異世界オルガ   作:T oga

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P.D.331年。ギャラルホルン・ヴィーンゴールヴ軍病院、特別病室。

「まさか、アルミリアが見舞いに来てくれるとはな。てっきり、またジュリエッタのやつが来たものだと勘違いしたぞ」
「ジュリエッタさんと仲睦まじくて何よりですわ。それでお兄様、阿頼耶識の除去手術はまだかかるのですか?」
「簡単に出来るものではないし、仕方がないだろう」
「…………」
「どうした、アルミリア?」
「いえ……。そうだ、お兄様!気分転換に屋上にでも出ませんか?」
「ああ、そうだな。では行くか」

ギャラルホルン・ヴィーンゴールヴ軍病院、屋上。

「……お兄様……」
「どうした、アルミリア?さっきから様子が可笑しいが?」
「…………マクギリス・ファリドを覚えていますか?」
「何?」

パンパンパン

「…………」

prrrrrrrr

「……はい」
《お姫さん、大丈夫か?》
「何が、ですか?」
《えっと……家族を……殺した、こと》
「お兄様は……マッキーの(かたき)ですから」
《無理……してないか?》
「ライドさんは、やさしいですね」
《よしてくれ。……どうしても無理だったら俺が()ろうと思ってたんだが……》
「いえ、問題ありませんわ。「ガエリオ・ボードウィンは送った」と、あの魔女にお伝え下さい」
「ああ……分かった」



ナイツ&オルガ5

「野郎ども!出発だ!」

 

背面武装(バックウェポン)を装備したグゥエールをディクスゴード公爵のもとへと送り届ける(という名目でエルネスティ(マクギリス)を迎えに行く)為、ライヒアラ騎操士学園・騎操士学科の生徒達と鉄華団一行はカサドシュ砦へと出発した。

 

 

その道中、ふいに三日月の姿が消えた。

馬車で談笑をしていた途中、不意に三日月が姿を消した為、アディとキッド、そしてユージンが慌ててこう言う。

 

「ミカ君!?」

「ミカ!?どこいった!?」

「……おい、シノ、昭弘!三日月がどっか消えちまったんだが、どういうことだ!?」

 

ユージンはそれぞれガンダム・フラウロスとガンダム・グシオンリベイク・アールカンバーに搭乗するシノとエドガー(昭弘)に説明を求める。

 

「こりゃあ、オルガになんかあったな……」

「どういうことだよ?」

「三日月はオルガの召喚獣だからな。ここから消えたという事はオルガが三日月を召喚したんだろう」

 

シノとエドガー(昭弘)はサトゥーとともに過ごした異世界でドレイクにやられるまではオルガの召喚獣だった経験がある為、その経験に基づいて、ユージンにそう説明する。

 

その説明を聞き、理解したユージンは馬車の御者を務めているダーヴィドへ向けて、こう叫んだ。

 

「親方!オルガが乗ってったモビルワーカーの反応は!どこを指してる!?」

「ちょっと、待てよ……。分かった!カサドシュ砦の近くの村『ダリエ村』だ!」

「よし、ダリエ村まで急行するぞ!」

 

 

その頃、カザドシュ砦近隣に位置するダリエ村では、複数の決闘級魔獣(モビルアーマー)とオルガが希望の花を咲かせながら戦い続けていた。

 

「【……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】【止まるんじゃねぇぞ……】【止まるんじゃねぇぞ……】」

 

ヴァアアアアアア!!パン!パン!パン!

 

「このままじゃ、こんなところじゃ終われねぇ!【ミカァッ!】」

 

オルガの詠唱と同時に、地面から三日月とガンダム・バルバトスルプスレクスが現れ、メイスで決闘級魔獣(モビルアーマー)を叩き潰す。

 

「どうすればいい、オルガ?」

「全部……潰せ」

 

バルバトスルプスレクスのメインカメラが獲物を見つけた狼のように赤く光った。

 

 

──数時間後──

 

 

ダリエ村に騎操士学科の生徒達と鉄華団一行が到着した時には、複数の決闘級魔獣(モビルアーマー)の残骸と立ち尽くすバルバトスルプスレクス、そして希望の花を咲かせたオルガがいた。

 

