俺は、スーパーザンクティンゼル人だぜ?   作:Par

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一応はおわりの物語


GO

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 一 今は昔、気苦労の少年と言う者ありけり

 

 ■

 

 ばあさんに呼ばれた。

 修行の後疲れ切った俺に話をしないかと誘われた。ばあさんの実に優しい老婆らしい笑みをむしろ不気味に思いながらもばあさんの家に付いて行く。

 

「あんたの修業を始めて、もう二月は経つかねぇ」

 

 そうですね。しみじみとあっという間みたいに言いますけどな、この二月俺は地獄よりもつらい思いをしてるのだがそこの所どうですか。

 

「あんたは、私の想像以上だったよ。年甲斐も無く若い頃思い出してしまうねぇ……あの人達との旅は、楽しかった」

 

 無視しないでくだせえ。

 

「……ジータちゃんは、心配かい?」

 

 ……ふむ。どうやら真面目な話らしい。

 

「そら、心配っすよ」

 

 ジータの無茶は、居なくても不安にさせる。なまじ我が家の星晶獣戦隊から聞いた話もあるものだから余計に。主にビィと周りの人達が。

 

「そう言って、真っ先に原因のジータちゃんを案じるのだから、誤魔化せないねえ、あんたも」

 

 うるせいやい。どんな化け物じみた強さの少女でも俺の幼馴染で妹みたいな娘なのだ。心配するなと言うのが無理な話なんだ。元から強かった彼女でも、一度命を落としている。ルリアがいたから助かったが場合によっては、それが最後の別れだったかもしれない。だとすれば、俺はあの幼馴染の死に目に会う事が無かったのだ。こんな理不尽があるか。結果オーライとは言え帝国に対しての不満や、死を恐れなさすぎるジータへの不安は今でもあるのだ。

 

「二人はいつも一緒だったねぇ……あの子が村に来て、丁度近所であの子の面倒を見れる歳近い子は、あんただけだったから」

「あの時から危なっかしい娘っすから。一人手作りの木刀で魔物討伐に行った時は、しっかり監視してなかった自分を恨みました」

 

 ビィが泣きながら俺にその事を教えに来た時、マジでジータが死ぬと不安になり大人達の制止を振り切り手斧片手に森に助けに行った。だが魔物の巣につくと4、5匹の魔物を既に余裕で狩って「お兄ちゃん、これ食べよう!!」と明るい笑顔で言ってきた。あまりの事に俺は、一度ぶっ倒れて目を覚ました後しこたまジータを説教した。あの日ばかりは、泣いても許さんかった。魔物? 美味しかったよ。

 以来どこに行くにも俺とビィが居なければ一人で森に行く事は禁じた。

 

「それでもあの子は良い子だからねえ。ティアマト達の話を聞くにいい仲間に恵まれてるよ」

「でしょうね。あれで人を惹きつけますから」

 

 ナチュラル・ボーン・人たらしとは、彼女の事だ。

 

「……羨ましいかい?」

 

 はぁん? 何を言うやらおばあさん。俺が何をうらやましいと言うのか。馬鹿言っちゃいけない。そんな要素ありましたかねえ? 

 

「表情に出てるよ。自分も空に行きたいってねぇ……ふぇっふぇっふぇ」

「まさかまさか」

「自分も空に行きたい。あとどうせなら、騎空団を作って生活に困らないお金を稼いで平穏を手に入れたいってねえ」

 

 俺の表情筋素直過ぎません? 

 

「……もしかして、我が家の財政事情圧迫原因のティアマトにまったく注意をしないのって」

「さてさて……あれは、勝手にティアマトがしてる事だからねえ」

 

 利害の一致ですか? くそう、くそう。

 結局具体的な何かを言われる事無く俺は、家に帰った。だがジータの事、ばあさんの言いたい事はわかる。そして、俺もそれは自覚していた。

 俺が家に帰る前にばあさんは言った。

 

「あんた達は、よく話したねえ……「どっちが先に、イスタルシアに行けるか」って」

 

 忘れるわけの無い、それは二人の約束だった。

 なお、これで終わればちょっといい話なのだが、ただ本当に珍しい事に、明日は一日だけ休みを取るからよく体を休ませておけ、との言葉が気になる。嫌な予感がまんまんだ。

 

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 二 褐色と黒銀

 

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 休みを挟んで修行日、ばあさんがいつもより早く家に現れた。そして開口一番。「残り二回、あんたは戦ってもらうよ」だと。

 わーお、この地獄が後二回で終わるって? そいつぁハッピーだねえ……とでも言うと思う? その二回ってなによ、何が来るのさ。

 

「そろそろいい具合にバランスが崩れ出したからね。もう現れるだろうさ。ジータちゃんもやんちゃしてるみたいだし、思ったより早かったよ」

 

 話を勧めないでくれ。嫌な言葉がさっきからバンバン出てる。

 ばあさんに詰め寄ろうかと思った時、我が家の扉をノックする者が現れた。ユグドラシルが耳鳴り音で返事をしながら扉を開けると、そこには見慣れぬ褐色肌の少女が一人立っていた。誰やあんた。

 

「貴様が例の男か……」

「おや、もう来たのかい?」

「今日は様子見だ。結果がどうあれ、一度顔を見ておきたかった」

「そうかい、そうかい。なら今日は、アレとかねぇ」

「そうなるな」

 

 少女はドカドカと我が物顔で家に入り俺の目の前に。だから誰や。

 

「……なるほど、顔も雰囲気も普通の至って平凡な男だ」

 

 喧嘩売ってんの? 

 ティアマト笑ってんじゃねーぞ。

 

「だが確かに強い。星晶獣を人の力のみで下すその力、危険だな」

 

 少女よ、何を思っての発言か知らんが、俺はこんな力別に欲しいなんて言ってないのだよ。

 

「しかし聞いた通りの人物でその点は、安心したよ。星晶獣を従えし男よ、また直ぐに会う事となる。今日を生き延びればだがな。さらばだ」

 

 へいへいへい、言うだけ言って帰んな。君ばあさんとどう言う関係? これは既に俺がいない時に話がまとまっていた案件ですぞ。どゆことー。

 

「さあ、坊主。既に賽は投げられた。試練は二つ、まず一つを打ち破り空への道を開きな」

 

 何それ、俺は選ばれし勇者かな? 違いますね。いよいよヤバイ。これは今まで以上にヤバイ。さらに言うなら、少女が現れた時点で彼女から発せられる覇気が凄まじいのと同時に別の場所から今までと比べ物にならない気配が発せられた。

 これは流石にヤバイ。語彙力が死滅するぐらいヤバイ。ヤバイしか言えない。

 

「なんだい、そんなに震えて武者震いかい」

 

 ビビってんだよ。

 

「安心しなよ。流石に今回ばかりは、一人ではいかせられない」

「は?」

「ティアマト達を連れて行きな。マグナ形態全員でやるんだよ」

 

 勝ったな(確信)。

 おいおい、いいのそれ? それちょっとヌルゲー過ぎると思うけど、それOKなん? なんぼ我が家で(笑)認定受けたゆるキャラ達でもマグナになると鬼の様に強いのに? 

