霧隠れの黄色い閃光   作:アリスとウサギ

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立ち向かう者

霧隠れと砂隠れの戦闘はナルト達が巻物を奪い取るという形で終わりを迎えた。

そして、その戦闘を見ていたチームが一つ。

ナルト達の後を追っていた木の葉隠れの第八班。

彼らは戦闘の後、すぐにその場を離脱し、安全な場所へと移動しているところであった。

 

「どうなっていやがる! あのヤバい砂の連中とナルト達が互角にやり合っていやがったぞ!」

 

キバは頭が混乱で一杯になっていた。

一番弱いと踏んでいた霧隠れ第一班が、自分の予想を上回る闘いをしていたのだから無理もない。

ヒナタは木を蹴りながら、キバへ顔を向け、

 

「キバくん、ナルトくんのチームは強いよ……その……私達より……」

 

少し後ろから来ていたシノが二人の横に並び、

 

「オレ達より強いかは兎も角として、あのチーム達が強いのはたしかだ。なぜなら、普段は大人しくしているオレの虫達がざわめいているからだ……」

「シノ、てめぇもわかってたなら最初っから言ってくれりゃーよかったじゃねーか!」

「オレもヒナタも、少し待てと言っていたはずだ」

「うっ……」

「ちなみにオレは第一試験の会場で、お前がナルトに喧嘩を売っていた時から注意を促していた……」

 

記憶にないシノの言い分にキバが吠える。

 

「アァ! そんなの聞いてねぇぞ!」

「いや……オレは言っていた。お前達が誰もオレの話に耳を傾けなかっただけだ……オレの影はそんなに薄いか……」

「「「…………」」」

 

シノの無言の圧力にキバ、ヒナタ、赤丸は口を閉じる。

第八班は巻物を取られたことにより、最低でも二つの巻物を敵チームから奪わなくてはならなくなった。

仲間割れをしている場合ではないと気を引き締めるキバ達であった……

 

 

 

霧隠れ第一班は見事目的の巻物を奪い、撤退に成功した。

ナルト達は予定通り、そのまま塔を目指そうとしていたのだが……

 

「痛っ……」

 

歩みを進めていたナルトが急に立ち止まり、足を止めた。

ハクと長十郎もすぐさま足を止める。

ナルトは先の戦闘で我愛羅の攻撃を受けた左足から血を流していた。

それを見たハクがナルトに近づき、怪我の状態を見る。

 

「骨に異常はないみたいですが、酷い怪我です……このまま進んでも怪我を悪化させる上に、血で敵に居場所もバレます。夜の森を進むのは危険ですし、最低限明日の朝までは休息をとることにしましょう……」

 

それを聞いた長十郎が顔を真っ青にする。

 

「あわわわ、ご、ごめんなさいナルトさん。僕がもっと早く巻物を奪えていれば……」

 

オロオロしている長十郎にナルトは笑いながら応える。

 

「長十郎、心配ねーよ。オレってば怪我の治りは早い方だし、こんなの唾つけとけば治るって」

 

と、楽観的な発言をするナルトだが、ハクはその言葉に首を振り、

 

「いくらナルトくんでも、この怪我は勝手に治癒するのは難しいでしょう……僕が応急手当てをしますので、どこか隠れることができそうな場所に移動しましょう」

 

冷静に次に取るべき行動を言った。

それにナルトと長十郎も頷く。

 

「……わかったってばよ」

「わかりました」

 

長十郎がナルトに肩を貸し、移動を始める。

霧隠れ第一班は夜が明けるまで休息をとることになった。

 

 

 

第二試験 二日目。

 

空が少しずつ明るくなり始めた頃。

木の葉隠れ第十班は自分達のいる場所に誰かが来るのを感じとり、慌てて草の茂みに隠れた。

だが……

 

「こそこそ隠れずに出てこい」

「「「ドキっ!」」」

 

相手にすぐ見つかってしまった。

いのはシカマルとチョウジに次の作戦を話す。

 

「作戦1隠れてやり過ごすは失敗! こうなったら作戦2決行よ!」

 

しかし予め作戦の内容を聞いていたチョウジは文句を言う。

 

「えー、マジでやんのかよ……」

「何よ、文句あるわけ! 成功間違いなしじゃない!」

「まぁ、いいけどさ……」

 

