霧隠れ第一班発足から、約2ヶ月。
ついに木の葉の里で中忍試験が行われる季節がやって来た。
中忍試験とは下忍が中忍になるために必要な試験で、一人前の忍として周りから認められる第一歩となる試験でもある。
そして、この少年。
うずまきナルトも、その中忍試験に参加する一人なのであった……
「ありがとうだってばよ、おっちゃん!」
「がははは、遠慮せず食え食え! ナルト達にはオレ等も色々と助けてもらってるからな〜」
饅頭を片手に礼を言うナルト。
中忍試験の手続きのため、水影室に行こうとしていたナルトだが、通り道で饅頭屋のおっちゃんに声をかけられ、少しだけ道草を食っていた。
ナルト達の活躍が映画となり、一部では今まで血霧の里などと恐れられていた霧隠れにも、雪の国をはじめとした観光客などが増え始めてきていた。
その影響もあってか、今までは閉鎖的だった水の国で、他国との交流や交通を深められる場や機会が増えだしており、商店街で店などを出している霧の里に住まう人々にも少しずつ賑わいが広がり始めていた。
「ナルト兄ちゃん!」
「ナルトの兄ちゃん!」
饅頭屋のおっちゃんに饅頭を貰っていたら、今度は里の二人の子供がナルトに話しかけてきた。
ナルトは子供達の高さに合わせるように屈んで目線を下げ、
「どうしたんだ?」
「またあれやってよ!」
「うんうん!」
「ん? あれってなんだってばよ?」
ナルトの疑問に子供達は当然と言わんばかりの顔で、
「姉ちゃんが信じてくれるなら!」
「オレは絶対! 負けや「しねえ!!」」
と、風雲姫の映画でナルトが言った決め台詞を体まで使って真似していた。
ナルトはその物真似を見て頭をかかえる。
「ノ〜!! ちょっ!! やめてくれ〜」
「「あはははは!」」
体を左右に捻り出すナルトに子供達が声をあげて笑っていた時、水色髪の少年がナルト達の前に現れる。
「ナルトさん、そろそろ行かないと時間に遅れるかもですよ」
声をかけてきた、少し気弱な少年。
彼はナルトと同じ霧第一班に所属する長十郎であった。
ナルトは立ち上がり、
「お! 長十郎。そうだな……お前達、悪いけどオレってば、今日は大事な任務があるからよ!」
「そっか! わかった!」
「行ってらっしゃい、ナルトの兄ちゃん!」
「おう! 行ってくるってばよ!」
子供達に別れを告げ、ナルトは長十郎と一緒に水影室を目指す。
道すがら二人は里の人々に何度も声をかけられる。
「な、ナルトさんはすっかり里でも人気者になりましたよね……僕より名前も覚えられてるんじゃないでしょうか……」
「そうか〜? 何か改めて言われると照れるってばよ!」
照れた顔ではにかむナルト。
そんな会話をしながら、二人は五分ほどで水影室の前に辿り着いた。
長十郎がドアをノックしてから、二人が中に入ると、そこには既に、
「漸く来たか」
「二人とも、おはようございます」
再不斬とハクが先に到着していた。
第一班のメンバーが全員揃ったのを確認したところで、水影がコホンと咳払いをしてから話を始める。
「ついにこの日がやって来ましたね……と本題に入る前に、ナルトくん。これを……」
水影がナルトに巻物を手渡す。
何のことかわからないナルトは首を傾げる。
「ん? なんだってばよ? これ?」
「以前お話していたあれです。漸く完成しましたので、中忍試験に持っていって下さい」
頭にはてなマークを浮かべていたナルトが、ポンと手を打つ。
「あ〜、あれか! こんな風になるのか……ありがとうだってばよ、水影の姉ちゃん!」
ナルトが巻物をポーチに仕舞ったのを見て、水影が本題に入る。
「第一班の皆さんには以前から話していた通り、Sランク任務をして頂くことになります。一応確認しておきますがナルトくん、任務の内容は覚えていますか?」
「大丈夫だってばよ、水影の姉ちゃん! オレ達が他の連中を全員ぶっ飛ばせばいいんだろ?」
「「「…………」」」
「ええ、その通りです。再不斬、あとの事は頼みますね」
という水影の言葉に、再不斬は頷きで返した。
「ああ……部下の面倒は任せな」
その返事を聞いてから、水影が立ち上がり、
「では、私もお見送りをしますので、皆さん行きましょか」
途中変な沈黙も入ったが、任務の確認をし終わった後、水影を含めた全員が部屋の外へと移動する。
今回、ナルト達が木の葉で中忍試験を受けることは事前に里のみんなに伝えられていた。
その宣伝もあってか……
「頑張ってこいよ!」
「中忍になって帰ってこいよ!」
「お前達なら楽勝だろ!」
