異世界オルガ   作:T oga

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序盤、オルガもミカもいないただのイセスマになってしまった件について



異世界オルガ12 Episode of Smartphone

リンゼの告白の後、よくわからないまま僕らはシェスカを連れて、屋敷へと帰ってきた。

 

頭がパニックになっていた僕は、執事のライムさんにシェスカのことを頼んでそそくさと部屋に戻り、頭を抱えてベッドへ倒れこんでしまった。

 

 

《私は、冬夜さんが好き……です》

 

リンゼは確かに可愛い。お(しと)やかだし、物静かで他人を思いやれる子だ。

ちょっと人見知りがあるけど、努力家だし、彼女にするなら文句なしの女の子だろう。

 

だけど、一応、僕はユミナの婚約者という立場だ。

ユミナはユミナで可愛いし、まだ十二歳だというのに歳に似合わず落ち着いていて、頼りがいがある。そのユミナがたまに見せる年相応の仕草や態度に最近ドキッとすることもある。

 

どうしたらいいんだろ……。

 

枕に顔を埋め、ため息をついていると、コンコン、と部屋のドアをノックする音が聞こえてきた。

 

「冬夜さん、ユミナですけど……」

「え!?」

 

ドアを開くと普段着に着替えたユミナが立っていた。なんとなく気まずい。

 

「中に入ってもいいですか」

「ど、どうぞ」

「…………」

 

ユミナは無言のまま部屋に入ると中央に置かれたソファに腰掛けた。

何気なく僕もユミナの正面に腰掛けるが、なぜか視線を泳がせてしまうのは、後ろめたい気持ちが僕にあるからだろうか。

 

「冬夜さん」

「は、はい!」

「私、怒ってますよ?」

 

それはそうだろう。仮にも婚約者という立場のユミナからしたら、僕が他の女の子に告白されて面白いわけがない。

しかし、ユミナが続けて発した言葉は僕の予想の斜め上をいっていた。

 

「私だってまだキスしてもらってないのに、先に二人にも奪われるなんて!」

「えっ!?そっち!?」

「当然です!」

「その……リンゼの告白のことを怒ってるんじゃなくて?」

「リンゼさんが冬夜さんを好きなのなんて見てればわかるじゃないですか!」

 

すいません、見ててもわかりませんでした……。

 

「この際だから言っておきますけど、私は冬夜さんがお妾さんを十人作ろうが二十人作ろうが、文句はありません!それも男の甲斐性だと思ってます」

 

この世界では一夫多妻制も珍しくないらしいが、その考え方はどうなんだろうか?

 

「ですが! でーすーが! 正妻である私がまだしてないのに、キスされるなんて油断しすぎです! 隙だらけです! そこは防御してくださいよー! 完全防御!!」

「いや、でもさ……」

「言い訳禁止!」

「はい……」

「……抱きしめてキスしてくれたら許してあげます!」

 

ちょ! それは難易度高くないですか、ユミナさん!

 

しかしこの場からの撤退は許されない雰囲気だ。……仕方ない。

 

おずおずと肩に手を伸ばして、小さな身体を引き寄せ、僕の顎の下に彼女の頭がくるような形で、しっかりと抱きしめた。柔らかい身体と漂う髪の香りに僕の心臓の高鳴りは止まらない。

 

ユミナは僕の腕の中から少し身を起こすと、顔を上に向け、静かに目を閉じた。

 

僕も覚悟を決めて、ユミナの小さな唇にキスをする。軽く触れ合うだけの、ささやかなキスだ。

唇を離すと、目を開けた彼女がにこやかに微笑み、もう一度強く抱きついてきた。

 

「えへへ。してもらいました! 冬夜さんからしたのは私が初めてですよね!?」

「え? あー……そうか、そうなるのか……」

 

確かにされたのは二回だけど、自分からしたのは初めてか……。

 

僕がそんなことを考えていると、ユミナは嬉しそうな表情を真剣な表情に変えてこう聞いてきた。

 

