俺は、スーパーザンクティンゼル人だぜ?   作:Par

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合流出来たよ!


トラモントまるごと超決戦

 ■

 

 一 そんな装備で大丈夫か? 

 

 ■

 

「手前この野郎くらえっ!」

「ゴガァッ!」

「うおっとぉーっ!?」

 

 思い切り剣を振り下ろし骸骨野郎の腕を切りつけた。僅かに刃が入ったが髑髏野郎が腕を少し動かすと一瞬で砕け散ってしまった。

 

「駄目だ! また折れたっ!」

「これを使えっ! 次の剣だ!」

 

 フェリちゃんから代わりの武器を投げ渡される。受け取るのと同時に、壊れた武器を捨てた。

 戦っている相手との体格差は大きい、相手の掌に俺はスッポリ入るほどに。見た目は脆そうな髑髏、しかし奴は星晶獣だ。ならば武器が壊れると言うのは不思議ではない。しかしこれはマズイ。

 

「ふんぬっ!」

「グガアァァアアッ!」

「あぶっ!? って、また折れたぁーっ!?」

 

 野郎が手に持った杖を振り払う。咄嗟に身を屈めたが剣先が相手の杖にカスってしまい、それだけで根元からポッキリ折れた。

 

「オオォ……ッ! 不死の、王の力……アアァァッ!」

「いかん、後退後退っ! フェリちゃん下がって」

「うわわっ!?」

 

 髑髏が振るった杖を改めて掲げてる。すると交戦直後とほぼ同じ攻撃、周辺に緑の瘴気が巻き起こり爆発の如く破裂した。

 

「だああぁぁ──っ!?」

「きゃあぁーっ!?」

 

 何とか直撃を避ける事ができたが衝撃で吹き飛ばされた。島の縁である絶壁で戦っているから危ない、そのうえ岩やらに体を打ち付けて痛いったらない。

 

「いつつ……フェリちゃん、こっちこっち!」

「わ、わかった……っ!」

 

 しかし吹き飛ばされたお陰で相手との距離が開いた。幸い相手も俺達を見失ったらしい、この隙に岩陰に逃げ込む。

 

「ふいー……ちくしょうめ、あいつ好き勝手暴れやがる!」

「っておい、貴方腕がっ!?」

「おんぎゃぁーっ!? ク、クリアオール!」

 

 フェリちゃんに言われ自分の腕を見ると皮膚が腐って爛れ落ちそうになっていた。どうやらベール効果が失われていたらしい。急いでクリアオールをかけてからヒールオールを使う。腐った肉体に血の気が戻り、みるみるうちに爛れた皮膚が戻った。ついでにベールも掛けなおす。

 

「あー危なかった……腐り落ちる所だった……」

「大丈夫か、結構爛れてたが」

「腕取れたとかじゃなきゃどうにかなるさ……多分ね」

 

 エリクシールがあればなおの事全快できるだろう。試したこともないし試したくも無い。

 

「しかしセレスト以上に腐らせてくるな」

 

 今は懐かしき初マグナ……はティアマトだったが、セレストとの初戦。あの時もベールとクリアオールを駆使したが最終的にこっちが死ぬ前にごり押し戦法、物理で倒した。

 ごり押し、それが出来ればどれだけ楽だろうか。

 

「残りの武器は……」

「最後の剣、あと杖に斧とハンマー」

 

 ほぼ島中から集めたと言って良い武器だが殆ど壊れた。

 初めに使ったマスケット銃は速攻で弾切れ。そもそも狩猟用に使われてた銃なんかじゃ星晶獣相手にダメージを与えられるわけが無い。しかも予備の弾以前に火薬すらなかった。数発撃てただけでも奇跡的である。まともな剣として見つけたスチールソードも次々と折れてしまった。

 

「この剣は無理だ。脆すぎてあれ相手じゃ攻撃の受けも流しも出来ん」

「だろうな……」

 

 ごり押しするには俺自身の実力も必要だが、同時にごり押しに耐えれる相応の武器がいる。今ここにある武器じゃ星晶獣相手へのごり押しに耐えれない。

 

「とりあえず杖メインに魔術攻撃か。それと斧とハンマー使うか……」

「全部持つと重くないか?」

「一々フェリちゃんに運んでもらうわけにいかんしね。まあ何とか立ち回るしかないよね……はあ」

 

 ベルトに斧とハンマーを差し込む。最早武器と言うより農具や工具なのだが……作りが単純なぶん剣より丈夫だと信じたい。杖も杖で本来祭儀用のものだが、この際贅沢を言ってられん。

 

「しかし姿を現したのは良いがこっちの誘いに乗ってくれないぞ」

「露骨過ぎたかな……何時までも絶壁で戦えないし、何とか内側に移動したいけどなあ」

 

 髑髏の奴は宙に浮いてる感じだし、この場所が自分にとって有利と理解しているらしい。目障りな俺達を追うと言う事をまだしてこない。追うほどの脅威ではないと言う事だろうか。

 

「始めた以上撤退も出来ない。もっとおちょくって追ってこさせるか」

「わかった。今度は私も前に出よう」

「気を付けて、幽霊とは言え状態異常の効果が無いわけじゃないから」

「ああ、そっちも気を付けて」

 

 お互い別の方向から飛び出す。相手はまだこっちを見失っていた。自分で出した霧が視界を奪っているらしい。お粗末なミスだがやはり暴走してるのでそこまで気が回らなかったようだ。

 

(気づかない内にっ!)

 

 最後のスチールソードを思い切り投げ飛ばす。かなり力を込めたので矢の如く進むスチールソードは、髑髏の眼窩へと突き刺さった。

 

「ヌグアァッ!?」

「刺さって痛がってるって事は眼球あんのか……? まあいいや、おいこらこっちだ髑髏野郎っ!」

「ガ……ガアァァ──ッ!」

 

 髑髏が杖を振るうと周辺に紫の炎が湧き上がった。本物の炎と言うよりも、魂を燃やすようなそんな魔術的炎だろう。これもまともに受け続けるとよろしくない。

 

「あっちっ!? ふざけっ、ケツ焼ける……っ!」

「ガ、ガガァ……その身、朽ち……させ……グウウッ!」

「させるかっ!」

 

 益々炎を出そうとした髑髏だが、俺にばかり気をとられ別方向から来たフェリちゃんには気が付かなかった。

 

「くらえ、スペクトルパージッ! はあっ!」

「オオッ!?」

 

 フェリちゃんの武器は“鞭”である。扱い悪さから滅多に武器として使われないが、彼女は見事にそれを武器として操る。

 光系統の力が込められ振るわれた鞭は輝きを伴いながら生物の如くしなり、一瞬のうちに髑髏の身体に連撃を打ち込んでいった。

 

(巧い、想像より鞭を使い慣れているっ!)

 

 鞭ならではの高速での攻撃だ。セレストとの戦いに居たと言うのも納得できる。彼女の鞭はれっきとした武器だ。幽霊故幼い少女の容姿のまま長い時の中で培われた技術、それは鞭を手足の様に操れるほどに熟練している。

 

「ヌウゥ……こしゃ……く……ギ、ギイ」

 

 事実髑髏野郎にダメージが入った。その場しのぎの武器で戦う俺よりも、光系統の力が大きい彼女の攻撃の方がよく効いたろう。

 

「どんな理由があってこの島に来たか知らないが、これ以上この島を好きにはさせないぞ!」

「ヌウゥゥウウン……ッ!」

 

 今まで後衛だったフェリちゃんが出て来た事で相手の俺達に対する認識が少し変わるのが分かった。フェリちゃんの攻撃がやはり効いたのだろう。

 

「これもくらえ骨野郎! シャイニングッ!」

「グガッ!?」

 

 杖に魔力を集中。先端から光の力を放出する。魔術発動の媒体としてはギリギリ使用できるのは幸いだった。だが武器として作られた杖ではないために、魔力伝導効率が極めて悪く通常の魔術よりも威力が落ちる。

 

「牽制に移るか。フェリちゃん、こっちで気を逸らさせる。フェリちゃんは隙見てガンガン攻撃してって!」

「了解した!」

 

