光の裏に必ず影があるように、いい物には必ずそれ相応の理由が存在する筈。
これはそう考えた私が思い付いた【葵君が可愛い理由】です。
最近某氏の影響で巷では葵君が流行ってるようですね。
そんな訳で私も便乗させて頂きます。
ちなみに私は琴葉姉妹大好きです。
カチ、カチ、カチ、カチと、どこまでも律儀な時計が奏でる分速六十回の定期的な音を右から左に聴き流しながら、私は弟の部屋の前で悩んでいた。
弟になんて言って切り出そうか悩んでいるうちに、秒針が動く音を四桁は聴いた気がする、毎度毎度、ここにくるたびにこうして悩んでいる。いい加減に意を決して扉をノックして、開ける。
音と光が完全に閉ざされた真っ暗な部屋、まだ暑い季節の筈なのに、部屋の中から冷気が僅かに廊下に漏れ出す
そんな部屋の隅、小学生が使うようなサイズのセミシングルベッドの上に、焦点の定まっていない両目で床を見つめたまま動かない弟を見つけた
「ぁ……葵ー、ご飯、何がいい?」
なるべく自分の感情を悟らせないように、少し高い声を意識しつつ問いかける。
断りにくいように、ご飯どうする?ではなく、何がいいかと聞くが…
「…………らなぃ………」
私達の声以外の物音が一切存在しないこの部屋でも、意識しないと聞き取れないような小さくか細い声で、それでも確かに、弟は明確な拒絶を口にした
「そ、そっかー、なら、またお腹減ったらいつでも言うてな?」
元から俯きがちの首をさらに傾け、了承の意を伝えてくる。私は、そっと扉を閉めると、その場で小さくため息を吐いた。
「(いつから、こうなったんやっけな…)」
今更考えたって何の解決にもならないと、心の底では理解していても、私は何故弟がこうなってしまったのかを順番に振り返っていた
琴葉葵。今年で16になる、私の双子の弟だ。
昔は何の変哲も無い、普通の男の子だった。幼稚園の頃から男の子達と一緒に体を動かすのが大好きで、髪だって普通に短く切っていたし、泥だらけになるまで友達と一緒にサッカーボールを笑顔で追いかけていたのがよく印象に残っている。
勉強はあまり出来なかったけど、毎日毎日近所の探検をしては疲れた様子で帰ってきて、いっぱいご飯を食べて、思いっきり寝る。そんな健康的で理想的な毎日が続いていたし、これからも終わらないと、無条件に信じていた。
でも、そんな日常の崩壊は初めから少しずつ、少しずつ近づいて来ていたのだ。
小学校高学年になる頃、ようやく、葵の異常に気が付いた。
サッカーをする時に、全然足がボールに追いついていなかった。結局一度もボールに足が触れずにゲームが終了し、休憩する時は毎回酷い息切れを起こしていた。
心配になった当時の私は、「大丈夫か?どこか悪いんか?」と聞いた、すると葵は
「違うよ…みんなが、早すぎるんだ…」と答えた。
実際、持久走等の記録を見てみると、クラスのほぼ全員のタイムがうなぎ上りなのに、葵のそれだけ4年生後半辺りから上昇率が他の男子に比べ、明らかに緩やかになっていった。
他の男子についていけていない事に落ち込んでいた葵を、母親は病気か何かだと勘違いしたのか、病院へ連れていった。それが、全てを解き明かしてしまった。
葵は生まれつき、何らかのホルモンの分泌量が人より大幅に少ないと診断された。
まだ幼かった私も葵も、うまく理解できなかったが、私は楽観視していた。
葵はこれからも運動するのは難しいと聞かされて落ち込んでいたが、別に、今後一生車椅子生活な訳でも、おいしい物が食べられなくなる訳でも、友達と話せなくなる訳でも無いだろうと。運動など大して興味が無かった私にとっては、それらの方が余程重大だ。
だが、それは大きな間違いだった、その病は、葵の心に巨大な消えない傷を残した。
確かに、男女共に心身に殆ど違いが存在しない小学生なら、大した問題は起きない、ただちょっと運動が苦手、で済む話だ。
問題は、第二次成長期を迎え、心も体も男女ハッキリと分かれ始める中学校だった。
葵は例の病のせいで第二次成長期でも、筋肉が付く事も、身長が伸びる事も殆ど無かった。
それでも他の人達の成長は止まってくれない。葵は、男子の中で一人、取り残されていった。
好きな運動はついていけないから足手まといにしかならず、そのうち誰も葵を自らのメンバーに誘わなくなっていった。当然と言えば当然だ、中学生の中に一人だけ小学生が混じっているような物なのだから。
白く細い体や、高いまま声変わりしない喉は、男子の癖に女子のようだと、男子にはからかわれ、女子には軽蔑された。
男のグループに行けば、女のグループがお似合いだと言われ、
女のグループに行けば、女々しいからって仲良くなれるとか思うなと睨まれる。
私は何度も葵を励まそうとするが、私が葵に近付くと決まって、どう見ても姉弟ではなく姉妹だと笑われた。
勿論暴力を振るわれても、葵にはし返す力も無かったし、それは私も同じだった。
