするな、姉」

「今までが勝ててないだけだ。これからの事は誰もわからないだろう?」

「そういうのを屁理屈っていうのよ」

「でも真実だろ?」

「否定はしないけど、ちゃんとした勝算も持たず、ただ突っ込んでいくだけならそれはやっぱり屁理屈だわ」

「もう名前も考えてあるんだよ。こう手の平からこうレーザーみたいなのがドブァーっとな」

 そうやって身振り手振りで必殺技の説明をする私に霊夢ははぁと溜息をつく。そして一つ溜息をついた後はいつもの霊夢だった。

「帰りましょう。温かいお茶でも出したげるから」

「そうこなくちゃな。お茶請けはなんだ? 湿気た煎餅とか出したら怒るぞ?」

「本当に厚かましいことこの上ない姉だわ」

「出来る妹でお姉ちゃんは嬉しいよ」

「……そういう言い方をするな、姉」

 二人で並んで博麗神社に向かう。月は稜線に差し掛かり、あと数時間もすれば日が昇ってくるだろう。さっきと同じようにボロいマフラーに顔を埋める。呼吸をする度に入ってくる嗅ぎ慣れた私の匂いも、頬に吹き付ける冷たい夜風も、何も変わらないけれど。でも何故かさっきまでよりも頭で何も考えなくなっている自分に気付く。

 風を遮ってくれることも、何かを話しかけてくることも、距離としてもそんなに近寄って飛んでいる訳ではないのに。でも、色々と考えることが霊夢といる時には無くなるから、何となく霊夢の隣は落ち着く。

 産まれた時から、霊夢に面倒を見られることはあっても、面倒を見たことはあまりない残念な姉であるけれど。しょうがないといいながらも立ち上がり、戸棚から急須を出し、湯を沸かし、茶葉を入れ、お茶として出してくれる。そんなことを面倒くさがりながらもやってくれる霊夢に時々救われている自分に気付く。

 魅魔様がいなくなってからは、私は自分のみの力で生きていかなければならなかった。飛び出してきた父さんに今更都合よく縋るのは間違っていると思ったし、頼るものなど他にいない。何もしなくても無償の愛情が注がれ、困っていれば助けてもらえる生活とは本来家出をした瞬間から決別しなければならなかったのに。魅魔様には随分甘やかされたのだと今の身になって反省するやら感謝するやら。

 一人で立つということがこんなにも難しいのかと思う。誰も頼るものがいないというのは大変なのだ。しかし、私はそれでも生きていけた。

 正確に表現するならば少しは困っていたけれど、命に差し掛かるものではなかった。なにせ私は生活の知恵を全て、魅魔様に教えてもらっていたからだ。森での生活の仕方。食べ物の見分けかた、身を守る術。この生活で生き残れたのは全て魅魔様のお陰だ。

 何の知識もなく育てられた私はすぐに死んでしまっていただろう。そんな甘ったれた私を魅魔様は本当に根気よく育ててくれたのだ。

「あら、神社に灯がついてる……」

 少しずつ見えてきた博麗神社には確かに灯が灯っていた。

「大方萃香とかが一人で酒盛りでもしてるんじゃないのか?」

「いや、萃香は今日は地底に降りて行ったからいないのよ」

「じゃあ紫かな、参拝客じゃないことだけは確かだろうし」

「うっさいわね、とりあえず戻りましょう」

 その神社に向けて私たちは降りていく。時は丑三つ時を少し超えた辺りの事だった。

 

――――――

「あら、霊夢、遅かったじゃない。先にお邪魔してるわよ」

 居間の扉を開けるとそこには幻想郷の賢者様がほこほこと湯気の立った湯呑を持って寛いでいるところだった。

「紫、何も悪びれずうちの居間で茶を飲んでるのはおかしいと思うわ」

「いいじゃない、こっちから食糧も茶葉も出し惜しみせず持ってきてあげてるでしょ? ねぇ、藍?」

 紫はふと声を今の奥の台所の方に向ける。

「まったく紫さまも人が悪い。悪いね、霊夢、台所を借りたよ?」

 嘆息して藍が手拭いで手を拭きながら出てくる。

「ううん、藍さん。いいの、私と魔理沙にもお茶をもらってもいい?」

 紫に向けたのとはまた違う温度の声が藍には向けられる。まぁ紫の家に居た時にはもっぱら彼女に面倒を見てもらっていたそうだから彼女にとっても思う所はあるのだろう。紫は呼び捨てなのに藍のことはさん付けだし。霊夢がさんをつけるのは“父さん”と“藍さん”の二人だけだ。……いや、そういやもう一人いたっけ。