「それで冬夜さんはリンゼさんのことどう思ってるんですか?」

「どうって……。可愛いと思うし、告白されて正直嬉しかったよ。でも、ユミナのこともまだ決められないのに、リンゼまでとなると……」

「好きか嫌いかで言ったら?」

「それはもちろん好きだよ。大切に思ってる」

 

僕がそう言った途端、腕の中のユミナがニンマリと笑い、部屋の隅に向けて声をかける。

 

「だ、そうですよ、リンゼさん」

「え!?」

 

ユミナが声をかけた場所からぼんやりと顔を真っ赤にしてうつむいているリンゼの姿が浮かび上がった。

 

どうやらリンゼはリーンに頼んで透明化の魔法【インビジブル】をかけてもらい、今までの一部始終を全て聞いていたらしい。

 

「冬夜さんが悪いんですよ? なにも返事してあげないで部屋に閉じこもってしまうんですもの。嫌われた、ってリンゼさん、ずっと泣き続けてたんですから」

「それは……ごめん」

「あ、あの、あのときはすみませんでした。シェスカさんのキスを見たら、負けられないって、思ってしまって……気がついたら、あんなこと……冬夜さんの気持ちも考えずに、ごめん、なさい……」

 

そう言ってスカートを握りしめながら、ぽろぽろと涙を流すリンゼに僕は近寄り、そっと手を取った。

 

「いや、その……さっきも言ったけど、僕はリンゼを嫌ってなんかいない。可愛いと思うし、好きなんだと思う。どうしたらいいのかわからないけど、大事にしたいって思ってるよ」

「冬夜さん……」

 

リンゼが少し笑ってくれた。うん、やっぱりこの子は笑っているときの方が断然似合う。それを泣かせてしまった僕は、エルゼに殴られても文句は言えないな。

 

「お互いの気持ちがわかったところで、どうでしょう。リンゼさんもお嫁さんに貰うというのは?」

「え!?」

 

ユミナがさらりととんでもないことを言い出した。

お嫁さんって……リンゼをですか?

 

リンゼの方を見るとまた真っ赤な顔をしてもじもじとうつむいている。

 

「王族や貴族、大商人とかなら第二、第三夫人とか普通ですし。リンゼさんは問題ありませんよね?」

「わっ、私も、冬夜さんのお嫁さんに、なりたい、です」

「急にそんなこと言われても……」

「……ダメ、ですか?」

 

リンゼが今にも泣き出しそうな顔になる。泣かせちゃいけないと思った僕は慌ててリンゼにこう聞いた。

 

「でも第二夫人とか、リンゼはいいの?それで?」

「……私はユミナと仲良くやっていけると、思ってます。同じ人を好きになって、一緒に幸せになれるなら、こんなに嬉しいことはありません」

「……わかった。ユミナとリンゼがそれでいいって言うのなら」

 

僕はそう言って話を一度終わらせ、二人をそれぞれの部屋へと帰したが、正直言うとまだ迷いがある。

 

……本当にこれでいいんだろうか?

 

 

僕は気分転換するため、ベランダへとやって来た。

 

すると、庭で『ガンダム・バルバトス』の整備をしているミカさんを見つけた。

 

そうだ。ミカさんに相談してみよう。

ミカさんは前の世界でクーデリアさんとアトラさんという二人の女の人に好意を向けられ、それに答えたという話を聞いたことがある。

ミカさんなら、いい答えを出してくれるんじゃないか?