 こっから第二ラウンド開始と言うところか。凡そ相手の力も図れたが、まだまだ全てを見せてはいないだろう。運も味方につけてきたい心境である。

 

 ■

 

 二 騒ぐ星晶獣

 

 ■

 

 トラモント島をつつむ霧の外、団長を追って来たセレストが船首を島へとむけて待機する。その船首付近にはシュヴァリエ達星晶獣が集結していた。

 

「位置についたかお前達」

「(o・ω´・)b バッチリ!」

「何時デモOKダ」

 

 先頭に完全にマグナの姿となったコロッサスを配置、そしてその後ろにはシュヴァリエ達他の星晶獣が並ぶ。

 

「うし、ウォーミングアップ終了っと」

「リィ、ディ、頑張ろうな」

「ガルーダ、あんた役に立つんでしょうね?」

「そのような言い方は酷いぞメドゥーサよ。妾とて風の大星晶獣じゃ」

 

 そしてその輪にガルーダまで混ざり和気藹々した雰囲気があった。

 

「……これ大丈夫なのか?」

 

 そんな星晶獣達をみて不安そうにするスツルム。シュヴァリエ発案の霧の結界突破方法、それは今居る星晶獣全員の力を一点に集めぶち破る力技であった。今から星晶獣達が行う事が不安でしょうがないのである。

 

「オレ様達だけじゃ時間がかかる。ここは星晶獣に任せるのが手っ取り早いだろうさ」

「かもしれないが、どうもあの星晶獣達を見てると不安になる」

「気持ちはわかるがあれでも大星晶獣だ。期待して待つこったな」

 

 団長に(笑)とまで言われる星晶獣、そんな面々を見ていると如何しても不安になるスツルムであるが、そんな星晶獣(笑)にも慣れてきたカリオストロには心配な様子は無い。

 

「コロッサス、この作戦の要はお前だ。気合入れて頼むぞ」

「マカセテヨ(・`ω´-+)」

「いいか! この規模の霧を全て打ち払うのは難しいがセレストが通るための穴を穿つことは我々がいれば可能だ。各々星晶パワー全開でいくぞ!」

「星晶パワーって……安っぽい言い方だな」

「分かりやすくていいんじゃない? じゃあ僕達も下がろうか、近くじゃ危ないしね~」

 

 神秘の星晶獣が自分で「星晶パワー」と言う謎ワード出している。スツルムは呆れながらドランクと共にシュヴァリエ達から距離をとった。

 

「作戦開始だ。皆星晶パワーを開放しろ!」

「オイラ達の元気をコロッサスにぃ──ッ!」

(星晶パワーなのか元気なのか……)

 

 シュヴァリエの号令にあわせB・ビィを始め皆がコロッサスに向かい両手を向ける。すると掌から輝かしいエネルギーがあふれ出しコロッサスへと集まっていった。

 なおスツルムの胸中の指摘に誰かが気付くはずもない。

 

「パワー(◉ω◉*)キターッ!!」

 

 漲る星晶パワー。コロッサスも激しく輝きだした。

 

「構えろコロッサス!」

「このメドゥーサ様が力分けてあげたんだから、失敗なんて許さないんだからね!」

「(`・ω・´)ウンッ!」

「よし、全力で進めセレストッ!」

「わ、わかった……と、とぉーっ!」

 

 コロッサスが巨大な剣を構えると同時に少し気の抜けた、本人としては精一杯の雄叫びを上げながらセレストが進みだす。速度は最初から全速力、瞬く間にセレストは霧へと接触する事になる。

 

「(@・`ω´・)クラエ!」

 

 だが船首で大型化したコロッサス・マグナが剣を突き出して霧へと差し込む。瞬間、切っ先は僅かに沈むがコロッサス達を押し出そうと霧が激しく抵抗を始めた。

 

「霧がコロッサスの剣を押し返してるぞっ!?」

「やはりただの霧じゃねえ、オレ様達が脅威となると判断したんだ! 全力で押し返してくるぜっ!」

 

 後方で衝撃に耐える団員達。生き物のように蠢き押し返す霧に驚きながらも、コロッサスの力を信じて見守る。

 一方コロッサスも霧とは思えぬ激しい抵抗感じていた。マグナシックスの中でも一番の怪力であるコロッサスが力の限り突きつけているが、巨大な壁に押し返されるような感覚を受けていた。

 

「ウゥ! (`・ω<。)カタイッ!?」

「耐えろコロッサス! ティアマト、ガルーダ追い風を起せ!」

「言ワレナクトモ!」

「よかろう、鉄の巨人そして不死の艇よ! 勝利への追い風を受けよ!」

 

 ティアマトとガルーダが空へ舞い上がり手をかざし風を起す。二体の風の大星晶獣が起した風は、強烈な追い風となりセレストを更に強く前進させた。

 

「あともう一息だ、パワーをコロッサスにっ!」

「いいですともっ!」

 

 妙に気合の入った返事をするB・ビィが力を解放すると姿がマチョビィへと変化、更にコロッサスへとパワーが注がれていく。

 溢れ出る星晶パワー、漲るコロッサス、剣と右手が光って唸る。

 

「ウオーッ! (`・ω・´)ボクノコノテガマッカニモエルーッ!」

 

 コロッサスが一気に剣を突き刺し切り上げた。その瞬間、セレストの前方に広がる霧が二つに割れる。

 

「マダマダーッ! ( ・`ω・)」

 

 更にもう一振り、振り上げた剣を即座に真横へと切り払う。十文字型へと切り開かれた霧は、ガラスが割れるような音を上げ拡散した。

 

「アレが、コロッサス殿の次元断っ!」

 

 雄々しくも鋭いコロッサスの剣技を目の当たりにしシャルロッテが驚嘆の声を上げた。

 霧だけでなく、その周りの空間ごと切り開く次元を断つ剣は、見事道を切り開いた。

 

「今だ行けセレスト、突っ込めっ!!」

「う、うりゃぁ──っ!」

 

 セレストが開かれた穴へと突き進んで行く。

 今霧の結界は破られたのだ。

 

 ■

 

 三 ホネホネバトル

 

 ■

 

「二掛けシャイニングッ!」

「スペクトルパージッ!」

「グウッ!」

 

 二方向から魔法と鞭の攻撃をしかける。これをずっと繰り返していた。

 骨の肉体にもヒビが走りだし、ダメージは確実に与えている。しかし相手は星晶獣、まともな装備も無い状態で二人だけの攻撃では決定打にはならない。

 

「脆そうな見た目の癖になんちゅうタフネスだよっ!」

「多少の誘い出しには乗ったが、これ以上移動する気配も無い。このままじゃ不味いぞ!」

 

 元から状況は不利ではあった。だがそれが更に不利な状態になってきた。承知の上であったし、予想もしていたがしかしこれは厳しい。

 

「ウガァーッ!」

「おっとあぶねえ!」

 

 俺に向かって杖を持たない左手を振り下ろしてくる髑髏野郎。奴は見境なしに攻撃を行ってくる。毒の爆発、魔術、巨体に任せた叩き潰し。範囲攻撃以外の叩き潰しは基本俺しか狙わないので避けるのは難しくは無いのだが、それでもヒヤリとしてしまう。

 

「こいつ、これでもくらえい!」

「……ッ?」

「ああまたっ!?」

 

 目の前来た骨の手に思い切り斧を叩き付けた。間接を狙ったのだが思いの外硬く、そのまま斧は鈍い音を断てて砕けてしまった。しかも相手は特に気にしていないのでダメージが通ってないらしい。

 

「……ぬうぅゥゥッ!?」

 

 不意に奴が唸り空を見上げた。

 霧の向こう側、即ち島の外。そちらを見て異常に警戒し始めた。星晶獣であるこいつが警戒すると言う事は、なにか強大な存在が近づいてきた事になる。思い当たる者が居るとすれば、何処かへと飛ばされたガルーダであろうか。

 ガルーダかどうかは分からないが、何かが来た事は間違いない。奴が俺から視線をそらしている内に攻撃をしかける。

 杖をベルトに差し込み代わりにハンマーを取り出して骨の拳を蹴って髑髏野郎の巨体を駆け上がる。

 

