俺は、スーパーザンクティンゼル人だぜ?   作:Par

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今回からリヴァイアサンの台詞を『』表記にします。まあ今回一言だけで、特に出番はありませんが。
またゲーム本編とは時系列が変ってきます。そう言ったオリジナル要素が苦手な方はご注意ください。


トリプルフェイト 魔蛇とトレジャーハンターと(後編)

 ■

 

 一 エンゼラにて

 

 ■

 

「もう、駄目だぞこんなことしちゃ」

「グウゥ……」

「わかってるならいいんだ。星晶獣だからって好き勝手しちゃあ駄目だ」

 

 ルーマシー群島の数少ない騎空艇停留所に止められたエンゼラの甲板。そこで巨大な蛇がゾーイに対して頭をたれていた。いたく反省した様子の大蛇は、名をメドゥシアナと言った。

 突如としてエンゼラに不時着した星晶獣メドゥーサ。その分身、あるいは眷属、または家族――メドゥーサと言う少女に可愛がられている魔蛇メドゥシアナ。彼(?)自身も強力な魔眼と星晶獣としての力を秘めているが、流石に空の調停者が相手では戦おうとも思わない。格の違いははっきりと本能で感じた。

 

「さて君の主人だが場所はわかるかい? 彼女の傍に恐らく私達の団長もいるのだが」

「グウ」

「そうか……正確にはわからないが、遠ざかっているのはわかるんだね。団長がいるからなあ、きっと何かトラブルでも起こっているのだろう」

 

 心配しつつ危機感は感じさせない様子でゾーイは話す。

 

「よおゾーイ、戻ったぜ」

「やあB・ビィ。どうだった?」

 

 B・ビィやコーデリア達がゾーイの元に集まる。皆船の停泊許可を取るついでに船から落ちた団長達の情報を聞きに言ったのだ。

 

「それらしい目撃情報はねえな。ティアマトのクシャミで流されて、落ちたのは島の特に森の深い場所だ。ルーマシーじゃ人が住むような場所じゃねえし、観測所からも見つかり辛い場所だしな」

「一応島の者で捜索隊を出すかと聞かれたが……」

「が?」

「断ったよ。と言うよりも、現在星晶獣とセットになってる“あの”団長を捜索しようとすると何が起こるかわからない。こう言った事に慣れている我々が探すほか無い」

 

 コーデリアの判断も尤もだとゾーイは頷いた。まだ日は高い、探すならなるべく早い方がいいだろう。

 

「メドゥーサと言う少女は、近くにさえいければこのメドゥシアナがわかる。あとはそこまでどう行くかだが」

「――――!」

 

 団長達の捜索方法を話し合おうとすると、一人ユグドラシルが力強く手を挙げた。

 

「ユグドラシル? 何か案があるのかい」

「――!」

 

 身振り手振り意思を伝えるユグドラシル。声は無いが星晶的パワーでの意思疎通を可能にするユグドラシルの意志はしっかりと皆に伝わった。

 

「なるほど、確かにそれが一番か……よろしい、ならば捜索班と船での待機組を分けよう」

「ならば自分は残るであります。自分はルーマシーの様な深い森には不慣れですゆえ……それに先程の揺れで船内も荒れましたから、エンゼラの損傷を確認いたします」

「シャルロッテ団長が残るのなら自分も残るです!」

「頼みますシャルロッテ団長、ブリジール。では皆集まってくれ! ユグドラシルを筆頭に捜索隊を募る! 二次遭難は避けたい、森林での活動が不慣れな者はエンゼラで待機だ!」

 

 着々と進む団長捜索作戦。アウギュステでも捕まり救出作戦が行われたと言うのに、いつも悲惨な目に遭う団長であった。

 

 ■

 

 ニ 水だけでスッキリ(命が)落ちる

 

 ■

 

「水があ! 水がああぁぁっ!?」

「いやぁー!? あんたなんて事してくれんのよ、メドゥ子!?」

「メドゥ子って言うんじゃないわよ! アタシの所為じゃないもん!!」

「凄いな、ルーマシーでこんだけの水量集めるのってどんな仕掛けだろう。単純だけど、強力な罠だよねえ」

「感心してる場合かあーーーーっ!?」

 

 走る走る、また走る。もう今日だけで足パンパンになるんじゃないかって思うぐらい走る。遺跡で出会ったトレジャーハンターのマリーちゃんとカルバさんを連れて、俺達は後方から迫りくる多量の水から逃げまくる。魔物から逃げ遺跡に落ちたと思ったら、この有り様だよ。俺が何をしたと言うのか。

 

「あ、あんた魔法でもいいから吹き飛ばせないの!?」

「杖も無しで出来るか! 第一あんな量の水吹き飛ばす魔法こんな狭い通路じゃ通路事吹き飛ぶっつーの!!」

「何よ役立たずね!」

「んだとこの野郎っ!?」

 

 こいつ罠のスイッチ押しておいて反省しない所か俺を役立たずと申したか。

 

「お前遺跡脱出したら覚えとれよ!」

「ふーんだ! あんたは置き去りでアタシだけ脱出してやるわよ!」

「ああぁーんっ!?」

「あんたら横で喧嘩しないでよ!」

 

 マリーちゃんに怒られてしまった。ごめんなさい。

 

「カルバ何とかならないの!?」

「こういう時はね、行き止まりじゃ無い事を祈って走るのみだよ」

「運任せじゃない!?」

「スリル満点だぜ?」

「そんなのいらないのよー!」

 

 だめだ、あっちも当てにならなさそうだ。迫る大量の水、何か打つ手は……。

 

「ふふふ……今度こそアタシの力を見せる時が来たようね!」

「くっそー、どうすればいいんだ!」

「散々馬鹿にしてくれたけど、今度ばかりはあんたも」

「杖があれば氷魔法を使えたのに!」

「聞きなさいよっ!?」

 

 なんだこの小娘。

 

「何ですかね星晶獣(笑)?」

「(笑)って言うんじゃない! アタシに任せなさいってのよ!」

「ちょっと、大丈夫なの星晶獣(笑)!?」

「危ないよ星晶獣(笑)ちゃん」

「何であんた達まで(笑)って言いだすのよ!?」

「いや、なんかしっくり来たから」

「うぎぎぃ! み、見てなさいよ! アタシは星晶獣(笑)なんかじゃないのよ!」

 

 顔を真っ赤にさせてメドゥ子が水に向かって魔眼を発動させた。すると俺たちへと向かっていた多量の水がドンドン灰色の石へと変わっていく。

 

「お、おおっ!? これいいんじゃない! いけるんじゃないの!?」

「やったあ! 頑張れメドゥ子ちゃん!」

「ぬああ! メドゥ子じゃなーい!」

 

 反論しながら気合を入れてメドゥ子はまだまだ水を石へと変えて見せた。そしてこのまま水は全て石へと変わるのかと思われた。

 

「あ、これやばいかもだよ」

「え?」

「ほら」

 