 

「あの、ミカさん」

「ん?あ、冬夜か。何?」

「ちょっと、相談したいことがあるんですけど……」

「…………リビングで待ってて」

 

ミカさんに言われた通り、誰もいない夜のリビングで数分待っていると、『ガンダム・バルバトス』の整備を終えたミカさんが帰ってきた。

「おやっさんがいないと、自分でバルバトスの整備をしなきゃいけないからな……。オルガがおやっさんも召喚してくれればいいのに……」

「はい?」

「いや、こっちの話。それで、相談って何?」

「えっとですね……」

 

僕はミカさんに、ユミナとリンゼのことを話した。

先程、僕の部屋でユミナから言われたこと、リンゼとも話したこと、僕がユミナとリンゼのことをどう思っているのか。そして僕は……これからどうすればいいのか。

 

 

僕が話し終えたあと、ずっと黙って僕の話を聞いていたミカさんがゆっくりと口を開いた。

 

「これは……あんたが決めることだよ。……これはあんたの……これからの全部を決めるような決断だ。……だからこれはあんたが、自分で決めなきゃいけないんだ」

 

そのミカさんの言葉が僕の胸に深く刺さった。

 

……そうだよな。結局、決めるのは僕なんだ。

 

後悔のない決断をしようと心に誓い、僕は寝床についた。

 

 

そして、朝。僕はドアを叩き破るような音で目を覚ました。

 

寝ぼけた目で周りを見渡すと、ベットの横に腕を組みながら僕を見下ろしているエルゼがいた。

 

「ちょっと話があるんだけど」

「えっ?」

 

 

エルゼに連れて来られたのは屋敷の庭だった。

庭では、八重とオルガが僕とエルゼを待っていた。

 

エルゼは八重とオルガのいる場所に並んで立ち、僕と向かい合う。そして、こう話し始めた。

 

「……リンゼをお嫁さんにするんだってね?」

「あー、ハイ。そういうことになりました」

「あんた、リンゼのことどう思ってるの?本当に好きなの?」

「その……愛してるとまではいかなくとも大切にしたいと思ってるのは本当だよ」

「それをあの子は受け入れたの?」

「ああ」

 

僕がそう言うと、エルゼと八重は小さな声で何かを呟く。

その後、エルゼはガントレットを装着し、八重は刀を抜き、オルガは銃をポケットから取り出した。

 

……えっ!?どういうこと?

 

「冬夜。あんたにはこれから私たちと戦ってもらうわ!」

「は?」

 

意味がわからない。なんで僕がエルゼたちと戦わなきゃいけないんだ?

 

「あんたが勝ったらもう何も口を出さない。でも私たちが勝ったら言うことを一つ聞いてもらうわ」

 

エルゼがそう言う。僕がリンゼに相応しい男かどうかを姉であるエルゼが確かめるってこと?

 

でもなんで八重とオルガも?やっぱり意味がわからない。

 

「この刀の刃は落としてあるでござるが、骨ぐらいは折れるから気をつけてくだされよ」

「あんたの『ブリュンヒルド』も【モデリング】で刃を無くしておいてよね。あと攻撃魔法も禁止」

 

向こうはとっくに臨戦態勢だ。こうなったら仕方ない。始まったと同時に【スリップ】で転ばせて早く終わらせてしまおう。

 

「じゃあ覚悟はいいわね」

「ああ」

 

僕が小さく(うなづ)いた瞬間、エルゼが右から、八重が左から僕を攻め、オルガが真っ直ぐ銃口を向ける。

 

「【マルチプル】、【スリップ】!」

 

僕は【マルチプル】と【スリップ】を使い、まとめて三人を転ばせた。

 

「【アポーツ】」

 

そして、【アポーツ】でエルゼのガントレット、八重の刀、オルガの銃を奪い取る。

 

「これで僕の勝ちだ」

 

そう言って、エルゼに『ブリュンヒルド』の銃口を向ける。

すると、エルゼはこう口を開いた。

 

「甘いわね」

「やっちまえ!【ミカァ!】」

 

エルゼの言葉を合図にオルガが『ガンダム・バルバトスルプス』を召喚した。

 

「うげっ!?」

 

ミカさんのバルバトスは反則でしょ!

