冬夜の世界から旅立って、この異世界に来てから、一年が過ぎた。
そんなある日
「デストロイヤー警報!デストロイヤー警報!住人の皆様は
デュラハン討伐以降、久し振りの緊急アナウンスが街に響き渡った。
カズマたちと冒険者ギルドに入ると、すでに数多くの冒険者が集まっていた。その冒険者の中にはクリスやウィズもいた。
ギルド内が
「お集まりの皆さん!本日は緊急の呼び出しに
いつもより、シリアスな雰囲気だ。空気が
「では、作戦会議を始めます。まずはこちらをご覧下さい」
ギルド職員の手伝いをしていたフミタンがリモコンでなにやら操作すると、冒険者ギルドの天井から巨大なスクリーンが降りてきて、とある映像を見せられる。
そこに映っていたのは……。
「モビルアーマーじゃねぇか……」
ギルド職員の説明によると、現在、モビルアーマーは街の北西方面からこちらに向けて真っ直ぐ進行中で到着まではあと一時間くらいらしい。
その説明を聞いた魔法使いの少女がこう質問する。
「あのっ!デストロイヤーって、古代の魔法王国が造ったんですよね。造った人は何か対抗策を用意してなかったんですか?」
俺はマクギリスの言葉を思い出した。
《モビルスーツとは元々、モビルアーマーを倒すことのみを目的として造られた兵器なのだ》
つまり……。
俺が何かを言う前に、冒険者の一人がこう言った。
「いるだろ……。頭のおかしいのが」
それを聞いた冒険者達も思い当たる
「そうか……。いたな、頭のおかしいのが……!」
「いたな、
そして、冒険者ギルドにいる冒険者全員が…………ミカを見た。
「なるほど……、やるしかねぇだろ……」
「止めるよ、ここにくる前に」
「頼むぜ!遊撃隊長!」
「うん」
やるぜ、鉄華団の大仕事だ!
ギルド職員から作戦指揮を頼まれた俺は、冒険者たちの前に立ち、全員にこう告げる。
「聞いてくれ、もう時間がねぇ!上手くいこうがいくまいが、この作戦が最初で最後の作戦だ。お前らの『命』って名前のチップをこの作戦に賭けてくれ!」
街の前には冒険者たちだけじゃなく、街の住人たちも集まって
作戦準備の途中、カズマが俺にこう聞いてきた。
「大丈夫か?出来るのか、これ?」
「本体と細けぇのを分断出来れば、今回の作戦は十分成功なんだ」
今回のモビルアーマーは冬夜の世界にいたモビルアーマーよりも俺たちの世界で戦ったハシュマルに近い。モビルアーマーの近くには小型機のプルーマが
俺の考えた作戦はこうだ。
まずはシノのフラウロスの砲撃とめぐみんの【エクスプロージョン】でプルーマの軍勢を一掃する。残ったプルーマはこの街の冒険者たちに任せ、本体はミカのバルバトスにやってもらう。
俺たちの世界の時のように戦った後、体のどこかが動かなくなるなんてことが起きないようにミカにバルバトスの本気は出さないように忠告してある。
ミカのバルバトスはルプスレクスにしてあるし、昭弘のグシオンも援護に当たらせるからそれでなんとかしてもらうしかねぇが……。一応、もしもの時のことを考えて、奥の手も用意してあるしな……。なんとかなると思いたい。
……いや、やらねぇとこの街は終わりだ。やるしかねぇ!
「以上が団長からの指示だ。何か質問はあるか?」
ユージンがいないので、副団長代理は昭弘にやってもらった。
「ありませーん」
「あのさ」
シノは特に質問はないようだが、ミカは一つ質問をする。
「昭弘、ラフタは見つかったの?」
「いや、見つからなかった……。他の世界に転生したのかも知れねぇな……」
「そっか」
そして、決戦の時がやって来た。
魔法で
「冒険者の皆さん、そろそろ機動要塞デストロイヤーが見えてきます!街の住人の皆さんは、
その放送を聞いた俺は第二監視ポイントで待機しているシノに連絡をとる。
「シノ、やれるか」
「もうかよ!くそっ!準備は……!」
「まだですよ!」
「仕方ねぇ、俺だけでもぶっ
「私を忘れないでもらいたいですね」
「そうだな……。じゃあ行くぜ!めぐみん」
「はい!シノさん!」
「呪われし漆黒の夜を
「
「「発射ぁっ!!」」
フラウロスの砲撃とめぐみんの【エクスプロージョン】でプルーマの大半を一掃すると同時に崖を壊して、プルーマとモビルアーマー本体の分断に成功した。
「来たぞー!」
監視ポイントで待機していた冒険者たちがプルーマの討伐に当たる。
「こちら第二監視ポイント!デストロイヤーの通過を確認!」
監視ポイントの通信からまもなく、門の前で待機していた俺たちの前にモビルアーマーが現れた。
「それでは、冒険者各員、戦闘準備をお願いします!」
モビルアーマーを見たアクアが取り乱して、こう叫ぶ。
「ほんっと、大丈夫なんでしょうね!」
「俺が本気なら、ミカはそれに
……頼んだぞ、ミカ!昭弘!
