その城は王都から少し離れた丘の上にあった。
俺たちはギルドの依頼でその城に棲む魔物の調査をしに行くため、馬車を走らせていた。
しかし、女性陣はあまりやる気ではないようだ。
なぜなら、今から調査に行く魔物というのが、服を溶かしてくるスライムだからだ。
「せっかく琥珀も入って、みんなでやる最初の依頼なのに……」
「楽しみです!」
冬夜は喋る白い虎のぬいぐるみを胸に抱きながらやる気のない女性陣に対してそう言った。
ん?なんだこの白い虎。
「誰なんだよ。そいつは」
「冬夜さん。琥珀ちゃんのこと、オルガさんには話してなかったんですか?」
「あっ、忘れてた」
「忘れるんじゃねぇぞ……」
冬夜とユミナは数日前にその白い虎(西の聖域を守護する神獣『
《白い虎……
《少女よ、もう私は
《これが『
王の横に立つ白い虎ってことか。
つまりこいつの横に立てば火星の王に……。
「オルガさん、よからぬことを考えてはいませんか?」
「勘弁してくれよ……」
ちょっと心の中で言ってみただけじゃねぇか……。
スライム城へとやって来た俺たちは玄関ホールの大きな両開きの扉を静かに開けた。
女性陣は怖がって中へと入ってこないので、俺とミカ、そして冬夜が先に城の中へと足を踏み入れ、城内の様子を探る。
「ちょっと薄気味悪いけど、大丈夫だ。みんなも入ってきなよ」
冬夜がそう言った瞬間、俺の頭の上に
「う"う"っ!……こんくらいなんてこたぁねぇ!」
「全然、大丈夫じゃないじゃない!」
まぁ、金たらいで頭を打っただけだ……。こんくらいなんてこたぁねぇ……。いや、なんか意識が
その時、希望の花が咲いた。
「【俺は止まんねぇからよ、お前らが止まんねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」
「冬夜さん!たらいが……!」
ユミナが俺を殺した金たらいを見て、驚きの声を上げる。
俺を殺した金たらいは灰色のスライムへとその姿を変えた。
「スライム?」
「でも、見たことも聞いたこともないスライムです」
「新しく作り出したのでござろうか?」
「なんの役に立つんだ?」
俺を殺すのに役立ったじゃねぇか……。
その後、俺たちは調査のため、城の奥の方へと進んでいった。
「と、冬夜さん……」
進んでいる途中、リンゼが怯えた声で冬夜の名を呼んだ。
リンゼがゆっくりと指を差した方向にいたのは、緑色のスライムの群れだった。
「うわっ!?なんだこれ」
「ひぇっ……」
「グリーンスライム……」
女性陣が皆、怯えて後ずさる。
「琥珀!」
「お任せを!」
冬夜が琥珀の名を呼ぶと、小さな虎のぬいぐるみが大きな白虎へと姿を変え、口から衝撃波を放つ。
グリーンスライムはその衝撃波で吹き飛んで、壁に打ちつけられたが、ダメージは与えられていないようで、すぐにこちらを追ってきた。
「二階だ!二階に避難しよう」
冬夜は近くにあった階段を指差して、そう叫ぶ。
ミカが最初に逃げ、次にエルゼ、八重、リンゼ、ユミナ、そして冬夜が階段の方へ走っていく。
「待ってくれ!」
俺も慌てて、冬夜の後を追うが、後ろからグリーンスライムがものすごい勢いで迫って来る。
ヴァアアアアアア!!パン!パン!パン!
銃での応戦も虚しく、俺はグリーンスライムの餌食となった。
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「助かった……」
階段を登り、二階に逃げた僕は
「いえ、しかし……」
そんな僕に琥珀は1階にいるグリーンスライムの餌食となったオルガを見るよう促した。
「うげっ!」
僕はその惨状を見て、吐き気を
そこにはグリーンスライムによって服を溶かされ、あられもない姿になっているオルガがいた。
溶けかかっている赤いスーツの破けた大きな穴から、スライムが分泌する体液でヌルヌルに輝くその鍛え上げられた体の
「……【ゲート】……みんなも行こ……」
「賛成っ!!早く、こんなとこ出ましょうよ!」
流石に見ていられなくなった僕は【ゲート】を開いて、みんなと一緒にスライム城を出る。
……今回のギルドの依頼は失敗だな。
「【炎よ爆ぜよ、紅蓮の爆発、エクスプロージョン】!!」
スライム城を出たとき、リンゼが城へ向かって【エクスプロージョン】を放った。
えっ!?そこまでするの!
「浄化よ」
「浄化……です」
「浄化でござる」
「浄化ですね」
女性陣はみんな、浄化だと言い張っている。
あの……中にオルガがまだ残ってるんだけど……。
「オルガはもう居なくなった……」
ミカさん……。ちょっとオルガに
まぁ、オルガは生き返れるからいいか。
「なんか、散々だったね」
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気がついたら、俺の周りにいたスライムは居なくなり、辺りが燃え盛っていた。
どうやら、俺がスライムに襲われている間に冬夜たちは【ゲート】で逃げて、リンゼが【エクスプロージョン】で俺とスライムもまとめて城を燃やしたらしい。
……またも俺は逃げ遅れた訳だ……。
このまま、スライムと運命を共にする訳にはいかない。
俺は城の出口へと歩きながら、もし焼死したときのためによみがえるための呪文を口ずさんでいた。
「【ミカ、やっと分かったんだ……。俺たちには辿り着く場所なんていらねぇ!ただ進み続けるだけでいい……。止まんねぇかぎり、道は続くッ!】」
その時、希望の花が咲いた。
「【俺は止まんねぇからよ、お前らが止まんねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!……だからよ、止まるんじゃねぇぞ……】」
私もイセスマのエンディングは好きです。