 カルバさんが石になった水を指差す。すると恐るべき事に石にヒビが走りそこから水が漏れ出していた。

 

「な、なんつう水圧だ!? ルーマシー中の水でも集めたのかよっ!?」

「うぅ……も、もう目が痛い!」

「ああメドゥ子頑張れ、今目を閉じるとやばい!」

「頑張ってメドゥ子ちゃん!!」

「メ、メドゥ子じゃ……あー! もう無理ッ!」

 

 パチリ、とメドゥ子が目をついに閉じてしまった。魔眼の光は消え、そして石となっていた水は砕け、後ろから再び多量の水が溢れかえった。

 

「ぎゃああぁぁーーーーっ!? 状況悪化したああ!?」

 

 迫る水+瓦礫。地獄の様な組み合わせと質量が俺達へと再び襲い掛かった。心なしか勢いも増してないだろうか。

 

「お前無理なら止めとけよ!? とんでもない事になっちまったじゃねーか!」

「うっさい、アタシも頑張ったのよ!」

「結果が伴ってないじゃない!」

「うるさい、うるさい、うるさぁーいっ!」

 

 メドゥ子本人もプライドが傷ついたのか、それともまだ目が痛いのか知らないが涙目で叫んでいる。

 

「あ、分かれ道だよ」

「はあ!?」

 

 迫るY字の分かれ道。こんな状況でそんな事まで選択せねばならんのか。

 

「ど、どっち行けばいい!?」

「さてこればっかりはわからないなあ」

「右、右にしなさい! アタシの勘がそう言ってるわ!」

「皆(笑)が右って言ったぞ!」

「なら左ね!」

「ゴーゴー!」

「なんでよっ!?」

 

 思わず左へ曲がる俺とマリーちゃん達。ただ一人メドゥ子が右へと曲がった。

 

「あ、メドゥ子!?」

「見てなさいよ! 絶対右が正解って教えてやるんだからね!」

 

 追いかけようと思ったが、もう今更引き返せない。それに分かれ道で水流も別れたが少なくなった気配はない。やはり走り続けねばならない。

 

「大丈夫なのあの子!?」

「あれでも星晶獣だ、そうそう死にやせんよ! それより俺達も大丈夫かこっち!」

「あ、二人ともジャンプ!」

「うぇい!?」

「うわあ!」

 

 カルバさんに言われ咄嗟にジャンプ。すると俺達の足元がパカっと開きチラリと穴のそこに剣山の様な床が見えた。

 

「ふざ、ふざけんな! 死ぬぞあんなん!?」

「やっぱ右が正解だったの!?」

「違うよ、これ多分どっち選んでもなんかトラップあるぜ。ほら左よって!」

「ちくしょーっ!!」

 

 縦一列になって通路左側に寄る。すると右側から槍が飛び出して来たがギリギリ刺さらない。その後もカルバさんの指示でなんとかダッシュしつつもトラップを避けていく。

 

「抜けたあ!」

「あーあー結構楽しかったんだけど終わりかあ」

「楽しくないわよ!」

「あ、あんた達!」

「おう、メドゥ子やっぱり無事だった……んっふ!」

 

 トラップ地帯の通路を駆け抜けると、どうやら分かれ道の反対側とも合流したらしい。ただの嫌がらせの様な分かれ道である。そのため反対側に走ったメドゥ子が姿を見せたのだが。

 

「うははは! くっそボロボロじゃねーか!」

「うるさい! ちょっと油断しただけよ!」

 

 メドゥ子の姿は恐らく全ての罠に引っかかったのだろう。埃やらゴミやらで髪はボサボサ、服も所々破けていた。

 

「強がって単独行動するからだ、ぷぷーっ」

「黙りなさい噛みつくわよ!」

「あ、こらやめろ! 走りながら蛇出すな!」

「合流して直ぐ喧嘩するんじゃないわよ!」

 

 またマリーちゃんに怒られてしまった。申し訳ねえ。

 

「もーほんと無理、限界! 何時まで走ればいいのよ!?」

「おっと、皆あれ見て」

「次は何よ!?」

 

 カルバさんがそう言う事言うとまた変なトラップがある気がする。もうどんなトラップが来ても驚かねえぞ。

 

「あれって出口じゃない?」

「出口!?」

 

 我々の走る先、そこには光の灯る通路の終わりが見えた。

 

「けど私達まだ地下よ!? 出口ってもどこに通じてるか」

「少なくともこのまま水に飲まれずに済む! 駆け抜けろお!」

 

 出口は一つ、後ろには迫る水。迷う暇は無い。出た先が安全である事を祈り俺達は皆その出口を飛び出した。

 

「よっしゃ、出……たああああぁぁぁぁっ!?」

「うえええ――――っ!?」

 

 よしんば運が悪くとも、トラップがある程度と考えていた。だがその考えは甘かった。俺達が飛び出した先、そこには床は続いていなかった。

 

「いやぁぁーーーーっ!? 今日何度目よ落ちるのぉ!?」

「無理無理、これ死んじゃうーっ!!」

「あー……私の冒険もここまでかー……」

「縁起でもねえ事言うな!」

 

 トレジャーハンター二人に漂う諦めムード。だがこの空間の底らしき場所がかろうじて見えた、あとは着地方法だ。

 

「二人とも失礼っ!!」

「え? きゃあ!?」

「うおっと?」

 

 左手でかなり無理やりにマリーちゃんとカルバさん二人の首根っこを掴み上げる。。

 

「メドゥ子、お前背中引っ付いてろ!」

「しょうがないわね!」

 

 メドゥ子が嫌々髪の毛を蛇にして俺にまきつける。背中にしがみ付いたのを確認してから、後ろから流れてきた水に混じるメドゥ子の作った瓦礫を蹴って別の瓦礫へと跳び移る。

 

「ちょ、ちょっと! どうする気なの!?」

「口閉じてないと、舌かむぞマリーちゃん!」

「う、うん!」

 

 地面にそのまま激突すると、もうなんか最近普通じゃなくなってしまった俺と星晶獣であるメドゥ子はともかく、マリーちゃん達二人がやばい。しかも先に底につくと上から来る瓦礫に潰される。なので水で押し出されバラバラと降る瓦礫に跳び移りつつ壁へと向かう。

 

「ふんぬっ!」

 

 壁へ近づくと右手で懐からナイフを取り出しそれを思い切り突き刺す。後は両足で踏ん張りつつ何とか勢いを殺していくだけだ。

 

「それ大丈夫!? ナイフ折れちゃうんじゃないの!?」

「これはミスリル製だ! そうそう折れやしない!」

 

 軽くて丈夫と名高いミスリル製。とは言え俺含め四人、三人は女の子だがそれでもナイフにかかる負荷は相当だ。なんとか折れない事を祈りつつ、ガリガリと壁を降下していく。頼むぞミスリルナイフ(売却価格50ルピ)!

