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一 癒しパワー注入完了
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謎生物のジジ達を思う存分モフり倒して、疲れ果てていた俺の心もある程度回復した。
「なるほど、幽霊ねえ」
「ああ、私もベッポ達も皆幽霊だ」
まだ俺の膝の上に収まるジジを撫でながら、フェリちゃんとこの子達の正体を聞かされた。
己の正体は幽霊だとフェリちゃんは言う。普通ならば俄かに信じられぬ事だろう。目の前に居るのはほんの13歳の少女だ。しかしそれは生前の年齢、更にフェリちゃんは俺の目の前でその体を薄く透けて見せた。謎生物のベッポ達も青白く燃えるように光っている、いかにも幽霊らしい。
人間ではない存在には慣れている。疑ったわけではないが、なるほど確かに幽霊である。驚いたら困るからと、俺の前にベッポ達を出さなかったのにも納得だ。なんにも驚いた様子の無い俺を見て逆にフェリちゃんの方が驚いたぐらいだったが。
「貴方は怖がらないんだな」
「幽霊よか怖いもん知ってるんでね」
ばあさんとか、B・ビィとかティアマト(金銭的)とか云々。
「まあ幽霊でもフェリちゃんぐらいの女の子なんて怖くないよ」
「女の子か、これでも貴方よりよっぽど生きて……と言う言い方も変だな。幽霊なのだから」
「見た目のウェイトが大きいよね。どうします? 敬語の方がいいですかね」
「いや普通でいいよ。私もこの見た目での生活に馴染んだから」
「じゃあ遠慮なく」
了解を得たので堅苦しくなく話を進めさせてもらおう。
「しかしここがセレストの言ってた島とはね」
村に人が居ない理由、フェリちゃんが幽霊である理由。それは単純に死んでしまったからではなく、数十年前にこの島を襲った星晶獣によるもの。その星晶獣こそがセレストである。
村の様子を見た時の既視感は、セレストから既にこの島の事を話で聞いていたからだった。セレストが「なんか呼ばれて……」と曖昧な理由で島中の人間達の死を奪ったのでゾンビやら幽霊やらになってしまったわけである。団にいるセレストではなく、便宜上俺達が本体と呼ぶ方のセレストが起こした災害であるが。
ともかくフェリちゃんもその時の被害者と言う事だ。セレストも反省してるので俺が責める事でもない。更に言うなら既に事件はジータの手で解決済みなのだ。よりによってジータである。はたして本体のセレストがどんだけボコボコにされたのか……想像するのも恐ろしい。
つまりは今回もジータがちょこっと関係してると言うことだ。
「私も驚いたジータと知り合いと言うだけでなく、貴方の騎空団にセレストがいるなんて……」
「良い奴だよ。うちの団の貴重な癒しポジションでアイツがいるといないじゃ大違い……居なくなりでもしたら、俺はどうなるか……」
「そ、そんなにか……」
万が一そうなるとマジでヤバイ事態になる。俺が余程深刻そうにしたからか、フェリちゃんは結構引いてた。
「まあ俺の騎空団の事は良いんだ。今は……」
膝のジジを床に降ろす。ちょっと不満そうだったのが逆に可愛い。
ジジのもっと構えオーラを受けつつも、俺は館の窓から空を見る。俺とガルーダが来た時に比べたら少し落ち着きを見せているが、島の上空には相変わらず気味の悪い霧が覆っていた。
「異常な瘴気の発生は俺とガルーダが来た事への防衛本能ってところか。普段はただ霧を発生させるだけで島を蝕めるわけだ」
落ち着いていようがこの霧は深い。日の光すら殆ど遮れる濃霧、時間の感覚がおかしくなりそうだ。
「セレストの時も酷かったがまだ良かった。なんやかんやで皆普通に暮らしてたからな。だがこれじゃ……なぶり殺しだ」
「まあな」
ガルーダの言う“死の瘴気”、その事からあの巨大な影はセレストと似た能力を持ってるのだろう。だがセレストは死を奪うがあの影は死そのものを振りまく。司る概念が同じでもやってる事は大きく違うな。質の悪さでは今回の方が上か。
「唯一幸いなのは皆が既に解放されていた事だ。こんな目に遭わずに済んだ。改めてジータには感謝しないとな」
フェリちゃん以外の島民は、ジータの手でセレストが倒された際に奪われていた死が元に戻り成仏している。そのために村には誰もいないのだ。
なお何故フェリちゃんが残ったのかは不明との事。
だが幽霊であるフェリちゃんがあの死の瘴気に呑まれ、蝕まれ続けた時どうなるのか。あまり考えたくはない。しかしフェリちゃんはもう諦めているのか辛そうに笑う。
「……本当に申し訳ない。貴方だけでも逃がせる方法があればよかったのに」
そして本当に申し訳なさそうに俺に謝る。この子は何一つ悪くないと言うのに。良い子か。
