専業主夫目指してるだけなんですけど。   作:Aりーす

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時系列的には今までの話をほとんど通る感じの時系列です。ちなみに美作昴という男視点です。9割はイケメンな男性遠月学園生徒の中に突然現れた新星、その巨体と厳つい顔、さらに隠れきれない不審者感を備え持つキングオブストーカー。それのどこが悪い事なんですゥ?ってセリフの時の顔が面白いです。知らない方は美作昴と画像検索して見てください。それで出てくる人は洋菓子店の息子です。




▶︎8–3(リクエスト回–3)【追跡】

 

 

 俺がやってる事が正しいとは思わない。だが悪いと感じる事はいつからか無くなっている。その時から俺は今の自分になっていたのだろうか。まぁどうでも良い事だ。

 

 時に思う。この世の中は理不尽だと。例えばスポーツに置けばバスケ。身長の高さで優遇が決まる人だっている。それは料理の世界でも言える事だ。

 

 ほんの少し有名な店だから……たったそれだけの理由で他者の店は淘汰される運命にすらある。ほんの少しの理由だけで、人は差別され、正当な評価を受ける事がなくなる。

 

 とことんふざけた世の中だ。どの世界だろうと差別された人間に、もう一度チャンスが来るほど優しい世界ではない。それなら正当な評価を受けるにはどうすれば良い?

 

 決まっている。それならばほんの少し上に立てる人間であれば良い。差別される側の人間になれば、食われるのをただ待つだけの小動物に過ぎない。どれだけ力があろうと、発揮できなければゴミ同然。

 

 なら差別される側の人間を俺自身が作れば良い。どれだけ失うものがあろうと、それは他者にとっての失う物。俺には一切関係がない話なのだから。

 

 弱い者が食われるなんざよくある話だ。教科書に載る偉人だろうが、国のトップだろうが、ほんの少しの失敗やほんの少しの問題だけで死に、またはトップの座から降ろされている。

 

 認められないだけの世界のまま、生きていくなんて俺はゴメンだった。誰にも見られないまま1人で生きていく、そんな生き方を俺は求めちゃいなかった。

 

 生まれた時から勝手に期待され、答えようとしたら、期待を裏切るような行為としか見られなくなった。それならば最初から期待なんてされなければ良かったんだ。

 

 弱いまま生きていりゃあ、強い者と勘違いする自分なんざ生まれなかった。弱い自分をひた隠しにしようとするのは仕方ない、なんて考えも生まれなかった。

 

 目の前で泣いている女の気持ちも、弱いままなら分かってやれたのかもしれない。そう頭の中では思っていようが、今の自分にそんな考えは不要と、脳が判断する。

 

 自分は強い、そんな言葉に惑わされている俺に弱者の気持ちは分からない。淘汰される側の人間の気持ちは分からない。分かってはいけない。分かれば俺はまた弱者の頃の俺に戻ってしまう。

 

 俺と目の前で泣く女の食戟を見ていた観客も、審査員も誰も彼も……俺を親の仇であるかのように見ている。女は一点を見続ける。俺の手にある女が使っていた、大事な包丁を虚ろな目で見続けている。

 

 何本目になるだろうか。食戟で手に入れ奪った人の包丁は。何回目だろうか。俺が数多の観客に睨まれ、蔑まれるような視線の中心にいるのは。

 

 ……くだらねぇ。そうやって見ることしか出来てない奴らが、何が出来る?悔しいなら俺を殴ればいい。食戟を挑めば良い。ただただ見てるだけの連中は、自分が強いと勘違いする奴らの集まりだ。

 

 イジメが起きれば最も責められるべきなのは、黙って見てる連中だ。それを認めようとしない大人なら尚更罰されるべきだ。ただ見てるだけの連中が偉そうに正義を語るんじゃねぇ。

 

 語るなら俺を罰してみろ。そして……こんなクソッタレに堕ちた俺を、誰でもいいから……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勝てない。そう思った事はあるし、どの手を使おうと勝算が見えない時だってある。だが、勝算を考えることすらふざけている、と思ったのは初めてかもしれない。

 