 

「ああ、かまわないよ」

「事前ニ話ハ聞イテイル。私達モ準備ハ出来テイル」

「(p`・ω・´q)ガンバル!!」

〈前衛には、シュヴァリエを入れろ〉

「────!!」

「護りを固くする必要がある」

「私は、後衛で……がんばるから」

 

 頼もしすぎる。こら勝ち確定ですわ。逃げる必要ないね、さあ行くとしよう皆の衆。どんな星晶獣だろうと俺達に倒せないものはない。

 目指すは、この気配の元。碧空の領域!! 待ってろ星晶獣!! 今の俺には、マグナ6体が付いているのだ!! 

 

「UGAAaaaaaaAAAAAAA!!」

「すんません、調子乗ってました」

 

 邂逅、黒銀の翼。

 

 ■

 

 三 ぼくらの火の七日間熱戦・烈戦・超激戦

 

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 洒落や冗談でも比喩でも無く、死ぬかと思った。

 七日間だ。現れたドラゴン、黒銀の翼をもつ圧倒的な存在。プロトバハムートとの闘いは、七日間続いた。

 舐めてました。調子乗ってました。マグナ6体いれば楽勝とかありえません。ほんと調子乗ってましたごめんなさい。プロトバハムート(以下プロバハ)が戦闘フィールドを弄って無ければザンクティンゼルどころか世界が吹き飛んだとしてもおかしくなかった。

 初日プロバハは、拘束具を装着した状態で開幕一発目からラグナロクフィールドと言う特殊力場を発生。ダメージを食らい続けるので即クリアオール発動で事なきを得る。以降ある程度強い攻撃と特殊技アルカディアで一々こちらにデバフをかけてくる。格の違いなのか野郎の弱体効果が普通にティアマト達に通るので念のためベールかけててよかった。この時点で「おっ? いける?」とか思ったがそんな考えが甘いとわかるのにそう時間はかからなかった。

 二日目に突入。プロバハは、まるで体力が減ってないようなそぶりで嫌になる。攻撃も無茶苦茶でレギンレイブはあらゆる属性攻撃を放つので、凄まじい痛手だ。だがあえてベール状態でセレストのヴォイドオールを味方全体で食らう事で体力を無理やり回復させるなどで耐える。これが三日目まで続く。

 四日目、ついにプロバハが、手加減無用となる。戦闘開始しばらく着けていた拘束具を外し本気を出して来た。嫌んなる。自分で外せるんじゃ拘束具の意味が無いと思うのだが。なお激しくなるプロバハの攻撃にシュヴァリエのイージスマージが無ければ即死んでいたのは、間違いない。また幸いにマグナ達のほとんどが幻影効果持ちなので、かなり助かった。それでも全体攻撃が多いので常に死と隣り合わせだが。ダメージカットスキルを持っていてよかった。

 五日目から六日目。やっとこさプロバハに疲労の色が見え始めた。こちとらそれ以上の疲労具合だがね。

 基本的な戦法は変わらないのだが、自分達に再生効果をかけてもとにかく食らうダメージの方が多いのでマグナ達の再生効果でも到底間に合わない事態に。俺の回復スキルとマグナ達の防御スキルをフルに活用してやっと耐えれる程度なので必死になる。護りながら殴るを繰り返すしかなくつらい。

 七日目、最終日。前まではあった、俺は何でこんな戦いをしてるのかと言う疑問すら消え、空腹も渇きも最早感じないほどに熾烈を極めた戦いの終わりが見え出し、自分の感覚がどこか不思議な空間へと飛ぶような気持になった。相手の行動が見えるような。今奴はどの程度の体力なのか、弱点は、どんな攻撃か、それがわかるような気がしたのだ。なんとなく、これがジータが戦う時に得ていた感覚なのではないか、そう思えた。

 だからこそ、奴がその喉に怪しくも神々しい光を宿し始める前に、マグナ全員に防御態勢をとらせあらん限りのダメージカットを行えたのだと思う。だがこれでコロッサスとリヴァイアサンが落ちた。死んではいなかったが、最早限界を迎えその姿が消えた。

 いよいよ正念場。コロッサス達が死んでいないのは、ティアマト達の言葉でわかっていた。マグナの大元は、依然として祠なのでたぶん家に帰ったとの事。こんな状況であれだが呑気なものだ。だがとにかくもう後は、殴り続けるしかない。物理攻撃が苦手なセレストまで前衛にいれて戦闘を続行。出し惜しみなしのスキル乱舞。ばあさん達に鍛えられ得たあらゆるスキルを舐めるなよ。

 満身創痍。俺もプロバハもボロボロ。奴もさすがに空を飛ぶのも出来なくなり、互いに大地で相対する。だが最後の最後に奴の喉がまた光る。瞬間残ったマグナ達がダメージカットを発動しかつ自身を盾にした。プロバハの口から放たれる大いなる破局。俺は無事だがティアマト達が消し飛んだ。家に帰ったのだろう。残ったのは、ついに俺とプロバハだけ。

 

〈星晶獣を従え、しかし人の身であり続けながら我を下そうとするか〉

 

 行き絶え絶えになりながらプロバハが念話を送ってきた。

 

「そんなつもりもなかったけど……ちくしょう、疲れる……アイツらが御膳立てしてくれたからな。ちくしょう、この野郎、とりあえず勝つぞ、俺は」

 

 剣を杖にしてやっとの思いで立っている。もうあと少しで終わる。

 

〈勝ったとしてどうする? 世界を護る戦いでも無い、貴様になんの得があると言うのか? 竜殺しを名乗るか? 我より強き竜は、まだいるぞ〉

「知らんわ、んなこた」

 

 もうここまでくると男の子の意地です。今まで嫌々ながら死地に投げ込まれても勝ったのは、負けるのが悔しいからだ。男の子なんだよ、俺は。

 

「意地を通す男の力を知れよトカゲ野郎!!」

〈トカゲでは、ないっ!! 〉

 

 プロバハが腕を振り上げ、俺が剣を構える。互いに同時の攻撃は、ぶつかり合ってはじけた。同時に俺の意識が飛ぶ。

 

「見事だ、人の子よ。しばし身体を休めるがいい。最後の試練で待つ」

 

 最後にあの褐色少女の声がした。

 

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 四 オイラァッ!! 

