タグ名を「勘違い」から「勘違い要素あり」に変更しました。話を進める毎に少ない勘違い要素がさらに減っていってるので……タグ名変えても似たようなもんですけど。
宿泊研修が日に日に近づいている。五泊六日の日程で進めるらしい。もちろん私たちに内容は一切明かされていない。
だがわざわざホテルを使うという事は、ただの宿泊研修というレベルでもないだろう。いつも学園でやっているような授業とは訳が違うはずだ。退学も先に進むも一瞬で決まる。
学園の授業では判定が存在する。Aを取っていれば退学の心配は一切ないと言っても過言ではない。だがそれはただ授業を受け続けた場合のみ、だろう。
遠月学園には無数の壁がある。1年生として最終的な壁となるのは進級試験だ。しかしそれまでにもいくつかの壁がある。
宿泊研修から始まり、秋の選抜やスタジエールと言った行事がある。秋の選抜はその名の通り、選抜された者のみが出場できる一種の大会だ。ベスト8まで上り詰める事が出来れば、現十傑とも何かしらのイベントがあるはずだ。
予定が変わらないのであれば紅葉狩り、と称されるだろう。……だが十傑はそんなものに興味はないはずだ。2年生、3年生でそれぞれ向いている方向が違う。1年生ごときに目を向ける時間すら惜しい、そういう感じだと思われる。
スタジエールとは県外への実地研修、と言った感じだ。それぞれが指定された店に行き、その場で力を振るう。もしそれが規定に届いていなかったりすれば、退学になるだろう。
研修と名が付くものは退学が忍び寄っている、私はそう考えている。おそらくスタジエールも常に誰か遠月学園の者に見られながら、働かなければいけないと思う。
その後には他の学校では文化祭と呼ばれるもの、通称『月饗祭』というものもある。……まぁだがこれはかなり先の話になるから、説明は避けておこう。それに今生き残れなければ、先の行事を気にする意味もなくなるからな。
今日は珍しくペアのくじ引きをし直した。今回限りのペアだそうだが……変わった事をするものだ。授業の内容もいつもの料理実習とは形が違う。
ペアとの研鑽……それぞれの知識などをペア同士で共有するらしい。ペア同士が味方というわけではないというのにな。ペアと言えども、食戟などでは敵にもなる。
ならば敵に塩を送るようなものだ。えりな様がペアならば話は変わるが……えりな様がペアでは私から教える知識などはない。
……だがどうやらくじ引きの運とやらは、自然に、かつ効率的に働いていくもののようだ。
「……あ、新戸さん」
「千崎?……まさかペアは」
「多分、そうだと思います。……よろしくお願いします」
願っても無いチャンスだろう。私のペアとなったのはなんの因果か、私が必ず勝つと目標においた男。千崎雪夜だった。
あれから少し時間が経ち、千崎とも話した後の事だ。私達は丸いテーブルを挟んだ形で椅子に座りながら話している。そして、自然に私の口は言葉を発し始める。
「千崎は入学試験の事、覚えているか?」
「……一応は覚えてます」
一応、か。謙遜しているようで、覚える必要もそこまで無さそうな雰囲気だ。まぁ所詮は入学試験、と言ったところか?
「その時、新戸さんの顔怖かったですよ」
「なっ……!?」
何故入学試験の事はそこまで興味が無さそうな感じなのに、そんな事は覚えているのだ!?わざわざ人の表情を覚える奴がいるか!?