「【俺は止まらねぇからよ……。お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

その村の状況を見たラフタとアジーはこう感想を述べる。

 

「まぁ、三日月が召喚された時点でこうなるとは思ってたけどね」

この子(オルガ)が死なないように手伝うしかないね」

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

ダリエ村の決闘級魔獣(モビルアーマー)をバルバトスルプスレクスが殲滅したのと同じ頃、カザドシュ砦には一機の幻晶騎士(シルエットナイト)が近付いていた。カルダトアだ。

 

「お、ありゃあ、カルダトアか。ダリエ村に向かった中隊か?早かったな」

 

ダリエ村の決闘級魔獣(モビルアーマー)はバルバトスルプスレクスが全て殲滅してしまったのだが、そんな事など知りもしないカザドシュ砦の騎士団は一個中隊をダリエ村へ向けて出撃させていた。

 

「一機だけか?随分、やられちまったんだな」

「今、確認した。あの紋章はうちので間違いない」

 

『朱兎騎士団』の紋章が書かれた旗を掲げながら、近付いてくるカルダトアを見た門番はカサドシュ砦の門を開く。

 

「三番の整備台に入ってくれ~!」

「あいよ」

 

カルダトアの後ろには一台の馬車が続いていたが、カサドシュ砦の兵士達は物資の補給かまたは、幻晶騎士(シルエットナイト)を失った騎操士(ナイトランナー)が乗っているのだろうと気に止める事はなかった。

 

カルダトアが整備台に入っていき、カサドシュ砦の工房で働く騎操鍛冶師(ナイトスミス)は慌ただしく動き始める。

 

鍛冶師の班長が整備班に指示を出し、整備班は慌ただしく部品を運んでいく。そこまでは特に問題はなかったが、カルダトアの後ろに追従していた馬車も工房へ入ってきた為、鍛冶師の班長はその馬車に誰何(すいか)しようと近づいた。

 

その瞬間、風切り音とともに数本の矢が馬車から飛び出してきた。

 

「ぐあっ!」

 

その矢が鍛冶師の班長の胸を貫き、彼が血を吐いて倒れるのと馬車から武装した集団が飛び出してくるのはほぼ同時だった。

 

さらに時を同じくして整備台へと入っていったカルダトアもその本性を(あらわ)にする。

馬車から武装する集団が飛び出していくのを確認したカルダトアは素早く剣を抜いて工房の入り口を破壊し、カサドシュ砦の増援を断った。

 

武装した侵入者達は工房に残った整備班の鍛冶師達を素早く排除していき、そして、最後に馬車から姿を現した女──銅牙騎士団の団長であるケルヒルト・ヒエタカンナスがこう叫ぶ。

 

「ぼやぼやするな!さっさとお宝を戴くよ!」

 

瞬く間に工房を占拠した銅牙騎士団はカルダトアに見張りをさせながら、工房内に鎮座するテレスターレに乗り込んでいく。

 

「お前たち、始めるよ!動ける奴からついてきな!」

 

時に西方歴一ニ七七年。カサドシュ砦に運び込まれたテレスターレが銅牙騎士団に奪取される事件。後に『カサドシュ事変』と呼ばれるこの事件はこうして幕を上げた。

 

 

────────────────────────────────────────────

 

 

「これは……もしや動乱の兆し!?」

 

工房より火の手が上がるのを部屋から目撃したエルネスティ(マクギリス)はディクスゴード公爵の部屋へと走る。そして、公爵の部屋の扉を勢い良く開けた。

 

「ディクスゴード公爵!」

「エルネスティか。お前は部屋に戻っておれ」

「事態は一刻の猶予もありません!及ばずながら僕も……」

「ならん!!」

「バエルを持つ私の言葉に背くとは」

「……い、いや。わかった!好きにするが良い!」

「ありがとうございます」

 

 

エルネスティ(マクギリス)が動き出した頃、銅牙騎士団は新型機(テレスターレ)を奪取し、カサドシュ砦の城門を突破して、夜の(とばり)が落ちた街道へと逃亡を開始していた。

 

混乱の只中にある砦を突破した今、ケルヒルト達を追う者はおらず、あとは予定していた逃走経路へ入るだけだった。全ての新型機(テレスターレ)を奪取するには至らなかったが七機はほぼ無傷で離脱する事が出来た。逆に銅牙騎士団の大半は時間稼ぎの為にカサドシュ砦に残っているが、それは彼女にとって想定内の事態である。

 

七機の新型機(テレスターレ)は無言のまま街道をひた走り、仲間との合流地点である森へと向かう。その道中、ケルヒルトの視界の先に六つの機影が映った。

 

(援軍!?まさか、早すぎるよ!)