 

「あ、あと何メートルぐらいだあ!?」

「多分2、30メートル!」

「うっおーっ!! このままじゃ、靴が擦れて焼けちまう!」

「うわああ!? う、後ろ後ろ!!」

 

 マリーちゃんが悲鳴を上げた。はっと後ろを振り向くと、水に押されたのかそれとも瓦礫同士でぶつかり弾き出されたのかわからないが、一つ大きな瓦礫がこちらに向かって飛んで来た。

 

「くっあーっ!! ざけんなーっ!! お前ら皆つかまってろぉーっ!!」

「きゃああーーーーっ!?」

 

 まだ床にまで距離があったがこのままでは瓦礫と激突する。飛び降りても瓦礫の距離が思ったより近い、こうなっては手段は一つ、壁を蹴って瓦礫へと跳ぶ。

 

「無双疾風脚!」

 

 利き手で二人を掴んでいる今、一番威力がある攻撃が出来るのは両足のみ。瓦礫に渾身の跳び蹴りをかまして木っ端みじんにする。

 

「うひょお! すごいねえ貴方!」

「まだ助かってない! 重ねて失礼!」

「うわ!?」

 

 地面まで10メートル切った。右手の二人を両脇で抱え直して覚悟を決める。

 

「結構衝撃来るから覚悟しとけよ!」

 

 二人から返事が来る前に地面へと着地。二人を抱えて背中にはメドゥ子がいるので受身も取れず着地の衝撃が両足からダイレクトに伝わる。

 

「きゃあ!」

「あいた!」

 

 森に落ちた時と違って木や草のクッションは無い、古いただの石畳だ。これはかなりきた。思わず腕が緩んで二人を落としてしまう。

 

「ぬああぁぁー……っ! きっつ……!」

「ちょっと大丈夫! 足折れたんじゃないの!?」

「いや……骨は平気……めっちゃ痺れてるだけ……」

「骨は平気なんだ。貴方凄い鍛えてるんだねえ」

 

 感心されても嬉しいと思えないのは、鍛えられた経緯と方法の所為に違いない。

 

「もう降りろよメドゥ子……あとお前軽過ぎない? ちゃんと飯食ってんの?」

「余計なお世話よ!」

 

 よいしょ、と背中から降りるメドゥ子。音叉のように震える足の骨がそろそろ落ち着いて来た。

 辺りを見渡す。かなり広い空間だ。流れ出た水は溜まる事無く広がって行き瓦礫はそこら中に転がっていった。

 

「さあて、どこだいここは……」

「遺跡の最下層ってところかな。かなり降りたし」

「出口は?」

「それはこれから探すだねえ」

 

 ルンルンとカルバさんが歩き出す。また新しい罠が出てくる事を期待しているようだ。俺とメドゥ子とマリーちゃんは、顔を見合しため息を吐いた。

 

 ■

 

 三 古の記憶

 

 ■

 

 再度小さな炎を魔法で生み出し詮索を行う。俺達が落ちた空間は、だだっ広い空間に石柱が建つシンプルな造り。少なくとも罠で来た人間を即始末する様な場所ではないようだ。

 

「広すぎる……明かりがこれじゃ心許ない」

「もっとデカイ火出しなさいよ」

「杖ねーつったろ。杖無しじゃ出力調整上手く出来ないから最悪この空間焼け溶けてマグマになる」

「えぇ……あんた、ちょっとおかしいんじゃないの?」

 

 メドゥ子ドン引くんじゃねえ、その表情やめろコラ。俺だってこんな不安定に魔法おぼえたく無かったよ。ばあさんによる詰め込み式で素手での攻撃魔法だけは少し不安定なんだよ。杖あればほぼ完璧だけど。

 

「ねえ、こっち来てみて」

 

 メドゥ子とうごうごしているとカルバさんに呼ばれる。言われて行ってみると壁から一部飛び出た塔楼台のような場所があった。

 

「これは?」

「窪み見てごらんよ。油がある」

 

 光で照らした場所には、黒光りする油が溜まっておりそれが細い溝を通って何処かへと向かっていた。

 

「……本当だ。乾ききってない、まだ使えるな」

「なにかの仕掛けで循環してるのかもね。君のその火使ってみて」

「大丈夫なんですかこれ?」

「大丈夫大丈夫、罠じゃないよ」

 

 俺に罠に関しての知識はない。初対面だがここはトレジャーハンターと言う彼女の知識を信じて火を油につけた。すると一気に火は油に広がりそのまま溝を通ってゆく。その火の流れは瞬く間にこの広い空間を照らしていった。

 

「ここの照明だったのか……」

 

 全貌が明らかになった空間。一部しか見えなかった石柱は規則正しく並んでいた。宝石や黄金は無いが、石柱に彫られた装飾は荘厳であった。その事からここがこの遺跡内でも重要な場所である事がうかがえる。

 

「まさか罠じゃなきゃ来られないって事はないだろう」

「そうね。必ず出入り口があるはずよ。カルバあたし達は向こう探しましょ」

「オーケー」

「んじゃ俺とメドゥ子であっちか」

「しょうがないわね……」

 

 明るくなった事で詮索しやすくなった。一先ず効率重視で二手に分かれる事にする。途中メドゥ子と小さな言い争いをしたりど突きあいながら出入り口を探す。

 だが同時にこの空間にある壁に彫られた模様にも俺は興味を持った。始めはただの模様にしか見えなかったのだが、よくよく見ると文字にも見えたのだ。

 

「これってさ、昔の文字かなんかなのかね」

「あー……そうね確かそう。相当前よ。100年以上前じゃないかしら。多分アタシが生まれた直後」

「それって覇空戦争時代じゃねえか」

「そうなるわね」

 

 とんでもない発見だ。この遺跡の価値がぐんと上がった気がする。お宝と言うよりも歴史的な価値がある。覇空戦争時代の遺物はろくに残ってないのだ。

 

「古い文字か。俺達の文字と似てると言えば似てるが……駄目だ読めねえ。掠れてるし形式が違う」

「あんた興味あるの?」

「まあ歴史や文化には多少興味があってな」

「ふーん」

 

 そっけないような声を出すとメドゥ子はジッと壁の文字を見ていた。だがしっかりと視線は動いている。

 

「……え、なにお前読めんの?」

「多少ね。神話を記してるものよ。バハムート云々とかそう言う奴」

 

 バハムート、俺達の世界では創造と破壊を司る神、畏怖と敬意を抱く偉大なる竜とされる。されるのだが明らかにそのバハムートと関係ありまくりなプロバハ改めB・ビィがうちに居るため全く崇める気が起きない。まあ元から俺は無宗教者だが。それにはっきりと関係性を聞いたわけではないのだ。まあなんか関係あるだろ。プロトバハムートなんて名前だし無い方がおかしい。

 しかしそのバハムートについての記述とは尚更貴重な遺跡だ。神話ではこの空の世界を作った神が引き裂かれ生まれた方割れがバハムートと言われる。それに関してはある程度現在も伝わっているが、口頭伝承が多く歴史的な遺物は少ない。これはしかるべき研究者に教えるべき事かもしれない。

 