「この隙に!」

「おい、なにを!?」

「どうせ壊れるってんなら、このハンマーあいつの頬に叩きつける!」

 

 長期戦に使えないただのハンマーだが、もう使い捨てだと割り切って光系統の力を無理やり込めれば例え一発だけでも大きな一撃が期待できる。奴の歯の一本でも吹き飛ばしてやる。

 外へ気を取られていた髑髏野郎が、自分の腕を駆けて上る俺に気がついた。奴は忌々しそうに唸った。きっと奴にとっては、羽虫が体に纏わりつくような感覚なのだろう。腕を振って振り払おうとするが舐めるんじゃないぞ、虫扱いするならとことん虫のように這い上がってやる。

 

「ふぬうぅぅううっ!!」

「ほ、本当に上ってる……!?」

 

 奴の肘から上はボロボロの衣類が垂れ下がっているので、それを掴んでガサガサと高速で上る。ちょっとフェリちゃんの引いた声が聞こえた気がするが気にしない。ゴキブリと言ってはいけない。

 さらに何で残ってるかわからない、さり気無くロン毛の毛髪を掴み左頬の部分まで登りきる。しかし誰だって顔の頬に虫が止まれば嫌なはずだ。こいつもそう、だから左手で俺を潰そうとする。

 

「そうはいくかよ!」

「ゴハ……ッ!?」

「はっはーん、マヌケェーッ!」

 

 左頬にいた俺を潰すために手を頬に叩きつけるが、その前に俺は垂れた髪をロープにし、そのまま勢いをつけて飛び反対側へと移動。野郎は自分の頬を叩くだけになった。

 

(さて、一撃おみまいして……おや?)

 

 目の前の頬をハンマーで砕いてやろうと思ったが、ふと奴の頭に乗る王冠に視線がいった。衣類はボロボロであるが、王冠だけは気合の入ったもので装飾も施されている。だがその中で一際激しく、そして怪しく紫色の光を発する宝石があるのがハッキリとわかる。

 咄嗟に俺はまた髪の毛を登った。グングンと登り王冠の前にまで行きその宝石を見た。その輝きはガルーダから落ちた直前に見た光と同じ、そしてその光には見覚えがある。間違いなくそれは、アウギュステでポセイドンの自由を奪った魔の宝石、“魔晶”だった。

 

「またこいつが原因かぁ────ッ!!」

 

 渾身の力を込めハンマーを魔晶へと叩き付けた。火花の如く光が散り、甲高い音と共に僅かにヒビが入る。

「やったか!」と思ったが魔晶が壊れるより先にハンマーが壊れた。更に魔晶にヒビが入るとそれに連動するように髑髏野郎が苦しみ出す。

 

「アアァァアア────ッ!?」

「うお、落ち……っ!? やめろー!?」

 

 苦しむのはいいが暴れられると辛い、わかっちゃいたが足場が悪い。必死に髑髏野郎の髪の毛に掴まり振り落とされまいとしがみ付く。

 

「団長さん!?」

「つ、杖! 杖を……っ!」

 

 ベルトに差し込んでおいた杖を取って壊しそこなった魔晶を狙う。あれが暴走の原因としたら魔晶を壊せば大人しくなるはず。

 

「く、くそ……早く壊れろっ!」

 

 だが壊れない、シャイニングだけでは駄目だ。エーテルブラストでもなんでも撃ち込みまくる。が、やはり威力が足りない。全然壊れない。

 

「団長さん、早く離れろ! 落ちてしまうぞ!」

 

 フェリちゃんの声が聞こえる。心配してくれているが、これを逃すとまた這い上がって魔晶を攻撃しないといけない。

 今こいつは魔晶によって暴走してるのは間違いない。そしてこの状態で魔晶は弱点にもなる。攻撃された時にこいつは苦しんでいた。だからこそ次の攻撃を許さないだろう。俺がまた腕を登ろうとすれば何が何でもそれを阻止してくるはずだ。

 

「アアァァ────ッ!? われは……われはぁぁ……グゥ……ッ! ガアアァァアッ!?」

「暴れんじゃねえ! 魔晶から解放してやるってんだよ!」

 

 ただでさえ壊れないのに更に暴れるので狙いが定まらない。範囲攻撃のエーテルブラストもろくに命中しない。こっちは落ちないようにするのでも精一杯だ。

 

(こ、このままじゃあ……っ!)

 

 圧倒的に攻撃力が足りない。これでは魔晶を壊すよりも先に俺が落ちてしまう。なにか決定的な力が、助けがほしいっ! 俺は心の中で叫んだ。

 その時、俺の思いに応えるようにして突如空を覆う霧が開かれた。差し込む光、その光を背にして入り込んで来る巨大な一隻の艇。その騎空艇を俺は知っている。一度だけザンクティンゼルで見せてもらったセレストのもう一つの姿。

 

「突破ァ──ッ!」

「ヤッター! (;`・ω・)ノ」

 

 聞こえてくるのはガロンゾに居るはずの者達の声。

 

「み、みんな!? 来てくれたのぐわああああぁぁ────っ!?」

「ごがああぁぁ────ッ!?」

「あいた──っ!?」

「やべえ、セレストがリッチに激突した!」

「あは、ははは!? で、出た目の前に星晶獣とは……うひひっ!?」

「オイ、リッチカラ何カ落チタゾ?」

「うぅ~ん? リッチの頭から……ヒャッハー!? あれ、団長じゃねーかぁーっ!?」

「のじゃー!? また落ちたのじゃ!?」

「だぁー!? 救助救助!」

「い、いかん間に合わん!?」

「だ、団長さーんっ!?」

 

 なんか色々聞こえてくる。フェリちゃんが崖から落ちていく俺を覗き込んで叫ぶ。だが無理、駄目、落ちる……これ何度目? 

 いいかげん飛翔術とか言う空飛ぶ術を練習するべきだった……後悔先に立たずと言う事か。無念。

 

「あでっ!?」

 

 諦めムードを出していたら突然床に叩きつけられた。床? 俺落ちてたじゃん、と思い立ち上がるとそこはボロボロになっている甲板。俺は騎空艇にいた。瘴気を発する幽霊船の上に。

 

「この艇は……!」

「ま、間に合った……ぶ、無事……?」

 

 “彼女”と“彼女”とは殆ど同一の存在、まだこの島に残っている可能性は十分にあった。気配を感じなかったので探す事はしなかったが、やはりまだこのトラモント島にいたのだ。

 

「……こっちは、始めましてだな」

「う、うん……始めまして、こっちのセレストです……」

 

 頼もしい幽霊船が二隻揃った。

 

 ■

 

 四 不死の双艇

 

 ■

 

 落ちた。完璧に空の底に。

 突如霧を開いて現れたセレストが星晶獣に激突し、その星晶獣に掴まっていた団長が崖の下へと落ちていく時フェリは完全にそう思った。助かるわけが無いと。

 崖の下を覗き込んだ。落ちていく団長が見えたが同時に団長の下からまた更に何かが現れるのが見えた。霧の中から生まれるように、湧き上がるように。その一隻の船は現れた。

 

「……セレスト……?」

 

 俄かに信じられない光景だった。

 崖の下から団長を乗せ浮上してくる不死の幽霊船。かつてこのトラモント島を襲った星晶獣。それが今、まるでこの島を救うかのように現れた。

 フェリが唖然としていると、セレストが船体を崖に横付けする。すると甲板から団長が走りフェリの所へと駆け寄ってきた。

 

「だ、団長さん無事か!?」

「おう、なんとか無事だわ」

「それはよかったが……だが、この艇は……」

「ど、どうも……お、お久しぶりです……」

「喋ったぁ────っ!?」

 

 目の間にあるセレストが普通に挨拶してきた。思わず叫ぶフェリ。まさかセレストが流暢……とは言い難いが、とにかく普通に話しかけて来るとは思いもしなかったので仕方が無い事だ。

 

「しゃべ、えっ!? 喋れるのか!?」

「しゃ、喋れます……はい」

「今までどこに……」

「この……崖下にいたの……あ、あいつの力で押し込まれてて……い、今まで身動き取れなかったんだ……」

「そう、なのか……しかし、こんな事が」

「フェリちゃん、これで驚いてちゃ切りないぜ」

「いやけどこれ……」

「気持ちはわかるが切り替えてこう、星晶獣との付き合い方はそういうもんだから」

「そういうものなのか……」

 

