俺は、スーパーザンクティンゼル人だぜ?   作:Par

15 / 78
団長君10連キャラ開放のトリ、そして団長に奴が徐々に迫る


衝撃!アウギュステ編
ギュステが荒れる5秒前


 

 ■

 

 序 同じ空の下

 

 ■

 

「はあ……」

 

 ある騎空艇、その中の食堂で一人、いや一匹で机の上に腰かけため息を吐いている小さき者がいた。赤い皮膚に小さな翼。当然人ではない。彼は手に持ったリンゴをガジガジ食べては、またため息を吐く、それを繰り返した。

 

「おやどうしたビィ君?」

 

 そんな小さき者、子供ドラゴンであるビィに声をかけたのは、鎧を着た女騎士カタリナであった。

 

「ああ……姐さんか」

「うん? 元気がないな……何か悩みでもあるのかい」

 

 カタリナはにこやかな表情でビィに語り掛ける。彼女は小さくて可愛らしいビィを気に入っていた。多少スキンシップが過激な時があるが、その事をビィは、ほどほどにして欲しいと思いながらも、よく思われていること自体を悪くは思っていない。

 悩むビィの力になりたいとカタリナは、手を差し伸べる。だがビィは依然表情が曇る。

 

「悩み……まあ、悩みだなぁ……ジータの事なんだけどさ」

「おぉう……そ、そうか」

 

 ジータ、その名を聞いた途端、カタリナの表情は強張った。

 今この場にはいない少女、ジータ。彼女こそまさに【ジータと愉快な仲間たち団】の団長にして、最近話題のイカれた奴ら【星晶戦隊マグナシックスとB・ビィくんマン&均衡少女ZOY】の団長である少年の幼馴染であった。

 カタリナとジータの出会いは、カタリナが元々所属していた帝国で道具の如き非道の扱いを受けていた神秘を秘めた少女ルリアと共に帝国から逃げ出す最中、ルリアが誤ってザンクティンゼルへと堕ちた事が始まりだった。ルリアを保護したジータは、カタリナと出会いジータは二人を逃がそうと戦いに加わった。だがその戦いで命を落としたジータだが、ルリアが自分の力で自分とジータ、二人の命を繋ぎ文字通り一心同体となる事で蘇生した。

 その身に秘めた、有り余る力を目覚めさせて。

 その後、運命共同体となった二人は、互いのために旅に出た。星の島イスタルシアを目指して。

 旅の中で仲間も増やし、帝国の妨害や野望を打ち砕き進む彼女達。だが団員全ての悩みの種は、他ならぬ団長ジータだった。

 強い、強すぎる。ジータは強すぎたのだ。一度命を落とし復活した彼女は、まるで何かの枷が外れたかのように強靭な肉体と溢れる力を得ていた。向かう所敵無し、戦略的苦戦はあれど彼女自身の実力で苦戦した事が今の所ない。しかもその強さは、成長を続けていた。

 一度相対した全空でも恐れられ”化物”とも言われる七曜の騎士が一人”緋色の騎士バラゴナ”をして「あの人に負けず劣らず、化物ですね……貴女も」と冷や汗を流し言われたのは、彼女ぐらいだろう。なお、直後「体も温まってきました! さあ、続きしましょう!」と疲労の無い笑顔で剣を振り回すジータを見て、流石にバラゴナも真顔で固まっていた。

 強さは、騎空団を率いる団長であれば損な事ではない、むしろ必要な事だ。だが「ジータの事で」と聞いただけでカタリナが顔を強張らせる理由は、ジータが強い上にトラブルメイカー&トラブル大好き人間と言う事だろう。

 どこに行こうとトラブルを起こし、或いは巻き込まれ。そして嬉々としてそれを解決する全空一のお人好し、それが彼女なのだ。

 聞こえはいいが、仲間は大変だ。ただでさえ「あの【ジータと愉快な仲間たち団】の仲間か」とか言われるのに、トラブルに巻き込まれるのだ。なまじしっかりトラブル解決して感謝されてるから文句も言えない。

 もう少し落ち着きを持てばいい、そう団員達は願い、誰よりも彼女と過して来たビィはもっと強く願っていた。

 

