霧隠れの黄色い閃光   作:アリスとウサギ

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シカマルたじたじ 乙女心は本気モード

ピロピロ。

電子音が鳴り始める。

掲示板に表示された次の対戦者は……

 

ハルノ・サクラvsヤマナカ・イノ

 

二人のくノ一は、一瞬息を飲み、思考を停止する。

しかし、

その直後、目線を合わせ、

 

「…………」

「…………」

 

無言で会場に下り立つ。

 

((あんな闘いを見せられたら、私だって……))

 

ハクとヒナタの闘いを見て、サクラといのは、静かに闘志を燃やしていた。

闘いの場で、二人のくノ一が向かい合う。

 

「…………」

「…………」

 

先に口を開いたのは、いの。

 

「まさか、アンタとやることになるとはねぇ……サクラ」

 

しゅるるる、パサッ……

 

サクラは、頭に被せるようにつけていた額あてを外し、いのに応える。

 

「いの……私はもう、アンタには負けない!」

「なんですってー!」

「サスケくんとアンタじゃ、全然釣り合わないし、もう私はアンタより強いしね! 眼中なし!」

「サクラ……アンタ誰に向かって口きいてんのか、わかってんの! 図に乗んなよ、泣き虫サクラがー!」

 

まだ試合すら始まっていないのに、激しく言い合う二人。

それを上から見ていたシカマルとチョウジは、

 

「ったくー、よりにもよって、あの二人かよ……クソめんどくせーことになりやがったぜ」

「ぼ、僕、あんないの、見たくないよ……」

 

その会話を横で聞いていた、サイとカカシ。

 

「さすがサクラ、僕より輪をかけて口が悪い」

「いや、お前もいい勝負でしょ、サイ……」

「ですが、いつもより熱が入っていますね? なぜでしょう?」

「ん? ま、ライバルってのは不思議なもんってことだな……」

 

チラリと自分の横にいる人物を見るカカシ。

その視線に気付いたガイに、取りあえず、どーもー、と手を振る。

そんなカカシの態度に、ガイは心の中で、

 

(我が青春のライバル、カカシよ……お前のそういう訳のわからんところが、またナウくて、ムカつく……)

 

と、真剣な表情で応えていた。

場面は下に戻り……

 

「サクラ! アンタ、私にケンカ売って、ただですむと思ってないでしょうねー!」

「そっちこそ、ぶひぶひ鼻を鳴らしてないで、全力でくることね!」

「このデコ!」

「ブス!」

「デコデコデコ!」

「ブスブスブス!」

 

二人は見守る者達の気を知らず、好きなだけヒートアップし、

その後……

沈黙。

静かに、いのも額あてを腰から外して……

二人は額あてをあるべき場所につける……

 

((正々堂々……勝負!!))

 

それを見たハヤテが告げる。

 

「では、第八回戦……始めて下さい」

 

途端。

二人が同時に駆ける。

蹴りを放つサクラの足を、いのが少し屈んで避ける。

次にいのが繰り出した拳をサクラが防ぐ。

そのまま、相手の力を受け流しながら、サクラが屈み込み、いのの足を狙い左右に回し蹴りを放つ。

と、同時に。

いのは、後方にバク転しながら攻撃を避け、二本のクナイを投げた。

サクラは、落ち着いてそれを見切る。

迫ってきたクナイの一本をキャッチし、残りの一本を、手に持つクナイで弾いた。

 

「「はっ!」」

 

あいた距離を埋めるように、二人は同時に駆ける。

相手の拳を受け、自分も拳を放つ。

完全に五分五分の闘い。

 

そこからは長い肉弾戦の始まりであった……

 

数分後。

 

(長いですね……)

 

試合を見守るハヤテが心の中で呟いた。

サクラといのは、数分間、体術のみの一本勝負を続けていた。

 

(やっぱり、いのは凄い……あれだけ修行したのに、互角に闘うのがやっと……)

(この子……いつの間に、こんなに強くなったのよ!)

 

「「このぉ!!」」

 

二人の拳が、互いの顔にめり込み、

 

「「くっ……」」

 

衝撃で、吹き飛び、床に転がる。

数分の間に、似たような光景を何度も繰り返していた……

サクラといのは同時に立ち上がり、

 

「ハア……ハア、美人の顔が台無しよ、いの……そろそろギブアップしたらどう?」

「くっ……、そのセリフ、アンタにそのまま返してあげるわ、サクラ……」

 

言い合いながらも、サクラは自分の身体の状態を確認する。

 

(ずっとチャクラを全身に巡らせて闘っていたから、もう残り少ない……次で決めるしかない!)