 団長の言う事はあまり納得しがたい話だった。

 

「おーい、だんちょおぉ──っ!」

「あっちも来たか」

 

 星晶戦隊(以下略)のセレストが団長達の元によってくる。セレストの甲板からはフェザーが身を乗り出し手を振っていた。セレストはと言うと、ぶつかった衝撃の所為か若干ふら付いているが、なんとかトラモント島のセレストの前に止まる。すると艦首付近に団員の皆が集まってきた。

 

「ジミー殿ご無事でありますかぁー!?」

「シャルロッテさん、どうも無事です。なんとかね」

「落ちた時はどうなるかと思ったよ。無事でよかった……」

「コーデリアさん……ご心配お掛けして申し訳ないです」

「ご、ごめんね……団長。ぜ、前方不注意だった……」

「こっちも喋ったぁ────ッ!?」

 

 フェリにとっては二体目のセレストになる星晶戦隊(以下略)のセレスト。それがサラリと喋りまた驚くフェリ。

 

「ふええ……セレストが二体、しかも喋るなんて……」

「そう言うもん、そう言うもん」

「そ、そうなのかなぁ……」

「あ、フェリちゃん居たー!」

「ふぇあっ!? ド、ドランクッ!?」

 

 聞き覚えのある声がすると思えばセレストから手を振るのはドランクだった。以前ジータと共にこの島で彼と出会っているフェリはまたも大いに驚いた。

 

「あれま本当だ? スツルムさんもいるし、こりゃまたなんで?」

「黒騎士にお前の救助を手伝えと頼まれた。厄介事ばかり引き寄せるなお前は」

「あ、止めて言わないで……」

 

 スツルムに痛いところを突かれ苦しむ団長。自覚してるがしたく無い狭間を生きる苦労人である。

 そして団長が胃痛を感じていると、フヨフヨとB・ビィが飛んできた。

 

「よう、案の定無事だったな相棒」

「案の定無事ってなんだよ……」

「気にすんなって、信頼の証よ。そんで、そのエルーンの嬢ちゃんは?」

「島で知り合った子、結構頼れる娘さん」

「団長、この……なんだ、この、この……なんだ?」

 

 フェリは目の前に飛んで来たB・ビィの事を聞こうと思ったのだが、ドラゴンっぽいような、魔物っぽいような、されども人語を話す謎生物、その形容し難い風貌に言葉が続かない。

 

「いよう嬢ちゃん。オイラB・ビィってんだ」

「B・ビィ……ビィの親戚か何かなのか?」

「なんだ、オリジナルの事しってんのかい?」

「気にするなフェリちゃん、これは黒いナマモノ程度の認識でいいよ」

「ひでえな相棒」

 

 などと緩いやり取りがあったが、現在彼らは戦闘中である。セレストに吹き飛ばされた星晶獣も無事なまま。その事を団長が思い出すは星晶獣が唸り声を上げ出してからだった。

 

「お、おぉ……わ、我は……不死の……オオォォ……っ!?」

「おっと不味い、乗れフェリちゃん!」

「うわわっ!?」

 

 セレストと激突し地面に倒れていた星晶獣が唸り声をあげて起き上がろうとする。それを見て団長がフェリを引き寄せセレストへと乗せた。

 

「セレスト、離脱だ! アイツから距離をとれ!」

「りょ、りょうかい……!」

「り、離脱ぅ~……!」

 

 急速に浮上しセレスト達は雄たけびを上げ出した星晶獣から距離をとる。星晶獣は苦しむような叫びを上げると、その周辺が怪しく輝いた。

 

「アアアアァァァァ────ッ!!」

 

 星晶獣の周りに紫の炎の様なものが次々現れた。ボヤリと光るそれは炎にも見えるが、目と口のような黒い穴が見えるそれは、むしろ人魂と言うべき存在だった。そしてその人魂はギョロリと団長達を睨むと次々と襲い掛かってきた。

 

「こいつら……っ!」

 

 地の底から溢れるような人魂は弾丸のようにぶつかってくる。その船体の大きさに反しセレストも素早く動きそれをかわそうとするが、素早さでも数の多さでも勝る人魂は次々と船体へとぶつかっている。

 

「いて、いてて……!」

「あいたたた……!?」

 

 とは言えセレスト達も大星晶獣、痛いようだがまだ「痛い程度」で済んでいた。人魂は団長達にも向かってきたが、彼らはそれぞれの武器でそれを迎え撃った。

 

「小ざかしいぜェ! だだだだだだだだだだっ!!」

「うわあっ!? 団長、B・ビィがなんかムキムキになって手からエネルギー弾をっ!?」

「無視して! 気にしちゃ駄目!」

 

 B・ビィがマチョビィとなり手から気弾を連続発射して人魂を迎撃する。頼もしいと言えば頼もしいが、初見のフェリには結構衝撃的な姿である。

 

「しかしいよいよ見境なくなってきたな!」

「あの星晶獣、一体どうしたんだ!?」

「さっきセレストがぶつかって少し意識が戻ってる様子だった! ただ中途半端に意識が戻った所為で自分が何してるかわかってないんだ! このままじゃ収拾つかん!」

「セレストが言うにはリッチって言う不死の王って星晶獣だそうだぜ」

「リッチねえ……! 王って言うんだから本当は話の通じる星晶獣と思いたいが、今は暴走を止めんとな! セレスト、あっちのセレストと並走してくれ!」

「う、うん……わかった……」

 

 団長に言われセレストがもう一体のセレストへと近づき、殆どピッタリ横並びで飛ぶ。それに気がついたコーデリアが甲板から団長へと声をかけた。

 

「団長! ここからでは我々の手に負えない、どうする!?」

「あの星晶獣を草原に追い込んで、そこで決着をつけます!」

「方法はっ!?」

「セレストに頑張ってもらう!」

「わ、私達が……? な、何すればいいの?」

「お前達ニ体であいつに再突撃をかける!」

「ええっ……!?」

 

 中々無茶な作戦を提案し出した団長にセレスト達が驚いた。

 

「あいつを島の草原まで追い込みたいんだ! ここじゃまともに戦えない、この大きさのセレスト達なら十分あいつを挟んで押せるはずだ!」

「な、なるほどぉ……」

「無茶を承知で頼みたいが、いけるか?」

「い、いいよ……わ、私頑張るよ……」

「わ、私も……、これ以上好きにはさせないもん……!」

 

 無茶な作戦ではある。しかしセレスト達はやる気十分だった。

 

「おっしゃ頼む! お前達なら暴走した骨相手に負けやしない!」

「う、うん……! て、てやぁ~~~~っ!」

「おりゃあぁ~~~~っ!」

「こ、こんなタイプだったのかセレストって……」

 

 おろおろするフェリに誰も気付く事無く、気の抜ける叫びと共にセレスト達はリッチに向かい速度を上げていく。

 

「み、みんな……! 振り落とされないでね……!」

 

 団員達は柵や柱にしがみ付き衝撃供える。そして直ぐに強い衝撃が走った。

 

「ゴオオオオォォォォ────ッ!?」

「お、大人しくして……!」

「このまま……あ、そこまで……!」

 

 ニ体のセレストでリッチの胴体を挟むように衝突。そして止まる事無くリッチを島の内陸側へと押し込んでいった。

 

「ギ、ギギィ……ッ!!」

 

 だがリッチも当然抵抗する。左手で星晶戦隊(以下略)の団員達を叩き潰そうとした。

 

「そっち気をつけろっ!」

「俺に任せろっ!」

 

 団長が叫ぶとそれにフェザーが応えた。甲板を走り振り下ろされる骨の拳へと向かった。

 

「アニムスブローッ!」

「ゴアアッ!?」

 

 フェザーが蒼い稲妻を両手に纏わせ、思い切り甲板の床に叩きつける。彼の放ったエネルギーは地面を伝わり間欠泉の様に噴出した。それはリッチの拳を押し返し、そのまま反動で跳ね返りリッチの体勢が崩れる。するとそれを好機とみてセレスト達がより速度を上げた。

