霧隠れの黄色い閃光   作:アリスとウサギ

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チャクラの鎧

雪絵は一人静かにバーの席に腰をかけ、浴びるように酒を飲んでいた。

彼女の服装はサングラスに、長袖の真新しい白いコート、いわゆる芸能人がお忍びで外出する時の定番であった。

早い話、雪絵はまた仕事から逃げ出していたのだ。

当然、映画関係者はみんな捜索に駆り出されていたのだが……

当の本人である雪絵は、

 

「冗談じゃないわ……」

 

いつも肌身離さず、胸元にかけている六角水晶のペンダントを眺めて、

 

「誰が雪の国なんかに……」

 

酒を飲み、愚痴をこぼしていた。

だが、任務を言い渡された以上、女優一人の事情に左右される訳にはいかない。

あれからナルトは再不斬達と合流して、雪絵の行方をずっと探していたのだ。

そして、ついに居場所を突き止め、バーの中へと突撃した。

 

「見つけたぞ、風雲姫! よくも男の純情を踏みにじってくれたな! 女優様がどれだけ偉いか知らねえーが、オレは絶対、許さねーぞ!」

 

結局サインも貰えず、ナルトは憤慨していた。

任務というより、若干私怨も込めて文句を言う。

が、雪絵にナルトの気持ちは届かず……

やって来たナルトに酔眼の眼差しを向け、

 

「女優様? 偉い? くくく、はははは! バッカみたい……女優なんて最低の仕事、最低の人間がやる仕事よ……人の書いたシナリオ通りに嘘ばっかりの人生を演じて……ほんと、バカみたい」

「……姉ちゃん、酔ってるのか?」

「うるさいなあ! とっとと消えて!」

 

ナルトと雪絵が睨み合う。

そんな二人の間に入ってきたのは、少し遅れて駆け込んで来た再不斬達と三太夫であった。

三太夫は息を切らしながら、雪絵の側に駆け寄り、

 

「雪絵様、もうじき雪の国行きの船が出航します。さあ、急ぎませんと」

 

しかし雪絵は、必死に語りかける三太夫から目を逸らし、飲みに酒を満たしながら……

ぽつりと呟いた。

 

「……風雲姫は降りるわ」

「そ、そんな!」

 

突然の話に長十郎が困惑する。

続けて三太夫が雪絵に詰め寄り、

 

「何を言っておられるのですか!」

「ほら、役が途中で代わることなんてよくあることじゃな……」

「黙らっしゃい!!」

 

今まで温和に話していた三太夫が声を荒げる。

その迫力はナルト達も気圧されるほどであった。

 

「この役は、この風雲姫の役をやれる役者は雪絵様以外にはおりませぬ!」

「………………」

 

雪絵は一瞬迷う素振りを見せながらも、すぐに視線を逸らし、逃げるように顔を背ける。

そんな雪絵の態度に、我慢の限界がきた再不斬が強行手段にでた。

 

「グチグチうるせェ。綺麗な女は嫌いじゃねーが、我が儘な女は論外だ。しばらく眠っとけ」

 

そう言って、雪絵の首に手刀を入れ、気絶させた。

 

 

 

「そうか、六角水晶を持っていたか」

「女優、富士風雪絵が風花小雪であることは間違いないようです」

「この十年探し続けた甲斐がありましたね」

「ふん、小娘一人だったら楽勝だぜ!」

「小雪にはあの桃地再不斬が護衛についているそうだ」

「最近、霧隠れの里に戻った、忍刀七人衆の一人か」

「へえ〜、面白いことになりそうじゃない」

 

雪の国では、既に再不斬達の情報を握り、雪絵の持つ六角水晶を狙っている輩達が、今か今かと待ち構えていた……

 

 

 

窓から差し込まれた光に、雪絵は気怠さを感じながらも、目を開け、ベットから身体を起こした。

酒を飲み過ぎたのか、頭がクラクラしている。

気のせいか足元もおぼつかない。

暫くすると、雪絵が目覚めたことに気づいたのか、扉をノックする音が聞こえた。

鍵を開けると、マネージャーである三太夫がお盆を抱えて、部屋に入って来る。

その姿をちらりと確認してから、雪絵は片手を額にあて、

 

「三太夫、お水持ってきて……頭がクラクラする……気のせいかまだ揺れているみたいな感じ」

「それは気のせいではございません」

 

雪絵に水を差し出しながら、三太夫は静かに応えた。

 

「え?」

 

そこで雪絵は冷静になる。

自分が眠りにつく前の状況を思い出す。

雪の国へ、出航……

慌ててベッドから飛び降り、扉を開けた雪絵を待っていたのは、

 