 

距離が近づくにつれ、その姿も明確になっていく。

紅色と白色の幻晶騎士(シルエットナイト)と標準の幻晶騎士(シルエットナイト)より大きめの機体が四機。その四機の内、一機の機体の姿をケルヒルトは知っていた。

 

(あれは……、まさか幻晶騎士(シルエットナイト)じゃなくてモビルスーツだとでも言うのかい!!?なんであの悪魔が……ガンダム・フレームがいるんだい!!!!)

 

その悪魔(ガンダム・バルバトス)を見たケルヒルトはこの異世界(セッテルンド大陸)に転生する前の自分──カルタ・イシューだった頃の自我を取り戻した。

 

そして、彼女の部下達も同様に、ギャラルホルン地球外縁軌道統制統合艦隊の兵士であった過去を思い出す。

 

「カルタ様、あれは……!」

「ああ、あれは幻晶騎士(シルエットナイト)じゃない……。モビルスーツ──ガンダム・フレームだよ!」

 

 

この頃、ダリエ村の決闘級魔獣(モビルアーマー)の残骸回収をカサドシュ砦から来た朱兎騎士団に任せ、グゥエールをカサドシュ砦まで搬送する為、夜道を進んでいたライヒアラ騎操士学園・騎操士学科の生徒達と鉄華団一行もカサドシュ砦の方から走ってくるテレスターレを見て疑念を抱いていた。

 

「あれはテレスターレ!?この夜更けにどういうことだ?」

「邪魔するやつは全体潰す」

「待て、ミカ!まだ敵か分かんねぇし、……とりあえず訳を聞くしかねぇだろ。昭弘、頼めるか?」

 

オルガがエドガー(昭弘)へ馬車からそう指示を出す。

 

「我々はライヒアラ騎操士学園の者。所用故、カサドシュ砦へ向かう最中である」

 

エドガー(昭弘)がそう名乗ると、相手からも返答があった。

 

「我ら地球外縁軌道統制統合艦隊!面壁九年!堅牢堅固!」

 

バン!

 

その相手の名乗りを聞いたエドガー(昭弘)は本能的に彼女らを敵だと判断して、魔法で砲撃をした。

 

「あ、すまん。撃っちまった」

「別に、普通でしょ」

「なんと、無作法な!!」

 

綺麗に整列した七機のテレスターレが三日月やエドガー(昭弘)達へ向かって背面武装(バックウェポン)で牽制射撃をしながら突っ込んでくる。

 

その攻撃をガンダム・グシオンリベイク・アールカンバーの大盾で防ぎながら、エドガー(昭弘)は各機に指示を出す。

 

「ここは俺とディートリヒ、シノと三日月でやる!オルガたちは馬車でカサドシュ砦へ行け!タービンズの二人は馬車の護衛についてくれ」

「エドガーさん!俺にも戦わせてくれ!」

 

エドガー(昭弘)の指示を聞き、幻晶甲冑(シルエットギア)を纏ったキッドがそう提案する。

 

「馬鹿を言うな!敵は幻晶騎士(シルエットナイト)幻晶甲冑(シルエットギア)では相手にならん!三日月からも何とか言ってやってくれ!」

「別に、いいんじゃない?」

「何っ!?」

「俺が先行するからキッドは踏まれないように適当に着いてきて、無理はしなくていいから」

「ありがとよ、ミカ!」

「……仕方ないか」

 

話し合いの結果、七機のテレスターレと対峙するのはエドガー(昭弘)のガンダム・グシオンリベイク・アールカンバーとディートリヒのグゥエール、シノのガンダム・フラウロス、キッドの幻晶甲冑(シルエットギア)、そして三日月のガンダム・バルバトスルプスレクス。カサドシュ砦へと向かうのは馬車とタービンズの獅電二機となった。

