俺は、スーパーザンクティンゼル人だぜ?   作:Par

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クロエ、またノース・ヴァストの魔物、、アイテム、某剣聖ハーヴィンに関してのキャラ崩壊と二次創作独自の設定や解釈があるのでご注意ください。


ギャルと青春の旅立ち 後編

 

 ■

 

 一 その太刀は万を結ぶのか

 

 ■

 

 レイピアの類と間違うほどの細身の両刃剣。それを持つその男は、鋭い刃に勝らぬとも劣らぬ鋭い視線を目の前の団長へと向けた。

 

「……あんたは、逃げないんだね」

 

 不意打ちの刃を弾き、僅かに冷や汗を流しながら団長は聞いた。この男はあの盗賊達とは違う。そう団長は最初この場で対峙した際に感じ取っていた。

 

「あの男はお前達に抵抗し逃げる事を選んだ。ならば俺は手を貸してやるだけだ」

「成る程、するとあんた用心棒ってわけか」

「そう言う事だ」

 

 なんの前触れも無く、突如風が吹くようにして男は動いた。あまりに自然に、剣を突きの構えで団長へと迫る。

 団長は使い慣れたミスリルソード(以前トラモント島で紛失したため、今回の依頼の前にシェロカルテから購入した)の鍔近くにある丸い溝へと迫る剣を通し、そのまま横へと払い除ける。

 

(こいつは……っ)

「これも防ぐ……」

「ジミー殿!?」

 

 ラウンドウルフではなく剣士の相手をしている団長に気がついたシャルロッテは声を上げた。そのまま彼の所へと応援に向かおうと思ったが、しかし数体のラウンドウルフが前を塞ぐ。

 

「こっちは大丈夫! シャルロッテさん達はラウンドウルフを!」

「くっ! りょ、了解であります! ご武運を!」

 

 この状況でラウンドウルフが来る方が面倒になると考え、少しでも多くラウンドウルフを引き付けて貰うため団長はシャルロッテの助けを断った。

 

「ぉにーさん後ろっ!」

「GAAaa!!」

 

 ほんの一瞬シャルロッテの方へと顔を向けたその隙に、ラウンドウルフが一頭二人へと飛びかかった。

 

「うっとおしいっ!!」

「Cyain!?」

 

 団長は今度は剣で叩かず左手で首を捻るように掴みとり、相手の飛びかかった勢いをそのままそのまま地面へと叩きつけた。頭部を地面に叩きつけられたラウンドウルフは子犬のような声を上げて気絶する。

 

「ぅわぁぁ!? ちょ、前前まぇぇ~~っ!?」

「シィッ!」

「うっ!?」

 

 クロエの悲鳴で団長は男がまた自分へと迫っている事に気がつく。ラウンドウルフに気を取られた隙に、かなりの速度で踏み込んできていた。団長は避けようと思ったが、後ろにクロエが居る事を思い出す。このままよければ最悪クロエに切っ先が向かう。

 

「づええぇぇーいっ!!」

「むっ!?」

 

 団長は一端剣を離し、刃を避けながら重心を落としてタックルのように男へと突っ込んだ。そして男の襟元をつかむとそのまま後方へと思い切り投げ飛ばす。

 グルグルと回りながら男は投げ飛ばされた。だが何処かへと叩きつけられるよりも前に、近くの木を蹴って勢いを殺し、そのまま地面へと着地した。

 地面へ着地すると、男は鋭く団長を睨みつけた。

 

「……何故反撃しない?」

「はい?」

「先程から防ぐばかり、貴様の実力その程度では無いはずだ。何故剣で反撃しないのだ」

 

 攻撃に対して剣を振るうような反撃を行わない団長。その事を男は不思議に思った。だが団長は辟易した様子で返事をする。

 

「あんたさぁ……いやそれよりも、さっき用心棒だからあの盗賊達が逃げるのに手を貸すとか言ったよな」

「……ああ、そうだ」

「絶対嘘だろ」

「……」

 

 嘘、と団長に言われ男は目を細めた。

 

「何が、嘘と?」

「剣に殺気がありすぎる。しかも態々俺の所に来て……用心棒なら盗賊を追ってるB・ビィ達に向かうはずなのに」

「……」

「もうこれ逃がすとか建前で、あんた自分が戦いたいだけだろ」

 

 「違うか?」と最後に言われ男はクク……と喉を鳴らすように笑った。

 

「まったく……まったくその通りだ」

 

そして思いの外直ぐに彼は団長の言う事を認めた。

 

「おお、認めるんだ?」

「誤魔化す事でもないからな……そう、俺はただお前と剣を交わしたいと思った。それだけだ」

 

 その答えを聞いて団長は酷く面倒臭そうに溜息を吐いた。

 

「フェザー君系か……バトルジャンキーめ」

「星晶戦隊、星晶獣を従える男の騎空団。星晶獣に勝る強さを持つ者、それを聞いて俺は剣を交わしたいと思った」

「従えてねえ、纏わり付かれてんの」

「俺はある剣の道場の生まれ、物心の付く頃から剣に触れて育ち、剣に誇りを持ち、剣士として戦い続けた」

「ちょっと、ねえ聞いてる?」

「俺は剣で負ける事を知らず、今まで剣を交えた者は数知れない。誰もが強く、誰もが剣豪と呼ぶに相応しかった。しかし、ある時俺は負けた。剣聖と呼ばれた男に挑み完膚なきまでに、言い訳しようの無い敗北を喫した」

「おい、ねえって……」

「その強さに引かれ俺は自分を負かした相手に半ば無理やり弟子入りし、そして剣の腕を磨いた……」

「おーい? 聞いてます? ねえってば、おいこら」

「だが結局俺は師に勝つ事どころか引き分ける事すら出来ず、何時しか師は剣を捨て何処へと去った……以来俺は再び強者を求めたが、師ほど強き者にめぐり合う事が出来ず――」

 

 男はベラベラと早口で語り続ける。自分がどんな人生を送り、いかに多くの強い者達と戦ったかを。

 

「ぅーわ、ウッザ。ここで自分語りとかなぃゎー(゚Д゚;)」

「本当に面倒なタイプだった……」

 

 寡黙で武人肌と思った男の意外な一面を垣間見た二人。二人とも男の話の内容も「心底どーでもいい」と言う感想しか出なかった。

 

「――そして俺は盗賊団の用心棒として金を稼ぎ、そして強者との戦いを求め」

「ストップ、ストーップ! わかった、わかったからやめいっちゅーに!」

「む?」

 

 いい加減うんざりして団長は大声を出して男の語りを中断させた。

 

「こっちはあんたの戦う動機とか生き様とかどうでもいいの」

「……そうか」

「いや、ちょっと落ち込むなよ鬱陶しいなぁ」

「ナィーブかよ(;´゚Д゚)」

 

