俺は、スーパーザンクティンゼル人だぜ?   作:Par

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最初の投稿から約1年経ってました。早いもんです。
ガロンゾが舞台と言い難いので、ガロンゾ帰還を目指す新編に変えます。


ガロンゾ帰還への道 編
団長とは落ちるもの


 ■

 

 一 快適じゃない空の旅

 

 ■

 

 夕焼けの中を飛ぶ一体の星晶獣がいた。両手で一人の人間を掴み上げ、傍目から見ると非常に危なっかしい飛行を行っている。

 

「日が沈んできちゃったよ。すっかり夕暮れじゃないか……」

「嘆くな嘆くなヒトの子よ。今は空の旅を楽しむがよいぞ」

「おめえの所為でこんな思いしてんだよ……」

 

 星晶獣に掴まれたまま疲れ切った表情を浮かべるのは【星晶戦隊マグナシックスとB・ビィくんマン&均衡少女ZOY】の団長である。ガロンゾで攫われ一気に島から離脱してそのまま空を移動している。

 

「途中何度も落ちるかと思ったんだぞ……気が休まらんわ」

「心配いらん、決して離さぬ」

「嘘つけ!? 途中疲れたとか言って片手持ちにしたどころか、何度も放り投げたろっ!?」

「はて、そうじゃったかのう~?」

「こ、この野郎……っ!」

 

 現在彼は両腕を掴まれたままで運ばれている状態だった。ひとたび突風が吹きでもすれば、哀れ空の底へと落下して行く事になりかねない。

 しかもこの星晶獣、途中団長が話した通り片手持ちで団長を運んだり、休憩と称して団長を放り投げた後両手を休め再キャッチなどやりたい放題していた。当然、団長の気が休まる暇は無かった。

 

「それといい加減聞くけど……お前誰なのよ?」

 

 あまりの突然の事であったのと、ガロンゾからかなりの距離を高速で飛行したために風圧をもろに受けて喋れない状況が続き、更に道中落ちそうになったりを繰り返したために聞き逃した星晶獣の正体。やっと落ち着いたのかそれを聞く事が出来た。

 

「言ってなかったかの?」

「ねーよ、言ってねーよ」

「ほほ、すまぬすまぬ! お主を見つけて昂っての! 今こそ名乗ろう、わらわこそ光り輝く神鳥ガルーダじゃ!」

「知らんっ!」

「のじゃ!?」

 

 力強く否定されるとは思わなかったのか、ガルーダは結構ショックを受けた。

 

「し、知らぬのか? 結構色んな島で祀られとると思うのじゃが……」

「知らんもんは知らんわ! 人攫いする様な星晶獣なんぞ知るか!」

「ひ、人聞きの悪い事言うでない! ちょっと遊びに誘っただけじゃ!」

「こんなアグレッシブなお誘いあってたまるか!? 人攫いだよ、誘拐だよ、神隠しかよっ!?」

「うぬぬ~っ! そ、そう言われるとなんかそんな気がして来たぞ……」

 

 今更自分の行為が人から見て乱暴極まる行為と思い出すガルーダ。そんな姿を見て「こんなのしかいないのか、星晶獣……」と団長が思うのも無理はない。

 

「……まあよい! どの道やる事はかわらんからの!」

「おいこら」

 

 だがガルーダ、ここで反省を放棄。

 

「ふざけんなてめーっ!? 星晶獣だからって何でも許されると思うなよ!?」

「ほほほっ! よいぞよいぞ、星晶獣に対しても変わらぬその豪気な性格が実によいっ! 噂通りの男じゃ!」

「うるせいっ! 陸着いたら覚悟しとけよこの野郎、てめー畜生この野郎っ!!」

「ほーれ、見えてきたぞっ!」

「聞けぇーっ!?」

 

 馬耳東風極まるガルーダ。彼女にはもう目的地である島しか見えていない。

 文句を言いつつも団長はガルーダの言う人の居ない島を見た。そこはルーマシー程ではないが、木々が茂り自然豊かに見えるがどこか陰々とした雰囲気があった。

 

「何だあの島……」

「年中霧で覆われる小さな島じゃよ。数十年前から更に霧が濃くなって出入りが難しかったが、最近その霧も晴れ出入りがしやすくなったんじゃ。あそこにはもう人はおらん」

「人が居なきゃなんなんだよ?」

「決まっておろうっ! わらわと遊んでもらうぞ!」

「お断りします!」

「なんでじゃ!?」

 

 ガルーダはまたショックを受けた。冷静に考えれば理由もわかりそうなものであるが、彼女はそこら辺を察する気配は無い。

 

「遊ぶって言うけど戦うつもりだろお前っ! 無理やり連れ去られたうえに何だって星晶獣と戦わにゃならんのだっ!?」

「少しぐらい良いではないかっ!」

「嫌に決まってんだろ馬鹿野郎!」

「もうわらわは永い時の中力を持て余して、暇で暇でしょうがないのじゃ! そんな中で主の様な男が現れてみよ、遊びたくなるじゃろう!?」

「ならんわボケッ!? 他の星晶獣でも相手してろ!」

「他の星晶獣は殆ど島で寝てるか、役目を優先してわらわの相手なんぞしてくれん奴ばかりなのじゃ……誰もわらわと遊んでくれぬ。世の中、世知辛いのじゃ~……」

「さみしんぼかっ!? いや、ちょっと可哀想だが……とにかく戦うのはごめんだっ! 俺は平和主義なのっ!!」

「いーやーじゃー! 遊びたいのじゃーっ!」

「わがままかっ!?」

 