そのうち葵は少しずつ、学校を休み始めた。
初めの内は、週に1~2回休む程度で、特に問題も無かったのだが、3学期が始まる頃には、すっかり葵の通学用鞄は義務教育という言葉の意味を忘れてしまったかのように埃を被っていた。
少しずつ、部屋に一人でいる時間も増え初め、ご飯を食べる量は相対的に減り始めていた。
その頃にタイミング悪く両親が離婚したのも、葵が引きこもる事に拍車を掛けた原因の一つだろう。
両親は毎晩、葵が日に日に悪くなる事への責任を押し付けあって喧嘩し、次第に大声で怒鳴りあうようになって、離婚直前には、二つ隣である私の部屋ですら声がハッキリと聞こえるレベルだった事を覚えている。
勿論、両親の寝室と私の部屋の間にある部屋は葵の部屋なので、葵は私以上に長い間、あの聞いてて不快感以外湧きようが無い喧騒を聞いていた事になる。
とあるいつも通りの喧嘩の最中、父親は「話にならない」と怒鳴って夜中に出て行き、
その数日後には母親も「茜だけでよかったのに」と言い残して出て行った。
また、葵が部屋に籠る時間は伸びた。
お金は、今は私が何とかしている。
私が出来るのは、葵に食べやすくて美味しい料理を作って、葵が出て来てくれるのを待つ事くらいしか無いから。
葵も、数は少ないがたまには部屋の外に出て来て、私の用意しておいたご飯を食べてくれているようだ。
だけど、それでもその頻度は少なくなる一方だ。
家の外へ出る事は最早皆無な為、髪は伸びっぱなしで、今や私よりも少し長い程だ。
最後に葵と食事をしたのは、何日前だっただろうか、三日ほど前だった気がする。
そう、確か葵が、あの事を聞いてきた時の事だ。
「………お姉ちゃん…」
葵が、息を吐くような声で尋ねてきた。
「…なんや?葵?」
葵は私以上に辛い筈なので葵の前では、いつも笑顔でいるようにしている、恐らく作り笑いだとバレているだろうが。
「…なんで、僕は……男の子の体じゃないの…?」
「え…?」
「なのに…なんで…女の子でも、ないの?どうして、誰も…僕と遊んで、くれなかったの?」
昔の夢でも見たのだろうか、葵は、静かに涙を流しつつ、そう尋ねてくる。
だけれど、私はその質問に答えられない。答えて、今の葵の気持ちをわかった気になってはいけない。
何故なら、私は女の子に仲間外れにされた事も、ましてや男の子と一緒に遊びたいと思った事も無いからだ。
人には常に、同性と仲良くなりやすい得と、異性と仲良くなりにくい損がある。
私は男の子と仲良くなれないし、なりたいとも思わない。
そして同時に、女の子とすぐに打ち解け合えるし、お互いに一緒にいて楽しいと思える。
普通の男の子だって、性別の表記が逆なだけで、殆ど私と同じだろう。
でも、葵は、葵だけは違う。
葵は、【女の子みたいな見た目の男の子】という理由だけで、男の子と女の子、二つの損な部分だけが集まってしまっている。
誰とも仲良くなれない苦しみは、本人しかわからない
私は、何と答えてあげればいい?辛いよね?頑張ったね?もう無理しなくてもいいんだよ?辛いのは誰でも一緒だ?私もその苦しみを一緒に背負ってあげる?
…駄目だ、わからない。何を言っても、今の私の言葉じゃ全て無意味な戯言だ。
「…ごめん…………御馳走様………」
葵は、殆ど手を付けていないお皿に箸を置くと、そのまま部屋に戻ってしまった。
…あの時、私は何と答えればよかったのだろうか?今になっても、答えは出ない。
わからなくても、例え無意味な言葉になったとしても、何かしら言うべきだったのだろうか?
もし完璧な正解を答えられたのならば、先程、葵はご飯を食べると言ってくれたのではないのか?
…わからない、わからないよ……葵…ごめんな、こんな、役立たずなお姉ちゃんで……
ごめんな………こんな、無意味な心配しか……してやれないお姉ちゃんで…………
何も無い
【何も無い】しか存在しない世界
【何も無い】で、埋め尽くされた世界
光が無い
空間には振動も無い
温度も無い
そして、僕すら…ここにはいない
ここにいる限り永久にプラスになる事はあり得ないけれど
ここにいる限り永久にマイナスになる事も同時にあり得ない
誰も僕を救ってはくれないけれど
誰も僕を傷つけない
誰とも話さなくていい事が安楽で
僕が何者でもない事が心地よくて
何も無い事が救いで
全てがどうでもいい事が慰めになる
ここにいる限り、僕は
一歩でも外へ出れば、僕は
皆を
だから僕は0として、ここにいればいい
永久に、生きたまま死んでいればいい
誰の為?
姉の為?
違う、僕の為
僕は、自分が傷つかない為に硬い殻の中に閉じ籠ってる卑怯者だ
はい。
あんま闇深く無いですね(小並感)
元々この作品は葵君可愛い!自分も書こう。でも理由も無く可愛い訳無いよな。なら理由を作ろうって感じで考えた作品なので設定なども結構ガバガバです。
誰かこの設定の葵君でダークサイド作品作ってもいいんですよ?