「他にはなんかあるのか? 神話以外で」

「そうねえ、これ星晶獣に関してかしら? 殆ど文字が消えてるけど……其れは、歴史を制する……何かしら、これ」

「歴史を制する? どう言うこった」

「知らないわよ。比喩なのかなんなのか」

 

 メドゥ子にもわからないなら、俺にもわかる訳が無い。恐らくこの遺跡を作ったのは覇空戦争で戦っていた空の民、これも後に伝える歴史と言うよりも日記のような感じではないだろうか。ここからの解明は研究者にでも任せればいいか。

 

「ねえ、こっち! デカい扉あったわ!」

「おっと、あっちでも発見か」

 

 丁度その時マリーちゃんの声が聞こえた。反対側からだったので急いで駆けつける。そこにあった巨大な扉は出入り口と言うよりか何かをしまう宝物庫の扉のようだった。

 

「デカ……ほかに出入口らしきものは?」

「無かったわ、今の所この扉だけ」

「そうか。しかし……これは如何にも」

「お宝ありそうよね!」

「かもかもだね」

「さあ開けるわよカルバ!」

 

 露骨に宝物あります感を出している扉を前にマリーちゃんのテンションが上がっている。帰りの道も不明なのに現金なものだ。

 扉を開けようとする二人を横目に俺はふっと立ち止まり辺りを見渡す。メドゥ子もまた同様に辺りを警戒していた。

 

「……なーんかいるな」

「あんたもわかる?」

「姿は見えないけどな。何だと思う?」

「魔物でしょ」

「だろうね」

 

 こちらを伺うような気配がある。どこからかじっと見つめられているような。

 

「これ鍵かかってる?」

「無いわね、罠も無い感じだしとりあえず開けてみましょ」

 

 先に扉に向かった二人が取っ手に手をやって大きな扉を開けようとした時、俺達四人の背後から、モリモリと巨大な影が現れた。そしてそれは巨大な拳を振るい俺達をつぶそうとした。

 

「MOOoooo!!」

「え、ちょっと!?」

「うおっと!」

 

 咄嗟に攻撃を避ける。マリーちゃんもカルバさんも無事避けていた。

 突然現れた巨体、どうやらゴーレムの一種のようだ。砂や泥を集め体にしたクレイゴーレムってやつか。

 

「何よコイツ!?」

「まあどう考えても番人だよね。扉を開けようとしたら出てきたわけだし」

「番人……って事はやっぱり」

「ここはお宝あるかもしれないって事だね」

「よっしゃ! とっとと倒すわよカルバ!」

 

 やる気あるぅ~。

 マリーちゃんの目がお金マークに見えるぞ。

 

「バンバーンっとね!」

「くらえ! お宝のためにー!」

 

 二人が銃を魔物に向かって撃ちまくる。図体はデカいので外れる事は無い。放たれた弾丸は全て魔物に命中した。

 

「やったか!」

「それやってないやつだよ、カルバさん」

 

 そして案の定元気もりもりのゴーレム。受けた弾丸を体の中から砂と一緒に排出、同時に銃弾で空いた穴も塞がれた。

 

「ぜ、全然効いてない!?」

「こりゃ倒すのは難しいかもね……」

 

 パワーは巨体に見合って十分、そして耐久力と再生力もあり。確かに手強い、普通の騎空士やトレジャーハンターなら手間取る相手だ。

 だがしかし。

 

「体が殆ど砂だな」

「ええ、砂ね」

「特に特殊な魔力防御もない」

「本当にただの砂ね」

「ああ、つまり……へへ」

「うふふ……」

「あんたら二人は何呑気に笑ってんのよ!?」

 

 失敬。思わず笑みがこぼれてしまった。

 

「さてとっとと帰りたいし出て来て早速で悪いがコイツには退場願おう。メドゥ子わかってるよな」

「命令は聞かないわよ」

「俺偉大な星晶獣メドゥーサの良いとこ見てみたいなー」

「……しょーがないわねえーー! 見てなさいよ、この偉大なる星晶獣の力を!」

 

 ちょろいぜ。

 メドゥ子がやる気になった所で、ゴーレムが今度は外さなんと言わんばかりにこちらを睨み拳を振り上げる。

 だがすまんなゴーレム、この場にメドゥ子が居た時点でお前は詰みだったのだ。

 

 ■

 

 四 石化→奥義発動→粉砕→ゴーレム「アア、(出番)オワッタ……!」

 

 ■

 

 本来ならある程度描写されるべき戦闘が不思議と文章に例えたら一行で済んだ気がする。

 

「ねえ、なんかアタシの活躍が一切目立った気がしないんだけど……」

 

 そんな事無いよメドゥ子。大丈夫、俺は知っている。お前が一瞬でゴーレムを石像へと変えた活躍を……言葉にすると地味だな。

 まあそんなわけで俺達の目の前には石化して即俺が放った壊龍伏衝撃で木端微塵に砕け散って再生も出来なくなった哀れな元ゴーレムの残骸があった。

 

「しかし武器無いからとは言え素手は疲れる。こう言うのはフェザー君のポジションだぜ」

「誰よそいつ」

「俺の仲間」

「ふーん」

 

 明らかに興味ねえなこの蛇娘。聞くなよ。

 

「あんた達……さっき瓦礫蹴り飛ばしたのと言い、何者なのよほんと」

 

 あっけなく倒されたゴーレムの残骸を見て呆れた様子のマリーちゃん。何者なのかと言われてもなあ。

 

「ただの騎空士です。ええ、ほんと普通の」

「アタシは誇り高き!」

「ああ、もういいから。聞いたあたしが悪かったわ」

 

 多分碌に情報増えないとわかって話を切り上げたなマリーちゃん。だが俺はせめて言い続けたい、どんな苦しい訓練を強制的に行われたとしても俺の心はまだ一般人なのだと。

 

「それじゃあ普通の騎空士さん、悪いんだけどこの扉開けてくれる? 結構重いのよ」

「まあそれぐらいいいけど」

 

 確かに扉の大きさは結構なものだ。か弱い少女、では無いがマリーちゃんの細腕では骨が折れるだろう。押戸の様なので少し力を込めて押し込む。するとガコっと音を鳴らして扉が一気に開いて行った。

 開かれた扉からは、眩い光が溢れかえった。思わず目を閉じてしまう、それほどに眩しい光。それは全て宝物庫へとしまわれていた金銀財宝が発する光であった。

 

「や、やったーー! お宝、お宝よ!」

「すごいねえ! これはかなりあるよ!」

 

 溢れかえるような財宝に向かって二人が突撃した。金色の海に潜り、宝石を手で掬う。これ全部換金したらいくらになるのだろうか……。数百万、いやもっといくか?だとすれば……船の修繕、借金返済……ゴクリッ。

 

「あんた視線が不純なんだけど……」

「そんな事ないよー」

 

