魔法のお城で幸せを   作:劇団員A

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ハリー視点と三人称


『Fight For Friendship』1

娯楽に乏しいホグワーツにおいて劇団『エリュシオン』は話題の中心となることが多い。そして、その劇団の新作の劇がもうすぐ発表となっていた。僕たちは特設された会場にて一番見やすい位置に座っていた。

 

「セドリック、わざわざこんないい席をありがとう」

「アイクに頼まれてたからね。『ハーマイオニーたちを必ずよく見える席に座らせて』って」

「なるほど」

 

ロン、僕、セドリック、ハーマイオニーの順番で座っており、先程から喋っているのは僕とセドリックだけである。僕らの会話が終わる周りの騒がしさが嘘のように沈黙が周りに落ちる。セドリックが気まずそうに小声で僕に話しかけてきた。

 

「ねぇ、ハリー。どうしてハーマイオニーとロンは一言も喋んないの」

「……ちょっと喧嘩してて。最近ずっとお互いに怒鳴りあうか無視するかのどっちかだよ」

「……大変だね」

 

こうやって話す間もロンはどこか別の方を向いているし、ハーマイオニーはずっと本を読んでいる。セドリックは同情するような視線を向けてきた。それからだんまりし続けるロンとハーマイオニーはそのまま、僕とセドリックは劇が始まるまで、最近の授業についてやクィディッチについて話していた。

 

「あ、そうだ。ハーマイオニー」

「何かしら、セドリック」

「アイクから伝言があったんだ。よくわかんないけど『今日もし会いたくなったらギルデロイ先生の部屋で』だって」

「どういうことかしら、私別に今日会いに行く約束なんてしてないわよ」

 

しばらくそうしていると会場の照明が徐々に暗くなってきた。

 

「始まるみたいだね」

 

セドリックがつぶやき、僕たちは舞台の方へと視線を向けた。舞台に掛かっている幕に文字が浮かび上がった。

 

《Fight For Friendship》

 

今回の劇の名前である。舞台に集中していると、幕の前に白い渦が現れた。そして、その渦の中から1人の男性が姿を現した。ギルデロイ・ロックハートである。彼は白いローブと白い帽子を身につけていた。隣のロンは嫌そうな顔、ハーマイオニーは嬉しそうな顔をした。

 

『えー、本日会場にお越しくださった皆様。誠にありがとうございます』

 

ロックハートがそういうと万雷の拍手と女子生徒からの黄色い声が会場に響く。

 

「ロックハートが司会やるの?」

「アイクは今回メインキャストだからね。脚本も書いたのはギルデロイ先生だから」

 

セドリックに聞くとそう答えが返ってくる。隣にいるというのに大声を出さないといけないほど周りは盛り上がっていた。

 

『此度皆様にお見せ致しますのは友情と裏切り、正義と悪、嘘と真実の物語。激しく、儚く、美しく、切なく、力強い。そんな物語をお楽しみください……』

 

そう言い切るとローブをばさりと広げ、再度白い渦が上がり、終わると同時に幕が上がっていった。

 

 

* * * * *

 

《1人の少年が汽車に揺られていた。少年の名前は『ジャスパー』。今年入学する一年生である》

 

眼鏡をかけた黒髪の少年がコンパートメントにひとり座っていた。汽車の内部を模した舞台には車窓があり、実際に移動しているかのように風景が過ぎ去っていた。

 

ジャスパーが1人楽しそうに窓の外を眺めているとこんこんとドアが叩かれた。ジャスパーがそちらを向くと1人の少女が荷物と共に立っている。勝気そうな目をした同年代にしては高い背の少女は見た目通りの快活そうな声で話しかける。

 

『ここ、空いてるかしら?』

『そう見えないなら君は僕のように眼鏡をかけるべきだね』

 

くいっと眼鏡を上げるジャスパーの軽口にクスクスと笑いながら少女はコンパートメントに入る。それからジャスパーの目の前に座り、すっと手を伸ばす。

 

『初めまして。私はポーラ。新入生よ』

『初めまして。僕はジャスパー。よろしくね』

 

彼らはぐっと握手をした。

 

『さっきから熱心に外を見てたようだけど何か面白いものがあったのかしら?』

『あったよ。少なくとも代わり映えのないコンパートメントの椅子よりは』

『あら知らないの? この椅子の模様は1分に1回変わるのよ』

『へぇ。知らなかったよ。ちなみに君には今何色に見えてるの?』

『そうね、カメレオンのような緑色かしら』

『うん。やっぱり君は眼鏡をかけるべきだね』

 

2人がそんな軽口の応酬をしていると、再度コンパートメントのドアが叩かれる。そちらを見ると、ドアの外には背の高い少年とその背後に隠れるようにして小柄な女子生徒がいた。少年は困ったような笑顔を浮かべて話しかけてきた。