 

 ■

 

 俺が目を覚ました時、見知った天井で自身の寝室である事はすぐわかった。ああ、あの後誰かに回収されたんだなと思い、その誰かがたぶんあの褐色少女だと言う事は予想できた。かなりボロボロであったので、誰かの看病でも期待したのだが誰もいやしねえ。仕方なくまだ痛む体を引きずるようにして部屋を出るとティアマトが相変わらずソファーでヘソ出して寝てた。

 あきれ返るほどいつも通りだった。

 

「( ゚ ω ゚ ) オキタッ!?」

 

 コロッサスが起きて来た俺に気が付いてキッチンから飛び出して来た。

 

「(;ω;*)ダイジョウブ?」

「──? ──―……」

「身体の調子、どう……?」

 

 すると我が家の癒し枠達が一斉に来た。それを見た瞬間俺を蝕んでいた倦怠感が全て吹き飛ぶようだった。だがティアマトのだらけ具合から、俺が寝ていた間の家事は、ほとんどコロッサス達がしていたようだ。これはもう寝てなどいられない。

 

「エリクシール持ってきな!」

 

 その勢いでエリクシール一気飲み。スタミナが溢れあの七日間などなかったような気分だ。

 

「オウ、起キタノカ」

 

 ティアマトが俺に気が付いたが一言そう言ってまた寝た。てめーこの野郎。

 

〈結構時間がかかったな。三日寝てたぞ〉

「死にはしないとわかっていたが、もどかしかったな」

 

 そしてリヴァイアサンとシュヴァリエ。七日の激闘で死にかけて三日で回復したのか俺。もう俺、普通の人間には戻れないのかな。

 

「まあ、そう悲観するこたねぇぜ」

「だけどなぁ……」

「力こそ、パワー。おめえは、オイラを倒すだけの力があった。それは誇っていいことだぜ」

「そ、そうか?」

「そうさ、力はあって困るものじゃあねぇ……おめえがその力の使い方を間違えねえなら、おめえだけじゃねえ、おめえにとって大事な人や物を護る力になるぜ」

「お前いい事言うな……お前、おま…………」

 

 誰やこいつ。

 

「であええ──ー!! 曲者、曲者だあああっ!!」

「ウルサイ」

 

 超絶ビビッて錯乱したがティアマトに蹴りを入れられた。普段は俺が蹴るのに。

 

「混乱してるみてえだな。ま、無理もねえか……突然家の住人が増えてんだからよ。だけど、この姿ならそう混乱させる事もねえと思ったけどなあ」

 

 この姿? それはその、なんだ……うわあ、なんだよこれ。まさかと思うけどその姿お前、まさか”ビィ”のつもりか? 

 

「おう、あいつがこの村にいる時からよく知ってるからなぁ、参考にさせてもらったぜぇ」

 

 そしてその口振り、今までのパターンを考えるとまさかお前。

 

「そうさ、オイラはプロトバハムート。もっとも、その力の一部……角一本分ぐらいの力しかねえけどよぅ」

 

 うわあ、うわあ。待ってくれ待ってくれ。ちょっと理解が追い付かない。ビィをモデルにしたって? プロバハお前、本気? その姿鏡で見た? 

 ビィは基本宙を浮いてるけど、確かに二足歩行できるよ? けどお前、それ完全に二足歩行向きじゃない? 脚が完全に円錐なんだけど。あと申し訳程度に浮いてるけどさ。なんか等身とか顔のバランスとかおかしいぞ。喋り方もなんだ、その絶妙なパチもん臭さは。しかも色が黒い。カラーリングが完全にプロバハじゃんか。

 

「ま、あくまで参考にした程度だからな。いわゆる2Pカラーってやつだぜ。本体から切り離される時に、ちょっと別の【特異点るっ!】から影響強く受けちまったみてぇでな」

 

 言っている意味がわからない。なに2Pカラーって? 【特異点るっ!】ってなに? 

 

「世界に同じモノが存在するのは難しいのさ。おめえのとこに居る星晶獣が(笑)や、或いはゆるキャラになってるのも、完全な同一個体にならねえための修正力ってやつだよ。オイラの場合それがかなり強くなっちまったけど、まあ問題は微々たるもんさ、気にするこたねえぜ」

 

 気にするよ、気にするよ。

 今までの状況からプロトバハムートが家に来るかもしれないのは予想したけど、こんなビィもどきが来るなんて予想できるか? 七日間の激闘のシリアスが一気に崩れていく。

 

「なんだよ? もしオイラの実力について不安なら心配ないぜ。角一本程度とは言え、腐ってもプロバハHL相当の角だからな」

 

 ねえ、プロバハHLって何? もしかしてなんかのランク? 俺ってもしかてやらなくてもいい難易度でプロバハに挑まされた? ねえ、ちょっとってばねえ!! 

 

「だから、おめえを鍛えるのも模擬戦もいくらでもできるぜ……こんな風に、なっ!!」

 

 突然ビィ? が気合を入れると、ビィ? の身体が膨れ上がり一気に筋骨隆々のマッチョマンの変態になった。顔がそのままで。顔がそのままで。

 

「っと──……いけねえいけねえ、やり過ぎちまうところだったぜ。これがパワー特化、それでいてスピードも兼ね備えてる。戦力としては、申し分ないぜ」

 

 違うんだ。お前が戦力になるとか、ならないとか、そんな事はどうでもいい。なんだこれ、なんだこれ。

 

「ま、これからよろしく頼むぜ相棒。俺もちょいと外の世界ってのを見てみたかったからよ」

 

 なんだこれ。

 

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 五 B・ビィ

 

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 ビィもどき改め、ブラック・ビィ。略してB・ビィ。

 法則的に(笑)枠なのはわかっていたが、シュヴァリエが変態だった時以上の混乱が俺を襲う。そもそも星晶獣なの? なんなのこいつ。

 

「本体が星晶獣だからな、まあ括りとしては星晶獣だぜ。シュヴァリエのビットと似たようなもんさ」

 

 そうですか、そうですか。つまりよくわからん謎生物でいいね。

 

「失礼な奴だな」

 

 お前がビィに失礼だよ。よくそんな姿でビィを名乗れるな。

 

「しょうがねえだろ、あまりにも【特異点るっ!】の闇が強すぎたんだ。オイラがオイラを参考にする以上避けられねえ問題さ。オイラに文句言われてもしかたねえぜ」

 

 だからなんだよ【特異点るっ!】って。

 

「おめえが知る必要ねえ事さ相棒」

 

 あと、相棒になった覚えはない。

 ともかくビィを模してプロバハが創ったB・ビィ。謎の【特異点るっ!】の影響とやらで本物のビィと比べ絶妙に似せて来ているのが腹立たしい。

 

「オリジナルの影響も大きいからよ。オイラの好物は当然リンゴだぜ」

 

 ああ、そうかい。お前にもビィっぽさは、一応あるんだな。

 

「当然だぜ、オイラはビィだからな」

 

 それは認めん。お前にビィの要素があるとしても、お前をビィそのものと認めると何かまずい気がする。色んな方面で……うん? 色んな方面ってなんだ? 

 

「おっと、あぶねえ。オイラの影響を受けちまってるな。ちっとばかし抑えるか」

 

 ……俺今何を話してたっけ? 

