異世界オルガ   作:T oga

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祝福オルガ7

佐藤和真(サトウカズマ)さん……。そして、オルガ・イツカさん。ようこそ、死後の世界へ。私は、あなた方に新たな道を案内する女神、エリス。この世界でのあなた方の人生は終わったのです」

 

目を開けると、俺とオルガは真っ暗な場所で椅子に座っていた。

 

自分に何が起きているのかも分からないまま、俺達の目の前に立つ少女にそんな事を告げられる。

 

ゆったりとした白い羽衣(はごろも)に身を包み、長い白銀の髪と真っ白な肌。

どこか儚げな美しさを持つそのエリスと名乗った女神は、俺達を哀しげに見つめていた。

 

その女神の言葉を聞き、俺は自分が死んだことを自覚する。

 

この感覚には覚えがあった。

俺があの世界へ行くきっかけとなった自称女神(アクア)にあった時も、そういえばこんな感じだったっけ。

 

…………なるほど、俺はまた死んだのか。

 

 

 

 

──数時間前──

 

 

 

 

魔王軍幹部ベルディアとの戦いの後、季節は冬になった。

 

いつものようにクエストを受けるため、アクア、めぐみん、ダクネス、オルガ、そして、俺達のパーティが誇る最大戦力、三日月さんの計六人(フミタンはギルド職員として働いてる)で、ギルドの掲示板を見ていると、俺はとある依頼を見つけた。

 

「なあ、この雪精(ゆきせい)討伐って何だ?名前からして、そんなに強そうに聞こえないんだけど」

 

雪精(ゆきせい)を一匹討伐する(ごと)に十万エリス。

 

今まで、倒してきたモンスターの中でも随分(ずいぶん)高額な報酬だが、名前的にはあまり強そうには感じられない。

 

雪精(ゆきせい)雪原(せつげん)に多く棲息していて、一匹倒す(ごと)に春が半日早く訪れると言われています。とても弱いモンスターで簡単に倒すことが出来ますが」

「いいんじゃねぇか?」

 

めぐみんの説明を聞いて、オルガもそのクエストを請けることに同意する。

 

「じゃあ、これにするか!」

「その仕事を請けるなら、私も準備してくるわね!」

 

張り紙を剥がした俺に、アクアが「ちょっと待ってて」と言い残してどこかに行った。

 

アクアを待つ間、ダクネスがぽつりと呟いた。

 

雪精(ゆきせい)か……」

 

日頃、何かと強いモンスターと戦いたがるこのドMクルセイダーが何故だか嬉しそうな顔をしていた。

 

そんなダクネスの様子に違和感を覚えながらも、俺達は冬場セミ採りに行く馬鹿な子供みたいな格好をしたアクアを待って、厚着に着替えてから雪精(ゆきせい)討伐に出発した。

 

 

街から離れたら所にある平原地帯まで、列車で向かうこと数分。

 

街にはまだ雪は降っていない筈なのに、到着した平原は雪で一面真っ白に輝いていた。

 

そして、その雪原(せつげん)のそこかしこに白くてフワフワした手の平くらいの大きさの丸い(かたまり)(ただよ)っていた。

 

「これが雪精(ゆきせい)か」

 

 

〈討伐クエスト 雪精(ゆきせい)たちを討伐せよ!〉

 

 

「四匹目の雪精(ゆきせい)捕った!カズマ、見て見て!大漁よ!」

 

嬉々としたアクアの声を聞き、そちらを見てみると、アクアは捕中網で捕まえた雪精(ゆきせい)を小瓶にぎゅっと詰めていた。

 

アクアは雪精(ゆきせい)を捕まえて、保冷剤代わりに使いたいらしい。

 

まぁ、後でアクアの捕まえた雪精(ゆきせい)も討伐するがな。

 

 

ヴァアアアアアア!!パン!パン!パン!

 

「結構当たんじゃねぇか……」

 

オルガは大丈夫そうだが、どうも俺は雪精(ゆきせい)に攻撃が当てられない。

攻撃しようと近付くと、突然素早い動きで逃げるのだ。何とか三匹まで倒すことは出来たが……。

 

めぐみんとダクネスも攻撃が当てられないのは同じだった様で、めぐみんがこう提案してきた。

 

「カズマ、私とダクネスで追い回しても、すばしっこくて当てられません……。爆裂魔法で辺り一面ぶっ飛ばしていいですか?」

「ま、待ってくれ……!」

「おーし、まとめて一掃してくれ!」

 

オルガが何か言おうとしたが、気にしない。

 

めぐみんの日に一度しか使えない必殺の爆裂魔法が雪原(せつげん)に放たれる。

 

「【エクスプロージョン】!」

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ、お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

