西方暦一二七七年。
入学直後から
高等部の騎操士学科の授業から自らが所属する中等部の教室へと帰ってきた
「野外演習?」
「あぁ、なんか二週間後にやるらしいぜ」
「魔獣と戦って実戦経験を積むために騎士学科の中等部と騎操士学科の高等部が合同で遠征に向かうそうよ」
「なるほど」
ライヒアラ騎操士学園は実習と実戦を重視する。
騎士学科中等部と騎操士学科高等部が向かう先は比較的小型の魔獣────プルーマが生息すると言われる森林地帯であった。
そして、その二週間はあっという間に過ぎていき、
「オルガ、なんでいんの?」
「
「そっか」
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ライヒアラ騎操士学園・騎士学科の一行が馬車に揺られ、目的地であるクロケの森に到着したのは、日の落ちた時刻であった。
「よーし、荷物を降ろしたら各班まずはテントを作れー!それが終わったら夕食にするぞ」
教師の号令一下、生徒達が寝床となるテントを設営する。
アディ、キッドはその後、他の班の設営を手伝いに行き、
「おい、マクギリス。どこに行くんだよ?」
「ノルマはこなしている。サボりではない」
「どこに行くのかって聞いてんd……!」
ピギュ
「え"え"っ!?」
「うるさいなぁ」
「勘弁してくれよ……」
中等部の野営地の隣、そこは高等部の騎操士学科の生徒達と彼らの
片膝をつく形の駐機体勢をとる真っ白な
「やっと会えたな、バエル……。いや、新しい時代の夜明けだ!目を醒ませ、アグニカ・カイエル!」
「は?」
「あんた、何言ってんの?」
「おい、そこの銀色、……マクギ……いや、エルネスティか?」
その時、
「エドガー先輩!じゃあ、これがエドガー先輩のアールカンバーですね!」
「ああ、アールカンバーが俺の物になってもう二年だからな。修理と改修が積もってこうなった。……って、オルガと三日月じゃねぇか……!?」
「あんた……」
「俺だよ、昭弘だ。昭弘・アルトランド」
モビルアーマー『ドレイク』との死闘で再度、命を落とした昭弘・アルトランドはこのセッテルンド大陸でエドガー・C・ブランシュに転生していたのだ。
オルガ、三日月と昭弘は九年振りの再会を果たした。
「おぉ、昭弘!」
「あのモビルアーマーとの戦いの後、どうなったのか心配していたんだが、大丈夫だったようだな」
「ああ、なんとかな」
「昭弘も元気そうでよかったよ」
「ありがとな、三日月」
「エドガー先輩は見回りですか?先輩お一人で?」
「はぁ……、相方のディートリヒが面倒がってな」
「誰だ、そいつは?」
ディートリヒ・クーニッツ。ライヒアラ騎操士学園・騎操士学科の
「奴の愚痴に付き合うのも面倒になったのでな。気分転換がてらこいつを見に来たんだ」
「先輩も
「まぁ、お前ほどじゃないが、多分好きなんだろうな」
そう言って
「こいつは俺の武器であり、鎧であり、かけがいのない相棒でもある」
「良くわかります!僕も早く
「どうだ、乗ってみるか?」
「えっ?」
「操縦しろ、とは言わない。
「いいのか、昭弘?」
「エルネスティならまぁいいか、と思ってな」
「ありがとうございます!」
「三百年だ……。もう休暇は十分に楽しんだだろうアグニカ・カイエル。さぁ、目醒めの時だ!」
「目醒めの時だ……」
「目醒めの……」
「やはり、
「はぁ……」
「どうした?」
「……聴け!今、三百年の眠りから、マクギリス・ファリドの下にバエルは甦った!」
「あんた、何言ってんの?」
「甦ってねぇぞ……」
中等部の野営地へと戻り、夕食を摂った後、テントで就寝した
「どうした?何があった?」
「バエルが甦ったのか?」
「アディ、おい起きろ!」
「う~ん、エルく~ん……zzz」
「オルガ、チョコ、キッド!アディも起きて!なんか嫌な予感がする」
その後、やってきた教師の説明によると、突如として大量の
「一年、二年は荷物を持たずに直ちに避難しなさい!高等部は
避難誘導をする教師の声が響く。
「ミカ、やってくれるか?」
「いいよー」
三日月も『ガンダム・バルバドスルプスレクス』を呼び出し、高等部と共に三年生の救援へ向かう。
オルガは中等部一年生である三日月を救援に向かわせる為、教師に説明する。
「俺たちの班は
「うむ、わかった」
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「【
魔法現象に特有のやや甲高い飛翔音を残し、【
「すり抜けた魔獣が来ます!前列、盾構え!」
凛とした女性の声────生徒会長の指示に従い、騎士学科中等部三年生の生徒達が盾を構え、
「止まるんじゃねぇぞ!その先に俺はいるぞ!」
その生徒達の前に現れたオルガが
「う"う"っ!」
ヴァアアアアアア!!パン!パン!パン!
「なんだよ……。結構当たんじゃねぇか……」
その時、希望の花が咲いた。
「【俺は止まらねぇからよ……。お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」
「生徒会長!第二波来ます!」
「……っ!」
オルガが復活するよりも先に森の奥から再び
(どうしてこんなに魔獣が?まさか、近くに師団級魔獣でもいるというの!?)