 間違って落ちれば空の底なので、団長も本気で抵抗が出来ず、二人騒ぎながらそれでもガルーダは飛ぶ事を続け着々と島へと近づく。

 いやだいやだのいやいや合戦。しかし奇妙な状態の二人が島に近づくと、突如として濃霧が二人を覆った。

 

「あん? なんだ、これ……突然出て来たぞ?」

「むむむぅ~? おかしいのう、霧はもう晴れたはずじゃが……」

 

 自分達を包み込む深い靄に戸惑う二人。だがもう島の上空と言う所でガルーダが何かに気が付いた。

 

「なんと、これは……っ!? い、いかんっ!」

「なにっ!? 今度は何だっ!?」

「これはただの霧ではない!」

「うおっ!?」

 

 言うが早いかガルーダは身を捩りその霧の中から逃れようと高速で飛翔した。

 

「な、なんだってんだよーっ!?」

「この霧は“死の瘴気”じゃっ! 長居すれば身が朽ちるぞっ!」

「はあぁーっ!? ふざけ、早く逃げろよっ!?」

「じゃから今逃げとるじゃろっ!」

 

 ガルーダは必死に羽ばたき瘴気から逃れようとするが、何時までも霧から脱出できる気配が無い。それどころか瘴気が濃くなる一方だった。

 

「なんつー瘴気だよっ!? もう先が見えねえ!」

「この規模、そして肌で感じる程の死の気配……こんな濃い瘴気を出せるのは、あ奴しかおらぬっ!」

「聞きたかないがその“あ奴”って星晶獣かっ!?」

「そうじゃ!」

「くそったれぇ──っ!」

 

 凄まじい形相で悪態をつく団長。しかし今のガルーダに彼を気にする暇もなく、両手で掴むので精一杯だった。

 

「あ奴め何故この島に瘴気を……もうこの島に人など居らぬだろうに」

「それよりこのままじゃ不味いぞ! 俺なんかもう具合悪くなってきた気がす……っておいガルーダ前まえまええ────っ!?」

「のじゃっ!?」

 

 団長が前方を指さし叫び、ガルーダが前方を向きなおすと瘴気の中から巨大な影が現れた。二人を圧倒するその巨大な影の中で、怪しく輝く紫色の光を団長は見逃さなかった。

 

「なんじゃあこりゃあぁーっ!?」

「馬鹿なっ!? なんじゃこの大きさは! あ奴一体何が……っ!」

「ウ、ウゥ……ウヌアアァァ────ッ!!」

 

 だが怪しい光に構う暇は無く、突然現れたその巨体に驚く二人。すると影は苦しそうな雄叫びを上げながら手を振りかざした。瘴気を掻き分け現れたその手に肉は無く、今にも朽ちそうな骨だった。

 

「しま……っ!?」

 

 ガルーダが咄嗟に身をよじる。だがそれよりも早くその影が伸ばした手でガルーダを振り払った。巨大な手で瘴気ごとかき回すように振り払われたガルーダは態勢を立て直す事が出来ず、強風に飛ばされた木の葉の様に飛ばされてしまう。

 

「のじゃあぁ────っ!!」

「ぬわあぁ────ッ!?」

 

 吹き飛ぶ中ガルーダはついに両手を緩めてしまい団長はガルーダから離れ、別々の方向に飛ばされていく。

 吹き飛ばされたガルーダ、そして何処ぞへと落ちて行く人間。それを見ると影は呻き声を上げながらも、徐々に瘴気と共に姿を消していった。

 

 ■

 

 ニ セレスト出航

 

 ■

 

 ──翌日、早朝ガロンゾ島。

 島の桟橋に島の住民も、職人すら見たことが無いような騎空艇が一隻泊まっていた。朝日に照らされる中であってもその艇は異様な存在感を放っていた。

 “不吉”。そう誰もが思った。

 

「話には聞いてたけど……確かに幽霊船ね」

 

 そんな艇を見ていたのはルナールと星晶戦隊(以下略)の面々である。彼女が艇を見て思わず幽霊船と言ってしまう程にそれはおどろおどろしい外観だった。彼女だけでなく、他の団員も同様の事を思った。

 折れ曲がったマスト、爛れた様に船体にぶら下がるロープに(セイル)、所々剥がれ落ちた船体、そして破れた気嚢はまるで怪しく笑う顔のようで、中からは目の様な光りが発せられている。

 誰が見ても「飛ぶわけが無い」と思うだろうが、しかしこの艇は飛ぶのだ。見た目は問題ではない。何故ならこの艇は、艇であって艇ではない。

 

「み、見た目は固定されちゃってるから……き、気味悪くて、ごめんね」

 

 当たり一帯に響く声。それは艇から発せられた。

 

「あ、こっちこそごめんセレスト。けど何と言うか……雰囲気あって私は好きよ? また今度機会あればデッサンさせてよ」

「そ、そう? えへへ、いいよ……」

 

