異世界オルガ   作:T oga

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デスマーチから始まる異世界オルガ1.5

サトゥーです。働きアリと言われる日本人らしく、仕事漬けの日々を送っていましたが、「ここではない何処(どこ)か」に逃げたいと思うほど、思い詰めてはいないはずです。忙しい分、やりがいも感じていたのです。本当ですよ?

 

 

 

《ねぇ、次はどうすればいい。オルガ》

《決まってんだろ……行くんだよ。ここじゃない何処(どこ)か……俺たちの本当の居場所に》

《うん。行こう!俺たち……みんなで!》

 

 

 

 

 

どうやらオレは流星雨とあのロボットの戦闘で、地面を(えぐ)った余波と思われる土埃(つちぼこり)の波にさらわれる直前の激痛で少しの間、気絶していたらしい。

 

半ば土に埋もれていた体を起こそうとしたその時……。

 

カシャン

 

と、金属音が聞こえた。

 

表示しっぱなしだったマップを見ると、一つの赤い光点が目に写った。

 

金属音の聞こえた方向とマップに写った赤い光点の場所は一致している。

 

ということはあのロボットの猛攻に耐え抜いたリザードマンがいたという訳だ。

 

流星雨の方も距離がオレに近すぎて有効打にならなかったんだろう。

 

 

オレはその生き残りのリザードマンの方へと目を向ける。

 

ヤツは全身から血を流し、(かろ)うじて壊れずに済んでいるボロボロの青い鎧を赤く染めていた。槍を杖のように使い、折れた足を引き()って、こちらへと近寄ってくる。

 

そして、腰に差していた剣を(さや)ごと抜くと、オレの足元に投げつけてきた。

 

「●●●●!●●●!」

 

何を言っているかわからないが、言わんとしている意図は通じた。

 

「この剣を取って戦えって事か?」

 

オレは剣を抜いて、構えるが、これまでの人生で剣道や剣術を習った事はない。

 

素人のオレがヤツを剣で斬りつけても、簡単に避けられてカウンターでヤツの持つ槍に突かれて終わるだろう。

 

(さいわ)いヤツは満身創痍(まんしんそうい)で移動するのもつらそうだ。なんとか隙を作ってしまえば、逃げられるかも知れない。

 

 

オレは剣を投げて、(ひる)んだ隙に逃げることにした。

 

「えいっ!」

 

>【投擲(とうてき)】スキルを得ました。

>【投擲(とうてき)】スキルを使用しました。

 

「……えっ?」

 

投げた瞬間に逃げ出すつもりだったのだが、目の前の光景がそれを制止した。

 

オレが投げた剣はリザードマンには避けられたが、異常なほどの速度で飛んでいき、リザードマンの奥にいたオルガとかいう男に突き刺さったのだ。

 

「う"う"っ!」

 

ヴァアアアアアア!!パン!パン!パン!

 

オルガが死ぬ間際に放った銃弾を食らい、リザードマンは倒れたが、その代わり、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ、お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

 

……オルガの話によると、ここは異世界でオレはこの世界に転生してきたらしい。オルガは神様の使いでオレを助けてくれるのだそうだ。

 

「そうか……。じゃあオレは過労で死んだのか?」

「死因は知らねぇが、とにかくここは異世界でお前はこの異世界に転生したんだ。それ以外は俺も特に聞いてねぇ」

 

まぁ、異世界に来てしまったなら仕方ない。せっかくなので、異世界観光でも楽しみましょうかね。

 

 

確認のために開いたステータス画面のHPは全回復していた。というかHPの最大値が増えている。HPだけじゃない。レベルも1から310まで上がっていた。

 

(ちな)みにオルガはLv.500、オルガの召喚獣の三日月はLv.3474らしい。

 

(ただ)しオルガのHPはなぜか1しかない。「神殺しの呪いだ……」とオルガは言っていたが、あまり詮索(せんさく)はしない方がよさそうだ。

 

 

次に使えるスキルや魔法についてだが、オルガは【止まるんじゃねぇぞ……】スキルという固有スキルをもっているらしい。ようは蘇生魔法だ。

 