 これは純粋な願いだから、純粋に金が欲しいだけです。何故なら金が必要だから。

 せめてティアマトが無駄に使い込んだ分ぐらいは取り戻したいと思うのは不純ではないはずだ。なのでトレジャーハンター二人に偶然とは言え多少なり協力した事への謝礼を要求するのも間違っていないはずなのだ。きっとそうだ。なので「ちょいと、お二人さん」と声をかけようとしたのだったが、突然ガコンッ! とこの部屋全体が激しく揺れた。

 

「な、なにこの音? まさかトラップ!?」

「いや罠とかの仕掛けはなかったよ? だけど、これは……」

 

 お宝抱えた二人が慌てる。揺れは収まる事は無く、地震の様に縦揺れを続けていた。そしてメキメキと足元全体で不穏な音がなる。

 

「……今日あった事を考えると、すごい嫌な予感する」

「奇遇ね、アタシもよ……」

 

 メドゥ子と二人冷や汗を流していたら最後に大きな崩落音をあげて俺達がいたフロア全体の床が崩れていった。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ーーーーっ!?」

「いやああぁぁーーーーっ!?」

「うそでしょおおおおぉぉぉぉーーーーっ!?」

「うわああっ!?」

 

 今日で一番の浮遊感、そして絶望感。俺達の眼下には何もない。崩れ行く遺跡の瓦礫と共に俺達は落ちる。何もない、空の底へと。

 

「あんた何とかしなさいよおっ!?」

「いくら何でもこれは無理だっ! 」

「あーんっ! メドゥシアナアァーーッ!!」

「いやああぁぁ! あたしこんな所で死にたくなーい!」

「あーあー、もっとスリル味わいたかったなあ……」

 

 瓦礫を蹴って登っても足場が無いから意味がない。全く想定外の事態でフック付きチェーンもロープ無い、無いない尽くしで打つ手なし。

 嗚呼、俺に翼があったなら……。

 

「ジータと星晶獣に振り回されるだけの一生だった……ぅぐおっ!?」

 

 全てを諦め空の底へと落ちる事を受け入れた瞬間。鳩尾に激しい衝撃が走り激しくむせる。

 

「な、なん……げふっ! なにがどうした!」

 

 慌てて辺りを見渡す。そして直ぐ俺の視線がもう動いていない、落下が止まっている事に気が付いた。体が固定されている。島の底から伸びる木の根っこ、それが俺と他の三人をしっかりを掴み上げていた。

 

「こ、これってどういう事? またあんた何かしたの?」

「いやこれは……まさか」

 

 マリーちゃんが俺の仕業と思ったようだが、俺は木の根っこを操るような真似は出来ない。それは星晶獣の様な者の仕業だ。そして直ぐ。

 

「――――!」

 

 鈴を鳴らすような声が聞こえた。フワフワと俺達の目の前に、ドレスを着飾ったゆるふわ系星晶獣が現れる。そして遠くから近づく巨大な蛇の姿も。

 

「ああ、メドゥシアナ!来てくれるって信じてたわ!」

「ガアアァァーーッ!」

 

 メドゥ子と大蛇が喜びの声を上げた。そして近づく巨大な蛇の背には、見知った姿もあった。

 

「おーい、無事か相棒!」

「間一髪だったな」

「――――!」

 

 手を振るユグドラシルにコーデリアさん達。あそこにユグドラシルが居ると言う事は、目の前に居る一緒の姿形をした星晶獣の正体も直ぐにわかる。

 

「ああ、君は……ここの島のユグドラシルだね」

「――――!」

 

 俺の問いにニッコリと微笑んで見せた彼女を見て、どうやら俺達はとにかく助かったのだとわかった。

 

 ■

 

 五 団長帰還

 

 ■

 

「いやぁーほんと助かった。ありがとうユグドラシル」

「――――!」

 

 ニコニコ笑うユグドラシル×2の頭をこれでもかと言うぐらいナデナデする。あぁー癒されるぅー。

 エンゼラ食堂でやっと腰を落ち着けられた。半日程走り回ったからな。疲れた疲れた。

 遺跡からの空中落下から危機一髪、ルーマシー群島にいるユグドラシル本体の手によって落下から助けられた俺達。そしてその直後に続けて現れた巨大な蛇メドゥシアナ。俺達はこのメドゥシアナの背に乗せてもらい無事帰還する事が出来た。

 俺達がエンゼラから落下してティアマトのクシャミの強風で姿が見えなくなって直ぐ、コーデリアさん達によって俺達の捜索が行われる事になった。一方で俺とメドゥ子と言えば落ちて直ぐに魔物の群れに襲われ激しく移動、更に遺跡に入ってからもあっちへこっちへと移動するのでこれを見つけるのは容易では無い。

 ところがどっこい、俺には頼もしき仲間がいた。冷静で的確な判断力で俺が既にトラブルに巻き込まれたであろう事を察したコーデリアさんは、闇雲に探そうとせずユグドラシルの提案もあってこの島で文字通り根を張っているユグドラシル本体に協力を頼む事にした。

 緊急用のリンクを繋げユグドラシルは本体と連絡を取り直ぐに島中の状況を確認。俺達の位置を確認した後メドゥ子の位置を把握しやすいメドゥシアナを連れて助けに来てくれたのだ。

 今回ばかりは……いや、わりとしょっちゅうであるがとにかく死を覚悟した。なんせ空の底へと落ちるのだ。全くの未知、なんならイスタルシア並みに謎に包まれている空の底。あのままだったら間違いなく死んでいたろう。

 後で聞いて分かった話だが、どうもあの遺跡周辺の地盤が緩んでいたらしい。そんな中で俺達が大暴れしたもんだから崩落したとの事。厄日だぜ。

 

「島に来て早々どころか、上陸する前から面倒事ばっかに巻き込まれるなぁ自分」

「まったくだよ、冗談じゃないよちくせう」

 

 呆れた表情でカルテイラさんに言われたくない事を言われた。もう落下はこりごりだよ。

 

「なんにしても無事で何よりだった。君の事だから死にはしないと思ったが、万が一があっては困るからね」

「ご心配おかけしました」

「良いんだよ、君が無事ならば」

 

 コーデリアさんホント良い人だなあ。

 ちなみに俺とメドゥ子を吹き飛ばしたティアマトは、現在マストにロープで縛りあげて吊るしてある。顔には「私は、団長をクシャミで吹き飛ばしました」と書いた紙を張り付けておいた。いい加減クシャミで辻風起こす癖を治させるべきだろう。

 

「で、あそこの二人やけど……」

「う、うぅ……お宝、お宝が……」

 

 そして食堂の隅で落ち込んでいるのはマリーちゃんである。トレジャーハンター二人もそのままエンゼラに招待した。偶然の出会いだが色々あったので休んで行くよう言ったのだ。しかし遺跡の崩落は、当然あの宝物庫にあった財宝も巻き込んだ。マリーちゃんは空の底へと消えて行ったお宝への未練が激しいようだった。

 

「マリーちゃんそう落ち込まず、命あっての物種と言うし気落ちしなさんな」

「命も大切だけどお宝も大切! あのお宝の量見たでしょ!? あれだけあれば二人、いえあんたとメドゥ子含めた四人で分けても相当な額だったわ!」

 

 だろうね、俺だって欲しかったよ。欲しかったよ……欲しかったよ!

