ナルト達、霧・第一班が塔に辿り着いた頃。
リーやシカマル達が解散したのを、物陰から観察していた人物。
木の葉・第七班の一人、サイが、
「いやー、何やら大ピンチだったみたいだね」
にこにこした顔で、サクラの前に姿を表した。
それを見たサクラは、驚いた顔で、でも少し怒ったような声で、口を開く。
「サイ! アンタ、今までどこ行ってたのよ!」
という、抗議の言葉に、サイはにこにこした顔のまま返事をする。
「二人とはぐれてしまったあと、サクラ達を探していたら、先に蛇みたいな人に見つかって……命からがら逃げてきました」
「!? 蛇みたいな人って、大蛇丸のこと!」
「そんな名前の人。僕は今日……いや昨日か。昨日、初めて恐怖という感情が理解できたよ」
などと、最近、カカシ達と関わりを持つようになってから、少しずつ感情を理解……というより、取り戻し始めている少年が言った。
根と呼ばれる暗部、ダンゾウの部下であるサイが、本当の意味で感情を取り戻すのは、まだまだ時間がかかりそうではあるが……
そんなサイに、サクラが状況説明を始める。
「サイ……アンタ、よくあんなのに狙われて生きていたわね……サスケくんでさえ……」
「サスケに何かあったのかい?」
「うん……私達、あの大蛇丸って奴に、風遁の忍術でバラバラに吹き飛ばされたでしょ? その後、私とサスケくんは、なんとか合流できたんだけど、そこで大蛇丸に見つかって……サスケくんは巻物を相手に渡して、逃がしてもらおうとしたんだけど……」
「逃がしてもらえなかったんだね?」
「うん……蛇みたいに首を伸ばしてきて、サスケの首に噛みついて……その後、帰ってくれたのはいいんだけど、そしたら今度はサスケくんが急に倒れちゃって……わ、私……」
と、後半涙目に語るサクラに、サイは僅かに心が痛くなるのを感じた。
元々サイは、今回のことを予め知っていた。
大蛇丸と繋がっている、自分の上司。
ダンゾウから聞いていたからだ。
サクラ達と途中ではぐれたのも、わざとである。
サスケのことは自由にしていい、というダンゾウの伝言を、大蛇丸に伝えるために。
そして、その任務をやり遂げた後。
今度は大蛇丸から、サスケの成長が見たいから、音忍達が帰るまでは手を出さないようにと命令をされていた。
サイは決して命令には逆らえない。
そういう風に育てられてきたから。
だから、音忍達が撤退した、今になって姿を表したのだ。
「何か……ごめんね……」
「どうしたのよ? アンタが素直に謝るなんて……」
「まぁ……ちょっとね」
「?」
首を傾げるサクラ。
そんなサクラに、サイは自分の懐から取り出した物を、巻物を、
「あー、それと、これどうぞ」
と言って、渡した。
サクラは自身の手にある“天の書”を見て、
「って! サイ、これどうしたのよ!」
「まぁ、僕も伊達に遅れてきた訳じゃないよ……途中、隙だらけの班を見つけてね」
と、困惑した表情をするサクラに、サイが言った。
実際のところは、試験自体はどうでもいい大蛇丸が、サスケに渡された巻物をサイに返しただけの話だったのだが、流石にそれを説明する訳にもいかない。
が、言い訳としては十分だったらしく、サクラは険しかった表情を柔らかくして、
「よかった……これで天地両方の巻物が揃ったわ。お手柄じゃない、サイ」
「お役に立てて、なにより……じゃあ、あとはサスケが目を覚ませば、塔を目指すだけだね」
「ええ、そうね」
その一言で会話を終わらせ、サクラは今も汗を流しながら、うなされている、サスケの看病に戻った。
一時間後。
大蛇丸に噛みつかれた、首の痣。
呪印はそのままだが、サスケが無事に目を覚ましたことにより、第七班は森の最終地点である塔を目指して、走り出したのであった……