 どうでもいいと言われ、エルーンの男は少し耳を垂れさせて落ち込んだ。

 

「強い奴と戦いたいなら、素直に何処ぞの道場なり行くか剣技大会にでも出りゃ良いだろうに。よりにもよってあんな盗賊の用心棒なんてしないでもいーだろ、情けない」

「……旅の中強者を求めるにも金は要る」

「そう言うとこが情けないんだよ。」

 

 団長は怒った様子で男を指差した。

 

「世の中理不尽な理由で借金抱えても頑張る奴がいるんだ。ほんとだぞ? なのに良い大人が金のためとは言え、馬鹿な事で剣使ってんじゃないよ。腕はいいのに勿体無い」

 

 そう指摘されるが男は鼻で笑い団長の言葉を否定した。

 

「馬鹿な事、か……だがお前と言う強者に出会えた。用心棒なぞに身を窶した甲斐があったと言うものだ」

「性質の悪い奴だなぁ」

 

 恥じる事無く剣を構える男を見て、団長は呆れながらミスリルソードの剣先を男へと向けた。

 

「わかった、相手になってやる」

 

 初めて明確に団長が戦う意思を自分に向けた。その事に男は非常に満足げに不気味な笑みを浮かべた。

 

「そうこなくては」

「ただし負けたら大人しく捕まれよ。そんで、もうこんな事から足洗いな」

 

 そう言うと団長は腰から剣の鞘を外し、その中に剣を収めた。その行動に男も訝しげに睨む。

 

「何のつもりだ?」

「クロエちゃん、そこから動かないで」

「は、はぃ!」

 

 既に戦いは終わったかのように鞘に剣を収めた団長。男の問いかけに直ぐ答えず、クロエにジッとしているように注意する。

 

「答えろ、何のつもりだ」

「戦う準備」

「……ふざけているのか?」

「いいや、マジでやってるよ。マジにあんた倒してやるつもりだ。さっきも言ったが、あんたのこれまでの事や戦う動機なんてどうでもいい。あんたは自分が戦いたいだけの理由であの盗賊達に加担した。おかげであの村の人達は魔物に怯えて、この子は遭う必要の無い怖い目に遭った」

 

 団長は後ろに居るクロエの事を強く強調した。彼女がラウンドウルフに襲われた事が、彼にはとても許せない事だった。

 

「昔はどうか知らんけど、今のあんたは剣士でも何でもない。自分勝手な、ただの悪い奴だ」

「……だとして、どうする?」

「決まってんだろ」

 

 団長は剣を鞘に入れたまま、クロエを守るように前に出て上段の構えをとった。

 

「やっつけてやるよ」

「――!?」

 

 その瞬間、団長の纏う気配が変わった事に男は気がついた。

 

(隙が……見えて、消えてゆく……!?)

 

 初めての感覚だった。今まで「隙の無い相手」を見た事は幾らでもあった。だがこのような相手の隙が見え、そして消失していく、そのような感覚は感じた事はない。

 

(疑似餌の如く隙が“見える”……! だが、しかし踏み込めない……なんだ、これは!?)

 

 その隙を付けば確実に勝てるはず、そう思い攻撃を仕掛けそうになる。だがこれは明らかな誘い――疑似餌。

 

(剣を鞘に入れたのは何故だ? 居合いか? いや……あの剣は比較的重い両刃剣、出来なくも無いがこの間合いでの居合いは難しいはず……あれも誘いか? だとして、踏み込めば……!)

 

 一気に踏み込み、そして剣を振るったとして、男の脳裏には剣をはらわれそのまま斬られる光景が浮かぶ。斬り合いも不可能、一撃目でやはり防がれ負ける。疑似餌は自身の動きが予測されている証、どのような攻撃も対応出来ると言う団長の実力の表れ。

 一度疑似餌にかかり釣り上げられれば、獲物の魚はもう何もする事は出来ない。

 

(しかし、踏み込まねばやはり負ける……! ……ならば、ならばこそ!)

 

 男は突如、己の剣も腰の鞘に戻した。そしてそのまま、両手を交差させ腰にある二本の剣へと手を伸ばす。それを見て団長も僅かに反応する。

 

(今こそ打ってみせる。打ち合う事無く、必殺の一撃を……)

 

 意を決し男は構えた。見えては消える隙と言う疑似餌、それに飛び込み自ら喰らい付く覚悟を決める。

 餌に喰い付いたとて、釣り上げられなければよい。水にさえいれば、獲物である魚が勝る。その釣糸を引き、逆に水中へと引きずり込むのだ。

 

「万に及ぶ打ち合いを……一太刀で、結ぶっ!」

「――!?」

 

 男は地面を蹴った。激しく、強烈に、筋力を最大にまで発揮し破裂音の様な音まで発し跳び出した。

 男と団長、二人の距離は凡そ5m弱。その距離を一気に埋める男の踏み込み。同時に男の腰から剣が引き抜かれ、閃光の如く刃が走る――。

 

「ぐがっ!?」

 

 ――かに思われた。男が剣を引き抜くよりも先に、何かが男の眉間を強く打ち叩いた。あまりの痛さに視界が霞む。それでも目を開き、何が起きたか状況を知ろうとした。

 

(さ……鞘?)

 

 それは、鞘だった。革製の平らな、団長の使っていた剣の鞘。その鞘の先端部分が眉間へと直撃したのだ。

 そして落下してゆく鞘を目で追うと、いつの間にか自分の目の前にいた団長と目が合った。

 

「おんどりゃあ――っ!!」

「――!?」

 

 鳩尾に凄まじい衝撃が走る。抉りこむような、鋭い団長のストマックブローが男の腹を襲った。引き抜きかけた剣は地面へと零れ落ち、殴られた体内からは一気に空気が押し上げられ、嘔吐くような声を上げながら男はそのまま地面へ両膝をついた。

 

「が……がはっ!? ぉご……こ、拳!?」

「いや、剣だけで戦うなんて言ってねえもん」

 

 子供の屁理屈の様な事を言われ、男は言葉を失った。その間に団長は落ちた鞘を拾い上げた。

 

「やれやれ、あんたが想像以上に早く踏み込んだの驚いたけど、そのおかげで随分威力上がったよ。いやあ、ラッキーラッキー」

(さ、鞘……剣を振り下ろして……飛ばしたのかっ!?)

