城から少し離れた雪が降り積もる針葉樹林。
全員が離れ離れになった後、ハクと長十郎はすぐに互いの姿を見つけて、合流していた。
「長十郎さん、よくご無事で」
「あ、ハクさん、よかったです。再不斬先生から水分身を使って、何かしているとは聞いていましたが……」
「ええ、まさか城ごと爆破させるとは……ふふ、再不斬さんらしい豪快な手です」
「ぼ、僕達まで死にかけましたよ……」
互いの無事が確認できたお陰で、ハクと長十郎はほんの少し気を緩めていた。
が、それはすぐに引き締め直すことになる。
「……長十郎さん」
「……はい。僕も気づいています」
二人は自分達の他にも、林の中に誰かがいることを気配で読み取り、察知した。
一呼吸で、その目が忍のものとなる。
静かにチャクラを練り、全身に行き渡らせ、いつでも動けるように周囲を警戒する。
最初に聞こえたのは、機械仕掛けの駆動音。
ハクの耳に、微かだが聞き覚えのある音が届いた。
と同時に、長十郎が叫んだ。
「上です!」
空を見上げる。
すると、鎧の翼を広げたフブキが、空の上から奇襲を仕掛けて来て、
「氷遁・ツバメ吹雪!」
頭上から氷でできたツバメの刃が降り注ぐ。
ハクと長十郎はそれを左右に跳んで躱し、着地と同時にアイコンタクトを取った。
察知した敵の気配は一つではない。
この場に敵は二人いたのだ。
だから、それぞれが一人ずつ撃破する。
互いがそれを了承し、頷いた。
と――
着地の瞬間を狙っていたのだろうか。
長十郎の方に、熊男のミゾレがボードを使った突進攻撃を仕掛けて来た。
それを見た長十郎は、
「うわっ!」
慌てた口調とは裏腹に、余裕をのある動きで回避する。
だが、ミゾレは横を通り過ぎた後、豪快なUターンを行い、ボードの向きをこちらに戻すと同時に速度を上げ……
再び突っ込んで来た。
避けていてはラチがあかないと、長十郎は自慢の刀を抜き、反撃に出る。
それを見たミゾレは嘲笑いの笑みを浮かべ、
「その刀はオレには効かないとわかっているだろ! 何をしても無駄だ!」
と、意にも介さず突っ込んでくる。
確かに以前の戦いでは、防戦一方であった。
が、長十郎はまだ奥の手を残していた。
抜刀された刀に力を入れる。
彼の刀は自身のチャクラを流し込み、貯めることで、それを切れ味に変えるという少し特殊な性能を持つ忍刀であった。
忍刀七人衆が持つ業物のように、明確な特異性こそ持ち合わせていないが、ただ斬るという一点だけを評すれば、名刀にも勝るとも劣らない一品だったのだ。
「チャクラ解放!!」
刀の刀身が蒼く輝き、長十郎のチャクラを解き放つ。
とそこで、もの凄い勢いで突っ込んで来たミゾレが、長十郎のすぐ目の前まで迫っていることを五感で確認した。
が、回避の姿勢は取らない。
静かに、鋭く、効率良く敵を斬る構えを取り……
一閃のもとに薙ぎ払った――
「ぐあああああ!?」
ミゾレは激痛に顔を歪め、ボードから転がり落ち、苦悶の声を上げる。
長十郎の放った一撃は、今まで傷を付けることすら困難だったチャクラの鎧を斬り裂き、鮮明な刀傷をミゾレの身体に刻み込んでいた。
「自身の力=斬った数。だから斬らなきゃ」
ハクはこれまでの闘いで、チャクラの鎧の性質と雪忍達の使う忍術を、誰よりも観察し、その対抗策を練り上げていた。
その結果……
「「氷遁・ツバメ吹雪」」
ハクとフブキが同じ氷遁、同じ忍術でぶつかり合っていた。
自分の術をコピーされたことに、フブキは動揺を隠せず、
「バカな!? 私と同じ忍術を……」
「ええ、まさか僕以外にも氷遁を使える忍がいるとは夢にも思わず、色々と勉強させて頂きました」
「くっ、たかがコピーでやられるほど、雪忍はやわじゃないわ!」
フブキは一度距離を取り、体制を立て直そうとする。
が、それよりも速く、ハクが印を結び、自身とフブキの後ろに巨大な氷の鏡を出現させた。
次の瞬間。
鏡の反射を利用した移動術で、旋回していたフブキの背後に回り込み、
「でしょうね……」
「なっ!?」
驚いている相手に時間を与えず、ハクはさらに術を発動する。
左手に渦巻状のチャクラが集まっていく。
それはナルトの螺旋丸の修行に付き合っていた時に、ハクが独自に開発したもので、回転したチャクラに水の性質を混ぜるという印のいらないシンプルな術であった。
「水遁・破奔流!」
「ぐわああっ!」
水の竜巻が鉄砲水となり、フブキの体は空中から地面の方向へと押し流された。
ハクの術は螺旋丸のように乱回転をしていないので威力は見込めないものだったが、この戦闘では十分に役割を果たしていた。
フブキが押し出されたさきには……
長十郎に斬り伏せられたミゾレが、息も絶え絶えの状態でよろめいていた。
そんなミゾレにとどめとばかり、上空から押し流されたフブキが真っ直ぐに落ちて来て……
「「ぐあぁああぁああ!?」」
衝突した。
直後、耳を劈く爆風と爆破音。
チャクラの鎧同士が拒絶反応を起こし、大爆発を引き起こしたのだ。
突然の衝撃に、長十郎は目を見開きながら、
「は、ハクさん。い、今のは?」
「以前彼らと戦った時、明らかに鎧そのものがオートで防壁を張り、使用者を守っていたので、それなら鎧同士をぶつけてやれば、互いに拒絶し合うかなと考えて、実際にそうしてみました」
「は、は、ははは、そうですか……」
ハクと長十郎は雪忍の二人を撃退した後、先へと進み、仲間達の援護へと向かったのであった。
時を同じくして、崩壊した城の裏手では、再不斬とナダレが互いに睨み合い、牽制し合っていた。
ナダレは以前の闘いから自分の勝利を確信しており、再不斬に不敵な笑みを浮かべて挑発をする。
「再不斬、一対一でオレに挑んでいいのか?