「気にしなくていいってば」
「だがこんなのあんまりじゃないか。ここに来た理由は……よくわからないが、偶然来た島でこんな事に巻き込まれるなんて」
「巻き込まれるのは慣れてるよ」
我が人生九割巻き込まれ事故である。
「まあ、上手い事助けが来るってのは希望的観測だな」
「……やはり、もう諦めるほか」
「馬鹿言うんじゃないの」
「え?」
こんな所で死を待つのなんざ御免蒙る。エンゼラの方も心配だし、オルキスちゃんと黒騎士さんにも迷惑が掛かってしまう。彼女達は帝国ではあるが、人様に迷惑をかけるのはよろしくない。
「フェリちゃん、館か村には武器とかある? 落ちた時剣とか無くしちゃったんだよね」
「武器? そりゃまあ無くはないが」
「じゃあ片っ端から集めるか、使えるのも限られそうだしな……」
「いや、待て待てっ!? あ、貴方何を言ってるんだ!」
俺が妙にやる気を見せているからか、フェリちゃんが慌てている。
「まさかアレと戦う気か!?」
「そうだけど」
「馬鹿な、あんなのに立ち向かうなんて無謀すぎるっ!」
「まあ俺もやりたかないけどさ。こればかりは頑張んないと死ぬし」
「頑張ってどうにかなる問題じゃない! 相手は死そのもの、セレストとはわけが違う! あれは死を振りまく化物なんだぞ!?」
「化物じゃない、星晶獣だ」
「そうだ星晶獣だ! ……え?」
「星晶獣なら……まあ大丈夫かな」
「え、いや……いやいやっ!? むしろその方が危険なんじゃあ!?」
「その筈なんだけどなぁ……駄目だなぁ、感覚麻痺してんだな俺……はぁ~……」
「あ、ちょっと待て! 急に落ち込みながら出てくなってば、おいってばっ!」
フラフラと館から出て行く俺の後をフェリちゃんとジジ達が追いかけてくる。しかしまあ、彼女の気持ちもわかる。きっと俺ってば変人極まって見えるんだろうな。と言うか変人なんだろうなぁ……。
勝負するなら明日かな。先ず今日の内に準備をしないといけない、彼女の文句は尽きないだろうが、まあ気乗りはしないかもだが手伝ってもらうとしよう。
それに、ジータも護った島を俺が護らないわけにいかんわな。
■
二 ゆけゆけ、僕らのセレスト号!!
■
蒸気船の様に霧を発生させ蒼空を進む黒い幽霊船。その正体は星晶獣セレストである。
ガロンゾを経って一日、特にトラブルも無く彼女達は目的のトラモント島へと向かっていた。
「予定よりも早く着きそうだな」
「な、慣れた島だからね。ルートもバッチリだよ……居たのは本体だけど……あ、あの頃は同一個体みたいな状態だったし……」
「いや~大変だったよね。何度倒しても君復活するし」
「あ、あう……ごめん」
セレストの船内、比較的日の光りが多く入る個室でコーデリアとドランク、そしてスツルムの三人が進路を確認しながらセレストと話す。一見して個室で独り言を話しているようだが、ちゃんとセレストの声が響いているので会話は成立する。セレストの声も船内全てでは無く、コーデリア達にだけ向けて聞こえている。これも星晶獣的なアレを応用した不思議パワーなのかもしれない。
「ドランク、今一々前の事をぶり返すな……。それで、島には何時頃着きそうだ?」
「た、多分もう直ぐ島が見えるよ……」
「それは助かる。今の時間なら到着後に直ぐ団長を捜索する事も出来るからね」
まだ日は高い、小さな島とは聞いているが日が沈んでしまえばたった一人の人間を捜索するのは難しいだろう。まして団長が島に居るかもこの時点でコーデリア達は知らないのだ。
「にしてもさあ、こんな形であの島に戻るなんてねぇ~。これってセレストにしたら里帰りになるのかなぁ?」
「ど、どうだろう……別に私あの島で生まれたわけじゃないし」
「まそうだよね、アハハ! あ、けどさあ~僕達の会ったセレストが今居るのってあの島なんでしょ?」
「う、うん……特に移動はしてないはず、なんだけど……」
「何かあったのかね?」
「す、少し前から意識のリンクが出来ないの……だ、団長の事聞きたかったのに……」
マグナシックス達はやろうと思えば各島等に残る本体とリンクを繋ぎ簡単な通信を取る事が出来る。最早一個人としてプライバシーと言うものが芽生えたマグナシックスの面々は、普段リンクは断っているが緊急時は一方的につなげる様にしている。今がその時のはずなのだが、彼女は不安げに通信が出来ない事を告げた。
「……島で何かあったか?」
「かもしれないね。いよいよ団長がいる可能性が高くなってきたな」
「判断基準はそこか……」
「混乱ある所、団長有り。と、我々は認識しているよ」
「相変わらず……気の毒な奴」
本人の知らぬところで哀れまれる団長。
「アンタ達ここに居たのね」
「おやメドゥーサ」