 

「別に何でもねえぜ、リンゴの話をしてただけさ」

 

 そうか……そうだったろうか? 何かもっと、割と重要な事だった気がするが。

 

「気にするなって、それよりおめえ体力のほうはどうだ?」

 

 誤魔化された様な気がするがまあいいか。

 体力の方は、寝起きのエリクシールでかなり回復した。何時でも奥義を放てるぐらいだ。流石秘薬の効果はすげえや。

 

「そうか、そいつはよかったぜ。次の闘いに調整できるからよ」

 

 ……あいたた、うーんやっぱりまだ本調子じゃないかも? 肋骨、肋骨あたりが痛いなあ~? 折れたかも、鎖骨とかもぽっきりイッてそう。肺とかやられたかもしれない。ちょっと吐き気もするし、頭痛もするような。

 

「仮病は無駄だぜ、エリクシールに加えて星晶獣の加護で爆発的に体力と傷を戻したからな。たとえ骨が折れててももう接合してる筈だぜ」

 

 おーい、そいつぁ初耳だぞお。

 

「ばあさんは、しばらく用事で来れねえが、その間オイラがおめえの修行を任された。次は最後の試練で更に強敵だからな、すでにティアマト達は修行場にいる。今から死ぬ気でやるぜ」

 

 瞬間B・ビィの体が膨張しまたマッチョのビィ、マチョビィになった。キモイ、キモ過ぎる。やめろお、マチョビィ! 俺に触れるなぁ!! 

 

「無駄無駄ぁ!! 病み上がりでオイラとの戦いに慣れてねえおめえに避ける術はねえ!!」

 

 ぎゃあああああああっ!! 

 

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 六 我が家=世界の均衡が崩れる可能性

 

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 星晶獣戦隊にB・ビィが加わりいよいよ俺の勝ち越し記録が破られそうになる。むしろよく今まで勝ち越していたものだ。

 B・ビィのやつ見た目ビィもどきの癖にその強さときたらプロバハそのもの。何が角一本分だ。こんなの詐欺だ詐欺。野郎ただでさえ普段のB・ビィ形態でも何故か強いくせにマチョビィになると力が増してスピードも上がりやがる。それでもやばいのに「なるほど、耐えしのぐか……ならこいつはどうだあ!!」と吼えると、その姿が細身の人間のようになった。顔はそのままに。

 

「これが、スピード特化のオイラだ」

 

 ほんとお前なんなんだよ。それでもまだビィと言い張るのか? 

 スピード特化B・ビィは、手刀にエネルギーを纏わせる斬撃が得意らしく、いつの間にか切り刻まれていることがある。悪夢だ。さらにとんでもない事にB・ビィが言うには、分裂ができると言う。

 

「やろうと思えば自己を分離させてパワー特化とスピード特化の二体で戦えるけど、自己が確立しちまうからな。【特異点るっ!】でないこの世界じゃ冗談じゃすまねえから、使わないでおくぜ」

 

 そうしてくれ。そうなると流石に俺は、状況を受け入れる事が出来ず自身で命を絶つかもしれん。なんと言うか、お前元のプロバハより強くないか? プロバハと違うベクトルで強すぎる。

 そんなこんなで、混迷きわまる修業が続きながらもついに運命の日が来た。

 

「待っていたぞ、人の子よ。はむ」

 

 その日も修行から帰ると、我が家でクッキーを食べているあの褐色の少女がいた。

 

「無礼は承知で上がらせてもらっている。今はいないが、あの老婆に合鍵を貰ったのでね。はむっ」

 

 食うな。

 

「はむむ……この、くっきーと言うのは、美味しいな。初めての感覚だ」

 

 だから食うなって。ハムスターみたいに食うのは、かわいいから、やめろ、かわいいから。その攻撃は、俺にきく。俺の心が揺らぐからやめろ。

 

「むう……まあいい。人の子よ、どうやら準備は整っているようだな。私も安心して戦いに臨めると言うものだ」

「……次は、君とか」

「まさか小さな女と侮りはしないだろう?」

 

 まさかまさかである。少女の持つ力がプロバハと同じかそれ以上と言うのは、聞くまでもなくよくわかる。マグナ六対にプロバハとの戦いを経てなければわからないし、わかっても気絶していたかもしれない。

 

「やだなーやめたいなー……平和万歳、戦争反対」

「すばらしい考えだ。だが君の力、そして君の周りの力はすでに世界の均衡を崩しかねない。私は、使命に従い君と戦わねばならない」

「お断りしたい」

「残念だが無理だ。くっきー、美味しかったよ。明日、会おう……私の使命のため、世界の均衡のため、君の運命を試す」

 

 少女は、凛々しい顔で去って行った。頬にクッキーかすを付けながら。まるでしまらない。

 流石に俺もこうなっては、腹を括るしかない。どうあがいても戦いは避けられないらしい。避けられるような気もするが経験上無駄と悟る。明日に備えてティアマト達も早くに就寝し俺も準備を終え眠りについた。

 

【探さないでください】

 

 なんて思ったか馬鹿め!! 寝る前の準備は夜逃げの準備だこの野郎。そうだ、いつも俺は、さあ行くぞ言うタイミングで逃げるからだめだったのだ。用意周到に準備した夜逃げ。わはは、今頃俺の置手紙を見て騒いでいるだろうがもう遅い。慣れ親しんだ森に逃げ込めば、俺一人なら一月、三月は余裕で逃げれるぜ。ぎゃはは、ばーかばーか!! 

 

「そんなこったろうと思ったぜ」

 

 うそやん。

 

「おめえが基本せこくてへたれなのは、周知の事実だぜ。大人しく戦いに行く訳がねえよな」

 

 馬鹿な、だとしても何故貴様が、B・ビィ!! 

 

「忘れたのか? オイラの本体は、プロトバハムートだぜ。ザンクティンゼルを守護する役目も持つ本体とリンクすりゃあ、おめえの居場所なんて一発よ」

 

 そんな……失敗……うそだ。こんなことが……ありえない。逃げ、逃げる……無理、けど……逃げたいっ。

 

「さあ、現実逃避もそこまでだぜ。マグナとオイラ、そしておめえの力で調停の翼をもいでやろうじゃねえか!!」

 

 は、な、せっ!! 

 

「世界の均衡が崩れる可能性が生まれた時、私は顕現する!」

 

 B・ビィに首根っこをつかまれ連れて来られたのは、プロバハとの戦いの跡地。そこには、すでにマグナ形態となったティアマト達。そしてあの褐色の少女が、二体のワイバーンを従えながら、剣と盾を構えていた。

 降臨、調停の翼。

 

 ■

 

 七 あの戦いのGONGを鳴らすのはあなた

 

 ■

 

 少女、調停の翼ジ・オーダー・グランデ。彼女とプロトバハムート、どちらが強いか? ナンセンスな質問だ。この両者は、互いに極端な位置にいる。プロバハは、破壊と再生。ジ・オーダー・グランデは、均衡。どちらが強いというものでは無いのだ。それぞれに、役割と使命がある。それだけなのだ。

 ゆえに、彼女との戦いにプロバハに勝てたから、と言うのは通じない。

 開幕は様子見、ジ・オーダー・グランデの出方を見ながらこちらの守りを固める。当然ベールも展開し何時でもクリアオールも出来る。もっとも、それ以上に護りと体力回復が重要で、結局ダメージカットスキルが凄まじく仕事した。二体のワイバーンを、三体のマグナ達に任せ残りと俺はジ・オーダー・グランデ本体とも言える少女に向かう。

 

「俺の家を勝手に世界のバランスブレイカー認定しないでくれないかねえ!!」

「マグナの力を従え、黒銀の翼を下した君を見過ごす事はできないのだ!!」

「あいつらはただの(笑)と癒しのゆるキャラだよっ!!」

 

 そして、俺はただの一般人だっ!! 