 照れた様子を見せる艇。それは間違いなくセレストの声だった。

 これはセレスト本来の姿、あるいは通常の形態と言うべきなのかは不明だが、このセレストは空を漂う幽霊船である。普段団内での姿はマグナ形態を省エネにしたもの、星晶獣としての年季は艇の姿の方が長いのだ。

 ガルーダに突如攫われた団長が、ガロンゾから嘗てセレストが身を置いていた小さな島トラモント島方面へと移動した事がわかり、急ぎ残された団員は救助隊を結成。アウギュステとルーマシー群島を合わせれば団長救出作戦は3度目であった。

 またエンゼラがミスラの契約で現在航行不可のため、移動手段として自ら艇となり移動する事を提案したのはセレストだった。

 

「すまないセレスト、君に負担をかけてしまう事になるが」

「だ、大丈夫……伊達に星晶獣じゃないもん……」

「ああ、頼らせてもらうよ」

 

 一人艇として団員を乗せ移動する事になるセレストを気遣うコーデリア。だがセレストは普段通り気弱な返事ながら自信を込めて言った。

 

「コーデリア殿ー」

「こっち終わったでー!」

 

 セレストと話すコーデリアの元に、シャルロッテとカルテイラが駆け寄ってきた。

 二人ともコーデリアに頼まれセレストへと乗せる積荷のチェックを他の団員と行っていた。

 通常ならリュミエール聖騎士団団長であるシャルロッテがコーデリア達に指示を出すのが筋であるが、星晶戦隊(以下略)での経験はコーデリアが上である。その事を踏まえシャルロッテから、コーデリアに自分を含め団員に指示を出すように進言した。

 始め騎士団の団長であるシャルロッテに指示を出すことに抵抗があったコーデリアであったが、救出に必要な物資の手配にその他諸々の作業を行う内に気にする暇は無くなった。

 

「お二人とも、ありがとうございます」

「指示通りちゃんと一週間は余裕なぐらい食料と水入れといたで。結局準備で出発は一日伸びてもうたけどな」

「仕方あるまい、なにせ急だから」

「ゆーて、トラモント島が目的地なら物資多すぎるぐらいやけど」

「普通ならばね。ただそこに団長がいるか今も不明だ。それに団長だからな……」

「まー仮に首尾よく救助できてもなー……、帰りの道中トラブル巻き込まれて帰るの遅くなりそうやもんな。まあ空路上に物資補給できる島もあるし大丈夫やろ」

「後は出発するだけであります」

「ほな、うちらはこっちでエンゼラの作業続けとくわ」

「よろしく頼む。直ぐ戻れるか不明だからね」

 

 団長救出にあたり、団員はガロンゾ待機と救出班で分かれる事になる。攫われる間際、エンゼラを頼むと叫んだ団長の意志を汲んでの事であった。

 救出班にはコーデリアを中心として、ティアマト、コロッサス、シュヴァリエ、B・ビィ、ゾーイ、メドゥーサ&メドゥシアナ、シャルロッテ、ハレゼナ、カリオストロ、フェザー、ルドミリアと戦闘面を充実させた。

 待機班はカルテイラを中心としてリヴァイアサン、ユグドラシル、マリー、カルバ、ラムレッダ、ユーリ、フィラソピラ、ブリジール、ルナールの面々が残る。

 本来ならリヴァイアサン、ユグドラシルは救出班へと入るべきだが、エンゼラから降ろす彼個人所有の水槽と、それに入っている生体の管理にリヴァイアサンが残る必要があり、またユグドラシルはノアと共にエンゼラ強化のための大仕事が待っていた。

 また主に戦闘員であるユーリだが、リヴァイアサンとは別で人間の男手が必要になる場合を考え、フェザーに団長救出を任せ一人男性メンバーとして残る事を決めた。

 

「カルテイラ殿が残るのであれば、後の事が安心して任せれる」

「任せとき! 親方のおっちゃんと巧く作業進めとくわ」

 

 早くて一月、エンゼラの改修作業の日程だが、ノアとユグドラシルの二大星晶獣が作業に加わる事でそれがどう変わるかは不明である。それでも団員は皆二人と船大工達の手腕に期待を寄せた。

 

「物見遊山にでも行くつもりか貴様等。話が済んだのなら行け」

「出たで空気読まん奴が」

 

 最後の打ち合わせを行っていたコーデリア達の傍に黒騎士とそれについて来たオルキス達が現れる。

 

「色々段取りっちゅーもんがあんねん」

「もう乗船の準備も終えているのだろう。悠長にしている暇もあるまい」

「嫌味なやっちゃ!」

「まあまあ、カルテイラ殿落ち着く出あります」

 

 プリプリと怒るカルテイラを宥めるシャルロッテ。そんな二人を見てコーデリアは苦笑した。

 

「黒騎士殿、これが我々のやり方なのだよ」

「自分達の団長が攫われていると言うのに暢気なものだな」

「だからこそだよ。あの団長の事だ……更に面倒な事になっている可能性がある。心に余裕を持って行動せねば対処できないのだよ」

「……難儀な騎空団だ」

「なに、慣れると案外楽しいものだよ」

 