団長がスツルムに哀れに思われている所でノックもせず扉を開けて入ってきたのはメドゥーサだった。当然メドゥシアナも共にいる。
「何かあったかい?」
「何も無いから来たのよ。暇すぎて死にそうだもん」
メドゥーサは非常につまらなそうな顔をした。エンゼラでなら多少娯楽のための道具があるが、セレストの船内にはそういった物は無い。彼女の様に飽きっぽい性格では、暇を潰すのも一苦労だった。
「幽霊船にしたってなんか欲しいわよ」
「ご、ごめんね……、ビ、ビリヤード台ならあったような……」
「確かにあったわね。ボロボロで
一度玉を突けば片っ端から落ちていくこと間違いなしのビリヤードである。ゲームにならない。
「あー……他の者とは遊んでみたのかい?」
ここでメドゥーサを無下にせず話を聞いてあげれるのがコーデリアである。伊達に女性の扱いを学んでいない。
「他ってフェザーとかしか居ないじゃない。嫌よあんな暑苦しいの、どうせ語り合おうって言われるのがオチよ」
「……ゾーイは」
「なんか瞑想してた」
「シャルロッテ団長は」
「ハレゼナと一緒に武器の手入れ」
「コロッサスは」
「持ち込んだ調理器具でお弁当作ってる」
トラモントで捜索活動になると空腹になるだろうからと、真面な設備のないセレストの船内でもサンドウィッチなど切るだけで済む簡単な料理を作るコロッサス。団の台所をほぼ一手に任されるだけはある。気配りが出来ている。
だがこうなるとメドゥーサの相手を出来る常識的メンバーがいない。残ったメンバーはあまりメドゥーサの相手には向いていない。
「……すまないメドゥーサ、私には君の暇を潰せるような特技はないのだ」
「あると言われてもそれはそれで困るけど……」
すまなそうにするコーデリアであるが、メドゥーサも大して期待していたわけでもない。仮にここで手品なりを急に披露されても反応に困るだろう。
「メドゥ子ちゃん僕なら遊んでもいいよ?」
「メドゥ子じゃないっ!」
「ええ~? けど皆メドゥ子って呼んでるよ?」
「許可した覚えは無いのよっ! アタシは誇り高き星晶獣メドゥーサなの!」
「いいじゃんメドゥ子、親しみやすさあるしさぁ」
「そう言うのは求めてないのっ!!」
遊ぶというよりドランクに遊ばれているメドゥーサ。何処と無く微笑ましい光景だった。
「君の相手をして貰うためにも、早く団長を見つけないとな」
「ほんとよ……って違うっ! なんでここで馬鹿人間が出るのよっ!?」
思わず同意してしまったが直ぐに顔を真っ赤にして否定するメドゥーサ。コーデリアはそれを見て愉快そうに笑う。
「団長にかまってもらっている時の君は実に楽しそうだったが?」
「か、勘違いしないでよっ!? アタシがあいつと遊んであげてるのよっ!」
「そうか、そうか」
「あんた本当に分かってんのっ!?」
「まあまあ……さあ、直ぐにでも島が見えるはずだ。君も暇で居られなくなるぞ」
「ふんっ! だといいけどね」
ここに長居しても意味は無いとわかりメドゥーサが部屋から出ようした。だが彼女がドアノブに手を伸ばすより先に勢いよく扉が開き哀れメドゥーサの顔面を強打した。
「ふぎゃぅっ!?」
「おい大変だ……むっ!」
「あらら、痛そう」
「鼻を打ったな」
部屋に飛び込んできたのはフェザーだった。内開きの扉を思い切り開いたのでメドゥーサもそのまま扉に押し出され、ボールのようにコロコロ転がった。
扉を閉めて床で悶えるメドゥーサとうろたえるメドゥシアナにフェザーも気がついた。
「どうしたメドゥ子! 受身の練習か!?」
「メドゥ子じゃないし受身でもないっ! あんたが急に開けるから顔打ったじゃないのっ!」
「そうか……それは悪かったっ!」
急に開けると言うならメドゥーサもそうであるが、自分の事は棚に上げるのがメドゥーサである。フェザーもフェザーで暑苦しく謝罪した。
「それよりフェザー、何か緊急かね?」
「おっとそうだった! 今さっきトラモント島っぽい島が見えたんだけどな」
「え、あれ……う、嘘なんでっ!?」
フェザーが何かを言おうとすると、今度はセレストが驚いた様子で声を上げる。恐らく彼女もトラモントが見えたのだろうが、それにしては様子がおかしい事にコーデリアも気がつく。
「……何があった?」
「さっきカリオストロが望遠鏡で……いや見たほうが早い! とにかく来てくれ!」
そう言うとフェザーは部屋から飛び出していった。そのただ事ではない様子にコーデリアも急ぎ追いかけた。
「ちょっと、置いてかないでよ!?」
「シャー……」
一人放置されたメドゥーサがプリプリしながら慌てて駆け出し、メドゥシアナは「やれやれ」と言わんばかりに顔を振りながら主の後を追った。
■
三 破れ! 死の瘴気!!
