俺は、スーパーザンクティンゼル人だぜ?   作:Par

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※このジータは、特殊な訓練を受けたジータです。


踊る大騎空団

 ■

 

 一 私(助け)待つわ

 

 ■

 

 帝国兵の隊長にシャルロッテさんとの過ち(誤解)をネタに脅され仕方なく捕まってしまった俺は、帝国がアウギュステで使用している軍事拠点である砦に連れてこられた。帝国兵は、皆忙しいのか尋問らしい尋問は後にされて俺達は、砦地下にある地下牢へと入れられた。省エネモードのコロッサスは、かなりギリギリだがよく入ったもんだ。

 今俺の両手には、冷たい鉄の枷がはめられている。如何にも囚われた人間スタイルである。しかも特別製の枷で無理やり外そうとしたりするとビリビリくる厳重なやつ。

 なおこの枷がはめられたのは、俺だけである。他の奴らは、普通の枷。こうなったのも呆れた理由で悲しくなる。

 

「おめえ、こんなんどうすりゃ拘束なんてできっぺ?」

「マァ……(´・ω・`)セイショウジュウデスカラ」

 

 これコロッサスをどうすればいいか困ってしまった帝国兵とコロッサスの会話ね。

 

「困ったな……対星晶獣用の装備は、本隊が持っているものだけだしなあ」

「ナンカ(;´・ω・`)ゴメンネ」

「いやお前が気にするな……しかし形ばかりでも一応は、拘束しないとなぁ」

「なんもしないって看板持たせとくべか?」

「うーん、そうするか?」

「駄目に決まってるだろ……」

 

 何だよこの会話ってなる。元帝国兵のファラちゃんも呆れた様子だ。

 何より惚けた感じの兵二名に頭を抱えるのは、俺達を見つけたあの少年ユーリ君。彼自身もどうしたものか悩んでいるが周りが緩い所為で余計に悩んでしまっているようだ。何となく親近感が湧いた。だからか俺は、始終あーでもない、こうでもないとオロオロと困った様子の兵を見かねて思わず「もう俺を人質って事にしときなさいよ……」と呆れて助言をしてしまう。結局【星晶戦隊マグナシックスとB・ビィくんマン&均衡少女ZOY】の団長である俺をきつ~~~~くビリビリの枷で拘束。しかも鍵を持っている人間の意思一つでもビリッとくるので「変な事したら団長が大変だぞ」と言う事にした。これで一応は、コロッサスとゾーイにB・ビィの行動を防ぐ事が出来たと思い帝国兵は、ホクホク気分だった。

 

「なんか……すまんな」

「気にすんなって」

 

 捕らえた敵のアドバイスで喜ぶ仲間を見て複雑な心境のユーリ君であった。

 

「それで俺達は、これからどうなるの?」

「俺達の作戦が終わるまでは、ここで大人しくしていてもらう。それが終われば護送だ。その時は、星晶獣用の拘束具もあるからな」

「自分もっすか!?」

「そもそも脱走兵として手配されてるんだから当然だろう」

「と、とほほっす……」

 

 しょんぼり項垂れるファラちゃんは、何処と無く子犬的雰囲気が出ている。まあ先輩とやらを追いかけて来たのだから忠犬っぽくもあるか。

 

「ユーリッ!」

 

 その時、牢に通じる階段からユーリ君を呼ぶ声がした。さっきの部隊の仲間だろう。

 

「ジック、どうした?」

「ポンメルン大尉が到着された」

「大尉が?思ったより早いな」

「ああ、直ぐにでも作戦開始だ。ともかく急げよ」

 

 戻っていく帝国兵。どうやら事態がより進み出したらしい。

 

「それじゃあ俺は、作戦に戻るが……当然見張りはある。可笑しな真似は止すんだな」

 

 俺達を牢屋に詰め込んでやる事終えて去ろうとするユーリ君。だがその前に聞いておきたい事がある。しかし扉が完全な鉄格子じゃなくて重い鉄の扉に小さな格子窓があるだけなんで見え辛い。

 

「なあなあ、ねえちょっとユーリ君!」

「ユ、ユーリ君?急に君付けかよ……」

 

 気にするな。それ以外呼び方思いつかないから。

 

「それで、なんだ?急いでるんだから手短にな」

「あのさ、今回の帝国の作戦ってアウギュステの島が沈んだりとかやばい事してる?」

「はあっ!?」

 

 俺の質問に驚くユーリ君。ついでにファラちゃんも結構驚いた様子だった。もっと回りくどく聞いても良いんだけどどうせ答えられないだろうからね。揺さぶるつもりでドストレート直球投げ。

 

「お前何馬鹿な事……そもそも部外者のお前に作戦内容を答えられる訳が無いだろう!」

「まあそうなんだけどさ……ただ前帝国がアウギュステで戦争してた時なんかは、海で結構エグイ事したらしいじゃん?」

「そ、それは……」

「今回も何してるか知らないけど……なーんか嫌な感じするからね。俺こう言う勘当たるんだ」

 

 本当に、実に、真に遺憾ながら俺の嫌な予感は、ほぼ100%当たる。まったくもって不本意であるが。

 

「……今も言ったが答える必要は無い」

「ま、そだよね」

「だが……俺は、帝国兵として誇りがある。戦いを避ける事は、出来ないかもしれないが……無関係の人間を巻き込むような真似は、決してしない」

「本当かねえ」

「ああ、帝国の正義にかけてな」

 

 そう言ってユーリ君は、行ってしまった。自身満々に「帝国の正義」と言ったけれど生憎俺は、それこそが信用ならないと思ってるのだ。その正義とやらに幼馴染殺されてるんですよ。まあ数百倍強くなって生き返ったけども……それとこれとは、話別なんで。

 あと一応俺も無関係の人間だったと思うのですがそれは……。

 