 

「このまま……!」

「そ、草原へ……っ!」

 

 霧をかき分け突き進む。そしてついに二艘の幽霊船は、目的地へとたどり着いた。開けた草原、リッチの体力の低下が影響したのかそこだけは霧が僅かに晴れていた。

 トラモント島で最後の戦場となる舞台。セレスト達は見事役目を果たして見せたのだ。

 

 ■

 

 五 総突撃

 

 ■

 

「ぐぇーっほ、ごほっ!? だ、大丈夫かフェリちゃん!?」

「な、なんとか……」

 

 俺の無茶な作戦を見事成し遂げ、リッチを追い詰めてくれたセレスト達。だが半ば墜落するようにリッチを地面へと叩き落したので、そのままセレスト達も地面へと追突。乗っていた俺達も地面へとゴロゴロ落っこちてしまった。

 

「う、うぅ~ん……う、動けないよう……」

「うおっと!? そうだった、セレスト大丈夫か!?」

「だ、大丈夫……だけど、ちょっと動けないかも……」

 

 そしてセレストは地面にめり込んでしまい、動く事が出来なくなった。

 

「わかった、お前は良くやってくれた。後は任せろ」

「う、うん……ごめんね」

「気にすんな」

「セレスト……何と言うか、その……ありがとう、これが終ったらゆっくり話したい」

「フェリちゃん……わ、わかった。き、気をつけて……」

 

 フェリちゃんとセレスト、複雑な一人と一体。彼女達の事も気になるが今はリッチだ。セレストにはジッとしているように言い、少し離れた団員達の所へと向かう。

 コーデリアさん達もセレストから転げ落ち、地面へと降りていた。

 

「皆無事ですか?」

「ああ、団長も無事なようだね」

「たく……服が汚れちまったぜ……」

「体より服の心配っすか、おっさん」

「おっさんじゃねえ!」

「おりゃー! この馬鹿人間!」

「おごっ!?」

「うわー!? 団長さんっ!?」

 

 背中に走る衝撃、吹き飛ぶ俺、おろおろするフェリちゃん。俺を馬鹿と呼ぶ声からして犯人がメドゥ子なのは間違いない。

 

「て、てめえメドゥ子、なんて迷いの無いドロップキックを……!? ってこら、背中乗るなっ!?」

「あんたって本当バッカねぇ~~っ! あんな“のじゃのじゃ”言ってる星晶獣に攫われるなんて!」

「“のじゃのじゃ”ってなんじゃ!?」

 

 メドゥ子が背中にまとわりついていると、今度はガルーダがあらわれた。と言うか何故いるガルーダ。

 

「あんたの事よ、のじゃ子」

「のじゃ子!?」

「おい、ちょっとお前等……」

「そ、その名前はあんまり過ぎるぞメドゥーサ!?」

「ふふーん、あんたにはそれで十分よ」

「おい、落ち着……」

「ぬくく……お主だってメドゥ子とか呼ばれておるくせに!」

「ちょ、あんた何時の間にその呼び方っ!?」

「ここの人間殆どがお主の事メドゥ子と呼んでおったからのう。にょ~っほっほっほ! 石化の魔眼を持つ星晶獣がメドゥ子とは滑稽じゃのう!」

「こら、人の話……」

「むきーっ! のじゃ子のじゃ子のじゃ子っ!!」

「メドゥ子メドゥ子メドゥ子っ!!」

「……いい加減にせいっ!!」

「うぎゃっ!?」

「のじゃっ!?」

 

 拳骨を一発ずつ。

 

「あにすんのよっ!?」

「なんでわらわまで……」

「こんな状況で喧嘩すんなスットコ星晶獣(笑)共っ! ただでさえ混沌としてんのに面倒を増やすんじゃない!」

「あんた助けに来たアタシに対して何よその言い方っ!?」

「状況を考えろとゆーとるんだっ! あれを見ろっ!」

 

 俺が指さす先、そこには草原に落ちたリッチがいる。こっちとは結構距離の離れた位置に落ちている。またセレストの活躍のおかげか体力を大分消耗したらしい、戦闘不能にまではいかないが奴もそこから動けないようだ。それでも未だ健在である。

 

「まだ倒せてないんだから無駄なことしてんじゃないの!」

「んもう! だったらさっさと倒すわよっ!」

 

 初めから俺はそうしたかったんだよ。

 

「団長」

「どしたゾーイ?」

「あの星晶獣……リッチの暴走の原因なんだが」

「やっぱお前は気付いたか」

「と言う事は団長もか?」

「直接見た。あの王冠にはめられてる」

 

 俺の言葉を聞いてゾーイは深く頷いた。リッチの王冠からは、相変わらず紫の光が輝いている。それはリッチ本来の意思とは関係無しに、その肉体は戦闘を続行すると言う事を意味する。

 

「あの光はまさか」

「そのまさかっす。ありゃ魔晶です」

「なんと……!」

 

 魔晶と聞きシャルロッテさんが驚愕と同時に怒りを露わにした。この人はアウギュステでポセイドンの暴走を目の当たりにしている。そしてその原因である帝国の非道なる行いも。

 

「魔晶、つまりリッチが暴走しているのは……」

「まだわかりませんが、帝国の方が関係してる可能性は大いにある訳っすね……」

 

 ここで俺はジロリとスツルムさんとドランクさんを睨んだ。

 

「ちょっとちょっと、怖い顔止めてよ団長君」

「言っとくが私達は知らん事だ。黒騎士なら多少事情を知ってるだろうがな」

「……ま、この場はいいですよ。お二人は助けに来てくれたわけだし」

 

 仮に知ってても口割らないだろうし、この二人は。じゃあスツルムさんの言うように黒騎士さんに──と、あの人に追求したところで、それこそちゃんとした答えが得れるかは不明だろう。どの道今はどうしようもない事だ。

 

「ヌガアアァァ……ッ!?」

「むっ!?」

 

 不意にリッチが身を起し叫ぶ。杖で体を支えている状態なので、動くのも精一杯なのかもしれない。だが奴の叫びに呼応して地面の所々が盛り上がり始めた。

 

「うげっ!?」

 

 俺は思わず顔をしかめた。地面からは体が腐り骨の見える魔物達が次々現れ始めたのだ。

 

「あ、あれは……あははっ! ちょっとばかり、きつい光景だなあ、はは! あはははっ!?」

「ちょっとどころじゃないぞ……」

「魔物ゾンビ軍団だねぇ」

「ブリジールが居なくてよかったよ。彼女は怯えてしまうだろうからね」

 

 ドランクさんの言う魔物ゾンビ軍団、正しくその言葉がピッタリだ。正直相手したくないぜ。

 

「この島に眠る魂を蘇らせたのか……!?」

「そのようだ。幽霊がいないゾンビオンリーなのをみると、セレストとは違う方法にも思えるけどね」

 

 不死の王と言うなら、眷属として亡者やらを生み出し操るのも出来て不思議ではない。フェリちゃんにとっては見知った魔物が多いのだろう、だからこそその驚きは大きいはずだ。

 しかしこの場面で魔物を生み出すという事は、リッチも余裕が無いと言うことだろう。

 

「露骨な時間稼ぎだな。体力を回復して逃げる気だろうが……」

 

 そうはさせない。また霧に紛れられても面倒だ。

 

「シュヴァリエ、一度光の剣を試してくれ」

「了解した」

 

 シュヴァリエの範囲攻撃光の剣。天から降り注ぐ光属性の剣の雨は、並みの魔物であれば一度で殲滅できるような攻撃だ。直ぐに彼女は魔物ゾンビ軍団とリッチにめがけ剣を降らせた。

 霧で覆われる島の中でもその光は凄まじい。炎とは違う閃光の眩しさはゾンビ達を一瞬で消し去った。

 

「やったか!?」

「スツルム殿、その台詞は駄目だと思うんだけど……あ」

「……野郎、なんつー方法で」

 

 光の剣は確かに魔物ゾンビ軍団の殆どを消し去った。だがリッチは防御を固めていた。それもただ防御したのではない、閃光が収まった時に現れたリッチの体は、無数のゾンビに覆われていたのだ。

