俺は、スーパーザンクティンゼル人だぜ?   作:Par

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黒騎士、ミスラ等のキャラ崩壊にご注意ください


些細な約束、大きなトラブル

 ■

 

 一 まただよ(泣)

 

 ■

 

 宿の一室、ガロンゾで俺が泊まっている部屋。シェロさんが気を利かせてくれたのか、俺一人の個室である。ユーリ君が仲間になる前とかじゃあ宿で泊まる時は大抵数少ない男性団員のフェザー君とB・ビィなんかが同室だったりしたのでちょっと新鮮であった。

 そして今回特に個室であって助かっている。数分前に現れた突然の来訪者に対して比較的対応しやすいからだ。

 

「お茶とかいります?」

「いらん」

 

 目の前に座るのは物々しい漆黒の甲冑を纏った騎士。

 

「あ、じゃあ僕貰おうかな~、何あるの?」

「部屋の備え付けですけど紅茶とコーヒーなら」

「なら紅茶ホットに砂糖多目でお願いね~」

「厚かましいなこの人」

「ドランク……」

「あ、スツルム殿っ! ごめん、ごめんって剣は抜かないでっ!?」

 

 アウギュステで出会った愉快な二人。

 

「オルキスちゃんには飲み物とクッキーを上げよう」

「……ありがとう」

 

 そして昨日出会って別れたばかりのオルキスちゃんの四人がいる。

 

「ちょっとちょっと、露骨な贔屓じゃないのそれ~?」

「うるさいですよ。俺は可愛い者の味方なのだ」

「あ、そんな事言っちゃう~? じゃあ聞くけどうちのスツルム殿が可愛くないとでも~?」

「うちのってなんだ!?」

 

 ドランクさんが横に座るスツルムさんを指して言う。ふむん……。

 

「百理ある。スツルムさん、クッキーを上げます」

「ああすまん……ってお前も悪乗りするんじゃない!」

「んで、その流れで僕にもクッキーを」

「……はんっ!」

「え、鼻で笑われた!?」

 

 寝言は寝て言うものだよドランクさん。

 

「……いい加減話を進めたいのだが?」

「あ、ごめんなさいね。場の空気を和ませないと胃痛がするんで」

「そう構えるな。貴様等と一戦交える気など無い」

「そうは言うけど気が気じゃないんで。当然知ってるだろうけど、アウギュステじゃ俺達帝国とやりあってるんで」

「無論知っている。だが今その事はどうでもいい。本来なら貴様のような輩と関わる気など無かったのだ」

「その言い方も引っかかるなあ」

 

 親方さんにシェロさん達と待ち合わせていたのに突如現れた帝国の最重要人物黒騎士とその一行。宿の人にシェロさんへ待ち合わせに遅れると事情も合わせて伝えてもらうよう頼んだが、しかし早くこの場を切り抜けてしまいたい。目的はまだ不明だがこの人達が現れてからと言うもの胃がキリキリしてしょうがない。オルキスちゃんが唯一この空間で癒しである。

 また大げさにすると宿に迷惑になってしまうため、他の団員は部屋で待機してもらっている。ユーリ君は元帝国兵とあって黒騎士の登場には動揺を隠せていなかったが、今頃シャルロッテさん達に落ち着かせられてるだろう。

 

「しかしまあ、帝国のお偉いさんがこんな少人数で来るとはな。青毛の兄ちゃん達はボディーガードってわけかい?」

「まあそんな所かな~」

「……おい、この黒いのは何だ?」

「あんま気にせんで下さい」

「そうは行くか、どういう存在なんだこの……なんだこれは?」

 

 スツルムさんが部屋に普通にいるB・ビィに困惑している。確かに初見ではようわからんトカゲみたいな黒いナマモノだからなこいつ。

 

「と言うかマジ何時の間に入ってきたお前」

「大した事してねえよ、隙間からこうヌルッとよ」

「わかった、もういい。言わんでいい」

 

 勘弁してくれ。お前ただでさえスピード特化とかマチョビィ以外にも変身形態あんのに、更に不定形生物感出さんでくれ。

 

「相棒が後れを取るとは思わねえが、誰かは傍にいねえと不味いだろ? こっちもボディーガードみてえなもんさ」

「……なんなら追い出しますが」

「別にかまわん」

「だとよ相棒」

「……どうも。それでご用件は?」

「うむ、先ずは先日は“人形”が世話になった。その件は礼を言っておこう」

「人形?」

 