「はあ~もういいや、疲れた」

 

 俺はそのまま固い牢の床に寝そべった。せめて藁でもいいから欲しいもんだ。

 

「お兄さん……すみませんっす。自分と居たせいでこんな事に」

「気にしなくていいよ。運が悪かっただけさ」

 

 そう本当に運が悪かっただけだ。そして俺は、何時も運が悪い。何故でしょうねえ?ははは。

 

「で、どうするんだい団長?」

「必要なら枷全部外してやるぜ?」

「いっ!?そ、そんな事できるっすか!?」

「はいはい、声小さくねファラちゃん」

 

 B・ビィの発言に驚くファラちゃんを大人しくさせる。見張りに聞かれると面倒になる。一応牢の奥で小声で話す。

 B・ビィの言う通りこの程度の枷は、簡単に破れる。確かにビリっと来るが俺にとってはそれだけだ。普通なら気絶するようなビリビリだろうが強烈な麻痺や帯電訓練を施された俺を舐めてはいけない。なので脱出も反撃も簡単だ。彼等が勝手にこれで俺達を拘束出来たと思っているだけである。

 

「まあ今は、待ちだわな」

「待ちっすか?」

「そそ、待ち。彼、ユーリ君は、かなり帝国に対して信頼があるようだけど多分今回も帝国の奴ら馬鹿な事してるよ」

「だろうなあ。そもそも海岸や珊瑚礁での作戦だけじゃなく市街地まで出てきてるわけだろ?ありゃなんかしてるぜ」

「恐らくだが星晶獣関係だろう。帝国が行動を開始してからか一つの星晶獣らしき反応が活発化している」

「タダチョット(-ω- )ヨワッテルカンジ?」

 

 やっぱそうか。ゾーイ達が言うならほぼ間違いないんだろうなあ。コロッサスの言う弱ってる感じと言うのが気になるがそれも帝国の所為なんだろう。

 

「あいつら対星晶獣用がどうの言ってたな。捕まえる気か?」

「出来ない事も無いだろう。理に反する力を使えばの話だが」

 

 ティアマト達も一度は、帝国の手によって暴走させられている。やろうと思えば出来るって事か。

 

「そうなってくるとそう時間もかからないで騒ぎが起こるな。その時に動くとするか」

「多分今頃フィラソピラがティアマト達にこの事知らせてるだろうから派手になるぜ」

 

 B・ビィよ、お前は何楽しそうにしてるんだ?俺は、どうしようもないから状況を受け入れてるけど本来俺は、アウギュステのバカンス中なんだぜ?バカンス六日目を牢屋で過ごすとは、思わんかったよ。

 だがここまで来ては、考えを変えるしかない。

 

「帝国の拠点に来れたのは、むしろラッキーだったかもしれんな。ティアマト達が来たら内と外から攻めれる。ついでにアウギュステでの企みも潰すかぁ」

「だな!」

「皆の荷物も回収しないといけないしな」

「アトデバショ(*´・ω・`)シラベナイトネ」

 

 あれ失くすとティアマトの辺りがうるさいだろうからな。しっかり回収させてもらわんといかん。

 

「お、お兄さん達って……何者っすか?」

 

 俺達の会話を聞いて驚いたままだったファラちゃんが困惑した様子で聞いてきた。ついで感覚で帝国の企みを潰そうとしているので困惑するのも無理ないか。

 しかし何者か……こう言う質問ってちょっといいな。始終印象無茶苦茶だしここは、ちょいと格好良く決めていきたい所だ。「見ての通りのただの騎空士さ……」なーんて悪くないんじゃない?

 

「見ての通りの」

「幸薄い地味な男だよ」

「おい」

 

 B・ビィに重要な所を台無しにされた。

 

「あー……」

「おい」

 

 ファラちゃん?あーじゃないよ何納得してるのかね?

 

「まったく……じゃあ俺寝てるわ。なんかあったら起こしてね……」

「うん、わかった」

 

 精々一、二時間ってところかな。果報かどうかは、不明だが寝て待つとする。ぐー。

 

 ■

 

 二 帝国の者達

 

 ■

 

「隊長!こちらは、異常ありません!!」

「よし!」

「隊長、あちらで村の役員会議を開く時間だからあまり騒がしくするなと抗議がありました!!」

「うむ!貴様ら!役場近くでの活動は、なるべく静かに行えっ!!」

「サーッ!イエスッ!サーッ!」

「隊長!飼い犬が迷子になって泣いている子供が作戦範囲に侵入しましたっ!!」

「よーしっ!貴様ら!その子供は、速やかに家に戻して邪魔な犬も見つけ次第回収して家に帰しておけっ!!」

「サーッ!イエスッ!サーッ!」

 

 湾岸部に近い村で活動するユーリの隊。団長達を捕らえた後に直ぐ帝国の本隊と合流。その本隊が重要な作戦を行っている間邪魔が入らないようにするのがユーリ達の任務だった。

 そんな中ユーリは、一人散漫とした気持ちであった。本隊が行っている任務をユーリは、全て知っている訳ではない。ただ一つ「艦上物資の確保」についての話を聞いた程度であった。

 

(そもそも物資確保の任務で何故星晶獣用の装備を……今回の作戦は、星晶獣が関わるのか?ただの物資確保に何故……)

 

 団長達を牢に入れた後彼らの指揮を執る人物ポンメルン大尉が現れる。今回のアウギュステでの作戦全てを指揮するポンメルンは、詳しい作戦内容をユーリ達には、告げる事無く急ぎ作戦が開始されたのである。

 ポンメルン等本隊の兵達全ての装備は、明らかに物資確保の任務に当たるにしては、過剰と思えるものであった。それだけであれば如何なる状況でも対応出来る様にと言う事でまだ納得も出来る。だがそれに加えて彼らは、今回の作戦のために対星晶獣用の装備が配備されていたと言うのである。