 

爆裂魔法を放っためぐみんがうつ伏せに倒れたまま、冒険者カードを自慢気(じまんげ)に見せてきた。

 

「八匹、八匹やりましたよ!レベルも一つ上がりました!」

 

おぉ、やるなあ。

 

これで俺が三匹、オルガが五匹、めぐみんが八匹で現在討ち取った総数は十六匹。

 

アクアの捕まえた四匹も加えると、総額二百万エリス。五人で分けると一人四十万か。

 

まだ一時間しか経ってないのに、この稼ぎ。

 

「こいつはこれ以上ないアガリじゃねぇのか」

 

オルガの言う通りだ。なんでこんな弱くて美味しい雪精(ゆきせい)討伐を誰もやらないんだ?

 

 

……そんな、俺の疑問に答えるかの様に、俺達の前に、そいつは突然現れた。

 

「オルガ、何か来る」

「は?」

 

ダクネスがそいつを見ると、嬉しそうに大剣を構えた。

 

「おぉ~!ふ、冬将軍!雪精(ゆきせい)達の(あるじ)にして、国から高額賞金をかけられている特別指定モンスターの一体!」

「モビルスーツじゃねぇか……」

 

三日月さんのバルバトスと同じくらいの大きさの水色の騎士が三体。雪精(ゆきせい)討伐をしていた俺達の前に突然現れた。

 

特別指定モンスターなんて勝てるわけないだろ!

 

そう思った瞬間、俺は目の前が真っ暗になった……。

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

俺たちが雪精(ゆきせい)討伐をしていると、そこにグレイズリッターが現れた。

 

そのグレイズリッターはこの世界では冬将軍と呼ばれているらしい。

 

三機いるグレイズリッターの一機が急に動きだし、カズマの首がはねられた。……一瞬の出来事だった。

 

「何を……やっている!」

「ミカ、お前っ!」

 

ミカのバルバトスがグレイズリッターに向かって突貫する。グレイズリッターは二機でバルバトスを相手にし、もう一機は俺を狙って攻撃を仕掛けてきた。

 

召喚士である俺を殺そうという魂胆(こんたん)らしい。

 

……ここは、素直に殺されておくか……。

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「オルガは……まぁ、いっか」

 

さてと、カズマを連れ戻しに行かねぇとな。

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

そして、冒頭へと戻る。

 

 

 

……そうだ。俺は冬将軍に殺されたんだ。

 

「あなたがこっちの世界の女神様ですか?」

 

俺は目の前のエリスと名乗った女神に確認を取る。

 

「はい。異世界から来た勇敢(ゆうかん)な人。せめて私の力で次は平和な日本で、裕福(ゆうふく)な家庭に産まれ、何不自由無く暮らせるように転生させてあげましょう」

「地位も名誉も全部手に入れられるんだ。こいつはこれ以上ないアガリじゃねぇのか」

 

オルガはいつも通り無視して……。

 

「マジか~!じゃあ、で、出来れば、魅力と知力と体力のパラメーターが平均以上で美少女の幼馴染(おさななじ)みのいる人生だと(なお)嬉しいです!」

「マクギリスじゃねぇか……」

 

これはきっと今までこの世界で頑張ってきたご褒美なんだ!

 

今まで、ホント酷い人生だった……。

ゲームみたいな胸踊る冒険が出来ると思って転生したのに……。

 

転生特典でついてきた駄女神(アクア)は態度がデカイばっかで使えないし、仲間を募集しても、やって来たのは魔法撃つ度にぶっ倒れる頭のおかしい爆裂娘(めぐみん)とドMで変態で、攻撃が全く当たらないクルセイダー(ダクネス)だった。

 

「結構当たんじゃねぇか……」

 

あと、変な前髪のオッサン……。

 

「俺は十九だ……」

「十九?嘘だろ!」

「嘘じゃねぇ!鉄華団立ち上げたときは十七で、最初に死んだときはそれから二年後だから十九だ!正確な年齢はわかんねぇが、そんくらいのはずだ!」

 

そうオルガと言い争っている間、ふと自分の頬を熱い物が(つた)っていくのに気がついた。

初めて死んだ時はこんな事はなかったのに。

 

「あれっ?何で……」

「生まれ変わったあなたにまた良き出会いのあらんことを……」

 

ああ、そうか……。

 

俺は大嫌いだと思っていたあのろくでもない世界の事が、案外気に入っていたらしい。

 

 

その時、アクアの声が響いた。

 

「さあ帰ってきなさいカズマ!」

「えっ?」

 

突然鳴り響いたアクアの声に俺は驚きの声を上げた。

 

「なんだよ……結構遅いじゃねぇか、アクア!」

 

オルガはこの展開を読んでいたみたいだ。

 

「なっ?この声はアクア先輩!!」

 

エリスは目を見開き、信じられないといった表情を浮かべ、虚空(こくう)を見つめて大きな声を出していた。

 

「アンタの身体に【復活魔法】かけたから、もうこっちに帰ってこれるわよ!」

 

おお……!マジかよ女神様!じゃあ俺もオルガみたいに(よみがえ)られるのか!