 昨日の件と言うとオルキスちゃんの事しかない、黒騎士の言う人形とは明らかにオルキスちゃんの事だった。

 

「その言い方は無いんじゃない?」

「……これは我々の問題だ。詮索は不要」

 

 黒騎士の言い方に不快感を覚えるが、オルキスちゃんを見ると彼女は特に気にせず俺の上げたクッキーをポリポリ食べている。可愛い。この可愛さが自然と出ているなら、今の優先順位はクッキーと言う事か……一応本人も“人形”呼びに関しては気にしていないのだろう。気に食わないが、一応横に置くとする。

 

「まあこっちも成り行きだ。気にしなくていいですよ。それで本題は? まさかエルステ帝国のお偉いさんがお礼言いに来ただけなわけないでしょ?」

「よくわかってるな。ならば単刀直入に言うが、貴様昨日この人形と何か契約をしたか?」

「は? 契約?」

 

 唐突になんであろうか。話が見えない。

 

「生憎俺は信頼してるよろず屋以外とは契約とかしない主義でして。判子もサインもしてないですよ?」

「……言い方を変えようか。何かこの人形と約束事をしなかったか?」

「約束?」

 

 契約でなく約束か。そう言われると何かあったような。

 

「アレじゃねえのか相棒?」

「アレ?」

「ほら、嬢ちゃんの帰り際にエンゼラに乗せるとか話したろ」

「……ああ、その事かっ!」

 

 最初に契約とか言うからもっと真面目なものかとおもったわ。

 

「したした、確かにしましたけども……それが何か?」

「……そうか、貴様ガロンゾは初めてか?」

「はい? あ、まあそうですけど……それと何か関係があるんすかね?」

「大いにある、まったく忌々しい……」

 

 ええ、忌々しいとか言われましても……。

 

「星晶獣を従えてる貴様なら、各島々で星晶獣が契約を行い眠りにつく事があるのは知っているな?」

「まあ、知ってますが」

「それはこのガロンゾでも例外ではない」

 

 はっは~ん? もしかしてまた星晶獣がらみ案件? 

 

「このガロンゾではある星晶獣が島と契約を結び存在している。その存在がこの島を造船の島として栄えさせている」

「……その星晶獣の名は? 何を司ってるんです?」

「星晶獣の名はミスラ、奴は“契約”を司る星晶獣だ」

 

 ほらね。

 胃痛がストレスでマッハなんだが。

 

 ■

 

 ニ ほら、団長余計な約束した! 

 

 ■

 

 黒騎士から告げられた星晶獣の存在。名をミスラ、契約を司る星晶獣。もう暫し出会う事もないと思ったオルキスちゃんやドランクさん達と再会した理由がこの星晶獣の所為であった。

 

「ミスラは絶対遵守の契約を行わせる。このガロンゾが他の島以上に船の取引が行われるのはこの力が所以だ」

「……商談の契約が一方的に破棄される事も、どちらかの都合がいい様に歪められる事もないから」

「その通り。だからこそ我々帝国もこの島との繋がりを持ち、慎重な対応を行っている」

 

 シャルロッテさん達のリュミエール聖国に関しては身内の事だが、帝国が他の国とどう言う関係を維持してるかは興味はない。今はミスラのことだ。

 

「この島で書類など必要無い。ミスラが存在する以上口約束で十分なのだからな」

「そして、昨日交わした俺とオルキスちゃんの約束も……」

「そう、貴様は軽い気持ちだったろうがミスラにそんな事は関係ない。両者が果たすべき約束を結べば奴の力は及ぶ」

 

 融通が利かない星晶獣だ。いやしかし星晶獣とは融通が利かんもんか、役割を決められて作られたのだから。

 

「ただ船に載せる約束なわけだけど……結局何が不味い状況なんです?」

「ただ乗せるだけで済むなら今すぐお前らの船につれてかせる」

「そりゃそうだ……それじゃあ一体」

「……人形」

 

 黒騎士に呼ばれクッキーを味わっていたオルキスちゃんは若干名残惜しそうに食べるのを止めた。

 

「……約束、私をお兄さんの船に乗せる」

「ああそうだったね。全然それはかまわないよ」

「船に乗せる……“船の修理が終わったら乗せる”約束……」

「……え?」

 

 ちょっと待ってくれよ、まさかそこが強調されるの? そこが重要なの? そこがポイントなの? 