「何なのよ、これ〜!?」

 

絶えず吹き荒れる風と一面の海であった。

 

 

雪絵が起きた知らせを受け、船の上では映画を撮るための準備が進められていた。

船上セットと言うらしい。

様々な小道具に、いくつものカメラ、スタッフ達が慌ただしく動いている。

そんな様子を邪魔にならないよう、端っこの方で静かに見守る霧隠れ第一班。

そんな中、ナルトは一人の人物に目を止める。

衣装の着こなしをしている雪絵であった。

ナルトはそれをぶすっとした顔で眺め、

 

「オレってば、あの姉ちゃん苦手だってばよ」

 

結局サインも貰えず、ナルトは完全にふて腐れていた。

そんなナルトを見下ろしながら、再不斬も同意するように、

 

「奇遇だな、ナルト。オレも同じだ。だが、任務である以上、何があっても守ってやらなければならない」

 

すると、再不斬の言葉に疑問を感じた長十郎が、

 

「再不斬先生、そんなに肩肘張らなくても大丈夫なのでは? Cランク任務ですし……」

「確かにランクはCランクとされている。だが、映画女優みたいに有名な奴は誰に狙われても不思議じゃない上に、敵も予想しづらい。長十郎、くれぐれも油断するんじゃねーぞ」

「す、すみません」

 

そんな会話をしている間に、撮影の準備が終わり、ついにカメラが回り始めた。

 

「よし! 気合い入れてけ! テストからフイルム回していくぞ!」

「おう」

「はい! シーン23、カット6、テイクワン。アクション!」

 

その瞬間。

富士風雪絵は風雲姫になる。

 

「獅子丸、しっかりして!」

 

風雲姫は今にも事切れそうな獅子丸の服を掴み、必死な声音で呼びかける。

そんな姫の顔を焦点の定まらない瞳で見つめ、獅子丸は最後の命を振り絞り、

 

「姫様……お役に立てず、申し訳ありません」

「何を言うのです! あなたのお陰で私達はどれ程、勇気づけられてきたことでしょう」

「姫様……一緒に虹の向こうを見たかった……」

「獅子丸っ!!」

 

圧倒的な空気。

場の流れの全てを風雲姫が支配していた。

まるで、自分達まで"映画の世界に入り込んだ"と、忍であるナルト達が錯覚を覚えるほどに。

とても演技とは思えなかった。

先ほどまで文句ばかり言っていた再不斬とナルトですら言葉をなくし、息を呑んで、

 

「すげェな……今までの我が儘な女とは別人じゃねーか……」

「現実の姉ちゃんとは全然違うってばよ……」

 

雪絵の作る世界に、完全に引き込まれていた。

そんなナルト達に向かって、淡々と、でもどこか誇らしげに三太夫が語る。

 

「あれが雪絵様です。一旦カメラが回り始めたら、あの方の演技の右に出るものはおりません……」

 

その言葉に無言で頷くナルト達。

雪絵の一挙手一投足から視線を外せなくなっていた。

これが映画女優の実力。

と、雪絵の評価を改めていた時……

 

「はい、止めて〜」

 

撮影が開始される前の雰囲気に戻った雪絵。

スタッフ一同が思わず、がくっとずっこける。

 

「「「はあ?」」」

「何なんッスか?」

 

打ち合わせでもしていたかのようなリアクションをとるスタッフ達……を無視して。

雪絵が手招きをする。

 

「三太夫、涙持ってきて、涙」

 

慌てて目薬をさしに行く三太夫。

そして……

 

「こぼれる、こぼれる、早く回して」

「しょうがねーな……おい、寄りで抜くぞ」

 

マキノの指示で撮影が再開される。

あまりのギャップに、現実へ引き戻されたナルト達が雪絵の評価を改めるのは、もう少し先の話であった……

 

 

 

次の日。

目を覚ました一同に待ち構えていたのは……

 

「監督〜 大変ッス! 進路が塞がれてるッス!」

 

船の進む先に、小さな山ほどの氷が壁となっており、海路の足止めをしていた。

舵を切ろうにも、辺り一面が氷に覆われており、遠回りになるのは必然的である。

 

「どうしましょう?」

 

予定外の事態に慌てた様子の助監督。

しかし、マキノは助監督の言葉には応えず、ただ真っ直ぐに氷山を眺め、目を見開き、叫んだ。

 

「きたーー!! 化けるぞ! この映画!」

「えっ? 監督?」

「バカ野郎!! 見ろ! この絶好のロケーションを! ここでカメラを回さねえでどうする!」

「ええ!?」

「こういうのを映画の神様が降りてきたっていうんだ! 総員、上陸準備!!」

 