 

「それだけは、断じて……無いっ!!」

 

 失礼な女め。

 だがやはりジ・オーダー・グランデ、偉大なる秩序を名乗り語るだけはある。プロバハと比べるのは、やはり意味がない。これは別のベクトルの強さだ。リヴァイアサンをリーダーにセレスト、ティアマト達が一体のワイバーンを足止めしてくれているだけでもだいぶ助かるが強い。ああ、逃げたい逃げたい。

 

〈おい、こちらも長くは持たんぞ〉

「小型だけど……ジ・オーダー・グランデの力の一端……期待してくれるの嬉しいけど、限度はある……っ」

「早メニソッチノ、ケリヲツケロヨッ!!」

 

 言われんでもこっちもまた七日間も飲まず食わずで戦いたくない。今日中に決着をつけるぞ俺は。

 

「おうおう! 意気は良しだけどよ、飛ばし過ぎっとバテちまうぜ!!」

 

 B・ビィ(マチョビィ)が残りのワイバーンをボコボコにしながら叫ぶ。ワイバーンもあまり参っていないように見えるが、そもそもマグナ三体で足止めできるワイバーンを一人で割と問題なく足止めしてる件について。化け物が化け物と戦ってやがる。怖いです。

 さて、実際ムキになるとヤバイ。ジ・オーダー・グランデは、ちょいちょい幻影を出してくるので、攻撃が当たらない時がある。冷静に対処しないと、スタミナが切れてしまい不利になってしまう。

 

「一々幻影潰したって意味ねえ!! ユグドラシル、俺達を護れ!! コロッサスは俺ととにかく殴るぞっ!!」

「────っ!!」

「(*`・ω・)ゞデシ」

「主殿、私は!!」

「シュヴァリエは打ち合わせ通り、やれる限り俺達固めて再生サポートと攻撃!!」

「よし、後でケツを蹴ってくれっ!」

「うるせえっ!!」

「むう……破廉恥、なっ!!」

 

 ほらみろ、敵に呆れられた。

 しかしたぶんコレが一番早いやり方じゃない? 

 ……はあ、んなわけないか。とにかく安定した形を作ってそれを続けるのがいいだろう。実際それでジ・オーダー・グランデも後退を始めている。ボッコボコにしてやるぜ。

 

「……なるほど、やはりこの力……強い!!」

 

 いかん、調子に乗ったかもしれん。嫌な予感がする。

 

「いいだろう……来たれ! 調停の翼よ!!」

 

 すると一瞬で彼女の姿が消え、代わりにデカい馬のような翼竜が出て来た。本気を出した? 違う、こいつは第二段階って感じだ。あとこいつが調停の翼だったのか。こういう時は、様子見しながらベールにダメージカット準備ですぞ!! 

 とか言いながらやってるうちに、調停の翼の口が怪しく光って……。

 

「総員対即死ダメージ防御おおおぉぉっ!!」

 

 何かをしないと、即溶ける光景が浮かんだ。ファランクス発動してシュヴァリエもイージスマージを展開。コロッサスがシェルターを張り物理結界でユグドラシルが山のような岩盤を俺達の間に生み出した。

 それでも、それでもなお調停の翼から撃ち出された光線ガンマ・レイが岩盤を焼き切りイージスマージを突破。頼みのファランクスとシェルターでなんとか耐えきったが何つう攻撃だよ。衝撃だけで死ぬかと思ったわ。

 

「これを、耐えるか」

 

 すると姿が見えなかった彼女が再び姿を現す。

 

「ならば、見せよう……均衡を護る翼の真の力っ!!」

 

 少女が飛び上るとそれを追うように調停の翼が飛翔。縦に並んでそのまま一人と一体が近づき、近づ……な、なにぃっ!? 

 

「行くぞ! 蒼天の映し鏡たる我が剣にて、万象の憂いを断たん!」

 

 が、ががが、合体したあぁ────っ!? 

 う、ううっ!! ちくしょう、羨ましかねえ!! 羨ましくなんかねえ!! けど、ちくしょうカッコいいこの野郎!! 

 

「ふっ……そう褒めるな」

 

 うるせえ!! 男の子心をくすぐりやがって!! 

 

「混沌の体現たる子よ!! 今こそ均衡を正すため、貴様を討つ!!」

「俺を大げさな存在にするんじゃ、っねえええええっ!!!」

 

 ぶち抜け成層圏。マグナ達をブッチギリ、俺とジ・オーダー・グランデは、一騎打ちへ。大気渦巻く不思議空間でぶつかり合い、そして眩い閃光と共に終わった。

 

 ■

 

 八 あの娘かわいや大食娘

 

 ■

 

 疲れた、もお────っ!! 

 一週間、ジ・オーダー・グランデとの闘いの後ぶっ倒れた俺は、一週間寝ていた。プロバハより多いじゃないか!! 筋肉が痛いっ!! ベッドから起きれないっ!! 

 

「煩イ」

「ぐわあああああぁぁぁああああっ!?」

 

 と、一週間の眠りから覚めた俺を出迎えたのは、傷まみれの俺の身体にエリクシールをぶちまけるティアマトであった。くっそ染みてクソいてえ。

 

「かい、ふくっ!!」

 

 それでも治ってしまう俺の身体よ……。

 プロバハより多く寝たのは、結局取り切れていなかった疲れの反動だろう。ああ、もうこれで星晶獣とのやらんでいい戦いが終わると言う安心感もあったかもしれない。うーん、開放感。そして空腹感。飯を食うぞ俺は、食うぞ俺は。

 

「ふぁむ? ふぉきふぁか」

 

 俺の胃は、食料を求めていた。空腹だったのだ。胃液が空の胃の中で流れ、より刺激する。食料を、一心不乱の食料を……そう思っていた俺の目に飛び込んで来たのは、大皿何十枚も積み上げ両頬をボールのように膨らましむっちゃむっちゃと飯を食いまくる女がいた。

 

「はむむ……んっぐむんっ! ……失礼した、料理がおいしくてな」

 

 と言うか、ジ・オーダー・グランデだった。

 まあ、予想はしてたけどさあ……まあ、家来るだろうなあとは思ったけどね? そもそも前から侵入してたし。けどさあ、このもうゆるい空気よ。今までもそうだけど、激戦からの落差の凄まじみがすごい。

 

「はもむぅ?」

「ガー」

「キー?」

 

 ああ、駄目です。これは、ダメダメ。カワイイ、何これどうしよう、どうすればいいの? ジ・オーダー・グランデだけじゃなくよりサイズダウンしたワイバーンズまで飯食っててうわあああ。くそう、命のやり取りしたのにいつも俺はこうだ。ティアマトはじめ(笑)のストレスがデカすぎてカワイイモノにちょろくなってきてる。

 

「……ほむ? 美味いぞ、食べないのか?」

 

 あ、もういいや。カワイイは正義、はっきりわかんだね。

 問題保留! コロッサス、おれにもごはん!! 