「昭弘・アルトランド。ガンダム・グシオンリベイクフルシティ!」
「三日月・オーガス。ガンダム・バルバトスルプスレクス」
「「行くぞ!」」
ミカ、昭弘とモビルアーマーの戦いは
昭弘のグシオンリベイクフルシティは敗れ、ミカのバルバトスルプスレクスはテイルブレードと片腕を失った。だが、モビルアーマーも足を失い、動きが
モビルアーマーがビームを放とうとしたタイミングでバルバトスルプスレクスがメイスを投げ、ビームの発射口を封じる。しかし、モビルアーマーは無理矢理ビームを放ち、メイスを溶かし、バルバトスルプスレクスを狙う。
武器を失ったバルバトスルプスレクスは逃げることしか出来ない。
……ここは奥の手を使うしかないか。
「カズマ!」
「よーし、ここは
カズマの【スティール】で、かつて冬夜が【モデリング】で作り上げたバスターソードを呼び出す。
このバスターソードは冬夜の世界でモビルアーマーを倒す時に使ったもの。リンゼの【アイスウォール】を材料にして、【モデリング】で形をメイス風に作り上げ、【グラビティ】を【エンチャント】することで重さを、【プロテクション】を【エンチャント】することで耐久度を底上げした対モビルアーマー用決戦兵器だ。
「借りるよ」
ミカのバルバトスルプスレクスはバスターソードを手にモビルアーマーへ特攻する。
「ちょうどいい。やっぱり、これなら……殺しきれる!!」
ミカのバルバトスルプスレクスはバスターソードを水平に構え、そのままモビルアーマーに突き刺した。
そして……モビルアーマーの動きは停止した……。
「ふぅ」
「さあ、帰って乾杯よ!報酬はおいくらかしらね!」
「このバカッ!なんで、お前はそうお約束が好きなんだ!」
「へ?」
「は?」
お約束?なんだそりゃ?
俺とアクアはカズマの言った意味が良くわからなかったが、その答えはすぐにわかった。
《この機体は完全に機動を停止しました。被害甚大につき、自爆機能を作動します。この機体は……》
動きを止めたモビルアーマーから流れ出したその機械的な音声は何度も、何度も繰り返される。
「ほら見たことか!お前ってやつは、毎度、毎度足を引っ張らなきゃ気が済まないのか!」
「……全く、恋愛神といい、お前といい、女神ってやつは、どいつもこいつも……!」
「待って!ねえ、待って!これ私のせいじゃないからっ!私、今回はまだ何もしてない!」
何もしてないってのも、それはそれで問題だろ……!
冒険者たちがざわめく中、冒険者の一人が何かに気づいてこう叫ぶ。
「お、おい!ダクネスさんが一人で突撃してるぞ!」
「え?」
何やってんだ、ダクネス~~~~!
「そうか、爆発前に破壊するつもりなんだ!」
多分、違うぞ。
「街を守るために!」
違うぞ!あのドMクルセイダーは……!