「ま、まあ話は聞こう……」

「オイラ達、ザンクティンゼルを旅立ってだいぶ経つだろ?」

「そうだな」

「それはつまり、ジータが兄貴と会わなくなって長いって事なんだよ」

「兄貴?」

 

 はて、ジータに兄弟はいたろうか? カタリナは、首を傾げた。

 

「ほら、姐さんも会ったろ? 見送りの時にクッキー焼いて来た奴だよ」

 

 ビィに言われ思い出す。ジータに貰ったやたら美味しいクッキーを焼いて来たと言う男のぼやけたシルエットを。

 

「……あ、ああっ! いたな、そう言えば……クッキーの美味しさ以外、印象が妙に薄くて思い出せなかった」

「兄貴……本人がいなくても不憫な……」

 

 ビィの言う兄貴、それは【星晶戦隊マグナシックスとB・ビィくんマン&均衡少女ZOY】の団長の事だ。家が隣で親のいないジータとビィ、その普段の面倒を見ていたのは、彼だった。故に二人とも、少し年上の彼を「お兄ちゃん」「兄貴」と慕った。

 

「それで、彼に会えないと何か不味いのか?」

「ああ……そろそろ”お兄ちゃん分”が足りなくなる頃合いなんだよ」

「……すまん、ビィ君。もう一度たのむ」

「だから”お兄ちゃん分”が足りなくなるんだよ、ジータの」

 

 カタリナは眩暈がした。日ごろ滅茶苦茶なジータだが、またよくわからない設定が出て来た事に頭痛も感じた。

 

「うん、気持ちはわかるぜ姐さん」

「……その、お兄ちゃん分とは?」

「ジータが言うには、自分が生きる上で欠かせない癒しと、栄養と、デトックス効果と高揚効果とテンションが上がる効果がある成分だってさ」

「……それは、彼に会うと補給されるのか?」

「らしいぜ?」

(……そうか、あの男もまた【生きる上で欠かせない癒しと、栄養と、デトックス効果と高揚効果とテンションが上がる効果がある成分】を持つルリアと同じ生きた神秘だったのか……)

 

 カタリナは、一時思考を放棄した。

 

「冗談はともかく、結局何が問題なのだ?」

「ようは、ホームシックみたいなもんだよ。兄貴に会いたくてたまらなくなるんだ」

「……それだけなら、問題なさそうだが」

「ああ、それが……お兄ちゃん分不足状態のジータのやつ、普段より妙にトラブルに巻き込まれるみたいでさあ……ザンクティンゼルにいた時も、一日二日お互い用事とか重なって近所なのに会えない時あったんだけど、そしたら山で竜巻が起きたり、一度も降った事がない雹が降りだしたり何かとあってさ……」

 

 お兄ちゃん分不足は、気候まで変えるらしい。論文にしたら、大発見だなとカタリナの頭脳は、思考の放棄が進んでいた。

 

「待て待て、ザンクティンゼルを発って一日二日どころじゃないぞ? なぜ今になって……」

「なんか兄貴と交渉して、兄貴が使ってた毛布とクッション貰って来たんだってさ……けど、その効力がそろそろ」

「中毒患者か何かか彼女は……」

 

 そしてそれが自分達の団長である事を思い出し、カタリナも椅子に座りため息を吐いた。

 

「それじゃあ、そろそろ我々はまた何ぞトラブルに巻き込まれるのだな……」

「いや、まあ兄貴に会えば多少解決するんだけどな」

 

 あくまで”多少”だけどよ、とビィは付け加えた。

 

「それもそうか……だが今からザンクティンゼルへ戻るのは、結構な時間を要するぞ?」

「それがよ、前よろず屋が噂の【星晶戦隊マグナシックスとB・ビィくんマン&均衡少女ZOY】の団長が兄貴だって教えてくれたんだ」

「……何だって?」

 

 星晶戦隊(以下略)。その名は、自分達が騎空団として活動し始めて少し経ってから轟きだした騎空団の名、カタリナはそのぶっ飛んだセンスの名をよく覚えていた。

 