 

「まあまあマリー、お兄さんの言う通りだよー」

「だってぇ、だってカルバァ~」

「それにぃ~……ほい!」

 

 ゴソゴソと胸元をまさぐったカルバさん。何を取り出すのかと思ったら、ひょっこりと谷間から拳程はある宝石が出て来た。と言うかしまう場所……。

 

「あ、あんたこれ!?」

「いやー死ぬかどうかだったけど、もしかしたらと思って一番良い奴取っといたんだよねー。いやはや大正解だったね。これ一つでも換金すれば苦労の元取れるぜ~?」

「はーこら凄いわ、確かに相当の価値あるで」

「でしょ」

 

 シェロさんと一位二位を争う商人カルテイラさんのお墨付きが出た。これはもう間違いなく凄い宝石だろう。

 

「カ、カルバ……やっぱりあんた最高の相棒だわー!」

 

 ここで熱いマリーちゃんのハグ。うーむ、カルバさんなんと抜け目ない。あの状況で宝石を取っておこうとは生粋のトレジャーハンターと言う事か。

 ところで宝石換金の際俺にも少し……。

 

「ちょっと馬鹿人間!」

「うおっ!?」

 

 突然食堂の扉を開けてメドゥ子がかけこんできた。なんだってんだ、大事な話しようとしたのに。

 

「入室と同時に馬鹿人間とは失礼な。で、どした?」

「どしたじゃないわよ! どうなってるのよこの船、星晶獣だらけじゃない!?」

 

 当然のようにいるメドゥ子。まあ一応ね、今回の事の原因でもあるし。連れてきましたよ、ええ。

 

「来る時説明したじゃん」

「冗談と思うでしょあんな与太話! 普通あり得ないわよ、星晶獣8体仲間にしてるなんて!」

「知り合い含めるならアウギュステにもいるぞ。海の家でバイトさせて資金源にしてる」

「あんたほんと馬鹿なんじゃないの!?」

「コラ、馬鹿馬鹿言うもんじゃない」

「あいた!?」

 

 ギャンギャン騒ぐメドゥ子を後ろから来たゾーイが一発拳骨を落とした。ただポコリとまるで痛そうではない。

 

「あにするのよ!?」

「誇り高き星晶獣を自称するならそんな騒ぐものではないよメデューサ」

「そうそう。あとあんまこの騎空団の事気にしても意味ねえぜ。なんせ相棒が団長だからな!」

「だ、だって……と言うかあんた空の調停者でしょ!? そっちの黒いのは、小さいけど黒銀の竜だし! 知ってるんだからねあんた達の事。なんだってこんな馬鹿人間と一緒にいるのよ」

「オイラ相棒に負けたからな。なら仲間になるしかねえよな!」

 

 果たしてそうでしょうか、俺は疑問ですよB・ビィ。

 

「私もだ。団長は私を下したからね。ならば仲間になろうと思った」

「く、下したって嘘でしょ? 黒銀の翼に均衡の調停者は星晶獣の中でも特殊な存在じゃない、そんなのと戦って無事で済むはずが……」

 

 やっぱそう思う? 俺もそう思ったんだよね。プロトバハムート戦は特に。あと別に無事じゃ無いぞ、普通に数日気絶したから。死ぬかと思ったからね。

 

「気絶ですむあたり主殿は既に常人ではないな」

『全くだ。いい加減認めろ』

 

 うるせい(笑)二名、いつの間に来やがった。

 

「あーもうワラワラと星晶獣がまた……星晶獣バーゲンセールじゃないんだから、どうなってるのよ本当にもう!」

「ほんとにな」

「なんであんたが同意するのよ!」

 

 そう言うな、バーゲンセールって言うなら何人か売って追い出したろかまったく。

 

「いやぁ~相変わらず賑やかですねえ~」

「ええほんとに全く……」

「うぷぷ~」

「……ん?」

 

 ん?

 

 ■

 

 六 出たぞ!神出鬼没の商人!

 

 ■

 

「うおおっ!? シェ、シェロさん!? い、何時の間にっ!?」

「どうも~お邪魔してます~」

 

 まるで違和感無くいつの間にか隣に座っていた見知った商人シェロカルテさん。いやほんと何時の間に現れたんだ。

 

「団長! そう言えばよろず屋がさっき訪ねて来たから通しといたぜ!」

「え、あ、おう」

「じゃ、そう言う事で! 俺はユーリと鍛錬して語り合ってくるぜ!」

 

 突然食堂入り口から顔をのぞかせそう言うだけ言って去って行ったフェザー君。うーん、君だったかフェザー君。別に通すのは構わないが、一緒に来るか先に報告して欲しかったな。

 

「ちょっと、誰よこのハーヴィン?」

 

 メドゥ子がシェロさんを指さして聞いて来る。人を指さすんじゃありません。

 

「どうも初めまして~。私シェロカルテと申します~」

「なんでもやってる商人さんでな。俺もお世話になってる」

 

 ええそりゃあもう、大変お世話に……。

 

「貴方が星晶獣メドゥーサさんですか~。ルーマシー周辺で目撃情報が多いのでお噂は聞いておりますよ~。なんでも大変凄い力をお持ちだそうで~」

「あらわかる? そう、アタシは誇り高き星晶獣メドゥーサ、全てを石に変える魔眼を持ちし者!」

「それは素晴らしい~! 流石星晶獣ですね~」

「ふふーん!」

「ではこちら御近付きの印にいかがですか~?」

 

 シェロさんが徐に背負ったリュックから缶を一つ取り出しそれをメドゥ子へと差し出した。

 

「何よこれ?」

「温暖な島で採れた柑橘系を使用したクッキーです~。島の名物で柑橘の爽やかな甘みと酸味が美味しいと評判なんですよ~」

「へ、へえ……まあアタシそんなお菓子には興味ないけど、けど差し出すって言うなら貰ってあげましょ!」

 

 嘘つけ釘付けじゃねえか視線。食いたいんだろお菓子お前。髪の毛の蛇までガン見じゃねえかよ。

 しかしすげえなシェロさん、直ぐにメドゥ子の性格を把握して丸め込みやがった。やはりとんでもねえ商人だ。リヴァイアサン(本体)と商談したり、俺の提案とは言えポセイドンを働かせる事に躊躇が無いだけはある。

 メドゥ子はさっそくクッキーを取り出し一枚口へと運んだ。

 

「……美味しい!」

 

 メドゥ子が太陽の様な笑みを浮かべて叫んだ。見た目はカワイイ少女の笑顔、これには俺達もニッコリ。

 

「そりゃ良かったな」

「お口に合ったようで安心しました~」

「え、あ……ふん! 愚かな人間が作った物にしてはまあまあね!」

 

 思わず美味しいと叫んだ事の照れ隠しのつもりらしい、顔を朱色に染めながらも憎まれ口をたたく。

 

「そうかいそうかい、ならあのメドゥシアナってのにも分けてやったらどうだ。甲板に居るんだろ」

「い、言われなくてもそうするわよ! ふんだ!」

 

 そう言ってメドゥ子はクッキーの缶を持って目に見えてご機嫌な足取で去って行った。子犬かな?

