専業主夫目指してるだけなんですけど。   作:Aりーす

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▶︎9-1【先輩】

 

 

 

 懐かしい、夢を見た気がする。あたしがまだ小さい頃、雪とは毎日とまでは行かないけどたくさん遊んでいた時期だ。その時の夢を見た。

 

 雪と、雪のお母さんである千崎真夜さんと、3人で雪の家でテーブルを囲んでいる、そんな日常の風景。最近ではあたしも雪も遠月学園に通い、帰ることもままならなくなっているけど……

 

 あそこはあたしの第2の家、と言ってもおかしくない。ほぼ毎日のように入り浸って、他人の家と思う事がなくなっていってた。真夜さんはよくあたしを可愛がってくれてた。

 

 でも、ある時に日常は一旦崩壊を迎えてしまう。あたしもあまり顔を見た事はなかったけど、真夜さんと結婚をしていた人が浮気をしていたらしい。

 

 その人も遠月学園に通っていて卒業した生徒だったからか、顔が広かったのかは分からないけれど、浮気をして家から出ていったらしい。世間的にもそうなのだろうけど、浮気っていう行為は考えられない行動だと思う。

 

 浮気は男子でも女子でも関係なく出来てしまう。でも好意があったはずなのに、どうして他の人へと好意が向かってしまうのだろう?あたしには分からない。あたしがまだ子供だからなのか。

 

 ……浮気は別にいい。真夜さんも今は気にしてないし、家にはその人の写真すらも残ってない。だけど浮気されてからしばらくは精神が参っていた時期があった。

 

 そして、そんな気持ちが日に日に溜まっていき、あたしが中学に入り、雪も小学校高学年になった時に真夜さんは家を出てしまっていた。いわゆる、家出という奴だろう。

 

 あたしはただ困惑するばかりだった。雪を置いて出ていくという事に怒りを覚えたし、その時はどうして家出したのか分からなくて、気持ちの整理が何一つ付いてなかった。

 

 3日経っても帰ってこなくて、何よりも辛かったのは真夜さん自身と、雪だった。雪は真夜さんが家出している間、ご飯を一切食べていなかったからだ。

 

 あたしは必死に探した。真夜さんを連れ戻すために、雪を死なせたくないって思う事もあったけど、真夜さんの帰りを待ち望んでいるのは雪だけじゃなく、あたしもだったから。

 

 ……あの日以来、あたしは真夜さんに「りんちゃん」と呼ばれるようになり、家族同然の扱いを受けた。あの家にいる時は、家族のように温かい空間だった。

 

 またいつか、高校生になったあたしと雪、真夜さんで小さなテーブルを囲んで食事をして、色んなことを話したりして……やりたい事が山積みだった。

 

 そんな夢を見たからか、あたしは無性に雪に会いたくなった。こっそり雪が住んでる場所の、雪が寝ている部屋のベッドに忍び込んだ。……雪がここで寝てると考えた時、恥ずかしくて死にそうになったあたしがいるけど。

 

 ただ唯一の問題が……雪も授業を終えて帰ってきたのに、あたしがいることに気付かず着替え始めてしまったことだ。もちろん小さい時や、あたしが中学一年の頃とかまでなら別に気にしなかった。

 

 だけど今は、自分の気持ちに気付いてしまっている。真夜さんにそういう所とか、進展とか根掘り葉掘り聞かれたのが最近だから、それも余計にあたしの恥ずかしさを増加させる原因にもなった。

 

 いくら小さい時から遊んでた雪とは言え、もうあたしも雪も高校生。着替えなんて別々というのが常識なのに……まるでこれじゃ、あたしが雪の着替えを見たいから忍び込んだ、と思われて変態扱いされてしまうかもしれない、と思ってすぐさまベッドから飛び出た。

 

 ……ベッドから出て数秒間の無言の時間が、一番恥ずかしかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれはベッド事件と名付けよう。ごめんなさい、出来心だったんです。……と、とにかくあれはあたしの中でも忘れようと思う!……上半身だけだったけど、うん、小さい時とは変わったなって……

 

「……竜胆先輩、どうしました?」

 

「ふぇっ!?い、いや!?なんでもねーぞ!?」

 

「呼びかけても、返事しなかったんで……」

 

「あ、そ、そうなのか……ごめんごめん!何話してたっけ?」

 