「オイラ驚いたぜ、まさか兄貴まで空に出てるなんて。しかもあの星晶戦隊(以下略)の団長って言うんだからよ!」

 

 今までと一転してビィの表情が明るくなった。

 

「実を言えば、オイラも兄貴に会えなくて寂しくってさ……その内会いに行こうぜってジータに言おうと思ってたんだ。けど今空にいるなら、もしかしたらザンクティンゼルに行かなくても直ぐ会えるんじゃないかって考えてて」

「そうか、そうすれば必然的に……」

「ジータのお兄ちゃん分不足も解消されるってわけだよっ!」

 

 ビィとしては、兄貴と慕う彼に会いたいと言う思いと、ジータの【お兄ちゃん分不足症候群による、偶発的天変地異とトラブル】の頻度と被害を少しでも小さくしたい切な願いがあった。それは、この話を聞いたカタリナも同じである。

 

「近くシェロカルテ殿に頼んで会わせてもらっても、いいかもしれないな」

「だなっ! よろず屋なら、騎空団との連絡を取るぐらいできそうだしよ!」

 

 ジータのお兄ちゃん分不足症候群を解消する手段を見つけられた事に喜ぶ二人。だがカタリナは、一つ気がついた。

 

「解決手段があるなら、何故あんなに悩んでいたんだい?」

「それは……姐さん、星晶戦隊(以下略)の名前ってどう思う?」

「どうって……それは、まあ」

「オイラ正直うちの団名より酷いと思うぜ……しかも、何故か知らねえけど、オイラの名前入ってるし」

「ああ……何故だろうな」

「B・ビィってなんだよ……兄貴、どうしちまったんだよう……」

 

 ビィは知っている。自分が兄貴と慕うあの男が、ジータに普段から振り回され彼女の絶望的ネーミングセンスにも頭を悩ませていた事を。だからこそ解せなかった。彼に限って、何故こんなジータを上回る酷過ぎる団名を付けたのか。

 ビィは知らない。兄貴と慕うあの男の元には、ジータと同等かそれ以上のトラブルメイカーで、彼の胃を痛ませ、団の資金を圧迫し、借金を増やす者達が多く集まり、その者達の所為で自身の考えた団名が採用されるどころか、クソ長い団名にされ、更に初期メンバー(しかも団長)にも関わらず名前を入れるのを忘れられていた事を。

 きっとこの事を知ったらビィは涙を流すだろう。

 

「ま、何にしてもよろず屋に会わねえとな」

「では島についたら会いに行くとしようか」

「ああ、久々のアウギュステだから楽しみだぜ!!」

 

 ビィ達が乗る騎空艇、蒼き飛竜の如き姿。グランサイファー、その巨体は真っ直ぐに海の島アウギュステを目指す。

 だが、もう一つ……ビィは知らなかった。最近追加された「星晶戦隊(以下略)の団長は、巨乳好きでロリコンの苦労人」と言う諸々の噂をジータが既に耳にしている事を。

 既に波乱の種は、芽生えていたのだ。

 

 ■

 

 一 行くぜギュステ

 

 ■

 

 なんか、めっちゃ嫌な予感がした。

 え、なんで? 俺普通に甲板でクールに決めて考え事してただけなのに。どっかで誰か噂してる……いや、されるわ。と言うか最近噂しかされてないわ。持ちきりだわ、ろくでも無い噂で溢れてるよ最近。なんだってロリコン疑惑をかけられねばならんのだ。俺が何をしたって言うんだ……。

 次もし仲間にするなら、男の人にしよう……なるべくゴリゴリのマッチョさんにしよう。そうすれば、ロリコンとかなんてクソな噂は消えるはずだ。最悪でもコーデリアさんとかの様な大人の女性である必要がある。

 そう言えば俺のロリコン疑惑を強める一因となった一人、ルナール先生が仲間になって、セレストは殆ど彼女の部屋に入り浸っている。元々倉庫の隅の暗い場所を気に入ってジメジメとキノコのように生活していたセレストだが、多少社交的になったと思った。だが、ルナール先生の部屋は、一部屋あげたその日のうちに魔窟と化した。持ち込んだ彼女の絵の資料が積み上げられ、そして先生自身の絵で更に埋まった。それを見に行くセレスト。二人の生活リズムは、殆ど同じで更にどちらも暗くジメジメした場所を好んだ所為でセレストはただいる場所が変わっただけだった。