「もちろん準備しているよ、既に急須に茶はいれてある。そろそろ良い塩梅だろう」

 藍は霊夢と私の前にも湯呑を置いて茶を注いでくれる。夜風で冷えた体にはありがたい。ちょっと拝借させてもらうよ。そういって藍は自分の所にも置いていた湯呑に茶を注いだ。

「霊夢、お疲れ様、よく頑張ったようだね」

「木端妖怪を退治しただけよ、別に頑張るまでもないわ」

 茶をずずっと飲みながら答える霊夢。それを見て嬉しそうに微笑む藍を見ていると二人の仲がとても良いものなのを感じる。まるで働いて帰ってきた子供を労う母親のようだ。

「藍、そろそろいい頃合いじゃないかしら。あれを持ってきなさいな」

「あぁそうですね、只今お持ちします」

 そういって立ち上がり台所に消えていく藍。なんだろう、でもそう言われてみればいい匂いがすることも確かだった。

「夜中だしね、あまり重いのはどうかと思ってうどんにしてみた」

 両手に布巾で土鍋を挟んで持ってくるそこには、湯気を立てるうどんと蒲鉾、そしてひたひたと湯につかる油揚げの姿があった。机に置くと四人分お取り皿がそれぞれの前に出される。

「お玉と菜箸で好きなだけ取ってくれ、少し多めに作っておいたから、おかわりも明日また食べるもよしだ」

「すごい、明日の事まで考えてるなんて、本当に気の利くお母さんみたいだ……」

「薬味で葱を刻んである、好きな分だけ掛けてくれ」

 その言葉にニコリと笑う藍。紫以外のそれぞれがうどんを器に注いでいく(紫は藍にとってもらっていた)。気の利くという言葉にか、お母さんという言葉になのか何が理由かはわからなかったが藍は嬉しそうだ。

「素うどんね。私としてはわかめとか卵とか付けて欲しかったわね」

「すいません、紫様、持ってきた食糧の中にそれらが見当たりませんで」

 ぺこりと頭を下げる藍。

「紫、藍さんが作ってくれたんだから文句いわないの」

「フーンだ、私は卵を上にのっけるもーん」

 澄ました顔でスキマから卵を出す紫。ちらっとこっちを見て妖艶に笑う。

「魔理沙もいる?」

「いや、私はいいや」

 なによー私だけが欲張りみたいじゃないー、とそんな呟きをぶつぶつと残しながら卵を乗せて食べていく紫。実に美味しそうだ。

「それで? 何か用があってきたの?」

「別にー? 用がないと来たらいけない関係でもないでしょうー?」

 ずるずると麺を啜る。

「そう、じゃあみんなで夜食を食べるために出てきたのね?」

「まぁみんなと言っても橙はぐっすりお休み中だけどね」

 肩をすくめる藍。妖怪が夜行性でないとはこれいかに。でも確かに日中は里人と遊んだり、氷精と遊んだり、妖怪と遊んだりしているから夜寝なかったらじゃあいつ寝てんだよって話にはなってくるのだが。どうでもいいことだが、このうどん美味しいな。

「ふぁれもふぉんなふぉふぉふぃって――」

「口の中からにしてから喋りなさい」

「――ふぁい」

 ずるずると汁まで飲んでいく紫。ごきゅごきゅっという擬音が聞こえてきそうな程しっかりと飲み干した彼女は空になった器を机に置くとたおやかに笑った。ほっぺに蒲鉾の切れ端が付いてるぞ紫。

「あなたの様子を見にきたのよ」

「それを何の用もないって言うと思うんだけど」

「そうとも言うかもしれないし、そうとも言わないかもしれないわ」

 藍の口を示す身振りに気付いた紫は自分の口に付いた蒲鉾の切れ端をペロリと舐め取った。いちいち仕草が色っぽいなぁこの人。ちなみに彼女は一杯うどんを食べきるとおかわりを求めようとはしなかった。