 

「実はさ~昨日僕らの船も補給すんで、さあ動かそうって時にトラブル! 艦がうんともすんとも言わないんだよね~」

「島の職人に見せたが動力に異常は無い。故障一つ無い状態で何故か一切動かん」

「機材トラブルでも人的要因じゃない……つ~ま~り~、何かこの島に船が縛られる原因があるってわけ~。そんでここはガロンゾ、理由があるとすればミスラの存在を疑うのは当然だよね~?」

「そして何か原因があるとすれば昨日脱走したこいつだ。色々原因を探る中で偶然こいつが船を降りたら途端にエンジンが入った」

「じゃあこの子は何をしたのかな~? そうたった一つだけ団長君、君と約束をした。君達の船が直ったら乗せるって言う約束をね」

「お腹痛い」

 

 ドランクさん達の説明を聞くほどに胃痛がした。思わず口に出してしまった。けどお腹痛い。

 

「あんた俺達とオルキスちゃんが会ってたの見てたの?」

「まあね、君に気付かれないようにするの大変だったよ~」

「……昨日お前がその事を直ぐに言わないから原因を探るのが遅れたんだ。そう言う事は直ぐ報告しろ」

「だって絶対面倒になりそうだからさ~。だって団長君だよ?」

 

 “だって”って何だよ“だって”って。

 

「オルキスちゃんも秘密にしたがってたし、特にこっちが不利になるような事話したわけじゃなさそうだったからね~。あ、いやけど約束事にまでは気が回らなかったのは僕のミスか、いやごめんねスツルム殿」

「……ふん」

「いってえっ!?」

 

 こんな場面でもドランクさんがスツルムさんに尻を剣で刺されている。

 

「……単に俺の船に乗せると言う約束ではなく、“修理された船に乗せる”約束として契約が結ばれた、と」

「そう言う事だ。しかも何時何処で乗せるかは含まれずに、ただそれだけが貴様と人形の間に契約された。曖昧な約束のくせに融通のきかん内容でな。貴様の船が修理されて人形を乗せるまで我々はこの島に釘付けだ」

「まあこの子を置いてけば船は動くけど、当然そんなわけにはいかないからね~、あいたた……」

 

 完全に失言だった。ガロンゾに関して知らなさ過ぎた。子供と交わした些細な約束のつもりがこんな事態になってしまうとは。

 

「……B・ビィ、悪いんだけど宿の人に頼んで湯冷まし一杯貰ってきてくんない?」

「わかった、待ってろ」

 

 喉が渇くが冷たいのも熱いのも飲めん。温いの、胃に優しいの欲しい。

 

「聞くがその修理中の船が直るのは何時だ?」

「今日打ち合わせの予定で、ただ前話した感じじゃ早くて一月って話でしたけど……早くてって話だから、もっとかかると思います」

「……長すぎる」

「バラしてからの改修なんで、もうそう言う風に話し進めてるし」

「本当に……余計な約束事を……」

 

 悪いとは思うがそんな事言われてもなあ。俺マジでミスラの事知らんかったし。けどこのままと言うわけにもいかないよな。帝国のトップとこの島で微妙な関係を保つ必要が出てしまう。

 

「……オルキスちゃんって、星晶獣呼べるんだっけ?」

「呼べるよ……?」

「じゃあミスラって今呼び出せる?」

「貴様……一体何をする気だ?」

 

 俺が突然ミスラ呼び出して欲しいと言うので黒騎士さんがいぶかしんでいる。

 

「いや呼び出して俺達に働いてる絶対遵守の拘束を破棄させようかと」

「馬鹿な、無意識に働きかけて行う力だ。不可能だ」

「やってみなくちゃわからんです。そいで、どうだろうオルキスちゃん?」

「……ごめんなさい……ミスラの場所今よくわからない……」

 

 ふーむ、もうちょっと強い気配とか無いと駄目か。距離も近づかないと呼び出せそうに無い。

 

「相棒、湯冷まし貰ってきたぜ」

 

 どうやってミスラを呼び出そうか考えていたら、丁度良いタイミングでB・ビィが戻ってきた。蛇の道は蛇、星晶獣には星晶獣。

 