 今日も彼女は、ルナール先生の部屋でなにかの作品の話を聞いたり、絵の練習したりしてんだろう。まあ趣味が出来たのは良いことだよ。ルナール先生の趣味が趣味なだけに、若干不安なのも事実だが。「受け」「攻め」とか廊下ですれ違う時になんか呟いてるんだよな……。

 まあ今はやっとアウギュステに辿り着くことの方を考えよう。一々受けた依頼が面倒な事になって、移動も遅れに遅れたからな。同時に仲間も増えたが大変な道中であった。もう一時間もすればアウギュステ、暫く羽伸ばせるかな。

 

「ああ、こんなとこにおった」

 

 甲板でアウギュステでの事を考えていると、カルテイラさんが声をかけてきた。

 

「部屋にも食堂にもおらんから探したで」

「あ、そりゃすみません。なんか用ですか?」

「いや、うちって一応アウギュステまで乗せてってくれっちゅう話しやったやろ?」

 

 ああ、そう言えばそうだわ。なんか凄く馴染んでたけどこの人アウギュステまで運ぶという話だったな。

 

「アウギュステでも商売ですか?」

「もちのろんや。アウギュステは、空域でも一二を争う観光地で商売激戦区。当然人はぎょうさん集まる。やり方さえうまけりゃ、ちょっとした屋台でも相当稼げるで」

「逞しい事で」

「そっちは?」

「もちのろん、バカンスですよ」

「はは、そらええわ」

 

 ふらりと一度だけ寄った事のあるアウギュステ。観光どころか、シェロさんから依頼の話聞いて終わったのだ。信じられねえ。

 

「もうね、しばらくは休みますよ俺は、もう疲れたわ。肉体と心が休息を求めてるのがわかるね」

「そら疲れるやろなぁ……他の騎空士でこんな疲れる仲間率いる団長そうおらんわ」

「わかってくれますか……」

 

 アウギュステでは何しようか。噂の海は、遠目で見ただけだからなあ、砂浜でのんびりして、海で泳ぐってのは当然だよなぁ。名産の海産食いまくるのもはずせねえな。ああ、あと船だ。騎空艇ではない水上を進む船も乗りたい。

 

「アウギュステはええよぉ。食いもん、名所目白押し。一日二日じゃ足らんわ」

「滞在日数は、しっかり一週間を予定してます」

「遊び倒す気満々やな」

「まだまだ遊び盛りの少年なので」

「せやったな」

 

 あれもこれも、なんでもやりたい。ギュステが俺を、呼んでるぜ。

 

 ■

 

 二 水の島、海の都

 

 ■

 

 来たよ、ギュステに。

 ああやっと着いた。もう俺の心はウキウキだ。海ですよ海、島に着いただけでもう磯の香りがする。流石海の島、改めて見て凄さがわかる。島の殆どは、広大な塩水の水溜り【海】になっている。巨大な湖等は、他の島にもあるがここまでの規模の水溜りがあるのは、ファータ・グランデ空域でアウギュステだけだ。団員の何人かも、海は初めてなのか甲板から身を乗り出して眺めていた。

 

「ヒャッハーッ!! なんだァありゃあっ!! 馬鹿デケェ水溜りじゃねーかァーっ!?」

「あはははっ!! あ、あれが、わはっ! う、噂で聞いた……うっふっ! う、海か……っ」

 

 特にハレゼナやルドさんの興奮具合は、他より大きい。ルドさんなんかは、元山賊らしいので、本当に珍しいのだろう。島上空からでも首都と観光地の砂浜が見える。水があるところ人は集まるが、ここは別格だな。アウギュステは、アウギュステ列島特別経済協力自治区と正式に呼ばれるが納得だ。カルテイラさんが商売に来るのも頷ける。