「ど、どんな顔だった……?」
「……こう、自分の領地に入ってくるなって警戒してる、猫みたいな……?」
「……何だろう、そこまで怖い顔じゃない気がしてきた」
「……別に、今みたいに可愛い顔だったと思いますけど」
「!!?」
下手な表現の後に何故そんな爆弾発言をするんだ!?顔が熱くなるのを感じる。こういう事は私は言われ慣れていないからか、今までに感じたことのないくらいに熱い。
「……変な事言ってごめんなさい」
「……べ、別に構わん。だ、だが!その時の事は忘れてくれ!」
「……あの、近い、です……」
「……何故目をそらす?私は忘れてくれとお願いしてるだけなんだが……」
「……忘れますから、少し近いというか……」
「何故だ?話す訳なのだから、距離は近くて当然だろう?……ん、もしかして隣の方が話しやすかったか?」
人と話す時は距離が近い方が話しやすいだろうしな。そう思い椅子ごと移動し、千崎の隣に移動した。肩が少し触れそうになる程度の距離だが、別に気にしない。
私は女で、千崎は男だがそんな事をするような奴には見えないしな。……さっきの発言はかなり危険だがな。もしあれが無意識で言っているならばより一層危険だ。
まぁ私に恋といったものは無縁だがな。……しかし隣に行ってからより一層目をそらすのは何故だ?席も遠ざけようとしているし……
「何故離れようとする?」
「……いや、その……話すなら近くなくても……」
「別に私に気を使わなくてもいいぞ?私は男女間での距離などは気にしていないからな。特に千崎なら尚更だ」
「……その、恥ずかしい、というか……」
「……え?」
正直に言って意外だ。人と話すのは確かに苦手そうには見えるが、女子と近いだけで恥ずかしがるとは思わなかった。……嫌がられているように感じるんだがなぁ……
「なら慣れることから始めようか?私相手で、な?」
「……なんかいい笑顔ですね、可愛らしいです」
「ごまかしは無駄だぞ?まずは私の目を見て話すことから、だ」
「……過保護な感じになってますけど……」
「ふふっ、別にそれでも構わないぞ?」
「結構、Sですよね……」
「顔を赤くしながら言われても別に何も思わないな。千崎は恥ずかしがり屋か?」
「……別に良いじゃないですか……」
拗ね方が子供みたいだな……弟がいる姉が小さい弟をあやす時みたいだな。何故かそんな感じに思えた。子供っぽい一面もあるのだな……第一印象だけで人は測れないと言うのは、こういう時に言うんだろう。
だが私がSというのは認めたくないな。別に苛めたい欲求などはないんだが……千崎が苛められたいなら話は別、いや、そういう問題じゃないな。千崎がMなんて想像がつかない。
Sならえりな様の方が似合うと思う。……こんな事を考えててえりな様にバレたら後が怖いからこれ以上はやめておく。
その後はしばらく料理の話になった。私は薬膳についての知識なら誰にも負けない自信がある。千崎は薬膳などはあまり知らないらしく、熱心に聞いていた。
その後は千崎から話を聞いたが……基本である事をさらに上のステージに登らせたような、そんな雰囲気を感じた。
ズレはどんなことでも起きる。ただ普通に食材を均等に切ろうとしても、全て一ミリの誤差もなく切るという事は、もはや感覚と経験の問題になるだろう。
だが千崎はそれを感覚だけでやっているわけではない。研ぎ澄まされた感覚を使いこなす才能と、努力があってこそだろう。
後は環境の話にもなった。料理人や周りの環境、器具が毎日ベストコンディションである事はあり得ない。料理人としての感覚が育てば育つほど、そちらに目がいかない人も現れる。
やはり経験の違いだろう。いや、正確に言えば経験にも種類がある。千崎が重ねてきた経験は私やえりな様とは違う経験なのだろう。
だからこそ、私は彼を超えたい。生き残ったら食戟を挑んでもいいか?と聞いた。すると千崎はこう返した。
「別に良いですけど……生き残れたら」
……ふふっ、千崎もだが、これは私に言っているのだろう。食戟をしたいなら、お前が生き残らないと話にならない、と。
必ず生き残る。そしてえりな様の為、そして自分の為に。千崎がいるところまで必ずたどり着く。待っててはくれないだろうがな。……ちなみに千崎をからかうのは楽しかった。
更新ペースを基本3日おきにしようと思います。遅くなる事はあっても早まる事はないです……。もしかしたらテンション上がって土日だけ連日投稿はあるかもしれませんが……だって原作は今26巻までいってますけど、宿泊研修とかは3巻の辺りだと思うんです(確か)スタジエールとかは特に1話で終わる気しかしない。なので日間投稿だと原作にすぐ追いつく可能性があるので、3日おきにと言うわけです。ご理解のほど、よろしくおねがい致します。