「まさか、アルミリアが見舞いに来てくれるとはな。てっきり、またジュリエッタのやつが来たものだと勘違いしたぞ」
「ジュリエッタさんと仲睦まじくて何よりですわ。それでお兄様、阿頼耶識の除去手術はまだかかるのですか?」
「簡単に出来るものではないし、仕方がないだろう」
「…………」
「どうした、アルミリア?」
「いえ……。そうだ、お兄様!気分転換に屋上にでも出ませんか?」
「ああ、そうだな。では行くか」
ギャラルホルン・ヴィーンゴールヴ軍病院、屋上。
「……お兄様……」
「どうした、アルミリア?さっきから様子が可笑しいが?」
「…………マクギリス・ファリドを覚えていますか?」
「何?」
パンパンパン
「…………」
prrrrrrrr
「……はい」
《お姫さん、大丈夫か?》
「何が、ですか?」
《えっと……家族を……殺した、こと》
「お兄様は……マッキーの
《無理……してないか?》
「ライドさんは、やさしいですね」
《よしてくれ。……どうしても無理だったら俺が
「いえ、問題ありませんわ。「ガエリオ・ボードウィンは送った」と、あの魔女にお伝え下さい」
「ああ……分かった」
「野郎ども!出発だ!」
その道中、ふいに三日月の姿が消えた。
馬車で談笑をしていた途中、不意に三日月が姿を消した為、アディとキッド、そしてユージンが慌ててこう言う。
「ミカ君!?」
「ミカ!?どこいった!?」
「……おい、シノ、昭弘!三日月がどっか消えちまったんだが、どういうことだ!?」
ユージンはそれぞれガンダム・フラウロスとガンダム・グシオンリベイク・アールカンバーに搭乗するシノと
「こりゃあ、オルガになんかあったな……」
「どういうことだよ?」
「三日月はオルガの召喚獣だからな。ここから消えたという事はオルガが三日月を召喚したんだろう」
シノと
その説明を聞き、理解したユージンは馬車の御者を務めているダーヴィドへ向けて、こう叫んだ。
「親方!オルガが乗ってったモビルワーカーの反応は!どこを指してる!?」
「ちょっと、待てよ……。分かった!カサドシュ砦の近くの村『ダリエ村』だ!」
「よし、ダリエ村まで急行するぞ!」
その頃、カザドシュ砦近隣に位置するダリエ村では、複数の
「【……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】【止まるんじゃねぇぞ……】【止まるんじゃねぇぞ……】」
ヴァアアアアアア!!パン!パン!パン!
「このままじゃ、こんなところじゃ終われねぇ!【ミカァッ!】」
オルガの詠唱と同時に、地面から三日月とガンダム・バルバトスルプスレクスが現れ、メイスで
「どうすればいい、オルガ?」
「全部……潰せ」
バルバトスルプスレクスのメインカメラが獲物を見つけた狼のように赤く光った。
──数時間後──
ダリエ村に騎操士学科の生徒達と鉄華団一行が到着した時には、複数の
「【俺は止まらねぇからよ……。お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」
その村の状況を見たラフタとアジーはこう感想を述べる。
「まぁ、三日月が召喚された時点でこうなるとは思ってたけどね」
「
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ダリエ村の
「お、ありゃあ、カルダトアか。ダリエ村に向かった中隊か?早かったな」
ダリエ村の
「一機だけか?随分、やられちまったんだな」
「今、確認した。あの紋章はうちので間違いない」
『朱兎騎士団』の紋章が書かれた旗を掲げながら、近付いてくるカルダトアを見た門番はカサドシュ砦の門を開く。
「三番の整備台に入ってくれ~!」
「あいよ」
カルダトアの後ろには一台の馬車が続いていたが、カサドシュ砦の兵士達は物資の補給かまたは、
カルダトアが整備台に入っていき、カサドシュ砦の工房で働く