 騎空艇停泊は、島の特性故に島の岸壁への停泊ではなく、海への着水になる。その後桟橋付近に止めるのだがこれも初見組には、中々衝撃だったようで驚いていた。かく言う俺も、まだ水へ直接騎空艇が降りるのに慣れていない。楽しいけどね。

 

「これ……結構大変なんだよね……」

 

 普段そうは見えないが、エンゼラの操縦を殆ど全て担っているセレストは、水上への着水を何時もより慎重に行う。船型星晶獣時代でも着水経験など無かったと言う。もしうっかり速度上げたまま角度間違って着水すると、そのまま水に弾かれ最悪バラバラになるから神経質になる。その姿に、何時もありがとうと手を合わせておく。ありがとう。

 てなわけで、無事アウギュステへと来ました。

 

「ほな、うちはここで」

 

 停泊の申請をしに行く時カルテイラさんが沢山の荷物を背負って挨拶をしに来る。

 

「ここまで助かったわ、ほんまおおきに」

「いえいえ、俺も助かりましたから」

「面倒事もあったけども」

 

 それ言われちゃうと弱いなあ。

 

「はっはっは……面目ない」

「にしし、まあお互い様や。うちミザレアの“願い橋”近くで店出すよって、暇あったら見に来てや」

「勉強してくれるなら行きますよ」

「うちは勉強熱心やでぇ~」

「だと思った。それじゃ、また会いに行きますね」

「ん、ほなな~」

 

 手を振って去っていくカルテイラさん。短いながらも、濃い時間を過ごしたので、少し寂しいが時間もたっぷりあるし、アウギュステ居る間また会いに行こう。

 その後滞りなく手続きを終えて俺達はついに街へと繰り出したのだ。

 

 ■

 

 三 星晶戦隊ご一行様

 

 ■

 

「自由行動に入る前に、言っておくことがある」

 

 宿泊する宿に荷物を置いて部屋も割り振った後、解散する前に団員全てを集めた。この後は、もう全員が自由行動でたっぷり一週間羽を伸ばす。故に、俺はちゃんと話しておかねばならない。

 

「我ら星晶戦隊(以下略)は、これから完全自由行動に入り誰かと行動するも、一人で行動するも自由だ」

「早ク行カセロヨ」

 

 うるさいよ、ティアマト。もう既に着替えて完全に遊ぶ気満々の服装じゃねーかこの野郎。セレブ気取りの服着やがって、なんだそのデカイサングラスは? ファビュラスだろうって? 知らんがな、割るぞ。

 

「いいかね皆の衆、こうやって話を遮って勝手な行動をしようとする奴がいる。俺は大変その事が心配です」

「引率の先生みたいね」

「彼は何時もこの様な立ち位置なのだよ、ルナール」

「それは予想出来てたわ」

「我々でフォローもしているのだがね……」

 

 うんうん、ルナールさんもこの数日ですっかり馴染んでくれたね。コーデリアさんの言う事に自分の事ながら眩暈を感じたが今はいいや。

 

「いいかっ!? 自由行動とは言ったが、常識をもって行動しろよっ!? 非常識な買い物、他人への迷惑は禁ずる! 特に(笑)共、と言うかティアマト!!」

「名指シッ!?」

「てめえ前の音楽隊の事忘れたと言わせねえからなっ! 高額な物で欲しい物があったらまず相談しなさいっ!! もし勝手に団の金でクソ高いもん買ったらただじゃおかねえからな、肝に銘じとけよっ! マジでっ!!」

「ハイハイ、ワカリマシタヨー」

「……」

「ア、 ハイ。ワカリマシタ、ダカラソノ火属性ソードシマッテ」

 

 後でそれとなくコーデリアさんかブリジールさんに監視を頼んだほうがいいかもしれん……考えておくか。

 

「と言うわけで、ぶっちゃけアホな買い物や行動しなきゃもういいです。はい、解散」

「実質ティアマトへの注意だったな」

「(´・ω・`)コリナイカラナァ」

「ウルサイッ!」

 

 シュヴァリエ、コロッサスの呟きに顔をしかめているティアマト。星晶戦隊同士でもすっかりこんな扱いか。

 俺からの諸注意も終わったので、後はそのまま皆は思い思いに行動を開始する。

 