 

「了解だ。頼んだぞ!昭弘っ!」

「昭弘!死なないでね。帰ったら、またギューってしてやるから!」

「だから、なんで絞められなきゃいけないんだ?」

「……っ!昭弘のバカっ!」

「話済んだ?」

「あ、あぁ」

「済んでない!」

「ラフタ、いいから行くよ!」

「まっ……待って!待ってってばぁ!」

「んじゃあ、いくかぁ!!」

 

三日月のその言葉で、エドガー(昭弘)達、五機がテレスターレと交戦を始め、オルガやユージン、ダーヴィド達を乗せた馬車とタービンズの獅電二機は戦線を離脱していった。

 

 

「生まれかったグゥエールの姿を披露するにはうってつけの舞台だ!行くぞ、エドガー!」

「了解した、守りは任せろ!ディートリヒ!!」

 

エドガー(昭弘)のガンダム・グシオンリベイク・アールカンバーが大盾を前に先行し、その後ろからディートリヒのグゥエールが飛び出した。

 

「何っ!?」

 

不意をつかれた一機のテレスターレの右腕をグゥエールが剣で斬り落とす。

 

「しゃらくせぇんだよぉ!!」

 

その後、テレスターレが背面武装(バックウェポン)でグゥエールを攻撃するが、それはグゥエールに難なく避けられてしまう。

 

背面武装(バックウェポン)の使い方がなっちゃいない!」

 

ディートリヒはそう叫びつつ、背面武装(バックウェポン)から魔法を放つ。グゥエールの持つ魔導兵装『風の刃(カマサ)』はオーソドックスな爆炎の魔法を放つのではなく、真空の断層を刃として発射する魔導兵装である。その風の刃(カマサ)は二発目を放とうとしていたテレスターレの背面武装(バックウェポン)を真空の断層で切り裂いた。

その後、ガンダム・グシオンリベイク・アールカンバーの魔法による援護射撃で残った左腕も破壊され、まずは一機、テレスターレの武装を全て破壊し無力化させた。

 

「「あと六機!!」」

 

 

その頃、カサドシュ砦ではケルヒルト(カルタ)達を逃がす為、砦内に残った銅牙騎士団(地球外縁軌道統制統合艦隊)と砦に常駐している騎操士(ナイトランナー)達が操る幻晶騎士(シルエットナイト)が戦い続けており、その戦いは佳境を迎えていた。

 

エルネスティ(マクギリス)はカサドシュ砦陣営に味方する石動のヘルムヴィーゲ・リンカーの手の平の上に立ち、戦うカサドシュ砦の騎操士(ナイトランナー)達に大声でこう告げる。

 

「革命は終わっていない!アグニカ・カイエルの意思は常に我々とともにある!皆、バエルの下へ集え!」

 

しかし、その声は砦内で繰り広げられている戦闘の音に書き消されてしまう。

 

「想定外だった……」

「准将!あれを!」

 

落ち込むエルネスティ(マクギリス)に石動が見せたものは砦へと近付いてくる馬車と二機の獅電だった。

 

「あれは、鉄華団か!?」

「おそらく」

「よし、石動!あの馬車の近くで私を下ろせ!」

「はっ!」

 

 

時を同じくして、オルガやユージン、ダーヴィド達を乗せた馬車とタービンズの獅電二機はカサドシュ砦へと到着した。

 

そこに石動のヘルムヴィーゲ・リンカーが近付いてくる。

 

「久しぶりだな、オルガ団長」

「エルく~ん!」

 

ヘルムヴィーゲ・リンカーの手の平から下りたエルネスティ(マクギリス)に馬車から出てきたアディが抱きつく。

 

エルネスティ(マクギリス)はアディに抱きつかれたまま、オルガやユージン、ダーヴィドと話を始める。

 

「おい、銀色坊主!何だこの有り様は!?一体全体どうなってやがる!?」

「マクギリス、話を聞かせてもらおうじゃねぇか」

「私も正確なところはわからないのだ。朱兎騎士団が使用するカルダトアになりすました賊が砦を襲撃したようでな。さらに工房が占拠され、騎士団の幻晶騎士(シルエットナイト)が奪われた事がこの苦境の原因といったところだ」