マキノの一言で、船にいた一同全員が氷の大地へ降りることになった。

慌ただしくも、スタッフ達は慣れた手つきで撮影道具を用意していく。

準備が整ったところで助監督がシーンナンバーを叫び、

 

「シーン36、カット22、アクション!」

 

映画・風雲姫の撮影が始まった。

 

「くははは、ついにここまで来たか、風雲姫!」

 

毎度お馴染みの高いところから、杖を振り上げ、風雲姫を見下ろす魔王。

 

「お前は、魔王!」

「姫様、お下がり下さい!」

「奴はオレ達が!」

 

姫を守ろうとする家来達。

そんな相手に魔王は不敵な笑みを浮かべ、

 

「クズどもが何人束になろうと、ワシの相手になるものか!」

 

と、魔王が指を突き付けた……瞬間。

ドカーン!!

氷山の一部が爆発した。

その爆発は演技でもなければ、演出でもない。

それは再不斬の投げ込んだ起爆札付きのクナイによるものであった。

雪絵の前に立つ再不斬に、事態を理解出来ていない助監督が文句を言う。

 

「何してんだよ! あんたー!」

「うるせーな。死にたくなかったら全員今すぐ船の中に引っ込め!」

 

雪絵達に背を向けたまま、再不斬は怒声を上げる。

何故なら、それほどまでに緊迫した事態が目の前に迫っていたからだ。

その直後。

爆発が起こった箇所の雪が不自然に盛り上がり、そこから白い鎧を身に纏った長身痩躯の男が姿を現した。

 

「ようこそ、雪の国へ」

「誰だか知らねーが、オレ様と殺ろうって……!?」

 

そこで再不斬はまだ敵がいるのを察知する。

そちらに顔を向けると、白い鎧を身に纏った小柄な女が立っていた。

気配の消し方からみて、間違いなく忍だ。

そのくノ一が雪絵に顔を向け、

 

「歓迎するわよ、小雪姫。六角水晶は持ってきてくれたかしら?」

「小雪?」

 

聞いたことのない名に、再不斬は首を捻る。

どうやら突如現れた忍達と護衛対象である雪絵には、再不斬達の知らない因縁があるらしい。

情報を聞き出してみるか。

と、再不斬が問いただそうとした時……

 

「チィッ、まだいやがったのか」

 

今度は少し離れた地面の下から敵の気配を察知する。

バレたことに気づいたのか、大柄の熊みたいな男が自ら這い出てきて、

 

「はははは、さすがは桃地再不斬! これ以上は近づけないか!」

 

白い鎧を身に纏い、雪の中から姿を現した。

さすがに三人の相手をしながら雪絵を守るのは不可能、と判断した再不斬は、

 

「ハク、ナルト、長十郎。お前らは雪絵を守れ! そしてさっきも言っただろうがァ! テメェら死にたくねーなら、とっとと船に戻りやがれ!」

 

部下達に指示を出し、未だに突っ立っているスタッフ達に少し殺気を浴びせた。

ようやく状況を理解した連中が、急いで船に戻り始める。

すると、それまで黙っていた長身痩躯の男が、

 

「オレは雪忍のナダレだ。再不斬、お前はオレの相手をしてもらおう。フブキ、ミゾレ、お前達は小雪姫を頼んだぞ」

 

名乗りを上げた後、くノ一のフブキと熊男のミゾレに指示を出し、再不斬の方へ近付いてきた。

再不斬もそれに応えるように、雪山を駆け上がり、

 

「クククク、オレを知って喧嘩売るとは命知らず知らずな野郎だ……」

「霧隠れの鬼人の力、試させてもらおう」

 

そう言った――途端。

首斬り包丁を構え、切り込む再不斬。

それを鎧の籠手で受けるナダレ。

二人は何度も攻防を繰り返し、氷山を駆け上がっていく。

それを見ていたナルト達は雪絵を卍の陣で守るように囲み、

 

「なんだかわかんねぇが、映画みたいになってきたぜ! 風雲姫の姉ちゃんはオレが守ってやるってばよ!」

 

そう言った側から、雪忍の一人である熊男のミゾレがスノーボードに乗って、雪絵を狙いに向かって来た。

ナルトはホルスターからクナイを取り出し、これ以上の接近を許さないと、先に攻撃を仕掛けた。

真っ直ぐこちらに突っ込んで来たミゾレに向かって、クナイを投擲する。

しかし、ミゾレはナルトの放ったクナイに眉一つ動かさず、避けようとすらしなかった。

何故なら躱す必要がなかったからだ。

ガキンッと甲高い金属音が鳴る。

ナルトの放ったクナイは、ミゾレの体に当たる直前、何か見えない不思議な力に弾かれ、無力化された。

ミゾレは薄ら笑いを浮かべ、

 