 

 団長は男が踏み込むとほぼ同時に上段の構えから剣を思い切り振り下ろし、剣にはまっていた鞘を矢のように高速で撃ち出した。勢い良く踏み込んだ男がその迫る鞘に気が付いたのは、自身に衝突してからだった。

 予想しなかった鞘の使い方に男は驚き、一方で団長はゆったりと拾った鞘に剣を納めた。

 

「何故……斬らない……っ!?」

「馬鹿ちん、ただでさえ乱暴な場面なのにこれ以上剣で斬り合うなんて血生臭い事、年頃の子に見せられないでしょーが」

 

 そう言って団長は後ろでポカンとしているクロエを指差した。

 

「は、反撃しなかったのも、始めから……少女の、ために……」

「当然でしょうが。まったく」

 

 負けた。嘗て師と仰いだ者に負けて以来の敗北だった。剣で打ち合うどころか鞘と拳で負けたのだ。

 剣士が戦いの場において、相手の出かたに惑わされ、師に及ばずとも同じ“奥義”を放とうとしたのに真剣を使われずに負けた。

 

(負けた……所詮、今の俺は……ただの“悪い奴”だったか……だが……)

 

 ダメージが全身に巡り、男は地面に倒れていく。

 

(やはり……お前と出会う意義は、あった……ぞ……)

 

 男はこの敗北を痛感しつつ、しかしこの敗北に清々しさすら感じながらその意識を手放した。

 

 ■

 

 二 ギャル必殺!!

 

 ■

 

 エルーンの男が気を失った事を確認して団長は辺りを見渡した。いつの間にか、あれほど居たラウンドウルフもカリオストロ達の手で倒され、盗賊達もB・ビィ達にロープで縛り上げられていた。

 

「おう、終わったかよ」

「ん、そっちも?」

「図体はデカいが所詮ラウンドウルフ。しかもろくに世話されてなかったんだろうな。直ぐにスタミナ切れて弱ってたよ」

 

 カリオストロの言う通り、倒れるラウンドウルフの何体かは呼吸が荒くこれ以上動けない様子だった。調教師でも何でもないただの寄せ集めの盗賊達に真面な飼育など出来るはずも無かったのだろう。

 

「こいつらも気の毒になぁ」

「元の故郷から見知らぬ地に無理やり連れて来られたわけでありますから……このラウンドウルフ達も被害者と言っていいでしょう」

「こいつらが自分で捕まえられるわけねえから、誰からか買ったか……」

「ま、魔物を非合法で売買する奴らは、はは! め、珍しくないかな……ははは! きっと、そう言う奴らから買ったんだろう、あははははっ!!」

 

 本来ここにいる筈の無い魔物達。おそらく慣れない環境に体調を崩したのも居た筈だ。盗賊達にとって、このラウンドウルフは使い捨ての道具と変わらなかったのだろう。

 そんなラウンドウルフの境遇に団長もシャルロッテも同情し、それが商売として裏で成り立つ事に怒りを感じていた。

 

「んで、その盗賊共の抵抗も微々たるものか」

「こいつら自体は戦いはからっきしだったぜ、オイラ達相手にナイフ一本向けやしねえ」

「まったく、気概の一つでも見せれば良いものを、本当に逃げ惑うばかりじゃった」

 

 盗賊達は紐でグルグル巻きにされ、何人かはコロッサスの巨大な手で纏めて握られ観念した様子で項垂れていた。確かに情けなさはあるが(相手がお前等じゃなぁ)と団長は主にB・ビィを見て思った。

 しかし拘束されている盗賊達を見て団長はある事に気が付く。

 

「ちょい待ち、リーダーの男がいねえぞ?」

 

 あの弱腰の盗賊団のリーダーの姿が無かった。紐で縛られた盗賊とコロッサスに握られている盗賊達の中にいないのである。

 まさか混乱に乗じて上手く逃げたのかと思い、皆が慌てて辺りを見渡す。

 

「ぁっ!?」

 

 そんな時クロエが驚いた声を上げた。皆が彼女の方を向くと、クロエは一体のラウンドウルフを指差していた。そしてその巨体の影からは、人の頭が少しはみ出していた。

 

「あ、しまっ!?」

 

 案の定それはあのリーダーの男だった。戦いが始まって直ぐ、身を低くして倒れたラウンドウルフの身体に隠れて少しづつ移動して逃げていたのだ。

 

「に、逃げっ!」

「こりゃ、待てい!」

「ひえっ!?」

 

 男は慌てて立ち上がり駆け出そうとしたが、一飛びしてガルーダが男の前に降り立つとまた慌てて踵を返した。

 

「イイカゲン (`・ω・) アキラメナサイ!」

「わああっ!?」

 

 しかし続けてコロッサスが現れ徐々に退路を塞がれていった。更にB・ビィ、カリオストロに団長が集まる。

 

「おうおう、往生際の悪い野郎だぜ」

「雑魚の癖にオレ様に手間掛けさせんじゃねーよ」

「ひえっ!?」

「ねえ君達、俺達が悪党みたいな台詞吐くのやめてくれない?」

 

 拳をポキポキと鳴らす謎生物と、錬金術を操る天才美少女錬金術師。その二人に凄まれ、男は悲鳴を上げた。

 

「う、うう……うわあっ!!」

「む、おい!?」

 

 そしていよいよ自棄になった男は急に逃げるでも無く、無防備なクロエへと飛びかかった。

 

「ぇ!?」

「こ、来い小娘め!」

 

 彼はクロエを引き寄せて首に手を回し、彼女を盾にした。もう片方の手にはナイフを取り出しクロエに向けた。

 

「きゃぁ!?」

「あ、お前この野郎!?」

「く、来るなよ! き、来たらこいつを刺すからな!? ほんとだぞ!?」

 

 男なりに凄んで見せているようだが、しかし腰は引けナイフを持つ手も震えている。その様子から、男自身まともに人間を相手に喧嘩一つしたことも無いとよくわかる。

 今更人質を取って逃げれるはずも無い、ただ意味も無い行動だ。団長達が初めて村で出会った時、多少なりでも傭兵団のリーダーを演じていた時の堂々とした様子は微塵も無くなっていた。

 

「おいコラ! これ以上その子を巻き込むんじゃないよ」

「う、うるさい! 近づくなよ、こここ、こいつがどうなっても知らないからな!」

「はあ……」

 

 自棄になり錯乱して男に対し団長も怒りを通り越して呆れるしかない。

 しかし人質にされたクロエを早く助けねばならない。尤も人質を取ったのが先程のエルーンの男が相手であれば方法を考える必要があったが、相手はナイフ一本まともに扱えない男。団長であれば彼がナイフをクロエに突きつけるよりも早く、その手からナイフを払い飛ばしクロエを助ける事が出来るだろう。

 しかしこの時。盗賊リーダーの男も、そして団長も予想していなかった事があった。

 

「……なんてゆーかさぁ~、マジぃぃ加減にしなってぉっさん」

 

 クロエが怯えた様子も無く、突然喋り出したのだ。その事に男も団長もギョッと目を見開いた。

 

「は? な、何だよ行き成り?」

「クロエ人質にしてさぁ~今更どぅする気ってゆー感じじゃん? っか、まだ逃げれる気マンマンなん? ぃゃなぃから、普通にぉゎってんじゃん。無理ゲーっしょ、見てなかったんぉにーさん達の強さ? ガチじゃんアレ」

「な、何言い出してるんだよ!」

「っーかぁ~、一人だけそそくさ逃げるとか、マジぁりぇなぃから! こんな奴がママ達困らせてたとか、超ふざけんなって感じッ!!ヾ(`д´*)ノ彡」

「お、おい動くなって!」

「ちょちょ、クロエちゃん危ないから!?」

 

 クロエは徐々に大きく怒気を含んだ声をあげた。男も驚いたが、団長も驚き慌てて彼女を止めようとしたのだが。

 

「ぇいっ!!」

「あぎっ!?