 さて騒がしいのが居なくなったので話を進めるとする。

 

「それで、なんでしょうか。突然現れたのはこの際良いとして」

「話が早くて助かりますぅ~。まずは今回は災難でしたねえ、ご無事で何よりでした~」

 

 今回”も”災難でした。

 

「ありがとうございます。良いか悪いのか、慣れちまいましたけど」

「それはそれは~ああ、それで要件なのですが、実は一つ依頼をお願いしたく~」

 

 ふむ、実の所シェロさんとは一度会ってガロンゾ行く前に依頼を貰いたかったところだ。都合は良いがなんとも絶妙なタイミングで何時も現れるな。俺の依頼を求める気配を感じ取った可能性もある。シェロさんならあり得る事だ。

 

「どんな依頼ですか?」

「ある島にある遺跡の調査なんですが~」

 

 ん゛ん゛~~~~っ! 本当に絶妙なタイミングで来たなあ。

 

「俺が今日遺跡で死ぬような目に遭ったの知って持ってきました?」

「いえいえ、全くの偶然ですよ~」

「ほんまかいな」

 

 カルテイラさんも呆れた様子だった。

 

「まあ話は聞きますけど、どんな遺跡ですか?」

「手付かずのとある遺跡でして、どうやら古の錬金術に関しての資料が眠っているのではないかと言われてる場所なんですよ~」

「錬金術……ねえ、それってもしかして」

 

 俺達の話を聞いていたマリーちゃんが思い当たる事があったのか、一枚の地図を取り出し俺達に見せた。

 

「この島の事?」

「おやぁ? そうですね、まさにこの島の遺跡ですが、ご存知なのですか~?」

「ここはあたし達も噂で聞いて、今度行こうと思ってた所なのよ」

「なるほどそうでしたかぁ、ただ今回は遺跡の調査ギルドから受けた正式な依頼でして~。私の判断でなるべく信頼のある騎空団に依頼して欲しいと言われてまして~もうトレジャーハンター個人による遺跡調査は受け付けられていないんですよ~」

「ええ、そんなあ!? 手付かずの遺跡で色んなお宝あるかも知れないのにい!」

「申し訳ございません~、こればかりはこちらではどうする事も出来ないので~」

 

 マリーちゃん、あんた宝石一応手に入ったんだからそこまで落ち込むなよ。

 

「いやいや、マリー。一つ手が残ってるよ?」

「カルバ?」

 

 落ち込むマリーちゃんに先程の様に元気づけるのかと思ったらニヤリと笑いつつ俺を見た。

 

「要はよろず屋さんから依頼を受けた騎空団なら調査で遺跡に入れるって事だよ」

 

 待って。

 

「待って」

「あ、なるほど!」

「待って」

 

 待って。

 え? 何今回そう言う奴? こう言う流れの奴なの?

 

「ね、ね! お兄さん、あたし達仲間に入れない? 自分で言うのもなんだけど、トレジャーハンターとしての腕も確かだし足手纏いにはならないわよ!」

「私もこれでトラップのプロフェッショナルだぜ? 役に立つと思うなあ、特にその依頼なんかじゃさ」

「カルバさんは遺跡でスリル味わいたいだけでしょ……」

「それもあるかなー」

 

 絶対それだけが目的だろ。今日一日でもうわかってんだぞ。

 

「依頼を受けるのは大丈夫です。ただお二人さんは待て、突然すぎるから判断できん」

「それって何時もの事じゃねえか相棒」

「やかましいB・ビィ、ほいほい仲間増やしたら節操のない騎空団と思われるだろ」

「今更やなあ」

「今更とか言わないでカルテイラさん。それに調査依頼であって遺跡潜っても別に宝を持って帰れるわけじゃあ」

「あ、それでしたら報酬に含まれていますよ~?」

 

 あっさりと俺の意見が覆された。

 

「……そうなんっすか?」

「もし錬金術の資料などがあった場合、当然そちらは調査ギルドに渡しますが単純な宝石類であれば報酬として渡してかまわないと~。目的は錬金術の資料の方が重要らしいですねえ~」

「よしっ!」

 

 ああ……! 状況がマリーちゃん達側に傾いた。

 

「け、けどなあ、これ以上うちを大所帯にするのも」

「……ねえねえ、お兄さん」

「うん?」

「今回あたし達結構助けてもらったし、この宝石売ったお金はお兄さんを含めて三等分しようと思うんだけど」

 

 その話今出すぅ~?

 

「お、おう……いやまあ、その別に偶然だからね、成り行きって言うかそんなお礼を期待してたわけじゃないしね?」

 

 さっき此方から話を振ろうとした時は何てこと無かったのに、いざ向こうから話を振られると強く出れない。

 

「まあまあそう言わないで、カルバもいいでしょ?」

「そうだねーなんだかんだお兄さんいなきゃお宝どころか死んでた可能性もあるしなあ」

「いやそうかもしれないけど……いやしかし……ねえ、カルテイラさん」

 

 ここは交渉上手なカルテイラさんに投げよう、そう思って話を振ったのだがカルテイラさんはジッとマリーちゃんの持っている宝石を見ていた。

 

「カ、カルテイラさん?」

「……団長はん、まあ一応話すけどな」

「あ、うん」

「今回あのメドゥ子とメドゥシアナっちゅう星晶獣がエンゼラのバランス傾かした所為で船内の備品が結構やられとってな」

「……え?」

「壊れて使い物にならんくなった備品の補給で結構な額になるんや」

「え?」

「あと外装はともかく、衝撃で船内の配管とかも少し……まあ幸い設備の整って無いこの島でも直せる範囲やけども……金はかかる」

「え?」

「そんでな、この宝石なら売値三等分でも十分賄えるわけや」

「Oh……」

「まあ判断は任せるわ。あとあんた等その宝石売る時はうちに任し、いっちゃんたこう売れるように交渉したるさかい」

 

 ああそんな、そんな事が……そんな。

 俺は恐る恐る、二人のトレジャーハンターを見た。二人は実に素晴らしくニンマリと微笑んでいた。その手には、今俺が一番欲しい物が握られている。

 俺は取り合えず、メドゥ子とティアマトのお尻をペンペンすると決めた。

 

 ■

 

 七 ある夫婦漫才師

 

 ■

 

 一人の団長が災難に打ちひしがれる中、ルーマシー群島とは離れた場所で移動する戦艦にその二人は居た。

 

