霧隠れの黄色い閃光   作:アリスとウサギ

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受け継がれ行く意志

火影室に到着したカカシは、部屋の扉をノックしてから中へと入る。

部屋には三代目火影以外の人影はなく、暫くの間みんな出払っているようであった。

 

「火影様。ナルトをお連れしました」

「お〜!? ナルトか!」

「久し振りだってばよ、火影のじいちゃん!」

 

ナルトと三代目火影は互いの再会を喜び合う。

三代目火影に至っては少し目元に涙をためるほどに、ナルトとの再会を喜んでいた。

 

「ナルトよ、少し大きくなったか?」

「え? そう! そう! そう見える!」

「うむ、ちゃんとご飯も食べられているようで安心したぞ」

「あ〜、オレってば、木の葉にいた頃はラーメンばっか食ってたからなぁー。霧ではさ、里のみんなが優しくしてくれて、食べ物とかも一杯くれるんだ!」

「…………そうか」

 

木の葉とは違い、霧ではちゃんと生活できる。

ナルトからすれば何気ない一言だったのだが、三代目火影は少し顔を曇らせていた。

この話を聞いた後で尋ねても、答えはわかりきっていたことだが、それでも三代目火影はナルトに言わなければいけないことがあった。

 

「ナルトよ……」

「ん?」

「木の葉の里に帰ってくる気はないか?」

「じいちゃん……」

「お主が里を抜けるきっかけとなった事件のことは知っておる。ミズキも既に処罰し終えた……」

「え? どうしてじいちゃんが知ってるんだってばよ?」

「ナルトよ、儂はこの木の葉の里の火影じゃぞ。知らぬ訳がなかろう」

「へぇ〜、お色気の術で気絶してたくせに」

 

ナルトは疑わしい目で相手を見る。

三代目火影もバツが悪かったのか、咳払いをした後、すぐに話を続ける。

 

「おっほん! 里の者達もお主が出ている映画を見てから、少しずつではあるがナルト、お主のことを認めようとしている者さえ増え始めておる」

「えっ!! あの映画やっぱり木の葉でもやってんのか!!」

「ホホホ、実はかく言う儂も映画を見せてもらった一人じゃ」

「じいちゃんもか!?」

 

と、そこでカカシも一言。

 

「ちなみにオレもね」

「カカシ先生までもか!」

 

二人の突然の発言に、嬉しいのやら恥ずかしいのやらで体を捻るナルト。

そんなナルトに、三代目火影は映画を見ていた時に一番驚いたことについて尋ねる。

それはカカシも聞きたいことであった。

 

「ナルトよ、映画を見て驚いたのじゃが、お主、あの螺旋丸をどこで覚えたのじゃ?」

「ん〜、そ〜れ〜は〜、じ〜つ〜は!」

「「実は……?」」

「とうちゃんに教えてもらったんだってばよ!」

「「!?」」

 

ナルトの答えに言葉を失う二人。

ナルトの父親。

それはカカシの師であり、12年前に木の葉の里を九尾から守るために命を落とした四代目火影、波風ミナトなのだから……

 

「どういうことじゃ……ミナトは……その……」

 

三代目火影は後半の部分を濁して話す。

その意味を察したナルトは、

 

「ああ、確かにとうちゃんは死んじまった……」

「その……通りじゃな……では……」

「う〜ん、オレも頭あんまりよくねーからわかんねーけど、このクナイを持ってたら、とうちゃんと会えたんだ……」

「それは!?」

 

二人に父のクナイを見せる。

本当はナルトの八卦封印に四代目火影がチャクラを組み込んでいたから出会えたのだが、今のナルトには、その辺の事情はまだ理解できていなかった。

 

「これはミナト先生のクナイ!」

「まあ、わかっていたことじゃが、やはりお主が持っていたのかナルト……」

 

カカシは驚きの声を上げるが、三代目火影は最初からわかっていたことなので、仕方ないな、という声音で言った。

 

「えへへへ、ごめんってばよ、じいちゃん……」

「まあよい、本来ならお主が持つべき物じゃからな」

「あっ! そうだ……」

 

事のついでにナルトは火影室から盗み出していた封印の書を取りだし、三代目火影へと手渡す。

 

「これ……遅くなっちまったけど、じいちゃんの巻物返さなくちゃ……」

「わざわざ持ってきてくれたのか。うむ確かに受け取った」

「 今まで返せなくてごめん……じいちゃん……」

「よい、あの件は儂にとっても忘れたい事件じゃったからの……色んな意味で……」

「あはははは……」

 

封印の書を無事返し終えた後、三人は話を元に戻す。

カカシが三代目火影からクナイを受け取り、

 

「ですが、どういうことでしょう? いくらミナト先生でも生き返ったりなどはできませんし……」

「うむ……ナルトよ、よければその話を詳しく聞かせてくれぬだろうか?」

「わかったってばよ……」

 