 コーデリアは愉快そうだが黒騎士はそれを理解できない。黒騎士からすればはっきり言って面倒な騎空団としか思えなかった。聞けばこの団の仲間達は、殆どが自ら仲間に加わったと言う。その点も黒騎士にとって理解しがたい事だった。

 

「お兄さんとの旅……楽しい?」

「ああ、飽きる暇が無い」

「そう……」

 

 一方オルキスは黒騎士とは反対にこの団のあり方が羨ましそうであった。コーデリアから話を聞き無表情なのはかわらないが、楽しそうにしているオルキスを見て黒騎士は面白くなさそうにしていた。

 そんな黒騎士の傍にシャルロッテが近づく。

 

「黒騎士殿、今回は協力していただき感謝いたします」

「リュミエール聖国の騎士団長か……先にも話したが、あくまで利害の一致だ」

「それでもであります」

「……」

 

 黒騎士とシャルロッテが乗船のためにかけられたタラップを見る。そこにはドランクとスツルムの二人が居た。

 

「あはは~! まさかセレストに乗る事になるなんてね~!」

「笑ってる場合か……本当に大丈夫なんだろうな」

「う~ん、大丈夫なんじゃないの?」

「いい加減な事を……」

 

 お気楽なドランクに辟易した様子でついていくスツルム。団長救出のため、ミスラの契約関係で無関係とも言えない黒騎士は二人の同行を提案した。

 帝国からの人員と言う事もあり団員内でも抵抗が無いわけではなかったが、黒騎士が言うには二人は以前トラモント島にジータとともに立ち寄った事があると言う。そうであるなら確かに頼りになる戦力であった。また団長がトラモント島にいるか不明な今、何が起こるかわからない団長救出と言う作戦に人数がいて困る事も無い。意外なほどスムーズに二人の同行が決まった。

 

「スツルムに関して心配は無い。ドランクは……あんな男だが決して無能ではない。精々こき使ってやれ」

「ならば遠慮なく。それと、我々が島を離れている間でありますが」

「わかっている。ガロンゾに居る間お前達の団に手出しなどせん」

 

 ミスラの契約で帝国軍はこの島に残る事を強制されている。シャルロッテ達も自分達が離れている間、残った仲間の事についての心配は当然あった。それでもそこまでの不安は無い。そもそも今ガロンゾで帝国が星晶戦隊(以下略)に手を出すメリットは無く、更にリヴァイアサンとユグドラシル二体の星晶獣が居る。黒騎士の手元にはルリアと同様、星晶獣を従える力を持ったオルキスがいるが、流石に大星晶獣二体相手にはその力も巧く発動は出来ない。

 

「その言葉、ミスラを介した契約として受け取らせてもらっても?」

「ミーン?」

 

 黒騎士達の周りには、暢気そうなミスラ(省エネ)がクルクルと漂っていた。

 

「それでいい、ガロンゾでやり合う意味が無い。ただし全ての事が終わるまでだ。艇が直り、あの団長と人形が約束を果たせば帝国は貴様達を狙う」

「こちらもそれでかまいません。少なくともガロンゾの皆はこれで安心であります」

 

 言質どころではない、ミスラを介した以上書類も要らない絶対の契約である。これで団長とオルキスの約束が終わるまでと限定的であるが、ガロンゾ内での星晶戦隊(以下略)の安全が保障された。

 

「もう話は済んだろう。いい加減出発しろ」

「そうでありますね。コーデリア殿」

「ああ、ではオルキス。行ってくるよ」

「うん……お兄さん、待ってる……」

 

 すっかり意気投合しているオルキスとコーデリア達。黒騎士も呆れ返っていた。

 コーデリアとシャルロッテがセレストに乗り込むと、待機組も艇の外でセレスト達を見送るために並ぶ。そしてタラップが外され、いよいよ出発であった。

 

「皆出発だ! 乗り遅れたものは居ないな!」

「チェックカンリョウ (*`・ω・)ゞ イツデモオーケー!」

「よし、セレスト頼む!」

「りょ、了解……っ!」

 

 セレストの気嚢内部の光りがより強く輝いた。そして船体からは紫色の霧すら漂い出してきた。辺りには珍しい艇(セレスト)が見れる言う事で野次馬も多かったが、どよめきが起きて皆が慌てて逃げだした。

 

「ちょちょ、ちょっとあんた! この霧大丈夫なんでしょうねっ!?」

「だ、大丈夫……強い瘴気じゃなくて、ただの霧だから……は、張り切ると出ちゃうの……」

 

 急に湧き出した霧に驚くメドゥーサ。セレストは問題無いと言うが視覚的にやはり恐ろしさが勝る。

 

「ひひっ! ま、まあ本当に毒性も無さそうだし、あははーっ! 色だけが怪しい霧と思えば、あは、はははは────っ!?」

「コイツが言うと説得力無いな」

 

 まるで霧の所為で可笑しくなったのかと思ってしまう程に笑うルドミリアを見て呆れるシュヴァリエ。しかし彼女はこれで通常運転である。

 

「団長おらんでも騒がしい面子には違いないなー……、まあ頼もしいのも間違いないか。ほな頼むでー!」

「団長きゅんのこと任せたにゃぁ~~っ!」

「任されたっ! では行ってくる!」

 