 

「(;ω;*)……ゴメンナサイ」

「こ、この子が家にある食材……全部たべちゃって」

 

 ……うん? ごめん聞こえない、セレストもっかい言って? 

 

「今日そろそろ、君が起きるかもって……急にこの子が来て……待ってる間、何か料理を食べたいって言うから……そしたら」

「(´;ω;`)リョウリオイツカナイノ」

「食材全部……貯蔵庫のも、もうからっぴっぴ…………」

 

 セレストが腕を交差させバッテンマークを作る。

 貯蔵庫って……ユグユグハウスになってデカくなった貯蔵庫? 財政難の我が家でも今後問題ないようにしこたま溜め込んで、保存食だけでも一年は持つ様にしたはずじゃない? それが? 今日一日で? 

 

「……正確には、一人と二体で、一年分……大凡1時間での、完食」

 

 あひぃ。

 

「……すまん」

 

 ジ・オーダー・グランデが謝る言葉を聞きながら、目が覚めたばかりなのにもかかわらず、俺は全く違う理由でぶっ倒れたのだった。

 

 ■

 

 九 笑えばいいと思うよ

 

 ■

 

 後日、また一日気絶した俺はやっと目を覚ました。

 話をまとめると、ジ・オーダー・グランデが家に、と言うか俺に付いて行くと宣言した。

 

「君は、あまりにも危険だからね。あの彼女、ジータ……だったか? 彼女を面白いと観察していたが、君の場合彼女と似ていながら混沌そのものだから……今回も私は、本気で君を討つつもりだった」

 

 あーあ、ジータ。出ましたよ最恐で最強の幼馴染。こら逃げれん運命だな。あいつ関わってると、もうどうしようもないわ。

 

「彼女は凄いな、定められた運命を歩むようで、常に運命の外を選びつかみ取っている。それがまた、均衡を崩す事にもなるが……あの力は、実に興味深いよ」

 

 わかる。あいつは、たとえ運命が相手でも手が届かないなら届くようにする女だ。物理で。崖の上に欲しい花があれば、崖を壊してとるかも知れないような女だからな。無理だとか不可能なんて言葉アイツには無駄だろう。

 

「そして君も実に面白いな。なんだか、彼女とは違う感覚を覚えたよ。彼女への興味と君への興味……何が違うのだろうか……私には、わからないんだ」

 

 俺にもわからん。

 

「そして、君が黒銀の翼を下しこの家に招いた時、ついに均衡が崩れる可能性が危険なまでに膨らみ私は顕現した」

 

 招いてねえ、野良ネコみたいに勝手に来てるの。

 

「私は、そう……世界の味方。世界の敵になりえる者は、討つのが私の使命。だけれど、私は均衡を崩す可能性の塊の君に負けた……なぜだろう?」

 

 知らん。

 

「わからない……君は、混沌そのものなのに。秩序が混沌に負けるのだろうか?」

 

 たぶん時と場合によりけりだと思います。あと俺をカオスの権化扱いやめて。不本意極まる。

 

「そして同時に、負けて私はホッとした気がした……あの場所で、君に負けて最初に思ったのは……使命の失敗への後悔でなく、君や他の人の子達をまだ見ていられると言う気持ちだった……この気持ちはなんだ」

 

 はあ……クソでかいため息が出てしまう。

 何という固い頭だ。まるで感情と言うものを理解していない。

 

「いいか、よく聞け」

「うん?」

「まずあれを見ろ」

 

 俺は離れたところにいるティアマトを指さした。そこには、あの激闘などなかったかのようないつも通りにだらけて弛み出した腹とヘソを出したティアマトがいる。

 

「アイツは風の星晶獣のくせして星晶獣(笑)第一号にして、我が家では怠惰と惰眠の星晶獣認定だ」

「ふむ」

「どう思う?」

「どう? ……どう、とは……」

「胸から湧き上がる妙な殺意に似た怒りがないか?」

 

 ジ・オーダー・グランデは、きょとんとしながらも胸に手をやりジッとしてふっと目を見開いた。

 

「あった、不思議な……殺意とも怒りともつかない……なんだこれは、胸がざわつく」

「それはな、呆れてるんだ」

「呆れ?」

 

 あとイラついてる。星晶獣ともあろう者が部屋のソファーで弛んだ腹とへそを出し、さらに言うなら最近は、足の指で服を拾う姿も見かけた。呆れかえるしかない。いっそ殺してやった方が星晶獣の名誉が護れるのではないかと思うほどだ。

 

「じゃあ次にあれを見ろ」

「うむ」

 

 次に窓の外に見えるコロッサス、ユグドラシル、セレスト癒しトリオを見せる。彼らは、近所の人と談笑したり、子供達と残り少ない材料で作っていたお菓子の交換をしたりと楽しそうだ。

 

「どうだ」

「……うん?」

「すごく良いだろう」

 

 彼女はまたきょとんとした後、一度ティアマトを見て顔をしかめた後もう一度コロッサス達を見た。表情の違いは、明らかだ。

 

「良い、か……そうだ、な。良いな……この感情、不思議だが悪くない」

「それはな、楽しいとか、嬉しいとか、あとは……胸があったけえって気持ちだ」

「胸が、あったけえ……?」

 

 彼女はもう一度、胸に手をやってティアマトとコロッサスを交互に何度も見た。同時に顔を面白おかしく変化させ、だんだんその変化も激しくなる。

 

「あったけえ……不思議だ。熱なんてないのに、その言葉がピッタリとはまる。ティアマトの姿をみると、無性にざわつくのに……外のコロッサスや子供達を見ると、あったけえ……」

 

 ああ、あったけえ……自分の胸に手を当ててほほ笑むジ・オーダー・グランデを見ていてこちらの心が癒される。なるべく視界にティアマトを入れないのがコツだ。

 

「……俺に負けた時、俺達をまた見れると思ったなら、それは……良かった、って事なんだろ。お前は、俺だけじゃなくて人を見ていてそういう気持ちだったんだろう。見てたいんじゃないの? 人とかを」

「人を……」

 

 今度はコロッサス達でなく、その周りに更に集まりだした子供や大人達を見る。星晶獣だろうとかまわず囲んで井戸端会議をする奥様達。コロッサスに上ろうとする子供。彼女の顔は緩むばかりだ。

 

「見ていたい……そうか、私はもっと見ていたいのか、人々の営みを。使命なのではなく、これが私のしたい事なのか……」

「はい、解決」

 

 もう難しい話で俺は疲れました。結局飯食えてないし。もうご近所さんに頼んで食料分けてもらうしかないわ。

 

「ふふっ……だが、あの老婆がいきなり現れて君の事を教え、君を試せと言われた時は、何事とか思ったよ。私の領域に入り込んで来たのだからね。しかも、人の子の試練のためにわざわざね」

 

 ……。

 なん、だと? 

