専業主夫目指してるだけなんですけど。   作:Aりーす

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▶︎11【アルケミスト】

 

 

 

 ……あぁ、面倒でしかねぇ。無駄に俺に突っかかる奴はいるわ、面倒な動きをする奴はいるわ……その上仕事は基本的に俺に回されるし……どんだけ俺は胃薬を料理に入れて違和感が無くなる料理を考えなきゃいけねぇんだ……

 

 俺が住む場所の自室内で、ふとそんな事を考える。机に向かいながらすぐそばに佇む数多の資料の数々。……こいつを処理するのにどんだけ時間がかかると思ってやがる……クソッタレ……

 

 どれだけ毒を吐こうが仕事が無くなるわけじゃねぇ。……はぁ、ったく……あのアホも先輩らも無駄に目立ちすぎなんだよ。俺もそれを言える立場じゃねぇけどよ。

 

 ……いつからだろうか。利益と事業と己の事しか考えて生きてきてなかった俺が……叡山枝津也とあろうものが、この学園の為とやらなのか、誰かの為なのか、んなくだらねぇことを考えながら仕事をする事に苦を思いづらくなったのは。

 

 んなの決まってるわな。あのアホがここに入学して、様々なことをやらかし……そのくせして自分を1番下に見てるアホがのうのうとゆっくり過ごしてるから、だろうな。

 

 あのアホ、千崎雪夜を初めて見かけたのはいつだったか?始まりなんてのは覚えちゃいねぇ。少なくとも俺が中学に入ってる頃だろうな……あの頃、ほんの気まぐれにしか過ぎなかったことが今の俺を変える、なんてどこの誰が予想する?

 

 千崎雪夜は小学生だった。その頃、あいつは家庭の事情やら何やらで色々傷ついていた。精神的にも、物理的にも。おそらくあいつの親には言ってないんだろうが、何かしらのトラブルに巻き込まれたんだろう。

 

 あんだけの傷が、ただ転ぶ程度で出来るはずがねぇ。完全に他者からの意図がない限り、な。……その時の俺は中学だった。たまたま学校が休みの期間だったが、流石に公園に1人でいる、そんな傷だらけの奴を見て見ぬ振りできるほどに大人じゃなかった。

 

 ついつい声をかけてしまった。ついでに親に頼んで傷の処置もしてもらったしな。……まぁ、その少し後からは俺自身で金を稼げるようになったから、処置で治りきってなかったところの治療は俺がした、というか医者を呼んでさせたが。

 

 ……あれほどの傷に気づかねえ、ってのはないと思ってはいたが……運悪く親やらあの先輩は遠くに出かけていたらしい。その上こいつは軽い病気になっていて留守番をしてた、と。

 

 ……その頃からこいつを異常とは思っていた。小学生が親に対して、自分は平気だから楽しんできて、なんて言えるのか?意地でもついていきたい、1人が寂しいと思う頃ではあるだろうに……とな。

 

 二泊三日だからすぐ戻ってくるらしかった。……まぁ、こいつをそのまま放置って訳にもいかず、その三日間だけは世話をしてやった。普通ならそこで終わるはずだった。

 

 それからもその公園に行くたびに雪夜はいた。……物理的じゃなく、精神的に次は攻めてきている、というのはすぐにわかった。だがこいつはそれを耐えている。所謂、イジメという奴だ。

 

 話を聞けば、雪夜は中学の奴にイジメられているらしい。……親に心配されないように、先輩とやらに迷惑をかけないように、と涙ながらに俺に言い訳のようなものをしていた。

 

 ……その頃からだろうな。こいつに対する何か、守らなければいけない、なんてふざけた思いを持ったのは。雪夜自身の事は然程知らなかったが……ふざけたイジメなんぞで潰れていい存在ではない、なんて事を思っちまった。

 

 ……気づけば、そのイジメをしたやつを潰していた。いや、正確にはそいつの父の会社を取り込んだ。その上でイジメをしたやつの親に色々としてやったに過ぎないが。……感情的とは言え、特に必要もない会社を取り込む羽目になるとはな……

 

 イジメがなくなった、と聞くのはすぐ後だった。……何故か俺が動いていた事は気づいていたらしいがな。それ以来、雪夜と俺はその休みの間だけ毎日のように公園で会うようになった。

 

 俺が料理を作り食べさせた事もある。まぁその時に雪夜の料理の才能ってのに気づいた訳だが。……あぁ、そういやふざけた事も聞かれたな。どうして見ず知らずの俺を助けたのか、なんて事を。

 

 まぁ普通に返した。悪いがお前の為にやったとかじゃねぇよ。この料理の腕が将来俺の為になる、この恩をお前に返させる為だ、とな。……もう少し良い言い訳はなかったのか、とその頃の俺を殴りたい。

 

 ……雪夜は自分がいじめられ、精神的に参っていた事を苦に思っちゃいねぇんだろう。あいつの中じゃ自分の優先順位は究極的に低い。……話を聞いてみりゃあ、あいつは他のイジメられたやつを助けたらしいからな。そのせいで狙われた、ってだけと本人は軽く言っていたが。

 

 ……んな事を言われりゃあ、ほっとけなくなるのも仕方ねぇだろう。1人にすりゃあすぐ無茶をしそうな気しかしねぇ。少なくとも何かしらの首輪やらリードを付けなけりゃ、傷付くだけ傷ついて孤独に生きちまう。そんなアホを、ほっとける訳はねぇんだよな……はぁ……

 

 

 

「……なんで俺はあいつとの出会いなんてのを気にしてんだよ、クソッタレが……」

 

 過去を思い出してみて、無駄に恥ずかしさを感じる。仕事は手につかなくなる一方だし、あのアホはいずれ俺に会いにくる、という連絡をよこしやがった。

 