また、オルガは三日月と三日月の乗る『ガンダム・バルバトス』を召喚する事が出来るらしい。こちらの召喚魔法は戦闘で役立ててもらおう。

 

オレには先程使った初心者救済アイコンの技が魔法欄に登録されていた。

 

全マップ探査と流星雨だ。

 

とりあえず、試せる時に試しておこうかな。窮地(きゅうち)になってから使おうとして、「魔力(マジックポイント)が足りません」とか言われたら泣くに泣けない。

 

魔法欄で流星雨を選択して、『使用』する。

 

>目標を選択して下さい。というログが表示されたので、『WAR WORLD』で施設破壊系の大魔法を使う時の要領でマップに目標地点をマーキングした。

 

巻き込まれないように出来るだけ遠くに設定しよう。

 

……これくらい遠くなら大丈夫か?

 

>【流星雨】を使用しました。

 

どうやらこの手順で良かったらしく、魔力ゲージがグググ~ッと減っていく。

 

魔力ゲージが全体の三分の一、丁度1000ポイント減ったところで止まった。

 

 

空を見上げる。発動するまで、少しタイムラグがあるようだ。

 

ボーっと空を見上げていると、雲を裂いて流星群が降ってきた。

 

「どうした?ミカ」

「何あれ?」

「ん?何だありゃ?」

「デカイ……何これ!?」

 

降ってきた隕石は、バルバトスと一緒に降ってきた時の百倍くらいの大きさだった。

 

「逃げろっ!」

 

オレはオルガと三日月にそう言いながら、隕石の落ちる方向と逆側へ駆け出した。

 

「何やってんだぁぁっ!!」

 

三日月は霊体化して消え、オルガは焦って走り出す。

隕石というにはあまりに大きな塊が大地を打つ連続音を背後に聞きながら、オレも懸命に足を動かし続けた。

 

ヴァアアアアアア!ヴァアアアアアア!ヴァアアアアアア!!

 

 

 

……それから、どれくらい経っただろう。

 

オレは何とか逃げ切れたが、オルガは爆風に巻き込まれてしまい……希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ、お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

「ここどこ?」

 

霊体化を解いた三日月がそう言った。確かに先程までとは周りの景色が違う。オレは現在地をマップで確認して見ることにした。

 

「戦士の……(とりで)?」

 

どうやらここは先程までいた『竜の谷』の結界を越えた先にある『戦士の(とりで)』という場所らしい。

 

近くにはすり鉢状の闘技場らしき広場が付随(ふずい)した石造りのこじんまりとした(とりで)があった。

 

「街はねぇのか」

「街?……ちょっと行ったところに『セーリュー市』って街があるな」

「じゃあまずはそこに行こうぜ……」

 

ということで、オレ達はその『セーリュー市』を目指すことにした。オルガはお疲れのようだし、ゆっくり歩いて行きますかね。

 

 

セーリュー市に向かう途中に急接近する赤い光点がレーダーに写った。マップを参照してみると、Lv.30のワイバーンだった。

 

姿を見るため、近くの岩の上に飛び上がる。

 

「げっ?!」

 

出会い頭にワイバーンと激突し、跳ね飛ばされ、そのまま地面に叩きつけられた。

 

「痛っ……くないな……。苦痛耐性スキルのおかげか?それとも耐久力が高いから?」

「俺にはさっぱり分かりませんね」

 

再び空に舞い上がったワイバーンが、空を旋回してこちらを襲うタイミングを見計らっている。

 

「このっ!あっち行け!」

 

オレはワイバーンを追い払う為、近くに落ちていた小石を二つ右手に握って投げ飛ばす。

 

一つはワイバーンの翼を突き破って空の彼方へ。もう一つはワイバーンの(うろこ)に当たって、こちらに跳ね返ってきた。

 

その跳ね返ってきた方の小石がオルガに当たり、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ、お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

翼を突き破った小石もワイバーンを撃退するほどの威力では無かったが、追い払うのには成功したようだ。

 

ワイバーンは遠くに見える崖の向こうへ、ふらふらと頼りない軌道を描いて飛び去った。

 

「ねぇ、オルガ。何か嫌な予感がするんだけど」

「どうした?ミカ…………っ!サトゥー!マップ開け!」

「えっ?何で?」

 

訳が分からないまま、オルガに言われるままにマップを開く。

 

「……マズイな。セーリュー市の軍隊がいる」

 

マップを開いて確認すると、ワイバーンの逃げた方向に百名程の軍隊がいた。平均レベルは7くらいだが、軍隊を率いる騎士のレベルは31だった。……もしかしたらなんとかしてくれるんじゃないか?