「私達は、観光がてら団長の情報を集めるとするよ」

「シャルロッテ団長も来てるかもしれないです」

 

 リュミエール組は、本来の目的も忘れていないので実にしっかりしてるなあ。

 

「アウギュステの軍ってのは、ほとんどが傭兵らしい。かなりの手練れもいると聞いたからちょっと語り合ってくるぜっ!」

 

 フェザー君、君はほんと変わらないね。観光しないの? あ、こっちの方が楽しい……はい、じゃあうんもういいです。怪我しないでね。

 

「アウギュステにも色々美味しいお酒があるからにゃ~今からはしご酒にゃ~」

 

 この人も変わらねえなあ、まだ日も高いのに……さっきも言ったけど、常識ある行動を心がけてね? あと吐くなよ? 絶対だぞ? 団長との約束だぞ? 

 

「人が多いからね、色んな答えが聞けるね」

 

 そう言ってクルクル回り飛んでいく我が団の哲学者。この人も他の人に迷惑かけないといいけど。

 迷惑と言うとあとの問題児達。

 

「ルドさんとハレゼナは、一人で行動しないで下さい」

「あはは、だ、だろうね……いひひっ!」

 

 なんなら部屋でじっとしてて欲しい二人組みだ。特にルドさん。しかしここまで来てそれはあんまりだ。

 

「ルドさんは、発作起きた時対処できる人と行動する事。今日は、シュヴァリエが一緒に居てくれますから」

「発作が起きても直ぐに気絶させてやる」

「お、お手柔らかに、はははっ! たの、む……うひひっ!」

「それと、主……この任を終えたら」

「ハレゼナは、そうだな」

「無視、放置プレイか……悪くないなっ!」

「君は、色々と、ぷふふっ! て、手遅れだなぁ」

 

 変態の相手は疲れるからね。仕方ないね。

 

「ハレゼナは……よし、B・ビィ頼んだ」

「な、なにぃっ!? あ、相棒まてそれは」

「トォ~カゲ~!」

「んぎゃおっ!?」

 

 無残B・ビィは、ハレゼナに抱きしめられた。計画通り。

 

「ハレゼナ、B・ビィの言う事よく聞くように。変な事しちゃだめだからね」

「任せろぉ! さぁ~トカゲェ~一緒にお出かけ、しようナァ?」

「あ、相棒、まって……く、くそぉ……これは、特異点【るっ!】の影響か……っ!? 力が……ち、ちくしょぉ──っ!!」

 

 久々に特異点【るっ!】が出たな。まあ奴の言う事は、よくわからない事しかないので無視しよう。頑張れB・ビィ、ハレゼナに外の楽しみを教えてやれ。

 

「ゾーイは?」

「私は、コロッサスとユグドラシルとで食べ歩きにいくよ」

「────♪」

「カイセンリョウリ(*´ω`*)タノシミダネ」

「今日の分のお小遣いだと、どれぐらい回れるかな?」

「────? ────♪」

「ショニチダカラ(*`・ω・)ヨウスミデイコウ!」

 

 平和だ……すさんだ俺の心が癒されていく。コロッサスは、店の入り口気を付けてね。

 

「あれ、そう言えばセレストは?」

「もうルナールと出かけたぞ? アウギュステでしか見つからない本を探すと言っていた」

 

 あの二人、好きな事への行動は、妙に早いな。インドアなのかアウトドアなのか分からん。

 

「リヴァイアサンは、こっちの自分に顔出しに行くんだよな?」

 〈ああ、直ぐにでも会いに行く〉

「じゃあ、俺も行くわ。一応顔を出した方がいいだろうし」

 

 海にさえ行けば何処でもいいらしいので、近くの海岸に行けばいいだろう。

 さあ、俺達のアウギュステ一日目が始まるぞ! 

 

 ■

 

 三 楽しい一週間が始まる。とでも思っていたのか? 