木の葉・第八班。
キバ、赤丸、シノ、ヒナタ。
三人と一匹も、第七班と時を同じくして、塔を目指して、木の上を跳ぶように走っていた。
「ひゃほぉおー! やっぱりサバイバルじゃ、オレ達に敵う奴らはいねーな。な、赤丸!」
「ワン!」
先頭を走る、キバと赤丸。
その後ろから、木を蹴りながら、シノが言った。
「キバ、油断はするな。せっかく揃った巻物を奪われてしまえば、残り時間から考えて、合格が難しくなる……」
「わーてるよ! だからこうして、オレと赤丸が先頭を走りながら、敵がいないか臭い嗅いで、警戒してんだろーが!」
「ワン!」
「……ならばいい」
続けて、横に走っていたヒナタが、
「でも、キバくんも、シノくんも、赤丸も、みんなやっぱり凄いね……ナルトくん達に巻物を取られた後、すぐに二つの巻物を揃えたのだもの……」
それに対して、キバは得意気な表情で、
「へっ! ったりめーだってーの!」
シノは、いつもと変わらない声音で、ヒナタに返事を返す。
「キバの言う通りだ。オレ達が本来の力を出し切れば、これぐらい、できて当然のことだ……それにヒナタ。お前の、その眼のお陰でスムーズに事が運んだのだ……もう少し自信を持て」
「う、うん……」
第八班は、ナルト達に巻物を奪われて、他の班より、一歩遅れてのスタートだったにもかかわらず、手堅く、きっちりと天地双書の巻物を揃えて、ゴールの塔を目指していた。
木の葉・第十班。
シカマル、チョウジ、いの。
この三人も、ちょうど時を同じくして、
「よっしゃー! 私達の完全勝利ね!」
いのが、ガッツポーズを決めていた。
その手に、天地の巻物を揃えて。
それを見て、シカマルは、いつものように、やる気の欠片もない声音で、
「あー、疲れた……」
と、言った。
チョウジの方は、ぐー、ぐー、と腹を鳴かせて、
「ねー、二人とも。巻物はもう揃ったんだし、早く塔に行こうよ……僕、このままだと、背中とお腹がくっついちゃうよ〜」
空腹を訴える。
そんな仲間の二人に、いのは半眼で呆れるような目線を送り、そのままの声音で言った。
「アンタらねぇ〜」
いのは腰に手をあて、勝利の余韻も何処へやら、という表情。
そこでシカマルは、これ以上、めんどくさがれば、余計にクソめんどくさくなると察して、
「なら、巻物も揃ったことだし、とっとと、この辛気くせー森を抜けるか……」
重い腰を上げた。
自分の意見に、二人が頷くのを確認してから、シカマルは駆け出す前に、仲間に注意を促す。
「手早くゴールしたいのは山々だが、こういった試験では、先にゴール地点付近で待ち構えて、罠を仕掛けて待ち伏せに徹してる奴らもいるはずだ。早くゴールはしたい。だが、ブービートラップ何かには引っ掛からねーように、迅速かつ、的確な移動を行うぞ……ここで巻物を奪われて……なーんて、めんどくせー展開はゴメンだからよ……」
「……わかってるわよ」
「うん……」
作戦が決まり次第、第十班の三人もゴールを目指し、森を駆け出し始めた。
大蛇丸。
元木の葉の忍で、五大国にすら、その名を轟かせる、伝説の三忍の一人。
そんな規格外の人物の参戦。
そして、その部下であるドス達の登場もあり、例年には類を見ないほど、暗雲が立ち込め始めた、中忍試験。
しかし、その第二試験もラスト一日となり、続々と集うべき者達が、塔へと集まり始めていた。
第一の試験。
ペーパーテストによる筆記試験と見せかけての、情報収集戦。
第二の試験。
奇襲、騙し、特攻、交渉、脅し、殺し……
何でもありありの巻物争奪戦。
この難関を乗り越えた下忍達が、次の第三の試験へと、足を踏み入れる。
ここからが、中忍選抜試験の本番であった……