こそこそと話すいのに、仕方ないかとシカマルも了承する。

三人は茂みの中から出て、自分達に出てこいと言った人物の前に姿を現す。

そしてすぐさまゴマをすり、

 

「あー! こんなところで昨年度のNo.1ルーキーの日向ネジ様に会えるなんてー」

「さ、サイン欲しいなー」

「何だ、お前達か……」

 

もちろんネジには効果なし……なのだが、いのはそんな事は気にせず、そのまま作戦を決行する。

ポニーテールに結っていた髪をほどき、

 

(食らえ、作戦2。私のお色気でメロメロ)

 

「あたし、前々から一度、お目にかかりたいなー「去れ」……」

 

興味ないと言わんばかりに、まだセリフの途中で後ろを向き、歩き出すネジ。

そんな相手にいのは心の中で、

 

(何で私の色香が通じないのよ! くっそー腹立つわー!)

 

と、シャドーボクシングをする。

そこでネジが歩みを止め、シカマル達に背を向けたまま、

 

「今オレに拳を向けてるってことは、オレとやり合うってことか?」

 

まさか後ろを向いた状態で見られているとは思ってもみなかったいのが、慌てて手を止め、苦笑いを浮かべる。

 

「い、いえ……まさか……」

「なら去れ! お前達みたいな腰抜けから巻物を奪っても里の笑い者になるだけだからな……」

「「「はーい」」」

 

三人は一斉にまた茂みへと戻って行った。

その様子を見ていたネジは、

 

「ふん、まるでゴキブリのようだな」

 

と評価し、その場をあとにした。

 

九死に一生を得た三人はぜーぜーと、息をする。

 

(予想通りだぜ。アイツのことだから手向かいでもしない限り、オレ等みたいな弱い奴からは巻物を奪ったりはしねぇ)

 

シカマルは冷や汗をかきながら、頭は冷静に自分の考えが正しかったことを再確認していた。

 

三人が息を整えた後、チョウジが果物をパクパク食べている横で、いのが髪を結いながら、

 

「も〜、どうするのよ、早く私達より弱い奴を見つけて巻物奪わなきゃいけないのに!」

「つーかな、オレ等より弱いっつったら、ナルトチームぐらいじゃね?」

 

シカマルが呆れ顔で返事する。

その返事に、いのはブンブンと手を振り、否定する。

 

「何言ってんのよ、シカマル! あそこはマジでシャレになんないわよ!」

「そういや、この試験が始まる前も試験官相手にやり合ってたな……でもあのナルトのチームだぜ?」

「いやいやいや、今のナルトはあんたの知ってるナルトじゃないんだって、あのチームはサスケくんのところの次にダメ!」

 

いのがシカマルの提案をバッサリ両断する。

シカマルも最初からある程度そうだろうなとは思っていたが、いのがここまで否定するということは、理由はわからないがナルトチームから巻物を奪うのは無理だなと結論づけた。

しかしナルト達から奪えないとなれば、自分達は誰から巻物を奪えばいいのか……

 

「ったくー、めんどくせー」

 

ため息を吐きながら、シカマルが呟いた。

その後。

 

「モグモグ……ん? サスケがぶっ倒れてる」

 

今まで果物をずっと食べていたチョウジが指を指しながら、自分の見つけたものをありのままに言う。

 

「はあ?」

「で、サクラが戦ってる」

「え?」

 

大好きなサスケが倒れているという言葉に反応した、いの。

だが、その後に続いたチョウジの言葉と目に映ったサクラの姿に声を詰まらせた。

 

 

 

昨夜、大蛇丸との戦闘で呪印を植え付けられ、その反動で寝込んだままのサスケ。

大蛇丸との戦闘後、突如姿を消したサイ。

仲間の二人が頼りにならない状況で、音忍に襲撃され、絶対絶命のピンチであったサクラのもとに駆けつけたリー。

その彼が、まさに今、音忍の一人であるドスに捨て身の技をかけていた。

 

「くらえ!」

 

空中へ蹴り上げたドスの体に、リーが包帯を巻きつけ、相手の動きを封じる。

それを見た音忍の一人、ザクが、

 

「あれじゃ、受け身もとれねぇ! ヤバい!」

 