■
慌てて甲板へと出て来たコーデリア達。既に他の団員も甲板へと集まっていた。
「おう、来たな」
「B・ビィ状況は?」
「まあアレを見てみろよ、もう十分目視できるぜ」
B・ビィの指差す方向へと視線を向けるコーデリア達。セレストの進行方向にはトラモント島があるはずだった。
「何だアレは……本当にあそこがトラモント島なのか?」
「陰気臭いとは思ってたけど、そもそも島が見えないじゃないの」
だがコーデリアとメドゥーサの目に飛び込んできたのは、島の形が分からないほどに広がりきった霧。とても島には見えず、紫の巨大な雲が浮いていると言われたほうが納得できるほどだった。
「間違いねえよ、あそこはトラモント島だ。霧で島は殆ど見えねえがな」
「カリオストロ殿……」
望遠鏡を覗いた状態のカリオストロが至って冷静に語る。
「霧の原因は不明、この距離じゃなんにもわからねえが……まあろくなもんじゃねえだろうよ。嫌な気配がプンプンするぜ」
「オイ、セレスト。オマエノ霧ジャナインダナ?」
「ち、違うよ……ジータに怒られてからアッチも大人しいはずだし……」
「にしたっておかしいねえ……第一セレストの時より霧濃いんじゃないのこれ?」
セレストが猛威を振るっていた時トラモント島に居たドランクは、その時の状況を知っている。セレストの出す霧も確かに濃いが、今彼らに見えている霧はそれよりも更に濃い。
「むしろさぁ……邪悪って感じ? もっと直接的な恐ろしさを感じるけどねぇ~」
「おいセレスト、あっちの本体との連絡は出来ないのか?」
「ダ、ダメ……さっきから試してるけど、やっぱり連絡つかない……」
スツルムに言われ再度リンクの接続を試すセレストだが、依然としてトラモント島のセレストとの通信は出来ずにいた。
「霧が邪魔をしているのか……」
「そう考えるのが妥当だな。いよいよもってただの霧じゃねえな……あん? いや、ちょっと待て」
カリオストロが何かに気が付いた。素早く望遠鏡の方向を変えた。
「霧の外に何かいるな……」
「何か? 艇ではなく?」
「ああ、霧に……入ろうとしてるのか? 弾かれてるようだが」
「私も良いかね?」
「ああ、あっちの方角だ」
カリオストロが指を指したままコーデリアに望遠鏡を渡した。カリオストロの言う方向に向けてコーデリアも望遠鏡を覗き込んだ。レンズ越しに見えたのは、霧に突撃を繰り返す一体の異形の姿だった。
見た目は幼さが残る褐色の少女、そして背には翼が生えている。カルテイラ達に聞いた星晶獣ガルーダと特徴が一致していた。
「B・ビィ、確認してくれ」
「おう」
コーデリアから投げ渡された望遠鏡でB・ビィが一体の星晶獣をみる。
B・ビィは深く頷く、間違い無かった。
「あいつだ。ガルーダ、間違いねえよ。相棒を攫ったやつだ」
「……ならば、団長もこの島にいる。と言う事、だが」
「ヨウスガ (-ω- ) オカシイヨネ」
団長を攫ったガルーダが何故島に突撃をかけているのか? 団長の姿が無いのは何故か? 皆の中で疑問が生まれる。
「近づいて確認するしかないだろう。主殿の行方も聞かねばならん」
「大丈夫でありますか? あの星晶獣が敵対する事もありますが……」
「十分ありえるがこちらも戦闘員ばかり集めて来たんだ。仮に戦闘になっても問題なかろう」
戦闘員とシュヴァリエは言うが星晶獣が7体いるのである。十分過剰だ。シャルロッテも苦笑するばかりだ。
「まあ確かに……しかし油断なさらず」
「当然だな。セレスト、あいつの所に寄せろ。主について聞き出すぞ」
「りょ、了解……風が荒れてるから、皆何かに捕まってて……!」
セレストが進路をガルーダの方向へと向けて飛ぶ。ガルーダは一定の位置に陣取っていたらしく、移動しないために離れていた距離も直ぐに縮んだ。ガルーダの傍に近づいていくと、彼女の力の影響なのか、周辺は強い風が吹き荒れていた。
その強風はセレストの船体を揺らし、団員達は吹き飛びそうになる。小柄なシャルロッテやルドミリアは艇が揺れるとそのまま体が宙に浮くほどで「ひゃあっ!」と悲鳴を上げた。それを微動だにしない重量級星晶獣のコロッサスがやんわりキャッチした。
