サトゥーです。昔から年下の女の子には懐かれるのですが、いつも友人止まりで恋人になったことはありません。
「止まるんじゃねぇぞ……」
……なぜか、惚れる相手は必ず年上なんですよね。
部屋の扉を無遠慮に叩く音で目を醒ます。
「サトゥーさん、起きてる?」
「今、起きた」
「おはようございます」
オルガと三日月はオレより先に起きていたようなので、部屋に起こしに来たマーサちゃんの相手をしてもらう。
その間に、身だしなみを整えて、オレも部屋を出る。
「おはよう。マーサちゃん」
「サトゥー。ゼナが来てるらしいぞ」
「え?」
そういえば昨日、お礼に来るって言ってたっけ。
オルガ達と階下に降りると、そこではゼナさんが朝食を食べながら待っていた。
「あっ!おはようございます。サトゥーさん!……とオルガさん」
「忘れんじゃねぇぞ……」
「ふふっ、すいません」
「おはようございます。今日は可憐な衣装ですね」
今日のゼナさんは非番らしく、昨日の兵士の格好はしていない。
白いブラウスに水色のスカートで、肩には少し大きな
「今日はどうしたんですか?昨日言ってたお礼なら気にする事ないですよ」
「えっと、き、今日は非番なのでっ!サトゥーさんにこの街を案内しようと思いまして!」
「ありがとうございます。だったら一度行ってみたい場所があるのですが……」
朝食を食べ終えたオレ達はゼナさんの案内で
「風が気持ちいいね、オルガ」
「そうだな」
「本当にこんな場所でいいんですか?」
「はい。でも頼んでおいてなんですが、軍事施設に部外者を入れて良かったんですか?」
「はい。セーリュー市のような田舎の都市を攻めてくるのはワイバーンくらいですから」
それ、フラグじゃなきゃいいんですがね……。
「ゼナ、あの風車は何の施設なんだ?」
「あれですか?あれは粉
「?砲台って……街中だぞ?」
「あんな場所から大砲を撃ったら、民家に被害が出ませんか?」
「砲弾もありますけど、ワイバーンに撃つのは網とか空砲ですから」
「なるほど、追い立てる用の施設なんですね」
「良かったら、見に行ってみますか?」
「いいんですか。ありがとうございます」
「すまねぇ」
最寄りの風車に行く途中に、パリオン神殿があるというので、寄ることにした。
神殿の中は奥行き十メートルほどの天井の高い部屋になっていた。天井にはステンドグラスこそは無いが、明かり取りの窓があり、壁の上半分には、剣を持った騎士と角の生えた悪魔が戦う壁画が描かれている。
「なんだありゃ」
「あの青いのは聖剣なんです。勇者様が持つと青く光りますから、あの壁画には勇者様が描かれている。と解釈されています」
「じゃあ勇者以外が持っても青くは光らないんですか?」
「そうですね。でも聖剣に認められれば、青い輝きを放つ筈です」
確かオレも何個か聖剣を持っていたな。
アイテムストレージを調べてみると、『エクスカリバー』と『デュランダル』があった。
名前で検索すると『虎徹』や『村正』といった刀もある。神剣もあったが、それには固有名はない。
『エクスカリバー』を出してみるが、オレが持っても青く光らなかった。残念だ。
三日月が触りたそうだったので、渡してみる。
すると、聖剣が青く光りだした。
「何これ?」
「すげぇよ、ミカは……」
「別に普通でしょ」
風車の見学を終えたオレ達は街へと戻ってきた。昼食を屋台で食べる為だ。
屋台でセーリュー揚げや竜翼揚げを食べた後、せっかくなので気になっていた事をゼナさんに聞いてみた。
「ゼナさんは魔法の呪文ってどうやって唱えてるんですか?」
「そうですね~、風魔法だと大抵は「■■■■」から始まるんですけど、無理に言葉にしようとするなら「りゅ~リぁ(略)ラ~るれりら~オ」ってなるんです」
「なかなか難しそうですね……」
「俺は♪キボウノハナー♪だぞ!」
「う~ん……オルガの【止まるんじゃねぇぞ……】は使いたくないなぁ」
「死ぬほど痛いぞ……」
「いや死んでるし」
オレとオルガがそんなやり取りをしていると、何故かゼナさんがふいに笑いだした。
「あははははははっ!」
「何で笑ってるんですか?」
「なんだよ?これっぽっちも面白くなかったじゃねぇか」
そんなに面白かったのだろうか?