鍛冶師の班長が整備班に指示を出し、整備班は慌ただしく部品を運んでいく。そこまでは特に問題はなかったが、カルダトアの後ろに追従していた馬車も工房へ入ってきた為、鍛冶師の班長はその馬車に
その瞬間、風切り音とともに数本の矢が馬車から飛び出してきた。
「ぐあっ!」
その矢が鍛冶師の班長の胸を貫き、彼が血を吐いて倒れるのと馬車から武装した集団が飛び出してくるのはほぼ同時だった。
さらに時を同じくして整備台へと入っていったカルダトアもその本性を
馬車から武装する集団が飛び出していくのを確認したカルダトアは素早く剣を抜いて工房の入り口を破壊し、カサドシュ砦の増援を断った。
武装した侵入者達は工房に残った整備班の鍛冶師達を素早く排除していき、そして、最後に馬車から姿を現した女──銅牙騎士団の団長であるケルヒルト・ヒエタカンナスがこう叫ぶ。
「ぼやぼやするな!さっさとお宝を戴くよ!」
瞬く間に工房を占拠した銅牙騎士団はカルダトアに見張りをさせながら、工房内に鎮座するテレスターレに乗り込んでいく。
「お前たち、始めるよ!動ける奴からついてきな!」
時に西方歴一ニ七七年。カサドシュ砦に運び込まれたテレスターレが銅牙騎士団に奪取される事件。後に『カサドシュ事変』と呼ばれるこの事件はこうして幕を上げた。
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「これは……もしや動乱の兆し!?」
工房より火の手が上がるのを部屋から目撃した
「ディクスゴード公爵!」
「エルネスティか。お前は部屋に戻っておれ」
「事態は一刻の猶予もありません!及ばずながら僕も……」
「ならん!!」
「バエルを持つ私の言葉に背くとは」
「……い、いや。わかった!好きにするが良い!」
「ありがとうございます」
混乱の只中にある砦を突破した今、ケルヒルト達を追う者はおらず、あとは予定していた逃走経路へ入るだけだった。全ての
七機の
(援軍!?まさか、早すぎるよ!)
距離が近づくにつれ、その姿も明確になっていく。
紅色と白色の
(あれは……、まさか
その
そして、彼女の部下達も同様に、ギャラルホルン地球外縁軌道統制統合艦隊の兵士であった過去を思い出す。
「カルタ様、あれは……!」
「ああ、あれは
この頃、ダリエ村の
「あれはテレスターレ!?この夜更けにどういうことだ?」
「邪魔するやつは全体潰す」
「待て、ミカ!まだ敵か分かんねぇし、……とりあえず訳を聞くしかねぇだろ。昭弘、頼めるか?」
オルガが
「我々はライヒアラ騎操士学園の者。所用故、カサドシュ砦へ向かう最中である」
「我ら地球外縁軌道統制統合艦隊!面壁九年!堅牢堅固!」
バン!
その相手の名乗りを聞いた
「あ、すまん。撃っちまった」
「別に、普通でしょ」
「なんと、無作法な!!」
綺麗に整列した七機のテレスターレが三日月や
その攻撃をガンダム・グシオンリベイク・アールカンバーの大盾で防ぎながら、
「ここは俺とディートリヒ、シノと三日月でやる!オルガたちは馬車でカサドシュ砦へ行け!タービンズの二人は馬車の護衛についてくれ」
「エドガーさん!俺にも戦わせてくれ!」
「馬鹿を言うな!敵は
「別に、いいんじゃない?」
「何っ!?」
「俺が先行するからキッドは踏まれないように適当に着いてきて、無理はしなくていいから」
「ありがとよ、ミカ!」
「……仕方ないか」
話し合いの結果、七機のテレスターレと対峙するのは
「了解だ。頼んだぞ!昭弘っ!」
「昭弘!死なないでね。帰ったら、またギューってしてやるから!」
「だから、なんで絞められなきゃいけないんだ?」
「……っ!昭弘のバカっ!」
「話済んだ?」
「あ、あぁ」
「済んでない!」
「ラフタ、いいから行くよ!」
「まっ……待って!待ってってばぁ!」
「んじゃあ、いくかぁ!!」
三日月のその言葉で、
「生まれかったグゥエールの姿を披露するにはうってつけの舞台だ!行くぞ、エドガー!」