「エイヤッ! (*`・ω・)ノ キャッチッ!」
「あ、ありがとうでありますコロッサス殿」
「こ、この風は、あははっ!? ハ、ハーヴィンには厳しいなあ、あは、あははははぁ──っ!!」
「うひぃー! 飛ばされちまうぜェ~~っ!? 暴風、強風スゥ~リリィィ~~ングッ!!」
シャルロッテ達だけでなく、ハレゼナなど小柄な団員は皆コロッサスの体にしがみ付いていた。
「何と言う風だ……っ! 目を開けるのもやっとか……っ!」
「風ダケジャナイ! コノ霧自体モ荒狂ッテイルゾッ!!」
彼らに襲い掛かるのは暴風だけではない、島を覆う霧の中では稲妻が走り荒狂う。最早この一帯は嵐となっていた。
団員達がお互い文字通り手を取り合い飛ばされないようにする。それなりに巨大な騎空艇型のセレストが近づくのである。当然ガルーダの方もセレストの存在に気が付いた。
「む、むむっ! なんじゃお主達はっ!」
「突然すまない! 星晶獣ガルーダ殿とお見受けする!」
強風吹き荒れる中コーデリアがセレストの船体にしがみ付きながらガルーダに向かい叫ぶ。
「如何にも妾こそ神鳥ガルーダ! 主らこのような所まで何用かっ!?」
「我々はあなたの連れ去った男の仲間です!」
「なに? それはまことか?」
「そこに貴方が彼を連れ去った時共に居た者がいます! 貴方と話がしたいっ! もしこの風が貴方の起した風ならば、一度止めていただけないか!」
「……よかろう!」
暫し思案したガルーダは手で空を払うと、吹き荒れていた暴風がピタリとやんだ。そしてガルーダはそのままセレストの甲板へと降り立つ。
「ふいー吹き飛ばされると思ったぜ」
「むむ? お主だなあの時あの場にいたのは、その黒い体見覚えがあるぞ」
「ああそうだよ。よくもまあオイラの目の前で……まあいいや」
B・ビィに気がついたガルーダ。B・ビィも色々と文句を言おうかと思ったが面倒になったのか言葉を飲み込んだ。
「風を止めて頂き感謝いたします」
「構わぬ、それで妾に何用じゃ?」
「無論団長の事です。あなたが攫った男は私達騎空団の団長、助けに向かわぬわけがない」
「ふむ……別に悪いようにするつもりは無かったがのう」
「だとしてもあれでは拉致です。それで団長は何処に? それとこの霧ですが」
「……そうじゃのう、実を言えばちと面倒になっておる」
「面倒とは?」
「まずあの男はこの島に落ちた」
島に落ちた。と、聞いて誰も悲鳴を上げないのがやはりこの騎空団らしい。むしろ「やっぱり……」と言う雰囲気があった。
「島に降りようとした時にこの霧に阻まれてのう。その上別々に吹き飛ばされ妾だけ島の外に出てしまった」
「吹き飛ばされた……? 一体何者に」
「見えぬか、アレが」
ガルーダは霧の中を指さした。
霧では依然として稲妻が走り轟音を上げていた。そしてコーデリア達は見た、稲妻が走る瞬間、光に照らされ巨大な影が浮かぶのを。
「あれは、まさか星晶獣!」
「うむ、暴走しておるがな。誰の声も届かぬ状態じゃ」
人型のシルエットだけしか見えなかったが、それでもその巨大さはわかる。恐らく今のセレストとほぼ同じ大きさだろう。
「あれがこの島に霧を……」
「それもただの霧ではない。これは死の瘴気、蝕まれ続ければ身は朽ちてゆくのみじゃ」
ガルーダの言葉を聞き、この霧が一層恐ろしい存在である事を知った一行。幾人かは身を震わせた。
中でも一人ドランクが僅かに険しい表情を見せたが、それに気が付いたのは横に立つスツルムのみだった。
「……私の均衡センサーが強く反応している。ただの暴走ではないな。これはポセイドンの時と似ている」
場に似合わないゆるーい見た目の均衡センサー、別名“アホ毛センサー”がピコピコと反応を示すゾーイ。
アウギュステでの事件、ポセイドンの名を聞きシャルロッテはあの時の出来事を思い出す。
「ポセイドン……だとするとこの暴走もしや」
「ああ、しかし今は確かめようもない、そこを考えるのは後だなあ」
「……ジミー殿はご無事なのでしょうか」
「それは大丈夫じゃ、ほれ見てみよ」