 

 なんと今度は思い切り男の爪先を踵で思い切り踏みつけたのだ。クロエの靴はローファーであり、ハイヒールの様にその踵は特別尖っては無いものの、体重全てを乗せて急に踏みつけられた男は悲鳴を上げてナイフを手から落とした。

 

「魔物はふっーに怖ぃけどぉ、ぁんたはただキモィだけのぉっさんだから! 怖くも何ともなぃし(ꐦ°д°)!! っか、ぃつまで手ぇ伸ばしてんっっっのっ!?」

「げぶっ!?」

 

 クロエは肘で男の腹部を強く打ち、そのまま押し出すとクルリと身を翻し男と向き合った。そしてそのまま、男の顎に狙いを定め――。

 

「てぇいっ!!」

「ぶっぎゃぁっ!?」

 

 実に見事な右のハイキック。顎に直撃したその一撃は、一発で男の脳天を揺らし一瞬で意識を奪った。糸の切れた人形の様にその場に倒れる男。クロエは「どーだ、見たかっ!」と胸を張った。

 

「『成敗っ!』、な~んつってねっ! こーゆーのゆってみたかったんだよねー!(人´3`*) クロエ今超ヒーロームーブしてるんじゃなぃこれっ!」 

「……お見事!」

 

 あまりに見事な一撃に、思わず団長は声を上げる。

 

「にひっ! イェーイってねッ!(σ`゚∀´)σ♪」

 

 その声に応え、躍然としてクロエはキメ顔で団長達に笑顔を向けた。

 

 ■

 

 三 依頼達成

 

 ■

 

 一つの村を襲った盗賊団による事件は、そいつらを倒す事で無事に解決する事ができた。

 盗賊団のメンバーは一人残らず捕縛。盗賊達に利用されていたラウンドウルフも全て捕獲し、そして全ての騒動を起す要因と成った魔好華も臭いが漏れないよう念入りに箱へと入れて封をした。

 俺達が盗賊達の拠点から盗賊団を縛り上げて戻って来たのを村の人達が見た時は酷く驚いていたが、今回の真相を話すと更に驚いていた。

 盗賊団の奴等にはその場で村の皆に頭を下げさせた。元々が魔物頼りの弱気な男達だったため、彼等はすっかり反省した様子で素直に頭を下げ村の皆に謝罪した。

中でもあのリーダーの男であるが、以外にも一番反省の色が濃かった。彼はさめざめと泣きながら「こんな事してると星晶戦隊が来て酷い目に遭うって分かったよ。あんな女の子にも負けて、もう盗賊は懲り懲りだ……」との事。この様子ならもう悪事に手を染める事は無いだろう。しっかりと罪を償ってもらいたい。

 また俺達はそのまま村長の御厚意で一日村に泊めて貰う事となった。

 これが非常に助かった。なんせ行きに時間がかかった事と、単なる魔物討伐依頼では無くなったので、予定より時間がかかり結局日も暮れてしまった。そんな中でラウンドウルフと盗賊を全てセレストのいる場所まで運ぶのは大変難しい。そんな時に村長の方から泊まっていきなさいと言われたのだ。

 それと、ある意味今回の主役であるクロエちゃんであるが、今回の事ではとても驚かされた。あの盗賊団のリーダーを一撃でノックアウトした蹴りは実に見事であり素直に感心した。

 だがしかし、村に残るように言ったのに黙って後をつけて来た事に追求してみたところ「お願い! ママにはォフレコで!(>人<;)」と言い出した。

 何でも俺達の戦いに興味を持ち隠れて付いてきたらしい。当然誰にも言わず一人勝手にである。そんな事を聞いてはオフレコなどと言う訳にはいかない。

 幸い今回の事で彼女に大きな怪我は無い。しかし運が悪ければ怪我では済まない状況だった。確かに男一人を倒した事にも見事な蹴りと感心こそしたが、それとこれとは話が別である。今後こういう事が無いようにしっかりと叱るべき人間が叱るべきなのだ。

 何よりも万が一俺達が来るのが遅れ、あの盗賊団が予定通り仕事を働いていたらどうなったろうか。きっと今回の様にクロエちゃんは”魔物退治に向かう傭兵団”の後を付けただろう。それはあまりに危険な行為だ。

 

「ごめんなさぁーぃっ!!。゚(゚´Д`゚)゚。」

 

 そんな声が彼女の家の前を通ると聞こえてくる。家の中ではクロエちゃんが母親にしこたま怒られている事だろう。本人にしたらたまったものじゃないだろうが、その声を聞いて思わず失笑してしまう。多少気の毒に思えなくも無いが、しかし怒られるべき事をした以上そのお叱りを受けるべきである。

 そして俺はと言えば一人村の裏手に並んでいるラウンドウルフの檻の前に来た。全部で四つの中型の檻。その中でラウンドウルフは疲れ果てて眠りに付いている。俺の存在に気が付いてはいるだろうが、檻の目の前まで近づいても気にした様子はない。

 盗賊団のメンバーは全員で11名。それに対してラウンドウルフは12頭。よくもまあ素人だけで大型のラウンドウルフを12頭も飼育しようと思ったもんである。実際まともな飼育なんて出来てなかったので、何頭かのラウンドウルフは慣れない環境で振り回された所為か酷く衰弱していた。巨体の割に無力化にそう手間取らなかったのはこのためだった。逆のそのおかげでシャルロッテさん達が本気で倒す前にスタミナが切れ無事だったとも言える。

 檻の中にはクロエちゃんを襲ったあの子供も居た。他の巨体のラウンドウルフと並んでやっと子供に見える。檻に入れる際群れの中に親が居たらしく、ある一頭の傍から離れなくなり今は身を寄せて眠りに付いている。

 体を休め眠るには狭い檻だ。一つの檻に詰められた姿を見ると悪いと思ってしまうが、村にいる間彼らを外に出すわけにはいかない。まだしばらくはこの狭い檻にいてもらわねばならない。