 

『話してる途中にごめんね。どこのコンパートメントも満席で、ここに良かったら入れさせてもらえないかい?』

『ご、ごめんね、ルティ。私が迷子になっちゃったばっかりに……』

『大丈夫だよ、シャルロット。えっとダメかな?』

『もちろん、どうぞ』

『入りなよ』

『ありがとう』

『あ、ありがとうございます』

 

そう言いながら2人がコンパートメントに入ってきた。少女はポーラの隣に座り、少年はジャスパーの隣に座った。

 

『2人ともありがとう。僕はルティ』

『わ、私は、シャルロットです……』

 

ルティは優しそうな笑みと共に、シャルロットは緊張からか声を震わせながらそう言った。差し出された手をそれぞれジャスパーたちは掴み、挨拶する。

 

『僕はジャスパー。それでこっちは』

『ポーラ。よろしくね』

 

4人はお互いに自己紹介をして、これからの学校生活がとんなものになるかを語り合っていた。

 

 

 

 

* * * * *

 

 

 

それから四人は入学して、仲良くなった。

 

共に授業を受けて、共に運動して、そして共に遊んでいた。

 

嫌がらせをしてくる生徒に仕返ししたり、学年別決闘大会で優勝したり、いまいち成績が良くないシャルロットのためにみんなで勉強したりと、とても仲良く過ごしていた。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

一度全ての景色が崩れ落ちて、別の風景が再構成される。今度は学校の廊下である。そんな中で怒号が響いた。

 

『おい、また貴様らか!!』

『逃げるぞみんな!』

『了解!』

『また随分と派手になったね』

『ま、待ってよ!』

『遅いわよ、シャルロット!!』

 

騒ぎながらも彼らの足は止まらず、廊下を駆け抜けていく。その後ろでは大量の色とりどりのカエルがバケツから溢れ出ていた。怒髪天の老人の怒号は走る彼らの背に届きながらも、留めることができずに彼らは去って行った。

 

彼らは入学してから二年が経ち、『悪戯仕掛け人』として有名になって、知らぬ者はいないほどである。

 

背景の廊下がジャスパーたちの動きに合わせて、実際に学校の中を動いているかのように変化していき、ようやく離れたところで足を止めた。

 

『いやー、我ながら面白い悪戯だったんじゃないかな』

『ああ。あのカエルってあとで爆発して体と同じ色を辺りに撒き散らすんでしょ』

『ルティが細かい設定やったんですよね』

『うん、意外と楽しかったよ』

 

それからケタケタと笑うジャスパーとポーラ、それに対して純粋に魔法の技術に尊敬しているシャルロットと照れるように笑うルティ。四人は楽しそうに話をしていた。

 

それからしばらくして、シャルロットが思い出したように声をあげた。

 

『あ!! そういえば』

『ん? どうしたの? シャルロット』

『何かしら? 面白いことでも思いついたの?』

『えっと、この前ジャスパーとポーラが作ろうと思ってた魔法薬の材料になる薬草の群生地を見つけたんです』

『本当かいシャルロット!?』

『へぇ! どこで見つけたの』

『え、えっと湖の近くで……』

 

小さな体で身振り手振りでシャルロットは説明した。その話を興味深そうに三人は聞いていた。

 

『お手柄ね、シャルロット!! 早速採りにいきましょ!』

『そうだね、今夜行こうか。ルティもいいだろう?』

『あ、えっと……ごめん。今日夕方から……』

『お母さんが病気なんだっけ?』

『うん、ごめんね。今日は三人でお願い』

『しょうがないわね。お大事にね』

 

 

* * * * *

 

 

 

月明かりが照らす夜更けにルティを除く三人はこそこそと学校を抜け出していた。

 

『それでシャルロット、どっちのほうだい?』

『う、うん。えっとこっちです』

『暗いと周りが良く見えないわね』

『でも杖灯りを使うと目立っちゃうからね』

『目が慣れれば多分大丈夫……だと思いますよ』

 

暗がりの中、三人は息を潜めながら進んでいく。日中の力強い日差しとは異なり、優しい柔らかな月の光が辺りを照らしていた。水面に映る月が波に揺られる。

 

『んと、ここら辺だったと思います』

『ええと、あ、あったわ。こんなにあるのね』

『必要な分だけ取ろう。メモを持ってきたんだ』

 

ごそごそとジャスパーがポケットを探る。その間、シャルロットとポーラは話していた。

 

『毎月お見舞いに行ってるよね、ルティ。親思いだわ』

『そうですね。ルティは優しいですから。私は両親が健康で良かったと思いますよ』

『そうね』

『あ、ちょっ』

 

二人が会話してる間にジャスパーがメモを取り出したが、風に煽られてメモが宙を舞って湖に浮かぶ。

 

