霧隠れの黄色い閃光   作:アリスとウサギ

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氷遁vs白眼 手を抜けない闘い

「えー、では、次の試合を始めます」

 

電光掲示板に表示された次の対戦者は、

 

ハクvsヒュウガ・ヒナタ

 

(な、ナルトくんのチームの人……)

ヒナタが困惑した表情で、歩き出す。

 

(あの人は確か……)

思案顔になっていたハクに、第一班の仲間。

ナルト、長十郎、再不斬が、

 

「ハク、頑張れってばよ!」

「ハクさん、頑張って下さい!」

「お前が負けるなどありえん……行け!」

 

と、ハクの背中を押す。

それをハクは微笑みで返し、

 

「ええ……では、行ってきます」

 

と、言い残し、階段を下りていった。

相対する二人。

いつも通りのハク。

少しおどおどしているヒナタ。

その二人を交互に見て、

対戦者が揃ったことにより、ハヤテが告げる。

 

「では、第七回戦……始めて下さい」

 

試合開始が宣言された。

のだが……

今だに構えすらとらないヒナタ。

そんなヒナタに、ハクは優しく微笑み、

 

「試験が始まる前日や、第二試験の時といい、縁がありますね? ヒナタさん……」

 

と、声をかけた。

すると、ヒナタの方も、戸惑いながらもそれに応える。

 

「え? は、はい……」

「もし、闘う気がないのであれば棄権して頂いても大丈夫ですよ? ですが、闘うのであれば僕も真剣に闘いたい。ですから……構えて下さい……」

「わ、私は……」

 

ナルトと同じ班のハクと闘いたくないヒナタ。

いや、何より勝てる自信がない。

しかし、

ヒナタは観客席を見上げる。

きっとハクを応援しているであろう、ナルトを見る。

ヒナタはナルトのことが好きだった。

いつも前を走るナルトの姿を、アカデミーの頃から、ずっと見ていた。

そんなナルトが見ている前で、何もせずに逃げるのだけは……嫌だった……

だから、

(私は……もう……逃げたくない!)

印を結ぶ。

彼女自身の得意……特異な術を発動する。

 

「白眼!」

 

白い眼に、瞳力が浮かび上がった。

 

「それは!?」

 

ハクはその眼を見て、驚愕する。

ヒナタの白眼。

それは明らかに普通の術などではなかった。

古き血。

受け継がれた者にしか決して顕現されない特異体質。

血継限界。

ヒナタは腰を低く、掌を前に出し、構える。

 

「勝負です……ハクさん」

 

そのただの構えすら、独特のものであった。

木の葉でもっとも強い体術流派。

日向家特有のものであった。

ハクもそれにならい、

 

「いいでしょう……」

 

拳を握り、戦闘態勢に入る。

互いに目線を合わせる。

直後。

先に仕掛けたのは、ヒナタの方だった。

チャクラを全身に巡らせ、手と足に集中。

相手に接近し、手のチャクラ穴から、チャクラを放出し、相手の体内にねじ込む。

日向の柔拳。

しかも、視野の広い白眼で精度を上げた体術。

それをハクは……

 

「なるほど……こういう闘い方ですか」

 

と、ひらりひらりと避けながら、観察までしている。

かすりすらしていない。

それでもヒナタは手を緩めない。

(私だって、私だって……)

想いを込めて、柔拳を打つ。

 

それを上から見ていた、いのとサクラが、

 

「いいわよー! ヒナター!」

「ヒナタがあのハクって子を押してる!?」

 

と、声援を送る。

ヒナタの猛攻に、ハクは反撃すらしていないのだ。

ぱっと見、ヒナタが押しているように見えるのも仕方ない。

しかし、現実は違う。

押しているのはヒナタではなく……

――ハクが動く。

 

「……遅いですよ」

「きゃっ!」

 

攻撃を避けられたと同時に、足を払われたヒナタ。

なんとか手をつき、そのまま距離をあけ、体勢を整える……

いや、整えようとした……が、

 

「逃がしません」

 

ハクが追撃する。

ヒナタが手をつき、無防備になったところへ蹴りを放つ。

 

「がはっ!」

 

もろに受けたヒナタが地面を転がる。

完全にヒットした。

だが、ヒナタの闘志はまだまだ消えていない。

腹に手をあて、すぐさま起き上がり、またも柔拳でハクを攻撃する。

再び、接近。

 

「ハァッ!」

 

体術の応酬。

今度は先ほどと違い、ハクは、その攻撃を避けずに、柔拳が決まらないように掌に注意しながら、ヒナタの腕をバシバシと払っていく。

何回。

何十回。

全ての攻撃を無力化する。

実力差が明白となる。

 

その攻防を見ていたネジは、

 

(……やはり、この程度か……宗家の力は)

 

と、毒づいていた。

先ほどまでヒナタが押していると勘違いしていた木の葉の下忍達も、漸くハクの実力を理解する。

 

「ぐっ……」

 

ハクのパンチが頬に入り、ヒナタの体が地面に転がる。

一方的な闘い。

上から見ていた長十郎は、少し青ざめた顔で、

 

「は、ハクさん、少しやり過ぎでは……あの人、ナルトさんの知り合いですよね……」

 

と、心配そうに言った。

すると、同じく横から試合を見ていたナルトが、試合から目を逸らさないまま、

 