 ポロポロと剥がれるゾンビの中からは、殆ど無傷のリッチの姿があった。更には地面からは新たなゾンビが這い出して来る。減らしても切がないなこれは。

 

「肉の鎧とでも言う気かよ」

「なるほど、脆いが重ねればそれなりの壁になる。防御方法としてはこれ以上無いだろうぜ。鎧代わりのゾンビは次々生み出せるんだからな」

「だとしても見てて気分の悪い方法だ」

「それはオレ様も同感だ。効果は十分あってもスマートじゃねえ」

 

 しかし範囲攻撃でまとめてと言う手段が難しくなった。他の星晶獣達の強力な範囲攻撃をしたとしても、その分ゾンビの壁を厚くされるだけかもしれない。それ以上にこの島に与えるダメージが心配だ。

 俺は島を破壊するために戦ってるのではない。それにリッチに関しても、奴が魔晶で暴走したと判明した時点で目的は“討伐”ではなく“解放”となっている。

 

「みんな、手短にやる事言うぞ! 全員で攻めて誰でもいいから魔晶をぶっ壊せ! 既に俺が一撃を加えているからあともう少しで壊れるはずだからな!」

「えらい大雑把な作戦だなぁ、おい?」

 

 おっさんの言う通り大雑把ではある。しかし今は暢気に円陣組んで作戦立てる暇も無い。

 

「例え大雑把でも結果的にチームワークが生まれるからいいの」

「そうなるとゾンビ軍団を相手にする事になるが、もう一度殲滅するか?」

「頼む。その後は一緒に突撃、ただし勝手な範囲攻撃は無しだ。俺達も巻き添えくらいかねないし、ゾンビ減らした所で追加で数は戻るどころか増え続けるだけだからな」

「了解した。ならば主殿、これを使え」

「うん?」

 

 シュヴァリエが四つの内二本の腕を俺に差し出すと、彼女の掌が光だしそこから二つの物体が生まれた。それは徐々に明確な形を持ち、片方は剣、もう片方は戦斧となって俺の手へと収まった。

 

「どうもまともな武器を使っていないようだったからな。ザンクティンゼルで与えたものと違い、完全に私の力のみで作り上げている」

「めっちゃいい武器じゃん!?」

 

 シュヴァリエの光の剣よろしく、それと同じかそれ以上に輝かしい武器。名付けるならば、シュヴァリエソード・マグナ、シュヴァリエブージ・マグナと言ったところか。

 

「私の加護100%だ。主殿であれば二つ同時に扱えるだろう。存分に振るってくれ」

「ああ、ありがとうシュヴァリエ」

「礼なら尻を叩い」

「よし皆準備はいいかあっ!!」

「うぅんっ! 放置プレイ!」

「……ド、ドランク。あれも星晶獣なのか? なんか悶えてるけど」

「ごめんフェリちゃん、あれに関しては僕達も詳しくないんだよねぇ」

「と言うか聞くな。あれは関わりたくない」

 

 おろおろしてるフェリちゃん、苦笑するドランクさん、呆れるスツルムさん。きっとこんな星晶獣見たくなかっただろう。

 

「シュヴァリエ、もう一発光の剣」

「なら尻をっ!」

「それはいいか」

「一発だけでいいから! いや先っちょ、つま先だけ当てる感じでも──」

「いいからやれやぁ!!」

「あっふぅ────ッ!!」

 

 一発だけシュヴァリエのケツに蹴りを入れた。するとシュヴァリエはテンション高めの声を上げて再び天から剣が降り注いだ。またこの時ジッとリッチを見ると、光の剣が来ると分かった瞬間に奴は地面から生み出したゾンビを一瞬で身に纏っていた。意外にもゾンビを纏うのが素早い事に驚く。

 しかし雑魚ゾンビはしっかり殲滅できている。それは良いのだが、心なしかさっきより威力が上がってる気さえした。もし尻を叩いた事が理由と言うなら、俺にとってこんな悲しいバフ効果は無いだろう。

 

「……虚しい」

「ジ、ジミー殿気を落とさず」

「うん、ありがとうシャルロッテさん。頑張る」

 

 シャルロッテさんの励ましが心に染みるぜ。そうだ、今俺に落ち込む暇はないのだ。

 空元気としてもやらねばならないこの状況。声を出して気合を入れよう。

 

「いくぞー!」

 

 ■

 

 六 デッデッデデデデ! (カーン)デデデデ!

 

 ■

 

「どけどけぇーいっ!」

「Guroro……!?」

 

 狼や小型の魔物ゾンビを蹴散らしていく。ゾンビだけあって体は脆いが、多少の攻撃ではすぐに起き上がってくる。なのでそれなりに力を込めて攻撃しないといけない。魔物相手

 であり、しかも相手は気味の悪いアンデッド。普通の人間では思い切りが足りず苦戦は必至だろう。しかしそこは元から遠慮も無いような仲間が殆どの我が逞しすぎる騎空団。

 

「ゾンビだろうと関係ないぜ、語り合いだあぁっ!!」

「コロッサスが先頭を進め! 巨体でゾンビ達を押し返すんだ!」

「(*`・ω・)トツゲキーッ!」

「尻の痛みが私を昂らせる……! 今の私を止めれると思うな!」

「ニル、薙ギ払エッ! “タービュランス”!」

「あはははっ! み、みんな跳弾に注意し、うっく! ははははっ!?」

「おひゃぁー!? ちょちょ、ちょっとかすった!? 今弾が僕のお尻かすったよ!?」

「お前の尻は丈夫だから平気だ」

「酷くないスツルム殿!?」

「均衡を崩すその暴走、私達で止めてみせる」

「ヒャアアッハァァッ!! てめえら、もう一度土にかえしてやるぜェ~~~~っ!!」

「こんだけ居るんだ。全員錬金素材にしても文句ねえだろぉ!」

「メドゥ子、貴様の所為でまだ頭が痛いぞ!」

「うるさいわよ、のじゃ子!」

「お二人とも、喧嘩は後にするであります!!」

「オラオラオラッ!! ゾンビ共、全員ぶちのめしてやるぜぇ────ッ!」

 

 ゾンビの波を掻き分けて、と言うか吹き飛ばして、ガンガン突き進む。彼らはゾンビ程度で足止めされる様子は無かった。と言うか度胸あり過ぎである。星晶獣達はわかるが、他の普通の(?)面々も流石と言うべきか。

 

「てやあぁっ!!」

「Guo……!」

 

 そしてフェリちゃんもまた皆に負けていない。彼女も大分体力を消耗しているはずだが、鞭による攻撃の冴えは見事なまま。

 

「フェリちゃん無理しなくいいからな!」

「まさか! 私だってここからだ。行くぞみんな!」

「──!」

 

 フェリちゃんの周りに青白い光が浮かび出した。それは徐々に形を作り、声を上げフェリちゃんと共に駆けていく。

 

「ははっ! 来たな、頼もしい奴らが!」

「ここからは、この子達も一緒だ!」

 

 それは彼女の家族であるベッポ達。今までは姿を消していたが、ここからは本格参戦だ。

 噛み付き、体当たり、引っ掻き。獣のような見た目の通り、ベッポ達の攻撃は野生的だ。しかしポジションとして“調教師”に当たるフェリちゃんの指示に従い、フェリちゃんと見事な連携を見せている。

 

「へぇ~? フェリちゃん、腕上げたねえ!」

「ジータ達と別れてから、私も遊んでただけじゃないさ! いつか空に出る事を思っていたんだからな!」

「ドランク、余所見してるな!」

「はいはいっと! こんな時でも怖いねぇ、スツルム殿はっ!」

 

 水晶で魔術を発動しゾンビを吹き飛ばしながらドランクさんが感心していた。きっと俺の知らないセレストとの戦いの時と比較しての事だろう。

 

「俺も負けてられんよな!」

 

 シュヴァリエの生み出しためっちゃ良い武器はすこぶる調子が良い。かつてティアマトが勝手に俺の金で作った剣にコア埋め込んで生み出したティアマトブレード(仮)でさえ上等な部類に入るのだから当たり前である。これは光の大星晶獣が直々に生み出した武器、悪い物のはずが無い。