 砦を発つ前に団長から言われた「島が沈む」と言う話が頭を過ぎった。ただの物資確保であればその様な事態になるはずは無い。だが星晶獣が絡むとなれば話は別である。

 何か自分の知らない所で異常な事が行われているのではないか?具体的な作戦内容を知らされていない事に対する僅かな不信感が彼の中に芽生える。だが彼は、それを直ぐに追い払った。

 

(俺達には、教えられない重要な作戦と言うだけだ……何を疑う事があるユーリ。今は、任務に集中しろ)

 

 その疑惑は、ただの雑念だと決め失くすよう努力する。それも帝国を信じるが故である。

 

「ユーリっ!」

「はっ!?」

 

 不意に隊長に呼ばれ驚く。急ぎ振り返ると直ぐ近くにまで隊長が近づいていた。

 

「貴様……なにをぼーっとしている!」

「も、申し訳ありませんっ!今すぐ配置に戻りますっ!」

「馬鹿者っ!聞いていなかったのか!先程作戦が完了した。既に撤収の作業が始まっている!」

「えっ!?」

 

 しまった、とユーリは思った。あまりに考え事に集中してしまい隊長の指令まで聞き逃していた。幼稚な失態を恥じて先程のまでの自分を殴ってやりたい気持ちになった。

 

「砦を出てからどうも様子がおかしいが……あの小僧に何か言われたか?」

「え?あ、いえそ、そのような……」

 

 図星であった。思わずしどろもどろになる。

 

「嘘の苦手な奴だ。そう言う所も父親によく似ている」

「それは……その……」

 

 この隊長が自分の父と古くからの馴染みである事は、ユーリはよく知っている。ユーリの父もまた帝国軍人であったが最近事故で亡くなった。彼の父を知る人間の多くがその死を惜しみ隊長もその一人であった。隊長の声に亡き友を懐かしむような感情があったのは、ユーリの気のせいでは無いだろう。

 

「大方作戦に対しての疑問を持ったな?」

「うっ」

 

 自分の様子からそこまでを察する隊長に驚きながらユーリは、どう誤魔化すか考える。しかしその様子すら隊長は、面白そうに見ていた。

 

「よせよせ、貴様に上手い言い訳が出来るものか」

「うぐ……」

「……いいかユーリ」

 

 からかう様な口調から一転し隊長の言葉が強くなる。兜のスリットから見える視線にユーリは、緊張して固まった。

 

「貴様が帝国軍人であるならば作戦に一切の疑問を持つな」

「は、はいっ!」

「今は、ただ任務に集中しろ。我々は、大尉から任された任務を行う。それだけだ」

「りょ、了解しました」

「……ユーリよ、軍に入隊し暫く経つがお前は、まだまだ若い。上の行いに疑問を持ちそれが正しいのかと思う事もあるだろう。それは、人間として当然の事だ」

「ですが……自分は、帝国軍人です」

「……それがわかっているならば、これ以上俺から言う事は無い」

 

 軍人であると言う事。それは、実に厳しい環境に身を置き続ける事である。不安、疑問、恐れ、それら感情を殺し軍人として任務を全うする。そうである事は、いまだ若きユーリには、難しい事であった。

 

「第一貴様のように真直ぐな奴が悩んだ所で意味などあるまい」

「た、隊長ぉ……それは、あんまりです」

「馬鹿者落ち込むな。それに貴様は、うじうじ悩むより動いてる方が性に合っている」

「確かに、そうです……」

 

 隊長の言う通りであった。そもそも自分は、座学も嫌いでは無いがそれ以上に体を動かす事の方が向いていたから兵士となれたのだとユーリは思い出した。

 

(そうだ。今は、ただ任務に集中しろ……仮に星晶獣が関係しているとしても

 早々島が沈むような事にはならない。事実今も無事作戦は、終了したじゃないか)

 

 先程までの考えは、団長の言葉で生まれた雑念、気の迷い程度の事。今度こそ気持ちを切りかえてユーリ達は、一時自分達の基地であるカルナ砦へと戻って行った。

 自分達に迫る星晶獣など比較にならない脅威に気がつかず、既に砦の中にもその脅威と同等の存在を招いている事も知らずに――。

 

 ■

 

 三 大怪獣ジータゴン

 

 ■

 

 カルナ砦に到着したユーリ達は、直ぐにアウギュステを発つための準備を始めた。今回の任務のために持って来た荷物をまとめ全て船に運ばなければならない。一部上官を除いて殆どの兵達が慌しく動いていた。

 

「結局今回手に入れたって言う“物資”ってなんだったんだべ?」

「いんや知らん。ただ水源がどうのって大尉の部隊の奴が話してるのを聞いたけどな」

「って事は、海水でも汲んだべか?」

「あんなしょっぱいもんあっても仕方ないだろ。塩抜くのも大変なんだぞ」

「おい、お前ら……」

 

 だが中には、この様に雑談をしながら働く者もいる。ユーリの仲間であるジックとハーパーは、今までもこの様な暢気な雰囲気で仕事をして来た。それに毎度同僚のユーリは、悩まされている。

 

「時間が無いんだ。口じゃなくて手を動かせ」

「わかってるさユーリ。けど気にならないか?星晶獣用の装備まで持ち出した作戦って」

「俺ぁ気になってしょうがねえべ」

「そりゃ気にもなるさ……だが考えた所で俺達にそれを知る権利も無いだろ」

 

 先程隊長に言われた事を思い出し同様の事をジック等二人に話す。同時に作戦について考えていたのが自分だけではなかった事に少し安堵していた。

 

「俺達は、軍人だ。上の方針に従うだけだ。さあ、今はとにかく荷物を運べ」

「やれやれユーリは真面目だべ」

「全くだ……ところでユーリ、あの捕まえた奴らはどうしたんだ?」

「ああ、あいつらか」

 