地面に両手をついて、術を発動する。

土に空気を送り込み、ドスの下にクッションを作る。

その直後。

リーの技が炸裂する。

 

「表蓮華!!」

 

身動きのとれなかったドスの体を高速回転させながら、空中から地面へと叩きつける。

表蓮華。

この技は言わば捨て身の技。

普段は脳が抑制しているリミッターを無理矢理外し、高速連続体術を一連の技として繰り出す禁術。

ゆえに、決まれば一撃必殺。

……のはずだったのだが……

 

「ふー……」

 

技を受けたドスは土のスポンジから頭を抜き、埃を払うかのように立ち上がった。

必殺の一撃を受けて立ち上がる敵にリーは驚愕の顔を浮かべる。

 

「バ、バカな!」

「……恐ろしい技ですね。土のスポンジの上に落ちたのに、これだけ効くなんて……では、次は僕の番だ」

 

ドスがスピーカーを仕込んである右手をかかげ、リーへと突っ込む。

普段のリーなら余裕で避けられた攻撃だったが、禁術の反動で体の動きが鈍っており、敵の術をまともに受けてしまった。

リーは耳を押さえながら、その場に蹲ってしまう。

 

「くっ!」

「キミの技は確かに速い。だけど僕達の技は音速だ。努力だけじゃどうにもならない壁というものを教えてあげるよ」

「オレ達に古くせぇ体術なんて通じねぇんだよ! まぁ途中まではよかったが、オレの術まで披露したんだ。そう上手くはいかねーよ」

 

ザクが自分の両手をリーとサクラに見せる。

その手のひらにはそれぞれ小さな送り穴が備わっていた。

 

「オレは超音波と空気圧を自由に操り、岩ですら破壊する力を持つ。土に空気を送り込んでクッションに変えることも思いのままだ。お前のくっだらねぇ技とは違うんだよ」

 

先ほどのリーの表蓮華はザクの能力によって、技の威力を殆んど殺されていたのだ。

 

(ちくしょう……)

 

この技を使っていい時。

それは大切な人を守る時だ。

それにしても、よく体得しやがったな、コイツー!

 

(ちくしょう……)

 

師匠であるガイの言葉を思い出す。

表蓮華は他人より、才能のなかったリーが、並々ならぬ努力の末、身につけた技であった……

拳を握り締め、悔しがるリー。

だが、敵はそんなリーを待ってはくれない。

ドスがとどめをさそうとリーに迫る。

 

「よーし、これで終わりだ」

 

スピーカーを出し、術を繰り出そうとするドスに、

 

「させないわ!」

 

リーの後ろにいたサクラが、ドスにクナイを投げつけ、簡単に弾かれるも相手の動きを牽制した。

その隙にサクラは、今までのような後ろではなく、リーの横へと並ぶ。

その目にまっすぐ敵を見据えながら。

 

「リーさん、ここからは私も闘います……」

「サ、サクラさん」

「私も守られてばかりじゃいけないから……私だって……忍者なのだから!」

 

 

 

草陰からその様子を見ていた第十班。

 

「ねぇ、逃げようよ! アイツ等相当ヤバいよー!」

 

音忍の迫力に怯えるチョウジ。

シカマルは状況把握をしながら、いのにどうするか尋ねる。

 

「サスケは気絶してるだけで、サイの奴はいねーな……で、リーとサクラしか残ってねぇが、お前はどーすんだよ? いの……」

「どーするって……」

「つか、どう見てもサクラやべーぜ! いいのかよ? お前ら親友だったんだろ?」

 

 

サクラの姿を見ながら、昔のことを思い出すいの。

 

「髪、随分伸びたわね。いの」

「何よーサクラ!」

「ふん、いいこと教えてあげる。私、サスケくんと同じチームになったわよ」

「えっ!?」

「いのには、もう負けない」

「私だって……サクラ! アンタにだけはどんな事だって負けないわよ!」

 

(……なんで、あんな時のこと思い出してんのよ……)

 

「おい! いの! どーするんだよ」

「わ、わかってるけど、どうしようもないじゃない! 迂闊には出ていけないでしょ!」

 

音忍達に対する恐怖なのか

サクラが殺られそうなことに対する恐怖なのか

いのの膝は震えて動くことができなかった。

 

 

 


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