以前のように逃げることになるぞ?」
「グチグチうるせぇ。今回は最期まで付き合ってやるから安心しろ」
再不斬はそう言うや否や、左手を上に、右手を胸の中心に持っていき、
「忍法・霧隠れの術」
術を発動した。
辺り一面に霧が立ち込み、ナダレの前から再不斬の姿が搔き消える。
「お得意の霧隠れか? だがこの霧が何になる? やはり逃げるだけか?」
「……やはり同じ氷遁使いでも、お前らとハクとでは出来が違うなぁ……」
「なんだと!」
「……終わりだ」
音も無く、姿を消していた再不斬が現れた。
「ふん、ようやく出てきたか……あれ? 再不斬と……景色…ズレ…………」
勝負は一瞬で終わった。
ナダレだったものが地面に転がる……
再不斬はそれを冷めた目で見下ろし、
「終わりだと言ったはずだぜ。ハクは頭も切れる。その鎧の弱点もすぐに看破していた。要はその鎧の守りが薄いところを忍術ではなく、この首斬り包丁で叩き斬ればいい。それだけの話だ……くだらねぇ」
再不斬は文字通りナダレを瞬殺した後、すぐにその場を離れた。
それから残っている仕事を片付けるため、最後の闘いの地へ赴くのであった。
針葉樹が生い茂る雪の中。
ナルトはドトウが雪絵を連れ去って行った方角を目指し、足を進めていた。
「クッソォォ…絶対に…諦めねえぞ」
だが、制御装置のせいでチャクラを練り上げることができず、雪が降り積もった場所では走ることすら難しく、ドトウ達に追いつくことさえ出来ずにいた。
「どんなに嫌がっても…どこまでも追っかけてやる……チックショォォォォオ!!」
ナルトは大声を上げ、思い切り叫んだ。
すると……
その声に応えるかのように、ナルトの進んでいた方向とは別の道から、かたかたと無機質な音が近づいて来た。
辺りを見回して音の正体を探ると、それはすぐに見つかった。
「…………」
マキノと助監督だった。
二人は撮影用のカメラを台に乗せ、スノーモービルに乗って現れた。
そしてナルトの前で停止する。
マキノがメガホンを振り回しながら一言、
「乗れ!」
ナルトはそれに頷き、荷台に足を乗せた。
目的地まで運んでもらうことにしたのだ。
三太夫が、みんなにオススメしていた――映画の完結編が撮影される場所へ
虹の氷壁――
その中心にある台座にドトウは六角水晶をはめた。
すると、装置は鍵が入れられたことにより、永い眠りから目覚め、起動を始める。
台座を中心に六方向へと光が広がり、それぞれの氷の柱に光が注がれ、辺りを照らす。
それは上から見下ろせば、まるで雪の結晶が輝くかのような素敵な光景であった。
だが、ドトウが求めていたのはそんな幻想的な物ではなく、もっと物欲的な物である。
「宝は? 宝はどこだ?」
ドトウはぎらついた目で辺りを見回す。
だが、金銀財宝が出て来る気配はなく、代わりに、ぷしゅーと音を立て、熱を帯び始める雪の国一のからくり装置。
次第に辺り一面の雪が少しずつ溶け始め、所々から白い蒸気が噴出し始めた。
周囲の氷を全て溶かすのではないかという程の勢いで……
「暖かい、これは?」
雪絵がぽつりと呟いた。
そして、それ以上にこの状況に納得できなかったのは、
「発熱機だと!? これが風花の秘宝だというのか!!」
予想外の宝にドトウは混乱する。
ドトウは早雪が隠していた財産は、もっと別の物だと思っていたからだ。
だが、そんな物は何処にも存在せず、計画が狂ったことに顔を歪める。
そして、そんなドトウにさらなる追い討ちを掛ける存在が……
「姉ちゃーーん!!」
ドトウと雪絵が声のした方を振り向くと、そこにはマキノに運ばれて来た……ナルトの姿があった。