「さっき、ビスケットを()ったギャラルホルンの女がテレスターレに乗ってたが、あいつらが賊って訳か?」

「ギャラルホルンの女?……カルタか!!フッ……、まさか彼女も転生しているとはな。だが、なるほど!カルタ達の目的はテレスターレ……いや、新型機自体と考えれば、辻褄は合うな……」

 

そこまで話した時、エルネスティ(マクギリス)の視界に、馬車に積んである幻晶甲冑(シルエットギア)が映った。

 

「……っ!それは私の『バエル』!!」

「バエル?幻晶甲冑(シルエットギア)のことか?こいつはバエルじゃねぇぞ……」

 

オルガの声を聞くより先にエルネスティ(マクギリス)幻晶甲冑(シルエットギア)を纏って一人飛び出していってしまった。

 

「やっと会えたな……。目を醒ませ、アグニカ・カイエル……。見せてやろう!純粋な力のみが成立させる真実の世界を!!」

「あの野郎……!仕方ねぇ、俺達も行くぞ!ユージン、俺の獅電を出せ!!」

「あっ!すまねぇ……。持ってくるの忘れた」

「…………何やってんだぁぁっ!!」

 

 

幻晶甲冑(シルエットギア)を纏ったエルネスティ(マクギリス)は腕部のワイヤーアンカーを使い、立体機動で空を舞いながら、幻晶甲冑(シルエットギア)の拡声器を使い、再度こう叫ぶ。

 

「革命は終わっていない!アグニカ・カイエルの意思は常に我々とともにある!皆、バエルの下へ集え!」

 

その叫びを聞いたカサドシュ砦の騎操士(ナイトランナー)達は高揚した。

 

「バエルだ!アグニカ・カイエルの魂!」

「そうだ。ギャラルホルンの正義は我々にあり!」

「「「「うおおおおおおおおおお!!」」」」

 

このカサドシュ砦の騎操士(ナイトランナー)達も漏れ無くエルネスティ(マクギリス)の洗脳魔法を受けていたのだった。

 

「そうだ……。それで良い」

 

 

エルネスティ(マクギリス)のバエル鼓舞によって、カサドシュ砦の騎操士(ナイトランナー)の士気が上がったこの時、ケルヒルト(カルタ)達は鉄華団を()いて逃げようと必死だった。

 

「ヤバイね、このままだと追い付かれちまう」

「もう、追い付いてるよ」

「逃がすか!」

 

逃げるケルヒルト(カルタ)達三機の後ろには、三日月のガンダム・バルバトスルプスレクスとエドガー(昭弘)のガンダム・グシオンリベイク・アールカンバーの姿があった。

(ちなみに、シノのガンダム・フラウロスとディートリヒのグゥエール、キッドの幻晶甲冑(シルエットギア)は二手に別れて逃げたもう一方の三機を追っている)

 

「ちぃっ!あたしとバッカスで正面からこいつらを押さえる。ベルナルは谷側から回り込みな!」

「「了解!!」」

 

敵のテレスターレ三機のうち一機が戦線から離れるのを見た三日月は「逃がすわけないだろ」と呟いた後、エドガー(昭弘)に指示を出す。

 

「悪い、昭弘!前の二つは任せていい?」

「ああ、任せろ!」

 

エドガー(昭弘)の返答を聞いた三日月はバルバトスルプスレクスの腕部200mm砲を発砲しながら、逃げたテレスターレを追撃する。

 

テレスターレはその砲擊で左腕を失ったが、何とか森の中へとその巨体を隠す事が出来た。

 

(幻晶騎士(シルエットナイト)はモビルスーツよりも小柄だ。この森の中なら幻晶騎士(シルエットナイト)の隠密性が有利になるはず)

 

銅牙騎士団(地球外縁軌道統制統合艦隊)の兵士はそう考えていたのだが、バルバトスルプスレクスの行動は彼の斜め上をいっていた。

 

三日月はバルバトスルプスレクスのテイルブレードを森の中に射出し、テイルブレードのワイヤーを森の木々に巻き付けていった。

 

何の注意も払わずに全力で踏み込んだテレスターレの足首にワイヤーが絡まり、その巨体は転倒して、海の中へと落ちていった。

 

