「次、うずまきナルト」
今日は下忍になれるかどうかの卒業試験。
ここまで、全ての生徒が合格を言い渡されているが……
分身の術……オレの一番苦手な術じゃねーか
でも、オレってば火影になるんだ!
こんなところで躓いてなんていられねぇ!
「分身の術!」
チャクラを練り込み術を発動しようとしたまではいいが、できた物体はとても分身と呼べる代物ではなかった。
ぷしゅーと、音を立てて崩れる分身ナルト。
イルカ先生の何とも言えない視線がナルトに向けられる。
「うずまきナルト失格!」
その後、ミズキのとりなしも虚しくナルトは卒業試験で唯一の不合格を受け、アカデミーの校舎から出た。
一人でブランコに体を預けるナルトに、いつものように嫌な視線が里中の者達から注がれる。
「あの子、一人だけ落ちたらしいわよ」
「良い気味だわ。あんなのが忍になったら困るもの。だってあの子……」
「ちょっとそれより先は禁句よ」
こそこそと話しているが、自分に嫌な感情をぶつけられているのは子供のナルトでもわかった。
ブランコから飛びおり、その場から移動しようとした時……後ろから声をかけられる。
「よっ! ナルト」
振り向くとそこにはナルトが一番好きな先生が立っていた。
「イルカ先生……」
「まぁ、なんだ……取り敢えずラーメンでも食いに行くか」
イルカ先生は周囲の大人達をサッと見てから困り顔でナルトに話しかけた。
ラーメン店一楽
「へい! 味噌チャーシューお待ち!」
「これこれ、待ってました! いただきまーす」
ナルトはイルカ先生のおごりでいつものラーメン店一楽に来ていた。
他の店では嫌な顔をされたり、最悪入店お断りすらされたことがあるナルトだが、この一楽だけはナルトを他の客と対等に受け入れてくれていた。
「その……試験残念だったな、ナルト」
「イルカ先生、大丈夫だってばよ! オレはいずれ火影になる男! 今日はたまたま調子が悪かったけど、次の試験ではちゃーんと受かって、忍者になるんだ!」
「そうだな……お前は人一倍努力家だ。次は合格できるさ!」
イルカ先生はそう言って、ナルトの頭をくしゃりと撫でた。
ナルトが里の者達から受け入れられにくいことを知っていたイルカ先生は、試験に落ちたナルトを慰めるために一楽に連れて来たのだ。
だが、元気よくラーメンを食べるナルトを見て、これなら大丈夫かと心の中で呟いた。
先生と生徒、二人の様子を影から盗み見るミズキの存在に気づかないまま……
「はぁー、お腹一杯だってばよ!」
「おーい! ナルトくん!」
イルカ先生にラーメンをおごってもらった帰り道で、またも後ろから声をかけられるナルト。
「今度はミズキ先生!」
「今度は? もしかして誰かと一緒にいたのかな?」
「おう! さっきまでイルカ先生にラーメンおごってもらってたんだ」
「へぇー、よかったじゃないか、ナルトくん」
いかにも人が良さそうな顔でミズキはナルトに話しかける。
「ナルトくんは、どうしてイルカ先生がキミのことを気にかけてくれると思う?」
「え? イルカ先生が? うーん……うん?」
「それはね、キミが生徒で僕達が先生だからだよ。先生にとっては子供は何よりも大切だからね! そして、オレもラーメンじゃないけどナルトくんに、いい話を持ってきたんだ」
「いい話? オレに?」
ミズキの話に終始、首をかかげるナルト。
「ナルトくんは試験に合格したくないかい?」
「えっ? そりゃあ……したいけど……」
「実はね、一つだけ合格できる方法があるんだ!」
ミズキが話した内容は封印の書と呼ばれる禁術の巻物を盗んでくれば、下忍になれるというものだった。