 

 

「……聞いてなかったのか?」

 

 あ、あのババア……それじゃあジータが原因のマグナ達以外のプロバハとジ・オーダー・グランデは、全部あのばあさんが、仕組んで……。

 

 

 ■

 

 十 決断

 

 ■

 

「ふぇふぇふぇ……よくすべての戦いを耐えきったねえ」

 

 久々に帰ってきたばあさん。ばあさんは、やたら大荷物でにこやかに俺の家に現れた。

 

「ええ、まったくもってばあさんとティアマト達の修行のおかげで死ねいっババアアァァっ!!」

「甘いッ!!」

「……ちぃっ!!」

 

 両手を広げばあさんを迎え入れるように向かって行きながらそのまま手刀を突き刺そうとしたが容易くつかまれてしまった。

 

「けど、遥かに強く……本当に強くなったね坊や」

「何時もみたいに坊主呼びにしてくれ」

 

 感動的な台詞を言ってるが俺の怒りの感情は凄まじいぞ。

 

「へっへっ……さぁて、丁度みんな予定通り揃ったね。よくやったよ坊主」

 

 今、俺の家には、ティアマト達マグナ6戦隊とB・ビィ&ジ・オーダー・グランデ……改め。

 

「私の名前は、ゾーイだ」

「おやまぁ……名前、つけたのかい?」

「つけてもらった。ずっとジ・オーダー・グランデじゃ長いし、名前らしくないって」

 

 ああ、心が浄化される……ゾーイが笑顔で、自分の名前を愛おしそうに言うのが尊すぎる。今ばかりは、ばあさんの組み合わせが孫と祖母みたいですばらしい。

 なお、名前を付けるのは、いい加減ジ・オーダー・グランデでも、グランデでも名前っぽくない会議が開かれ、ティアマト達と話し合い決められた。ジータがいなくてよかった。もしいたら「シルバー褐色レディちゃん」ぐらいは無理やりつけてそうだ。ついでにワイバーンズにもディとリィの名が付いた。B・ビィ、と言うよりビィに似せて来た形になる。ディには尻尾にリボンが付いててカワイイ。カワイイ。カワイイ。

 まあともかく、マグナ6戦隊とB・ビィ&ゾーイがいるわけで、それをばあさんが〔予定通り〕と言いやがった。

 

「俺はずっとあんたの掌の上ですかい」

「私の期待通りだったと言う事だよ」

 

 ため息がでる。

 

「さて、なら話を進めようかね。坊主、あんたこれからどうする?」

「……どうするも何も」

「村に、残るかい?」

 

 さて、さてさて……どうするか。

 

「正直言えば金がねえからもう騎空団でも立ち上げて金稼ぐしかない気がするんだけど」

 

 主にティアマトのせいで。最近だとゾーイの貯蔵庫全滅事件も大概酷いが、いいんだ……ゾーイに罪はない。

 

「オイ、コラ」

 

 お黙り(笑)。

 

「そうだねえ……確かに、坊主には苦労を掛けたからね。ならもし村に残るなら、今まで使われた出費全部出してあげるよ」

 

 ……この家、録音機器とかある? 

 

「勿論昨日消えたと言う食料も都合するよ」

 

 あーこの音声証拠でおいときたかったー。

 

「ただし、空に出たらやらんけどね」

 

 ま、そうだよね。

 あーあー……そうですか、そうですか……。

 

「……いや」

「うん?」

「……俺、行くわ」

「どこへ向かうんだい?」

「それは……」

 

 行く場所、会いに行くやつ。

 もう、決まっているのは、わかっていたのに。置いてかれたなんて、もう思っていたのに。何度も死にかけてやっと決心がつく。

 

「俺は」

 

 ■

 

 零 こぼれぬ、おもひで

 

 ■

 

「わたしね、何時かイスタルシアにいくの」

「マジかよ」

「なんか楽しそうだから行く!! なんかお父さんも帰ってこないし……それにお父さん、お母さんの事知ってる感じだからわたし、おっきくなったらお父さん追いかけてボッコボコにするの!!」

「マジかよ……」

「だからね……その時、一緒にきてくれる?」

「一緒かぁ……どっちかって言うと競争でもした方が面白そうだけどなあ」

「競争……競争!! いい、すごくいいね!! じゃあ私とお兄ちゃん、どっちが先にイスタルシアにつけるか競争しよう!!」

「……ん」

「もしわたしより先にお父さん見つけたら、代わりにボッコボコにしておいてね!!」

「マジかよ」

 

 ■

 

 終 戦い終はらば、らう(苦労)がまた来たり

 

 ■

 

 ばあさんに俺の意志を告げて数日。ザンクティンゼルに一隻の船が来た。珍しい事だ。その船の前に、俺とティアマト達が並んでいる。

 

「これが、エンゼラか……」

 

 緑のヒレを付けたような丸っこい、魚のような印象を受ける騎空艇〔エンゼラ〕。

 

「この度は、ご購入ありがとうございます~」

 

 そして俺の腰の下あたりから聞こえる声。別に腹が喋ってるのではない。

 

「あんたが、噂のよろず屋さんか」

「はい~♪ その噂のよろず屋シェロカルテと申します~」

 

 ハーヴィン族と言う種がいる。大人になろうと人間の子供と同じかそれよりも小柄な種族。彼女、よろず屋シェロカルテは、そのハーヴィン族だ。

 

「中古ト聞イタガ、悪クナイナ」

〈水の加護をかけられているようだ。我にとっては居心地がいいな。コロッサス、生け簀を移してくれ。ユグドラシルも生け簀の固定を頼む〉

「(* >ω<)オマカセ」

「────♪」

「我々の私物も移さねばな、使ってもらう予定の首輪や鞭が多くて……」

「そ、倉庫とか……じめっとした場所ないかな……そこ部屋にしたい」

「キッチン、キッチンはどうだ? 美味しい料理作れそうか?」

 

 お引越し気分のマグナ戦隊とゾーイは置いておこう。

 

「エンゼラは、以前海や水の豊かな島をめぐるのに利用されていた騎空艇でして~目的を終えて解体待ちだったのですが、まだまだ現役で通用するようでしたので~私が引き取ったんですよ~良い船ですよ~♪」

「確かに、綺麗な船だよな」

 