「何っ!?バ、バカな!うわぁぁぁぁぁ!!」

「うるさいな……。オルガの声が聞こえないだろ……」

 

 

その頃、エドガー(昭弘)もテレスターレを一機撃墜させ、ケルヒルト(カルタ)と一対一の状況を作り出していた。

 

「俺はあいつに任されたんだ。ここは引けねぇ!引くわけにはいかねぇんだよ!!」

 

ガンダム・グシオンリベイク・アールカンバーの猛攻にケルヒルト(カルタ)のテレスターレは押されていた。

 

手に持つ魔導兵装と背面武装(バックウェポン)の三門の砲塔を駆使して、魔法攻撃でエドガー(昭弘)の動きを押さえようとしたケルヒルト(カルタ)だったが、その攻撃はガンダム・グシオンリベイク・アールカンバーの大盾によって全て防がれてしまう。

 

その後、大盾からすぐさま剣を抜き、その剣でテレスターレが手に持つ魔導兵装を真っ二つに斬る。

 

「ちぃっ!!」

 

ケルヒルト(カルタ)は手に持つ武器を真っ二つに斬られた魔導兵装から剣へと切り替える。エドガー(昭弘)はその剣の攻撃を大盾で防ぐ。

 

「鉄華団!あの日の屈辱!今、ここで返させてもらう!!」

 

そう叫んだケルヒルト(カルタ)はガンダム・グシオンリベイク・アールカンバーの大盾を掴み、ゼロ距離で背面武装(バックウェポン)から魔法を撃つ。

 

「ぐわぁぁぁぁ!!」

 

ケルヒルト(カルタ)のテレスターレの魔法攻撃をもろに食らったエドガー(昭弘)のガンダム・グシオンリベイク・アールカンバーはその衝撃で大盾を手放し、後方へと吹き飛ばされた。

 

吹き飛ばされながらも、何とか体勢を立て直したエドガー(昭弘)のガンダム・グシオンリベイク・アールカンバーが剣を構えるも、その剣はすぐさまケルヒルト(カルタ)のテレスターレの剣で弾き飛ばされてしまい、丸腰になったガンダム・グシオンリベイク・アールカンバーの左脚がケルヒルト(カルタ)のテレスターレに斬られた。

 

「なっ!?」

「これ以上魔力(マナ)を使いたくないからね……。これでおしまいにするよ!!」

 

倒れたガンダム・グシオンリベイク・アールカンバーの目の前でケルヒルト(カルタ)は剣を無慈悲に振り下ろした。

 

 

遠くより微かに響いていた、鋼の打ち合う音が──()んだ。

 

それはつまり、戦闘の終了を意味する。

 

「終わった……ようだな」

「……だな。おい、ディー!早く三日月と昭弘のとこに戻ろうぜ」

「そうだな、シノ。だが、その前にこれだけ言わせてくれ。フラウロスの援護射撃助かった。ありがとう」

「いいってことよ!おい、キッド~!そっちは大丈夫か?」

「俺、何の役にも立たなかったな……」

「そんな事ねぇよ。おめぇの幻晶甲冑(シルエットギア)がやつらを撹乱(かくらん)してくれたおかげで楽に賊どもをやれたんだ。マクギリスの奴に自慢してやれよ!」

「そっか、そうだな!ありがとう、シノさん!」

「よっしゃ、んじゃ戻るぞ~!」

 

ディートリヒのグゥエールとシノのガンダム・フラウロス、そしてキッドの幻晶甲冑(シルエットギア)は三日月、エドガー(昭弘)と決めた合流地点へと向かった。しかし、その合流地点には三日月のガンダム・バルバトスルプスレクスしかおらず、エドガー(昭弘)のガンダム・グシオンリベイク・アールカンバーの姿はなかった。

 

「三日月。昭弘はどうした?」

「分かんない。途中であいつらまた二手に別れたから俺と昭弘も別れたんだ」

「……なんか、嫌な予感がするな。道を戻るぞ!」

 

そう言ったディートリヒに続き、他の機体も走る速度を上げていく。

 