 ジックに言われ今も地下牢で大人しくしている団長達の事を思い出す。彼らもこの後護送しなければならない。コロッサスのような面倒な者もいるが本隊が持って来た星晶獣用装備の予備を使えば拘束が出来ると言う話だった。

 

「この後牢屋から出してつれて行く。特に問題も無かったようだが……油断も出来ん」

「そりゃあもし本当にあの【星晶戦隊マグナシックスとB・ビィくんマン&均衡少女ZOY】の団長と仲間って言うならなぁ~」

「アイツの弱み握ってなかったら捕まえる事も出来なかったろうなあ」

「まあ大人しくしてるならただ地味な男と謎の空飛ぶ黒トカゲと褐色の少女に黒い自立型鎧、オマケに脱走兵だから大丈夫だべ」

「全体的に大丈夫な要素が見当たらないんだが……」

 

 何処までも楽観的な仲間に頭を抱えるのは、この隊に入隊してからと言うもの日常茶飯事である。呆れた様子を隠す事無くユーリが、いい加減仕事に戻れと言おうとした時であった。

 

「うっ!?」

「ぬわっ!?」

「な、なんだべっ!?」

 

 突如、外から強烈な爆発が起こる。砦全体に響くような轟音が鳴り砦全体を文字通り揺るがした。

 

「な、なんだべ、うわおおっ!?」

 

 そして更に再び轟音。そしてまた轟音。砦中の兵達の慌てふためく声が聞こえる。どう考えても異常事態である。

 

「向こうからかっ!!」

「あ、ユーリっ!?」

「お前達も来いっ!敵襲かもしれないんだぞっ!」

 

 轟音は、砦城門側の外部から聞こえた。ユーリ等は、急ぎそちらへと向かい走った。案の定城門前では、兵達が集い出し方々から指示が飛んでいた。その指示を出す者の中に隊長の姿を見つける。

 

「隊長っ!!」

「む、来たかお前達」

「これは、何事ですか?」

「奇襲だ」

「きしゅ、うおおっ!?」

 

 奇襲ですか?と聞き返そうとした途端またあの轟音が鳴り響いた。今度は、先程よりも距離が近づいている。

 

「この攻撃は、一体……アウギュステの軍ですか?」

「いや敵の構成も所属も不明、とにかく此方に向かっている事だけは確かだ。既に迎撃を行ってはいるが……」

「来たぞーっ!!」

 

 誰かが強く叫ぶ。その叫びの直ぐ後にあの轟音が鳴り響く。だが今度は、轟音だけではなかった。

 

「レギンレイヴッ!!」

 

 凄まじき獣が咆哮の如き少女の叫び。

 

「ウェポンバーストッ!レギンレイヴッ!」

「だあああっ!?」

 

 爆発と思われたのは、大地を切り上げ吹き荒れる幾重の閃光。

 

「ウェポンバーストッ!!レギンレイヴッ!!」

「ちょ、ちょやめあああっ!?」

 

 幾人の帝国兵をさも塵芥の如く振り払い迫る者。

 

「ウェポンバーストッ!!!レギンレイヴッ!!!」

「おんぎゃあああああああああっ!?」

 

 例え万の兵が揃おうとも――

 

「総員抜刀用意、我々も迎え撃つぞ」

 

 今の彼女を止める術無し。

 

「駄目ですっ!止めきれませんっ!!」

「門から離れろ、吹き飛ばされるぞおぉーっ!!」

「ウェポンバーストッ!!!!レギンレイヴッ!!!!」

「わあああーーーーっ!?」

 

 砦城門を吹き飛ばしついに彼女は、現れた。

 

「ウェポンバーストッ!レギンレ――」

「はわわっ!?ジータ、ストップストップですーっ!?」

 

 また次の攻撃が来るかと思った時少女を留めるように別の少女が現れた。攻撃の手が止み舞い上がった土煙が腫れていく。そこに現れたのは、獣からそのまま剥いだような毛皮を頭から被った少女の姿であった。

 

「お兄ちゃんを返せっ!!」

 

 こうして少女の咆哮がこの日の戦いの開始となったのだ。

 

 ■

 

 四 E プロトタイプ(フル強化)

 

 ■

 

 ユーリ達の前に現れたのは、間違いようも無くあのジータであった。だが彼女の事を詳しく知らないユーリ達は、突如異常な女が自分達を蹴散らしに現れたとしか思えない。

 

「ウーガルルルッ!」

「わー待て待てッ!!ジータ落ち着けっ!!」

 

 手に持った剣を振り回すジータ。それを後から追いついたラカムが羽交い絞めにして抑える。

 

「行き成り大技連発する奴があるかっ!?砦が崩れちまうぞっ!!」

「大丈夫っ!ちゃんと手加減したからっ!!」

「そう言う問題じゃねえっての!」

「兄貴が捕まってるんだってばっ!何処に捕まってんのかわからねえんだから、ちょっとでも崩れたりするとやべえだろっ!」

 

 見た目ただの少女のジータであるが彼女を必死に抑えるラカムの存在など無いかのようにスタスタ突き進む。ビィもジータの進撃を止めようとするが小さなビィとラカム一人の力では、最早彼女を止める事は出来ないのだ。

 

「なんでベルセルク装備なんて着たのよっ!?」

「気合が違うよっ!!」

「暴走してるだけでしょうがっ!!」

 

 イオもまた小さな体で必死に前からジータを押し留める。ジータは、普段着ている軽装の鎧とは、全く別の装備「ベルセルク」を纏っていた。オオカミの毛皮を頭から被り黒色の鎧で身を護るその姿は、見る者に威圧感を与える。狂戦士、ジータの様子からもその名が相応しいように思えるが別にこの装備自体に装着者を狂暴にさせる呪いの様な効果は、一切無い。このジータの尋常ではない言動は、ただの“ノリ”である。