 霧をもうもうと出しながらセレストがガロンゾを出航する。待機組が手を振って見送る。互いの声が聞こえないようになると、待機組も自分達の仕事に取り掛かる事になった。

 

「さぁ~て、うちらものんびりは出来へんで! 先ずはエンゼラから積荷おろさなあかん、皆キバリやぁ!」

「────!!」

 

 カルテイラの掛け声にユグドラシルが一際元気に反応した。彼女は特にエンゼラの改修で今日から頑張らねばならない。気合がみなぎっていた。

 

「そういえば、シェロカルテ殿は見送りに来られませんでしたね」

 

 そんな中でふとユーリがこの場に居そうで居なかった人物の事を思い出した。

 シェロカルテは昨日団長が攫われた事を直ぐに知った。そして救出部隊が結成されたと知るや、誰よりも早く食料等物資の都合をつけてくれた。そして彼女と団長の繋がり(主に借金)を考えれば、この場にいてもおかしくはない。だからこそ見送りに居ない事をユーリは意外に感じた。

 

「うーん? そう言えば昨日物資の用意をしてもらっている時、団長の行き先がトラモント方面って知って何か思い出したように考えてたねぇ」

「……シェロはん、またなんぞ企んどるなぁ」

 

 フィラソピラの話を聞きシェロカルテの友人として、そして商人の勘でシェロカルテが既にガロンゾに居ない事を察したカルテイラ。シェロカルテの目的、それはどこの騎空団も相手にしないつまらない依頼か、相手に出来ないややこしい依頼か、あるいは見るに見かねた厄介な人物の押し付けか、はたまた全部か。

 果たして団長達がなんのトラブルも無く戻れるのか。「無理やろなぁ~」とカルテイラはもう自信を無くしていた。

 

 ■

 

 三 フェイトエピソード 幽霊少女が見た地味な流星

 

 ■

 

 その島が「トラモント島」と人々に呼ばれたのは、もう何十年も前になる

 霧が多いその島には小さな村が一つあり、そこの住民は大らかで懐が深く当時その島を知る騎空士達の間では人気の休息地であった。

 しかしある時その島の霧が一層濃くなりだし、ついには出入りが不可能になるほど霧が島を覆い包んだ。艇も、人も、何もかもがトラモント島に近づく事も、逆に島から出る事も出来なくなった。そして何時しか人々の記憶からトラモントの名は廃れ、当時を知るもの以外からはただ“霧に包まれた島”とだけ呼ばれるようになった。

 その霧の島にあのジータが立ち寄ったのが数ヶ月前になる。団長達と同様、とある戦いで傷ついた騎空艇グランサイファーを修理する為にガロンゾへ向かう航行中の出来事だった。

 彼女達は来る者を拒むはずの深い霧に飲み込まれこの島へと迷い込む。それもまた星の導きであったのか、ジータ達はこの島が霧で覆われる原因を作った星晶獣の存在を知り、そしてその星晶獣に囚われた島の人々と出会う。

 その星晶獣こそが死を司る星晶獣セレストであった。

 セレストは何者かに呼び寄せられるようにしてこの島へとたどり着いた。そして島中の生き物から悉く死を奪ったのである。そうして死を奪われた住民達はゾンビ、或いは幽霊となり肉体が死を迎えた後も現世に存在し続けた。

 セレストの力によって島から脱出出来なくなったジータ達は、セレストを倒す事を決め立ち上がる。そして見事セレストを倒し、セレストに囚われた人々を救ったジータ達は、無事に島を発ち再び旅を続けた。島に残る一人の幽霊少女に見送られながら。

 その幽霊少女は名をフェリと言った。島の丘にある館に住む彼女は、セレストの束縛から解放されながらも現世へと残り続けた。なぜ成仏する事なく現世に留まれたのか、本人も理由はわからない。しかし自分にはまだやる事があるのだと運命を感じ彼女はそれを受け入れた。

 ジータ達と共に島を出て旅をすると言う話も出たが、しかし彼女はそれを断った。彼女には生き別れた妹が居たが、その妹が島に帰ってくるかもしれないと思うと島を離れられなかった。幽霊の自分と違い年老いていても、或いは既に亡くなっていても、その魂は家族の眠る故郷である島に帰ると信じて。

 また彼女も島の外への魅力を感じたが、しかし旅立つにしても急であった。幽霊である以上荷物は無いが、それ以上に心の準備が必要だ。そんなフェリの意志を汲んだジータは、再会を約束しグランサイファーを飛ばし旅立った。

 そうしてこの島は、フェリ以外には魔物が居るだけの無人島となった。今でも思い出したようにゾンビが墓から出てくるがそれはセレストとは関係ないただの魔物ゾンビである。意志の疎通も難しいようなら退治し、思い出の残る村を荒らされないように過ごしていた。

 そんなある日の事、島をまた霧が覆うようになった。島本来の霧ではなく、セレストの時の様な異常な霧──それもより死を濃厚にした、恐ろしい瘴気が。

 異常を感じたフェリは、今の家族とも言える幽霊の動物達と共に館に避難した。霧は島の外周を覆いだし、やはりセレストと同様に島を孤立させようとしていた。「またセレストが現れたのか?」とフェリは思った。セレストは死を奪える星晶獣、自身の死を奪い復活する事もありえた。しかし直ぐにその考えは否定された。