そうして、走り続けた四機は、エドガー(昭弘)の元へと辿り着いた。そこで四人が見たのは、倒れ伏したガンダム・グシオンリベイク・アールカンバーの姿だった。

 

「あれは?……アールカンバー!」

「……っ!!?」

「エドガー!無事か!?」

 

グゥエールから降りたディートリヒは焦りを隠せないまま、倒れたガンダム・グシオンリベイク・アールカンバーに駆け寄る。

 

「……う、ディー……か?すまない、あの女を……取り逃がして、しまった……」

「あ、ああ、そうか。それより無事なのか!?待ってろ。今、砦まで運んで……」

 

安堵の息をついたディートリヒの提案をエドガー(昭弘)の鋭い声が(さえぎ)る。

 

「俺に構うな!!テレスターレを……賊に……渡す、訳には!!」

「エドガー!!」

「先輩!あれ……」

 

エドガー(昭弘)を心配して、その場を動こうとしないディートリヒにキッドが何かを指差してそう言った。

 

そのキッドが指差した先には……。

 

「何っ!?決闘級魔獣だと……!」

 

決闘級魔獣(モビルアーマー)の群れが道を塞いでいた。

 

「先輩!数が多すぎる!逃げよう」

「逃げる……?」

 

ディートリヒはキッドのその言葉を聞き、こう思考する。

 

(逃げる!?逃げる……にげる……にげル……ニゲル……ニゲ……バエル!?)

 

「ダメだよ、キッド」

「オルガなら、こう言うだろうな。「どこにも逃げ場なんてねぇぞ」「止まるんじゃねぇぞ…」ってな」

 

そして、ディートリヒは『あの日』の出来事を思い出す。

 

《ぎゃああああああ!》

《あっ、おはようございます先輩。今は戦闘中なので、出来ればお静かにお願いしますね》

《お前っ!なんてことを、正気なのか!?いや、そもそもなぜ戦っている!?》

《私の言葉はアグニカ・カイエルの言葉》

《はぁ?》

《バエルは甦った!》

 

《【バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル、アグニカ・カイエル、バエル…………】》

 

 

「ああ!逃げるなど我々には出来ない!私は二度と騎士の矜持(きょうじ)を捨てはしないと誓ったのだ!」

 

エルネスティ(マクギリス)の洗脳魔法を受けたディートリヒの頭の中にある辞書には「逃げる」という文字はすでに存在しない。

 

再びグゥエールに乗り込み、決闘級魔獣(モビルアーマー)の群れへと剣を向けてそう叫ぶディートリヒの後ろから一機の幻晶甲冑(シルエットギア)が彼らの頭上から現れた。

 

「では、僕がお手伝いしましょう!!」

 

その声の主は、エルネスティ・エチェバルリア(マクギリス・ファリド)

 

「エル!」

「待たせたな!」

「私たちもいるよ!」

「准将ぉぉぉぉ!!」

 

彼の後ろからは銃を片手に持つオルガと幻晶甲冑(シルエットギア)を纏ったアディ、ヘルムヴィーゲ・リンカーに乗った石動も現れた。

 

「ミカ、シノ!何があった!?あの(ギャラルホルン)は?この魔獣は?それに昭弘は!?なんで倒れてる!!?」

「説明は後だ!まずはこいつらを片付けるぞ!喰らえ!ギャラクシーキャノン!!」

「いいから寄越せ!お前の全部、バルバトス!!」

「フッ、では、参りましょう!!純粋な力のみが成立させる真実の世界のために!!」

 

ヴァアアアアアア!!パン!パン!パン!

 

ダリエ村の災害をはるかに上回る決闘級魔獣(モビルアーマー)の群れもエルネスティ(マクギリス)達の夜を徹した活躍で完膚なきまでに駆逐された。

 

その時、希望の花が咲いた。

 

「【俺は止まらねぇからよ……。お前らが止まらねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」

 

 




更新、遅くなりました。

ちょっと書く気力を無くしかけていたのですが、ウィンター兄貴の百錬オルガ10話を見たらやる気が出てきました。

俺は止まらねぇからよ、お前らも読むのを止めるんじゃねぇぞ……。


P.S. オルガ細胞のノベライズも書いたのでそちらも良ければ読んでみて下さい!11月4日に2話投稿します!


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