 

サクラはいのに注意を払いながら、

 

「いの、アンタに私のとっておきを見せてあげるわ!」

「!?」

 

印を結び、術を発動する。

いのが止めようと走るが、間に合わず、

 

「魔幻・奈落見の術!」

 

途端。

風が舞う。

サクラの幻術。

いのが、幻の世界と誘われ……

どさりっと、体を床に倒した。

試合中だというのに、ぴくりとも動かない。

それを見たハヤテが勝負が決まったと、

……告げようとした時。

 

「こなクソがぁあ!!」

 

いのが叫びながら、起き上がった。

つーと、幻術を解く時に噛んだ唇から、血を流しながら……

立ち上がったいのに、サクラが呟く。

 

「いの……アンタ……」

「言ったでしょ、サクラ! アンタにだけは負けないって!」

 

不敵な笑みを見せ、いのが拳を握る。

それにサクラも応え、拳を握る。

二人の身体は、すでに限界だった……

だからこそ、

 

((これが……))

 

「「最後!!」」

 

激突。

互いの拳が、頬にめり込み、

 

ドサッ! ドサッ!

 

人が床に倒れる音が、二つ聞こえた。

……ダブルノックダウン

 

それを見たハヤテが、二人の間に立ち、

 

「えー、両者、戦闘続行不能によ……!?」

「……ハア……ハア」

 

試験官の言葉を遮り、桜髪のくノ一がフラフラになりながらも立ち上がった……

 

「私も言ったでしょ、いの……アンタにだけは負けないって……」

 

倒れたいのを見ながら、サクラが言った。

それを聞いたハヤテが今度こそ告げる。

 

「第八回戦。勝者、春野サクラ」

 

部下の勝利宣言を聞いたカカシは、

 

「……うん」

 

にっこり笑った。

そして、第十班の連中は、

 

「マジかよ……いのが負けたぞ……」

「僕もいのが勝つと思ってた……」

「いのは、ああ見えてもくノ一ルーキーの中では抜きんでていた……それを越える成長をサクラがしていた訳か……カカシの奴、どんな手を使いやがった」

 

と、悔しがりながらも、下に飛び下り、いのの体を上へと持っていった。

幸い、サクラもいのも、大した怪我はしていない。

放っておいても、時期に目を覚ますだろう……

 

「えー、では、次の試合に進みます」

ハヤテの声に、電光掲示板が動きだす。

表示された名前は、

 

ザク・アブミvsナラ・シカマル

 

(へっ! どこのザコだ……)

(オレの番かよ……めんどくせー)

 

対戦者が揃い、ハヤテが告げる。

 

「では、第九回戦……始めて下さい」

 

試合開始。

と、同時に、

 

「テメーには借りがあるからな……不様に吹き飛ばしてやるよ!」

 

ザクがシカマルに両腕をかざし、

 

「斬空波!!」

 

衝撃波を放った。

空気圧の衝撃波。

土埃が舞う。

ザクは笑みを浮かべ、

 

「へっ! 吹き飛びやがったか……」

「ったく……何だその技? 埃を撒き散らすだけかよ……」

 

余裕の顔で現れるシカマル。

その内心は、

 

(あぶねー! いきなり撃ってくるとは想像してたけど、マジかよ……)

 

と、ギリギリであった。

だが、おちょくられたザクは青筋を立て、

 

「このザコが、いきがりやがって!」

 

お怒りである。

それにシカマルはなお挑発を続ける。

 

「わりー、わりー、気に触ったのなら謝るよ……凄い術だな、それ……斬空波だっけ? かっこいいじゃねーか」

「テメー……」

 

皮肉を込めたシカマルの発言に、ザクのプライドが反応する。

さらに青筋を立て、敵を睨みつけるザク。

思考が狭まる。

相手の動きを読み取りやすくしてから、シカマルが仕掛けた。

ポーチから、大量のクナイを取り出し、

そこでザクが、

 

「あ? なんだ、そのクナイ?」

 

シカマルが取りしたクナイには、一本一本にワイヤーが通してあり、さらに、その糸の隅々に起爆札が張りつけてあった。

それを、

 

「これか?……これはな、こうするんだよ!」

 

と言いながら、ザクではなく、何もない試験会場の壁に次々に刺していく……

一本。

二本……三本……四本……

その数、数十本。

テンテンが試合で使った数よりは少ないだろうが、それでも驚くほどの数であった。

しかも、起爆札が垂れ流してある。

会場が、爆心地となっていた。

奇妙な光景にザクが、

 

「テメー、何のつもりだ、これは?」

「なーに、オレではお前の技を防ぐのは厳しそうだったからな……これならお前もさっきの技は使えねーだろ? まぁ、オレと相討ち覚悟なら話は別だがな……」

「オレ様が、テメーと相討ちだと?」

「撃ちたきゃ、撃ってもいいんだぜ? お前と引き分けなら、オレにしては十分な結果だしな……ほら、撃てよ! 二人で会場を吹き飛ばそうぜ!」

「くっははは……バカか、テメーなんかと引き分けなんか願い下げだ!」

 

相手を見下すザク。

それにシカマルが、

 

「いいのか? お前は迂闊に術を使えねーけど、オレは違うんだぜ……」

 

と、印を結び、

 

「忍法・影真似の術!」

 

彼の得意忍術を発動する。

真っ直ぐに伸びた影がザクに迫る。

しかし、大したスピードでもなく、ザクはあっさりと避け、

 

「テメーのくっだらねぇー術なんか、一度見りゃあ十分なんだよ」

「ちっ! まぁ、そりゃあ上手くはいかねーか……」

 