 なにより今この状況、闇系統寄りのゾンビ達にこの光系統武器が有効なのは言うまでも無い。シュヴァリエソードで切れば、まるでバターを切る様にゾンビ達が切れていく。シュヴァリエブージで突けば、薄紙に針を通すように突き通す。同時にシュヴァリエの加護でゾンビ達は浄化され同じゾンビは立ち上がることは無い。

 

「凡庸武器縛りにおさらばした俺は止められんぞー!」

「ひゃははーっ! 団長もテンションマックスだなぁ~~~~っ! サイッコ~にクレ~ジ~だぜぇ~っ!」

 

 確かにテンションは上がってきた。近くにやはりテンションの高いハレゼナが居るのでそれに中てられたのかもしれない。

 二人揃ってゾンビを切り倒し、なぎ倒し、吹き飛ばし、粉みじんにしている。多分この場で一番苛烈な二人だったのだろう、それは傍目から見ると結構な光景だったらしく……。

 

「戦神か何かか、あいつ等は……」

 

 と、ドン引きのスツルムさんの声が聞こえた気がした。心外である。

 だがドン引きしてたのはスツルムさんだけではなかったようだ。守りを固めていたリッチが焦る様子を見せていた。生み出したゾンビ軍団相手にまるで怯みもせずに突き進む集団に向こうもビビッたらしい。奴は杖を構えてまた人魂の大群を呼び出した。

 

「広域防御持ちは前に! 他は迎撃っ!」

「シェルターテンカイッ! (*`・ω・) マエニデルヨ!」

「皆後ろへっ! ケーニヒシルトッ!」

「行けッ! プライマルビット!」

 

 マグナ形態のコロッサス自身が盾となり前に出る。更にシャルロッテさんが障壁を展開、多くの人魂群を弾き飛ばす。

 シュヴァリエもニ体の球体ビットを使いなぎ払うように光線を放ち人魂の迎撃を行った。

 しかし人魂の数も多い。リッチもこれ以上俺達に近づかれるのを本気で嫌がっているのだろう。奴は休む事無く人魂の召喚を続けた。しかし俺達とリッチとの距離は後10mも無い。

 

「もうちょいなんだがな……」

「ドウスルンダ? コノママ奴ノ息切レヲ狙ッテモイイガ」

「それじゃ島が滅茶苦茶になっちまうよ。しゃーね、もっと攻めるか」

 

 星晶獣相手にして迂闊に攻める事を止めると逆に付け込まれる。俺個人としては無難で堅実なのが好みだが今は攻めである。

 

「突破するわ、誰か三人ぐらいついて来て!」

「攻めるなら俺も行くぜっ!」

「ならば、妾も行こうっ! 死霊の群れなど吹き飛ばしてみせようぞ!」

「私も行くぞ!」

 

 フェザー君、ガルーダ、フェリちゃんの三人が声を上げた。ガルーダ以外は光系統が得意な二人だ。丁度良いだろう。

 

「ゾンビと人魂の群れを突っ切る事になる。他は援護頼んだ!」

「ふ、ふふっ! ま、任せてくれ……あははっ!」

「……ルドさんは援護は控えめで」

 

 この人が援護すると十中八九俺に向かってくる。

 

「シュヴァリエ、三人にも加護を頼む!」

「うむ、我が加護にて勝利を」

 

 星晶獣の加護を受け俺達の力をブーストさせる。使う武器によってはその効果を更に高める事が出来る。今俺はシュヴァリエの生み出した武器を使用しているので加護効果は上がり、光系統得意のフェザー君とフェリちゃんの二人にもその恩恵がある。

 

「これが星晶獣の加護か……」

「体の底から力が漲ってくるぜ!」

 

 フェリちゃんが少し加護の力に戸惑いを覚えている。そもそも星晶獣の加護が必要な戦いと言うものが頻繁に起こる方がおかしいので、普通経験できるような事でも無いのだ。

 

「コロッサス、前方に拡散レーザー」

「リョウカイ!  ░▒▓█▇▅▂∩(・ω・)∩▂▅▇█▓▒▒ クラエー!」

 

 コロッサスの胸部から赤い光線が放たれ、主にリッチ前方のゾンビ群を焼き払った。

 

「よしやるぞ、吶喊だ! 奴の暴走を止めるっ!」

 

 鬨の声と共に“レイジIII”“士気向上”“オーラ”を発動。身と心に勢いをつけ、俺達は再び駆け出した。

 

 ■

 

 七 ぶっちぎるぜ

 

 ■

 

 先に前に飛び出したのはフェザーだった。彼は蒼雷を拳にまとわせて、稲妻の如く駆け抜けた。

 

「そんな拳じゃ俺を止められないぜええぇぇっ!!」

 

 駆ける、駆ける、駆ける。

 殴る、殴る、殴る。

 全力でゾンビの群れを抜けたフェザーは、団長の言った魔晶のあるリッチ頭部を目指した。

 

「団長さんもだが、彼も凄いな……私達も負けられない!」

「──!」

「フージー、ニコラはそっちの奴をっ!」

「──!」

 

 フェザーの闘志に火を付けられたのか、フェリの鞭さばきも力が入る。ベッポ達もゾンビ達を次々と倒していく。

 集団の中から団長等4人が飛び出したのをリッチも気が付いていた。まるで矢の如く突き進む団長達をみて、ゾンビでは止められないとわかるとリッチは人魂の群れを先行したフェザーへと集中させた。

 群れる魚群が一つの巨大魚に見えるように、人魂の群れは巨大な火球のようになりフェザーへと迫った。

 

「む、来るかっ!? だがいいぜ、迎え撃ってやるぜ!」

「えっ!? いや、あれは無理じゃないのか!?」

「いいや、やってみせるぜ!」

 

 避けようと思ったフェリだったが、フェザーが逃げようとせずにそれを迎え撃とうとしてギョッとした。火球の大きさは既に10mを越えていたのだ。

 

「ええい、無茶するでないっ!」

 

 だが上空から急降下して来たガルーダがその前に躍り出る。

 

「おっと、なんだガルーダっ!?」

「アレは妾にまかせい!」

 

 神翼を羽ばたかせるとガルーダの翼が発光しだし雷光を纏う。そしてそのまま羽を広げると一帯に雷が降り注いだ。

 

「全て吹き飛ばしてくれるわっ!」

 

 ガルーダが吼えると稲妻は一つへと収束し、稲妻の槍となり巨大な人魂に直撃する。強烈な一撃は人魂の内部でエネルギーが解き放たれ、集合体となっていた人魂は破裂していった。

 

「す、凄い! 全部吹き飛んだぞ!」

「おおっ! やるなあガルーダ!!」

「むふふーんっ! この程度容易いわ!」

「……グルルゥゥゥウオオオォォッ!」

「ガルーダ、ドヤってる場合か! 全員避けろ、薙ぎ払いだっ!!」

 

 ガルーダに人魂を吹き飛ばされたのを見るとリッチが杖を構えた。今までと違い両手で槍か戦斧のように持つそれを見て団長が叫ぶ。彼の言うようにリッチは杖を四人に向かい横薙ぎに振るった。それも一度では無く二度三度、四度と連続で振るう。杖が振るわれるとそれに伴い紫の炎も上がった。

 

「あちあちっ!? こいつ、無茶苦茶だ!」

「いかん、また意識を呑まれ始めたかっ!? 破壊衝動に身を任せ、己を失いかけておるっ!」

「このままでは島がっ!」

「全てを……オオオッ! 一人残らず、亡者にィィイイッ!!」

「縦振りっ!? 避けろオオッ!」

 

 最後に縦振り、最早鈍器と化した杖を地面へと叩きつけるとそこからまた多量の人魂が溢れかえった。

 

「いい加減くどいんだよぉっ!!」

 

 攻撃を避けた団長は、シュヴァリエソードとブージを交差させた。二つの武器に光の力が凝縮されていく。

 

「フェザー君、俺が援護するから奴の杖を登って頭目指せっ! 」

「わかったぜっ!!」

 

 団長の言葉を受けてフェザーは駆け出し、地面に叩きつけられた杖を上りだした。溢れかえる人魂は当然フェザーに襲い掛かる。

 

「させねえ! いけ、光の剣っ!」

 

 シュヴァリエソードとブージから大剣と二股の剣を模した四本の光の剣が放たれた。シュヴァリエのモノと違い、広範囲に降り注ぐものではない。しかし其々を大きく生み出し螺旋を描くようにしてそれを飛ばす。

 

(癖は前のシュヴァリエソードと似たものだ、やって見せるさ……!)