 

「ぁッ! 居た!」

「ん?」

 

 眠るラウンドウルフ達を眺めていると、後ろから声をかけられた。振り向けば涙目のクロエちゃんがいた。

 

「おやおや、かなり絞られた様子だ」

「ほんとそー! もぅママ激おこ、超怖かった! っか、ぉにーさん酷くなぃ!? ふっーにママにチクッたし!?」

「当たり前でしょうが、君何したかわかってる? 冗談じゃなくて怪我じゃ済まない所だったんだからね」

「ぁぅ!? そ、それ言われると、そりゃクロエも悪かったけどぉ~……(人´∩`)」

 

 ブーブー言いつつクロエちゃんは俺の隣に立った。この子もまあ悪い事をしたと分かっているようだ。反省してるなら俺から言う事は特に無い。

 

「んで、何してたの?」

「別に? ただこいつ等見てた」

「ふ~ん?」

 

 ぐっすりと眠るラウンドウルフ。魔物を怖がっていたクロエちゃんだが、眠りについている状態で見るのなら特に怖がる様子は無い。しゃがみ込んで眠るラウンドウルフの表情を観察していた。

 

「ぁ、寝てるとけっこーカワィィかも」

「でしょ」

「……この子達ってさぁ、この後どーなるん?」

「まあ取り合えず盗賊達と一緒に秩序の騎空団引き渡す事になるね。俺達に出来るのはそこまで」

「そーなんだ。なんか、かゎぃそーだよね。あの悪ぃ人達が連れて来たんでしょ?」

「そうだね。悪い人が悪い人から買ったんだ」

 

 リーダーの男にラウンドウルフをどうやって手に入れたか聞いたが、案の定魔物の密売人から買ったと言った。特に珍しい種を扱う商人だったらしく、強くて丈夫と言って売られていたノース・ヴァスト産のラウンドウルフを言われるがままに購入したらしい。

 

「元の所帰れるとぃーね」

 

 そのクロエちゃんの言葉はラウンドウルフへ向けられていた。

 俺達に出来る事は限られている。クロエちゃんにも言ったように、このまま盗賊達を秩序の騎空団に引き渡す際このラウンドウルフ達も任す他無いだろう。ある意味で証拠品でもある。上手く彼らが動いてくれれば、このラウンドウルフ達を元の住処に戻してくれるかもしれない。今はそれを期待したい。

 

「……ぉにーさん達ってさ、今日みたぃな事ってふっーなん?」

「うん? 普通って言うのは……」

「だからぁ、悪ぃひとら懲らしめるの。にちじょーさは……なんだっけ?」

「……日常茶飯事?」

「そーそれ! エブリディ的な感じ?」

 

 エブリデイと来たか。しかし“懲らしめる”、まあそう言う仕事も結構しているか。毎日では無いが盗賊相手の戦いも初めてではない。帝国も悪い奴と言えばそうだし、何時ぞやの錬金術師とのいざこざも似たようなものか。

 

「そうだね。ああ言った手合いの相手は初めてでは無いな」

「ぉぉ~!∑(*゚ェ゚*) マジそうなんだっ!」

 

 俺が彼女の問いに肯定すると、途端に彼女は目を輝かせた。その輝きはプリンセスに憧れる少女とは少し違い、まるで少年が騎士に憧れるかのような輝きを放っている。

 

「なんだ、そう言う話興味あるの?」

「ぁるぁる! 超興味ぁるからね! 聞かせて聞かせて!」

「聞かせてって言われると、さて何から話そうか……うーむ、期待されるような話は出来ないかもだけど」

「なんでもOKだって! ぁ、けどけど出来れば今日みたいな感じの話でょろ~」

「あー……じゃあ、別の島を襲ってた盗賊団倒した奴とかで」

「そー! そーゆうやつッ!」

 

 アウギュステを発ってから少し経った頃に捕らえた大規模な盗賊団の話を始めると、彼女は興奮して俺の話に聞き入った。

 

「数は今回より遥かに多い規模、奴らは村の人間を面白半分で脅して金品食料を奪うような奴等だった」

「ぇー!?(ง `ω´)ง なにそれヤバ、めっちゃ悪ぃ奴じゃん!」

「まったくだよ、何が面白いんだかね。何より面倒だったのはアイツらドラゴンを従えていたんだよね」

「ドラゴンッ!? それ激ヤバっしょ!? ドラゴンって超デカィ空飛ぶってゆートカゲでしょ? クロエ本で知ってるし、ぁの火ぃー吹くってゆーやつじゃん!」

「そう、その火吹くやつ。まあ倒したけどね」

「倒したんだっ!? ぇ、リアルに? それリアル? ドラゴンとか倒せるもんなん? ぃゃ、ドラゴン倒せるとかそれもぅガチじゃんぉにーさん!」

 

 リアルとかガチとかの意味する所がよくわからないが、まあ話はお気に召したようで何よりだ。

 その後もこの場には居ない仲間との出会いや、星晶獣との戦いなども少し話すと始終クロエちゃんは俺の話に熱中していた。聞き上手と言うか、単純にここまで楽しんでもらえると俺もついつい色々と話しをしてしまう。

 

「ぃーなぁ、ぃーなぁ(〃゚3゚〃)クロエも海見たぃっ!」

「いい所だったよ。全然ゆっくり出来なかったけどね。何時かちゃんとバカンスに行きたいよ」

 

 俺が結局おじゃんとなったアウギュステの事に思いを馳せると、クロエちゃんは「ならクロエも連れてってょ!」と身を乗り出して言った。「超行きたぃ、ギュステバカンスッ!」

 

「ははは、まあ機会があれば勿論。中々難しいけどね」

「ゃっぱそぅ? ぃゃ実際クロエも島出るのもキツィ感ぁるからね。他の島とかもぅ未知じゃんね」

「あー……わかるなぁ。俺の島も結構田舎だったし」

「ぁっ! つっても別にこの村嫌ぃみたぃんじゃなぃからね? ふっーに好きだから」

「勿論分かってるよ」

「そもそも人もぁんま来なぃしね。外の人とかぉにーさんで久々に見たし……ぁっ!」

 

 突然クロエちゃんは何かに気が付いたようで、手をポンと叩いた。

 

「そーじゃん、これピッカン来たっ(・∀!)☆」

「ピッカン?」

「そー! ぉにーさんクロエの事仲間にしてょっ!」

「……え?」

 

 この流れ、この展開はもしや……。

 

「突然、その……クロエちゃんどうしたんだい?」

「だーかーらー(*≧д≦)ぉにーさんって、きくぅだん? のだんちょーなんでしょ? んで、そのきくうだんに入ればクロエも色んな所に行ける的な?」

「ちょ、ちょちょちょ、ちょっと待ったクロエちゃん」

 