 

「おし、待ってろアクア!今そっちに帰るからなっ!」

「ちょ、ちょっと待ってください!あなたは一度生き返っていますから天界規定により、これ以上の蘇生は出来ません!」

「お前状況わかってんのか?その台詞(セリフ)を言えるのは、お前か、俺か、どっちだ?」

「あっ、あなたは世界神(せかいしん)様の管轄(かんかつ)で……」

 

エリスがオルガに何かを言うよりも早くアクアがこう言う。

 

「ちょっと、カズマ!」

「はい」

「エリスがそれ以上ゴタゴタ言うのならその胸パッド取り上げていいから……」

「胸パッド?」

「わ、分かりましたっ!特例で!特例で認めますから!!今、門を開けますから~っ!」

「パッドでも構いませんよ?」

 

そのアクアの(わめ)き声を(さえぎ)ると、エリスは顔を赤らめて指を鳴らした。

 

それを合図に俺の身体は宙に浮いた。

「全く、アクア先輩は相変わらず理不尽(りふじん)な……」とエリスはぶつぶつ呟きながら。

 

「さあ、これで現世と繋がりました。……全く、こんな事は普通は無いんですよ?本来なら、二回目以降の蘇生は世界神(せかいしん)様の許可が必要なんですからね!……全く。カズマさんといいましたね?」

「えっ、あ、はいっ!」

 

エリスに名前を確認され、俺は上擦(うわず)った声で返事をする。

 

ウチのなんちゃって女神と比べて、こちらは本物の女神様だ。

 

しかもとびきりの美少女、どうしたって緊張はする。

 

今まで、ずっと哀しげな表情をしていたその女神は、しばらく困った様に頬をポリポリと()きながら、やがてイタズラっぽく片目を瞑り、少しだけ嬉しそうに囁いた。

 

「この事は、内緒ですよ?」

 

 

 

……遠くから、声が聞こえる。

 

「……ズマ……!カズマっ!カズマ、起きて下さいっ!カズマっ!」

 

俺にすがって泣くめぐみんの声。

 

それに、なんだろう?右手が温かい。

 

そちらに視線をやると、ダクネスが俺の右手をギュッと両手で握り、祈るように目を閉じていた。

 

俺は頭の上に気配を感じ、そちらに目を移すと、俺を見つめるアクアと目が合った。

 

「……あ、やっと起きた?ったく、エリスは頭固いんだから」

 

俺はそんなアクアの声を聞きながら、後頭部が温かいのが気になっていた。

 

……どうやら、アクアが膝枕(ひざまくら)をしてくれたらしい。

 

俺が目を覚ました事にめぐみんとダクネスが気付き、二人は無言で俺を抱きしめてきた。

 

生き返れた事を喜んでくれるのはいいんだが、なんだか無性(むしょう)に照れくさい。

 

照れて動けなくなっている俺の様子に気づいたアクアはにやにやと笑みを浮かべ、こんな事を言ってきた。

 

「ちょっとカズマ、この私があなたを生き返らせてあげたのよ。照れてないで何とか言いなさいよ。感謝の言葉とか~、今まで高貴(こうき)な女神様に舐めた態度取って申し訳ございませんとか~」

 

この駄女神とさっきの可愛い方の女神様を、取替(とっか)えっこできないかな?

 

「女神チェ~ンジ!」

「上等よこのクソニート!そんなにあの子の会いたいなら、今すぐ会わせてあげようじゃないの!」

 

額に血管を浮かべたアクアがそう叫んで、拳を光らせ、俺を殴りかかろうとする。

 

「喧嘩?」

「喧嘩じゃねぇよ、これくらい」

 

俺は近くにいたオルガを盾にして、その暴力女神の一撃を防ぐ。

 

「【ゴッドブロー】!」

「こんくらいなんてこたぁねぇ!」

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ、お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

蘇生魔法を発動させたのに、なぜか俺は神界にいた。

 

どうやらエリスから何か話があるらしい。

 

「あの~、ひとつ言ってもいいですか?」

「あんまりゆっくり出来る時間はないんだが」

「こんなくだらないことで死なないで下さい」

「勘弁してくれよ……」

 

 




冬将軍(グレイズリッター)は全てミカが倒しました。


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