「藍、油揚げをそんなに欲張っちゃだめよ。霊夢と魔理沙が食べられなくなるわ」

「はっ! すいません。つい集中してしまって……」

 うどんよりむしろ油揚げを主食にしそうな勢いだったので私は既にうどんメインでいくことにしていたから別に大丈夫なんだけどね。ふた切れくらいあれば問題ないし。

「霊夢も魔理沙もすまない、しっかり油揚げも食べてくれ」

「いいのよ藍さん、大好物だもの。好きなように食べて」

「そうだよ、私たちはいいから食べたいように食べてくれよ」

「いや、こんな美味しいものを私だけが独占してしまってわ……」

「いいから」

「いいから」

「……そうか? それじゃあフムゥ」

 そういって実に幸せそうに油揚げをもきゅもきゅ食べ出す藍。こぼれんばかりの笑顔が実に眩しい。そうなることを予想していたのか妙に油揚げ多かったしと呟くと、

「いや、あれは素でみんなが油揚げを大好きだと信じてるのよ」

 少し疲れた顔をする霊夢という珍しいものを見れた私だった。何があったのかは本人がいる場では聞けないから今度二人の時に聞くとしよう。

 それからはしばらくずるずるとみんなの麺を啜る音だけが室内に響いた。一足先に食べ終えた紫はその間ボヤっと畳に座りながらみんながうどんを食べるのを眺めていた。

「ふぅ~美味しかった」

「あぁ、夜食だからなおさらな」

「お粗末様でした」

 うどん(油揚げ増し増しというか基本油揚げ)を食べ終えた藍が器を片付けて台所へ持っていってくれる。余ったうどんは鍋に蓋をして冷所に置きにいってくれた。

 本当にお母さんみたいだ。いや、私にはちゃんとしたお母さんなんていないんだけどさ。

「そろそろ行くわ、藍が戻ってきたら帰る。そろそろ夜も明けるしね」

 確かに外を見ると空は俄かに明るくなり出していた。こんな時間に起きている私は間違いなく帰ってから眠りに落ち、日が沈む頃にまた目を覚ますことになるのだろう。

 ああ、いやだいやだ。

「そう、まぁ一応食べ物も貰ったし、一応お礼を言っておくわ」

「……他にも野菜やらお米やら色々持ってきたから、何か作って食べなさいな」

「ありがとう、紫」

 ぺこりと頭を下げる霊夢の声の温度は藍に向けられるそれと同程度の熱がこもっていたように思う。

「紫様、終わりましたよ」

 また手拭いで手を拭きながら出てくる藍。ほんの一時しか経っていないぞ、彼女の家事スキルは化物か。

「ん、それじゃあ帰りましょう」

 そうやって立ち上がる紫。手に持った扇子をパタパタと揺らしながら私の方を向いた。

「さて、魔理沙」

「……はい」

「何か私に言いたいことがあって?」

「…………いや、別に何も」

「そう」

 彼女は一言そう言って襖を開いた。玄関までは歩くつもりなのだろう、その後ろに藍が続く。

「言いたいことができたのなら何でも言っていいのだからね」

 その言葉とともに襖は閉められ、足音が遠ざかる。部屋には霊夢と私の二人だけが残った。彼女は去り際いつも私に問い掛ける。何か言いたいことがあるのではないかと。私はいつも目を逸らす。その度彼女はそうと一言だけ返して去っていくのだった。

「魔理沙、紫に言いたいことがあるんじゃないの?」

「…………」

 私は何も喋らないでいる。というか喋れないでいた。

「そう、黙り込むしかできないのね」

 平坦な声が耳に痛い。

「姉さん」

 そうだ、霊夢がさんをつける相手はもう一人いたんだったな。

「父さんの所に帰って」

 その声は切実だった。

 それ以上霊夢は何も言わず黙っていた。もう潮時なのだと。彼女が一世一代の思いでその発言をしたことが手に取るようにわかる。愛しさが胸に溢れてくる。私の愛しい愛しい妹だ。

「わかったよ」

 私はうどんで温まった体を起こし、襖をあけて外に出る。早朝の空気はやっぱり肌寒かった。

 

――――――魔理沙、君が誰の子供なのか教えてあげる。

 

 縁側に座っていると足音が聞こえた。

 秋もそろそろ終わりを迎え、冬に差し掛かった今は日が落ちるのも随分早い。夕日が山の稜線から最後の残照を送ってきていた。それにしても随分と長い間聞いていなかった音だ。昔はもっと軽くて小さな音だったけれど、しっかりと地に足がついた音がする。