「びびってんじゃねー!俺達も続くぞー!」
「勘弁してくれよ……」
自爆しようとするモビルアーマーに突撃していく冒険者たち。
それを見たアクアはカズマの後ろに隠れながら、こう言った。
「この分だと任せても大丈夫よ。帰ろ。帰ってまた明日頑張りましょ」
そんなアクアの手を引いて、決心したカズマはこう言う。
「……。くそっ!行くぞ、駄女神!」
「ふぇっ!いや、いやぁぁぁぁ~~~~!!」
「仕方ねぇ、俺たちも行くか。ミカ!」
「うん。行こう!俺たちみんなで!」
突撃したダクネスと冒険者たちをなんとか説得して、街の外に避難させた後、俺とミカ、カズマとアクア、そしてウィズはモビルアーマーの最深部へとやって来た。
「コロナタイト……暴走してますね」
コロナタイトとは、モビルアーマーの動力源。
モビルスーツで言うエイハブリアクターと同じようなものだ。それが今、暴走して、自爆しようとしている。自爆まであと数分しかない。
「ちょっと、ウィズ。なんとか出来ないの!」
「えっ!?うーん。転移魔法でどこかへ……」
「それよ!!」
「問題は転移先を選ぶのに、制限がありまして……。ランダムテレポートならすぐに跳ばせるのですが……」
「じゃ、じゃあそれだ!」
「ですが、下手したら人が密集している場所に送られることも……」
「世の中ってのは広いんだ!大丈夫!全責任は俺がとる。こう見えて、俺は運がいいらしいぞ!」
俺もカズマに便乗して、こう言った。
「そこまで言うなら見せ場は譲ってやるよ!」
「ダメだよ、オルガ」
しかし、流れるようにミカに否定された。
「勘弁してくれよ、ミカ。俺は……」
ピギュ(胸ぐらを掴む音)
「それはダメだ」
「え"え"っ」
「決めたんだ、あの日に。決まったんだ」
機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ 第48話 「約束」 (2017年3月19日)
「ああ、わかったよ!連れてってやるよ!どうせ、後戻りは出来ねぇんだ!コロナタイトを連れてきゃいいんだろ!」
俺は、出来るだけ街から離れた人のいないところで待機する。
「【テレポート】!」
すると、俺の頭上から何かが降ってきた。……コロナタイトだ。
ヴァアアアアアア!!
その時、希望の花が咲いた。
「【俺は止まらねぇからよ、お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」
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「というわけで、お前さんは死んでしまった」
気がつくと、俺は神界にいた。
「久し振りだな。神の爺さん」
「元気にしておったか」
「ああ、俺なりに上手くやってるつもりだ」
アクアやエリスとあった時の、真っ暗な部屋ではなく、背後に輝く雲海が広がる世界神の部屋だ。
四畳半の畳の上で
「で、何のようだ?」
「オルガ君にはそろそろ次の異世界に行ってもらう」
「そうか……」
せめて、カズマたちに別れの挨拶くらいはしたかったが仕方ない。
「大丈夫じゃよ」
「は?」
神の爺さんは、部屋にあるアナログテレビの電源をつける。
すると、そこには、アクアとカズマが写った。
《カズマ、カズマ、写ったわよ!ほら!》
《おっ、ホントだ。よう、オルガ!》
「カズマ、アクア!?」
《アクアと世界神さんから話は聞いた。神殺しの罪で同じ世界にずっとはいられないらしいな》
「ああ、すまねぇな。カズマ」
《謝るなよ、仕方ないだろ。こっちは大丈夫だ!オルガのおかげで
《報酬もガッポガポよ!しばらくは遊んで暮らせるわ!》
「……そうか」
なぜか、涙が出てくる……。俺はあの街のみんなを守れたんだな……。
《何、泣いてんだよ!こっちまで湿っぽくなってくるだろ……。バカ野郎……!》
そういう、カズマの目にも涙が
「すまんが、そろそろ通信も終わりじゃよ。最後に何か言うことはあるかの?」
神の爺さんが、そう言うと、俺とカズマはお互いにこう言った。
《元気でな、オルガ!》
「ああ、そっちも変わらずやれよ、カズマ!」
《あっ、最後に一つ言わせて!次の異世界にもカズマと同じようなのが、転生される予定らしいのよ!》
「ああ、それで?」
《それでアンタには、その転生者と行動を共にしてほしいってこと!》
「ああ、わかったよ。やりゃいいんだろ!」
《ええ、よろしく~》
と、そこで通信が切れた。
「アクアに全部言われてしまったのう……」
「……さてと……じゃあ、行くわ」
「うむ。気を付けてのう」
そして、俺は次の異世界へと旅立った。
読んでいただいてありがとうございます!
このすば世界でのオルガの旅も終わりました。
最終回まで読み続けてくれた皆様、本当にありがとうございました!
次は第3章『デスマーチから始まる異世界オルガ』です。こちらも良ければどうぞ