 毎日毎日飽きずにやり続けている授業。そこに初めて見る奴がいたというだけ、最初はそれだけの印象だった。俺の中でリストアップしてる連中には入っていない、そんな奴が。

 

 だが誰かは知っている。千崎雪夜……幸平創真と同じ編入生であり、いまだに一度も食戟をしていないにも関わらず、かなりの頻度で噂を聞く事がある。

 

 大半は悪口だ。編入初日にいきなり生徒に喧嘩をふっかけた、そう思われてもおかしくない挨拶をしていたからだ。そりゃ悪い噂が広まるに決まっている。

 

 だがその中で広がっている噂はそいつの腕前。授業を見た奴曰く、その場所だけ世界が違うのではないか、という錯覚にすら陥るらしい。教師陣からもA判定を受けている。

 

 A判定を貰い続けるというのは別に珍しい、とは言えない。薙切えりなやその秘書、幸平創真……他にも薙切アリスやタクミ・アルディーニなど、A判定を貰い続けている連中はいるからだ。

 

 ……まぁそいつらに負けているつもりはねぇ。腕前だけならともかく、食戟ってのはまた世界が違う。ルールに縛られた世界ってのは、ほんの少しの理由だけで簡単に支配下における。

 

 噂が正しいのかどうか、確かめさせてもらう。そう思っていただけで、ほんの少し目をやる回数が多かっただけだ。そしてそれは噂では無く、確信に変わる。

 

 雰囲気があまりにも違う。一つの食材に向ける感情、それがオーラのように出ているかのように。だがおそらく、仮説に過ぎないがそれは他の奴らには理解できないものだ。

 

 もし料理を少し出来る程度なら確実に気づかない。料理が出来る程度になれば雰囲気が違う事に気づく可能性はある。だが、それは所詮気付くだけに過ぎない。

 

 人ってのは第一印象が悪ければ、その後どういった立ち振る舞いをしても悪い風に見えてしまう。それと同じだ。雰囲気が変わってると思っていても、脳はそれを否定する。

 

 編入生というレッテル、挨拶での煽り。それらの第一印象が正当な評価を脳が拒んでいるわけだ。他の生徒からしてみれば、立ち振る舞いが完璧であろうと、美味しいかどうかは別だ、そう頭で思っている。

 

 作った料理を教師が食べ、A判定をもらう。だがそれすらも信じていない。最早哀れに感じるほどだ。A判定を貰ったのもたまたまだろ?としか思っていない弱者の集まりだから、だろうか?

 

 だが紛れもなく、千崎雪夜は強者だ。奴の周りに薙切えりなや幸平創真がいる事も頷ける。強者ならば分かる、千崎雪夜の異常性とその強さ。

 

 ……そしてこれは俺にしか分からない事だ。おそらく千崎雪夜は弱者の部類だ。……いや、正確には千崎雪夜自身が千崎雪夜を弱者として見ている。

 

 ……ははっ、アレには勝てねぇ。俺の全てを集めようが、小石のように蹴り飛ばされるだろうな。……だが負けるだけってのはゴメンだ。調べ尽くして、調べ尽くして、その上で判断する。

 

 千崎雪夜という人間を、美作昴という人間が超えられるかどうかを、な。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこから行動は早かった。だがはっきり言おう。全てが弱者のそれに近い。生活態度も普通、寝る時間から起きる時間、過ごしている時間の殆どが普通の人間と同じなのだ。

 

 その中で垣間見える異常性はあった。夜中に自分で料理を作っていた、それは遠月学園の生徒ならする事はある。だが、行動そのものは普通じゃなかった。

 

 その時も俺は千崎雪夜の作る姿を見ながらメモをしていた。だが千崎雪夜は俺を見るなり、自分の所に招いてきたのだ。

 

「……食べるか?」

 

「っ!?……そりゃ、俺に言ってんのかい?」

 

「まぁ、な。それ以外人はいないだろう?」

 

「へぇ……食わせても良いのか?俺にだぞ?」

 

 実際、俺のやり方などは広まっている。もちろんそれを知らない奴、というより興味がない奴は俺のやり方は知らないだろう。千崎が俺のやり方を知っているかどうかも謎だ。

 