『ちょっと何やってんのよ、ジャスパー』

『は、早くしないと濡れちゃいますよ!?』

『あ、うん』

 

ジャスパーが懐から杖を取り出してメモに向かって振るとメモが宙を舞った。濡れた紙がふわふわとジャスパーの元へ向かって空を飛ぶ。飛んできたメモを取りつつ、なぜかジャスパーは固まってしまっている。

 

『びしょ濡れですね』

『あー。でも辛うじて読めるわよ。……ジャスパー? どうしたの、固まって』

『……わかった』

『え?』

『わかったよ!! そういうことだったんだ!!』

『どうしたのよ、急に』

『ええっと、何がわかったんですか?』

 

 

『ルティが来ない理由だよ!!』

 

 

水面に浮かぶ満月が儚く揺れた。

 

 

 

* * * * *

 

 

 

それから月日は流れて彼らは四年生となった。賑やかな大広間で大勢の生徒たちが食事をしていた。

 

『明日はクィディッチの試合だわ。準備は万端かしら、ジャスパー』

『もちろんだとも!! 明日の試合でも素晴らしいプレイをしてみせるとも!!』

『気合十分だね』

『が、頑張ってください』

 

それぞれが好みのものを皿に乗せて、パクパクと食べながら話す。やる気に満ちたジャスパーを三人が鼓舞していた。ポーラがそのあとチラリとシャルロットの方を見る。

 

『シャルロットも頑張んなきゃね』

『う……はい』

『ん? 何を頑張るんだい?』

 

その言葉に三人がぎくりと体を固める。

 

『え、あぁ、えっと変身術の課題よ』

『う、うん。この前授業の課題が上手くできなくて』

『あぁ、そういえばそうだったね。僕も教えようか?』

『大丈夫だよ、ポーラだけで』

『そ、そうです。ルティまで手伝わなくても大丈夫ですよ』

『それに女の子同士の会話っていうのもあるのよ』

 

悪戯っぽくポーラは笑みを浮かべて、誤魔化すように遮る。そんな三人の様子にルティが首を捻っていると別のテーブルから一人の女子生徒が近づいてきた。

 

『相変わらず賑やかなことですね。貴方方の寮は』

『げっ!?』

『ひっ!?』

『何しに来たのよ、あんた』

 

ジャスパーが呻き、シャルロットが短く悲鳴をあげた。ルティも困ったような表情をしており、ポーラが敵意に満ちた顔で苦々しく声をかけた。四人は総じて別々ながら嫌そうな表情を浮かべていた。

 

『あらあら、お姉様。いらしたのですか?』

『相変わらずムカつくわね。アテラドール』

 

険悪なムードの中でポーラと他の寮の少女、アテラドールは睨み合っていた。ポーラとアテラドールは不仲な双子の姉妹である。

 

『いえいえ、一族の使命に逆らったら愚姉が目に入りませんでしたので』

『頭でっかちのカビ生えた連中のために人生を棒に振るつもりがないのよ、あんたと違って』

 

フンとお互いに顔を逸らす。それから顔の向きを変えてジャスパーの方を向いて手を取った。

 

『え、えっとアテラドール?』

『次のクィディッチの試合は私たちの寮とですわね。是非とも正々堂々と勝負いたしましょう』

 

綺麗な笑みを浮かべてアテラドールは去って行った。そんな様子をルティとジャスパーは苦笑気味に、シャルロットは怯えたように眺めていた。

 

『あー、朝から嫌なもの見たわ。行きましょう、シャルロット』

『え、あ、はい。ポ、ポーラ、ちょっと待ってくださいよ』

 

綺麗な顔を歪めてポーラは足早に去って行き、シャルロットは慌てて追いかけていった。

 

『相変わらず仲悪いんだね、あの双子』

『んー、詳しいことはわかんないけど家の事情らしいからね。ポーラの家は闇の魔術に傾倒してるらしくて、ポーラはそれが嫌で逃げ出してるらしいから』

『アテラドールっていい噂話を聞かないよね。闇の魔術に関心のある人々を集めて集会を開いてるとか人体実験を定期的に行ってるとかね』

『え、そんな噂あるんだ』

『うん。といってもどれも噂で確証はないんだけどね。ところでジャスパー』

『ん?』

『時間大丈夫? もうクィディッチの選手の人たちはみんな練習に行ったみたいだけど?』

『え? うわ! ありがとう、ルティ。また後で』

 

慌てて駆けていくジャスパーを苦笑しながらルティが眺めていた。

 

 

 

 

 

 




お久しぶりです。
リアルが多忙なのと内容が難しくてここまで空いてしまいました。
リクエストや質問にはこの章が終わってから書きたいと思います。
あとタグに今更ながら群像劇を追加しました。

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