 突然だ。まさかこの流れでこんな事言い出すとは思わなかった。

 

「あのー……その、だね? 勘違いしてるかもしれないけど、騎空団は別に物見遊山の旅行団体じゃないからさ」

「もち、わかってるってっば。今日みたいに悪い人ゃっつけたり、魔物倒したりするんでしょ?」

「そう。つまり危ないわけ。わかってるなら」

「まぁー聞ぃてってば。流石にクロエもそこまでバカじゃなぃしっ! 旅行気分で行こぅなんて思わないって」

「だったら何で……」

「ぁんね、今日ぉにーさんの事みて思ったの。ぉにーさんってば、ぃろぃろレベチだわ( ゚Д゚)b マジで凄ぃって思った。ガチでヒーローじゃんって!」

 

 ヒーロー、そんな風に言われるのは柄じゃない気もする。

 

「クロエね、そー言ぅのに憧れてたんだ!(*≧ω≦) んで、ぉにーさんの活躍見て、クロエぉにーさんみたぃに成りたぃって思ったのっ!!」

 

 俺みたいに……は成らない方が良いと思うけどな。大変だから。

 

「……ヒーローねえ」

「そっ!(`・∀・´) ぉにーさんにつぃてって魔物とかと戦ぅじゃん? したらクロエも強くなるじゃん? したら魔物とか来てもママ達怯ぇずにすむじゃん? つまりクロエがヒーローになれば万事オーケー的なっ!!」

 

 成るほどクロエちゃんの言い分は理解できた。確かにただの物見遊山で来る心算ではないようだ。むしろ彼女のヒーローへの憧れ、村の皆を助けたいと言う思いは確かに本物だと感じた。喋り方の所為か軽く聞こえるが、彼女の言葉には確かに強い意志があった。

 しかし「それじゃあ来なよ」と簡単に言えるわけは無い。騎空団の旅は険しいのだ。彼女の様な一般人を簡単に入団させるわけには――。

 

(ルナールさんも一般人だよなぁ……)

 

 既に団員にただの絵師が居る事を思い出し頭を抱えた。いやしかし、最近セレストの加護のおかげか、絵を具現化する魔術的な戦闘も慣れて来ているし最早ただの絵師と言うには無理があるか。

 

(……考えたらカルテイラさんもただの商人だった)

 

 そう言えばまだ一般人が居た事を思い出した。まあ彼女もハリセンで魔物しばき倒すので、はたしてただの商人と言っていいかは微妙だが。何なんだうちの騎空団。

 いやいや、それよりも今はクロエちゃんだ。

 

「だめだめ、急な思いつきで連れてはいけないよ」

「ぇー(´・ε・̥ˋ๑) ケチーッ!」

 

 多分この場にB・ビィとか居たら「何時も思いつきで仲間増えてるじゃねえか」と指摘されるのだろう。だが今奴等は居ない、断るなら今の内だ。どっか島行く度無計画にほいほい仲間増やしちゃいけないのだ。

 

「君散々お母さんに怒られたでしょう? 騎空団の仕事は危ないの、危険なの。急に戦う術を知らない子を無責任に連れてけません」

「戦ぇなぃママ達のために戦ぅ方法勉強するんじゃん」

 

 くそう、立派な事言いやがる。

 

「……いや、君のように若い子を危ない旅には」

「そーゆーけど、ぉにーさんクロエと対して歳違ゎなぃっしょ? ぅち16」

「……18です」

「ほら」

 

 そして俺の幼馴染の破壊神は17である。さして違いが無い。

 

「……お母さんに相談しなさい。許可出たら連れてってあげる」

「そマッ!?」

「そマ……? うん、まあとにかく親御さんには話しなさい。そうじゃないと連れてはいけません」

「オッケ、言質もーらぃっ!!ヾ(≧∀≦*)ノ〃 後でゥソとか駄目だかんねっ!」

「はいはい」

「約束だからっ! ゥソだったら、ハリセンボン飲ますからねぇー!」

 

 クロエちゃんはそのまま家へと帰っていった。

 咄嗟に親に言えと提案したが、今日あんな事があったばかりだ。まず親は許可しないだろう。

 若さの行動力は凄いと思いながら、クロエちゃんに言われた様に自分もまだ十代である事を思い出し、少し落ち込みながら仲間の下に戻っていった。

 

 ■

 

 四 親「おけまる」

 

 ■

 

「ママからオッケーでたぁーっ!!ヾ(*´∀`*)ノ♪」

「――ッ!?」

「ジミー殿!?」

 

 翌朝、ラウンドウルフと盗賊達の護送準備をしていると、クロエちゃんがテンションマックスの笑顔で駆け寄ってきた。

 予想だにしない結果に思わずその場でずっこけてしまい、シャルロッテさんが驚いていた。

 

「え、許可でたって……マジで?」

「マジだってばっ! ほら、もぅ準備も万端だからっ☆」

 

 クロエちゃんは荷物の詰まった旅行鞄を見せる。明らかに数日の旅行で済まない大きさの鞄を見て、いよいよ本当だとわかり冷や汗を流す。

 

「あはははっ!! じゅ、準備は万端のようだなっ!」

「あーらら、相棒いい加減な約束したな」

「だ、だってまさか許可出るなんて……」

「考えが甘いんだよ。お前の場合仲間になる話が出た時点で決定事項みたいなもんじゃねーか」

 

 おっさんの言葉に言い返せない自分がいる。

 

「ほー、お主新しい仲間になるのか?」

「そそ! ガッちゃんも、ょろぴく~」

「クピポッ!? ガ、ガッちゃんってわらわの事かっ!?」

「そだょ、名前ガルーダだからガッちゃん!(*`▽´*) カワィィっしょ?」

「も、もうちょっと何とかならぬか?」

「ぇ? ぃぃじゃんガッちゃん。カワィィって」

「……そうかのう?」

「そぅだって!」

「そ、そうかのう!」

 

 満更でもない表情ののじゃ子。俺が言えた義理ではないがちょろい星晶獣だ。

 

「まあ元ネタもフワフワ飛んでるし良いんじゃねーか? 鉄も食えれば完璧だ」

「何の事言ってるんだB・ビィ?」

「気にすんな、別の特異点の事だ」

 

 コイツ隙あらば謎の特異点の影響を受けた発言するな。そもそも特異点とかよく知らないが。

 

「ナカマガフエルノハ (´ω`) イイコトダヨ」

「ゎーぃ、コロ助もサンキュッ!」

「コロ助……」

「一気にコロッケが好きそうになったな」

「ナリー (´・ω・`)」

 