「……何の問題もない。見ていたのも知ってるからな」

 

「別にそれに関しちゃ驚きはしねぇが……それでも俺に食わせるってか?」

 

「……やり方の参考になるかもしれないし、聞きたいだけだ」

 

 ……俺のやり方を知ってなお、俺に食わせる、か。しかも俺にやり方を見せて味まで俺に教えるなんてな。俺も舐められたもんだ。

 

 さらに俺のやり方の参考だと?お前の作り方は全てメモしてある。味が分かればメモと合わせればお前の料理は完全に把握したも同じ。いつだってお前を喰い殺せる。

 

 一口、口に運ぶ。そして瞬間、俺の頭によぎったものは間違いでも勘違いでもないだろう。

 

 ……俺のやり方じゃあ、勝てねぇと。メモと比べてもこいつの料理は殆どがレシピ通りだ。どちらかと言えば高級食材より安価な食材を使っている。

 

 安価な食材ならアレンジの幅はかなり広がる。高い食材ってのはそれだけで完成された食材だ。無駄なアレンジをすれば旨さを殺される可能性もある。

 

 だがこれには、アレンジの余地があるとは思えなかった。何故か?この料理は完成された料理だから、としか言いようがない。

 

「……美味い。こりゃ……本当にただの料理か?」

 

「……変哲も無い、アマトリチャーナだが……?」

 

「……はっ、ふざけてやがる。参考になるなんて、嘘つきやがって……」

 

「……そうか。参考になれば良かったが、実力不足だな」

 

 強者は強いと感じた瞬間、自らを磨く事を止めることがある。または壁にぶつかり、自らの強さを隠してしまう人間もいる。だが千崎雪夜は強者であるが、自分を強いと感じていない。壁にぶち当たる事はあるだろうが、それを乗り越えている。

 

 世界が違う、なんて表現をしたのは何処のどいつだ?全くもってその通りじゃねぇか。料理の腕前だけじゃねぇ、人としても強者の部類だ。しかも弱肉強食の世界なら頂点に立てるほどに。

 

「……千崎雪夜、お前は調べてた以上に変な奴だな」

 

「……変?」

 

「……けっ、まぁ良い。美味かった、ありがとな」

 

「あぁ。また、いつか」

 

「……会うかどうかは分からねぇがな」

 

 俺は厨房を去った。……アレが、千崎雪夜。おそらく今の俺じゃあ真似するなんてことすら出来ない。格上でもそれをコピーする自信はあった。

 

 千崎雪夜の料理をコピーする事は出来るかもしれない。だがコピーだけでは確実に勝てない。だからこそのアレンジだが、千崎雪夜は技術と才能、努力で料理を完成させている。

 

 俺にはそれが足りない。あの日から努力って事を忘れちまってるような、俺には到底千崎雪夜の料理は作れない。

 

 食い殺すなんて事はもう、頭にはねぇ。目の前に立つなら排除するだけだ。それに変わりはねぇ。だが必ず、千崎雪夜自身を俺の全てをかけてコピーする。

 

 ……自分から、包丁を握ろうと思ったのは。誰かに認めてもらいたいと思い、厨房に立ちたいと思うのはいつぶりだろうか?そんなのは考えたってわからねぇ。

 

 認めさせてやる。周りの人間にも、上に上り詰めて……千崎雪夜に俺自身を認めさせてやる。今は格下なんてレベルとすら見られちゃいねぇんだ。

 

 俺は千崎雪夜について書いたメモを全てゴミ箱に捨て、いつ厨房を使い何を作ろうか、考えながらベッドに入った。

 

 

 

 




他者視点の始まりがシリアスっぽい気がする。でも原作キャラって何らかの過去があるものだよね。その中でも美作は歪む原因がはっきりしてるキャラだから、シリアスめになるのかなぁ。作者は美作好きなんです。こう、憎めない悪役になってる感が好きで。この作品の美作は心の内側では弱い自分が形成されている、っていう感じです。勝ちたい、ではなく認めさせたい。美作らしいんじゃないかなって個人的には思ってます。原作通り創真と戦って完全改心ですけどね、流れは。

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