死の瘴気蔓延する島で一人の団長の身を案じるシャルロッテだが、ガルーダがまた霧を指さすとあの巨大な影が暴れるように動いている。
「あれは……」
「何者かと戦っておるのだ。そして今この島であやつと戦うような者は一人しかおらぬ」
「……では、まさかっ!」
「そう、あの男は生きておる。噂通り大した奴じゃ、この状況の中でアレに挑むとは」
団長が生きていると聞いて一堂安堵した。皆団長の事だから大丈夫だろうとは考えていたが、実際無事であると知るとどうしてもホッとする。
「こうなるとは思わなかったとは言え、ここに連れてきたのは他ならぬ妾じゃ、見て見ぬふりなど出来ぬ。故に手を貸そうと思い霧に入ろうとしたが入れなくてのう」
「それで面倒になっていると……」
「そう言う事じゃ。幾ら吹き飛ばせど直ぐに戻る。妾の風でも吹き飛ばせぬとはとんでもない霧じゃ。最早極厚の物理的な結界じゃなこれは」
「霧の結界を破らぬ事には団長の手助けも出来ないか……ガルーダ殿、この瘴気を生み出している星晶獣の正体はご存知か?」
「……直接話した事はそう無い。じゃがあ奴の存在は有名じゃ。なんせ不死の王とまで言われる星晶獣じゃからのう」
「不死の王……? も、もしかして……っ!」
不死の王、その名を聞きセレストが強く反応した。
「なんじゃ、この艇も星晶獣じゃったか?」
「あ、うん……わ、私セレストです……」
「セレスト? おお、お主が不死の幽霊船! 会うのは初めてじゃのう」
「あ、はい……は、初めまして、です……」
「してセレストや。主も不死の星晶獣、やはりあ奴の事は知っておったか」
「う、うん……不死の王ってリッチの事だよね」
「うむ、如何にも」
「セレスト、そのリッチと言う星晶獣はどんな星晶獣なんだ」
「あ、うん……えっとね、私もそこまで詳しいわけじゃないけど……」
コーデリアに言われ、セレストはリッチについて語りだす。
星晶獣リッチ、この星晶獣は特に島との契約は交わしてはいない。セレストほど移動型と言うわけでもなく、基本的な情報は少ないと言っていい。
ただリッチはセレストと同じ死に強く関係する星晶獣、だからこそセレストはその存在を知っていた。だがガルーダのように他の星晶獣がリッチを知っていたのはその力の恐ろしさゆえだろう。
「わ、私は相手の死を奪って最終的に亡者にするけど、リッチは……最初から朽ちた亡者を生み出す……ほ、本当に屍にかえる力……命も、肉体も朽ちさせる……」
「似て非なる……いや、質の悪さではリッチが上か」
「問答無用で亡者にされるんだからねぇ。まだ死を取り返せるセレストの時が可愛く思えるよねぇ」
「冗談言っている場合か……それでどうするんだ。まさかここで眺めるだけとはいかないだろう」
島を襲ったのがリッチであるとして、スツルムが言う様にこれからが問題だった。本当に団長がリッチと戦っているのならば、助けに向かう必要がある。ではこの全てを拒む霧の決壊をどうするべきか。
「案ずるな。こういう時のために我らがいる」
ここで声を上げたのはシュヴァリエであった。
「シュヴァリエ、どうする気かね?」
「なに、やる事は単純だ。ガルーダ一体では無理かもしれないが、今この場には我らマグナシックスの四体にB・ビィ、そしてゾーイとメドゥーサがいる。いくらでもやりようはある」
光の騎士の視線は、既に霧の中の戦場へと向けられていたのだった。
■
四 戦いへ向かう者達
■
──セレスト突入開始から数時間前。
「仕方ないとは言え……まあ星晶獣相手にはちと心許ないな」
「争いなんて無い島だったからな。使えるのは狩猟用具とかぐらいだ」
俺とフェリちゃんの目の前には村と館中から一日かけてかき集めた武器がある。もっとも武器らしい武器などあまり無い。殆どが農作業のために作られた斧や鎌、それか狩猟用の弓に猟銃ばかりである。
「まあいいや。幸い使えないわけじゃないからね。持てるだけもってくかな」
「……なあ本当にやる気か?」
「何が?」
「アレと戦うと言う事だ」
フェリちゃんの言うアレと言うのは勿論今この島を滅ぼさんとしている星晶獣の事である。