「……」

「魔理沙か、久しぶりだね」

 私の後ろに立って何事か逡巡する彼女に声を掛けた。

「振り向かなくても、私だって分かるんだな」

「父親なんだ、そりゃ分かるさ」

「何年会ってないと思ってんだよ、嘘くせぇなぁ」

 そういって彼女は私の隣に座った。

 魔理沙の呆れたような声。それに応えるように私は苦笑を漏らした。

「ごめん、流石に嘘だ、匂いだよ匂い」

「げ、私そんなに臭い? 気づいてないだけで蛙みたいな匂いとかしてる?」

 スンスンと自身を嗅ぎ回る魔理沙。まるで猫が自分の体を鞣(なめ)して回っているようだった。その仕草の可愛らしさに次は正しく笑みが浮かぶ。

「君からは母さんの匂いがするからね」

「あ、あぁ、……そう」

 彼女は気不味そうに言い淀んだ。私は自分の湯呑に満たしていた茶を一口くいっと煽った。

「魔理沙、里を離れての生活はどうかな?」

「……どうって?」

 またもや彼女が身構えるのがわかる。

「楽しいかい? 苦しいかい? 魔法の森での一人暮らしはどうかと聞いているのさ」

「どうもしないよ、毎日暗い森に籠もって魔法の勉強。ただ朝が来て昼を通り過ぎて、夜にベッドで眠るだけさ」

「君がそう言うんならそうなんだろうね」

 私はただ頷いた。その所作に魔理沙は少しムッとした顔を私に向ける。

「なにその返事、なんか私が努力してないみたいに聞こえるんだけど?」

「それも、君が思うんならそうなんじゃないかな」

 一向に声の温度が変わらない私に魔理沙が苛立っているのがわかる。

「それで? 君は何で此処に来たんだい?」

「なんでって、それは……」

「魔法の勉強が嫌になっちゃったのかな?」

「……」

「一人に耐えられなくなったのかな?」

「……」

「実の娘でもないのに、実の娘よりも娘らしくお父さんお父さんと私に会いにくる霊夢が疎ましくなった?」

「……」

「ふふふ、なにか言わないと何も私には伝わらないよ」

 魔理沙はずっと俯いている。ギュッと両の手の平は固く結ばれていた。

「魔理沙、少し私の話をしようか」

「……うん」

 彼女が頷いたのを見て、私はお盆に準備していたもう一つのコップに手を伸ばす。

 湯を入れてしばらく置いておいた急須の中の茶は丁度良い塩梅になっていることだろう。彼女は猫舌だから、ぬるま湯くらいが好きだった。

「ほら」

「ありがとう」

 彼女は私の入れたお茶を受け取った。

「私はね、本当はお前のお母さんと結婚したくなんかなかったんだよ」

 その話はじめに魔理沙は驚いたのか少し息を飲む音が聞こえたが、それでも何か声を出すことはなかった。

「もっと言うとね、随分と若い頃から私は早く死んでしまいたいとさえ思っていた」

 まだ少し熱気の残る風が頬を伝う。遠くで落ちていく夕日の中、蜩(ひぐらし)が寂しげに鳴いている。

「でも、そんな私の事で誰かが悲しむのだけはどうしてだか嫌だった」

 自分のような存在が死んだとき、誰かが何かを思う、それだけで何かこの世界に対して、その思い悩んでくれる人に対して、申し訳ない気がしていた。そんな思いを抱えながら悶々と生きていたあの日々を思い出す。あの時はまだ私も若く、できることとできないことがこの世の中にはあるとあまりはっきりとはわかっていなかった。