 

 ■

 

 〈最近、海水がちょっと肌にキツク感じてきてな……〉

 〈たまには汽水域に入らないとダメだ。海水だけだと肌に悪い〉

 〈そっちはどうケアしてるんだ? 〉

 〈生け簀は、淡水で水質を軟水か中性にしてる。ただ、海水生活が長かったからかたまに塩水にしないと逆に鱗が弱るな〉

 〈いいな……こっちじゃプライベートな場所がないからな、勝手に水質を変えられん〉

 〈どこか人気の無い入り江がなかったか? そこでなら良いだろ〉

 

 女子か。

 もう一度言う。女子かっ! 

 うちのリヴァイアサンと一緒にアウギュステのリヴァイアサンに会いに来たが、二体の会話があまりに女子過ぎて言葉を失う。すっごいシュールだよ。二体の星晶獣が肌ケアの仕方を熱心に話し合う光景。しかも人型じゃないときたもんだ。と言うか、お前等肌じゃなくて鱗だろ。

 頭が痛くなりそうだったので、俺は早々にその場を後にした。付き合ってられん。リヴァイアサンは、暫く海に残るそうなので何なら最終日まで帰らんな。そう思うと(笑)の一体が一週間いないのでちょっと気が楽になった。

 だが呆れたやり取りを見た所為で初日も初っ端から疲れたな。いや、しかしまだ一日目、俺のアウギュステは始まったばかりだ。前向きに行こう。ほらもう既に俺の周りには、アウギュステ自慢の名産を扱う店が並ぶ。今の俺は、完全フリー、B・ビィも居ない。好きに出来る、選り取り見取り、さあ! どこから行こうかな! 

 

「うぅ……っ!?」

「あ、ご婦人大丈夫でありますか?」

「いってーなぁ、ババア? ちんたら歩いてるんじゃねーよ、邪魔だっ!」

「何を言っているでありますかっ!? 今のは、そちらからぶつかって来たではありませんかっ!」

「あ~ん、俺達が悪いってのかよ?」

「そう言ってるのでありますっ!」

「たくっなんだぁ? さっきからこのガキァ?」

「だ、誰がガキでありますか!」

 

 ……さあ、どこから行こうかなっ!! 

 

「お、お嬢ちゃん、私は大丈夫だから……およしよ」

「いえ、この様な非道を見過ごすわけにはいきませんっ!」

 

 …………さ、さあ、どこから行こうかなっ!! 

 

「おうおう、威勢のいいガキだ。一丁前に玩具の鎧に剣なんぞ持ちやがって」

「玩具じゃないでありますっ!! これは由緒ある騎士団の鎧であります! それにこの剣も」

「あーあーうるせえなぁっ!! 痛い目見たくなかったらとっとと消えなっ!」

「それとも俺達に喧嘩売る気かぁ? チビのくせによぉ!」

「ななな……っ!! ガキだけでなくチビとまで……も、もう許さないであります! 全員成敗するでありますっ!!」

 

 なんなのっ!! 何で態々一歩踏み出そうとした目の前で俺の行く道を全部塞ぐように老婦人が不良グループに絡まれてそれに割って入ったハーヴィンの女と不良グループの争いが起こるのっ!? 治めろってか、俺にっ!! 

 

「馬鹿がっ! かまわねえ、たたんじまえっ!」

「ヒャハハーッ! 身包みはがしてその鎧と剣売り払ってやるぜーっ!」

「しねぇ~~~いっ!!」

 

 俺は茶番か寸劇でも見せられてるのかな? なにこの絵に描いたような三下奴。馬鹿なの? だがハーヴィンの騎士(?)が悪漢に襲われそうになっているのは事実……しゃーない、助けに入るか。

 

「甘いでありますっ!」

「うごっ!?」

(おっと……これは)

 

 思わず感嘆の声を漏らした。ハーヴィン女性だからと甘く見てしまったなぁ、殴りかかる悪漢に対して難なく攻撃をかわし手に持つ剣の柄頭で鳩尾を突いた。相手はそのまま気を失ったようだ。

 

「こ、このガキ! もうただじゃおかねえぞっ!!」

「無駄口を話す暇があるなら、皆でかかって来てはどうでありますか?」

「な、舐めやがって~~くらえっ」

「まだまだっ!」

「ほげえっ!?」

「おい、なんだっ!? やべえ、強いぞあのハーヴィンッ!!」

 