「えっと……今日はここでゆっくりする、って事と話が二つある……事だけは聞きました」

 

 その話しした後に、ちょっと思い出してトリップしてしまっていたわけなんだな……予想外とは言え、少し罪悪感が否めない。

 

「あー、雪はさ、今度ある秋の選抜は知ってる?」

 

「一応。……選ばれるかどうかは、そこまで興味ないですけど」

 

 まぁ、そうだよな。雪が選ばれない筈がない。現時点で1年生の中でトップは間違いなく雪だ。雪もそれを分かっているから、興味が無いんだろう。

 

 他の人は選ばれるかどうか、に興味が惹かれる。だけど雪は選ばれるかどうか、じゃなく選ばれる、と確定しているんだ。興味があるのは、それより先の事だと思う。

 

 あたしも秋の選抜には参加したけど……今までのとは全く違ったもんな、あの行事。あたしが知らなかった同級生らの、すごい料理をいくつも見てきた訳だし。

 

「……ま、そーだよな!で、ちなみに二つ目が本題なんだけど〜……あたしは非常に怒っている、雪に対して」

 

「……?」

 

 首をコテン、と傾げた雪を可愛いと思ってしまった。あたしの怒りが急激に下がりそうになった。……なんかあたし、最近雪とそこまで触れ合えてないからなのか、気持ちがいつも以上に揺さぶられるなぁ……

 

「前さー、ももが来ただろー?あたしはしばらく出てたけどさー……いつのまにかももと仲良くなってるし!雪は料理してるし!格差はいけないと思うぞ!」

 

「……いや、竜胆先輩も食べたじゃないですか」

 

「それはそれ、これはこれ!それに聞いたぞ!他の子に料理してあげたり、お出かけまでしてるらしいな〜!」

 

「……誰から聞いたんですか、それ……」

 

 カマかけたら当たった。あたしの怒りボルテージが上がってしまったぞ。これならスーパーウンタラカンタラ人3くらいまでならなれるかもしれないぞ。なれないけど。

 

「やっぱそうなのか……ずるいぞ〜!あたしは最近構ってもらってないのに〜!」

 

「か、構うって……」

 

 むぅ……雪に期待はしてなかったけど、ここまであたしの言いたい事に気付かないなんて思わなかった!……ほんと、真夜さんの言った通りだなぁ……

 

 真夜さんは言ってたし。「多分、りんちゃんを女の子としては見てるだろうけどね〜、気持ちに気付くまでが闘いかな?ゆきくん、確実に鈍感だし」って。その通りだったよ、ほんとすごいなぁ、真夜さん。

 

 結果として今回は妥協案として一緒に料理を作る事になった。遠月学園で作るような料理じゃなく、あたしと雪と真夜さんでの食卓に出てくるような、家庭料理のオンパレードだ。

 

 まずあたしは肉じゃが担当。家庭料理の定番って言ったらこれだし、雪は一番これを練習してはいるんだけど……今回はあたしがすることになった。

 

 雪は魚料理をするらしい。おそらくだけどサバの味噌煮、かな?実際雪の得意料理ってのはないと思う。例えば他の人なら得意ジャンルがあって、その中で最も自信がある料理が得意料理になると、あたしは思ってる。

 

 だけど雪は違う。得意ジャンル全てが雪にとっては得意料理。ただそのジャンルがね……洋風とか、どこかの国の料理とかじゃなくて『家庭料理』が得意ジャンルだからなぁ……

 

 真夜さんが教えたりしたのも家庭料理だし。あたしに食べさせてくれるのもほとんど家庭料理として出てくる物。まぁ家庭料理のレベルじゃないんだけどね。もしあんな美味しい家庭料理が毎日出て来たら他の料理が食べれなくなる、かもね。

 

 だって真夜さんの子供だし。真夜さんって昔、真夜さんの料理を食べたら他の料理には二度と戻れない、とすら言われてたらしいし……一瞬で味わいの天国と、それ以外の料理では満足できなくなる地獄を合わせて、『天獄』って呼ばれてたらしい。

 

 家だと、私と一緒にお風呂入ったり一緒の布団で寝たり……ほんと、真夜さんってあたしとよくいる気がする。まぁ雪より会う機会は少ないから、なのかな?