「了解した、守りは任せろ!ディートリヒ!!」
「何っ!?」
不意をつかれた一機のテレスターレの右腕をグゥエールが剣で斬り落とす。
「しゃらくせぇんだよぉ!!」
その後、テレスターレが
「
ディートリヒはそう叫びつつ、
その後、ガンダム・グシオンリベイク・アールカンバーの魔法による援護射撃で残った左腕も破壊され、まずは一機、テレスターレの武装を全て破壊し無力化させた。
「「あと六機!!」」
その頃、カサドシュ砦では
「革命は終わっていない!アグニカ・カイエルの意思は常に我々とともにある!皆、バエルの下へ集え!」
しかし、その声は砦内で繰り広げられている戦闘の音に書き消されてしまう。
「想定外だった……」
「准将!あれを!」
落ち込む
「あれは、鉄華団か!?」
「おそらく」
「よし、石動!あの馬車の近くで私を下ろせ!」
「はっ!」
時を同じくして、オルガやユージン、ダーヴィド達を乗せた馬車とタービンズの獅電二機はカサドシュ砦へと到着した。
そこに石動のヘルムヴィーゲ・リンカーが近付いてくる。
「久しぶりだな、オルガ団長」
「エルく~ん!」
ヘルムヴィーゲ・リンカーの手の平から下りた
「おい、銀色坊主!何だこの有り様は!?一体全体どうなってやがる!?」
「マクギリス、話を聞かせてもらおうじゃねぇか」
「私も正確なところはわからないのだ。朱兎騎士団が使用するカルダトアになりすました賊が砦を襲撃したようでな。さらに工房が占拠され、騎士団の
「さっき、ビスケットを
「ギャラルホルンの女?……カルタか!!フッ……、まさか彼女も転生しているとはな。だが、なるほど!カルタ達の目的はテレスターレ……いや、新型機自体と考えれば、辻褄は合うな……」
そこまで話した時、
「……っ!それは私の『バエル』!!」
「バエル?
オルガの声を聞くより先に
「やっと会えたな……。目を醒ませ、アグニカ・カイエル……。見せてやろう!純粋な力のみが成立させる真実の世界を!!」
「あの野郎……!仕方ねぇ、俺達も行くぞ!ユージン、俺の獅電を出せ!!」
「あっ!すまねぇ……。持ってくるの忘れた」
「…………何やってんだぁぁっ!!」
「革命は終わっていない!アグニカ・カイエルの意思は常に我々とともにある!皆、バエルの下へ集え!」
その叫びを聞いたカサドシュ砦の
「バエルだ!アグニカ・カイエルの魂!」
「そうだ。ギャラルホルンの正義は我々にあり!」
「「「「うおおおおおおおおおお!!」」」」
このカサドシュ砦の
「そうだ……。それで良い」
「ヤバイね、このままだと追い付かれちまう」
「もう、追い付いてるよ」
「逃がすか!」
逃げる
(ちなみに、シノのガンダム・フラウロスとディートリヒのグゥエール、キッドの
「ちぃっ!あたしとバッカスで正面からこいつらを押さえる。ベルナルは谷側から回り込みな!」
「「了解!!」」
敵のテレスターレ三機のうち一機が戦線から離れるのを見た三日月は「逃がすわけないだろ」と呟いた後、
「悪い、昭弘!前の二つは任せていい?」
「ああ、任せろ!」
テレスターレはその砲擊で左腕を失ったが、何とか森の中へとその巨体を隠す事が出来た。
(
三日月はバルバトスルプスレクスのテイルブレードを森の中に射出し、テイルブレードのワイヤーを森の木々に巻き付けていった。
何の注意も払わずに全力で踏み込んだテレスターレの足首にワイヤーが絡まり、その巨体は転倒して、海の中へと落ちていった。
「何っ!?バ、バカな!うわぁぁぁぁぁ!!」
「うるさいな……。オルガの声が聞こえないだろ……」
その頃、
「俺はあいつに任されたんだ。ここは引けねぇ!引くわけにはいかねぇんだよ!!」
ガンダム・グシオンリベイク・アールカンバーの猛攻に
手に持つ魔導兵装と
その後、大盾からすぐさま剣を抜き、その剣でテレスターレが手に持つ魔導兵装を真っ二つに斬る。
「ちぃっ!!」
「鉄華団!あの日の屈辱!今、ここで返させてもらう!!」