 おーすげえ、すげえ。幅広の剣身部分の腹や柄頭の部分で血を流さず戦ってやがる。これは、助けいらないな。

 しかし、その動きの滑らかなこと、荒っぽい喧嘩しかした事無いのであろう悪漢達の大振りばかりの攻撃は、彼女にかすりもしない。同時に剣の重心を利用した攻撃は、見た目以上の攻撃力がある。回避に攻撃、小柄の体型をむしろ有利に使っている。ただのハーヴィンじゃねーなこれは……。身に着けている鎧も立派だし、どこぞの騎士様かもしれな……い……。

 

『捜索対象の情報は、その者がハーヴィン族であること』

『シャルロッテ・フェニヤ、我らリュミエール聖騎士団の現団長だ』

 

 俺の脳内で過去の情報が蘇る。見覚えのある蒼い鎧に剣、ハーヴィンの騎士。なんかリュミエール感あるよ……? いやいや、まさかそんな……こんな偶然ってある? ないない、俺の休暇一日目からこんな騒動の種に出会うなんてありえないって、マジで。

 

「口ほどにも無いであります」

 

 とか悩んでたらもう男達は、地面に伏していた。彼女が強いのもあったがやっぱ烏合の衆だったな。

 

「く、くそ……」

 

 あ、この野郎。

 

「しつこい、展開的にも大人しくせい」

「あひっ!?」

「むむっ?」

 

 彼女にやられて後ろで倒れていたが、ナイフを手にして起き上がった一人の男を拳骨で気絶させる。

 

「いらん手助けだったかな?」

「いえいえ、助かりました。感謝いたします」

 

 互いに挨拶。しかし彼女の顔より、その頭に載せた身の丈の半分ぐらいの冠が目に付く。40センチ程度かな? どうやっても視線がそこにいくな。

 

「むっ? どこを見ているでありますか?」

「冠」

「むむっ! 自分の顔はその下ですっ!」

「分かってますよ、視線合わせます?」

 

 だがそうするには、しゃがむしかない。子供に対する接し方だな。試しにしゃがんでみた。

 

「うぐぐ~……これはこれで、馬鹿にされてる気がするであります!」

「してるつもり無いですけどね」

「そ、それはわかってるでありますが……」

「ハーヴィン故致し方なし」

「はっきり言いすぎでありますっ!? もっと誤魔化すなどしないでありますかっ!」

「まあまあ。奥さん平気? 怪我してない? 荷物これで全部かい?」

「ああ、ありがとうね貴方達……」

 

 腰を抜かしていた婦人を助け起こしてのびた悪漢達は駆けつけた衛兵……ああ、アウギュステだと傭兵なのか? まあ担当の人達に任せた。まあこいつらはいいんだ、問題じゃない。問題は、悪漢達に立ち向かい数と体格の不利をものともしないハーヴィンの彼女。ああ違って欲しい、厄介事にならないで欲しい……だが確認しないわけには行かない、コーデリアさん達の依頼は、まだ生きている。もし彼女がそうであるのなら、コーデリアさん達に教える必要があるのだから。

 

「先程は助かりました。改めて御礼を言わせて欲しいであります」

「なに、あんたなら問題なかったんじゃないかな。けどあんた強いねえ、どっかの騎士かい?」

 

 それとなーく確認。いや、けど違う可能性の方が普通大きいよね? 早々こんな連続で島に立ち寄るたびに色々濃い人に会ったりなんてね? まさかまさか、そんな御冗談を。

 

「はい。自分は、かのリュミエール聖国を建国せし、誉れ高きリュミエール聖騎士団の現団長を務めております、シャルロッテ・フェニヤであります! 以後お見知り置きを」

 

 ……知ってたよ、この展開……。

 

 

 

 ──―星晶戦隊(以下略)、ギュステバカンス一日目。【ジータと愉快な仲間たち団】アウギュステ到着四日前の事であった。

 

 




一回目逃した分、プラチナ・スカイ楽しかったです。その内時系列関係なしで、話投稿したいね。マグナシックスは、出場させよう。そして多分本来の流れ以上に予選が荒れる。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。