波の国の任務が終わり、今だに引きこもっているイナリを除いた町の人々に見送られた後。
木の葉へ向かう帰り道。
カカシ、サスケ、サイの後ろ姿を見ながら、サクラは沈んだ気持ちで足を進めていた。
前方を歩いていたカカシは速度を緩め、サクラの隣を歩く。
「どうした? サクラ」
「カカシ先生……」
担当上忍を見上げるサクラ。
彼女は今回の任務で自分が何もできなかったことに悔しさを覚えていた。
サスケとサイはどんな任務でも自分より前へ進み、その成長は止まることを知らない。
サクラはアカデミーでの成績は優秀だったので、自分の力を過信していた。
しかし現実は第七班の中で一番実力が下で、あげくの果てには、見下していたナルトにただの一撃でやられる始末。
今回の任務で色々と思い知らされた。
だからこそ言った。
「……カカシ先生」
「ん?」
「私……私も強くなりたいです……」
「そっか……」
部下の決意に半眼を笑顔にするカカシ。
同時に今回の任務、やってよかったと心の中で呟いたのであった……
死の森。
サクラの参戦に溜め息を吐くドス。
「あー、もう……自分の実力もわからないのかな?」
見下した音忍達の視線を無視して、サクラがリーに話す。
「リーさん、私があのくノ一を倒すから、それまで残りの二人を任せていいですか?」
「それは助かります。ですが、サクラさんは見るからにもう戦える状態では……」
心配そうにするリー。
サクラはそんなリーにニッコリと笑い、
「大丈夫です。私だって今まで修行してきたんですから!」
と力強く言った。
リーもサクラの言葉に頷く。
「わかりました! では、ご武運を!」
「リーさんも」
敵を目の前に作戦を決めたサクラとリー。
音忍達は当然そんな舐められた態度に怒りを覚える。
ザクはサクラの発言を鼻で笑い、キンに顔を向け、
「おい、キン。あの女、お前を倒すってよ」
「むかつく奴だ! 完全に私を舐めてるね……ドス、ザク、あの色気虫は私が殺すよ」
キンが一歩前に出る。
サクラはクナイを構え、全身にチャクラを巡らせる。
いつでも動けるように……
睨みを合う二人。
一瞬の間。
先に痺れを切らして、動いたのはキンの方だった。
クナイを取り出し、
「ハッ!」
前方へ投げた。
それを左に飛んで避けながら、サクラは印を結ぶ。
忍なら誰もが知っている印を……
それを見たキンがもう一度クナイを敵に向かって投げた。
放たれたクナイは狙い通りに飛び、
「きゃぁっ!」
サクラの体に突き刺さる。
が、その体は次の瞬間、ぼんっと音を立て、丸太へと変わっていた。
直後。
自分の横から迫って来たサクラに気づき、キンは武器を構え、
「変わり身の術なんて、舐めてるのか!」
今度は印を結ばれる前に、敵へ向かってクナイを投げた。
避ける素振りすら見せないサクラを見て、仕留めたとキンは唇を歪ませる。
だが、彼女の投げたクナイはサクラに刺さることなく、その体をすり抜けていった。
「なっ! 分身か!」
叫ぶキンの後ろからサクラが現れ、
「ええ、そうよ……そしてこれで終わりよ」
キンが分身に気をとられていた僅かの間にサクラは印を結び、術の準備を終えていた。
途端、
「魔幻・奈落見の術!」
辺り一面に木の葉が舞う。
サクラの使用した術は相手を幻の世界に誘い気絶させる幻術。
カカシとの修行で身につけた技。
サクラにとって、切り札と呼べる術であった。
どさり……
抵抗する間もなく倒れたキン。
それを見ていたドスがサクラを睨みつけながら、リーと戦闘中のザクに注意する。
「あのサクラとかいう女、キンと同じく幻術使い……少し気をつけた方がよさそうだね……」
「ちっ! まんまと幻術にかかったのか。だらしねぇ奴だな」
倒れた仲間を酷評する音忍二人。
リーの方はサクラがキンを倒したことにガッツポーズをとり、
「素晴らしい! 素晴らしいです! サクラさん!」
そんなリーにサクラは不敵な笑みを見せる。
「言ったでしょ、私だってやれるんだから!