「だから、少しづつ、少しづつ私は人との関わりを失くしていって、そしていつの日か、私の事を知る人が誰もいなくなったら、私はひっそりといなくなろうと思ってたんだよ」

 何処からかって? もちろんこの世界からだ。

 だってそうだろう? 理不尽じゃないか。

 全てが受け入れられるこの世界では、神仏が、妖怪が、化け物が私の隣に立ち得るのだ。

 何の力も持ちえない私たちの隣で平然とこの世界は超常に満ち溢れているのだ。

「私にとって最初の縁はまずは両親だろうね、そして今まで一緒に遊んできた里の友達、近所のおばさんやおじさんだったり……」

 数え上げるときりがなかった。これは骨が折れるぞと私は思った。

「関わりを失くそうと努力する傍らで私は生きなければならなかった。私が死ぬのは誰にも忘れ去られた後だったからだ」

 当然この思いを誰かに告げたことはないから霧雨道具店の長男として跡取りの勉強も続けた。ところがここで計画の思わね欠点が露呈する。

「するとどうだ、繋がりはもっと多く増えていった」

 勉強を教えてくれた家庭教師の先生、両親が忙しい間面倒を見てくれた女中さん。

 数え上げるときりがない程の人々と私は繋がりを持ってしまっていた。これでは何時になったら忘れられるのだと私は危惧していた。

「ふと振り返るとどうだ、そこには私の隣で笑う君の母がいた」

 義理の見合いなど知らぬ、顔だけ出しておけばと形式だけ整える為のものだったのではないのか。自分への疑問に、しかし妻の腹に我が子がいると知ったとき、私はふと理解した。

「無理なんだ、人は生きようとする中で人との繋がり無しには生きられない」

 どんな小さなことでも、誰かは誰かと繋がっていないと生きてはいけないようだった。

「どんな人も親をもって生まれてくる以上、人と出会わなくして生きていくことはできない」

 そうでなければ死んでいくしかないのだ。そう、雨ざらしで道具店の前に捨てられていた彼女は、繋がり無くそこに居たら簡単に潰えてしまった命であった。

「だから私はもう一生自分からそんな道を辿ることはできないのだと気づいたんだよ、なんせ君たちがいるからね」

 私たちの授かった命と、同じくその日私たちが出会った命は今こうして目の前にある。まだ幼い命たちの前で私の寿命を比べたら、当然のように私の方が短い訳で。

「頼むから順番通りにしておくれよ」

 と言うまでもない事を言っておく。

「いつもやさぐれた猫みたいな目で、ポケットに手を突っ込んで、魔法の森から空を見上げてたのを知ってるよ」

 そろそろ夕日が沈む。薄暮の縁側に置いたままだった風鈴が涼しげな音を立てた。

「君はこう思ったかもしれない。魔法とはこんなものなのかと、所詮自分には何もできないのかと」

 君が苦しい思いをして魔法を覚えたことを知っているよ。そして、未だに魔法を使いこなせていないことも。

「嘆いたかもしれない。自分の非力さを、出来ることとできないことの境界を」

 霊夢は博麗の巫女として役目を果たしているのに。君は何もできていないと感じているのかな。霊夢はそれを心配していた。彼女は君や私を守りたくて博麗の巫女になったのにね。

「感じたかもしれない、自分の中のどうしようもない限界を」

 子供の頃の自分は何でもできる気がしていた。振り返って今はどうだ。大きくなっていく度に道はどんどん狭くなり、物語の英雄譚は所詮物語でしかないとわかってしまうのだ。

「そうさ、世界は理不尽なんだよ、産まれた場所、時、環境、全てが偶然に決まって、一生その中で生きていかなければならないんだ」

 この世界には忘れ去られた幻想が今も跋扈し、私たちと肩を並べている。

「魔理沙、君は随分早くからこの世界の理不尽に気づいていたと思うのは僕の気のせいかな」

 彼女はきっと疲れたのだ。顔も上げず、帽子に顔を埋めてこちらからは表情は伺えもしない。

 でも悄然と頭を垂れるその姿は何に打ちのめされたのかわからないが、そのまま地面に沈み込んでしまいそうだった。

「小さな君がどうしてこの家を出て行ったのかはわからないよ、多分君にも拙いながらに思う所があったんだと思う」

 薄暮も終わり、辺りを闇が包もうとしていた。丁稚が蝋燭に火を灯しにやって来る。ペコリと頭を下げて下がっていく彼に手で応じる。

「辛かったかな? 苦しかったかな? でも私は理解してあげることはできない」

 どれだけ相手が愛しい娘であっても、他人の気持ちを理解することは不可能だ。

「君の苦しみは君だけのものだ、君の辛さも、楽しさも、悩みも後悔も全部君だけのものだ」

 他人に自分の内面を完璧にはかることなんてできない。そして、したり顔で理解したというもの程厚かましいものはない。

「私には君を分かろうとしてあげることしかできない、その答えが間違っている可能性も少なからずあるのにだ」

 今まで言った言葉は全て私の妄想なんだ。本当は全部違うのかもしれない。君は内心で苦笑を隠しているのかもしれない。でも、他人の心をわかったつもりになるということはそれだけのリスクを伴うことなんだよ。