そう叫んだ
「ぐわぁぁぁぁ!!」
吹き飛ばされながらも、何とか体勢を立て直した
「なっ!?」
「これ以上
倒れたガンダム・グシオンリベイク・アールカンバーの目の前で
遠くより微かに響いていた、鋼の打ち合う音が──
それはつまり、戦闘の終了を意味する。
「終わった……ようだな」
「……だな。おい、ディー!早く三日月と昭弘のとこに戻ろうぜ」
「そうだな、シノ。だが、その前にこれだけ言わせてくれ。フラウロスの援護射撃助かった。ありがとう」
「いいってことよ!おい、キッド~!そっちは大丈夫か?」
「俺、何の役にも立たなかったな……」
「そんな事ねぇよ。おめぇの
「そっか、そうだな!ありがとう、シノさん!」
「よっしゃ、んじゃ戻るぞ~!」
ディートリヒのグゥエールとシノのガンダム・フラウロス、そしてキッドの
「三日月。昭弘はどうした?」
「分かんない。途中であいつらまた二手に別れたから俺と昭弘も別れたんだ」
「……なんか、嫌な予感がするな。道を戻るぞ!」
そう言ったディートリヒに続き、他の機体も走る速度を上げていく。
そうして、走り続けた四機は、
「あれは?……アールカンバー!」
「……っ!!?」
「エドガー!無事か!?」
グゥエールから降りたディートリヒは焦りを隠せないまま、倒れたガンダム・グシオンリベイク・アールカンバーに駆け寄る。
「……う、ディー……か?すまない、あの女を……取り逃がして、しまった……」
「あ、ああ、そうか。それより無事なのか!?待ってろ。今、砦まで運んで……」
安堵の息をついたディートリヒの提案を
「俺に構うな!!テレスターレを……賊に……渡す、訳には!!」
「エドガー!!」
「先輩!あれ……」
そのキッドが指差した先には……。
「何っ!?決闘級魔獣だと……!」
「先輩!数が多すぎる!逃げよう」
「逃げる……?」
ディートリヒはキッドのその言葉を聞き、こう思考する。
(逃げる!?逃げる……にげる……にげル……ニゲル……ニゲ……バエル!?)
「ダメだよ、キッド」
「オルガなら、こう言うだろうな。「どこにも逃げ場なんてねぇぞ」「止まるんじゃねぇぞ…」ってな」
そして、ディートリヒは『あの日』の出来事を思い出す。
《ぎゃああああああ!》
《あっ、おはようございます先輩。今は戦闘中なので、出来ればお静かにお願いしますね》
《お前っ!なんてことを、正気なのか!?いや、そもそもなぜ戦っている!?》
《私の言葉はアグニカ・カイエルの言葉》
《はぁ?》
《バエルは甦った!》
《【バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル…………】》
「ああ!逃げるなど我々には出来ない!私は二度と騎士の
再びグゥエールに乗り込み、
「では、僕がお手伝いしましょう!!」
その声の主は、
「エル!」
「待たせたな!」
「私たちもいるよ!」
「准将ぉぉぉぉ!!」
彼の後ろからは銃を片手に持つオルガと
「ミカ、シノ!何があった!?あの
「説明は後だ!まずはこいつらを片付けるぞ!喰らえ!ギャラクシーキャノン!!」
「いいから寄越せ!お前の全部、バルバトス!!」
「フッ、では、参りましょう!!純粋な力のみが成立させる真実の世界のために!!」
ヴァアアアアアア!!パン!パン!パン!
ダリエ村の災害をはるかに上回る
その時、希望の花が咲いた。
「【俺は止まらねぇからよ……。お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」
更新、遅くなりました。
ちょっと書く気力を無くしかけていたのですが、ウィンター兄貴の百錬オルガ10話を見たらやる気が出てきました。
俺は止まらねぇからよ、お前らも読むのを止めるんじゃねぇぞ……。
P.S. オルガ細胞のノベライズも書いたのでそちらも良ければ読んでみて下さい!11月4日に2話投稿します!