 

 雪の顔立ちは平凡、もしくはそれより少し上って感じだけど……真夜さんは30代とは思えないほど綺麗だ。20代と言われても簡単に納得すると思う。ただ自分への評価が低いんだよねぇ……

 

 そういう所を雪は受け継いだのかなぁ……?まぁ顔立ちが似てたら確実に女子がたくさん寄ってくるから、そこは良かったのかもしれない。……良かったな、かな?ちょっと分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時々話しながら料理は完成し、雪と向かい合う形でテーブルを挟み、椅子に座った。こういう風に食べるのも久しぶりだ。中学くらいまではあたしも食べてたけど……遠月学園に行ってからは減ったから、新鮮にも感じる。

 

「なーなー、雪。少し前に真夜さんに会いに行ったんだよ」

 

「母さんに?」

 

「うんっ。真夜さん、結構帰ってきて欲しそうだったぞ〜?」

 

「……ちゃんと帰らないと、ですね。もうそろそろ半年、って所ですかね?」

 

「だな〜。そろそろ季節も秋になってくし、それくらい経つな!」

 

 前帰った時は、雪との関係をとにかく聞かれて一緒にお風呂にも入った。……もうあたしも高校三年生なんだけどなぁ、まだ子供って言われちゃったし……

 

 まさか寝るまでずっと聞かれるとは思わなかったけど。……「りんちゃん、意外にヘタレ?」って言われた時、胸にぐさっと刺さる感じがした。そ、そうですけどっ!そうですけどねっ!

 

「……今度、一緒に帰りません?」

 

「あたしもか?んー……でもいつくらいにする?」

 

「秋の選抜が終わったら……冬ですよね、クリスマス辺りとかは?」

 

「んじゃ、真夜さんにクリスマスプレゼントとか持っていこっか!雪を箱に入れて……」

 

「……俺じゃプレゼントにならないでしょう……」

 

「え、なると思うけどな〜。なんたって真夜さんだし!」

 

 雪のこと大好きな真夜さんだし。あそこまで溺愛してるのも珍しいレベルだと思うけどなぁ……あたしまで溺愛されてる気もするけど、一切悪い気はしない。ただちょっとセクハラ的なアレがあるのは、容認できない……

 

「……とりあえず冬に帰りましょうか」

 

「おっけー!!ん、おいしっ」

 

 相変わらず雪の料理は美味しい。でもこれでも、真夜さんが本気を出したら勝てないらしい。真夜さんはまだ負けてないよって元気いっぱいに言ってたけど、強すぎだよねぇ……

 

 でも、冬かぁ……真夜さん大喜びするだろうなぁ。なんたって親バカだし。あたしが言うのはおかしい気もするけど、親バカだし。

 

 ……その時には、真夜さんにもう少しいい話ができるように進展してたらいいなって、あたしは心の中で思った。

 

 その日は泊まろうとも思ったけど、いきなりやらかしてしまったこともあったから素直に帰った。こう、意識しすぎて寝れそうにもなかったし。

 

 そう言えば雪はちゃんと日記をつけているのだろうか?あたしが勧めたんだけど、三日坊主とかで終わってたりレシピ帳になってたりしないだろうか?

 

 ……雪だからないか。あたしとの約束は基本的に守ってくれるし、な。ただあたしの気持ちには、こう、気付いてくれないけど。あたしから踏み寄らないとダメかなぁ……

 

 自分の部屋に入り、ベッドに転がる。……どうやら自分のベッドで寝ても、あの時の恥ずかしい気持ちは隠せないようだ。雪の半裸も頭の中でフラッシュバックする。

 

 今日は、寝れそうにもなかった。

 

 




1日に2話投稿ー!年末までに本編を1話は進めるって決めた!それが今日だ!!本編進めるの久しぶりすぎて、キャラとか前の話を忘れてた……ヤバイな、結構ヤバイ。気付いたらお気に入り8000_:(´ཀ`」∠):_ありがとう……
前のクリスマスイブ編でも書きましたが、白猫フォロワーさんまだまだ募集中です。絶対埋まり切らないレベルでフォロワー空いてますし……Aりーす、で検索したら出てきます。後、茶熊ティナが欲しいって言ってるのにみんな茶熊ティナリーダーで申請してくるから、涙が流れちゃいます。ティナください。クリスマスプレゼントください、ティナかリンゴのカードください。ランク350ってなんや……ティナ出すぎだよみんな、一体くらいちょうだい。



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