 この場にいない団長、そして彼女と旅を共にして来た仲間は、よく知っているがジータは、着る衣装、装備によって性格が大きく変わる傾向がある。決して多重人格と言うわけでは無く“ノリ”でそうなるのだ。今回もそうである。愛すべき兄の奪還のために気合十分にこのベルセルク装備を纏って来たのだが――。

 

「ウーッ!ガウガウッ!」

「だーっ!狂犬かお前はっ!?」

 

 帝国もまさかこんなてんやわんやの襲撃者が来るとは、予想もしなかっただろう。

 

「うなー!帝国っ!!お兄ちゃんを返しなさーいっ!!」

「だ、だめですーっ!ちょっと待って下さーいっ!」

「な、何なんだこの集団は……」

 

 誰から見ても異常な状況である。たった一人の少女にここに居た帝国兵の多くが瞬く間に倒されてしまったのだ。訳のわからぬ事を叫びながら此方へと近づく少女に兵達が恐怖を感じるのも無理は無いだろう。

 

「何者だ貴様達は!ここがエルステ帝国の砦と知っての事かっ!?」

 

 だがここで前に出るのは、隊長であった。尋常ならぬジータの剣幕に一切怯まず堂々と前へと進み出た。

 

「このー!また悪い事してるんでしょっ!?今から私がぶっ潰してやるんだからねーっ!!」

「ジータ待て、頼むから……」

「ウガーッ!」

「ちょっと今から向こうの隊長と話すから……」

「ウー……」

 

 今度は、カタリナもジータを抑えて何とか後ろに下げさせた。

 

「やっと下がったか……」

「貴様……もしや、カタリナ中尉か?」

 

 現れた途端疲れた様子のカタリナを見た隊長は、意外そうな反応を見せた。元帝国兵であるカタリナは、高い実力と忠義で知られ何よりも麗しいその容姿もあいまってその名は、広く知られていた。そんな彼女も帝国で囚われていたルリアを連れて逃げてジータと出会ったのである。

 彼女ほどの人物が脱走兵となるとは誰もが思いもしない事であった。当然彼女は、軍の重要機密とされていた“ルリア”を連れ去った者として指名手配されている。隊長もまさかそのカタリナにこんな状況で出会う事になるとは、思いもしなかったであろう。

 そして今帝国内でカタリナが所属する騎空団の存在は、最も危険視される存在になっていた。

 

「そうか、貴様達【ジータと愉快な仲間たち団】かっ!?」

「如何にもそうだーっ!!」

 

 驚愕する隊長、その言葉を聞きどよめく兵達。

 【ジータと愉快な仲間たち団】、帝国が各地で活動をする度現れては、悉く邪魔をして作戦部隊も肝心の作戦そのものもほぼ物理的に壊滅、崩壊させる騎空団。一部では、最早悪魔の集団とまで言われていた。

 

「あ、あれが……“帝国絶対殺すウーマン”……っ!?」

「飛竜の船で現れる”ザンクティンゼルの悪魔”……っ!!」

「し、失礼なーっ!誰が悪魔よっ!?」

 

 ジータは、悪魔呼ばわりされ憤慨しているがラカムとイオは、あまり否定する事ができなかった。

 

「まあ帝国を庇うわけじゃねえが……たまに気の毒に思うぐらいコテンパンにされてるしなぁ」

「オーバーキルも甚だしいわよね」

「二人までっ!?」

 

 今までも「帝国?よし潰そうかっ!!」と笑顔を見せて殆ど剣一つで毎度毎度帝国の部隊を壊滅させているのでその呼び名と扱いにラカム達でさえ納得してしまった。

 

「あと毎度の事だが【ジータと愉快な仲間たち団】の名前が出ると一気に雰囲気が緩むよな」

「もうこれは、どうしようも無いわよね」

「そ、そんな事無いもんっ!スーパーでベリグなイカした名前だよっ!」

「ねえよ」

「無いわよ」

「そ、そんなぁ~」

 

 やはり仲間からも散々なネーミングセンスのジータであった。しょんぼジータ。

 

「まさか襲撃者が貴様達とは……一体何処で作戦が漏れた……」

「お前達今日奇妙な集団を捕まえただろう」

「……まさか奴らを知っているのか?」

「やはりか……彼は、彼女の家族、と言ったところかな。お前達も厄介な人物を捕らえてしまったな」

「なんと……まさかあの悪魔の関係者だったとは……」

「ウガーッ!だから私悪魔じゃないもんっ!!」

「ステイッステイッ!まだだッまだだッ!」

 

 今にも飛びかかりそうなジータをラカム、ビィ、イオが必死に抑える。

 

「そう言う事だ。彼女が本格的に暴走する前に悪いが彼らを返して貰おうか」

「いいや……要求を呑む事は出来ないな」

「その通りですネェ」

「貴様はっ!?」

 

 隊長の言葉に続いて現れたのは、顔を横に向かせたままジータ達を見下す男。カタリナ達にとっても最早見慣れたこの男は――。

 

「あ、ああーっ!貴方は……」

「騒々しいと思って急いで来てみれば……やっぱり貴方達でしたか」

「帝国のヒゲの人っ!!」

「ポンメルンッ!!自分を殺した相手なのだから、いい加減名前覚えなさい、この田舎娘っ!!」

「ならそっちも田舎娘とかいわないでっ!!」

「婦女子が品も無く叫ぶんじゃありませんヨォ!まったく……」

 

 帝国軍大尉ポンメルン。他ならぬジータ殺害を行った人物であり今作戦の総指揮を執る男。ジータ達にとっては、いつも通りのやり取りを済ませるとポンメルンは、一息咳ばらいをして話を続ける。

 