だが、そんな再試験は存在せず、それどころか禁術の巻物を盗むということは重罪とされている。
だが、三代目火影は理由はどうあれナルトにかなり甘い。
ナルトが普段からやっている木の葉の象徴とも言える顔岩への落書きなど、五大国の中でも平和な火の国であれ、本来なら投獄ものの罰である。
だが、そんなナルトだからこそ、自分には不可能な巻物の窃盗も可能なのではとミズキは考えていた。
そして、その日の夜。
ミズキの腹の中など露知らず、ナルトはいつものように火影室に乗り込む。
「どうしたナルト? こんな夜中に?」
「くらえ! お色気の術!」
三代目と遭遇したナルトは変化の術の応用、お色気の術を使い、三代目を一時的に足止めする。
そして、
「えーと、禁術の巻物……あったこれだな!」
アカデミー生が一時的とはいえ、火影を倒すなど前代未聞のことをしておきながら、呑気に巻物を詮索して、物を手に入れたナルトは部屋を出ようとする。
だが、そこである物に目が止まる。
いつもはなかったその羽織に、巻物のことなど忘れてしまうほど惹き付けられる。
『四代目火影』
九尾の化け物を倒した英雄。
ナルトが目指す人物。
その四代目が来ていた羽織が部屋の隅にかけられていた。
惹き寄せられるままにナルトはその羽織を自分の腕に通し、背中にかける。
「へへへ……♪」
サイズはぶかぶかで合わないはずなのに、何故かこれでもかというほどにナルトに合う。
さらに、
ゴトッ!
何かが床に落ちる音が聞こえ、慌てて拾いあげる。
「クナイ?」
何やら普通のとは形が違い、使いづらそうなクナイ。
頭ではそう思うのに、これまた手にはこれでもかとしっくりくる。
もう少し、じっくりと調べようとしたところで……
「うーん?」
「ヤバい! 鼻血だらけのじいちゃんが起きるってばよ!」
ナルトは慌てて火影亭を脱出した。
3つの重要品を盗みだして……
巻物を盗み出してから約一時間。
ナルトはミズキと待ち合わせした森の中で修行をしていた。
泥だらけになりながらも、何とか一つの術を覚えたとこで、待ち人のミズキが現れる。
「よ! ナルト。どうやら封印の書はちゃんと持ってこれたようだな……」
「もちろんだってばよ! ミズキ先生。これでオレってば忍者になれるんだよな!」
そうキラキラしながら話すナルトにミズキは……
「ククククク……」
「ミズキ先生?」
「アハハハハ! お前が忍者何かになれるわけないだろ? ナルト」
「ど、どういうことだってばよ!」
「これは試験でも何でもない! お前はただオレに利用され、里の大事な封印の書を盗んだだけなんだよ!」
「そんな! だって、だって、ミズキ先生言ったてばよ! この巻物を持ってくれば、試験に合格できるって!」
「だから、それがそもそも嘘なんだよ! 忍者なら裏の裏を読めってアカデミーで習っただろ、落ちこぼれ!! だからお前は忍者になれないんだよ!」
いつも人あたりの良いミズキとは正反対の言動に、ナルトはようやく事態を把握する。
「ふざけんな! それならこれはお前に何かに絶対やらねぇ! 火影のじいちゃんに返しに行くってばよ!」
「はっ、このオレから逃げられるつもりか? それに火影って……ん?」
そこでミズキはナルトが着ている四代目の羽織を目にする。
そして、いいことを思いついたとばかりに嫌な顔をして、
「ナルト、せっかくだから巻物を盗んできた褒美に一ついいことを教えてやるよ」
「はっ! オレってば、二度も同じ手に引っ掛かるほどバカじゃねぇーってばよ」
「まぁ、そう言うな。何せこれはお前が一番知りたい話だろうからな……お前、何故自分が里の皆に嫌われてるか教えて欲しくないか?」
「それは……」