「サンキューB・ビィ。そんでついでで悪いんだが、お前この島の星晶獣の事わかるか?」

「ミスラの事か? オイラも詳しくはねえけど」

「お前の方で呼び出したり出来ねえ?」

「あー……まあ出来なくはねえよ、多少手間だけど」

「じゃあ省エネ状態にして連れて来てくれ。無理ならこっちから行くわ。なるたけ早く」

「話し合いか?」

「そりゃ向こうしだい」

「オッケ、ちょっと待ってろ」

 

 戻って直ぐだがB・ビィは窓から何処かへと飛んでいった。多分星晶獣的に話し合いがしやすい場所に移動したんだろう。

 

「貴様……本気でミスラに契約を破棄させる気か?」

「じゃないと俺達まで面倒ですもん、やれる事はやりますよ俺は」

「……ごめんなさい」

「あっとオルキスちゃんは気にしないの。こんな事なんて予想できないんだから。それに君との約束を破るわけじゃないよ、態々絶対遵守なんざせんでも俺は君との約束は守るし」

「……うん、ありがとう」

 

 あ、ちょっと胃痛和らいだ。可愛いは最高の胃薬、はっきりわかんだね。

 

「しかしミスラ……そうか、昨日オルキスちゃんの“お代わり”を止められなかったのも、その力が働いたわけね」

 

 俺が不用意に「お代わり可」などと言ったものだから、それが契約とみなされたわけだ。両者合意でお代わりを止めないとあれが延々と続くわけか。そうか、そうか成る程ねー……。

 

「……今思い出した。黒騎士さん」

「なんだ?」

「昨日さぁ……オルキスちゃんめっちゃ飯食ったんすよ。そりゃもう、食堂に表彰飾るぐらいに」

「あれ凄かったねぁ~結局何人分だったの?」

 

 そこも見てたのかよドランクさん。

 

「20人分以上は食ったよ……それで黒騎士さん、此方をどうぞ」

「これは……」

 

 スッと机の上に一枚の紙を差し出す。それは「9万3070ルピ」と書かれた領収書であった。

 

「なんだ……これは……」

「オルキスちゃんが食った分の値段」

「……宛名が黒騎士と書いてあるのは」

「保護者があんたって仲間から聞いたんで」

「……食べたのか」

「食ったんすよ」

 

 黒騎士さんの視線が横に座るオルキスちゃんに向いた。彼女は膝に置いていたぬいぐるみ“ねこ”を持ち上げ顔を隠した。可愛い。

 

「聞いてないぞ、人形」

「……にゃー」

「おい」

「……ごめんなさい」

 

 すまんオルキスちゃん、けど今言っとかないと9万はきつい。

 

 ■

 

 三 ミスラ、ミミスラ、ミミミスラ

 

 ■

 

 黒騎士さんはちゃんと領収書を受け取った。しかもなってこった、即払いである。

 9万ルピポンとくれたぜ!

 

「今回の事と言い、なんか申し訳ねっす」

「かまわん、こっちに関しては此方の落ち度だ」

 

 これで昨日の出費は無し、非常に助かった。

 

「よしんば1万、2万……いや2万は無し、1万なら出してもいいけど9万は無理」

「だとしても良くその場では払ったな貴様」

「絶対あんたに払わせるつもりだったんで」

「……私を七曜の騎士と知ってそれか」

「七曜の騎士と知ったから払わせるんだよなあ」

 

 まさか帝国トップで空に名立たる騎士様が金が無いと言う事も無いだろうし、払わんと言う事もなかろうと言う判断。

 流石帝国トップの騎士様だ。財布力がダンチだぜ! 

 

「あと余計な事かもしれんけどさ、オルキスちゃんに財布ぐらい持たせなよ。何万も持たせろとは言わんけど、これじゃお出かけしてサンドウィッチも買えやしない」

「……考えておこう」

 

 小さい頃からお金の使い方は教えておくべきである。

 

「相棒戻ったぜ」

 

 窓から出て行ったB・ビィが今度は扉から帰ってきた。割と早かったな。

 

「あいお帰り、んでミスラは?」

「連れてきたぜ、ほい」

「はい?」

 

 B・ビィが突然俺の手にティーソーサーほどの歯車を渡してきた。ただそれは普通の歯車ではなく、緑の宝石が中央にはまり、それを軸に天秤がつけられた歯車である。

 