「……あぁ、クソッ!……あのアホがちゃんと元気でやってるってだけで十分だってのに……会いに行くなら竜胆さんにしとけよ……」

 

 小林竜胆、先輩だが正直自由奔放さで呼び捨てにしたいレベル。だがこの先輩は雪夜と一番長くいる人物だ。……雪夜といる中で知り合い、それ以来ちょこちょこ俺の所へもやってくるようになった。ありがた迷惑。

 

「……あの学園長も無茶をさせやがる。あいつは怪我をして治ったばっかだってのに……しばらくは最高級の医者と病院の手配の準備を整えておかねぇと……」

 

 近くで雪夜を守るのは竜胆さんの、裏方であいつを守るのは俺の仕事だ。……1人で傷付くあのバカを見るのは御免被るからな。なら守って損はねぇ……ついでに、竜胆さんと雪夜が上手くいきゃあいいんだが……

 

「……新戸緋沙子も、竜胆さんと同じだろうな。……俺はどっちを応援すりゃいいのかね……人の恋とやらに踏み込みたくはねぇが、幸せにはなってほしいし……ついでに言えば雪夜が幸せなら問題はねぇ」

 

 雪夜と竜胆さん、そして雪夜の母親、真夜さん。ここらが幸せになるなら俺は誰でも歓迎なんだが……まぁもしここが傷付くようなアホが近づくなら容赦無く潰す。

 

「……さて、と。雪夜をああした奴に目星はついてるが……所詮下っ端。上は……あの男だろうな。……チッ、学園の支配だの料理がどうのに興味はねぇが……雪夜を傷つけた奴を学園長だのと認めるわけにもいかねぇんだっての」

 

 ……だが、アイツは俺より権力がよっぽどある。現に十傑はほぼ全員があっち側に行く事を承認してる。……竜胆さんにも伝えてはないが、いつかは伝えないとな。

 

 ……雪夜の自由を完全に奪うつもりだった。それは邪魔になるからだろうな。雪夜の料理はあの男からしてみれば存在する価値もないと思われる料理だ。にも関わらず実力があるからこそ、消そうとしたんだろう。

 

 ……消しきれなかったのは間抜けだが、雪夜が傷付くのを黙って見る結果になった俺も相当間抜けだ。……次はこんなヘマはしねぇ。アイツが傷付く前に潰してやる。

 

「……鏑木。お前にも動いてもらう。面倒なことに巻き込む事になるが、構わねぇな?」

 

「……もちろん。……後、祥子で構わないと言った。なら叡山はそれを許容すべき」

 

「……そういうお前が俺の名前を呼べてねぇだろうが。この前もお前が呼べば、って言ってやったのに逃げやがったもんな」

 

「……うぅっ……そ、それは、まだ心構えが出来てなかっただけで……」

 

「名前を呼ぶのになんの心構えが必要なんだよ……つーか、いたのは気づいてたがいつからいた?」

 

「もちろん叡山が入る前から、だけど?」

 

「それを世間一般じゃ不法侵入って言うんだよ……!どうやって入りやがったテメェ……!」

 

「合鍵。竜胆さんとももさんから許可は得た、完璧」

 

「……堂々と権力振りかざしやがって……ちっ!鏑木、合鍵はよこせ。俺がいる時なら入っても構わん」

 

「……つまり、通い妻」

 

「ンなわけねぇだろが!?……最近の俺の周りの奴は……どれだけ胃薬と頭痛薬が必要だと思ってやがるっ……!」

 

 ……本当に面倒だ。人付き合いってのもビジネスの為なら苦ではねぇが……先輩に同輩、さらに後輩まで俺に面倒事を持ってきやがる……俺の苦労も一切知らずに……

 

 仕方ねぇけどな。仕方なく、アイツらのために動いてやってるだけだ。それ以外の理由なんてねぇ。乗りかかった船みてぇなもんだろ……鏑木に関しては何故俺に付きまとうのか分からねえがな。

 

 さて……また仕事の続きをしねぇとな。……ついでに、内部から壊す方法もそれなりには思いついた。その為には……俺が無様に負ける機会を作らねぇとな。1年で俺を負かす実力がある、雪夜以外となりゃあ……

 

 あの男を最大限に利用してやる。……アイツが住んでる寮も使えるかもしれねぇな。一色はあの総帥の考えには賛同しなかったし、後々の何かしら仕掛けてくるであろう時に、一色は一年側にいておいた方がいい。

 

 ……場合によっちゃ久我も一年側に行ってくれるなら万々歳だがな。だが、そんな未来の話のみを考えてても意味はねぇか。……さて、俺の思い通りに動いてくれよ?幸平創真、そして一年諸君。

 

「……悪どい顔してる」

 

「……考え事してんだよ!頬をつねるんじゃねぇ!?」

 

「……ふふっ、変な顔」

 

「潰すぞテメェ!!!鏑木ィ!!!」

 

 クソッタレ!!!やっぱり面倒でしかねぇ!!!

 




(原作の)叡山とは違うのだよ、(原作の)叡山とは!
こいつ誰だよ、って思いながら書きました。どうやらすでに2ヶ月経ったみたいだな……あれ、1週間後に投稿してる……?病気か?なんて思うくらい早く書けました、叡山先輩書くの楽しかった!
鏑木祥子さんはオリキャラじゃないです、ちゃんと原作キャラです。一切どんな料理が得意なのかというのが明かされる以前に、口調すら分からないキャラですけどね!でも可愛い見た目してたし!叡山先輩と同輩だし!なら出すしかねぇ!
最近第五人格というゲームにはまってます。ハマるゲーム多すぎなんだよなぁ……また投稿間隔開くのか()

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