「行くぞ、小僧!」

 

雪上を滑るスノーボードが加速し、そのスピードのままナルトに突進してきた。

 

「ナルトくん!」

 

ハクが千本で援護するも、またもや見えない力で弾き飛ばされる。

相手の能力に疑問を感じながらも、さらにナルトを援護しようとしたところ、

 

「アナタの相手はこっちよ」

 

ハクの方にも雪忍の一人である、くノ一のフブキが術を繰り出してきた。

 

「氷遁・ツバメ吹雪!!」

 

氷でできた無数のツバメが、ハクを切り裂こうと縦横無尽に襲いかかる。

なんとか回避したハクだが、その顔には困惑と驚愕の色が混じりあっていた。

 

「氷遁!? バカな! あれは雪一族にしか使えないはず」

 

雪一族。

ハクの一族の名であり、忌々しい血継限界の血筋を宿す一族。

メイが水影に就任する前までは、水の国で血継限界を持つ者は悪魔と称され、忌み嫌われ、恐れられていた。

雪一族も例外に漏れず、終戦後まで利用され、その後は守ったはずの人々からは迫害に遭い、ハクの母親を含め自分以外の一族は滅んだ……

少なくともハクはそう聞かされていた。

だからこそ、自分以外の忍が氷遁を使ってきた事実は驚愕に値する出来事であった。

常に冷静沈着なハクが戦闘中にもかかわらず、狼狽してしまうほどに。

だが、敵はそんな隙を待ってはくれない。

 

「氷牢の術」

 

巨大な氷の柱が次々と地面から出現し、ハクを捕らえようとする。

ハクが千本で反撃するも、フブキは自身の前に氷の壁を作り、いとも簡単に防いでしまった。

並大抵の攻撃では通用しないらしい……ならば、

 

「いいでしょう……僕も氷遁で負ける訳にはいきません」

 

ハクは印を結び、自身の後ろとフブキの後ろに氷の鏡を作る。

鏡の反射を利用した移動術で氷の柱を避け、フブキの背後を取った。

 

「なに!?」

「これで決めさせてもらいます」

 

勝負を終わらせようとするハクだが、相手の方が一手早く、逃げる準備を済ませていた。

鎧に備わっていた羽を使い、フブキはその飛行能力で空へと飛び去っていった。

 

一方、ナルトは……

ミゾレの体格にそぐわない、地形とスノーボードを利用した、この国で特化した素早い戦闘スタイルに翻弄されていた。

それでも何とか気合いで食らいついていたのだが、慣れない雪の上での戦闘も相まって、ついに動きを捉えられ、

 

「ぐはっ!」

 

雪の壁に激突するように殴り飛ばされた。

戦況の悪化を見て取った再不斬は、印を結びながらナルトの援護に向かい、

 

「ナルト! クソっ、水遁・水龍弾の術」

 

水の水龍が氷の下から出現し、ナルトを追撃しようと迫っていたミゾレの頭上から勢いよく襲いかかる。

しかし、その再不斬の術すらもミゾレは避けようとせずに、ただ掌を向けるだけで、

 

「フン」

 

打ち消してしまった。

水龍は欠片の殺傷力も持たないただの水となり、雨となって降り注ぐ。

 

「命に代えても撮り続けろ! 写真屋の意地を見せてやれ!」

 

再不斬達が苦戦している中、マキノ達は逃げながらも忍達の闘いを一部始終逃さないように撮影を続けていた。

再不斬は殆んどの船員が避難し終えたことをその耳で確認し、目では敵である雪忍達を見据えていた。

自分の術がいとも簡単にかき消されたことに再不斬は舌打ちし、

 

「チッ、どういうことだ? オレ様の首斬り包丁でも殆んど傷つかねぇどころか、忍術まで無効化しやがるとは……そのガラクタに秘密でもあるのか?」

「その通りだ、再不斬」

「ああ?」

 

再不斬の疑問に応えたのはナダレだった。

ナダレは自身が身に着けている白い鎧について説明を始める。

 

「このチャクラの鎧は体内のチャクラを増幅し、様々な術を強化してくれる。さらに、体の回りにはチャクラの壁が作られ、どんな忍術、幻術も通用しない」

 

と、丁寧に説明してくれたのは有り難いが、あまりの理不尽な能力に再不斬は眉を寄せ、

 