「他の里の奴等に負けんじゃねーぞ!」
「帰って来たら、盛大に祝ってやるからなー!」
水影室から里の出口に辿り着くまでの間、絶えず絶えることなく、ナルト達への声援が里のみんなから贈られ続けていた。
中には垂れ幕をかけている所さえあった。
凄い賑わいである。
確かについ最近まで閉鎖的だった水の国から、他国へと中忍試験を受けるメンバーは珍しい。
それでも本来、ここまで見送りが来るほどのイベントではない。
だというのに、ここまで里が一丸となって応援しに来た理由は、やはり霧隠れ第一班の人気の賜物だろう。
「これは頑張るしかねーよな!」
「ですね!」
「は、は、は、はい! が、頑張ります!」
ナルト、ハク、長十郎も里中の声援に応えられるよう気合いを入れ直す。
そして最後に、長老と水影から激励の言葉を貰う。
「ほふふ……」
「長十郎、ハク、ナルト……あなた達は今やこの霧隠れでも一位、二位を争うほどの人気者の班です。ですから私は何も心配しておりません。胸を張って中忍試験に挑んできて下さいね」
「「「はい!」」」
水影は三人の元気な返事を聞いて微笑みを返す。
最後に微笑みから一転して、真面目な顔で再不斬の方を見て、
「再不斬。何も問題ないとは思いますが、もし何かあればすぐに帰ってくるようにして下さいね」
「わーてるよ……オレが付いてるんだ。何も問題ねーよ!」
試験自体は何も心配していなかったが、それ以外のことは少なからず問題があり、水影はその事を再不斬に頼んでいた。
再不斬もその事に了承した後、部下達に出発の声をかける。
「よーし! ハク、ナルト、長十郎! 木の葉に殴り込みに行くぞ!!」
「よっしゃーあ!! 片っ端からこてんぱんにしてやるってばよ!」
「再不斬さん、ナルトくん! 僕達は試験を受けに行くだけですよ!」
「あわわわわ……水影様〜」
こうしてナルト達は木の葉の里で行われる中忍試験へのスタートを切るのであった。
一方、木の葉の里……
火影室では火の国トップの三代目火影と暗部・根のリーダー、ダンゾウが密会の話し合いを行っていた。
「ナルトの件は儂ら木の葉に非がある。もし木の葉に帰るつもりがないとナルトが言えば、その意思を尊重すると言うたじゃろ……」
「ヒルゼン、これはそんな次元の話ではない。この木の葉の存続に関わる話だ。九尾が抜けたことは既に各隠れ里に知れ渡っている。このままでは木の葉は他国の標的にされるのも時間の問題だ……」
三代目火影とダンゾウは真逆の考えを持ち、互いに譲らない言い合いをしていた。
ナルトの意思を尊重しようとする三代目火影と九尾は取り戻さなければならないというダンゾウの考え。
二人の言い分はある意味どちらも正しく、お互いにそれもわかっていたため、話は平行線を辿っていた。
それでも三代目火影はダンゾウに説得を呼びかける。
「万が一そのような事態になったとしても、儂は木の葉の皆を信じておる。いざの際には木の葉の力を総結集して戦うのみよ!」
「……万が一だと? この後に及んでまだそのような考え方をしているのか。砂と音が今回の中忍試験を利用して攻めてこようとしているのはお前とて既にわかっているはずだ!」
「…………」
沈黙を貫く三代目火影に、ダンゾウは、
「……お前の意思はわかった……今回は九尾の奪還を諦める……」
「!? ダンゾウ!」
「ただし……」
理解を得られたのかと喜びかけた三代目火影にダンゾウは否定の言葉を続ける。
「九尾の件に限らず、今回の件からは全て根の連中には手を引かせてもらうこととする」
「!?」
九尾の件以外とは、仮に砂や音の里が木の葉に攻め込んで来たとしても根の暗部は動かさない。
ダンゾウは完全な非協力体制をすると言ってきたのだ。
その回答に三代目火影は、
「……わかった」
と短く答えた。
ダンゾウは火影室を出た後、すぐ側に控えていた木の葉第七班に送り、うちはサスケの監視を命じていたサイに命令を下す。
「三代目とは互いに決裂する事になった。九尾の件は暫く時期を見る」
「わかりました」
「あくまで一時的だ……ゆえに戦力は温存しておかなければならない。サイ、此度の中忍試験のどこかで砂との戦争が起きる。その時の混乱に乗じて七班を抜け、こちらに戻ってこい」
「わかりました」
「それから試験の際に大蛇丸にサスケを明け渡す段取りをしてある。もし接触した場合はさりげなくサポートもしろ」
「わかりました」
命令に淡々と返事をするサイに視線を向けることすらせず、ダンゾウはその場を去っていった……