「はぁ……。それでサトゥーさんはどうして魔法を練習しようとしてるんですか?」
「宿屋に風呂がないので、生活魔法があったら、屋外で
「あはははっ!そ、そんな理由で魔法使い目指す人始めて見ました!」
「は?だから、これっぽっちも面白くなかったじゃねぇか」
次の目的地の荘園は歩いていくと遠いので、中央通りで辻馬車を拾った。
馬車で荘園に向かう途中、話題は神殿で見た壁画の話になった。
「その魔王って、やっぱり魔物を率いて襲ってくるんですか?」
「それが魔王によって違うみたいです。自分だけで戦う魔王も居たそうですが、その中でも恐いのが……」
「火星の……王?」
「魔族を率いる魔王ですね」
「なんだよ……」
外壁沿いには、等間隔で広めの公園があるんだが、その一つに沢山の人が集まっているのが見えた。
「ちょっと止めてください」
「止まるんじゃねぇぞ……」
人だかりの奥を見ていたゼナさんが強い口調で馬車を止める。
「止めるんじゃねぇぞ……」
「どうしたんですか?ゼナさん」
「サトゥーさん、オルガさん。あれを見て下さい」
ゼナさんが指差した方から何やら声が聞こえてくる。
「こいつら亜人は魔族の出来損ない、いや、魔王の眷属だ!こいつらに聖なる裁きを与える事で徳が積める!この聖なる石を購入し、悪魔の眷属にぶつければ徳が積めるのだ!」
デブな神官が左手に石を持ち、右手で鎖に繋がれている三人の獣娘(犬耳族、猫耳族、鱗族の娘達)を指差して、そう言っていた。
「買うぞ!!」
「売ってくれ!!」
「並べ並べ~!」
それを聞いた民の皆さんは聖石を買い求めた。嘘でしょ?
あのデブ神官、精神操作の魔法でも使ってるのか?
聖石を買った人々はその石を遠慮無く獣娘達に投げつける。
「う"う"っ!」
いつの間にか、獣娘達の前に立っていたオルガが石を投げつけられ、希望の花が咲いた。
「【俺は止まらねぇからよ、お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」
「もう見ていられません!ちょっと、行ってきます!」
ゼナさんも
「オオオオオ!」
「魔族に鉄槌を!!」
ゼナさんがオルガと同じように、獣娘達の前に立ってこう叫ぶ。
「非道なマネは
「なんだ小娘、貴様は魔族の味方か!?」
「俺は……鉄華団団長、オルガ・イツカだぞ……!こんくれぇなんてこたぁねぇ……」
……いかん、オルガとゼナさんに見惚れてて出遅れた。
でも、オルガやゼナさんと同じことをオレがしても、意味ないよな……。
獣娘達を見ていると、詳細情報がAR表示される。
彼女達の主人は、デブ神官ではなく、ウースという男のようだ。
そのウースとかいう奴の所属ギルド『ドブネズミ』の構成員をマップ上で検索。この広場にギルド『ドブネズミ』の構成員はウースを含めて九人。
ウースは広場の端で、木箱の上に腰掛けて、広場の騒ぎをニヤニヤと眺めている。ウース以外の八人がサクラになって街の人達を煽っていたようだ。
という事は、やることは一つしかないな。
さあ、行動開始だ!
>【暗躍】スキルを得ました。
>【陰謀】スキルを得ました。
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……どうやら、サトゥーも動き始めたみたいだ。
なら、俺はゼナと一緒にこいつらの目を惹き付けておこう。一応、保険としてミカにサトゥーのフォローをしてもらう。
「頼んだぜ、遊撃隊長」
「……わかったよ」
何故か不機嫌だが、気にしないでおこう。
ゼナが風魔法で石を防いでいる所に、金髪の神官も加勢しに来た。
「
金髪?まさか?……マクギリスじゃねぇのか……?
「亜人が魔族などと貴殿が言っているだけではないか」
「フン! 博愛主義のガルレオン神殿の神官殿か。そんなに獣娘がいいなら、
「……バエルを持つ私の言葉に背くとは…………」
「……マクギリスじゃねぇか…………」
俺たちが時間を稼いでいる間にサトゥーとミカが
「あいつらも魔族だ~!」
パン(サトゥーが手刀を繰り出す音)
「貧血か~?あっちで休もう」
>【演技】スキルを得ました。
>【拉致】スキルを得ました。
>【暗殺】スキルを得ました。
「ひっひっひ……。あの奴隷達のおかげで今日はかなり儲かりそうだな」
「あんたの出番だよ」
「な、なんだキサマ!おいバンゼ!こいつを叩き潰せ!」
「バンゼ?そいつはさっき貧血で倒れたから介抱しておいたよ」
サトゥーはそう言いながら、そいつの
パンパンパン
>【断罪】スキルを得ました。
「クククククッ!」
サトゥーとミカが倒したこの事件の首謀者がいきなり笑い出す。
そして、その男の体から黒い腕が伸びてきて、デブ神官を引き裂いた。
「フシュルルルル~。コレデ喋リやすクなた。ワテクシ感激」
「現れたか、レレスを滅ぼした魔族よ!」
「は?」
あの魔族を知っている様子のマクギリスは、バエルを召喚し、民衆に向けてこう宣言する。
「皆、ギャラルホルンの真理はここだ!バエルの元に集え!」