生徒会長はこの異常な
そう生徒会長が
「生徒会長っ!?」
「えっ!?」
「いやっ!」
その時、銀髪の小さき騎士が空から現れた。
「……【
銀髪の騎士────
「エルネスティくん!」
「生徒会長!ここは任せろ!行くぜ、【
「姉様、ここは任せて!【
「俺もいるぞ!」
そこにキッドとアディも駆けつけ、
「皆さん、落ち着いて馬車の方へ!」
そして、
────
「し、種別確認!
「下級生が避難し終えるまで我々が奴を足止めする」
遅れてやってきた高等部騎操士学科の生徒達が
「昭弘ももういいよ」
「ふざけるな、お前が残ってんのに俺が退けるか!」
「そう、じゃあ足引っ張んないでね」
「俺のアールカンバーの実力、お前に見せてやる!」
「エドガー・C・ブランシュ!ガンダム・グシオンリベイク・アールカンバー!」
「三日月・オーガス。ガンダム・バルバトスルプスレクス」
「「行くぞ!」」
そして数分後、
十分に勢いのつけた
その状況を壊したのは騎操士学科高等部三年生のディートリヒ・クーニッツであった。
「はーはっは!何だ、このデカブツめ!図体ばかりデカくても、手も足も出ないじゃないか!何が師団級だ、この程度なら私一人で退治してやる!」
ディートリヒはそう吼えた。その巨体から放たれる威圧感に押され、すくんでしまったからこそ彼は現在の自分の優位を自分自身に言い聞かせていた。それは彼自身を奮い立たせる為の方法であったが、あまりにも時間稼ぎがうまく行き過ぎた事によって油断が生じてしまった。
「待てよディー!」
「待ってろよ……」
油断禁物と他の生徒(とオルガ)が口にするが、ディートリヒはこう思考し、単身突撃してしまう。
(この魔獣はデカいだけのウスノロだ。大して恐れる事はない!)
実際には一回でも
「はーはっは!はーはっは!」
「待てって言ってんだろうが!」
その時だった。突如、動きをゆるめた
そして、その直後、その口から猛烈な
ヴァアアアアアア!!
その時、希望の花が咲いた。
「【俺は止まらねぇからよ……。お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」
オルガの死────人の死を初めてその目で見たディートリヒは悲鳴を上げて逃げ出した。
「ヒッ、う、うわっ……。うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「ディートリヒ、何処へ行く!?」
「逃げた奴は放っとけばいいよ。それでどうするオルガ?」
「……全員、正面は避けろ!まずは回避を優先するんだ!あと少し、あと少しだけ粘ってくれ!」
「俺はどうすればいい、オルガ?」
「ミカの使いどころはちゃんと考えてある」
「そっか」
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彼は走る馬車の後部から遠ざかる戦いの様子を見ている。
(鉄華団ならば、この状況を打破してくれるはずだ。……ん?)
そう思考する
急いで振り向き、その正体を確認した彼の表情が驚愕に彩られる。
紅い影────それはディートリヒの
「アディ、キッド。ここは任せます」
「えっ?エル君?」
「どこ行くんだよ、エル?」
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真夜中の暗い森の中を紅い
周囲には森が広がるばかりで何者の姿も無い。
紅い機体は脇目も振らず、速度を緩めずにまるで何かに追い立てられる様に全力で駆けていた。
そして事実、紅い
ディートリヒを駆り立てているのは恐怖の感情だった。
しかし、突如としてグゥエールの動きが止まる。
「動けぇ……、動けぇ……」
動かないと分かったディートリヒはひとまず
いざ立ち止まって少しでも冷静さを取り戻すと、次に彼を襲ったのは猛烈な後悔の感情だった。
「俺は皆を見殺しにした?……で、でも!仕方ないんだ!あの場にいたんじゃ、無駄に殺されるだけだ!無駄死にすべきじゃないんだ!……皆を見殺しにした訳じゃない……」
自らの思考に振り回されていたディートリヒは、突如聞こえてきた音で我に返った。
圧縮空気を噴出する鋭い音。
その音とともに外の空気が
「やっと見つけましたよ。先輩」
その声の主は月光に冴える銀髪の少年────エルネスティ・エチェバルリアであった。
「単刀直入にお伺いします。先輩は逃げ出したのですよね?」
「くっ!?……あぁ、くそっ!そうだ!生き延びる道を選ぶ方が利口なのだ!」
「よかった」
「……えっ?」
「先輩からなら僕も遠慮なくグゥエールを
「我慢して下さいね。森に放り出して行く訳にもいきませんから。さてと……」
気絶したディートリヒにそう言った
左右のコンソールを破壊し、その下から操縦桿へと伸びる銀製の配線──
「ぶっつけ作業のぶっつけ本番もいいところですけど、成功させるしかありません」
つまり、
また、
頭の中で
その
「聴け!ギャラルホルンの諸君!今、三百年の眠りから、マクギリス・ファリドの下にバエルは甦った!」
《バエルだ!アグニカ・カイエルの魂!》
《やったぞ、みんな!作戦は成功だ!我々の勝利だ!》
《そうだ。ギャラルホルンの正義は我々にあり!》
《うおおおおおおおおおお!!》
ナイツ&オルガはこの後もこれくらいの長さになると思われます。長いですけど、飽きないように作りますのでお許しを。
また、なろう系以外の異世界オルガ作品のノベライズについて活動報告の方に記載させて頂きました。