第二試験、二日目の昼。
砂隠れとの戦闘で痛めたナルトの足も、完治にはまだ少し時間がかかりそうではあるが、血は止まっているので、霧隠れ第一班は塔へ歩みを進めることにした。
途中、ハクの提案でナルトの影分身を先に偵察に向かわせることにより、他の班との無駄な戦闘を避けた第一班はスムーズに塔へ辿り着くことができた。
「いや〜、まさか影分身に、こんなことができるとは思わなかったってばよ! アイツら、オレが消えた瞬間、アンラッキー……だって、あはは、バッカでぇ〜」
影分身はただの分身とは違い実体がある。
だが、影分身の凄いところはそれだけではなかった。
自我のある分身が消えた時、それまで分身が経験した記憶を本体に伝えることができるのだ。
その機能を利用して、ナルトは塔の周辺で待ち構えていた忍達を発見し、ハクと長十郎に伝えることで戦闘回避に成功していた。
最初は驚いていたナルトだが、今は得意気な顔をしている。
長十郎はハクに顔を向け、
「ハクさん、どうして影分身にこんな使い道があるとわかったのですか?」
「それはナルトくんの戦闘を今まで見ていたからです……」
「戦闘を?」
「ええ、そうです。本来、影分身はチャクラを大量に使う術。いくらナルトくんが他の人よりチャクラを多く持っているからといっても、疲れないわけがない……それなのにナルトくんは戦闘が長引けば、長引くほど、動きが鈍くなるどころか良くなることの方が今まで多かった……」
ハクの回答に、長十郎は今までのナルトの戦闘を思い返す。
「なるほど……言われてみれば……」
納得した顔をする長十郎。
目的地の塔の前で会話する二人にナルトが声をかける。
「ハク、長十郎、早く中に入るってばよ!」
我先にと塔の扉をくぐるナルトを追いかけるように二人も中へ入っていった。
第二試験ゴール地点。
しかし塔の中には誰もおらず、辺りを見回す第一班。
三人を除けば、人の気配すらない。
あるのは奇妙な掛軸だけで……
「天無くば……地無くば……これはたぶん巻物のことですね。あの試験官も塔に着くまでは巻物を開けるなと意味深なことを言っていましたし……」
掛軸に書かれた虫食いの文を読んだ推測を話すハク。
ナルトと長十郎もその意見に頷く。
「それじゃあ、開くってばよ」
「は、はい……」
ナルトが天の書、長十郎が地の書を持ち、二人は同時に巻物を開いた。
二つの巻物には「人」と一文字書かれていた。
何のことかと疑問に思う間もなく、開かれた巻物が煙を発し始める。
長十郎の表情が動揺に染まり、
「な、ナルトさん、これは!」
「口寄せか? 何で?」
「二人とも、疑問は後回しにして、それを投げて下さい!」
ハクに言われた通りに、二人は巻物を前方に投げた。
と同時に、ボフンっと煙を立ち上り、人影が映し出される。
警戒する第一班の前に現れたのは……ナルトのよく知る人物だった。
「よっ! 久し振りだな……ナルト」
アカデミー教師、木の葉隠れの中忍であるイルカ先生。
三代目火影を除けば、唯一、木の葉にいた頃のナルトが、完全にとまでは言わないが信用していた人物であった。
「ど、どういうことだ? 何でイルカ先生が口寄せで出てくるんだってばよ?」
混乱するナルトにイルカ先生が説明する。
「この第二試験の最後はオレ達、中忍が受験生を迎えることになっているんだ。そして、オレがお前達への大切な伝令役を仰せつかったわけだ」
「伝令役?」
ポケットに仕舞ってあった時計を見るイルカ先生。
「まだ、試験時間は半分以上残っているな……お前達は二番目の合格者だ。本当によくやったな……三人とも、第二試験突破、おめでとう!」
ナルト、ハク、長十郎を見渡し、合格を告げたイルカ先生。
それを聞いたナルトは大喜びで叫んだ。
「いやったぁああ! 合格だってばよ!」
ホッと一息吐くハクと長十郎とは違い、はしゃぎまくるナルト。
跳び回るナルトを見て、イルカ先生は苦笑する。