僕は召喚術士との戦いの定石通り、魔物を無視して、術士を狙い撃つ。

 

「う"う"っ!」

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まんねぇからよ、お前らが止まんねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

オルガはこれで終わり。

しかし、ミカさんの動きは止まらなかった。

 

……そうだった。ミカさんは【トランスファー】で僕の魔力をオルガに分けることで現界させている。

つまり、オルガの魔力と僕の魔力の両方を用いて現界させているのだ。

オルガの魔力供給を断っても、僕の魔力をミカさんが吸って無理矢理現界することは可能だ。

 

僕はミカさんへの魔力供給を断とうと試みるが、やはり僕には魔力の細かい調整は出来そうにない。

魔力調整は諦めてバルバトスに発砲したが難なく避けられ、ツインメイスの餌食となった。

 

ツインメイスの乱撃から逃れられずに僕は息絶えた。

朦朧(もうろう)とする意識の中、ミカさんの声が聞こえる。

 

「殺さないようにって、難しいな」

 

 

 

「というわけで、お前さんは死んでしまった。……まさか、また君たちを迎えることになるとはのう」

 

気がつくと、僕とオルガは神界へ来ていた。

 

……なんでオルガも?よみがえりの呪文で生き返ったんじゃないのか?

 

そんな疑問を余所に、オルガと神様の交渉(?)が進められ、僕とオルガはユミナたちのいる世界によみがえることになった。

 

 

 

「私たちも、ユミナやリンゼと同じ立場に置きなさい!」

「は?」

 

意識が回復して、負けた約束に何を言われるのかと構えていたら、そんなことを言われた。

 

ちなみにオルガはもういなくなっていた。どうやら屋敷に戻ったようだ。

 

「だからでござるな、その、拙者たちも……やっぱり、こういうのはエルゼ殿から!」

「うえっ!?いや、私は……!……と、とにかく、私も冬夜が好きだってこと!」

「拙者も同じで、ござるよ!」

 

顔を真っ赤にして二人とも俯いてしまった。……なんだこれ?

いきなり決闘されたと思ったら、今度は告白された。しかも二人同時に。

 

「ユミナやリンゼと同じ立場にって……それってつまり……」

「拙者たちも、その、冬夜殿のお嫁さんにしてほしい……でござる……」

「っていうか、しなさい! あんた負けたんだから!」

 

それを伝えるためにこの決闘を?オルガはそれを知っていて手伝ったってだけ?

 

「こうでもしないとダメだと思いましたので」

 

その時、屋敷の方からユミナとリンゼがこちらへ向かってきた。

 

どうやらこの決闘はユミナが二人に入れ知恵したことだったらしい。

 

《これは……あんたが決めることだよ》

 

僕はミカさんに言われたアドバイスを思い出す。そしてみんなに向けてこう言った。

 

「ごめんみんな!ちょっとだけ時間をくれないか?ちゃんと考えを整理したいんだ」

 

 

僕は逃げ出すように【ゲート】を開き、『バビロンの空中庭園』へとやって来た。

 

噴水に腰掛けて、昼食のサンドイッチを食べながら、みんなのことをどうするか考える。

 

何分経ったのだろうか?気が付くと、そこにオルガとシェスカがやって来ていた。

 

「こちらにいまシたか」

「ほらな。俺の予想通りだったじゃねぇか」

「オルガにシェスカ?どうしたのさ?」

「こいつがお前のことを探してたぞ」

「え?」

 

どうやらシェスカが僕を探して屋敷を歩き回っていたところをオルガが拾ってここまで連れてきたらしい。

 

「昨日いい忘れていたコトがありまシた」

「いい忘れていたこと?」

「マスターにメッセージがありまス」

「誰からなんだよ。そのメッセージっつーのは」

 

オルガがシェスカにそう聞くと、シェスカはその名を口にした。

 

「レジーナ・バビロン博士でス」

「博士?」

 

 

シェスカの腕から伸びたケーブルをスマホに繋ぐと、一人の女性が写った。

 

