ハインツのモン/ハン観察日誌   作:ナッシーネコゼ
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▼レポート2:『砂漠に咲くは雪山草?』
フタコブに跨って


 大陸中央のドンドルマから更に南下。山を一つ越えた先には、見渡す限り砂の更地が広がっている。デデ砂漠とセクメーア砂漠に分かれる二大砂漠を中心に、数々のハンターが狩場として行き来するこの地方では未だに新しい発見が尽きない。砂漠の拠点として機能しているレクサーラも、ここ数年でハンターたちの活動範囲の拡大から重要な役割を果たしている。

 

 天と地の距離が縮まったかのように圧縮された熱量漂う空間。乾いた空気は鼻から喉を通して加湿するための貯蔵水分を次々と消費していき、同時に流れる出る汗は体力の蝕みを更に加速させる。

 その場にいるだけで命を削っているかのような過酷な環境。その炎天下に身を投じてからおよそ四日目。若き書士隊は、見事に砂漠地帯での洗礼を受け、昼間から日陰の簡易寝具で死んだ魚のように横たわっていた。

 

「暑い……クーラードリンク後何本あります?」

「君が三本、吾輩で二本、合わせて五本であるな。少し休んだら次のポイントまで進むとしよう」

 

 ハインツの虚ろな瞳の先には、紅蓮の装いで身を固めた熟練ハンターのウィンブルグが、表情の見えないヘルム越しで心配そうに彼を見下ろしている。

 真昼の砂漠には必需品とされるクーラードリンクも、携行できる数には限りがある。特にウィンブルグの纏う真紅に輝く炎戈竜の鎧は、ハインツが愛用するレザー製のものと違い近接戦闘に特化した仕様で作成されている。

 堅牢な防御力に加えて装着者の動きを極力阻害しないよう、ポーチ以外の収納できるスペースは限りなく排除されているため、携帯できる物資も必然的に限られる。備えあれば憂いなしと言うが、備えすぎて機動力を削ぐことはハンターとして活動する上でも重要な裁量なのだ。

 

「まるで地獄ですよ。その格好で暑くないんですか」

「うむ。吾輩の主戦場は火山であったからね。これも耐熱性に優れたものなのだよ」

「見た感じは金属製の鎧にしか見えないのに、蒸し焼きにならないのは鍛冶屋の技術が進んでるんですね……」

 

 自慢げに鎧を見せびらかすウィンブルグであるが、炎戈竜ことアグナコトルは大型モンスターの中でも厄介な火山を根城にしている。それを討伐した証が現在彼が身に着けている鎧であり、己の栄光そのもの。つまり、ウィンブルグのハンターとしての技量を分かりやすく視覚化させていた。

 

 そして、そもそも何故ハインツが現在の状況に至っているかであるが、これにはそこまで深くはないが歴とした訳がある。

 

◆◆◆◆◆

 

 約十日の道程をかけてドンドルマへ辿り着いたハインツ達であるが、その滞在期間はわずか一日。束の間の休息を期待していたハインツの思惑とは裏腹に、到着してすぐに合流したハインツの上司、"センセイ"ことラッセルは顔を合わせるなり一言。

 

「次、砂漠じゃ。出発は明日。用意しとくんじゃぞ」

 と、なんとも軽く言ってのけたのだった。

 

「あの、お休みとかは……? 報告とかもありますし」

「砂漠じゃ。面白い情報が入ったんじゃよ。すぐに動かんと逃すかもしれん。今度こそ記録(スケッチブック)を忘れるなよ?」

「えっと、は、はい……」

 と、ハインツ。

 

「ははは、流石に長旅で吾輩の持病(ようつう)も限界である。せめてあとニ日くらい休息を頂いても罰は当たらないのでは……」

「明日じゃ。ウィンブルグ君にはワシも愛用している、この腰痛ベルトを進呈しよう」

「ははは、そんな御無体な」

 と、ウィンブルグ。

 

「私の防具を整える時間は?」

「じゃあリィタだけ遅れて出発じゃ」

「うん」

 と、リィタ。

 

「センセイ、リィタにだけ甘くないですか?!」

「れでぃ・ふぁーすと、じゃ」

 と、ラッセル。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 所謂、馬車馬のごとく働けと上司(ラッセル)から部下(ハインツ)へ直接のお達しが下ったのであった。あえて現代語で言うならパワハラである。