 

 全てを自身の力で生み出した光の剣。本来はただ飛ばすだけであるが、団長はそれを更にビットの様に操る。かなりの集中力と維持するための力が必要だが彼はそれを何とかやってみせた。

 螺旋を描く剣はフェザーを追従し、彼の周りに来る人魂を切り払っていく。

 

「そうか、ならば妾も!」

 

 ガルーダが翼を広げると無数の羽が飛び出す。一枚一枚が淡く輝きを放ち、一斉に動き出す。人魂に負けない数のガルーダの羽は其々が風の力を持ち、真空波を巻き起こして鋭利な刃と化した。その羽は次々と人魂を切り裂いた。

 杖を駆け、腕を跳び、団長達の援護を受け閃光の如く駆けたフェザーはリッチの肩を蹴る。そしてその勢いのままにリッチの顔面へと迫る。

 

「グウゥオォッ!?」

「リッチ、俺の拳を受けてみろおぉっ!!」

 

 両手に溜め込んだ気合と言う名のエネルギー。先程セレストの甲板で放った時よりも強く、激しく、リッチの肉体に直接解き放つ。

 

「アニムスブロオオォォッ!!」

 

 地面からエネルギーを間欠泉のように放出させるフェザー奥義、アニムスブロー。対象が立つ地面から放つ事が多いこの奥義であるが、しかし肉体に直接撃ち込まれた場合の威力もかなりのものとなる。攻撃エネルギーは自身の肉体に入り込むために、打ち込まれた時点で防御は不可能である。

 遠くから見れば、リッチの頬が破裂したように見えたろう。事実その衝撃は星晶獣であるリッチの頬を破壊し幾つかの歯が口から吹き飛ぶ。

 

(魔晶は狙えなかったな。だが問題は無いぜッ!!)

 

 フェザーの一撃は魔晶へは届かなかった。しかしリッチの体勢は大きく崩れ前のめりになる。

 

「今だフェリちゃん、頼むぞっ!!」

「わかった!」

 

 フェザーの攻撃が成功したのを見ると、団長はシュヴァリエブージを両手で持ち、刃の部分は地面へと向けたまま斜め下へと構える。

 フェリは下方へと構えられたシュヴァリエブージへと向かい跳躍、そして刃の付け根や柄の部分へと足をかけた。そして団長はそこからフェリが落ちるまえに一気にシュヴァリエブージを振り上げた。

 

「跳べえええぇぇぇっ!!」

 

 砲弾を撃ち出すように勢いよく。団長渾身の力を込めて打ち上げられたフェリは瞬く間にリッチの王冠へと近づいた。

 

「オ、オオオッ!?」

「もう終わりだ。島の平和、取り戻させてもらうっ!!」

 

 突如現れたフェリに驚くリッチ。フェザーによる攻撃の反動で杖から手は離れていた。ゾンビのガードも間に合わない。

 

「お前達、目標はあの宝石だ!」

「────!」

「よし、行けっ! エーテライト・プロセッション!」

「──!!」

 

 フェリの号令を受けるとベッポ達が光弾となってリッチへと飛び掛かった。リッチは咄嗟に両手でガードするが、ベッポ達はその両手の隙間を潜り抜ける。そしてベッポ達は一点王冠にある魔晶を目指した。

 

「────―!!」

 

 彼等のやる事は先にも行なったように強烈な体当たりである。しかし彼らは普通の生物でも魔物でもない、実態のなき幽霊である。単純な攻撃はそれだけに強力、そのベッポ達の攻撃は物理的な破壊だけでなく魔術的要素を持つ、それ故か衝突時の破壊エネルギーは一気に魔晶内へと浸透する。

 団長が既に入れていたヒビが更に広がり、そこから小さな欠片が飛び散る。

 そしてこの時、団長から始まった奥義の連鎖反応(チェインバースト)が発動。

 

「これで終わりだっ! アセンションッ!!」

「ゴガァ……ッ! ああっ! ぐああああぁぁぁ────ッ!?」

 

 天から魔晶に向かい激しい落雷がおこる。雷はリッチの全身を駆け巡り、そして最後に激しい閃光を伴い爆発を起こした。

 闇を切り裂き浄化するかのような落雷を受け、魔晶は完全に砕け散り閃光の中に欠片も残さず消えて行った。

 

 ■

 

 八 骨の折れる戦い

 

 ■

 

「うわあぁーっ!?」

「おっと、あぶねい」

「ふぐっ!」

 

 上から悲鳴と共にフェリちゃんが落ちてくる。まあ飛行能力が無いので当然である。位置を見極め、両手を広げて怪我の無いようにキャッチした。

 

「お疲れフェリちゃん」

「あ、ありがとう……」

「中々いい語り合いだったな!! もう一戦やりたいぐらいだぜ!」

「やれやれ、無茶ばかりする奴等じゃ。どうなっとるんじゃ、この騎空団は」

 

 少し遅れてガルーダがフェザー君を両手で吊り下げながら降りて来た。

 

「こ、これで終わったんだな?」

「と思うけどね」

 

 フェリちゃんが不安げにリッチを見上げた。奴の杖は地面へと落ち、リッチは完全に膝をつく。ボロ布の様であった衣類は焼け焦げ、骨の身体も黒く焼けた臭いを放っていた。空いている口からは煙も上がっていた。だいぶウェルダンに焼かれたらしい。もっとも奴に焼ける肉は無く、骨しかないが。

 周りに沸いていたゾンビも人魂も消え失せ、魔晶の光も消え、今の所リッチから戦う意志は感じられない。

 

「……ごはっ!」

「むっ!?」

 

 呻き声と共に光の消えていたリッチの眼窩に僅かに光が戻る。俺もフェリちゃん等も咄嗟に武器を構えた。だがリッチは動き出しはしたが攻撃をして来る様子はない。少し距離を取りながら様子を見る。

 

「おぉ……あぁぁ……っ」

 

 するとリッチの身体が煙を上げながら徐々に小さくなっていく。まるで石像が崩れる様にして幾つかの骨も崩れ去り地面へと積み上がる。

 

「し、死んだのか?」

 

 消滅するようにも見えるその光景を見てフェリちゃんが俺に聞いて来た。

 

「いや星晶獣は死ぬと言う事は無いよ。ただ魔晶で得た力が消えているだけさ」

「そのようじゃ。あそこを見てみよ」

 

 ガルーダが指さす先。積み重なった骨の瓦礫の中には、4~5m程になったリッチの姿があった。人間から見れば十分でかいが、星晶獣と思えば小柄な方だろう。無茶な暴走で消耗も激しいだろう、実際リッチはそこから動こうとはしていない。星晶獣とは言え限界はあると言う事だ。

 

「魔晶についても聞きたい事がある。落ち着いたら、あいつともお話だな」

 

 後ろの方からはコーデリアさん達が手を振って駆け寄ってきている。一先ず、このトラモント島での騒動は終わったと思っていいだろう。

 なんであれ俺はもう疲れた。一度グッスリ眠りたいね。

 




気が付けばバンバン新キャラやら新しいバージョンのキャラが出て困る。特に星晶獣関係。フレイのボイスがもっと早くついていればね。

ビストロフェードラッヘでエルメラウラが出なかった……だと……? じゃあいつ出るんだ。彼女に限らず、Rキャラで終わるキャラクターじゃないはずだぜ……。

モニカ強い&可愛いなちくしょう。女子会のフェイトずっと見てられる。そろそろ秩序の人達は出したいよね。

果たして団長は何事も無くガロンゾに戻れるのか。きっと大丈夫だよ。

ガロンゾに残った皆は皆で頑張ってます。大丈夫。常識人の団員だよ。

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