「他人には君の葛藤や苦しみは本当の意味でなんか分からないよ」

 自分はこんなに苦しいのだと叫んでみても、相手には自分の伝えたかった苦しみのうち伝わるのはほんの数割だと思う。それすらもおこがましい時があるだろう。他人の事をわかったなんて私は言えない。私たちにできるのはわかったつもりになって共感してあげることだけだ。

「だからね、魔理沙、自分の涙は自分で拭くんだ」

 それはとても難しいことだけれど。でもこれは、他人を頼るなという事ではないんだ。

「自分が本当に辛かったんだと、頑張ったんだと認めていられるのなら、自分以上に自分を理解し、励まし、慰めてくれる人なんていないんだから」

 自分を認められるのなら、自分を奮い立たせることができる。

 自分を励ませるのなら、自分で顔を上へ向けられる。

 自分を慰められるのなら、恐らく人は生きていくことができるのだと思う。

「他人を頼ってもいい。たくさんの人に負担を掛けなさい。たくさんの人の重荷になりなさい」

 自分で自分の責任を持てるのなら、他人に寄り掛かることは悪いことじゃない。使い古された話だが、人という字は人同士が支え合っている象形文字だ。

「そしてその数だけ、たくさんの人の負担を請け負って、たくさんの人の重荷を一緒に背負ってあげなさい」

 そしてやはり一本では文字は成り立たず、一のままでは倒れてしまうしかない。

 背負うことは悪いことではない。重荷になることも悪いことではない。その重荷を誰かに背負わせる分だけ、自分の誰かの重荷を背負って生きていく。

「人間というのはおそらくそうやって生きていくのだ」

 ふと魔理沙を見る。彼女の姿は一切変わらない。擦り切れたマフラーに顔を埋め、目深に帽子を被って、彼女の顔は見えなかった。

「君が見ず知らずの幽霊にぼやかれながらも面倒を見てもらったみたいに、これからは君が誰かの支えになってあげればいいだけなんだよ」

 残念ながら、彼女のほんの少しだけ聞こえてくる嗚咽とそれと一緒に目で何かが光っていたのを私が見ることはできなかった。夜の闇がうまいこと私たちの姿をぼやかしてくれていたからだ。ただ月だけは、全てをわかっているかのように優しげに魔理沙のことを照らしていた。