「チャクラの鎧だと? そんな物、霧隠れにも、いや、五大国のどこにも作られていねー物が、何故こんな雪の国なんかにありやがる」

「ふん、五大国が最強を名乗ってられるのも今のうちだけだ。時期に我々が忍の頂点に立つことになる」

「ご大層なご託を並べやがって」

「ご託かどうか、試してみろ。桃地再不斬」

「クククク、いいだろう」

 

再不斬とナダレが同時に術を発動する。

 

「水遁・水龍弾!!」

「氷遁・破龍猛虎!!」

 

水の龍と氷の虎が激突する。

だが、その二つが拮抗することはなく、再不斬の放った水龍は瞬く間に押し切られ、ナダレの術だけが再不斬に襲いかかった。

しかし、それは当然の結果であり、ハクと一緒に修行してきた再不斬にとっては当たり前の光景であった。

再不斬は相手の術を避けながら、しっかりとそれを観察する。

 

(チッ! マジで氷遁忍術だなァ。まさかハク以外にも使い手がいたとはな。しかも、オレ様と相性最悪ときていやがる)

 

氷遁忍術は水と風の性質を持ったチャクラを同時に使用することで発動する血継限界。

水のチャクラに風のチャクラが組み込まれた性質変化。

逆も同様で、つまり水と風の忍術では基本的に氷遁には絶対とまではいわないが、押し負け易いことが性質上決められていた。

あくまで術のレベルが同じで、なおかつ正面からぶつかった時の話だが……

 

再不斬がナダレとの闘いに苦戦していた頃。

長十郎はナルトに代わり、雪絵を狙って来たミゾレの相手をしていた。

 

「どうした小僧! その程度か!」

「くっ、くっそ! この人、強い」

 

自慢の刀で応戦するも、チャクラの鎧には傷一つつけられず、長十郎は殆んど防戦一方の戦いを強いられていた。

このままでは不味いと判断した長十郎は、未だに一人で突っ立ている雪絵に向かって、

 

「雪絵さん、早く逃げて下さい!」

 

と、撤退を促す。

だが、その声が聞こえていないのか、雪絵はただ立ち尽くし、忍達の闘いを見ていた。

すると、そんな雪絵を助けるため、後ろから三太夫が一目散に駆けつけに来て、

 

「姫様、御逃げ下さい! さあ、早く!」

 

と、腕を引っ張る。

その、あまりにも必死な三太夫の姿を見て、雪絵はようやくこのマネージャーが、雪の国で撮影をしようと言った本当の理由を理解した。

 

「三太夫……あなた……」

「さあ、姫様! このままでは危険です!」

「嫌よ! 死んだって構わない! 雪の国になんか行かない!」

 

頭を抱えて、悲痛な表情を浮かべながら、雪絵は拒否の言葉を叫んだ。

そこに、ナルトとハクが加勢しに戻って来て、

 

「我が儘言ってんじゃねーぞ、姉ちゃん!」

「ナルトくん、何か訳ありのようです。訳は後で聞くとして今は逃げることに専念しましょう」

「……わかったってばよ、影分身の術!」

 

ナルトは影分身を作り、雪絵や三太夫を含めた逃げ遅れた人達を抱えて、船の中に戻って行った。

そのやり取りを見ていた再不斬は、自分以外にも唯一残ろうとしてい長十郎に向かって、

 

「長十郎、今回はお前も引け。殿はオレがやる」

「わ、わかりました」

 

と、全員を撤退をさせてから、再不斬は最後の仕込みに取り掛かる。

それを察したナダレが再不斬の前に立ちはだかり、

 

「オレから逃げられると思っているのか? 再不斬」

「わりーな、最後まで付き合ってやりたいのは山々だが、今回は撤退させてもらうぜ」

 

そう言った直後、再不斬は先ほどと同じ印を結び始めた。

ナダレはそれを印すらも結ばず、余裕の表情で眺め、

 

「バカか貴様? お前の術はオレに効かないと教えたはずだが」

「バカはテメェだ。何も正面からぶつけるのだけが忍術の使い方じゃねーんだよ! 水遁・水龍弾!」

 

再不斬の術が発動し、再び水龍がうねりをあげる。

だが、今度の狙いは雪忍達ではなく、雪山の方であった。

 

「まさか!」

「そうだ、今回はテメーらを倒せずとも撤退できりゃあ文句はねェ。伊達に暗部達に追われて生き延びてはいねーんだよ……あばよ」

 

雪山に激突した水龍は、その衝撃で雪崩を発生させ、雪忍達の追手を見事防いでみせた。

第一班の奮闘のお陰でなんとか犠牲者を出さずに、船を出すことができたのであった。

 

「カーットォ!」

「いや〜、凄い映画が撮れたなぁ」

 


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