 霧の中に恐ろしい巨大な影が見えた。影だけでハッキリと姿は見えず、ただ霧の中からはその影が発しているらしい呻き声だけが聞こえた。

 セレストではない、この霧を生み出しているのはあの影だ。そして影の正体は、間違いなく星晶獣だろう、そうフェリは確信した。家族を怯えさせるその影を退治してやりたかったが、いかんせん相手が強大すぎた。直接戦わなくても分かるほどに、影が発する異様な死の気配が凄まじかったのだ。

 二日、三日……時間ばかりが過ぎ、フェリは焦った。恐ろしい事に影が発する瘴気が島を蝕み出したのだ。瘴気の浸食速度は徐々にではあるが、その影響は明らかであった。無機物有機物問わずあらゆる物が崩壊し出したのだ。

 最早猶予も無い、放っておけば遠からず島は崩壊するだろう。だが霧が晴れたとは言え元からろくに騎空艇が立ち寄る事の無い島である。島には小型艇すらない、助けを呼ぶ事も逃げ出す事も不可能だった。

 己の無力さを悔やみ一方で家族には大丈夫だと声をかける。しかし彼女もまた不安であった。島が崩壊した時、幽霊である自分と家族がどうなるのか想像も付かない。死を振りまく瘴気、それを最早受け入れるしかないのか。

 晴れぬ瘴気を館から不安げに眺めていた時、空を覆う霧の中から高速で落下してくる何かがあった。それが人間である事に気がついたのは、館付近の墓地に落下する直前だった。

 暫し唖然として、我に帰ったフェリは慌てて館を飛び出した。急いで墓地に駆けつけると幾つかの墓が吹き飛び、小さなクレーターが出来上がっている。その中央には、大の字の様な間抜けなポーズで倒れている少年の姿があった。

 死んでいると思ったが息はあった。しかも殆ど外傷が無い、ただ気を失っているだけだった。かなり激しく落下していたので、無傷な事に疑問を感じたが放置するわけにもいかない。急いで少年を担ぎフェリは館へと戻った。

 そしてこの少年こそが島を覆う瘴気と言う暗雲を払う光となる事を、フェリはこの時知るよしも無かった。

 

 ■

 

 四 おっとり系天司

 

 ■

 

 フワフワとした感覚、それでいて体の自由があまり利かない。これには覚えが有った。そう、これは確かアウギュステでの記憶……ジータに瞬殺されたあの日の夜の夢……。

 

「あら、おはよう。って、ここで言うのも可笑しいわね」

 

 ふーっ! 夢じゃねえぜ! 

 羽毛の様な髪に、さりげなく際どい服装の女性。確かガブリエルとか言う天司……だったか。

 

「あんたが居るって事は俺ってまた死にかけてるのか……」

「そうみたいね。何時もみたいに空を観察してたらあなたが現れて驚いたわぁ」

「と言うかなに、俺って死にかけるとここに転送されるシステムなの?」

「なんでかしらねぇ」

 

 俺が知るか。

 

「それと厳密には意識が飛んで通常なら死んでておかしくも無い状態って言うだけで、死にかけてるわけじゃないわ」

「それ一般的に死にかけてるって言いません?」

「だって貴方死にそうに無いもの」

 

 あんま嬉しくねえ! 

 

「……はあ、それとあの筋肉達磨とかの人は居ないんですね」

「ウリエル達の事? 一応呼べるけど、呼びましょうか?」

「遠慮、絶対面倒なんで」

「うふふ、それがいいかもね。ウリエルにミカエルったら、貴方と戦いたくて仕方ないみたいだし」

 

 聞きたくなかったなその情報。

 

「しかし今度は死の瘴気に呑まれたのね。腐り落ちもせず、ただ気絶だけなんて……人の身で本当によく無事だったわね」

「……星晶獣の凄い人にそんな事言われてしまった。聞きますけど、俺ってまだ人間ですよね。まだ」

 

 念のため“まだ”と言う部分を強調しておいた。

 

「そうね……確かに戦闘力が飛びぬけはいるけど、貴方は普通の人間だわ。修練のみでヒトの力を越えた存在なんて空の世界じゃ珍しくは無いし……その点は安心していいわよ」

 

 安心していいのかそれ。

 

「それよりも普通過ぎて逆にすごいわよ。もう普通、ほんと凄い普通だもの、全体的に普通で本当に普通だから」

「あんま普通、普通言わないでくれます?」

 

 まあ良い、一応俺はいつの間にか人外になっていたとかではないらしい。ばあさんに秘密裏に改造されてたんじゃないかと最近不安だったからな。

 

「それで相変わらず大変そうだけど、仲間も増えてるし旅は順調?」

「順調ではないと思いますがね……増える仲間も仲間だし」

「うふふ、そう言わないの。みんな良い人そうじゃない、きっとあなたの助けになるわよ」

「それも否定はしないけどさぁ」

「確かに人数も増えると大変だろうけど、大切になさいな。これからも増えて行くだろうから」

「増えるかなぁ……」

「増えるわよ。その方が私も見てて楽しいし」

 