「……魅魔様は言ったんだよ、もう私が教える必要はなくなったって」

 若干声が掠れてしまっている感はぬぐえないながらも彼女は話し始めた。

「なのに私は弾幕勝負には勝てなかった」

 あれだけの魔法を使える先生に教えてもらって、あれだけ血の滲むような努力をして。

「何度も何度も負けて、どうしたらいいかもわからなくて、ただ義務みたいに私は霊夢の後を追ってた」

 あれだけ大事に育ててくれたのに、それでも思わずにいられなかった。

“これが物語で見てきた魔法の力なのか”と。

 下級の妖怪一つ追い払うのに四苦八苦し、ともすれば簡単に空から墜落し、弾幕ごっこを飾るスペルカードすら作れない。

「魅魔様には本当に感謝してもし足りないのに、教えることが無くなったなんて言ったあの人を私は少し恨んだ」

もしかしたら体の良いお払い箱だったのはないかと。私はもしかしたら、もしかしたら――

「魅魔様に見捨てられたんじゃないかと思った」

 魔理沙は顔を上げた。そして、自分の中にある力を噛み締めるように手をぐにぐにと閉じては開け閉じては開けを繰り返した。帽子に隠れたその顔はまだ見えなかったけれど。

「でも魅魔様は言ったんだよ、もう魅魔様から教わることは私にはないんだ」

 月を見上げる魔理沙。若干まだ鼻を啜る音は聞こえるが、声はだいぶいつもの調子を取り戻していた。

「物語が幸せに終わるのは魔法があるからじゃないもんね」

 縁側に届いていない足をぷらぷらさせ始める。

「奇跡を起こしたのは魔法なんて都合の良いものじゃなくて誰かの勇気や信念、愛や友情、それこそ有り触れたどこにでもあるものだった」

 彼女はどこか楽しそうに見えた。笑っているのかはわからないけれど、それでもふつふつと生きる力とでもいうようなそんな力が込み上げてくるようだった。

「それに気付けたから――」

 そこで彼女は言葉を区切ると自分の服の袖で顔を拭った。ごしごしと勢いよくこするものだから、こちらを向いた時の魔理沙の顔は赤くなっていたけれど。

「私は私の力を信じてみるよ、そんで自分の涙は自分で拭く」

 そうやってニシシと笑う彼女の笑顔は、かつて私の隣に座っていた人の笑顔そっくりだった。

「そんな君だからこそ、私も、母さんも救われたよ」

「私、この世界を作った神様に言いたい事があるんだ、どうしても言いたい事があるんだよ」

「なら頑張ってきなさい、魔理沙」

「うん、行ってくるよ、父さん」

 そうやって私は再び魔理沙を送り出した。

 

――――――

「はぁー、疲れた」

「お、やっと帰ってきたのかよ霊夢」

「労いの言葉の一つでも掛けてくれていいと思うんだけどね、姉さん」

「頑張ったな、ありがとうありがとう」

「なにその適当な感じ」

 もぅと頬を膨らます感じがまたかわゆい。一升瓶やら食べ物やら何やらを抱えて霊夢が帰ってきた頃には辺りは夕日に包まれていた。まぁその間私はただ炬燵に丸まって寝ていただけなのだけれど。

「みんなにも声掛けといたわ、もうすぐ集まってくるでしょう」

「流石手際が良い、お姉さんはいつも妹に救われてるよ」

 そう言いながら霊夢の頭をなでなでする私。

「ありがとうな」

「……ふん、妹なんだもの、姉の面倒を見るのは当然だわ」

 何時にも増して無表情で答える霊夢。それが照れ隠しであることくらい頬の色を見れば一発でわかる。

「父さんは元気だったわ」

「そうか」

 私の素っ気ない返事にまたもぅと頬を膨らませる霊夢。でも私にはそれだけで十分なんだよ、きっと向こうもそう思ってるさ。

「親父なんて元気でいてくれればそれだけでいいさ」

「お酒や食べ物これでもかと貰っちゃったわよ」

「うむ、親が子供に食べ物を恵むのは当たり前の話だな」

「調子のいいものね、父さんに代わって私が拳骨を落としてやろうかしら」

 まだ父さんへの蟠(わだかま)りはある。世の中ままならないし、たくさんの苦労をこれからも背負っていくだろう。でも、親父のことをこんな風に言えるようになった自分が嫌いではなくなっている。

「やめろよ、大体親父はそんなことで怒りゃしないよ」

「それはそうだけどさ」

 世界は理不尽だと思ったのは何時からだろう。

 父の腕の中に私の妹がいた時? 母の腕の中で最後に抱かれたのが妹だった時?

 何にもうまくできなくて、泣いてばかりの私の横で淡々と算盤を覚え、何でもできた彼女を見た時。彼女の名前を呼ぶ時と私の名前を呼ぶときの家の人たちの温度の違いに気付いた時。