「ハクは優しい奴だからな……」

「え?」

「相手の気持ちを考えてるんだ……真剣に勝負するヒナタに、真剣に応えているんだ……手は抜けないってばよ……」

「…………」

 

ナルトの言葉に、長十郎は無言になり、目線を下に戻して、試合の行方を見守る。

 

ヒナタが口から少し血を流しながら、立ち上がる。

それにハクが、

 

「ヒナタさん……こんなこと言いたくはないのですが、棄権してはもらえないでしょうか? あなたはもう、十分に闘いました……これ以上は……」

「わ……私はまだ……一発もアナタに入れていません……」

「……実力差は明白……だというのに、なぜ、まだ立ち上がるのですか?」

 

相手をできる限り傷つけないように棄権を促すハク。

そんな相手を真っ直ぐに見据えて、痛む身体を無理矢理押さえながら、ヒナタは言った。

 

「……まっすぐ……自分の……言葉は……曲げない」

「!」

「それが、私の忍道だから……」

 

まっすぐ 自分の言葉は曲げねェ オレの忍道だ!

その言葉はハクもよく知る言葉であった……

 

(……ヒナタさん……初めて会った時に、薄々気づいていましたが、やはりナルトくんのことを……)

 

ハクは一度ゆっくり目を閉じた。

はっきり言って、この試合。

ハクは、かなり余力を残して闘っていた。

試合にかける想いは互角……いや、この試合だけに限れば、ハクよりヒナタの方が気持ちの上では勝っていたかも知れない。

しかし、

気持ちだけでは試合はひっくり返らない。

いや、時と場合によってはひっくり返せる時もあるだろう。

だが、ハクとヒナタの力の差は、想いだけで覆せるものではなかった。

それでも、ハクは。

自分の情報を他里の忍達に教えることになるにもかかわらず――真剣に闘う道を選んだ。

決して手を抜いていい相手ではないと。

――刮目。

目を細め、鋭くした。

 

「申し訳ありませんでした……どうやら僕はまだ、ヒナタさんのことを甘く見ていたようです……」

 

ここに来て、反撃ではなく、初めてハクが攻撃の姿勢になり、

 

「全力でお相手します……」

「!?」

 

ハクの雰囲気が変わったのを感じ取るヒナタ。

白眼を出し、構える。

直後。

数メートル離れていたはずのハクが……

目の前に来て、

 

「はっ!」

 

拳を突き出していた。

なんとか、白眼の洞察眼で見切り、避けたヒナタに。

体術を繰り出しながら、ハクは空いた片手で印を結んでいた。

本来、忍術は両手で結んだ印により、発動するもの。

片手で使う術など数えるほどもない。

ありえないことであった。

それを見たヒナタは……

否。

霧の忍以外の全ての忍が驚愕する。

上忍のカカシですら、

 

「なんて奴だ……片手で印など見たことがないぞ!」

 

と、写輪眼を出す。

同時に。

術が発動する。

 

「秘術・千殺水晶!」

 

突如、水のないところから、水が出現する。

その水が、いくつもの刃となり。

空中からヒナタを襲う。

四方から迫る水の刃、それをヒナタは全て白眼で見切り、

 

「片手で術を発動するなんて……」

 

と、呟きながら、ギリギリで避けた。

しかし、ハクの猛攻は止まらない。

今度は両手で印を結び、水の刃を凍らせ、

 

「氷遁・ツバメ吹雪の術!」

 

氷でできた燕が飛来する。

まるで本物の燕のように、予測のつかない動きで飛び回り、ヒナタを切り裂こうと迫る。

その光景を見た忍達は、またも信じられないものを見たかのように目を見開く。

氷遁。

それはハクにのみ許された忍術。

ヒナタの白眼と同種のもの。

血継限界。

霧第一班と木の葉第七班のメンバーを除けば、他の者は精々映画で見たくらい。

映画で見るのと、現実で出されるのとでは、やはり驚きは違っていた。

それはヒナタも同じで、

 

「これが、氷遁……!」

 

迫りくる燕を白眼で見渡し、なんとか燕の動きを予測し、避ける。

眼に力を入れ、

予測し、

避ける。

避けるが……

必死になり過ぎるあまり、白眼の視野は狭くなっていた……

どんな優れた眼を持っていようとも、自ら閉じてしまえば、意味はない。

注意が完全に燕に向いたところで、ハクが後ろからヒナタに迫る。

それに気づいたヒナタが、

 

「!? 後ろ!」

 

回し蹴りを放つ……

が、ハクはあっさりと受け止め、払うように避ける。

そのまま、半回転。

距離をあけようと突き出したヒナタの腕を捻り、地面に引き倒す。

残った片手で、千本を取り出し、ヒナタの首筋へあてる……

氷の燕はいつの間にか水へと還っていた。

もう必要ないものだからだ……

悔しそうにするヒナタを見ながら、ハヤテが宣言する。

 

「えー、これ以上の試合は私が止めます……第七回戦。勝者、ハク」

 

勝者宣言を受けたハクがヒナタの拘束を解く。

その体には、あれだけの戦闘の後だというのに、汚れ一つ見当たらなかった。

しかし、

 

(ヒナタさん、あなたは強かった……まるで、出会った頃のナルトくんを思い出しましたよ……)

 

そう、心の中でヒナタを称賛し、ハクは無言のまま、仲間の元へと戻っていった。


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