「落ち着きのないところは相変わらずだな……お前は」
ハクはそんなイルカ先生を見て、少し警戒心を解いた。
「今の会話を聞いた限り、あなたはナルトくんと知り合いだったのでしょうか?」
イルカ先生はハクに顔を向け、
「ああ、ナルトがアカデミーの生徒だった頃の先生がオレだ」
「なるほど、アカデミーの先生でしたか……」
「実を言うと……いや、この話の前に先に伝令役としての務めを果たすか……三人とも聞いてくれるか」
ナルトと長十郎も耳を傾けたのを確認し、掛軸に顔を向けながら、イルカ先生が話を始める。
「この文章、虫食いになっているだろ? ここには天地の巻物に書かれていた中忍を指し示す「人」の文字が入るんだ」
「人の文字?」
「そうだ。「天無くば智を知り機に備え」つまり、ナルトの弱点が頭脳にあるのなら、様々な理を学び、任務に備えなさいという意味だ」
「うぅ……」
「そして、「地無くば野を駆け利を求めん。天地双書を開かば、危道は正道に帰す」つまり、頭と体、この二つを兼ね備えれば、どんな任務も覇道ともいえる安全な任務になりえる……ということだ。この中忍の心得を忘れずに次のステップに進んでくれ! これがオレの仰せつかった伝令の全てだ!」
「「「了解!」」」
元気よく返事する第一班。
しかし、イルカ先生の顔は逆に曇りがかかっていく。
なぜかと疑問に思ったナルトが、
「イルカ先生?」
「……ナルト。実を言うとだな、今回お前達の伝令役は、オレが無理を言って火影様に頼んで指定してもらったんだ……」
「ん? どうしてだってばよ?」
「お前が里を抜けた原因のことは火影様から聞かされた……まさかミズキが、いや、木の葉の忍がそんな暴挙に出るとは思ってもみなかった……助けてやれなくて、すまなかったな……ナルト……」
悲痛な表情で話すイルカ先生に、ナルトの顔も曇り、ハクと長十郎は口を閉ざす。
「……イルカ先生は何も悪くないってばよ! それにオレってば今は元気にやってるから、気にしないでいいってばよ!」
空元気で笑うナルト。
イルカ先生は少し口元を緩ませ、
「ああ……お前が元気でやっているのは映画を見て知ったさ」
「えぇー! イルカ先生まで見たのか!」
「その……なんだ……ナルトは木の葉を恨んではいないのか?」
聞きにくそうに、しかし聞いておかなければとナルトに尋ねるイルカ先生。
ナルトは目を閉じる。
一瞬の間。
目を見開き、ナルトは正直な気持ちを話す。
「恨みだとかは、正直よくわかんねぇー。別に木の葉の奴らに殺り返そうとかは思ってないってばよ……けど……オレってば、とうちゃんや、火影のじいちゃん、イルカ先生には悪いけど、木の葉の里は嫌いだってばよ……」
「「「…………」」」
『…………』
三人と一体はナルトの話を黙って聞いていた。
はっきりと木の葉の里が嫌いだと言ったナルト。
それは当たり前のことであった。
木の葉隠れの里はナルトを散々迫害しておいて、あげくの果てに殺そうとしてきたのだ。
いくら自分が火影の息子だと知った後でも、笑って許せることではない。
例え、木の葉には木の葉の言い分があったとしても……
イルカ先生は服の袖で目元を拭い、ナルトを見る。
「そりゃあ……そうだよな……本当に辛かっただろうな……ナルト……」
「それは……木の葉にいた頃はそうだった……けど、諦めずに頑張ってきたら、霧の里ではいいことが一杯あった! だからオレはもう一人じゃないってばよ!」
今度は空元気ではなく、本当に笑顔を見せるナルト。
その笑顔を見て、自分の生徒だった頃とは違い、ナルトは成長したんだとイルカ先生は悟った。
「そうか……お前にも仲間ができたんだな……中忍試験はここからが本番だ。無理はしないように頑張れよ!」
「おう! 絶対に中忍になってやるってばよ!」
自信満々に言うナルト。
イルカ先生は最後に無理矢理笑顔を作り、手を振って、複雑な感情を抱きながら、第一班の前から姿を消した。