「……えっと、B・ビィこの歯車はなに?」

「だから、そいつ」

「はい?」

「ミミー」

「うおっ!?」

 

 わけがわからないでいると今度は手に持った歯車が謎の鳴き声を発したと思えば、突如回転し出し宙に浮き出した。ギリギリと音を鳴らし、天秤がユラユラと揺れている。

 

「……ん、んっ? B・ビィこーちーらーはー」

「おう、こちらミスラ(省エネ)さん」

「ミミミー」

 

 そんな存在が俺達の目の前でクルクル回転してた。しかも今度は縦軸回転である。天秤がめっちゃ振り回されてる。

 

「ミミー、ミスラ~」

「……黒騎士さん、こいつも自分でミスラって言ってます」

「ああ……その、ようだな」

「……可愛い」

「ミミー」

 

 しかし省エネにしたって省エネ過ぎない? 元の形態知らんけど。あとなんかコロコロしてるミスラ省エネとオルキスちゃんが戯れてて可愛い。

 

「……まあ良いや、星晶獣だし」

「君この事態それだけで済ますんだね」

 

 済ますともドランクさん、だって星晶獣だし。気にしても意味無いから。

 

「さて、それじゃあミスラ? 急に呼び出して悪いんだけど話し聞いてちょうだいな」

「ミー?」

「ちょっとさ、お前の力で俺とこの子、オルキスちゃんとの間に契約が交わされちゃって困ってんの、なんて言うか妙な所で約束されちゃってさ」

「ミー……」

「そう、こっちの人達が島から出れないわけよ。それでさあ、なんとか出来ないかね? 可能なら破棄したいんだけど」

「ミッ!」

「駄目、無理? あーじゃあちょっと融通きかせてくれるだけでも嬉しいんだけど。せめて場所と日時は自由にさせてくれない?」

「ミミミンッ!」

「無理? どうしても?」

「ミミミンッ!」

「自分でも無意識でやってるから無理? 厳しい? あーならとりあえず飛べるようにして乗せる方向で」

「ミ~ミミンッ!」

「え、応急処置の船でもだめ?」

「ミン、ミン、ミミミンッ!」

「完全修理? 昨日決めた計画通りの改修後じゃないと駄目って、いや、そこんとこお前さ~」

「スツルム殿、言っちゃ何だけど団長君が小さい歯車と真面目に会話して交渉してる光景って、これ傍から見るとすっごい愉快だね~」

「なら言ってやるな……」

 

 ほんとだよ、何なら変わってくれるのかこの野郎め。

 

「ミスラ、ミミスラ、ミミミスラッ!」

「……あっそ、わかったよ。お前って早口みたいに喋るのね」

「おい、ミスラなんと言った?」

「あれ、わからなかったです?」

「わかってたまるか。傍目からでは怪音発する歯車と会話してるだけだ」

「え、嘘でしょ?」

「いや僕達もなんだかさっぱりだったよ?」

「……私は、わかるけど」

 

 うっそだろ、ミスラの言葉わかってるの俺とオルキスちゃんだけ? てっきり星晶獣あるあるネタの謎発声でも意思疎通可の力が働いていると思ったのに。

 

「相棒はオイラ達濃い星晶獣と一緒にい過ぎて、リスニング方式で自然と人語を喋れない星晶獣の言葉を理解できるようになってんだ」

「待ってB・ビィ、俺そんな事知らん」

「苦労の賜物だぜ」

 

 いらんそんな賜物。

 

「……まあ結論としては無理だそうですよ」

「だろうな、元から期待はしてない。ミスラの力はそう言うものだ」

「自分でもどうにも出来ない力なんて使ってからに、こいつめー」

「ミミ~!」

 

 八つ当たりに浮いてるミスラを突いてクルクルと回転させてやる。しかしミスラの声は思いの外楽しそうだった。

 

「結局船に乗せるしかないか」

「……そちらも特に期待していたわけではない。契約の内容が重要だったのだ。確認もせず迂闊な行動をすればよけいに面倒になる」

「まかり間違って団長君の船を壊したりなんかすれば眼も当てられないよ。契約は残ってるのにそれを果たす手段も無くなって、ガロンゾから一生出る事が出来なくなんだからさ~」

 