「なんだろうねえ、急な呼び出しってさあ。僕もう休んでたのに」

「うるさい、雇い主が来いと言うんだ。行くしかないだろ」

「けどさあ~予定ってものがあるじゃない色々と」

「お前に予定なんて無いだろう……」

「あるある! これでも色々考えてるんだから、今日の予定に明日の予定、それに明後日明々後日!」

「つまり予定無しの予定なんだろ」

「ひっどいなあ、スツルム殿!?」

 

 赤髪のドラフ、青髪のエルーン。あの団長に「流れの夫婦漫才師」とアウギュステで言われた二人組み、スツルムとドランクの二人であった。

 

「で、真面目な話なんだと思う? 急な話って」

「さあな、聞けばわかる」

「心構えしたかったんだけどなあ~」

「安心しろ、お前は心構えが必要なほど繊細な奴じゃない」

「再度酷いなあ……」

「おふざけは終わりだ」

 

 艦内通路を歩いていた二人は、ある扉の前で止まる。他の扉よりも豪華な装飾が見られ、如何にも艦の指揮官クラスがいるのがわかる。そして、傭兵である二人にとっては雇い主の部屋。

 スツルムが扉をノックする。少し間をおいて部屋の中から「入れ」と短く返事があった。それを確認してから二人は戸を開けて中に入る。

 

「急ですまないな、少し聞きたい事があった」

 

 部屋の奥の書斎机には漆黒の鎧を身に纏った人物がいた。室内であっても兜を外すことも無い。それでも兜に籠った声から女性である事だけはうかがえる。

 

「いいえ、それで何か?」

「お前達は以前アウギュステで、あの騎空団の団長に会ったと言ったな?」

「ああ、あの少年のことですか」

 

 スツルムは直ぐにあの騎空団の団長の事を思い出した。この場合の“あの”とは「ああ、あのややこしい騎空団の、問題児ばかりの、苦労人の……」と言う呆れやら哀れみやらを含んだ“あの”である。最近しょっちゅう言われる言い方である。

 

「彼がどうかしましたか?」

「……奴はあのジータと蒼の少女の知り合いと聞いている。しかも星晶獣を8体も引き連れている様な奴だ。少し気になってな」

「まあ最近の活躍は目覚しいものがあるよねえ。活動して一年も経ってない騎空団の戦歴じゃないよ。しっかり帝国と喧嘩してるし」

「その事もあってな……帝国に仇なす騎空団だと各所で声が上がって私の所まで話が来ている。無視してもいいが多少は体裁も気にせねばならんのでな。報告は受けたが奴等と接触したと言うお前達に少し話を聞きたかった。アウギュステでは星晶獣との決戦も見たのだろう?」

「見ましたよ~、当然安全な場所からですけど」

「あれはジータと同質の男です。ただ鍛えた騎空士のレベルじゃない、星晶獣を前に恐れる様子も無い」

 

 本人が聞いたら「いや普通に怖いし、嫌なんですがそれは」とか言いそうだ。

 

「本来なら自ら帝国に喧嘩を売るような真似はしないでしょう。今回は成り行きによるものが大きかった。本人はとにかく戦いを避けたい性格だったので」

「ただ本人が望まずトラブルが近づいてくるって感じかな~、そもそも仲間の星晶獣もトラブルの連続で仲間になったらしいし? 今頃また星晶獣の仲間増やしてるんじゃないのかな~」

「そんな簡単に星晶獣を仲間にされてたまるか。帝国でさえポセイドン一体を捕まえるのに周到な計画と準備を必要としたんだぞ」

「どうかな~? 彼ってそう言うのと引き合いやすいって言うか、引き寄せる性格なんだと思うよ? 僕達の予想なんて簡単に覆しちゃうだろうねえ~」

 

 ドランクは実に楽しそうに話した。スツルムはと言うとそんなドランクに頭を痛めながら「ケツに刺してやろうか」と剣に手を伸ばしたが雇い主の前とあって一端手を引っ込めた。

 

「しかし面白い子だったよねえ、それになんだかんだでスツルム殿も結構楽しんでたよね~。アウギュステでの密猟者との追っかけっ子!」

「うるさい」

「いってえ!?」

 

 やはり剣を手に取って躊躇いなくケツを指した。冷めた表情のスツルムにケツを押さえて飛び上るドランク。そんな二人をみて特に何も言わない騎士の様子から、彼女も二人のこのやり取りをよく知っているのだろう。

 

「失礼しました。ともかく此方から態々関わらなければ、向こうもこちらは気にしないでしょう」

「此方も関わる気は無い、一々ジータのようなイレギュラーを相手に出来んからな」

「それでも念のため用心した方がいいかと、少しでも関わってしまえば向こうが望もうが望むまいがズルズルと関わる事になります。あれはそう言う星の元に生まれた輩です」

「……それが聞けただけでも良かったよ」

 

 全空広しと言えど異例の大星晶獣8体を仲間にし、更にそれら星晶獣をタイマンで下せる戦闘能力を持つ団長。話だけ聞いたら星晶獣以上に化物である。誰が好き好んでこんな輩と関わるのだろうか。

 

「では戻ってくれていい、態々わるかった」

「いえ仕事ですから、では」

 

 軽く頭を下げて二人は部屋を出た。ドランクは出て直ぐに背伸びをして体の関節を鳴らした。

 

「いやぁ~息の詰まる空間って苦手、早く部屋戻って休もうかなあ」

「……お前はもうちょっと息を詰まらせるぐらいが丁度良いんだ」

「あはは、酷いねえ~。ところでスツルム殿、この艦って次何処向かってるんだっけ?」

「もう忘れたのか……帝国本国と秩序の騎空団の間できな臭い動きがあって、それに備えて装備の補給をする話だったろう」

「だってここ最近忙しくってド忘れしちゃってさあ。で、どこだっけか?」

 

 相方の恍けた様子に呆れながらスツルムは自分達が乗る戦艦の行き先を告げた。

 

「私達はガロンゾに行く」

 

 少年は知る事になる。この世には、蒼の少女と同じ神秘を秘めた少女が居る事を。そしてその少女と共に居る漆黒の騎士の事を。

 胃痛が止む事は無し。

 

 




黒騎士が捕まっていないので、ゲーム本編で言う所の25章以前になりますが目安であって、こちらはもう完全に別時空の時間軸で進み出してます。それでもそれなりにゲーム本編準拠で進めようとは思ってます。

今更ながらメデューサって飛べるのだろうか。星晶獣であるいじょうある程度の浮遊は可能かもしれないが、バッチリ飛べるかは別かもしれん。基本メドゥシアナで空は移動をしてると思っているので、はっきりとメデューサ単体で飛べる描写が出た場合、こちらも描写を変更するかもしれません。

ティアマトが引けたのだが、ほんとティアマト(笑)がもうしわけねえ。しかもユグドラシルと同じ念話系キャラ。なんてこったい。ただこれ言い出すと、コロッサスも正確には機械音っぽいのでバトル中喋ってるんだよなあ。

キャラが仲間になる時の理由を考えるのって難しいですが、ゲーム本編でも結構勢いで仲間になってる事が多くてちょっと気持ちが楽になる。カルテイラとか唐突だったし。


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