「彼が今言った通り捕らえた者をみすみす渡すなんてできるわけ無いですネェ」

「我々もはいそうですかと言うわけにいかん。彼は、彼女の家族だ。帝国に渡す事は出来ないな」

「ふん……そう言うと思ってましたヨォ。ま、いいでしょう……本来は、別の目的で使う予定でしたが貴方達にぶつけるのもいいでしょう」

 

 ポンメルンは、不敵に笑うと怪しく光る宝石を取り出した。その禍々しい力にジータ達は、見覚えがあった。

 

「あれは、魔晶かっ!!」

「待ってください!あの魔晶から星晶獣の気配が……」

「本当かルリアッ!?」

「はい、かなり大きな力を感じますっ!」

「やはりそこの小娘は、気が付きますか……さあ御覧なさいっ!!苦労して捕まえた星晶獣【ポセイドン】をおぉぉっ!!」

 

 ポンメルンが魔晶の力を解き放つと眩い光を放ちその光の中から巨大な力が溢れ形を作り出してゆく。

 

「ぬぅ……汚れ、た……力で……この、水神をッ!!」

「あれが、ポセイドンッ!?」

 

 現れた巨大な姿。矛を持つ偉丈夫は、水の星晶獣ポセイドン。その姿にルリア達だけでなく帝国兵の多くも驚きをあらわにした。

 

(本当に星晶獣を……これを捕まえるための作戦だったのかっ!)

 

 姿を見せたポセイドンにユーリも驚きを隠せなかった。この事で自分の抱いていた不安が再び出てくるのを感じた。

 

「やっぱり帝国の奴等悪さしてやがったんだなっ!?」

「ポセイドン……かなり強く縛られていますっ!」

 

 今この星晶獣は、魔晶の力によって縛られ支配されていた。自らの意思を持ちながら体の自由を奪われ今ポセイドンは、帝国の兵器と化していた。ポセイドンも明らかに今己を縛り蝕む力に抵抗しようとしていた。

 

「これほどの力を持った星晶獣……帝国に渡すわけにはいかんっ!」

「はいっ!ジータ、ポセイドンを解放しましょうっ!!」

「うしゃああぁっ!!」

「……解放だからな?魔晶を壊すんだからな?この意味わかってるよなっ!?」

「大丈夫、うまくやるっ!!」

「も、もう少しハッキリ言った方が良いんじゃないんでしょうか?手加減しろって……」

「ダメだ……普段でさえ言って聞く奴じゃねえし……」

 

 ベルセルクジータに若干の不安を感じつつ彼女に任せるしかない。ビィは、もう諦めの境地であった。ルリアは、だんだんポセイドンの方が心配になってきていた。

 

「ええい、いつもいつも緊張感の無い……しかし暢気な事言ってられるのもこれまでですネェ!さあ、行きなさいポセイドンッ!!あの小娘達を蹴散らすんですヨォ!」

「ぐううっ!!我に……命令……ッ!!水神を、愚弄……っ!!この、縛りを……解かねば……ッ!」

「我々もやるぞ、総員隊列を組めっ!!奴等をこれ以上進ませるなぁっ!!」

 

 ポセイドンだけではなく、帝国兵達も武器を構えて突撃を開始する。カタリナ達もそれを迎え撃つ。

 

「来るぞっ!ルリア、ビィ君下がれッ!ラカムっ!!」

「今だいけっ!ゴーゴーゴー!」

「ウガガーーッ!!」

 

 対してついに荒ぶる狂戦士を解き放つラカム。武器をブンブン振り回しながら野獣の如くジータは、ポセイドンへと突撃していった。

 

「ああ、そこの貴方達っ!」

「はっ!」

 

 開始された戦い、その中でポンメルンは、自身もジータ達へ向かおうとしていたユーリと隊長に慌てて声をかけた。

 

「貴方達は、例の捕らえたと言う小僧と星晶獣の方へ行きなさい」

「よろしいのですか?少しでもこちらに手を回すべきでは……」

「いいえ此方は、ポセイドンと我々で何とかします。それよりもあの小娘の仲間が全員いないのが気になりますネェ」

 

 幾度となくジータ達と戦って来たポンメルンは、今この場にジータの騎空団の全員が居ない事を知っていた。

 

「それは……」

「こちらは、陽動の可能性がありますネェ。急ぎなさい、これ以上奴等をいい気にさせてはなりませんヨォ!」

「なるほど……よし、お前達ついて来いっ!」

「サーッ!イエスッ!サーッ!」

 

 ポンメルンの命を受け隊長、ユーリ等部隊は、この場を離れ急ぎ団長達が捕らえられている地下牢方面へと向かった。この動きをカタリナ達も気が付いた。

 

「今何人かの兵がここを離れた……気が付かれたかもしれんな」

「いやこれだけ派手にやったんだ。偶然だが星晶獣もこっちに引き付けられた。陽動としては、まあ十分だろ」

「後は、別動隊に任せましょう。それにロゼッタ達なら平気よ。私達は、ジータの討ち漏らしの相手ね」

「討ち漏らしが出るかどうかもわからんがな……」

「ヌガアーーーーッ!!ウェポンバーストッ!!レギンレイヴッ!!」

「ぐうぅおっ!?……この、力は……ッ!」

「ぎゃああああっ!?」

 

 何処からそんな力が湧くと言うのか、奥義を連発していくジータの攻撃は、ポセイドンどころか帝国兵も巻き込み、敵が一人とてカタリナ達の方に来ない。おかげでこうやって話し合う余裕があるのだが気合を入れて来た手前複雑な気持ちである。

 開始早々に独り舞台と化した砦内部での戦いを見ながらラカム達は、自分達と同時に行動を開始した者達の事を考えた。

 

 ■

 

 五 脱出

 

 ■

 

 ――ジータ達が攻め込んだのとほぼ同時刻。カルナ砦、地下牢。

 