 万が一にもそんな事あれば俺もそっちの戦艦堕としますがね。ただじゃおかない。

 しかし、さて困ったと頭を悩ませる。結局の所船の改修終了を待つしかないのだが、親方さんに頼んで工期を速めてもらう事が出来ればまだいいが、きっとそれは難しいだろう。

 どうしたものかと悩んでいると、再び部屋の扉をノックする音がした。

 

「どなたー?」

「度々申し訳ございません。宿の者ですが」

 

 外からは黒騎士さん達を連れてきた宿の従業員の声がした。

 

「何かありました?」

「実は先程頼まれた伝言をシェロカルテさんに伝えた所、是非お話をしたいのでドックまで来て欲しいと申されまして」

「えっと、まだちょっと立て込んでるですが」

「それが、シェロカルテさんが今回お困りの事で力になれるだろうと……」

 

 シェロさんの言う今回お困りの事ってミスラ関係だよな。わかってた……わけでは無いだろうけど、ちょっと怖いぞ。用意良すぎない? 

 

「それともし来れるなら団員の、ユグドラシル様をお連れするようにと」

「ユグドラシルを?」

 

 シェロさんが彼女を指名してくるあたりに、これが単なる思い付きではない考え合っての事だと言うのがうかがえる。

 現状船の改修を待つ身、どうなるかはわからないが話を聞かない手は無いだろう。

 

「黒騎士さん、俺は船の所に行こうと思いますが」

「……ならば我々も同行する。他人事でもないのでな」

「良いんですか? 助かりますけど」

「勘違いするな。わかっているだろうが事態が事態だからだ。本来敵対こそすれど貴様らと馴れ合うつもりはない」

「わかってますよ。じゃあ決まりっすね。B・ビィ、ユグドラシル呼んで来てくれ。それと船の話し合いになるからカルテイラさんも」

「了解だぜ」

 

 少なくともここで意味なく、うんうん無駄に唸り悩む必要は無くなった。その事で気が少し楽になった。

 

 ■

 

 四 船を生む

 

 ■

 

 シェロさんに呼ばれゾロゾロと俺はB・ビィ、ユグドラシル、カルテイラさん。そして黒騎士さんご一行を引き連れてエンゼラのある中央船渠へと向かった。

 何度見てもデカイと言う感想が浮かぶ中央船渠、そして昨日見た時と違うのは遠目からでもわかる場所に俺達の船であるエンゼラが固定されている事だろう。

 

「……あれが、エンゼラ?」

「────!」

「うん……綺麗な船……」

「ミミミン」

 

 ユグドラシルとオルキスちゃんが手を繋いで遠くに見えるエンゼラを見て話してる。オルキスちゃんの傍にはなんかついて来たミスラまでいる。凄いぞ、あそこだけ癒しが凄い……何と言うか、凄い。

 そんな彼女達を眺めていたいが、俺はと言うと隣で歩くカルテイラさんの御小言を聞いている。

 

「あんだけ嫌がった帝国呼ぶ原因を自分で作るなんてなあ……」

「はい……」

「そんで今日、よくもまあこんなややこしい話にできるわ」

「……すんません」

「もう一種の才能やで。息吸うだけでトラブル呼び寄せとるんと違うか自分?」

「違うと思いたい……」

 

 道中カルテイラさんに嫌味とは言わないが、流石に色々と今回の事で言われてしまう。俺が交わした約束が原因なので申し開きもできない。

 

「……ん」

「おん? どないしたん嬢ちゃん?」

 

 オルキスちゃんがカルテイラさんの袖を引いて会話を遮った。

 

「……お兄さんは、悪くないよ……苛めないで……」

 

 ああああぁぁぁぁ────っ!! 

 

「ちょっと、ちょっとお前、ねえ聞いたB・ビィ? この……このもう……天使なんじゃないのかなこの子?」

「落ち着け相棒、なんか気持ち悪いから」

「気持ち悪いとはなにかっ! わからないのかオルキスちゃんの可愛さが! もうウチのティアマトとかとトレードしたいよ! 引き取りたいよ!」

「お前にとっての癒しなら既にユグドラシル達がいるだろ?」

「────?」

「うん、ユグドラシルお前は俺の癒しだ。間違いない。が」

「が?」

「ストレス源が多いんだよぉ……っ!!」

 

 そしてお前もそうじゃいB・ビィ。

 