「やらなきゃ死ぬからね。まだ体を朽ちさせるだけならクリアオールしまくって耐えて見せるけど、島が崩壊するとなると流石に無理」
「島が崩壊しなきゃ耐える気だったのか……いやそれよりも、こんな武器じゃまともに戦うなんて無謀だぞ」
「でもやんなきゃさ」
「それは……そうだが……」
実際ろくな武器も無いが負ける気なんぞ無い。エンゼラの改修と借金の返済を済ませるまで死ぬ事など許されないのだ。
「アンデット系ならセレストで慣れてるし頑張ってみるさ。フェリちゃんはベッポ達と館に避難してて。相当騒がしくなるし危ないからね」
「……いや、私も行こう」
こいつは驚き、意外な提案がフェリちゃんの口から飛び出した。
「この島は私の故郷だ。貴方が島を守るために戦うのに何故私がジッとしている事ができようか」
「いや……けど危ないよ」
「甘く見ないでほしいな。私だって何時ぞやのセレストとの戦いではジータと共に戦ったんだぞ」
「あれま、そうなの?」
「ベッポ達だって戦えるんだ。伊達に幽霊じゃないんだからな」
ちょっとドヤ顔であった。可愛いなこの子。
実際の所殆どジータの独壇場になっていたと思うが、仮にも星晶獣との戦いの場に参加していたと言うのなら自分の身を護るぐらいはできるだろう。
「……フェリちゃんは系統は?」
「光系統が得意だ」
「うんうん……まあアレはどう考えてもセレストと同じ闇系統、その点も有利か」
一方俺は系統以前にろくな武器も無いがね。俺のミスリルソードは空の底に落っこちたし。
「先ずは戦う場所だけど……。何処かにおびき寄せたいな。基本霧にまぎれて宙に浮いた状態だからこのままじゃ戦い辛い」
「……場所なら草原がある。そこがいいかもしれない」
「草原……結構原っぱな感じ?」
「多少木が生えている程度だ。この小さな島で派手な戦闘を行うならあそこがいいだろう」
「その代わり俺達も身を隠せないか……いや、この状況じゃ身を隠すもクソもないな。戦う以上多少の瘴気の汚染は覚悟の上だし」
「しかしどうするんだ? あれは普段姿を消しているし態々私達の前に現れるだろうか」
「ちょっかいかければ来るんじゃないかな」
「そんな単純な……」
「いや案外単純なもんだよ。特に今あの星晶獣は暴走してると見た。だとすればまともな思考は出来てないだろうから、自分に対して敵意のある奴を追うはずだ」
あれの暴走の原因に心当たりがあるがそれは後だろう。戦う中でそれを解決できれば良しである。
「後は草原まで逃げて引き付けたいけど……これは正直わからんなぁ。アレがどれくらい暴走しているのか……本能的に追うのを止めるかも知れない」
「他に作戦を考えるか?」
「いや武器も戦力も限られた状態じゃこれ以上案もでないよ。行き当たりばったり、俺っていつもそうなのよね……」
「な、なんだか大変なんだな」
本当に大変なんだよフェリちゃん。
「とにかく俺がアレを誘い出す。フェリちゃんは案内お願い」
「わかった。微力だとしても力に成って見せよう」
「ベッポ達も頼むぜ」
「────!」
「やる気みなぎってら、頼もしいね。そいじゃ行くとしよう」
とり合えず使えそうな武器を腰や背中に装着。果たしてこれで何処までやれるかわからんが、フェリちゃんのためにいっちょ頑張ってみるとしよう。
■
五 ワ○トでもホ○ーマンでもないヤベー髑髏
■
トラモント島の端にある絶壁、名をディスペラ絶壁と言うらしいが今はもうフェリちゃん以外にその名を知るのはいない。
島でも高台に位置する館から確認したところでは、今特に瘴気が濃くなっているのがここだった。つまり俺とガルーダを襲ったあの星晶獣もここに居る可能性が高いと考えた。
「……」
「どうだ?」
「居るね。デカイ気配がある」
姿は見えていないが間違いなく星晶獣の気配だった。
「下がってて、先ずは姿を見せてもらうとするよ」
「わかった。気をつけてな」
フェリちゃんを後ろへと下げて村で見つけたマスケット銃を霧へと向ける。これだけではまだ気配は動かない。
「……そこかな」
なので一番気配が大きい位置へと一発打ち込む。
火薬の破裂音が響きわたり、銃弾は直ぐに霧の中へと消えた。しばし様子を伺うと巨大な影が霧の中から雄叫びを上げて空気を振動させながら現れだした。
