電光掲示板に次の対戦者が発表される。
サイvsキン・ツチ
選ばれた二人が静かに下に下りてくる。
ハヤテは前にきた二人に一つ咳払いした後、
「では、第四回戦……始めて下さい」
試合開始の宣言。
キンは千本を構え、
「お前、サスケと同じ班で、唯一私達から逃げた腰抜け野郎じゃないか?」
と挑発する。
が、口でサイが負けるわけがなく、ニッコリと人が良さそうな顔で、
「キミは確か、色気虫のサクラにボロカスにやられた、毛虫以下のメスブタじゃないですか……こんにちは」
「…………」
ひゅん!
無言で千本を投げつけるキン。
それを目を開けることすらせず、ニコニコ笑いながら避けるサイ。
さらに追撃するキン……
いや、追撃しようとした……
が、突如サイの姿が目の前から消えた。
「なに? どこだ!」
左右を警戒するキンの後ろから、より正確に言えば、キンの後方下から、火遁特有の寅の印を構えたサイが現れ……
それを見たドスが上から叫ぶ、
「不味い、あれは火遁の印! キン、今すぐ逃げるんだ!」
「なっ!」
「遅い!」
漸く気づいたキンだが、もはや手遅れであった。
サイの奥義が炸裂する。
「木の葉隠れ秘伝体術奥義! 千年殺し〜!!」
ずぎゃしゃー!
っと、キンのケツに凄まじい、かんちょうが突き刺さる。
「ぎいやぁぁあああ!!」
千年殺しを受けた乙女はすっ飛び、壁へと激突し、
「きゅー……」
ドサッと、倒れた。
「「「………………」」」
場が静まりかえる。
あまりにも酷い勝利であった。
ただ一人、冷静だったハヤテが勝者を告げる。
「第四回戦。勝者、サイ」
宣言を受けたサイは、汚れ一つなく階段を上り、腕を組み立ちはだかるサクラに捕まる。
後ろには、サスケを連れて行ったカカシがいつの間にか戻っており、何とも言えない表情で部下達を見ていた。
「サイ! アンタ、なにとんでもない技使ってんのよ!」
「なにって? カカシ先生から教わった技だけど?」
「忍術使えー! バカー!」
「ごふっ!」
殴り飛ばされるサイ。
第七班を生暖かい目で見守る木の葉の忍達であった。
ちなみに今の試合を見ていたナルトは、
「お〜! あの技、すげーってばよ!」
と、目をキラキラさせていた。
そんなナルトに、長十郎が、
「な、ナルトさん……ダメですよ。またハクさんに怒られてしまいます……」
「いや〜、あれは使わなければ、このうずまきナルトの名がすたる!」
そこに、割り込んできた再不斬が、
「……ん? お前ら、そんな雑談をしている場合じゃねーぞ」
電光掲示板を指さす。
その先にあったのは、
チョウジュウロウvsアブラメ・シノ
次の対戦者が表示されていた。
自分の名前が表示されていたことに緊張し始める長十郎。
「ぼ、僕の番ですか!」
と、そこで再不斬が長十郎の背中を押し、
「おら、さっさと行ってこい!」
続いて、ナルトとハクも、
「シノか……何考えてんのか、よくわかんねー奴だけど、長十郎なら勝てるってばよ!」
「頑張ってきて下さい」
緊張している長十郎とは対称的に、楽観的な態度で第一班は仲間を送りだした。
長十郎が下に下りたのと同時にシノも対戦の場へと立つ。
「では、第五回戦……始めて下さい」
ハヤテが試合を開始を告げた。
シノはポケットに両手を突っ込んだまま、
「ここでお前と闘えるのは都合がよかった。巻物を取られた借りを返せるからだ……」
「え? いや……あれはナルトさんが……」
「お前達、霧の忍が強いのはわかっている……オレも全力で相手をさせてもらう……」
「え、は、はい。こちらこそよろしくお願いします……」
「…………」
「…………」
無言になる二人。
始めていいのかわからなかった長十郎が一言、
「では、こちらから行きます……」
と、断りを入れてから、
ひゅん!