「アホらしい会話……んーとなあ嬢ちゃん? 別に苛めてるんと違うで?」

「そうなの……?」

「せやせや、ウチらの間柄ならこんぐらいの言い合い日常茶飯事っちゅーことや」

「……んー?」

「にししししっ! まだよーわからんか、まあその内わかるわ! 友達ぎょうさん作ってみればな!」

「友達……沢山……」

 

 友達と言うフレーズを聞いてオルキスちゃんが気持ちワクワクしてるように見える。

 

「……ほん、ほんとっ! ……オルキスちゃんかわ……っ! 可愛いもう……っ!」

「うんうん、わかったわかった。わかったから団長君、B・ビィ君も言ってたけど落ち着こうね~」

「……ジータよりはまともと聞いたが、貴様も大概だな」

 

 俺がオルキスちゃんの際限無き癒し(ぢから)に涙していると、黒騎士さんが滅茶苦茶呆れた様子で呟いた。

 

「比較対象が可笑しいのと思うのですが。あと俺について聞いたって、まさか変な噂じゃないでしょうね」

「貴様が幼女趣味の犯罪者予備軍と言う噂か?」

 

 兜付けててもわかるぞ、笑ってるな。それも心底馬鹿にした笑みで。

 

「噂だから、根も葉もない噂だから! 信じてるんじゃないでしょうね、七曜の騎士ともあろう方が!? 最近まで七曜の騎士とか知らなかったけども」

「どうだかな、この人形に現を抜かす所を見れば強ち嘘でもなかろう?」

「ふふふ普通だし、ノーマルだし!? 可愛いもの可愛いと思って何が悪いか! と言うか何時も一緒にいるあんたにはわからないのかオルキスちゃんのあの癒し(ぢから)が!」

「下らん」

 

 く、下らん? 下らんときたよこれまたしかし。

 

「こ、こっちはやれ私物を買い込む星晶獣、やれ酒飲んで吐くドラフ、やれ船壊しかけたちみっこ星晶獣、やれ唯我独尊錬金術師だのに日々胃を痛め辛い思いをしてると言うのに、こんな良い子とずっと居ておいて下らんとっ!?」

「ああ下らんな」

「ぎぎぎ……!」

「……本当に下らん……彼女ならば、もっと笑えたのだ」

「ん、彼女?」

「……気にするな、ただの戯言だ」

 

 それっきり黒騎士は黙ってしまった。きっと追求しても返事すらしないだろう。しかし小声だったが確かに聞こえた言葉。彼女とはオルキスちゃんを指しているように思ったが、黒騎士さんの言葉からはもっと違う人間を意味するような印象がある。

 まあ帝国の人って言うのが複雑だが、この人も色々大変なんだろうな。

 ちょっと微妙な空気になった所でシェロさん達が待つ工房の入り口へとついた。中に入ると相変わらず忙しそうな職人達がおり、道具を手にしては騎空艇へと向かい、戻ってきては騎空艇の設計図と睨みあう。彼らに休む暇は無く、そして彼らにとってこれは生き甲斐なのだろう。

 

「団長さ~ん」

 

 そして毎度御馴染み、あの声がした。

 

「シェロさんお待たせ」

「いえいえ~。団長さんの事ですから~仕方ない事です~」

 

 うーん、素直に喜べないぞーう。

 

「黒騎士さん達もどうも~」

「相変わらず何処にでも現れるやつだ」

「ふふふ~。騎空士居るところよろず屋あり、ですよ~」

 

 あ、普通に知り合いなんですね二人とも。まあそりゃそうか、昨日聞いた時もシェロさん知ってる感じだったしな。

 

「よう来たな坊主」

「ああ、親方さん。どうもすみません此方の都合でお待たせして」

「かまわねえよ、待ってる間に色々話してたからな」

「話?」

「エンゼラの改修計画だよ。良い木材が手に入るかもしれないんでな」

 

 良い木材か。エンゼラに使われるのならば俺にとっても悪い話ではない。しかし良い物となると当然だがお金がかかる。

 

「おっちゃん、ええ木材はええけどそれなんぼ? 知っての通りうちの騎空団貧乏やさかい、あんま出せへんよ」

「いや元手はかからん、らしい」

「らしい、て……なんのこっちゃ?」

「あー俺もよくわからんのだ。詳しくはよろず屋とあいつに聞いてくれ」

「あいつ?」

「そうでした~。実は団長さんに会って欲しい方がいるんですよ~」

 

 えー、また新キャラですか~? 