その人は白衣を着た二十代くらいの女性で、眼鏡を掛けて、煙草のようなものを咥えていた。髪は長くボサボサで、せっかくのブロンドも台無しといった感じがする。白衣の中の上着とスカートもだらしなく着込んでいて、その無頓着さに拍車をかけている。彼女がこの『バビロンの空中庭園』や『フランシェスカ』を造ったレジーナ・バビロン博士らしい。

 

《やあやあ、初めまして。ボクはレジーナ・バビロン。まずは『空中庭園』及び、『フランシェスカ』を引き取ってくれた礼を述べよう。ありがとう、望月冬夜君》

「……え?」

 

スマホに写る映像の中で博士はそうしゃべり始めた。

 

どういうこと?なんで古代文明時代の博士が、僕の名前を知っているんだ!?

よくよく考えてみると、なぜこのコネクタは僕のスマホと同じタイプなんだ?まるで最初から知っていたかのような……。

 

《わかるよ。君の疑問はもっともだ。それを知りたくなるのも当然だよね。まず、なぜボクが君のことを知っているのか?それはボクが未来を覗くことができる道具を持っているからだ》

 

未来を覗く道具?アーティファクトか?そんなものまで造ってしまうほどの天才なのか……この博士は……。

 

《時空魔法と光魔法を組み合わせて、そこに無属性魔法の……まあ、細かいことは省くが、とにかくそれを使って君のことを見つけた。興味本位で君と君の仲間の冒険を楽しく眺めていたのさ》

「えっ!?全部見てたってことですか?」

「まぁ、これっぽっちも面白くなかったがな」

《一時見えない時があった。未来が不確定になってしまってね》

「不確定に?」

《ああ、突如……まさに突如現れた『フレイズ』が原因さ。君と君の仲間達は『モビルアーマー』と呼んでいたかな。予想できない出現だった。ボクも色々手は尽くしたんだけどね……。結局、パルテノ文明は崩壊してしまったよ》

 

モビルアーマーがオルガたちの世界からこの異世界へやってきたことで、古代文明は崩壊してしまったってことなのか?でもなんでモビルアーマーがこの異世界にやって来たんだ?どうやって?

 

そんな僕の疑問を余所に博士は話を続けた。

 

《ボクの遺産『バビロン』はその『フレイズ』に対抗するために造ったものだった。しかし、ある時を境に『フレイズ』達が世界から消えてしまったんだ。理由は分からないがね。まぁ、そのおかげでまた未来を見ることが出来たわけだ。『フレイズ』がいなくなった今、この『バビロン』は必要なくなったのだが、壊すのももったいないのでね。未来を覗かせてもらったお礼ということで君に託すことにしたんだよ》

 

色々と疑問の残る話ではあったが、博士はこういって話を切り上げる。

 

《では話はこれで終わりだ。またいつか会おう。望月冬夜君》

「は?」

 

「またいつか会おう」という言葉に疑問を覚えた僕であったが、それの説明もないままメッセージは終了した。

 

 

博士の言っていたことも気になるが、今の僕にはそんなことを考えている余裕はない。

ユミナやエルゼたちのことの方を考えるのに手一杯だ。

 

「う~ん。ミカさんには自分で考えろって言われたけど、やっぱり誰かに相談してみようかな」

「じゃあ、あの爺さんに相談してみりゃいいんじゃねぇか?」

 

僕の隣で博士のメッセージを聞いていたオルガが、僕にそう言う。

 

そっか!神様ならいい答えを出してくれるかも知れない。

 

僕は【ゲート】を開いて、オルガと一緒に神界へ向かった。オルガも改めて神様に聞いてみたいことがあるらしい。

 

 

神界へ来た僕はオルガの話が終わった後、神様にユミナたちのことを相談する。自分自身どうすればいいのか、そもそも自分はこれから彼女たちととどう接していけばいいのか。そこらへんを交えて詳しく。

 

「そう深く考えんでもいいんじゃないかのう。好きと言ってくれてるんじゃから、素直に喜べばいいと思うが。それにこれは君が自分で答えを出さなきゃいかんのじゃないか」

「同じようなことを別の人にも言われましたけど、やっぱり色々考えてしまって……」

「ふむ、そういった話なら専門家に聞いてみるか」

「えっ?」

 