「……騒がしくなるとは、思ったけどさぁ」

 

 冷たい石畳で寝転んでいたが砦全体を揺るがす振動を感じて体を起した。コロッサス達も眠っていたようだが音で起きたようだ。

 

「いくら何でも騒がしくなりすぎだわ。何起こってんだ上では」

「ジータも来たんじゃねえのか?」

「はあ、やっぱそれかねえ……」

 

 フィラソピラさんがティアマト達に知らせたとしたらそれも十分考えられる。だとするとこの砦は、あとどれほど持つかわからないな。奴ほど加減を知らん女は、世の中そういない。本人は手加減したつもりでもこんな砦じゃ泥で作られたのかと思うぐらい簡単に崩れかねん。

 

「しゃーねー皆逃げっぞ。生き埋めになりたくないからな。とりあえず牢屋出よう。その後荷物の場所確認して帝国が島で何してるか調べる。やばそうならそれをぶっ潰す」

「つまり行き当たりばったりって事だな相棒!!」

「何時も通りだな団長」

「イキオイニ(-`ω´-)マカセルンダネ」

 

 はい、そう言う言い方しなーい。

 

「それじゃあ……ふんっ!!」

「ほ、本当に取ったっす……」

 

 手首をクイッと捻ると俺の手を塞いでいたビリビリの枷がバッキリ折れた。ビリッと来たが「ほーん、で?」程度でしたね。もう俺の体普通の人間には、戻れないのかもしれない……。

 

「それじゃあ私達も……はあっ!」

「オラァッ!」

 

 ゾーイも謎パワーで枷を吹き飛ばしB・ビィは、マチョビィになるとやっぱり枷が吹き飛んだ。

 

「うわ、キモッ!?」

「ひでえな嬢ちゃん」

 

 そしてB・ビィを見たファラちゃんがメッチャ引いた。わかるよその気持ち。

 

「見苦しいものを見せてごめんね。はい、手出して」

「あ、はいっす……ところでアレって」

「気にしちゃ駄目」

 

 言及するだけ無駄だ。しかも後一回変身を残している事実。多分教えたらファラちゃんまた本気で引くぞ。

 

「ふんっ!」

「おわっ」

 

 ファラちゃんの鉄枷も手刀で断つ。

 これでここで出来る準備は、終了。後は、牢からおさらばするだけ。

 

「それじゃあ……出ますかあ」

「けど牢の鍵は、どうやって……」

「こうします……コロッサス頼む」

「カシコマッ( `・ω・´)!!」

 

 ここでコロッサス、鉄の扉に手を突き出してドーンッ!!見事に扉だけが吹っ飛んでいった。

 

「うおおおっ!?な、なんだぁ!?」

「ドモー(。ゝω・)ノ」

「あっ!?お、お前ら何してっ!!」

 

 見張りの兵が吹き飛んで行った扉に驚いていたが牢から現れたコロッサスを見て俺達の脱走に慌てて気がつき宝石の様な物を取り出す。それこそ俺の手にはめられていた枷のビリビリを起こすキーでもあった。

 

「ば、馬鹿な事を……貴様達大人しくしないとそいつの枷から電流流すぞっ!?」

「枷ってこれ?」

「……あれ?」

 

 俺が壊れて真っ二つの枷を見せると兵隊さんは、ぽかんとしてそれを見た。ちょい火花散ってるけど間違いなく俺の手にはめられていた枷ですね(過去形)。

 

「あ、それだねぇ……」

「ですよね。ごめんなさい壊しちゃった」

「壊しちゃったら……しょうがないかぁ……」

「そう言うわけなんで、ちょっと寝てな兄ちゃん、オラァッ!!」

「ぎゃひんっ!?」

 

 ここでユラリと現れたマチョビィが有無を言わさず兵の兄さんを拳で気絶させた。申し訳ねえ。

 

「さてと……誰か来る様子も無し、か」

 

 先程から何度も鳴り響く轟音と兵達の慌しい声。他の見張りも居たはずなのだが今気絶させた奴にこの場を任せて様子を見に行ったのか……よほどの事態らしいな。そちらに気が向いてしまっているようだ。

 

「……それにしてもこの音……まるで砲撃だぜ。上で何が起こってるんだ?」

 

 ワンテンポ挿み轟音、間、轟音、間、轟音……を繰り返している。助けとは思うのだが誰だこんな無茶苦茶な攻撃続けてるやつ。ティアマトか?その内砦が崩れてもおかしくなさそうだぞこれ。

 それにもう一つ気になる事。

 

「さっきから妙に頭ん中でざわついてんだけどさ……これ、星晶獣の気配か?」

「そのようだ」

 

 懐かしいと言うかなんと言うか……ザンクティンゼルに居た頃ティアマト達星晶獣がポンポン現れるたびに感じたあの感覚だ。ティアマト達に関しては、慣れてしまったがこの感じは、初めての奴だ。さっき行き成りボンっと出てきやがったな。

 

「帝国は、マジで星晶獣捕まえたか……ただこの感じだとほっとくと暴走しかねないぞ」

「つまり島の危機ってやつだな相棒。ゾーイの予感的中だぜ」

「比較的リヴァイアサンに近い力っぽいな……水系かぁ厄介だな」

「な、なんか自分の理解が追い付かない状況が続いてるっす」

 

 ごめんねファラちゃん。正直説明する暇もないんだよね。しかしリヴァイアサンの奴は、一体何してるんだ……まさかまだバカンスしてるわけじゃないよな?俺たちの状況は、一応以前連絡だけはしたがそれっきりで船にも宿にも戻ってこなかった……まああいつなりに考えてるだろう。(笑)のメンバーだがティアマトよかよっぽど思慮深い奴だし。

 そうこう言いながら地下牢から砦一階へと続く扉前。

 