そうしてナルトは長い時間をかけてあの日の出来事を一つずつ話していく。

ミズキに唆されたこと。

巻物を盗み出す時に、四代目火影の羽織を見つけたこと。

突然、木の葉の忍に襲われたこと。

九尾のチャクラに意識を奪われかけていた時、四代目火影が現れたこと……

 

三代目火影とカカシがナルトの話を聞き終えた後……

静寂。

暫くの間、三人は口を閉ざし沈黙していたが、やがてゆっくりと口を開き、

 

「……そうか……ただでは死なぬ男とは思っていたが、まさかナルトと出逢えるようにしていたとはな……」

「……ミナト先生……」

 

二人は四代目火影とは関わりが深かったため、ナルトの話には色々と衝撃を受けているようであった。

そんな二人に、ナルトは父のクナイを手に取り告げる。

 

「オレってば、木の葉の里にいた時、本当はどいつもこいつも憎かった……」

「「…………」」

「だから、火影になって、みんなに無理矢理にでもオレの存在を認めさせてやろうと思ってた……けど、今は違う! 霧の里では誰もオレを化け狐なんて呼ばねえし、普通にオレのことを認めてくれる。他人から見たらそれは当たり前のことかも知れねーけど、オレにとってはすげぇ大切なものなんだ……だからオレは木の葉の里に戻るつもりはないってばよ」

「ナルト……」

「そんでもって、霧で、とうちゃんみたいな忍を目指す!」

 

ナルトの決断に三代目火影は目を閉じる。

本来なら、やはりナルトには里に帰ってきて欲しい。

各国の尾獣バランスを保つためにも、そして、なにより四代目火影の息子であるナルトには木の葉の里で幸せになって欲しかったから……

だが、それはもう叶わない夢。

そう悟った三代目火影は、ナルトが里を抜けるという苦渋の決断を受け入れることにした。

 

「…………わかった……残念じゃが仕方ないことなのやも知れんな……ナルトよ、本当にすまなかった……」

 

そう言って、三代目火影はナルトに頭を下げる。

それを見たナルトは慌てて、

 

「え〜!? いや、いや、じいちゃんは何も悪くないってばよ!」

「いや、確かに儂自身はお主に何もしていないが、本来お主は四代目火影の息子として大切に育てられるはずじゃった……だが、里を守るためにその事は皆に伏せて育てることにしたのは儂じゃ。結果、お主には辛い思いをさせてしまった。本当にすまなかった……」

「……そりゃあ、里を抜けた今だって全く恨みがないかと聞かれたら、ないとは言い切れねぇけど、けど、オレってば別にやり返そうとか思ってねーから、気にしないでいいってばよ……」

 

ナルトは頭の後ろに手を組み、少し困り顔で三代目火影に笑いかける。

それを見て漸く三代目火影は顔を上げた。

 

(あのイタズラ小僧が、本当に大きくなったものじゃ……)

 

三代目火影は素直にナルトの成長を感じていた。

次に、二人の話が終わるのを待っていたカカシがナルトに話しかける。

 

「お前にはいつも驚かされるよ、ナルト。ミナト先生と会っていたのなら、螺旋丸を知っているのも、オレの言葉を知っていたのにも頷ける……」

「あはは、あの時のカカシ先生達の顔は傑作だったってばよ!」

「そりゃどーも……本当はオレもお前には木の葉の里に戻って来て欲しいのだけど、お前が幸せに暮らせているのなら文句はないさ」

「カカシ先生……」

「もし困ったことがあれば何でも言ってくれ、オレでよければいくらでも力を貸すからさ……」

「ああ……サンキューな、カカシ先生!」

 

三人が話し始めたのは昼過ぎであったのだが、時刻はいつの間にか夕方となっていた。

これ以上ナルトを引き止めてしまえば、明日の中忍試験に影響を与えてしまうと判断した三代目火影とカカシはこれでお開きにすることにした。

 

「ナルトよ、儂は火影である以上、贔屓はできぬが、お主の中忍試験での活躍には期待させてもらうぞ」

「へへへ、今のオレの実力を見て、腰を抜かすなよ火影のじいちゃん」

 

と笑いながら話すナルトに、今度はカカシが言った。

 

「ナルト、今回はオレの班も試験に参加することになると思うからお手柔らかにね」

「えっ、サスケ達も出るのか!」

「ま、そういうこと」

「にしししし、カカシ先生には悪いけど、サスケ達には絶対負けねぇーってばよ!」

「オレの班も結構強くなってるからね……楽しみにしておくといいさ」

「オレの方がもっともっと強くなってるもんね!」

 

などなど、言い合う二人に、三代目火影は少し困った顔をして、

 

「ホホホ、二人とも熱くなるのは結構じゃが、試験は明日からじゃぞ。今日はそろそろ帰って、試験に備えるといい」

 

と、お開きの言葉を口にした。

それに、ナルトとカカシは姿勢を正し。

 

「「了解」」

 

こうして、三代目火影、カカシ、ナルトの三人だけの秘密の会談は終わりを告げたのであった。

 

 

 

 


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