 

「まあシェロさんの紹介ですから大丈夫と思うけど……まさか星晶獣なんてオチじゃないでしょうね?」

「おや~ご存知でしたか~? 実はそうなんですよ~」

「ぐ……っ!?」

「ミッ!?」

「……お兄さんが倒れた」

「一つの島で二体目の星晶獣と来て胃痛がマッハしたみてえだ」

「ぼちぼち胃も限界やな」

「なんかもう、気の毒通り越して面白いな団長君」

「だから言ってやるなドランク……」

 

 なんてぇこった……一回の騒動で複数の星晶獣が出てくるのはザンクティンゼル以来じゃねーか。

 

「ご安心下さい~。決して団長さんの思うような星晶獣ではありませんから~」

「……ほんとですか?」

「本当ですよ~。今回の事できっと力になってくれるはずです~。ノアさ~ん」

 

 シェロさんが何方かの名前を呼ぶ。すると工房の奥から気まずそうな顔をした少年が現れた。

 

「えーと……なんか会い辛い印象与えちゃったようだね」

「……なるほど、星晶獣だ」

「へえ、わかるのかい?」

「嫌って程に。だいぶ抑えてるから近づくまでわかんなかったけど、あんた間違いなく星晶獣だ」

「あはは、凄いな君。噂通り星晶獣の事をよくわかってる」

「変な噂じゃ無い事を祈るよ」

「変な?」

「いや何でもない。まあ力に成ってくれるなら星晶獣でも歓迎だ」

「ありがとう。僕はノア、微力ながら君達の力に成ろう」

 

 握手をして挨拶を交わす。話してみればなんて事は無い、星晶獣である事を除けば普通の少年だった。

 オールを持った儚げな雰囲気の星晶獣ノア。間違いなく星晶獣だが形態としてはゾーイと同じ、それかジータのところに居たロゼッタさんの様な感じ。可能な限り星晶獣としての力を抑え人として溶け込んでいる状態だからまず普通の人間に星晶獣と気付かれる事は無いだろう。

 

「人形、どうなのだ」

「……うん、星晶獣」

「そうか」

「そこの君も……なるほどね」

 

 少年はオルキスちゃんを見ると何かに納得したように頷いた。カリおっさんと言いオルキスちゃんから何を感じ取ったのだろうか。まさか星晶獣と言う事もないだろう、彼女からはそんな気配は微塵も感じない。

 

「何に納得したか知らんが我々の事は良い」

「そうかい? なら早速話を進めようか」

「ミンッ!」

「おや、ミスラまで来たのかい?」

「流れでね。今回の事で呼び出したのさ」

「へえ? ミスラの力を如何にかしようとなんて思いきったね」

「無理だったけどな」

「だろうね。けど呼び出しただけでも凄いよ」

 

 ミスラとも知り合いらしい、つまりガロンゾに居る事が多い星晶獣と言う事か。

 

「しかしここでまた星晶獣の追加か~、君はあれかい? 星晶獣の不思議パワーであっという間に船を直してくれたりとかするのかな~?」

「はは、期待されてるなあ。けど申し訳ないのだけど、あっという間とはいかないかな」

 

 ドランクさんの質問にノアは申し訳なさそうに答えた。俺もちょっと期待してたので、内心「あらそうなの?」と思ってしまう。

 

「ただ力に成れるのは間違いないと自負してるよ」

「となると……あんたは何の星晶獣なんだい?」

 

 俺がそう聞けばノアは誇らしげに答えてみせた。

 

「僕はね、艇造りの星晶獣なんだ」

 

 そのノアの自信に満ちた答えを聞いて、俺はエンゼラはきっと素晴らしい復活を遂げるだろうと確信したのである。

 




グラブルは自分では比較的ライトユーザーと思ってます。だからかあまり俗語を知らないため、感想欄をみて「ご理解した」を初めて知りました。
個人的に「9」と言う数字と言えば「デデデストーロイ ナーインボー」と「9枚でいい」とかですね。

謙虚な騎空士「ご理解した。9万でいい」

本編「星の旅人」ついに更新されましたね。いつも悩むのは、殆どのストーリーが更新されてから一気にやるかやらないか。

魂の追記
マキュラ・マリウス水着……マキュラ・マリウス水着っ!? しかも召喚石って、プレイアブルじゃないんかいワレェ!?

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