「出れば何時兵と出くわしても可笑しくないな……」

 

 ファラちゃんを逃がすにしてもこの状況では、まだ難しいな。一人にしてしまっても危険だし連れていくしかないか。

 

「ファラちゃん。俺達の都合で悪いけどもうちょいついて来て。その変わり絶対守るから」

「だ、大丈夫っす!元とは言えこれでも自分帝国兵だったんっすよ!自分の身を守るぐらいは、問題ないっす!」

「そいつぁ頼もしい」

 

 気合十分だね。しかし今は、コロッサスやビィ、それと武器の取り出しが自由なゾーイを除いて捕まった時俺含め当然武器を没収されている。俺は、無手でも問題無いがファラちゃんは、そうはいかない。基本は、コロッサスに守らせよう。

 

「しゃあ、それじゃ行くぞ!」

 

 俺が気合を入れて扉を開ける。まずは、星晶獣の気配を辿ろうかと思ったその時である。

 

「あ、お前達っ!?」

 

 なんか早速見つかった。嘘やん。

 

「あーあー相棒の運の悪さが極まってきてるぜ」

「うるさい」

「あ、ユーリっすよ!?」

 

 俺達を発見したのは、あのユーリ君の部隊だった。

 

「ファラ、お前達どうやって牢を出たんだっ!?」

「いや、それはその……」

「大尉の予感は、当たったか……いや、仲間がいる様子は無いな。お前達、油断するなっ!増援が来る事も考えられる!」

「ハッ!!」

「ま、待て待てっ!何もそんな行き成り剣を抜かんでも」

「悪いが話し合う暇はないっ!貴様達を大尉達の元に向かわせるわけにもいかないのだっ!」

 

 あーあー皆さん気合十分って感じっすね。この野郎、やるしかねえか。

 

「今回は、前のような手段が使えん!!総員腹をくくれ、相手はあの星晶戦隊(以下略)だっ!!生半可な気持ちでは、死ぬかもしれんぞ」

「サーッ!イエスッ!サーッ!」

 

 サーッ!イエスッ!サーッ!じゃねえよ、誰が殺すか。なんだ死ぬかもしれんって、俺の事を何だと思ってんだ。どんな扱いだよ。

 

「行くぞ、総員かか――」

「エリアルクラスターッ!!」

「ぎゃあああああああああっ!?」

 

 ……正に今俺達に襲い掛かろうとしていた帝国の部隊だったのだが壁を吹き飛ばして出てきた紫の奔流に飲まれて皆一瞬で更に壁を壊して奥の方へ吹っ飛んだ。

 えー?ここは、俺が迎え撃つ場面じゃないのか?「くるぞ、構えろっ!」ぐらいの台詞があってしかるべきシーンじゃないの?勝手に終わっちゃったよ。しかも今の技あいつじゃん。

 

「私ノ服ウウゥゥッ!!」

「おしゃけえっ!!」

「お宝本んんっ!!」

 

 ほら見ろ、煙が晴れて奥から現れた(笑)筆頭星晶獣ティアマト様のご登場だ。しかも続けて酔いどれと色々拗らせ作家が現れた。

 

「おーおー何時も通りの展開だぜ」

「うん、団長が居ればこその展開だな」

「コレナラ(´・ω・`)アンシンダネ」

 

 何が何時も通りなんだB・ビィ。ゾーイ、俺が居ればこそってどう言う意味かな?コロッサス?何安心してるの?

 

「あら?団長じゃない」

「あ、本当にゃ」

「ン?オオ、オ前達ココニ居タノカ。自力デ脱出シタンダナ」

 

 そして何だその感動も何も無い感想は、道端で偶然会った感覚かお前等。一応は、捕らわれの身だったんだぞ。

 

「居たのか、じゃねーよ馬鹿。もうちょっとでお前の攻撃に巻き込まれそうだったわ」

「オ前ナラ平気ダロ」

 

 平気なわけあるか馬鹿野郎、こっちはファラちゃんもいるんだぞ。この野郎。後俺でも普通に痛いっつーの。

 

「普通痛いじゃ済まないと思うっす……」

「こいつもう一般的普通から逸脱してんだ。言ってやらねえでくれお嬢ちゃん」

 

 うるせいやい。しょうがねえだろこいつらの攻撃受けすぎて体が慣れちゃったんだから。あとその原因の一つがお前だと言う事を忘れるなB・ビィ。

 

「まあ助けに来てくれたようだし感謝するわ。お前等だけ?」

「まさか、全員で来たわ」

「全員……やっぱジータも来たのか?」

「いいえ、だから“全員”よ」

「そりゃどう言う……」

「ティアマト殿、もっと慎重にっ!ジータ殿達の陽動が無駄になりますっ!!」

 

 ティアマト達に続いて小さな影が近づいてきた。ティアマトの攻撃でできた瓦礫を上って現れた彼女は、もしや……。

 

「シャルロッテさん?」

「……え?」

 

 王冠を被った小さな聖騎士団長の姿。ここ数日一緒に居たその姿を見間違いようは無い。

 

「あ、ああっ!?ジミー殿っ!?」

「だ、団長さんですっ!無事なようですっ!!」

「そのようだね……安心したよ」

 

 彼女だけじゃない、ブリジールさん、コーデリアさん……そして後から俺の仲間達が続く。

 帝国相手の喧嘩。俺にとっては、まさかのリュミエール組の参戦だった。

 

 




当然ですがウェポンバーストをこんな連発は出来ないです。

書く→次考える→書く→次考え(ry を繰り返しているのでだんだん纏まりが無くなりつつありますが、やっとアウギュステ編の終わりが見えてきました。

目標の一つだったポセイドンもやっと出せた。

そして『ロボミ』サイドストーリー追加。自分は、ロボミをプレイできてないのでやっとストーリー把握が出来る。

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