私はもうアカデミー生じゃない……忍者なんだから!」
キンが倒れたことにより、戦況は変化し、ニ対ニとなった。
後ろで傍観していたドスが袖を捲り、右腕のスピーカーを出し、サクラの方へとゆっくり歩き始める。
「ザク、僕はこのサクラって娘を殺すよ……そっちのゲジマユさんはキミに任せる」
自分に近づいてくるドスに視線を向け、クナイを構えるサクラ。
「随分上から物を言ってくれるけど、そう簡単に負けるつもりはないわよ」
「キンを倒したぐらいで調子に乗られると困るね……確かにキミの幻術には少々驚かされたけど、僕に同じ手は通用しないと思った方がいいよ」
サクラの発言に全く怯える様子すら見せないドス。
それがはったりなのか、そうではないのかはわからないが、このピンチをどう切り抜けるかとサクラが思案していた時……
草むらの中から、ざざざざーっと音を立て、今だに逃げようとしているチョウジのマフラーを引っ張りながら、いのとシカマルがサクラの前に飛び出してきた。
突然現れた背中にサクラが声をかける。
「いの……」
「言ったでしょ、サクラ。アンタには負けないって!」
それはアカデミー卒業の後、二人で交わした約束であった。
しかし、今はサクラもいのも敵同士。
この場面でいの達が出てくる理由はない。
だというのに助けに現れたいのに、サクラは質問をせずにはいられなかった。
「いの……どうして?」
「サスケくんの前で、アンタばかりにいい格好はさせないわよ!」
ドスを見据えながら言ういの。
サスケは今も寝ており、明らかに答えになっていない言葉だが……
「またウヨウヨと木の葉の虫けらが迷い込んで来ましたね……」
新たに現れた第十班を睨みつけるドス。
その視線にチョウジは身震いし、シカマルといのに抗議する。
「ふ、二人とも何考えてんだよ〜! コイツらヤバ過ぎるって! シカマル、マフラー放してよぉ!」
「放すか、バカ! めんどくせーけど、しょうがねーだろ! いのが出ていくのに、男のオレらが逃げられるか!」
「巻き込んじゃってゴメンねぇー。だけど、どうせスリーマンセル、運命共同体じゃない……」
「ま、なるようになるさ」
ドタバタしながら現れた第十班に、ザクが挑発をする。
「クク……お前は抜けたっていいんだぜ? おデブちゃん」
先ほどまで逃げようとしていたチョウジの体がピタリと止まる。
「え? 今、何て言ったの……あの人? 僕、あんまり聞き取れなかったよ……」
「あ? 嫌なら引っ込んでろつったんだよ! このデブ!」
ニ度目のデブ発言にチョウジがキレた。
「僕はデブじゃない! ポッチャリ系だ! コラー!!」
ビビりまくっていた自分を吹き飛ばし、やる気を見せるチョウジ。
いの、シカマル、サクラ、リーの一歩前に出て、目に炎を宿し指をさし、
「よしー! お前らわかってるよな! これは木の葉と音の戦争だぜぇ!!」
音忍二人だけでなく、木の葉の忍達もあまりの変わりように驚愕する。
その中で、ドスだけは状況を冷静に観察していた。
サクラとリーは満身創痍とはいえ、現状、音が二人に、木の葉は五人。
到底ひっくり返せる戦況ではない。
ふーと溜め息を吐き、ザクに言った。
「ザク、ここは退きましょう」
「「「!?」」」
ドス以外のその場にいた者が騒ぐのをやめる。
サスケを殺す任務を大蛇丸から受けていたザクはドスの撤退に反対を唱えた。
「何言ってやがるドス! サスケの野郎を殺さねぇと!」
「……いいえ、正直この状況。僕達が負けるとは思えませんが、リスクが大きいのも確か……それにサスケくんのことも少し気がかりなことがありまして……」
撤退をしようとするドス。
だが、みすみす逃がす訳にはいかない。
いつの間にか影真似を使い、ザクの体を縛っていたシカマルが、
「おいおい、ここまでしておいて自分達が不利になったら逃げるってのは、ちょっと都合が良すぎやしねーか?」
「……あ? 誰が不利だ……!? なんだ、これ、体が動かねぇ……」
漸く自分の状態に気づいたザク。
すでに手遅れであったが……
事態に気づいたドスが、またも溜め息を吐きながら、懐から地の書を取り出し、
「では、これでどうですか?」
サクラへと放り投げた。
巻物をキャッチしながらも、ドスの突然の行動に一同は困惑する。
「それは手打ち料です……ここは退かせてもらいます」
倒れたままのキンを担ぎ上げるドス。
ザクは何も巻物を渡してまで逃げる必要はないと叫ぶが……
ドスはそれを無視し、木の葉の忍達が状況整理できず混乱している間に、目の前から姿を消した。
影真似が解ける。
一人になったザクは一瞬迷った後、ドスを追うように撤退していった……
危機が去ったのを確認し、木の葉の忍達は生き残れたことに感謝しながら、地面へ座り込んだ……