 ジータ程では無いが、その独特なネーミングセンスと溌剌さに気押される。

 

「……親御さんよく許可出したね」

「それな。 ぃゃ~クロエもぉ、ぁの後正直これオーケー出るとか無理くさくねっ? って思ったけどぉ、クロエがママ達護れるぐらぃ強く成るって頑張って話したらぁ、最後ぃぃよって言ってくれたゎけ! (@・`ω´・)ノ」

「素晴らしい志ですクロエ殿。自分も騎士を志した時はまだ若く、皆を護りたいと言うクロエ殿のお気持ち大変よくわかるであります」

「ぁは! ぁんがと、シャルるん!(人´3`*)」

「シャ、シャルるんっ! ク、クロエ殿の言葉は本当に独特であります」

 

 幼い日に騎士を志したシャルロッテさんには、皆を護れるヒーローに成ろうとするクロエちゃんの気持ちはよくわかるようだ。

 この場で彼女が嘘を言えるわけは無い。今は姿が見えないが、後できっとこの子の親も来るはずだろう。つまり彼女の熱意が通じたと言う事だ。こうなってしまうと俺はもう何も言えない。

 

「改めて言うけど、大変だよ?」

「んもぉ~ゎかってるってばっ! クロエちょぉ~頑張るからっp(*゚v゚`*)q 」

「……超頑張るの?」

「超ちょぉ~~頑張るっ!」

「むう、超々頑張ると来たか……」

 

 考えてみると、ある意味で我が騎空団の中でも仲間になる理由が一番真っ当な部類な気がする。自分だけじゃなくて、誰かのために強くなろうとする。

 拳で語り合うだの、酔っ払いの押し付けだの、押しかけ錬金術師だの……。例を挙げれば挙げるほどクロエちゃんの良さが際立っている。比較対象が可笑しいのはわかっているが、実際の所クロエちゃんは言葉遣いが独特と言うだけで本当に良い子だ。だからこそ俺は不用意に危険が伴う騎空団に連れて行く事を渋ったわけであるが……。

 

「……わかった、来なさいクロエちゃん」

「ぉっ! っぃにぉにーさんもオッケーくれるっ?」

「ただし、旅の中でこれ以上は危ないと思ったら家に帰します」

「だぃじょぶっ! そぅならなぃ様にぃ~、クロエぉにーさん鍛ぇてもらぅも~んっ!(o´▽`o)v」

「俺が鍛えるんかい」

「そぃじゃママ呼んで来るねぇ~☆ ぁ、荷物ここ置ぃとくけど、見ちゃ駄目だかんねぇ~( `・∀・´)σ」

「見ない見ない、挨拶したいからお母さん呼んできなさい」

「はぁ~ぃ」

 

 家へと母親を呼びに戻るクロエちゃん。その背中を見ながら溜息が出る。

 

「16かぁ……俺16の時何してたっけ……」

「何中年男性みたいな呟きしてんだよ」

 

 クロエちゃんの若さを感じていると、不意におっさんに言われてドキリとする。

 

「そう聞こえた?」

「雰囲気が相まって余計にな」

「ええ、やだなぁ」

「で? アイツと対して歳も違わないお前が懐かしんだ16の時は何してたんだ?」

「……」

 

 二年前、俺が16でジータが15か。何をしてたかと言えばザンクティンゼルでジータの暴走を抑え、ビィとお互いを励ましあい、ジータの暴走を抑え、ビィとお互いを励ましあい、ジータの暴走を抑え、ビィとお互いを励ましあい――。

 

「ひええぇぇっ!!」

「16のお前に何があったんだよ……」

 

 別に封印したい記憶と言うわけじゃない、ただ大変だったんだよ。その哀れむような表情は止めてくれ。

 

「おっさんもジータに会えばわかるさ……」

「……なんか身震いしてきた」

 

 千年以上を生きる伝説の天才錬金術師に話を聞かせただけで身震いをさせる我が幼馴染。今は流石と思っておこう。

 

 ■

 

 五 幕の内

 

 ■

 

「だからさ、こことここをあーしてこうして、んでもって更にこの部分を繋げは更に船内の居住性が上がるし拡張作業が容易になると思うわけよ」

「それはいいね親方さん。それならここをこうして、あれして、もっとこーして更にあれすると……」

「おお! そうすりゃデッドスペースが無くなるなっ!」

「しかしこれだけ拡張すると重量が上がって今までと同じ航行能力を持たせるなら、推力がもっと必要になるよ」

「……なら動力強くしてプロペラ増やすか」

「それだね」

「それだね、ちゃうわっ!!」

 

 ガロンゾの大きな造船場内でハリセンの大きな音が響いた。

 

「あいたた……や、やあカルテイラさん。突然どうしたんだい?」

「どうしたもこうしたも無いわっ!」

 

 ハリセンを手にしたガロンゾ待機組臨時リーダーカルテイラ。彼女は厚紙製のハリセンを手に持ってノアと船大工の親方を睨み付けていた。

 

「ユグドラシルがぎょうさんええ木材作れるって知ってから、どーも変な熱の入り方しとる思っとったけど、なんやこの設計図は!?」

 

 バンッと机を叩きながらカルテイラはそこにある一枚の騎空艇設計図を指した。

 そこには基礎となるエンゼラの姿が元々書かれていた――が、何度も書き加えられ今そこあるのは多くのパーツが組み合わさり、なにやら物々しい姿となりつつあるエンゼラの未来図が描かれていた。

 

「どー考えても大袈裟や! なんやこのプロペラ大小含め十五基って!? ここの動力もなんで戦艦用動力とか書いてあるんや!?」

「い、いやあ……なんか盛り上がっちまって」

「盛れる要素は盛ってみようかって話になってから……ねえ?」

「ねえ? じゃないわ、アホか!? それとあれぇ!!」

 

 カルテイラは何時の間にか工場内に運ばれ、明らかにエンゼラに取り付けようとしている巨大で歪なパーツを指差した。

 

「あれはなんや!? 設計図にも書いてあるけども、何でエンゼラに角生えとんねん!?」

「まてカルテイラ、それは角じゃねえ!」

「それは『騎空艇装着型浮遊障害物粉砕超大型回転衝角』だよ」

「……なんて?」

「『騎空艇装着型浮遊障害物粉砕超大型回転衝角』だよ」

「かいてん、しょーかく……?」

「その通り! 本来坑道なんかの岩なんかを粉砕掘削する掘削機械に搭載される回転刃だが、それを騎空艇用に大型化し船の衝角に当たる部分に換装、小型から中型の岩石等の浮遊障害物を押しのけ粉砕し突き進む……つまりドリルだっ!」