 楽しいと申したかこの天司。

 

「あんたの暇つぶしの為に騎空団やってんじゃないんだけど」

「うふふ、ごめんなさいね。けど楽しそうなんだもの」

「あっそ……」

「うふふ……あら? そろそろね」

 

 ガブリエルがそう言うと俺の体がまた更にフワフワしてきた。現実の俺が目を覚まそうとしているのだろう。だが意識を失う瞬間を覚えていないので、どんな状況で目を覚ますのかわからん。ぶっちゃけ怖い。

 

「そんな不安そうな顔しないで。貴方なら大丈夫よ」

「本当かなぁ……」

「大丈夫、貴方はあのジータちゃんの攻撃にも耐えれた子なんだから」

 

 あ、急に大丈夫な気がして来た。いやジータの時が決して無事であったわけではないが。

 

「それじゃあね。また会いましょう」

「出来れば会いたくないっす。死に掛けるのは御免なんで」

「うーん……そうもいかないかもね。貴方には色々頼みたい事あるし。そろそろパンデモニウムがねぇ」

「ねえ、去り際に不穏な事言うの辞めてくれません? 冗談ですよね、天司ジョークですよね!?」

「まあ貴方なら頼まなくても勝手に関わってくれそうね。その時はよろしくお願いねぇ~」

「ちょ、それどう言う──」

 

 ガブリエルの言う事の意図を聞く前に、一気に体が落ちていくような感覚が襲ってきた。そして視界が暗転していった。

 

 ■

 

 五 死ぬかと思ったぜっ! 

 

 ■

 

「どう言うことーっ!?」

「ふええっ!?」

「……おう?」

 

 ガブリエルに言い切れなかった台詞を起き上がりながら勢いで叫ぶ。どうやら現実に戻ってきたらしい。辺りを見渡すとどうやら何処かの家の中に居るようで、そこの家主と思われるエルーンの少女がビクビクしながら俺を見ている。どう考えても今の叫び声で驚かせてしまったなこれは。

 

「えっと……あは、ははは。申し訳ない。ちょっと夢見が悪くて……」

「あ、ああ……そうか。いや目が覚めたなら良いんだが」

 

 少し苦しい言い訳を言ってしまった。まあ嘘ではないのだ。あそこが現実でないのなら、夢みたいなもんだし。そして悪夢とまでは言わないがいい夢ではない。

 

「んで……重ねて申し訳ないのだけれど、この状況を教えてくれると嬉しいんだけども」

「そうだな。まずここは私の家だ。貴方が近くの墓地に落ちてきたから連れてきたんだ」

「落ちて……また落ちたのか俺」

「よく落ちるのか?」

「不本意ながら」

 

 海やら遺跡やらで何度も落ちてる。いい加減にして欲しいぜ。しかも墓地に落下、普通ならそのまま埋葬ルートである。縁起でもねえぜ! 

 

「急に落ちてきたから驚いたよ……旅人だってまともに来ない島で、まさか人が落ちてくるなんて」

「いやお恥ずかしい。もうどこからどう話せばいいか分からない事情があって」

 

 星晶獣に攫われてここまで来て、また星晶獣っぽい奴に襲われて落っこちた。うーむ、信じてもらえる気がしないぞう。

 

「まあ落ちる時はどうなるかと思ったけど運がいいや。人が居るところに落ちれたんだからな」

「……いや、残念だが運が良いとはいえないな」

「はい? そらまた何で」

「もう……この島は終わるかもしれないからな」

「は?」

 

 その後俺は彼女、フェリちゃんから色々と詳しい話を聞いた。

 現在この島、トラモント島は恐ろしき霧──死の瘴気が蔓延している。その影響で島は蝕まれ崩壊を始めていると言うのだ。話を聞く限り霧の中に見えた巨大な影が原因であるのは間違いないが、フェリちゃんにはそれを止める手立ては無く困っていたらしい。

 そんな中俺が空から落下してきたわけだ。島が大変な時に落ちてきてしまい悪い気がする。しかも館にまで運んでもらい介抱までしてくれるとはなんと良い子だろうか。しかも落下ダメージもあるが、拉致による疲れの所為なのか俺は一日寝てたらしい。前回の時と言いどうも天司空間(仮称)は現実と比べて時間の流れおかしいな。数十分に満たない時間が現実では数時間から一日と幅がある。

 

「だがまいったな、そんな事になってたのか」

 

 館の窓から外を見れば島の全てをあの瘴気が覆い尽くしていた。あの何かに突っ込んでいたと思うと今更ながら寒気がした。

 

「小型艇の一つでもあればいいんだが、残念ながらそんな物はなくてな。貴方一人だけでも逃げる事ができれば良かったんだけれど」

「フェリちゃんは気にしなくていいよ。そもそも俺を連れてきた奴が悪い」

「そう言えば貴方はどうやってここまで? 騎空艇のような物は見えなかったが」

「んー……端的に言うと、星晶獣に攫われて」

「え?」

「んで、あの霧の中の星晶獣に襲われておっこった」

「は?」

 