「そら来たぞぉっ!」
「で、でかい……っ!?」
「オオ……ッ! ヌウアアァァ……ッ!」
それはまるで苦しむかのようだった。巨大な体をよじらせ、肉無きその身を掻き毟り、島を滅ぼそうとしているはずのその星晶獣は今にも死んでしまいそうなほどにボロボロだった。
いや、事実死んでいるのかもしれない。その星晶獣はただの骨、とても“生きている”とは思えない髑髏そのものだったのだから。
「こ、これが星晶獣の正体……っ!」
「骨格標本にカツラと服着せたような見た目だな」
「思いの外暢気な感想っ!?」
俺とガルーダを吹き飛ばした時見えた巨大な骨の腕は正しくコイツの腕だったわけだ。
「ふ、腐海にイィィ……アアアァァッ!? 沈み、かわきに……ウガアァ──ッ!!」
「うっ!?」
髑髏が叫ぶと俺達の周りに瘴気とは違う緑色をした霧状の物が湧き出した。それはあっと言う間に俺達の身を包み込んだ。
「ぺっぺっ……! ちくしょう……何だこれクッサッ!?」
「グウ……ッ!?」
この攻撃を受け無事である俺達を見て骸骨は唸った。臭いし精神的には無事ではないのだが、恐らく肉体的な異常が無いのに驚いたのだろう。
「ベール張っといて正解だったな……」
「全くだ。あれが無ければ今のでやられていたかもしれない」
セレストとの戦いで経験した初見殺し、最悪即詰むような状態異常。毒・腐敗・アンデッド、闇系でしかも見た目からしてこいつもアンデッド系の星晶獣、確実に多彩な状態異常付与を繰り出すと思い予めベールを展開しておいた。
これで状態異常の攻撃が得意なのは確定した。杖を振り改めて俺とフェリちゃんにもベールを展開する。村に収穫祭とかで使ってたと言う祭儀用の杖があってよかった。
「だが姿を見せたな髑髏野郎。この島の瘴気消してもらうぞ」
「ヌウゥ……我は不、死の……不死の……グアア、ヌオォオォォッ! ……ガァアァァッ!?」
「聞く耳はもたないか。やはり暴走しているのか」
「いや、多少の理性があるようだ……完全な暴走状態と思ったがこれは厄介だぞ」
暴走して野獣の如き状態ならある意味単純な攻撃が多くなるはずだが、初っ端から状態異常使ってきたり、言葉を話そうとするあたり多少なり思考しているはずだ。そうなると相手も戦略を立ててくる可能性がある。
そして髑髏の星晶獣は明らかな敵意を俺達に向け、瞳の無いはずの窪んだ眼窩を怪しく光らせた。
「こりゃあ疲れる戦いになりそうだ……」
希望的観測だとしても助けが来る事を願いたいね。
エウロペ……はっ? フェザー(闇)……はっ??
出ない……はっ???
投稿初期、あの頃はまさかティアマトだってプレイアブルになるなんて思わなかったんや……。今じゃ星晶獣プレイアブルのバーゲンセールだぜ!
そろそろジョジョコラボかダークソウルコラボあって然るべき(欲望全開)
承太郎(SSR)とか超使いたい。ダクソなら岸壁で寝てるカタリナ騎士が出るんだ。
プリキュアがしっかりプリキュアしてて感動するわあんなの。グランサイファー・ザケンナーとか誰が予想できた。
そして案の定スキルには「皆でプリキュアを応援するメポ!」 がんばえー
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思いつき 小ネタ
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【ジータと愉快な仲間たち団】がプリティでキュアな二人と出会う中……一方星晶戦隊(以下略)では……ッ!
私、星空みゆき!
ふしぎ図書館で見つけた不思議な空の世界の事を描いた絵本があったの! けどそれを取ったら本棚が光って空の世界とつながっちゃったっ!?
そこで私達が出会ったのは星晶戦隊(以下略)って言う騎空団をまとめあげる(?)団長さん。団長ってなんだかすっごく大変そう。
とか思ってたらアカンベェっ!? どうしてこの世界にいるのーっ!?
スマイルプリキュア! 蒼穹に輝くみんなの笑顔
空の世界でも、みんな笑顔でウルトラハッピーッ!