刹那。
切断。
いつの間にか抜いていた刀で、シノの胴体を半分に切り裂いた。
が、
「……想像していたより速い」
「……虫の身代わり」
長十郎が切った敵の体は虫となり、無傷のシノが姿を現す。
「コイツらは寄壊蟲といって、オレが飼っている蟲達だ……もちろんお前の後ろにいるのも同じものだ……」
「!」
シノの言葉に、後ろを向くと、そこには床を黒く染め上げるほどの虫達が這って蠢いていた。
視線を戻した長十郎に、シノが話を続ける。
「お前の太刀筋はすでに対策してある。オレには通用しない……」
「どうして、僕の太刀筋を対策してあると言い切れるのですか?」
「風雲姫の完結編を見た……」
「えっ!?」
「素晴らしい映画だった……なぜなら、エンディングロールでは、感動のあまり、画面を見ることすらできなかったからだ……」
「…………」
意外な人物からの意外な言葉に、固まる長十郎。
シノは続けて、
「映画を見終わった後は自分が雪の国を救った気分になっていた……一度、お前達と話をしてみたかったのだが、試験は試験だ。手を抜くわけにはいかない……」
ぐっと刀を握りしめる長十郎。
それを見たシノは、
「その刀が切り札なのはすでに見させてもらっている……だが、それはもう奥の手ではない。なぜなら、一度見せてしまえば、それはもう奥の手ではないからだ……」
「えー……っと、映画を見て下さったのは、ありがとうございます。ですが、僕もここで負けるわけにはいきません。勝負は続行させてもらいます」
「……いいだろう」
停止していた虫達がざわめき動き始める。
小さな虫。
しかし、この数で襲われれば、間違いなく再起不能となるだろう。
虫が嫌いな人が見れば、それだけで卒倒しかねない状況で……
長十郎は冷静に対処する。
攻撃対象をシノから、地面に切り替え、刀を突き立てる。
それを軸に体を空中に跳ね上げ……
地面から引き抜いた刀を手に、シノの上空へと舞い上がる……
一連の動作に、一切淀みがなかった。
そのまま、宙返りを一つ入れ、シノの懐へ飛び込み、半回転。
一瞬の出来事に、シノは頭も体もついていけず……
後ろから首筋へと、すっと刀をあてられ……
「申し訳ありませんが、手を上げて下さい」
「…………」
無言で両手を上げるシノ。
いや、無言になっているのはシノだけではない。
会場そのものが静寂に包まれていた。
それほどまでに、長十郎の技は洗練されていたのだ。
(これほどとは……私も思わず目を奪われてしまいました……)
ハヤテが心の中で感嘆した後、
「第五回戦。勝者、長十郎」
暫く放心した後、無言のまま階段を上がるシノ。
長十郎も仲間の元へと戻り、
「な、なんとか勝てました……」
と、息をついた。
第一班のナルト、ハク、再不斬が、勝ち進んだ長十郎に、
「さすが長十郎だってばよ!」
「見事な剣さばきでした」
「ふん……まあ、オレ様ほどじゃなかったがな」
と、祝福の言葉を送った。
褒められた長十郎は、謙遜しながらも満更でもない表情を浮かべていた。
ピロピロ
電光掲示板から電子音が鳴り始める。
次に指定された対戦者は、
ツルギ・ミスミvsアキミチ・チョウジ
ミスミがスタスタ階段を歩く中、チョウジは自分が選ばれたことに戸惑いを見せている。
「ど、どうしよう……僕、棄権しようかな?」
そんなチョウジにシカマルといのが、
「まあ、やるだけやって、めんどくさくなりゃー、ギブアップしてもいいんじゃね?」
「何言ってんのよ! あんな奴、やっつけなさいよ!」
真逆の言葉を言う。
そこに担当上忍のアスマがチョウジの耳にこそりと、
「ってことは、試験が終わった後の焼き肉食い放題ってのもなしだな」
「えー、そんなぁ……」
「なーに、ヤバくなったらオレが助けてやるよ、なっ!」
「う、うーん……」
「もし勝てたら、骨付きカルビでも、特上牛タンでも、たらふく食わせてやるからよ!」
アスマの言葉に、瞳を燃やすチョウジ。
「よーし! 焼き肉行くぞー! 食べ放題!!」
すぐさま。
腹に食の字を乗せ、手すりから飛び降り、くるくると回転しながら着地する。
対戦者が揃ったことに、ハヤテが告げる。
「では、第六回戦……始めて下さい」
試合開始の宣言。
やる気満々のチョウジにミスミが、
「オレはヨロイとは違う。ガキでも油断は一切しない……死にたくなければ、オレが技をかけたらすぐにギブアップしろ……わかったな、デブ!」
ぴくり……
ミスミからすれば、一応、相手を配慮した発言であった。
だが、チョウジの耳には届いていなかった。
「ごめん……僕、よく聞こえなかったよ……もう一度言ってくれるかな……」
「あ!? 人の話はちゃんと聞けよ、このデブ!」
それを上で聞いていた第十班の連中は苦笑を浮かべる。
(チョウジにそれは禁句だ……二度目はタブーだぜ……)
「僕はデブじゃない! ポッチャリ系だー!」
完全に火がついた。
ミスミはそのチョウジに先手必勝とばかりに飛びかかる。
すぐさま、チョウジの腕や足を捕まえるミスミ。
体を捕まれたチョウジが拘束を外そうと抵抗するが……
「あれ?」
全く外すことができない。
それどころか、チョウジは腕の一本もまともに動かせなくなっていた。
その理由は……
「オレは体を改造してある。あらゆる関節を外し、グニャグニャになった体をチャクラで操り……このように締め上げることもできる……」
「うぐっ……」
タコのような体をしたミスミが、完全にチョウジの体を人間の構造上、ありえない方法でロックしていた。
「早くギブアップしろ!」
「僕がこれぐらいで拘束されるか! 忍法・倍化の術!」
ぼんっ!
秋道一族の秘伝忍術。
チョウジの体がデカくなり、ミスミの拘束を無理矢理外した。
さらに続けて印を結び、
「食らえ! 肉弾戦車ー! ごろごろごろ〜ポッチャリ系、ばんざーい!」
「な、なんだこのふざけた術は、デブが転がってるだけじゃねーか!」
巨体を丸くし、転がるチョウジ。
確かに、デブが転がっているだけだ。
それ以外に言い様がない。
正直、忍術と呼んでいいのかすらわからない。
だが、
「よーし! そのまま押し潰しちゃえ! チョウジ!」
いのが声援を送る。
回転が増し、そのまま……
「なっ! ま、待て!」
肉団子が地面を転がり……
ミスミを轢いた……
停止。
術を解き、元のサイズに戻るチョウジ。
「…………」
気持ち平らになったミスミの状態を確認した後、ハヤテが告げる。
「第六回戦。勝者、秋道チョウジ」
勝者宣言を受け、チョウジがポーズをとり、
「あ! 飯とったり〜」
それを見たシカマル、いの、アスマは、
「おいおい、チョウジの奴、勝ちやがったぞ!」
「いいぞー! チョウジー!」
「マジかよ……オレの今月の給料が……」
と、仲間の勝利を祝っていた。