「元は障害物の多いダイダロイトベルト航行用に作られたものだけど、まあ使い道それ以外無い上に船体のバランスも悪くなるし、そもそも装着できる騎空艇少ないからって結局殆ど使われず、その内の一つが親方の倉庫で埃被ってたらしくて」

「んで試しに持ってきた」

「ド阿呆ッ!!」

「あで!?」

「あいたっ!?」

 

 怒鳴りながらもう一発づつカルテイラはノアと親方にハリセンを振り下ろした。

 

「あれまあ、ほんとこれ凄い船になってるなあ」

「これもう武器積んだら殆ど戦艦じゃないのよ」

「それより性能はともかく、これほど詰め込むと色々と無理が出てくるような……」

「クリュプトンに似てるから、このドリルにはちょっと親近感わくけどね私」

「だとしても盛り過ぎね。まるっきり子供の発想じゃないの」

 

 カルテイラについて来た待機組、マリーとカルバが設計図を呆れた様子で見ていた。ユーリもその内容に呆れ、ルナールもまた呆れる。呆れまくりだった。

 唯一フィラソピラはドリルに興味を示していたが、いかんせんそれは巨大すぎるためあまり理解を得られない。

 

『まずどう考えても予算オーバーだぞ』

 

 ここで水槽の世話を終えついてきたリヴァイアサンも呆れながら話す。

 もしこの設計図どおりのエンゼラが改修され組み上げられた場合、明らかに団長達の出せる予算を大きくオーバーする事になる。この場に団長がいたら声にならない悲鳴を上げただろう。

 

「いや勿論最終的には予算内に収める。これは試行錯誤の結果で描いた図であって、あくまで“あったらいいな”の状態だ。実際にやるわけじゃねえ」

「それにエンゼラの役割を考えたらこれ意味無いしね。ドリルとか普通にいらないし」

「なら持ってくんなっ!!」

「そこは浪漫だ」

「うんうん」

「やかましいわ!!」

 

 ようは親方はドリルをつけてみたかったのだ。

 後々分かる事であるが、そもそもこの『騎空艇装着型浮遊障害物粉砕超大型回転衝角』の設計に関わった幾人かの一人がこの親方であり、そして彼は普段も隙あらば騎空艇にドリルを装着させようと考える人であった。

 

「けど真面目な話プロペラの追加はするよ。2、3基って所かな。元の予定から追加案はあったし、予想よりユグドラシルの頑張りで材料費抑えれるからね」

 

 ハリセンに叩かれた頭を摩りながら、ノアは工場の外に作られた臨時の作業場で材料となる木材を生み出し続けるユグドラシルを見た。

 

「にゃー! がんばれがんばれユグユグ~!」

「――――!」

「ファイトです! 自分とことん応援するです!」

「――!」

「ミンミン、ミミミンッ!!」

「――! ――!」

 

 両手を掲げてモリモリ木材となる木を生やすユグドラシル、そしてその周りではラムレッダとブリジールがピョコピョコ跳ねながら応援し、ユグドラシルの頭上ではミスラ(省エネ)がクルクル二人の真似をして応援している。まるで豊穣を願う儀式のようだ。

 団長が居たらきっとブリジールとミスラを見て、クラリとその愛らしさにやられていただろう。ラムレッダはただの千鳥足にしか見えないのが悲しいところであった。

 生み出されていく木々は作業員の手で伐採され、次々と加工場へと運ばれ直ぐに上質な木材となっていく。

 良く寝て美味しいご飯を食べれば絶好調だと言うユグドラシルは、自分の力の見せ所だと張り切っていた。

 

「正直な話ありゃ想像以上だ。あんなペースでしかも自由な形で上質な木を作れるんだからな。明日中には必要な木材がそろうだろうし、早きゃ加工も済んじまうだろうよ。そうなりゃ船体の組み立て自体も予定より大幅に短縮できるのは間違いねえ」

「そりゃ結構やね。けど余計なもんはつけんといてや、特にドリル」

「けどかっこいいだろドリル」

「エンゼラには要らんっちゅーとるんや! 倉庫戻しときっ!!」

「わーったよ。やれやれ、お前昔よりおっかなくなったなぁ」

「うっさいわ!」

 

 過去の話を出されると恥ずかしいカルテイラ。

 

「これ大丈夫なんだろうか……」

『既に予算内で収める契約はしている。ミスラが居る以上あの者達がどのような改修をしたとしても予算の心配は……まあ大丈夫であろうが……』

「果たしてエンゼラが原形とどめるのかしらね……」

「団長は居なくてある意味良かったのかもしれないねぇ」

『居たら恐らく大丈夫と分かっていても諸々の事で胃をやられていたかもしれん』

「まあここに居なきゃ居ないで今も何処かで胃を痛くしてるでしょうねえ……」

「団長殿……御労しい……」

 

 案外少年の心を持っていた親方の仕事ぶりに冷や汗を流し、この場に居ぬ団長を哀れむ。

 

「……これ今頼んだら船内にスリリングなトラップエリアとか作れるかな」

「絶対止めなさい」

「ランダム落とし穴とか」

「止めなさい」

 

 そして不穏な事を呟くカルバと真顔で止めるマリーであった。

 




何時も感想・誤字報告ありがとうございます。大変励みになっております。

今回でクロエが仲間となりました。とにかくギャル言葉が難しいキャラです。登場させてこんなに難しいと思いませんでした。ネットでギャル言葉辞典を見て勉強してますが、付け焼き刃感強いです。カルテイラの関西弁しかり、もし「使い方が違う」と言う箇所があれば、ご指摘いただけると幸いです。

クロエの村の住民の訛りに関しては、本編では東北方面の訛りかと考えていましたが、語尾に「~にゃ」が付くなど三河系もあるのかと思い調べると他の地域にもそう言った訛りが存在するようで、しかしどうも具体的にどこの方言を使ってるのかわからず最終的に漫画的ステレオタイプの方言をごちゃ混ぜにしました。もし不快に感じた方がいたら申し訳ありません。

『000(どして空蒼3)』が本編そっちのけで本編過ぎる件。グランブルーファンタジー完ッ!!とかテロップ出ても不思議ではない勢い。
敵も味方も皆好き。
最後拗ねるカリオストロ好き。

天司関係も決着って事で、かなりネタ出て来たし、(二次創作が)捗るゾ~これ。
ただイベントが完成され過ぎてて手を出し辛くはある。

ねこ、自分で名前つけたかった。けどロッキーにしたよ!

『おサムライソード』きゃわゎ……っ!!

今年もメデューサは手には入りませんでしたが、バレンタイン・メリッサベルの上限解放後イラストのおこたみが好きすぎる――こっちも手に入ってはいませんが。
万が一星晶戦隊(以下略)におこたみが勢揃いした場合、団長は(ハーヴィン飽和状態のため可愛さで)死ぬ。

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