 しかし当然、対価に見合う報酬もある。約束された休日だ。それを励みに、ハインツはウィンブルグとともに一足早く、砂漠地帯へと足を踏み入れたのであった。

 再び立ち上がったハインツは、今回の護衛であるウィンブルグと砂漠の道なき道を進み始めることにした。なんとも男臭い旅路である。

 

 ハインツは束の間の相棒となった、日陰で同じく休んでいるラマラダに目を向けた。

 砂漠を進むには必須と言われる奇蹄目・ラマラダ科に属するこの生物は、背中に二凸のコブを備えた四足動物だ。コブの中には豊富な水と栄養を蓄えているとされ、砂漠のような過酷な環境でも長期的に活動できる稀有な生物となっている。やや面長で間抜けそうな面構えをしているが、彼もこれはこれで愛嬌があるものだと感じていた。

 人間の一回り大きい体躯に跨ると、ラマラダは無言で休めていた四足を立ち上げ、搭乗したハインツに緩やかな浮遊感を与える。

 

「躾が行き届いてますね。どこかの猫とは大違いだ」

「猫? まあ、吾輩のホイットニーもすこぶる調子が良いみたいである」

「勝手に名前つけちゃったんですか? 飼うなんて言い出さないでくださいよ?」

「はっはっはっ。そんな余裕、吾輩にはないのである。オトモアイルーでさえ養う余裕が無いのだからな!」

「それ笑ってて良いんですか……?」

 

 呆れた表情でウィンブルグを見やるハインツ。書士隊護衛の給料はあまり良くないのだろうか。そもそもの護衛先が下っ端(ハインツ)なのだから、と言ってしまえばお終いであろうか。

 

 ウィンブルグに勝手に名前をつけられたラマラダ(ホイットニー)も何のそのと、彼の自虐を気にも留めない様子で日陰から表へ歩き出した。照りつける日差しが再び書士隊一向に襲いかかるが、クーラードリンクにより最低限の熱中症予防はしている。残るは日差しと己の我慢比べである。

 

 しばらく無言の道筋が続くが、およそ十分ごとに互いへの声掛けは忘れない。干物になってないかどうか、生存確認と言ったところだ。

 

「……今度、吾輩とアグナコトルの死闘の話を聞かせてあげようか。有料だが後学になるぞ?」

「いや、もう聞いたことあるんでいいですよ……」

「ならば同期の諸君を誘ってくれたまえ! アグナコトルの生態を生で感じた実体験だ! 若い女の子がいれば更にいいぞ?」

「欲望ダダ漏れじゃないですか……それに一度やって集まりませんでしたよ。用意するならキリンくらいの(ネタ)じゃないと。熱烈な奴ならすぐに集まりますよ?」

 

 再び熱に浮かされ始めるハインツの思考は、己の武勇伝を語りたがるのは男性ハンターによく見られる傾向だと、近年の報告会で上がっていたことをふと思い出した。

 そんなものまで記録にまとめるというのだから、ときどき書士隊は税金泥棒と揶揄されることがある。忘れてはならないのが、書士隊の名は栄光ある"王立"古生物書士隊、つまり御役所仕事なのだ。ハンターがモンスターから注意(ヘイト)を集めるように、ハインツたち書士隊は国民から妬み(ヘイト)を集めやすい存在なのである。

 

「キリンは専門外であるなぁ。グラビモス好きの若い子はどうかね?」

「僕の同期で小遣い稼ぎを考えないで下さい。……そもそも火山なんて危険地帯、同期でも入山許可取れてるの一握りですって」

「火山の良さがわからないとは勿体ない……む、そろそろ次のポイントが目視できるな」

 

 一面砂の海から一転、水源の周りに文化は栄える。

 砂漠のオアシス、名もなき集落への到着が、今回の調査の本当の出発地点。

 

「集落ですね。さあ、もうちょっとだ。頑張るんだよラマラダ(オトコマエ)

 

 ハインツは密かにつけた自慢の名前を披露してみせるが、隣のウィンブルグがヘルム越しに渋い表情をしていたのには気付かない。

 

「ほう……負けるなラマラダ(ホイットニー)よ!」

 

 手綱を引くと、操者の意思に応えるようにラマラダは奮起する。柔らかい足底は砂の大地を的確に掴むと、スピードを上げて真っ先に水辺へと走り出した。

 

 

 




砂漠編が開始です。男二人でむさ苦しい状態になっています。

ちなみにラマラダは公式で存在してるそうですが、今回の設定は完全に創作となっています。








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