舌打ちしながら、シカマルは影を自分の元の形に戻す。

その後、シカマルはファイティングポーズをとり、

 

「じゃあ、どうする? これでケリをつけるか?」

 

と、シャドーボクシングをする。

それにザクは人を小馬鹿にした笑みを浮かべ、

 

「いいぜ! テメー程度の相手に術は必要ねーからな!」

「いいのかよ? オレはこう見えても、肉弾戦は結構やる方だぜ……さっきのいのの試合見ただろ。アイツと同じ班のオレが体術の修行をしていないと思うか?」

 

すると、その言葉を上から聞いていた、目覚めたばかりのいのが、

 

「よっしゃー! いっけー! シカマル! そんな奴、16連コンボでボッコボッコよー!」

 

と、元気よく声援を送ってきた。

その声にシカマルが顔を向けた時、

 

「試合中に、よそ見してんじゃねーぞ!」

 

ザクが駆け、拳を握り、

 

「バカが!」

 

シカマルを殴り飛ばした……

いや、殴り飛ばそうとしたが……

停止。

硬直。

あと一歩のところで体が止まり、動けなくなっていた。

ぷるぷる震えるザクに、シカマルがやれやれと目線を向け、

 

「影真似の術……成功……」

「なん……だと!?」

「下、見てみろよ……」

 

シカマルが下を向く。

同時に、

ザクの顔も強制的に下を向く。

そこには、シカマルの影を踏む、ザクの足があった……

ザクは何のことかわからず、

 

「どういうことだ……テメーは印を結んだりしていなかったはずだ……」

「いや、オレはお前の目の前で影真似を使ったぜ?」

「あれはオレが避けただろうが!」

「ああ、そうだな」

「なら、なぜオレの体は動かないんだ!」

「だから、下を見ろって……」

「……テメー……まさか」

 

青ざめた顔で、漸く気づいたザク。

その会話を上から聞いていたチョウジといのは、今だに頭の上に?マークを浮かべていた。

チョウジが、アスマに尋ねる。

 

「ねえ、アスマ先生、シカマルはどうやって影真似で相手を捕まえたの?」

「ザクの足下を見てみろ。影を踏んでるだろ……シカマルは影真似をザクに避けられた後も術を解いていなかったんだ」

「どういうこと? だって、シカマルの影は普通の人影になってるよ?」

「そこがミソだな……影真似は影の面積の分だけ影を自在に操り、相手を捕らえる術。当然、自分の体の影を形取ることもできる……」

 

続けて、アスマの説明を横で聞いていた、いのが、

 

「じゃあ、シカマルは……」

「そう、アイツは最初に影真似を避けられてから、術を解いたかのように見せかけるために、あえて影の形を元に戻していたんだ……そこにザクが足を踏み込み……」

「シカマルの影真似が発動した……」

「そういうことだな……」

「す、凄い……」

 

思わず感嘆の声をもらした後、

いのとチョウジが、試合に視線を戻す。

最後に、アスマは一言、

 

「次で王手だ……」

 

シカマルの勝利を確信した。

 

爆心地帯。

試験会場。

シカマルは、ザクの手のひらがこちらに向かないように注意しながら、一歩一歩、距離をあけていく。

同時に、

ザクの体も強制的に一歩一歩、後ろへと進んでいく。

体の自由がきかないザクは、シカマルに訊いた。

 

「で、どうしようってんだ? 同じ動きじゃケリはつかねーだろ?」

「んなわけねーだろ、捕まった時点でお前は終わりだ……一応聞いておくがギブアップするなら今のうちだぜ」

「ふざけんな! 誰がギブアップなんかするかよ!」

「……そうかよ」

 

呟くと同時に、シカマルはしゃがみ、これまでの予選の戦闘でボロボロになっていた床から、コンクリートの石ころを一つ手に取る。

ザクも同じ動きで、石ころを手に取る。

訳のわからない行動にザクが、

 

「で、どうすんだ? 石ころの投げ合いでもすんのか?」

「それは面白い提案だが、影真似はそこまで持続時間はねーからな……それに、辺りを見回してみろ」

「あ?……ちょっと待て、テメー、こんな所で石ころなんか投げたら……」

 

そう、ここは爆心地帯と化していた。

シカマルが大量に投げた、ワイヤー&起爆札付きのクナイで……

怯えるザクにシカマルは笑みを浮かべながら、

 

「いっちょド派手にいきますか!」

「バカ、やめろー!」

 

シカマルとザクは互いの後ろにある起爆札目掛けて、石ころを投げた……

 

直後。

爆発。

轟音。

ドカーン!!

 

――起爆札が爆発した。

ザクの後ろにあった起爆札だけ爆発した。

 

どさりっと倒れるザクを見ながら、

 

「わりーな、この起爆札は殆んどがフェイクだ……ちなみにオレが体術得意ってのもウソだぜ!」

 

種明かしをするシカマル。

この闘いの殆んどが、最後にザクを影真似で捕らえるための布石だったのだ……

 

(ふー……危うく私も騙されるところでした)

 

ハヤテが心の中で呟き、

 

「第九回戦。勝者、奈良シカマル」

 

勝者を宣言した。


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