……しかし、民衆は我先にと逃げて行く。
「……彼らの協力が得られないのは想定外だった」
「……」
俺は無言で、このバエル馬鹿を殴った。
その後、魔族を中心に黒い魔法陣が出現し、足元の地面が歪む。暗い紫色の光を放ちながら、地面は歪み、ねじれ、引き伸ばされていき、……閃光が世界を黒く染めた。
光が収まると、俺たちは
この場所にいるのは、俺とミカとサトゥー、そして先程の獣人たちだけである。ゼナやマクギリスとは別れてしまったようだ。
『ワテクシの
どこかから先ほどの魔族の声がする。
「ゲームでいうところの強制イベント『迷宮からの脱出ミッション』発生!って感じか」
「は?」
>称号『迷宮探索者』を得ました。
俺とサトゥーは不安そうにこちらを見ている獣人の少女たちに自己紹介をすることにした。
「オレはサトゥー」
「俺は……鉄華団「ねこ~」「犬、なのです」「
「そ、それだと呼びづらいな」
「では、呼びやすい名前をつけて頂けませんでしょうか?」
「う~ん。じゃあ……」
……サトゥーも冬夜に負けず劣らずのネーミングセンスらしい。
「ポチ~!」
「タマ~!」
「「リザ~~!!」」
「ミカァァァァァ~~~!!!」
ピギュ
「うるさいな……何!?」
「え"え"っ!?」
「何!?」
「……勘弁してくれよ、ミカ」
「許さない」
「え"え"っ!?」
ピギュピギュピギュピギュピギュピギュ
俺たちは、このポチ、タマ、リザと共に、
「いいか、オレが命令するまで戦闘に参加しないように、これは絶対厳守だ」
「あい」
「はい、なのです」
「かしこまりました」
>【指揮】スキルを得ました。
>【編成】スキルを得ました。
「タマ、何か通路の先に見えたら、小声で教えて」
「あい」
「ポチ、何か変な匂いや物音がしたら教えて」
「はい、なのです」
「リザ、後ろの警戒は任せた」
「わかりました」
サトゥーがポチ、タマ、リザに指揮しながら、
通路を進んでいると、顔を暗闇の向こうに突き出して、鼻で何かを嗅いだ様子のポチがこう報告する。
「通路の向こうから血の臭い、なのです」
それを聞いたミカが俺の胸ぐらを掴み、こう言った。
「オルガ、連れていってくれるんだろ?」
「放しやがれ!」
俺はミカを払いのけて、自暴自棄になってこう叫んだ。
「ああ、分かったよ!連れてってやるよ!どうせ後戻りは出来ねぇんだ。連れてきゃいいんだろ!!」
俺は先行して、ポチの嗅いだ血の臭いを確認しに行くため、駆け出した。
そして、その先にいた魔物と
「【俺は止まらねぇからよ、お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」
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先行したオルガを追って、
ポチ、タマ、リザ、そして三日月を待たせて、部屋を覗き込む。こちらに気が付いていないのか、巨大な昆虫型の敵がオルガを無心で食べていた。……うわっ、グロ……。
オレも負けたら、あんな風に食われるんだろうか?レベル差から考えて負けそうにないとは思うが、気が進まない。
そんなことを考えていたオレにリザがおずおずと、こう切り出してくれた。
「
「逃げるのはダメ、なのです。オルガが可哀想、なのです!」
レベル一桁の彼女達でさえ、何をしたらいいか考えられるのに、後ろ向きになりすぎていたかもしれない。
接近戦は嫌なので、遠くから魔法銃で狙い撃つ作戦で行こう。
オレはアイテムストレージの中に入っていた魔法銃を取り出して、魔物へ向けて連射する。
この銃のおかげで魔物は倒すことが出来たが、何発か撃ちもらした為、オルガが被弾したようだ。
その時、希望の花が咲いた。
「【俺は止まらねぇからよ、お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」
>【射撃】スキルを得ました。
>【狙撃】スキルを得ました。
>【照準】スキルを得ました。
>称号『
「すごく、すごいのです」
「つよい~!」
「お見事です!」
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俺が意識を取り戻すと、リザが俺を囮にして倒した魔物の頭部と背中に短剣を突き刺して、何か作業をしていた。
その行為を食事だと勘違いしたサトゥーがリザに対してこう言う。
「リザ、そんなの食べたら腹を壊すぞ」
(その頃、ミカはまた火星ヤシの実を食べていた。)
「また食ってんのか?」
「うん」
「うまいか、それ?」
「いる?」
「いや、いいや」
「違います。魔物なら、
「
「
ん?リザが魔物から取り出した赤い玉を見た俺は
《まるで将棋だな》
《【アポーツ】!》
「何これ?」
ミカも同じく
「教えてくれ、オルガ。オルガ・イツカ」
知らねぇよ……。
「……いいから行くぞ!!」
「あい!」
「はい、なのです!」
「はい!」
俺たちの旅はまだまだ続く……。