 

「いいから行くぞ」

「……分かったよ」

 

オルガに(さと)されたので、オレは軍隊を助けることに決めた。

 

 

ワイバーンの後を追っている間に、オレは気になった事をオルガに聞いてみた。

 

「オルガ、何でワイバーンの逃げた方向に軍隊がいるってわかったんだ?」

「足音だよ。耳を澄ましたら、軍隊の足音が聞こえた」

「ああ、そういうこと」

 

納得した所で、オレ達はワイバーンに追い付いた。

 

ワイバーンはすでにセーリュー市の軍隊と会敵(かいてき)しており、軍隊の指揮官が(おび)える兵士達を激励(げきれい)していた。

 

「兵士達よ、恐れるな!」

「セーリュー魂を見せてやれ!」

 

兵士達は円陣を組んで、ワイバーンと対峙している。

 

「来たぞ!槍兵よ、石突きを浮かすな!地に付け、足で踏みつけて固定しろ!浮かせるとワイバーンの勢いに負けて、跳ね飛ばされるぞ!」

「弓兵はもっと引きつけろ!ヤツが槍を恐れて、速度を落とすのを待て!」

 

兵士達が(おび)えつつも浮き足立たないのは、指揮官の的確な指示があるからだろう。

 

ワイバーンは幾度も陣を襲うが、槍に(はば)まれてしまってなかなか攻めきれずに空中に押し戻されている。

 

しかし、弓矢での攻撃はワイバーンの外皮に(はば)まれてダメージを与えられないでいるようだ。

 

「このままじゃ……こんなところじゃ、終われねぇ!」

 

そんな状況にオルガが痺れを切らしたのか、ワイバーンと軍隊の戦いの間に突っ込んでいく。

 

しかし、それは余計なお世話だったようだ。

 

 

「行け、ゼナ!」

「はい!」

 

弓矢が利かないとわかった軍隊の指揮官は、小柄な魔法兵の少女に指示を出す。

 

「【……■ ■■■ 気壁(エア・クッション)】!」

 

ヴァアアアアアア!!

 

軍隊の円陣に突撃してきたワイバーンがオルガを巻き込みながら、見えない壁に激突して動きを止める。

 

ワイバーンが見えない壁に激突した時の衝撃で、小柄な魔法兵の少女とオルガが勢いよく宙に跳ね飛ばされた。

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ、お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 

オルガは【止まるんじゃねぇぞ……】スキルがあるから蘇生出来るが、小柄な魔法兵の少女はそうはいかない。どうすれば……。

 

「【……■■■ ■■ 稲妻(ライトニング・ボルト)】!」

「【……■ ■■■ 落下速度軽減(レジスト・フォール)】!」

 

軍隊の魔法兵が二つの魔法を放つ。

 

一つはワイバーンに止めを刺す、稲妻の魔法。

もう一つは宙に舞う魔法兵とオルガの落下速度を遅くする魔法だ。

 

だが、これではまだ助からない。落下速度は落ちたが、水平方向の速度は落ちていないのだ。

 

このままだと、彼女は二十メートル近くも宙を飛び、オレの頭上を越えて、崖の向こうに飛び出してしまう。

 

だが、これならオレが彼女を抱えればまだ助かるかも知れない。

 

オレは必死になって手を伸ばし、彼女の胸を抱くようにして持ち上げた。

 

>称号『救命者』を得ました。

>【運搬】スキルを得ました。

 

 

その横をオルガが落下していき、地面に叩きつけられた時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ、お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 




今回の内容は『デスマーチから始まる異世界オルガ1』のCパートと『デスマーチから始まる異世界オルガ2』のOPまで(アバン)に当たる部分です。

『デスマーチから始まる異世界オルガ2』の残りについてはまた出来次第投稿します。

次回もお楽しみに!

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