 実際に中古とは思えない。

 これが、俺の船。いつの間にか、ばあさんが手配していたらしい。予定もピッタリに納品されている所をみるに、やはり俺はばあさんの掌の上であったようだ。

 結局俺は、空に出る。ジータに会いに、そしてその後どっちが先にイスタルシアにつくか競争するために。マグナ達を引き連れて、空を飛ぶ。

 置いてかれたんじゃない、俺が行かなかっただけだった。だから追いつく。あいつと、同じ場所に。強さだとか関係なしに、楽しんでいきたい。同じ憧れを抱いていたあの時の様に。

 

「おめえの準備はいいのかよ?」

 

 B・ビィが俺の顔の隣に浮いている。すっかり定位置になってしまい、もうあきらめた。すっかりビィ気取りか。

 

「だから、オイラはビィだぜ」

 

 うるせい。

 さて、用意と言っても俺には大して用意する物はない。ティアマト達は、俺に黙って買った私物やらが溜っているようだが、そのせいで、そのせいで、そ・の・せ・い・で・! 俺が個人的な私物を買う余裕がなかったのだ。持っていくのは、今までのちょっと良い武器程度だ。

 見てろよ、ジータに追いついてガンガン金稼いで俺も好きな物買うんだからな!! 

 

「ふっふっふ。楽しそうだね坊主」

 

 ばあさんが現れた。もう流石に奇襲は仕掛けない。

 

「だが恨みは忘れねえ」

「ふぇふぇ、そう言っていいのかい? せっかく餞別を持ってきたのに」

「うん?」

 

 言われてみると、ばあさんが俺の荷物に交じって置かれている大き目の木箱を指さしている。数は三つ置かれていた。

 

「よろず屋さんに都合してもらった各地に散らばる武器さ」

「おっほ?」

 

 思わず変な声出た。

 

「人との縁が深い物を選んでもらったからね、もしかしたらいい仲間に出会えるかもしれないよ」

「こちらの方でも、がんばらせていただきました~♪」

「マジか、そんなにくれんのかよ」

「三つの内一箱だけ選びな」

 

 んだよ、んだよおー。テンション下がるわお前ー。

 

「流石にそんな甘えさせられないよ。一箱に10個の武器、それでも必ずかなりいい武器が一本はあるよ。もしかしたら二本かもね。どれに何を入れたかは、私ももうわからない運試しさね」

 

 ふーむ、それはそれで面白いな。俺の船出の運試しってところか。

 

「まあ、いわゆる初回の10連無料ガチャだな。あいにくリセマラは出来ねえけど、直感でやりな」

 

 B・ビィ、お前は何を言ってるんだ? 

 さて、では選ぶとするか。真ん中か、右、左……。

 

「せっかくだから、俺は真ん中の箱を選ぶ!!」

 

 ずいっと箱奪取。

 

「はいはい、それじゃオマケ、あれも上げるよ」

 

 するとばあさんは、武器箱とは別の木箱を指さした。

 

「修行で余ったエリクシールとエリクシールハーフだよ。20本以上あるからしばらくは大丈夫だろう」

「うわぁい、ばあさん太っ腹」

 

 まるで今までの反動のようだ。優しいおばあちゃん僕大好きー。

 

「箱は船に乗った後にでも開けな。広げると手間だからね」

「そうするわ、ありがとなばあさん」

 

 ちょうど戻ってきたコロッサスに頼んで搬入しておいてもらう。ありがとね。

 

「さて、それじゃあそろそろ旅立つわけだけど……坊や」

 

 おっと、坊や呼び。

 

「あんたにはあらゆるジョブの特訓を課した。そこいらの騎空士じゃできないようなスキルを身に着け、特殊な武器もより多く使える。これから武器は、自分で好きなように工夫して使いな」

「それって」

「免許皆伝、ってことだよ」

 

 ……ばあさん。

 

「ジータちゃんに会ったらよろしくね。そろってでも、どっちかだけでもたまに帰ってきな、いつでも組手してやるからね」

 

 ……ば、ばあさん。

 

「最初の目的地は、ポート・ブリーズだったね。ジータちゃんの辿った後を追うって事で」

「道中と島についてからの事は、ついでに乗らせていただくので私の方から色々とお教えしますね~」

「ティアマトがいれば風の調整もできる。そもそもが船型のセレストは、船を動かしてくれるしこの空域のルート殆ど覚えているようだから心配はないよ」

 

 ちくしょう、恨みこそ多けれど……やはり、ばあさんのこの気遣いには、感謝の念がある。

 そして、ついに船に乗り込み船が出る。

 

「身体に気を付けなよぉ──ー!」

「おーう!!」

 

 徐々に離れていくエンゼラ。村のみんなや、ばあさんが俺達を見送る。ジータもこんな気持ちだったのだろう。また村に帰る事もあるだろうが、最後にばあさんに感謝の言葉を言うべきだろう。船から身を乗り出し叫ぶ。

 

「ばあさああ──ーん!!」

「ぼうやあ──ー言い忘れてたけどねえ────!! 船代と船の補修代!! 武器代とその他旅の必要な雑貨食料その他料金あんたにつけておいたからねええええええ──ー!!!!」

「ヴァヴァアアアアアアアアアアッ!!! はあああ、は・な・せええええ、はなせえシュヴァリエエエエ!! 今すぐ、あのババア殺してやるうううううう!!!」

「借金かなりあるけどおおお──ー!! 全部シェロカルテさんに払うようにねえ──ー!! それじゃあ元気でねえ────!! ふぇーっふぇっふぇっふぇっ!!」

「船代維持費生活必需品、もろもろしめて、100万ルピになります~♪ 今後とも、”今後”ともよろず屋をよろ~ず~♪ ぷっぷっぷぅ~♪」

「んっがああああぁぁ~~~~!! ふね、船を戻せセレストオオオオオ!!! あ、ああああんぎゃあああああああああああああ!!! ムキギイイイイイイイイイイイっ!!」

 

 俺の遥かなる空への旅立ちは、怒りの絶叫と大量の借金と共に始まった。

 そしてその後、せめていい武器をと武器を確認すると【割れた酒瓶】【ハリセン】暴発しやすい【ハンターライフル】等ポンコツ武器が混ざり10個入っている事にも気が付いた俺は、何処までも続く蒼い空に叫び続けていた。

 

「へっ! こいつあ、にぎやかな旅になりそうだぜ。な、相棒!!」

「ぬがあああああああああぁぁぁぁ────────っ!!!」

 

 

 

 これが、スーパーザンクティンゼル人GODと呼ばれ全空から尊敬と、信頼と、畏怖を集めた史上最強のヒト、ジータが率いる後の伝説の騎空団【ジータとゆかいな仲間たち団】と双璧をなす事となるもう一つの伝説、もう一人のスーパーザンクティンゼル人の男が率いた伝説的騎空団【星晶戦隊マグナシックスとB・ビィくんマン&均衡少女ZOY】の物語の始まりであったのだ。

 

 




やりたい事はしました。

原作も終わってるわけでもないので、後はイベントを絡めたり、好きなキャラをやったり、アニメ世界にこいつ等ブチこんだり更に好きにする。

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