 数え上げればきりがないのかもしれないけれど、答えはわかっている。

 おそらく、彼女が霧雨道具店の前に捨てられていた時だ。

 なぜ、霊夢は産まれた瞬間から捨てられないといけなかったのだろう。

 なぜ、私の母ちゃんは産まれたばかりの私を置いて死ななければならなかったのだろう。

 なぜ、世界はこんなにも理不尽なんだろう。

「霊夢ー! 地獄からいい酒もってきたじぇー!」

「ほら、噂をすればお出ましだわ」

 なぜ霊夢は幻想郷を守る為に博麗の巫女にならなければいけなかったんだろう。

 どうして私は普通の人間に生まれたのだろう。

「霊夢、誇り高き私が来てあげたわよ、喜びなさい!」

「魔理沙―、あそぼー!」

「霊夢、これ、今朝鶏を絞めてきました」

「お嬢様ー、魔理沙は逃げませんからそんなに走らないでくださいー!」

 どうしてこの世界には神様がいるのだろう。妖怪や妖精、たくさんの幻想が肩を並べているのだろう。

「霊夢、調理の方手伝うわ。幽々子様の為にたくさん食糧持ってきたからね、頑張るわ!」

「妖夢、今日は私も食べるわよー」

「へ? 今日は? じゃあいつもはどういうことなんですかー?」

 沢山の存在がいる中でどうして私は魔理沙という役割を与えられたのだろう。

 どうして、霊夢は私の妹になったのだろう。

「なんで宴会とかするのよ、折角家でごろごろしてたのに」

「姫様、たまにはしっかり外にでませんと」

「幸せになりたいかー!」

『ウサー!』

「てゐ、そんなにウサギたちを煽らないで」

 目の前の彼女たちはどうしてその役割を振られたのだろう。

 そして、その中でどうして生きているのだろう。

「御柱とミシャクジ様をよろしくお願いしますー!」

「こんなところでまで布教は恥ずかしいよ」

「大体参加してる中に人間なんてほとんどいないしねー」

 回る回る車輪の輪。今日も一日が回っていく。

「布教と聞こえました。なら私はこれ、絶対痩せる命蓮寺式ブートキャンプ!」

「いや、筋肉信仰はまた別の次元の話ですからね、白蓮様」

「お前も沈没させてやろうかー!」

「ナズ、すびまぜん、まだ宝塔をなぐじまぢだー」

「やれやれ、私も沈没しそうな船からはいち早く逃げ出したいもんだね」

「千畳敷が必要ならいつでも言っとくれよ?」

 ここにいる彼等も文句を言いながらもなんとか生きているようだから。

「地底からはるばるやってきましたよ」

「適当にそこらにあるもの持ってきたー」

「いや、こいし様それは泥棒じゃ?」

「萃香、それは私が土産に持ってきた酒だ!」

「はい、地下で核融合をしています」

「みんな個性が強すぎて妬ましいわ……」

 みんなが言いたい事を言って回る世界。そんな世界は存在しない事を知った。

「宴をなさるそうですね、お呼ばれされます」

「太子様、布都がこの情報を聞いてきたのですぞ、褒めてくだされ!」

「……」

「うがー、たべるー」

「うふふ、いい実験体はいないかしらー」

 でもこの世界にはそんなことができるルールを作った神様がいた。弾幕ごっこ、それは強いとか弱いとかそんなものは関係なく、勝った者が言いたい事を言えるルールだった。

「霊夢さん、文々。新聞です、ぜひインタビューを!」

「はいはい後がつかえてんだからさっさと進むもんさね、どうぞ、映姫様」

「ふむ、この宴会、白黒はっきりさせにきました」

 それは強い者の言う事を聞けというとんでもないルールだけど。

 言いたい事を何でも、誰にでも言うことができるというルールでもあった。

「宴会とはよいものだと聞きました」

「くそう、楽しそうにしやがって、全部ひっくり返してやんよ」

「あぁ、満月じゃなくてよかった」

 神様が隣にいる幻想郷(この世界)では、自分の願いは本当にすぐ隣で聞いてもらえるから。

「夜のお祭りなんて楽しみすぎます!」

「こら橙、はしゃぎすぎるなよ? 霊夢、何か手伝えることはあるかな?」

「霊夢、色々持ってきたからたくさん食べなさいね?」

「どうせそれを作るのは藍さんなんでしょう?」

「えぇ、当たり前じゃない」

 どうしてこの世界は存在して。そして世界を作ったものが目の前にいるのか。

 紫は私と霊夢を見ていた。喧騒が後ろで響く中、それとは無縁そうに彼女は立っている。

 

「魔理沙、私に何か言いたいことがあって?」

 

 宴会に入ろうとして去る傍らで、彼女はいつものように問いかけてきた。

 私は笑顔をもって答える。

「あぁ、あるとも、でもまだ内緒だ」

「そう、言いたいことがあれば何でも言っていいのだからね」

 彼女はそう言って宴会の方に行ってしまった。

 そう、まだ内緒だ。神様が隣にいるこの世界では言いたい事がそのまま伝えられるから。

 そしてこの世界には、誰にでも、言いたいことが言えるルールが存在するから。

 いつか私がそのルールのままに言いたいことが言えた時にはこう言おう。

 今の私には無理だということはわかりきっている。

 でも――それはこれからの私が無理だという事にはならない。

 自分の涙は自分で拭くのがお似合いな世界で。ちょうどこんなお似合いの台詞で尋ねよう。

 

 あなたの世界を救う人は誰――と。




2014年の紅楼夢で頒布させていただきました小説の全文になります。サークル主のピクシブの方で既に全文投稿していたのですが、生存報告もかねてこちらの方でも投稿しておくことにしました。感想などいただけたら嬉しいです。

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