神様は(かたわ)らに置いてあった黒電話に手を伸ばし、ダイヤルを回してどこかにかけ始めた。

 

しばらくすると雲海の中から一人の女性が浮かび上がる。年は二十代前半くらい、ふわふわの桃色の髪に、これまたふわふわの薄衣を白い衣装の上に(まと)って、宙を漂いながらこちらへやって来る。

 

神様曰く、彼女は恋愛神らしい。

 

「恋愛神って恋愛の神様ってことですよね?」

「そうなのよー!でも、人の気持ちを操ったりはしてないのよ?ちょっと雰囲気を盛り上げたり、お約束をしたりするくらいなのよ」

「お約束?」

「そうなのよ。「俺、この戦いが終わったら結婚するんだ!」とか言う奴は結婚できなくするのよ」

 

そう恋愛神が言った瞬間、オルガと勝手に召喚されたミカさんが怒りを(あらわ)にし、オルガの新しい召喚魔法によって恋愛神は殺された。(まぁ、その後すぐに生き返って僕の相談には乗ってもらったけど)

前の世界でなにかあったのかな?

 

 

その後、オルガたちは神殺しの罪で別の世界へと旅立つことになった。

あの異世界の住民はオルガやミカさんの記憶を失うらしいが、僕は大丈夫とのことだった。

 

「なんか急な話になっちゃったけど……」

「そうだな。だがよ……。博士のメッセージのときはああ言ったが、ホントはお前らといるのも別に悪くはなかったぜ」

「冬夜も元気でね」

「はい。ミカさん!オルガもまた会えたら会おう!」

「ああ、帰ってこれたらまた顔を見せるわ。じゃあな」

 

そう言ってオルガとミカさんは旅立っていった。

僕はあの二人のことを決して忘れない。たとえユミナたちの記憶からオルガやミカさんと過ごした日々が消えてなくなったとしても、僕だけは覚えている。僕のスマートフォンには彼らとともに撮った写真も残っているし、絶対に忘れることはないだろう。

 

オルガたちの旅は止まることはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、夕方。告白してくれた四人にリビングへ集まってもらった。

正面のソファには四人が並んで座り、僕の言葉をじっと待っている。

みんな僕にはもったいないくらいの素敵な女の子だ。だからこそ嘘はつきたくないし、自分の気持ちを知ってもらいたいと思う。

 

「えっと……。まず、今の僕には結婚するつもりはない。あっ、でも近い将来、みんなが嫌じゃなければ四人ともお嫁さんにもらう。その約束は必ず守る。……でも今じゃない。このまま流されたままでみんなと結婚するわけにはいかないと思って……。僕はまだ他人の人生を背負えるほど大人じゃないし、深い考えもない。だからもう少し待ってほしい」

「……ずいぶんと勝手な言葉よね。でも言いたいことはわかったわ」

「もちろん、その間に見限ったなら僕を見捨てても構わない」

「それ出来ないってわかってて言ってない?」

「先に惚れた方が負け、とはよく言ったものでござるなあ……」

「お姉ちゃんが冬夜さんを見捨てても、私はいつまでも待ちます。冬夜さんが、お嫁さんにしてくれるのを」

「ちょ、別に見捨てるなんて言ってないでしょ!?」

「ふふふ」

「私もそれで構いません。みんな気持ちを確かめ合ったんですから、あとは高めていくだけです。私たちのことを、好きで好きでたまらなくなるまで」

「僕ももっと好きになってもらえるよう頑張るよ」

 

 

そして、僕と彼女たちの物語も続いていく。スマートフォンとともに。

 

 

 




次回、真の最終回
『異世界オルガ12 Episode of Orphans』

俺は止まんねぇからよ、お前らが止まんねぇかぎり、その先に連れてってやるよ! ……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……。


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