それはナルトが物心ついた頃からずっと疑問に思っていたことだ。
三代目の加護があったから、直接的に何かされたことは少ない。
だけど自分は里の殆んどの人間から嫌われている。
そして、そんな奴等がナルトは当然憎かった。
何故、自分だけこんな目に合うのか理由が知りたかった。
だからこそ、聞いてしまった。
「これはな、三代目が作った掟のせいでお前にだけは知らされていない真実だ!」
「ある掟?」
「その掟ってのはな……お前の正体が12年前、里を襲った九尾の化け物であるということをお前に教えないことだ!」
「……え?……九尾?」
「そうだ! お前は12年前、大好きなイルカの両親を殺し、そしてお前の目指す火影に九尾を封印されたんだよ!!」
「そ、そんな……そんなの嘘だってばよ!」
「全部本当のことだ! それは里のみんなが証明しているだろうが!」
真実を告げられ、取り乱すナルトに向かって、ミズキがクナイを投げる。
ナルトの頬に赤い線ができる。
「え?」
「ナルト、これで最後だ。巻物をこちらに渡せ! そうすれば命だけは助けてやるぜ! 今のオレは気分がいいからな」
ミズキのその言葉に、様々な葛藤が生まれる。
だが、ここまでバカにされたのに、言うことを聞くのはプライドが許さない。
何より、今のナルトは誰の言うことも信じられない状態だった。
巻物を渡しても助かる保証なんてどこにもない……なら……
ナルトは森の外へ、方向的には里の門の方へ走りだした。
「やっぱりバカだな、お前は。素直に巻物を渡していれば命だけは助けてやったのに」
しかし、ミズキはすぐにナルトに追い付き、後ろから手裏剣を投げつけてきた。
グサッ!
その何枚かがナルトの足に突き刺さる。
「いてぇ……」
「まぁ、オレから逃げても、今頃お前を殺そうと躍起になっている、三代目が集めた里の連中に見つかって殺されていただろうがな」
「くっそーー!!」
「ついでに言っておくと、お前が頼りにしているイルカはここには来ないぜ! あいつはバカだから、場合によっては本当にお前を庇う可能性があったからな」
周りの人間が頼りにならない。
そんな事は最初からわかっていた。
なら、自分でどうにかするしかない。
ナルトは足に刺さった手裏剣を抜き、両手を十字に結ぶ。
「ほぉー最後の悪あがきか、面白い! やってみろよ化け狐!」
「多重影分身の術!」
余裕綽々だったミズキの顔が一気に絶望に染まる。
それもそのはず、ミズキの周りに50人ものナルトが現れたのだから。
アカデミーの卒業試験の分身の術と影分身では訳が違う。
分身の術はあくまでも複数いるかのように見せかけるだけだが、影分身は実体があり、分身自体が戦力になる。
51vs1
アカデミー生と先生とはいえ、余程の実力差がない限り勝負は見えていた。
「な、な、なんだこれは!」
「「「何だって、ミズキ先生が教えてくれた巻物に書いてあった術だってばよ! さて、散々こけにされた分、50倍に返してやる!」」」
「あ、あ、あ……」
一分後勝負はナルトの勝利で幕を閉じた。
「さて、取り敢えず、じいちゃんに謝らなきゃいけないなぁ」
そんな事を呑気に考えていたナルトの周囲に、十数人の木の葉の忍達が現れる。
「見つけたぞ、うずまきナルト」
「なに、ミズキがやられているだと?」
「まさか、封印が解けたのか?」
「まずいぞ、すぐに火影様に……いや、完全に封印が解ける前に……」
その忍の言葉を合図にナルトを取り囲む忍達が殺気を放つ。
「えっ? ちょっと待つってばよ!」
「問答無用! 化け狐! 積年の恨みを今晴らそう!」
多重影分身を使って、チャクラを殆んど使い切ったナルトに、無数の手裏剣やクナイが放たれた。