 はいはい、そう言う反応になるよね。知ってた知ってた。そういやガルーダの奴どうしたんだろう。俺と一緒に吹き飛ばされたが。

 

「あのさ、俺の他に翼の生えた女の子居なかった? そいつ俺を拉致った星晶獣なんだけどどっか吹き飛ばされたみたいでさ」

「え、いや……貴方以外には誰も見てないが。本当なのか? 星晶獣に攫われたって」

「自分でも嘘であってほしいと思うわ。まあ知らないならいいよ、別に知り合って一日の間柄だし」

 

 奴も星晶獣だ。最後まで元気に「のじゃのじゃ」言ってたし、早々死にはせんだろう。

 

「そういえば館の下に村が見えたけど……他の人は? この館の中もフェリちゃん以外には誰も居ないようだけど」

「それは……」

 

 俺の質問に対してフェリちゃんは言いあぐねていた。

 島がこんな事態と言うのに、村の様子は窓から見た限りでも家々の明かりは消え人の気配も無い。運命を悟り諦め家でじっとしているわけでもなく、全く人間の姿がないのだ。謎の瘴気だけでなくこの島にはまだ秘密があるらしい。

 しかし不思議なことに俺は、この島に関して妙な既視感を抱いていた。当然来た事はない。なのに何故かこの島の事を知っているような気がした。

 不思議な既視感に頭を悩ませていると、部屋の扉の方から「キュイキュイ」「キューキュー」と動物の様な鳴き声がした。

 

「ありゃ?」

「あっ!? だ、駄目じゃないかお前達っ!」

 

 扉の方を見ればそこには犬の様な、ウサギの様な、それと丸い何かの姿をした青白く発光する謎の小動物がいた。それを見て慌てたフェリちゃんがその動物達を隠すようにして、小声で叱りながら部屋から追い出そうとした。

 

「まだ入っちゃ駄目だっ!」

「──!」

「知らない人間がお前達を見たら混乱するから、駄目と言ったのに!」

「────!」

「わかった、後で遊んでやるから! だからほら良い子だから部屋の外に……あれ、ジジがいない?」

「────!」

「おやまぁ、こっち来た」

「うわーっ!?」

 

 だがフェリちゃんの妨害をすり抜けたウサギの様な一体が既に俺の元に駆け寄っていた。謎ウサギはピョンピョンと跳ね回りながら俺の周りをグルグルと回っている。

 

「ジジっ! お前何時の間にっ!?」

「ちょっとフェリちゃん、何この子めちゃクソ可愛いんだけど。何もう可愛さ無限大じゃん」

「って、あれ……?」

「──!」

「そうかそうか。君ジジって言うのか、いい名前だな」

「──! ────!」

「なに、背中を撫でろ? この野郎ぉ~むしろモフらせろ、おりゃおりゃっ!」

「────!」

「ふえぇ!? ふ、普通に会話してるーっ!?」

 

 驚愕の事実。俺、謎生物の言葉理解可能。

 とは言えもう驚くと言う程でもないな、ミスラの謎言語分かる時点でもう手遅れですわ。けどいい、この癒し生物をモフれるならそんな事どうでもいい。

 なので驚愕してるのはフェリちゃん一人であった。

 

「あ、貴方ジジの言葉がわかるのか?」

「あー……フィーリングって言うのかな、まあわかるよ。他の子も……その子がベッポ」

「──!」

「んでその角二本がフージー、一本角がニコラ。他はともかく、君達どう言う動物なん?」

「──」

「ははぁ、自分でもよくわからんと。まあいいんだ、可愛いし。ところで君達もモフらせてくれたまへ」

 

 俺が頼むとフージー達が俺の元へと押し寄せる。人懐っこさ極まりだ。

 ああ……小動物っていいな、俺子犬とか飼うの結構憧れてたんだよね。ザンクティンゼルでもたまに小型の野良魔物モフってたけど、ジータの面倒で家で飼う程の暇も無かったし。

 うちの団にはニル達やディ達と言う小型っちゃ小型な面子もいるが、あれを小動物のカテゴリーに入れてはいけない。本体のティアマトとゾーイ抜きでも尋常じゃない戦闘能力を秘めたれっきとした星晶獣である。まあ彼らも十分可愛いし良い子たちだけどね。

 なんにしても今はこの目の前の子達だ。ああもう可愛い。ガロンゾでものんびりできず、生きた心地のしなかった空の旅、謎の天司空間。短期間で積もり積もったストレスが消えていく。

 ジジ、君耳下撫でられるの好きだな。

 ベッポ、もっとモフモフさせい。

 フージー、ニコラ、めちゃモチモチじゃん、揉ませろ。

 

「可愛さに、心清めるひたすらに。今だけは、モフらせてくれ君たちを……」

「な、なんなんだこの人は……」

 

 フェリちゃんの困惑する声が聞こえたが、俺はただ無心にジジ達をモフモフし続けたのだった。

 

 




団長君の旅は、目的地が決まってると『艦これ』の羅針盤の如く変則的になるのだ。

今更ですが、コロッサスの台詞のイメージは「直球表題ロボットアニメ」の「モリ」です。あくまでイメージだけども。

フェリは、るっ!に引っ張られ出してる。ふええ~

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